第百二十二問
「ウチの"最終兵器を"投入する」
雄二の告げた作戦に、Fクラスの内野陣は首を傾げた。この状況を打破できるような生徒が、Fクラスにいただろうか、と。
「最終兵器?」
「ああ。幸いにも次のバッターは坊主野郎だ。それに3番は島津で4番は大友。手加減する必要もない」
「そもそも手加減したら勝てないしな」
「して、その最終兵器とは誰なのじゃ?」
雄二は秀吉の問に「まぁ見てろ」と言うと、主審の方に歩み寄り、ベンチ視線を送ってからピッチャー交代を宣言した。
「ピッチャー吉井に変わって姫路。吉井はキャッチャーと交代、キャッチャーの俺はサードの島田と交代」
雄二はピッチャーと守備位置の変更を申告。これで守備位置は
ピッチャー 明久→瑞希
キャッチャー 雄二→明久
サード 美波(ベンチへ)→雄二
となった。
「マジかよ……。雄二のヤツやりやがったな」
「え? それってどういうこと?」
「すぐに分かる」
秀隆の呟きに明久が聞き返していると、秀隆は「死ぬなよ」と添えて自分の守備位置に戻る。
「いったいなんだったんだろ?」
「ほれ明久。試合も再開するようじゃし、ワシらも守備に戻るぞ」
明久は秀隆の言葉に疑問を抱きながらも、考えても仕方ないと思い秀吉の言う通り自分のポジションに移動しようとした。
すると、大慌てベンチから出てきたら瑞希が雄二に話しかけてきた。
『坂本君っ。わ、私、ピッチャーなんて無理ですっ。やったことないですし、運動も苦手ですし……』
『姫路。いいか、よく聞くんだ』
『野球はチームプレイだから仲間との信頼関係がかなり重要になるが、特にピッチャーとキャッチャーの間柄は重要なんだ』
『は、はぁ……。でもっ』
『そして、うまく信頼関係を築くことのできたピッチャーとキャッチャー……つまりバッテリーは、野球ではよく"夫婦"とたとえられる』
『え? 夫婦……?』
『ああ。ちなみに、それにちなんでキャッチャーのことを"恋女房"と言ったりもする。この場合、キャッチャーは明久だから"恋旦那"だな』
『恋旦那……』
『そうだ。今からキャッチャーは俺ではなく明久だ。お前と明久がうまく"夫婦"の関係になれるか。それがこの勝負の決め手となる』
『…………』
『自分たちの関係を信じて思いっきり投げてみろ。きっと明久はお前の全力を身体を張って受け止めてくれる。それがバッテリー――いや、夫婦ってもんだ』
『わ……分かりましたっ!』
『いいか姫路。全力だ。コースも何も考えず、ただ全力でお前の思いをぶつけるんだ。手加減をしたら信頼関係なんてものは成り立たないからな』
『はいっ』
「なんだろう。嫌な予感がする……」
明久が原因不明の悪寒に身を震わせていると、雄二と話終えた瑞希がたとたとと走り寄ってきた。ベンチから出てきた時とはうってかわって、今度は元気いっぱいだ。
「あの、明久君、よろしゅきゅお願いしまひゅっ!」
「あ、うん。よろしくね姫路さん」
瑞希は明久とバッテリーを組めるという嬉しさと緊張からか、かなり噛み噛みだった。
「私、明久君を信じて全力で投げますっ!」
「あはは。そう言って貰えるのは嬉しいよ。頑張ろうね」
「はいっ。頑張って素敵な家庭を築きましょうねっ! えっと……あ、アナタ……」
「待つんだ姫路さん。君は雄二に何を吹き込まれたんだ?」
唐突に突拍子もないことを言い出した瑞希に明久が困惑していると、瑞希は「じゃぁ、ばっちり受け止めてくださいね」と小走りにマウンドに上がり準備を始めた。
「まぁ、いっか。さて僕も――」
『何よアキったら……。瑞希とバッテリー組めるからってあんなにデレデレしちゃって……!』
『まぁまぁ美波ちゃん。これは坂本君の作戦ですから』
「なんだろう。さっきから寒気が……。風邪かな……?」
明久は身に覚えのない悪寒に震えながらも、さっきまで雄二が立っていた場所に立ち、召喚獣をキャッチャーのポジションにつかせる。辺りを見渡すと、全員が自分の守備位置についていた。
『プレイッ!』
主審からコールがかかり試合再開。次のバッターボックスに入ったのは、
「へっ。なんの小細工を考えたのか知らねぇが、俺には通用しねぇって事を教えてやる。
常夏コンビの片割れ、坊主こと夏川が召喚獣を喚び出す。
「が、頑張ります……。
瑞希もマウンドに立って召喚。少し遅れて投手と打者それぞれの点数が表示される。
Aクラス 夏川俊平 化学 224点
VS
Fクラス 姫路瑞希 化学 437点
彼我の差は約2倍。明久の時とは逆転して、点数はFクラスに軍配が上がった。
「げっ! そういや、あの女はかなり点数があったんだよな……!」
肝試しの時を思い出したのか、夏川が忌々しげに呟く。あの時は瑞希が自滅したから常夏コンビの勝ちにはなったが、点数自体は瑞希たちが勝っていたのだ。ある意味、瑞希にとってはリベンジマッチだ。
「くそ。大友がいるとは言え、髙城抜きでやるのはきついかもしれねぇな……」
夏川が悔しそうに呟く。明久が髙城という名前に記憶を巡らせていると、
「じゃ、じゃあ、よろしくお願いしますっ」
瑞希が投球に入ろうとしていた。
「えっと、たしかこのプレートに足をかけさせて、こうして……」
「待って待って姫路さん!」
ボールを投げようとし瑞希を明久が慌てて制する。話の流れでキャッチャーを引き受けたが、よく考えると瑞希の召喚獣が投げる球を取り損なったら相当酷い目に遭うのでは、という予感が明久の脳裏をよぎる。
「? 何ですか、明久君?」
「ほら、一塁にランナーがいるでしょ? まずはその人に盗塁されないように牽制球を投げてみようよ」
明久は優しい瑞希のことだから手加減はしてくれると信じている。だが万が一もありえるので、肩慣らしも兼ねて一塁に軽く牽制球を投げてもらうことにした。幸いにも、一塁ランナーはそれほどベースから離れていないので、そんなに慌てて投げる必要もなく威力の確認もできる。
「牽制球――あ。分かりました。一塁にボールを投げたら良いんですね」
「そうそう。一塁にいる福村君にボールを投げて貰える?」
『よーし。姫路、思いっきりこーい!』
一塁の福村も野球部よろしく瑞希に掛け声を送り、ランナーの常村は「
「了解です。それじゃ――」
瑞希の召喚獣が腕を振り上げ、投球の構えを取った。
「やぁーーっ!」
――キュボッ
「……………………は?」
Aクラス 常村勇作 化学 DEAD
VS
Fクラス 姫路瑞希 化学 437点
Fクラス 福村幸平 化学 DEAD
VS
Fクラス 姫路瑞希 化学 437点
立て続けに2件の死亡報告。それと同時にドサリ、と重いものが倒れる音が重なる。
一塁に立っていた常村も、守備をしていた福村も、2人とも綺麗に上半身が消し飛んでいた。
『『ぎぃやぁあああーっっ!! 身体が! 身体が痛ぇえええっ!!』』
遅れて召喚者の2人が悲鳴を上げる。どうやら学園長には珍しく設定の変更は無事行えたようで、2人は突然襲いかかった痛みのフィードバックにのたうち回る。
「あ……! ご、ごめんなさいっ! 私、どのくらいの力加減で投げたらいいのか全然分からなくて!」
瑞希があたふたと頭を下げている。が、当の本人たちは死にそうな痛みでそれどころではないだろう。
『な、なんて娘なんだ……!』
『あ、ああ。あんな可愛い顔して、とんだ化け物だな……!』
『フハハハッ! いいな、姫路瑞希! 肝試しの時から意思の強い女だとは思っていたが、まさかこれほどとはな!』
3-Aのベンチが戦々恐々とする中、1人の狂戦士だけは闘志を漲らせていた。
『負傷退場者の交代要員を出してください』
主審がクールに交代を促す。まだ試合を続行できる状況とは言え、もう少し負傷者に気にかけても良いのではないか、と明久たちは思った。
苦しむ2人を運び出して、3-Aからは代走として男子生徒が、2-Fは福村に代わって秀吉がファーストに入った。
「うぅ……。失敗しちゃいました……」
一撃で2人を葬り去った瑞希が自責の念にかられている。明久とてできることならマウンドに寄って瑞希を慰めてやりたい。しかし、ここで下手に瑞希をその気にさせて全力投球を投げ込まれたら……。そんな痛みの新境地へ至る道を回避すべく、明久は心を鬼にしてフォローしないことに決めた。
「気にするな姫路。お前はただ全力で投げればいい」
ただし外野もそう思っているとは限らない。
雄二は明久への配慮など微塵も示さず、瑞希に全力投球を指示した。
「でも……」
「いいんだ。ピッチャーはそれが仕事なんだから」
「でも、そんなことをしたら、今度は明久君が」
「おいおい。なんてことを言うんだ。お前は明久のことを信じられないのか?」
「あ……。い、いえっ! そういうわけではありま」
「仕方ないな。姫路が明久のことを信じられないのなら、ピッチャーは秀隆に代わってもら」
「行きます、明久君っ!」
俄然やる気と闘志に燃えた目で瑞希が投球に入る。
その気迫に、明久と夏川は死を覚悟した。
「ダメだ! 来ちゃダメだ姫路さんっ!?」
「え、えーいっ!」
『ん? は? ちょ、待――っ!?』
Aクラス 島津道弘 化学 DEAD
VS
Fクラス 姫路瑞希 化学 437点
可愛い声の瑞希が放った、目にも止まらぬ速さの、まさにレーザービームと言うべき可愛くない投球は、ネクストバッターズサークルで待機してた島津の頭を見事貫いた。
これで、犠牲者は3人目。優子と熱戦を繰り広げた反射神経自慢の島津も、流石の不意討ちには反応できなかったようだ。
「し、審判っ! あれは危険球じゃないのか!? 退場モンだろ!」
バッターボックスに立つ夏川が血相を変えて審判に訴える。瑞希のためにも反論したいが、明久は自分も死にたくないのでどうするか悩んでいると、
「おいおい、何を言っているんだ?」
主審が何か言い出す前にサードを守っている雄二が口を挟んだ。
「酷いことを言うじゃないか先輩。姫路のあの姿を見たら、わざとじゃないってことくらいは分かるだろ?」
『ほ、本当にごめんなさいっ! 私ピッチャーとかやったこなくて緊張しちゃって……!』
瑞希が3-Aのベンチに駆け寄り、ペコペコと頭を下げている。たしかに、あの姿を見てわざとだと思う者はいないだろう。
島津も担架で運ばれる時に瑞希に向かってサムズアップしていたから案外余裕もありそうだ。
「ふ、ふざけんな坂本ぉっ! 故意じゃないにしても許されないことってもんがあるだろうが!」
「黙れクソ野郎! さぁ先生、よく考えてみてください。方や苦手でも努力してクラス行事に一生懸命頑張って参加している可憐な女子生徒と、方や神聖なスポーツに悪意を持ち込む愚劣でブサイクな先輩。アナタは教師として、どちらを応援しますか?」
『プレイッ!』
「審ぱぁん!?」
無常にも告げられる試合続行の掛け声。雄二の台詞だけ聞いたら、たしかにいがみ合ってある明久たちや常夏コンビよりも、瑞希を応援したくなるのはそうだろう。
だが、明久には審判の目が節穴に見えてしまう。
『というか、愚劣云々は雄二が言えたことじゃねぇだろ』
秀隆のぼやきに、両翼を守る近藤と横溝がうんうん、と頷いた。
「お、おい吉井! あの女をどうにかしろ! このままだったらお前も死ぬぞ!」
「む、無理ですよ! ああ見えて、姫路さんは結構思い込みが激しいんだから!」
明久と夏川が言い争う。明久とて、瑞希に言って聞かせられるならとっくにそうしている。だが、雄二に吹き込まれたんだ瑞希は、頑として明久にボールを受け止めてもらおうとしている。
「うぅ……。また失敗しちゃいました……。難しいです……。もう少し力を込めたら上手くいくのでしょうか……?」
マウンドに戻った瑞希の溢した台詞に、明久も夏川も冷や汗が止まらない。
「うそだろ!?。まだ本気じゃねぇってのか!?」
「みたい、ですね……」
コントロールを無視した、いや、コントロールという概念が存在するかすら怪しい学年トップクラスの全力投球。もはやベンチ付近ですら安全圏内ではないという事実は、瑞希と対面する2人だけでなく、両陣営の選手たちを戦慄させるには十分な材料だった。
これはもはやスポーツではない。一方的な殺戮だ。
「こ、今度こそ……明久君のところへっ!」
「「ひぃいーーっ!!」」
バットもミットも放り捨ててその場に頭を抱えて蹲る2人の召喚獣。だがその剛速球は2人の元に届かずに――
「あっぶねぇえっ!?」
サードを守っていたはずの雄二の傍を突き抜けていった。
Fクラス 坂本雄二 化学 1点
かすりもしていないのに雄二の点数が風前の灯火に。危険を察知した雄二はかなり余裕をもって躱したはずなのに、その風圧だけで点数をもぎ取っていった。
『ボール』
審判がボークではなくボールを宣言。審判からすれば一生懸命に頑張る生徒に対する温情なのだろうが、明久たちにとっては死刑宣告のように聞こえる。
「お、落ち着け姫路! 深呼吸して、明久のミットをよく見るんだ! そうすれば、自ずと投げるべき場所は見つかる!」
「わ、分かりましたっ!」
明久はその投げるべき場所が自分の顔でないことを祈るばかりだ。
「替えろ坂本ぉ! あのピッチャーを今すぐに替えろぉっ! お前だってまた死にたくないねぇだろ!」
「何を言うんだ先輩。今のは少し力んだだけだ。少し肩の力を抜けば、ちゃんと狙ったことろに投げられるはずだ」
「俺にはその狙いがキャッチャーミットには思えねぇんだよ!」
これには明久も流石に同意する。
雄二と夏川の言い争いをよそに、瑞希はマウンドで何かを呟いていた。
「うぅ……。きっとこれは、私が明久君を心から信じきれていないから上手くいかないんです……。もっともっと明久君を信じないと……」
そして、戻されたボールを強く握りしめると、瑞希は更に信じられない行動にでた。
「お、おい待て! お前今坂本によく見ろって言われたばっかじゃねぇか!?」
「ひ、姫路さん!? いったい何を!?」
瑞希は――目を瞑った。
「おい坂本! いったいどうなってやがんだ!?」
「これはあれだろ。心の目ってやつだ。つまり、信頼関係の現れだ。キャッチャーのリードを信じているからこそ、目を瞑っても投げられるんだ」
「さっきと言ってることが全然違ぇじゃねぇか! ていうか、目を瞑ったらそのリードが全く見えねぇってんだよ!」
「武道の達人は気配で相手が分かると言うだろう? それと同じ理屈だ。姫路レベルになれば、目で見えなくても獲――相手の居場所を探り当てることができるんだ」
「居場所探り当ててどうするんだよ! 必要なのはストライクゾーンだろ! ってかお前今獲物って言いかけてなかったか!?」
「酷い言いがかりはよして貰おうか獲物先輩」
「言っただろ!? 今思いっきり俺のこと獲物って言っただろ!?」
明久としては、その獲物に自分が入っているかどうかが重要だ。
「あ、あの姫路さん! 聞こえてる!? そこまで頑張らなくても」
「すぅ……。はぁ……。すぅ……。はぁ……。大丈夫。明久君を信じていれば、きっとうまくいきます……」
「姫路さぁん!?」
既に瑞希は瞑想状態に入っている。明久の声もサインも届かない。要するに、生き延びるには自分でなんとかするしかない。
「し、仕方ない。こうなったら、姫路さんが投げた瞬間に思いっきり横っ跳びをしよう。そうしたら、運が良ければ生き延びれるはずだ……」
「き、汚ぇぞ吉井! 一人だけ助かろうってのか!」
「すみません先輩! 僕は自分の命が惜しいんです!」
ちなみに、バッターにはその場では回避が難しいデッドボールを避けるなどの場合を除き、基本的にはバッターボックス内でプレイするという義務が課される。つまり、夏川は瑞希が投げたボールがデッドボールと判明してから避けなければならない。それを考えると、明久も少しだけ夏川には申し訳ないと思っている。
「行きます、明久君っ!」
「できれば目を開けて、姫路さん!」
瑞希の呼びかけに、必死になって命乞いで応える明久。
しかしながら、明久の切なる願いは届かず、瑞希は目を閉じたまま、全力でボールを叩き込んできた。
――全力で、
――大威力で、
――剛速球を、
――夏川の召喚獣の頭に。
「……………………………………うわぁ………………………………」
ところで皆さんは、柘榴という果物をご存知だろうか。初夏に花を咲かせ、甘くて少し酸味のある、鮮やかな赤い実の果物だ。最近の健康食ブームで、スーパーマーケットなどで柘榴酢なんかも見かけることもあるだろう。
そして、柘榴の特徴として、実が地面に落ちる時にその赤い果肉や果汁を地面にベッタリと飛び散らせるというものがある。
丁度目の前に広がる、夏川の召喚獣の骸のように。
Aクラス 夏川俊平 化学 DEAD
VS
Fクラス 姫路瑞希 化学 437点
「ひでぇ、よ……。あの女、絶対……悪魔だ、よ……」
「違いますよ先輩。悪魔は秀隆です。彼女は……ちょっと普通の人より強大な力を持ってしまった、ただの人間です」
無惨な姿に変わり果てた自らの召喚獣の横で、痛みで意識を失いかけた夏川が倒れている。これには、流石の明久も同情の念を禁じ得なかった。
昼食直後であったのなら、確実に何人かは弁当の中身をぶち撒けていたであろう夏川の召喚獣の惨状が、時間とともに薄れて大気の中に消えていく。
「あの、明久君。今度はうまくいきましたか?」
ここにきてようやく瑞希が目を開けた。目を瞑っていたおかげで、柘榴の破片をみないで済んだのは不幸中の幸いと言うべきか否か。
「いや、まぁ……。僕らの目的を考えたらうまくいってるんだろうけど……」
手放しで喜べない何かが、ここにはある。
『バッター、ネクスト』
主審が淡々と次の打者を促す。
3-Aのベンチに目をやると、そこに待機している全員が審判と目を合わせないように地面を見つめていた。
『フハハハッ! 姫路瑞希、相手にとって不足なし! さぁ死合おうか!』
ただ一人を除いて。
『へいへい。バッターびびってる!』
どこからかヤジが飛んでくる。声からしてヤジの発声源は雄二だろう。自分も死にかけたのにヤジを飛ばせるのは
『先生! こちらはもう交代要員がいません!』
3-Aベンチからそんな声が上がる。
今回のルールでは、他の競技との兼ね合いもあって交代要員は2人まで。瑞希が仕留めたのは一塁ランナーの常村、二番打者の夏川、そして次のバッターだったはずの島津の3人だ。常村の代走は既に出したし、デッドボールで退場した夏川にも代走を出さないといけない。そうなると、次のバッターの交代要員がいなくなる。
では登録していない選手を連れてくるのかというとそうもいかない。何故なら今回雄二が明文化させたルールには、『登録メンバー以外の介入は一切認めない』とある。
雄二の作戦は最初からこれが目当てだったのだ。
『交代要員がいないのであれば、そうですね……。一度その人の打順を飛ばして、その間に補充試験を受けて貰いましょうか』
主審がさらりと酷なこと言った。これが通常の野球であったのなら、この救済措置は当然の判断だっただろう。
しかし、今回は勝手が違う。今回の場合は、痛みのフィードバックありの瑞希のデッドボールを食らうために試験を受けろと言っているのと同義だ。地獄の無限ループの始まりである。
『それでは次の次――4番バッターは前に。点数がなくなったものは補充試験に』
「ようやく出番か。さぁ姫路よ、存分に死合おう」
『『『3-Aギブアップします!』』』
「なにぃ!?」
意気揚々と大友がバッターボックスに立とうとしたところで、3-Aはギブアップを選択した。
「お前ら何を考えている!? 今はノーアウト一二塁なんだぞ! このまま俺が打てば勝つ確率は跳ね上がるだろうが!」
本来ならばその通りなのだが、
『バカかお前は!』
『あんな球受けれるわけねぇだろうが!』
『俺たちはお前ほど闘争に飢えてねぇんだよ!』
この通り、大友以外のメンバーはすっかり戦意を喪失していた。瑞希の球威を前にしたら、そちらの反応の方が当然である。
「お前ら……!それでも誇り高き3-A生徒かっ!」
『黙れ脳筋バーサーカーゴリラ! どうせお前が戦いたいだけだろ!』
「当たり前だ!!」
『『『そんなもんに俺たちを巻き込むな!!』』』
『どうしたのですか? 次のバッターが出ないのなら、このまま棄権ということになりますよ?』
「すみません先生。すぐに行きま」
『『『3-A棄権します!』』』
「キサマらーーっ!!」
こうして、2名の打者に対してデッドボール2つ、犠牲者4名、障害率200%を叩き出したFクラス投手、姫路瑞希は体育祭の伝説となった。
ご感想などお待ちしております。
サブタイトルは?
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欲しい
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あったら嬉しい
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なくてもいい
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いらない