バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回は体育館祭の幕間、昼休みの続きです。
彼女の脅威が明久たちを襲う……!


第百二十四問『ライスボールハザード』

第百二十問

 

明久とリリアが飲み物を買うために購買傍の自販機に向かっていると、正面から2つの見知った顔が話しかけてきた。

 

「うん? 吉井君じゃないか」

「あ、久保君」

「リリアも買い出しか?」

「うん」

 

見知った顔、2-A所属の久保利光とトレイズ・マクスウェル。2人は自販機からの帰りなのか手に飲み物のペットボトルを持っていた。

 

「ジャンケンに負けちゃってね。今から飲み物を買いに行くところなんだよ」

「私はそのお手伝い」

「なら一緒に行こうか。人数が多い方が楽だろ?」

「そうだね。是非一緒に行こう」

「いいよ。そんなに数もないし。2人で持ちきれるよ」

「ダメだよ吉井君。帰りに転んでお腹に缶やペットボトルが刺さったら危ないからね」

 

それはもはや危ないを通り越して事件である。トレイズはともかく、グイグイと押してくる久保に薄ら寒いものを感じつつ、結局断りきれずに4人で自販機に向かう。

 

「そう言えば、Fクラスはあの3-Aに野球大会で勝ったらしいね」

「俺たちの敵を討ってくれてありがとな」

「勝った――って言っていいのかどうかは分からないけど、一応決勝には進んだよ」

「3-Aの人たちは気の毒でしたね」

 

勝ったと言うのに苦笑を浮かべる明久たちに疑問符を浮かべながらも、話題はやはり野球大会の話に。

 

「何にせよ、大したものだよ」

「ああ。俺たちじゃ歯が立たなかった」

 

試合を思い出したのか、トレイズが悔しそうに顔を歪める。

 

「仕方ないよ。あの大友先輩がいたんだもの」

「いや、僕らも大友先輩対策はしていたよ」

「といっても、申告敬遠しか手がなかったけどな」

「じゃあ、トレイズたちは調子が悪かったの?」

 

もしくは主力選手が正式競技に出払っていたか、もしくは没収品がほとんどなくてやる気が起きなかったか。

しかしAクラスの2人はどれにも首を横に振る。

 

「少なくとも、僕ら2人、それに代表や工藤さん、木下さんはやる気だったよ」

「え? そうなの?」

 

スタメンの内半数がやる気に満ち、大友対策もしていた。なのに2-Aは負けたというのは意外だった。

それに翔子やトレイズ、愛子はともかく、優子や久保もやる気だったというのに明久は驚いた。少なくとも、後者2人はこういったことにあまり興味がなさそうだと思っていた。

 

「僕らも色々と没収されてしまったからね。抱き枕やクッションカバーやシャワーカーテンとか、色々と」

 

文月学園では抱き枕が流行らしい。

 

「トレイズは?」

「ゲームに漫画、CDだな」

 

トレイズの没収品に、明久はなぜか安堵した。

 

「じゃぁ、どうして?」

「純粋にに向こうの方が強かったからだよ。科目に対してうまい打順を組んできていたし、なにより4番の大友先輩もそうだけど、5番の人の点数がかなり高かった」

 

明久たちは4番打者の大友の打順で3-Aが棄権したため、その5番打者は見ていない。もしあのまま試合が進んでいたら、明久たちの勝利も絶望的だったということだろうか。

 

「まぁ、仕方ないから没収された物は諦めるとするよ。学校に必要ないも物を持ち込んだ僕らが悪いわけだし」

「そっか。久保君は偉いね」

「俺はまだ諦めきれねぇなぁ」

「トレイズも少しは反省しなさい」

 

まだ未練のあるトレイズは対象的に、久保は没収品のことはすっぱりと諦めたようだ。西村教諭を攻撃し、職員室への襲撃を経て未だ諦めきれていない明久たちとは雲泥の差だ。

 

「そうでもないよ。僕は、罪深い人間だ」

「? そうなの?」

「いや……業が深い、というべきか……」

 

久保が一瞬遠い目をして呟いた。

明久の背筋にまた得体の知れない悪寒が走る。

 

「ところで吉井君」

「ん? なに?」

「吉井君は催眠術についてどう思う?」

 

いきなりの質問に、明久たち3人は目をキョトンとさせる。

 

「催眠術? あの五円玉を紐でぶら下げてユラユラさせるやつ?」

「そうそう。それだよ」

「へぇ。日本だとそんなやりかたなんだな」

「海外だと違うの?」

「似たようなものですけど、天然石なんかの"pendulum"を使うんです」

 

リリアの説明に明久がへぇと感心する。

 

「こほん。で、吉井君はその催眠術をどう思う?」

「催眠術かぁ……。そういえば、昔姉さんがテレビの真似して僕に仕掛けてきたっけ」

「な、なんだって!?」

 

久保が少し大袈裟に驚く。

 

「うわっ! 久保君、いきなり叫んでどうしたの?」

「い、いや、すまない……。少し動揺してしまって……」

「そ、そうなんだ……」

「それで、明久の姉貴はなんて言ったんだ?」

「あ、うん。『アキ君は段々お姉ちゃんが好きにな〜る〜。お姉ちゃんをお嫁さんにしたくな〜る〜』って」

「ふふ。なんだか可愛らしいですね」

「いや、小学生にする催眠術じゃないと思うんだけど……」

「そ、それで吉井君はどうなったんだいっ」

「落ち着けよ久保」

「これが落ち着いていら」

「それが僕も小学生だったからさ。姉さんの言ってることがよく分からなくて、取り敢えず抱きついたんだ」

「…………羨ましい」

「久保君?」

「ああ、いや。なんでもない……」

 

またしても悪寒。明久は次の休みに病院に行った方がいいのか本気で悩みだした。

 

「吉井君には催眠術は効きにくいということか……? やはり霧島さんから催眠術、いや黒魔術の本を借りれなかったのが悔やまれるな……」

 

よく分からないが、明久は瑞希の手料理を回避した時のような九死に一生を得たような感覚を覚えた。

その後、無事頼まれた飲み物を買った明久とリリアは少し急ぎ足で雄二たちの所に戻った。

 

一方秀隆は、

 

「あら秀隆じゃない」

「ん? 優子か」

 

体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下にある手洗い場で優子と出会った。

 

「Fクラスは調子良いみたいね」

「野球大会か。まぁ、なんとか勝ってはいるな」

 

あれを勝ちにしてもいいのならな、と秀隆は苦笑する。

 

「にしても、いくら大友や島津がいたとはいえ、お前らが負けるとはな」

 

秀隆が明久と似たような感想をぼやく。それに対する優子の答えも同じだった。

 

「単純に向こうが強かったのよ」

「っても、その2人だけ警戒しときゃ勝ててだろ?」

「そりゃ、出場した皆ほとんどやる気だったから、正直勝算はあったわよ。それでも相手が上手だったの」

「そんな頭の切れるやつが3-Aにいたか?」

「学年首席よ」

 

優子の答えに、秀隆は少し驚いた。

 

「学年首席っていや、3-A代表じゃねぇか。なんでそんなやつが野球大会になんか出てんだ?」

「Aクラス同士の試合に来賓の方たちが見学に来てたのよ」

「そういや、ババァがそんなこと言ってたな」

「だから向こうも本気で来てたってわけよ」

 

翔子率いる2-Aが負けた理由に、秀隆は納得した。

 

「そりゃ勝てねぇわな。ただの試召戦争ならともかく、今回の野球となると、な」

「それでも、普通の野球よりは勝てると思ったんだけどね」

「ま、普通の野球なら大友がホームラン連発して試合にならねぇわな」

 

だから、召喚野球の方がまだ接戦はできたという。それでも、結果だけ見れば惨敗と言う他なかったが。

 

「逆によくアンタたちは勝てたわね。どんな卑怯な手を使ったのよ?」

「失礼な。俺たちは純粋にチームに貢献しようという少女の力を借りただけだ」

「どう言う意味よ?」

 

秀隆は試合内容をかいつまんで説明した。

 

「……つまり、2-Fと3-Aの小競り合いに嫌気が差した学園長が召喚獣の仕様を観察処分者と同じにしたせいで、3-Aの人数が足りなくなったってわけね」

「そういうことだ」

「呆れた……」

 

優子が深いため息を吐く。

 

「私たちが正々堂々と勝負したのに、アンタたちときたら……」

「言っとくがな、先に手を出したのは常夏コンビだし、余計な横槍を入れたのはババァの判断だからな」

「だからって、瑞希を利用することはないじゃない。一生懸命頑張ったのに」

「だから、姫路が一生懸命頑張ってくれたから勝てたんだよ」

 

その一生懸命頑張った結果が、戦死者4名というおおよそ野球とは無縁の結果である。

 

「アンタねぇ……。瑞希の気持ちも考えなさいよ。だいいち、科目が化学なんだからアンタが投げればよかったじゃない」

「バカを言え。俺が投げたら故意のラフプレーだとバレるじゃねぇか」

「……時々、アンタたちに人の心があるのか疑問に思えてくるわ……」

 

そもそも、雄二たちに人の心が残っていればこんな作戦は決行しなかっただろう。

 

「まぁ、いいわ。惜しいけど没収品は諦めるわ」

「なんだ? お前も何か没収されてたのか。珍しいな」

 

優子はその辺りの管理は徹底していると思っていた。

 

「そりゃ私だって、休憩中に読む本や下校中に聞くMP3プレイヤーくらいは持ってくる時もあるわよ」

「ふ〜ん。ま、そのくらいは持ってくるか」

「けど、参ったわね……」

「何がだ?」

「没収された本。買ったばかりの限定品なのよ」

「そりゃまた珍しい。お前なら家でゆっくり読むんじゃないのか?」

「塾の帰りに買って、カバンにしまったまま出し忘れてたのよ。まさかその翌日に持ち物検査があるだなんて……」

「あぁ、まぁ、あれは不意討ちだったしな」

 

優子に限らず、鞄から出し忘れていた私物を没収された生徒も多いようだ。

 

 

「はぁ……。まだ包装紙すら開けてないのに……」

「本当に買ったばかりだったんだな」

「ええ。お気に入りの作家さんのイベント限定本。アクリルスタンドも付いてたから飾りたかったのに」

「そりゃご愁傷さま――ん?」

 

優子の没収品について、秀隆が違和感を覚える。

 

「お前今イベント限定って言ったか?」

「ええ。店頭委託してたから予約して買ったのよ」

「…………それは、『B』で『L』な内容じゃいよな?」

「ノーコメントで」

 

それでは白状したも同然である。

 

「お前なぁ」

「し、仕様がないじゃないっ。塾の帰りに受け取りに行くしかなかったんだから」

「しかも制服で買いに行ったのかよ……」

「マスクとサングラスしてたし、制服は途中で着替えたから大丈夫よ」

「学園指定の鞄でバレるだろうが。ったく。どうして文月学園には欲望に忠実なヤツしか現れないのかね?」

 

秀隆がヤレヤレと肩をすくめる。当然、自分のことは棚の遥か上に上げて。

 

「ちなみに、抱き枕カバーとかはないよな?」

「抱き枕カバー? そんな嵩張るもの持ってくるわけないでしょ」

「そうだよな」

 

それを聞きいて、秀隆は少しだけホッとした。

 

「ま、可能なら鉄人に掛け合ってやるよ」

「本当?」

「あくまでも可能ならな。期待するなよ」

「分かってるわよ」

 

優子とて本当に帰ってくるとは思っていない。でも、可能性が少しでもあるなら期待してしまう。

 

「そういや」

 

待機場所に分かれる前に、秀隆が思い出したように優子に聞く。

 

「お前、弁当のこと秀吉に言ってなかっただろ」

「え? あ、そうだった、かしら……?」

「お前が秀吉の分も作れっつったんだろうが」

「そんなことも言ったかしらね〜」

「お前なぁ」

 

今度は秀隆が呆れる番だ。

 

「はぁ。ま、秀吉の分はこっちで渡したからいいけどよ。あ、そうそう。弁当箱は使い捨てのやつだから食い終わったらゴミ箱に捨てといてくれよ」

「ええ。それじゃ。頑張って」

「おう」

 

2人は軽く手を触り合うと、それぞれの待機場所に戻った。

 

――Fクラス待機所

 

『犯人はにぎりめ――』

 

待機所に戻った秀隆を待ち受けていたのは、地面にそんな言葉を残して倒れている秀吉と、

 

「はっはっは。……いいから座れってんだよクズが……っ!」

「あははは。……とにかく離せって言ってんだよカスが……っ!」

 

明久にしがみついて座らせようとする雄二と、是が非でもその場から逃れようとする明久の醜い争いだった。

 

「……お前ら何があった?」

「実は……」

 

秀吉を介抱していたリリアが状況を説明する。

リリアと明久が戻った時、既に秀吉はこの状態で、雄二と康太がガタガタと震え上がっていたと言う。そして、その様子から何かを察した明久が逃げようとしたところで雄二に掴まって今に至るという。

 

「なるほどな」

「わわっ」

 

明久の悲鳴に振り向くと、康太が明久の後ろから膝カックンの要領で明久を床に座らせていた。

 

「お、秀隆も戻ったか!」

「…………座るといい」

「そうだよ。秀隆もお昼の続きにしようよ!」

「……ああ」

 

秀隆はどっかりと床に腰を下ろす。

 

「んで、何で秀吉はぶっ倒れてんだ?」

「それはあの通りだ」

 

雄二は秀吉の残したダイイングメッセージを指さす。

 

「俺の渡したBLTサンドがあったはずだが?」

「当然食べてたぞ。まぁ、俺と康太も分けてもらったが」

「…………美味かった」

「そいつはどうも。で、足りなくなって握り飯も食った、と」

「まぁ野球やら競技やらで普段よりカロリーを消費したってものあるだろうな」

 

秀吉は小柄だが食欲旺盛な男子高校生。普段よりも身体を動かせば、その分よく食べるのは道理ではある。

 

「まぁ、状況はよく分かった。それで――」

 

秀隆は目の前の少女をジロリと睨む。

 

「何か申し開きはあるか? 姫路?」

 

先ほどから気不味そうに顔を逸らしていた瑞希の身体がビクッと跳ねる。

 

「お前、普通に作ったって言ったよな?」

「……はい」

「それで何で秀吉が普通の握り飯食って倒れるんだ」

「え、えっと……」

「姫路。正直に答えろ。明久は嘘つきが嫌いだそうだぞ」

「実は、残っていた材料で特別な具材を2つほど」

 

つまり、秀吉は運悪くその内の1つを食べてしまったと言うとこ。安心だと思っていた瑞希のおにぎりたちは、その一言で一瞬で地雷原と化した。

 

「……デザートは大丈夫なんだよな?」

「は、はい! デザートは果物なので手を加えません!」

「ならよし。てことは、当面の問題はこの危険物の処理だが」

 

瑞希特製のおにぎりはまだ重箱に3割ほど残っている。この中から『当たり』を避けるのは至難の業だ。

 

「他の握り飯に侵食されてないのが唯一の救いだな」

「うぅ……。すみません……」

「だ、大丈夫だよ姫路さん。今回は少し失敗しちゃっただけで」

「そう言えば、お前おかずを作るのに失敗したって言ってたが、具体的に何を失敗したんだ?」

「…………」

 

瑞希が顔を逸らし過ぎて後ろを向いた。

 

「おい」

「ふ、フライパンを少し」

「焦がしたって言ってたな」

「…………穴が空きました」

「捨てるぞ」

 

秀隆が問答無用で残りのおにぎりとデザートの重箱を手に取る。

 

「ま、待ってください! デザートは本当に大丈夫なんです!」

「えぇい離せ姫路! もうお前の言葉に説得力がねぇんだよ!」

「お願いです! 後生ですからっ!」

「離せってんだよ!」

 

傍から見たら秀隆が瑞希をいじめているような構図だが、実態は真逆である。

 

「秀隆! 流石にそれはもったいないよ!」

 

明久は瑞希に救いの手を伸ばす。例え1つが危険物であったとしても、それ以外は瑞希が頑張って作ってくれたおにぎりに違いない。明久もそれを目の前で捨てられるのは気が引ける。

 

「……ほぅ」

 

秀隆の目がギラリと光る。

 

「……そこまで言うのなら、コレはお前が処理しろ」

 

と、秀隆はおにぎりを1つ掴むと、明久の口の前に運ぶ。

 

「え?」

「ほれ、あーん」

 

秀隆が明久に口を開けるよう促す。

たしかに明久は勿体ないと言った。食べ物を粗末にすることは明久もしたくないし、何より瑞希の悲しむ顔を見ると無碍にすることもできない。だが、明久の意に反して口は開こうとしない。防衛本能が、おにぎりの放つ禍々しいオーラを可視化させているようだ。

そもそも秀隆は男同士で『あーん』をさせて恥ずかしくないのかとも思ったが、合宿の時に優子に対して平然としてたので、もとから抵抗などないのだろう。

 

「…………明久」

「ムッツリーニ! 助けて」

「…………あーん」

 

康太もおにぎりを明久の口に近づける。字面だけ見れば、仲の良いクラスメイト2人から『あーん』をされているのだから、漫画でしか見られないようなハーレム状態なのだが、如何せん全員の性別が男なせいで一部の人間しか喜べない状況だ。

 

「あははっ。やめなよ2人とも」

 

にこやかに、雄二の悪ふざけを受け流すように顔を背ける。

すると、背けた先にも別のおにぎりが。

 

「明久、あーん」

 

野太い声と同時にゴツい手で明久の口元に運ばれる雄二のおにぎり。

もしここにとあるAクラスの女子生徒がいたら、息を荒くして事の顛末を見守っていたことだろう。

 

「おい明久。そう照れるな。口を開けろ」

「…………遠慮することはない」

「勿体ないっつったのはお前だからな。ちゃんと責任取れよ」

「うぐ……っ」

 

三方向から迫りくるおにぎり。本来なら、心を鬼にしてあのまま秀隆に捨ててもらったほうが良かったのだろう。そうすれば瑞希も反省して、今後は『特別な』料理は控えたのかもしれない。明久は今更ながらに自分の判断の甘さを恨んだ。

 

「あ、明久君」

「はいっ」

 

とそこに降ってきた女神の声。この窮地を救ってくれるであろうその女神に縋るべく明久は声の方向に顔を向ける。

 

「あ、あーん」

 

ただし、その女神が救いの神とは限らなかった。

瑞希が上目遣いで恥ずかしそうに明久の口におにぎりを寄せていた。これで四方を囲まれた。まさに四面楚歌だ。

 

「姫路」

「は、はいっ」

「そのおにぎりはお前が食べろよ」

「……はい」

 

秀隆のドスの効いた言葉に、瑞希はしおしおと頷いた。

 

「ちょっと秀隆! そんな言い方はないでしょ!」

「そうですよ神崎君。言い過ぎだと思います」

「いいかお前ら。人はな、基本痛みを伴わないと成長しないんだ。さっきの野球だって、『フィードバックの痛み』があったからこそ、『これ以上の小競り合いは危険だ』ってなったから向こうが棄権したんだ。コイツはいい加減自分の料理の危険性を直視した方がいい」

 

秀隆が厳しく糾弾する。明久たちも、秀隆が自分の責任を他人に強いることが嫌いだと言うことは知っている。それは自分も明久も、もちろん瑞希も例外ではない。特に瑞希は明久たちの優しさで見逃していたものがあった分、今回は流石に見過ごせなかった。

 

「「でも」」

「隙あり!」

 

明久が反論しようと口を開いた瞬間、その隙を見逃さず雄二が明久の口におにぎりを突っ込む。

 

「もがぁっ!?」

「…………(ヒョイ)」

「言った責任は果たせよ」

 

それを皮切りに、康太の秀隆の分の計3つのおにぎりが明久の口を襲う。

 

「握り飯ばかりだと喉に詰まるといけないな。ほら飲み物でよく流すんだ」

「ごぼごぼごぼっ!?」

 

更には無理やり詰め込まれたおにぎりわを飲み物で流し込まれてしまう。これでは戻すことも不可能。当たりを引かないことを祈るしかない。窮地を救うのは、神を信じる純粋な心だ。

明久は審判が下るまでの短い時間を、穏やかな気持ちで待つ。幼稚園の頃、小学校の頃、中学校の頃の色褪せない思い出は、不安に思う明久の気持ちを安らかにしていく。

 

「あのバカ……。過去の記憶を見始めたか……」

「走馬灯まで見えたら終わりだな……」

「…………冥福を祈る」

 

今際の際、明久はこう思った。

神様。アンタ僕のこと嫌いだろ、と

 

「って、死んでたまるかーっ!!」

「「「っ!?」」」

 

最後の気力を振り絞り、ギリギリで現世に踏みとどまる。

 

「耐えきった、だと……!?」

「バ、バカな……! 明久。貴様どうして生きて……!?」

「…………ありえない……!」

「いや、そこは驚くよりも級友の存命を喜ぼうよ……」

 

明久の奇跡の生還に秀隆たちは大いに驚いた。

 

「夏休み以来、姉さんの手料理を食べる機会が多いからね……」

「なるほど……。耐性、か……」

「嫌な理由だな……」

「…………苦労している」

 

そう思うなら、もっと優しくして欲しいと願う明久であった。




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