はたしてFクラスは逆転の糸口を掴むことができるのか?
第百二十五問
「さぁ皆、今度はこっちの攻撃だよ! そろそろ流れを引き込もう!」
「「「おうっ!」」」
先頭バッターの西村教諭にホームランを打たれたものの、最終的には秀吉の機転により満塁のピンチを脱することができた。このままの流れと勢いで、逆転まではいかなくとと、何とか同点まで持ち込みたいことろ。
「さぁ皆、またこっちの守備だよ。頑張ろう」
「「「おー……」」」
が、現実は漫画やドラマのように甘くはない。Fクラスの攻撃は、この回もあっさりと3人で終わってしまった。
今のところヒットはおろか、フォアボールやデッドボールでの出塁すらなし。パーフェクトゲームの一方的な試合展開が続いている。
Fクラスは後攻なので2回の裏が終わって3回の表。科目は世界史から物理へと変更された。
教師チームの攻撃は、2回で隠し球によりランナーアウトでチェンジとなったため、2回でラストバッターだった1番打者の布施教諭から。ここからが本当の2巡目となる。
そして2巡目ともなれば操作にも目にも慣れてくるころで、明久は布施教諭にヒットを打たれ、2番の寺井教諭にはセーフティバントを決められてあっという間にノーアウトランナー1、2塁のピンチに。そして迎えるバッターは――
『よろしくお願いします』
学年主任を務める才女、高橋教諭。先ほどは高橋教諭の珍走によりアウトにできたが、はたして今回はどうだろうか。
『敬遠はしないよね?』
『当たり前だ』
明久の予想通り、雄二はここで勝負を選択。ここで敬遠をしたらノーアウト満塁で西村教諭に打席が回る。西村教諭に下手なボールを投げようものなら即グランドスラム。Fクラスの敗北が決定する。
なので敬遠必須なのだが、そうすると押し出しで1点を献上することになる。どの道負けが濃厚となるのなら、高橋教諭の野球に関する知識、経験不足にかけて勝負する方が何倍かマシだ。上手くいけばダブルプレーも狙えるかもしれない。
「今度はうまくやります」
高橋教諭の召喚獣はバットをかなり短く持って構える。スイングとバントの中間くらいで軽く掲げるような構え。いわゆる"バスター打法"に近い。当てるだけに特化した構え。おそらく教師チームの誰かの入れ知恵だろう。
『アウトコース 高め 速い球』
雄二が召喚獣から最も離れたコースを指示。バットを短く持った様子を見ての判断だろう。
明久は雄二の指示に頷くと、全力で指示されたコースに球を投げる。何も準備していなければ打ちにくいコース。初球なので見逃してもお互いにそんのないコースだが、
「まぁ、予想通りですね」
「「――っ!?」」
突如、高橋教諭の召喚獣が腕を目一杯伸ばした。雄二がバットを短く持てばアウトコースは打ちにくいと判断したように、高橋教諭もバットを短く持てばアウトコースに投げ込んでくると判断したのだろう。野球に関しては素人だから油断していたが、頭脳の明晰さはこの場に置いて随一なのだ。
コースを読まれ、あっけなく打ち返された明久の全力投球。その打球は低い軌道を通り、
「い、いやだぁっ! こっちに飛んでこなぶるぁあっ!」
またもや福村の召喚獣を吹き飛ばし、センター前へと転がった。今度は完全なクリーンヒットだ。
『高橋先生! 今度こそ一塁から順に回ってください!』
『分かっています。同じミスは二度と犯しません』
教師チームからの指示に高橋教諭は召喚獣を今度こそ一塁方向に走らせる。点数に比例した猛スピードで走り抜ける召喚獣。一塁、二塁、三塁と目にも止まらぬ速さでベースを踏んで行く。
その素早さたるや。康太の『加速』にも負けるとも劣らぬ速さ。一瞬で一塁から本塁まで駆け抜ける。
『高橋先生……。アウトです』
『なぜですか』
速すぎて、前のランナーを2人とも追い抜かしてしまうほどに。
『『『……………………』』』
見ている全員が言葉をなくす。
野球の走塁ルールのひとつに、『ランナーの追い越し』というものがある。これは簡単に言うと、『後続のランナーがアウトになっていない前走者を追い抜いた場合、追い抜いた後続のランナーはアウトになる』というものだ。因みにプロ野球でもこのルールが適応されたこともあり、中にはホームランを打った嬉しさで、前のランナーと一回転してしまいホームランを打った選手がアウトになった、という珍プレーもある。
つまり、高橋教諭はこの珍プレーを行ったということだ。おそらく高橋教諭の召喚獣が強すぎたあまりに起こった悲劇だろう。明久達からしたら幸運ではあるが。
『とにかく高橋先生。アウトなので戻ってください……』
『納得できません』
『そういうルールなので……』
高橋教諭が不満そうな目をしつつ、自陣に戻っていく。明久たちはこの試合で、高橋教諭に身内に似たような親近感を抱いた。
『えっと……、はい。タッチアウトっす。ほい、島田っ(ヒュッ)』
『え?』
『(パシッ)オッケー。それじゃ、こっちもアウトです』
『あ』
高橋教諭の行動にまたもや呆然として立ち尽くす2人のランナーに、須川と美波がそれぞれボールを持ったグラブでタッチする。これで、一応は3アウトとなるのだが……。
『……………………3アウト。チェンジ』
審判が力なく、呟くように宣言した。こんな奇抜なトリプルプレーでは、力が抜けるのも無理はないだろう。
『まさかあの高橋先生が、あんなにおかしな行動をとるとは……』
『僕、密かに高橋先生に憧れを抱いたんですけどね……』
布施教諭と寺井教諭がトボトボと歩いてベンチに戻っていく。常日頃、職員室でビシッとした知的な高橋教諭の姿を見ているから、ギャップからくるショックが大きいのだろう。
「と、とにかくこれでピンチは凌いだ! そろそろ1本出そう! こっちの最初のバッターは」
「お主じゃな、明久」
Fクラスはここまで6者凡退なので、この回の先頭バッターは7番の明久だ。
「……期待しているぞ、坂本」
「坂本、お前だけが頼りだ」
「頼む。ホームランをかっ飛ばしてくれ」
他のクラスメイトたちは明久の次のバッターの雄二にエールを送る。
「皆、それは僕に余計なプレッシャーをかけまうという気遣いだよね?」
「「「……あー……まぁ、そうだな……。一応吉井も…………」」」
「もういいよ! 形だけの声援なんていらないよ!」
あまりの期待のされなさに、明久は顔で凹んで心で泣いた。
「あの、明久君。頑張ってくださいね」
「ひ、姫路さん……! ありがとう! 頑張ってくる!」
「はい。応援していますっ」
「よしっ! この打席を、姫路さんに捧げるよ!」
瑞希の天使の声援により息を吹き返す明久。女子からのエールを受けて凡打しようものなら男が廃るというもの。
意気揚々と打席に向かい、相手ピッチャーを視界の中央に置いた。
――ゴスッ
『デッドボール』
「ぎにゃぁあああっ! 手が! 左の手首から先の感覚がぁああっ!」
「す、すみません吉井君……。力加減に失敗してしまって……」
マウンド上の布施教諭が、ぺこぺこと明久に平謝りをする。先ほどの高橋教諭の珍プレーの影響か、力加減を見誤った布施教諭のボールはすっぽ抜けて、気合いを入れて身を乗り出していた明久の召喚獣の左手に命中。
己の不運を嘆くべきか、力のない失投で戦死を免れたことを安堵すべきか。
『あ、あの……。捧げると言われても、これはどう受け取ったら……』
『鼻で嗤ってやればいいのよ瑞希。格好つけたクセに情けないですって』
『は、はぁ……』
『それは少し吉井君が可哀想な気が……』
「うぅ……。活躍するどころか、格好悪いことろを見せちゃったよ……」
痛みでのたうち回る状態から立ち上がる。明久の召喚獣は試召戦争をしていないのに既にボロボロだ。
それでも、一応進塁は進塁。この試合Fクラスで初めてのランナーが出た。しかもノーアウトでの同点のランナー。このチャンスを逃さないよう、次のバッターへの期待が上がる。
「さて。俺の出番か」
ネクストバッターの雄二が打席に入る。雄二の点数と運動神経なら、もしかしたらここで1点はもぎ取れるかもしれない。
化学教師 布施文博 物理 269点
VS
Fクラス 坂本雄二 物理 188点
立ち会いと体育祭本戦の監督のため物理教師が参加できなかったのか、ピッチャーは引き続き布施教諭。その布施教諭も点数こそ雄二より高いが、雄二の運動神経や反射神経を加味すると実力差は拮抗といったところ。かなり良い勝負が期待できる。明久も雄二が打った後にすぐに走り出せるように準備をする。
「今度は失投をしないように気をつけなくては……」
布施教諭の召喚獣が投球体勢に入り、ボールを投げる。コースはど真ん中で球速もそれほど速くない。明久にデッドボールを投げた直後なので、力加減とコースを意識した投球。バッターからしたら打ちごろの絶好球だ。
「……っ」
雄二はそのボールを見てピクリと動き――そのまま見送った。
『ストライク!』
結果、ストライクカウントが1つ進む。雄二ならばあのボールは打てば長打にできたはずだが、それを見送ったのは何か考えがあってのことか。それとも単純に間を外されたせいなのか。
明久が首を傾げているうちに布施教諭が第2球目を投じる。今度はアウトコース低めの球。ギリギリストライクゾーンに入るかどうかの球だが、雄二はどう出るか。
「こ……の……っ!」
さっきと同じ様に身体を一瞬震わせて、そこから雄二はバットを振った。
――カツッ
半端な音を響かせて、ボールはピッチャーの正面に転がる。判断に躊躇って、バット振り切らなかったせいで打球に勢いはない。まさに今の雄二のような中途半端なスイングど打球。
ピッチャーがボールを拾い、二塁に送球。明久も召喚獣を全力で走らせるが、間に合うはずもなく、明久が到達する前に、二塁手のグローブにボールが収まる。
『アウト!』
そして、そのまま二塁手は受け取ったボールを一塁に向けて投げた。
『アウト!』
バッターであった雄二もアウトととなり、これで一気に2アウト。千載一遇のチャンスは、1-4-3の見事なダブルプレーとなり、ものにできなかった。
「くそぉっ!」
雄二がベンチに戻る時、悔しそうに吠える。その怒りの矛先は教師か、自分か、はたまた……。
召喚獣を従えて明久もベンチに戻る。すると、そこに美波がやってきた。
「(アキ。坂本のやつ、何かあったの?)」
雄二を心配そうに見ながら、小声で美波が話しかけてきた。そう言えば、美波は雄二と翔子のやり取りを見ていなかったと思い出し、明久が簡単に説明する。
「(霧島さんと、ちょっとね)」
「(ふ〜ん……。ちょっと、ね……)」
ろくな説明もなかったのにそれだけて何かを察したのか、それとも首を突っ込むのは野暮だと思ったのか、美波はそれ以上は何も聞かずにベンチに戻った。
『ストライク! バッターアウト! チェンジ!』
「はぅ……。すいません……」
美波と明久が話している間に、アウトになった瑞希よ戻ってきた。これでまた攻守交代だ。
3回が終わってスコアは1対0。スコア上では1点差だが、試合運びはこれでもかというくらいの圧倒的な差がある。
そろそろいつもの様に逆転劇を仕掛けたいが、肝心の雄二がこの有り様。オマケに秀隆は野暮用と言って離脱中。絶望的な状況だが諦めても仕方ない、と明久は一応雄二に声をかける。
「雄二。気分は――」
「あア?」
話しかけてきた明久を雄二は物凄い目つきで睨む。怒りはまだまだ収まっていないようだ。
「まったく……。雄二も少しは大人になりなよ。霧島さんだってたまには機嫌の悪い時くらいあるだろうからさ」
「何が機嫌の悪い時だ! そんなもんで納得できるか!」
火に油を注いだがごとく、更に怒りを燃やす雄二。
そして、プルプルと拳を震わせて、
「だいたい、どうして俺が、本人の同意もない紙切れ一枚没収された程度で、あそこまで怒られなきゃならんのだ!」
本日何度目かの遠吠えを始めた。完全に冷静さを失っている。
明久がヤレヤレと肩を竦めていると――
「え? 紙切れ、ですか?」
瑞希が小さく首を傾げた。
「何だ姫路。人の大事な物を紙切れ呼ばわりするな、とでも言いたいのか?」
流石に瑞希に八つ当たりとまではいかなくても、少しきつめの口調で問いかける雄二。それでも八つ当たりには変わりないのだが、瑞希は不思議そうな顔をしたままだ。
「いえ、そうじゃなくて……。紙切れっていうのが、私の聞いた話と違うと思って」
瑞希は翔子が没収されたのは紙切れではないという。噛み合わない会話に、今度は明久と雄二が疑問符を浮かべた。
「姫路さん。それってどういう――」
「えっと……。私は翔子ちゃんが没収されたのは、如月ハイランドで坂本君から貰ったヴェールだって聞いたんですけど……」
「「……………………は?」」
思いもよらぬ台詞に、雄二だけでなく、明久も思わず一緒になって聞き返してしまった。
瑞希の言うヴェールとは、如月ハイランドでウェディング体験をした時に翔子が身に着けていたウェディングヴェールのことだろう。没収されたのはそのヴェールで、結婚の同意書ではなかったようだ。
疑問符ばかり浮かべる明久たちに、瑞希が更に説明する。
「前に、翔子ちゃんが嬉しそうにお話ししてくれました。翔子ちゃんが大勢の前で笑われた後で、坂本君が『俺はお前の夢を笑わない』って言ってプレゼントしてくれた、大切な思い出のヴェールだって」
「あ、それ、ウチも聞いたわ。お泊り会をやった時に幸せそうに話してたの、凄く印象的だったもの。そっか……。あれ、没収されちゃったんだ……。それはショックよね……」
「私も聞きました。翔子ちゃん、小さい頃からの夢が叶ったみたいだったって。本当に坂本君が大好きで、素敵な思い出だなって私も憧れました。そんな大切なヴェールが没収されちゃっただなんて……」
隣で聞いていた美波とリリアも同情するように目を伏せる。
「「……………………」」
瑞希から聞かされた真実に、雄二も明久も言葉を失った。
翔子が小さい頃から抱いていた、たった一つの大切な夢。それを大勢の人の前で笑われて、貶されて、翔子は凄く傷ついてしまっただろう。ヴェールだけ残して、ウェディング体験の会場から姿を消してしまうくらいに。
「『俺はお前の夢を笑わない』ね……」
雄二がそんな事を言ったのなら、翔子にとって、それは掛け替えのない思い出になったはずだ。他の誰でもない、自分の大好きな人が、自分の夢を認めてくれているという、大切な思い出に。
「だから、その思い出のヴェールを、坂本君が『つまらない物』なんて言うのは酷いと思ったんです」
だからこそ、雄二のあの台詞は翔子にとってはショックだったのだ。よりによって雄二本人に、思い出を馬鹿にされて、『笑わない』と言われたはずの大切な夢が笑われたように思えて。
「翔子ちゃんなら、先生に事情をお話ししたら返して貰えたかもしれないのに……」
「きっと、もう誰にも笑われたくなかったんでしょうね……」
「先生なら、そうはならないと思いますが、万が一を恐れたんでしょうね……」
没収品の管理は西村教諭がしていたので、事情を説明しても翔子の夢は笑われなかっただろう。それでも、一度植え付けられたトラウマは簡単に消えるものではない。頭で理解はしていても、もしもを考えると言い出せなかったのだろう。どの道、公明正大な西村教諭が没収品を返してくれるとは思えないが。
そんな翔子に、雄二が言った言葉を思い出す。
――あんなもん
――つまらない物
――俺が代わりに捨ててやる
幼い頃からの夢を大切にしている翔子にとって、雄二の言葉はなんと残酷に聞こえただろうか。
「雄二……。なんてバカなことを……」
明久が思わず自分事のように顔を覆う。どうりで、瑞希が翔子の味方をするはずだ。
「…………つまり、秀隆の予想は――」
「当たっていた、ということじゃな」
そして、秀隆の『没収品は同意書ではない』という予想も的中していたことになる。最悪の形で。
「坂本君……。もしかして、自分で翔子ちゃんに渡したのに、没収された物を知らなかったんですか……?」
「…………知らなかった」
力なく雄二が首肯する。
要するに、秀隆の言う通り、雄二の勘違いだったのだ。翔子は雄二が渡してきたものだから、てっきり雄二は中身が何か知っていると思っていた。だからこそ、雄二に『つまらない物』扱いされたのが許せなかったのだろう。
「…………」
真実を知った雄二が呆然としていると。
「よう。何だか辛気臭え雰囲気だな」
「「「秀隆っ!?」」」
秀隆がグラウンドに戻ってきた。何だか疲れているようだが、今はそんなことは関係ない。
「どこに行ってたのさっ」
「あん? 康太に伝えてただろ。野暮用だって」
「その野暮用は何だったのじゃと聞いておるのじゃ」
「野暮用は野暮用だよ。んで、雄二はどうしたんだ? 一人だけお通夜みたじゃねぇか」
「…………実は」
明久たちは今知った翔子の没収品を説明した。
「ほーん。如月ハイランドん時のヴェール、ね。そりゃ霧島も怒るわな」
「え? 秀隆は知ってたんじゃないの?」
「あのなぁ。俺はエスパーじゃないんだぞ。いつもの怒り方じゃなかったから婚姻届じゃないと思っただけで、中身が何かまでは知らねぇよ」
ま、よっぽど大切な物だったってのは予想できたけど、と秀隆は続ける。
蓋を開けてみれば、本当に秀隆の言う通りだ。
「よう。雄二」
「…………」
呆然と立ち尽くす雄二に、秀隆が話しかける。
「今どんな気持ちだ?」
「…………最悪な気分だ」
「だろうな。けど、霧島はもっと最悪だったと思うぜ?」
「……………………」
皮肉めいた秀隆の笑み。いつもは言い返す雄二も、今は言われるがままだ。
「たしかに、この中で霧島の事を一番よく理解しているのはお前だよ。だがな、よく知っているからこそ、お前は『いつものこと』と霧島のことを蔑ろにしたんだ」
「……そんなことは」
「そんなことはない? じゃぁなんでこうなってんだ? 霧島に理不尽に怒られても不貞腐れてた坂本雄二君はどうしたいんだ?」
「…………俺は」
「雄二」
「…………」
「――雄二。これはお互いの勘違いだ。だからどっちが悪いとかは言わねぇ。けどな、傷ついたのは間違いなく霧島だ。その点で見れば、悪いのはお前になる」
「それは……」
「知らなかったから? 知ってたらこんなことにはならなかった? んなわけねぇよ。知ってようが知ってまいが、お前は霧島を傷つけたろうさ。形こそ違えど、結果は同じだ」
「……………………」
秀隆の言葉がナイフのようにグサグサと雄二に刺さる。明久たちも秀隆は言い過ぎだと思ったが、雄二が甘んじて受け入れているようなので黙って見守った。
「そんなお前が、唯一できる罪滅ぼしを知ってるか?」
「…………なに?」
少し狼狽える雄二の胸を、秀隆がトンと拳で突く。
「お前が霧島の没収品を取り戻す。んで、ちゃんと謝って返してやる。これで万事解決だ」
「そんなことで」
「そんな簡単なことで解決するのかって? するさ。お前らはまだ少しかすり傷がついた程度さ。絆創膏貼っとけばなおる」
「そんな擦り傷じゃないんだから」
「擦り傷だよ。少なくとも、化膿することはねぇ。化膿したら、膿を出さなきゃいけねぇからな。治りも遅いし」
雄二たちはまだ傷が浅いからすぐに仲直りできると秀隆は言う。その言葉は、妙に実感がこもっていた。
「さて雄二、どうするの? このままだと没収品は返して貰えないよ?」
「どするもこうするも……。きっちり守って点を取る。それだけだ……」
発破をかけるような明久の台詞に、当たり前のことで返す雄二。まだ少し頭が回っていないのか、その肝心の作戦が出てきていない。
「じゃが雄二よ。次は4番の鉄人じゃぞ? 下手な作戦では、またホームランを打たれてしまうぞ?」
「ホームラン? そういや、試合の状況聞いてなかったな」
「…………2回に鉄人にホームランを打たれて1点のビハインド」
「ああ。そりゃ焦るか」
秀隆が教諭チームのベンチに目を向ける。そこでは西村教諭の召喚獣がバットを豪快に振り打席の準備をしていた。
打席も2巡目。今までと同じやり方なら、確実に点を取られる。流石に向こうのミスももう期待はできない。
明久が横目で雄二を見やる。雄二は今、いまいち機能していない頭をフル回転させて、何とか次の回を乗り切る作戦を考えていた。
――今までみたことないくらい、真剣な顔で。
「……………………」
そんな雄二の顔を見て、明久はちいさくため息をはいた。そして覚悟を決めた表情で雄二に告げる。
「雄二」
「……なんだ明久」
雄二が顔を上げる。明久は雄二と自分の顔を交互に指さして、
「ポジション、交代」
と告げた。
「「「……はぁ?」」」
明久の台詞に、周りのクラスメイトは『何言ってんだコイツ』という表情をする。
そんな中、雄二と秀隆はいち早く明久の意図を察したようで、雄二が真っ直ぐに明久を見て問い返す。
「……いけるのか?」
「やるしかないじゃないか。この勝負、負けられないんでしょ?」
「まぁ、リスク取らねぇと勝てねぇしな」
「……そうだな」
明久と秀隆の言葉に、雄二は小さく笑みを浮かべて言った。
「どういうことじゃ明久よ。雄二がピッチャーなのはよいが、その球を捕れるキャッチャーがおらんではないか。まさか、姫路に任せるのかの?」
「まさか、姫路さんにそんなきついことをやらせるわけないじゃないか」
「それに、どの道姫路にキャッチャーは無理だしな」
キャッチャーは守備の司令塔。ピッチャーの球を受ける以外にもやることは結構多い。野球に慣れていない瑞希に任せるのは酷というものだ。
「じゃが、そうなると雄二の球を捕れるのは」
「いるでしょ。ここに一人。正確には二人だけど、この状況でキャッチャーができるのが」
取り損なうと戦死する程のダメージを受けるのなら、全て完璧に取り切ればいいだけの話だ。身体の真正面で、ミットの真ん中で、ダメージを受けないように取り切ればいい。
実にシンプルな話だ。そして、この場においてそれが実行可能なのは二人。その内一人はベンチ。ならば――
「来い雄二。――僕が、お前の球を全部受けてやる!」
「言ったな明久。その台詞、後悔するなよ。取り損なったら、お前の召喚獣が消し飛ぶからな!」
1点ビハインドの野球大会決勝戦終盤。ここからFクラスの反撃が始まる。
ご感想などお待ちしております。
サブタイトルは?
-
欲しい
-
あったら嬉しい
-
なくてもいい
-
いらない