覚醒した雄二は教師チームにどう挑むのか。
第百二十六問
『Fクラス。早く守備についてください』
「あ、はいっ」
審判がFクラスに守備につくように促す。明久たちは慌ててポジションに移動しようとするが、
「もう少し待ってほしい」
雄二が審判に待ってほしいと願い出た。
『坂本君。時間もありませんので』
「すぐに終わります」
雄二には珍しく殊勝に頭を下げて願い出た。その姿に審判も『なるべく早くしてくださいね』とだけ告げた。
「雄二?」
「何か作戦かの?」
「それもある、が――」
雄二は秀隆に向かい合った。
「すまん!」
すると雄二は、凄い勢いで2人に頭を下げた。
「さ、坂本君っ」
「すまなかった! 秀隆、お前が正しかった。お前の言う通り、俺が翔子を蔑ろにしていたせいだった」
「それで?」
「今更こんなことを言うのはお過度違い、虫の良い話だとは思ってる。それでも、勝つためにはお前の力も必要なんだ! だから」
「ん。何をすればいいんだ?」
「だから――え?」
何事もなかったかのように二つ返事をする秀隆に、雄二は面食らった。
「え? じゃねぇよ。どんな作戦で、俺は何をすればいいんだよ」
「力を、貸してくれるのか?」
「力を貸す? バカいってんじゃねぇよ」
秀隆はいつもの人を食ったような顔で告げる。
「野球はチーム戦だぞ。力を貸すもなにも、使えるもんは全部使って勝ちにいくに決まってるじゃねぇか」
つまり、『いつものように戦え』ということだ。
「あー、でも、まぁ。一応人の忠告無視たわけだしな。一つだけ条件をつけさせて貰おうか」
「……なんだ?」
秀隆の条件。どう低く見積もってもとんでもないものだと誰もが確信した。
「そう身構えるなって。ちょっと飯――いや、甘味を奢ってほしいだけだよ」
甘味、と聞いた瞬間、何かを察したリリアが秀隆に悪魔を見たかのような視線を送る。
「甘味だと?」
「ああ。『ラ・ペディス』って喫茶店は知ってるな? 今度優子やリリアたちとそこの『スペシャルパフェ』を食いに行くことになってんだ」
「それを奢れと」
「そういうことだ。もちろん、霧島も誘ってな」
どうだ、と秀隆は笑いながら聞く。雄二はほんの少しだけ悩んだ様子を見せると、
「……分かった」
と、頷いた。
「うっし。決まりだな。ちゃんと霧島を誘えよ? 今回のはお前が悪いんだからな」
「わーったよ。今回ばかりは腹を括ってやるよ」
雄二からしたら、翔子を誘うなんて一生ないと思っていたのだが、まんまと秀隆に嵌められてしまった。
「んで、俺はこの回の攻撃から参加すればいいのか?」
「いや、守備についてもらう」
「ってことは、センターの須川と交代か?」
「いや。センターだが、交代はリリアだ」
「わ、私ですか?」
雄二は秀隆をセンターの守備につけると言うが、交代は須川ではなくリリアだという。
「でもリリアは指名打者だろ」
「ああ。だから野球のルールに則って交代する」
「野球のルール?」
「…………どういう意味?」
「すぐに分かる」
雄二は審判に向かって守備変更を申告した。
「審判! 守備の交代だ! ピッチャー吉井明久に代わって坂本雄二。そのままキャッチャーに吉井明久」
雄二は先の作戦通りにピッチャーとキャッチャーの交代を申告。
「そして――リリアーヌ・シュトラウスキーの指名打者を解除! 福村のいたショートにそのまま守備につかせる」
『『『は?』』』
雄二の宣言に、Fクラス、教師チーム、審判までもが素っ頓狂な声を出した。
「くくっ。なるほど。そう来たか」
「え? どういうこと?」
『坂本君。それは流石に』
「可能だ」
雄二の申告を棄却しようとした審判に、大島教諭が待ったをかけた。
『大島先生?』
「試合途中で指名打者を解除して9人制にすることは公式野球ルールにも記載されている」
流石は体育教師。野球の細いルールまでもよく把握している。
指名打者の解除はたしかに公式高校野球のルールでも明文化されている。
そもそも指名打者制度は、試合前に指名打者を指定するかどうかを選択する制度だ。なので試合前に選択しないこともできるし、試合途中で解除することも可能だ。ただし、選択しなかった、あるいは途中で解除した試合は、以降指名打者を指定することはできない。
『そうなんですね?』
「ええ。だが……まさか、Fクラスがこんな選択をしてくるとは」
大島教諭は驚き半分、感心半分の表情で雄二を見やる。
『分かりました。では坂本君の申告を認めます』
「ありがとうございます」
『他にはありませんか?』
「ショートに入ったリリアとセンターの須川の守備を入れ替え。そしてリリアと秀隆を交代する」
雄二の守備変更をまとめると、
・ピッチャーとキャッチャーの入れ替え
・リリアの指名打者解除
→実質福村とリリアの交代
・センターの須川とリリアの守備位置変更
→センター:リリア、ショート:須川
・リリアと秀隆を交代
→センター:秀隆
これでFクラスは指名打者を破棄する代わりに、6番センター秀隆を得た。実質的に2人交代に出したようなものだ。
『以上ですか?』
「ああ」
『では速やかに守備についてください』
守備変更も終わり、Fクラスもそれぞれのポジションに移動する。
「ねぇ、雄二。なんでそんな回りくどいことしたの?」
「普通にリリアと神崎の守備位置を変えればいいだけよね?」
「打順だ。どうしても、秀隆の打席を最終回に回したかったんだ」
「ならば、最終回のリリアの打順で交代すればよいのではないのかの?」
「それも考えた。だが、勝つためには徹底的にやらないと勝てねぇ」
「だから、この回で守備を交代しないといけなかったんですね」
「ああ。すまねぇリリア。せっかく参加してくてたのに、最後に交代させちまうことになって」
雄二は改めてリリアにも頭を下げる。
「坂本君。これは勝つためには必要なんですよね?」
「ああ。相手はあの鉄人だ。万が一を考えると、この守備位置が重要になると思っている」
「なら、私からいうことはありません――いえ、一言だけ言わせてください」
「なんだ?」
「勝ってください。必ず勝って、翔子ちゃんと仲直りしてくれると約束してください」
「……善処する」
「坂本君?」
「…………前向きに検討する」
「坂本君?」
「……………………分かった」
「はい」
明久たちは『普段大人しい人が実は怒ると一番怖い』を実感した。
『プレイッ!』
試合が再開される。バッテリーの面子こそ変わらないがピッチャーは雄二でキャッチャーは明久。そして迎えるバッターは4番の西村教諭だ。
『ど真ん中、ストレート行くぞ』
『了解』
ピッチャーの雄二が送ってくるサインの位置に、明久はミットを構える。1球目からど真ん中。いきなり思い切りの良いコースを選んできた。
雄二の召喚獣が投球モーションに入り、その1球目を力強く投げた。
――ズバン!
ミットから乾いた音が響き渡り、明久の腕や肩に衝撃のフィードバックやってくる。
明久の顔が痛みで少し歪む。雄二は本当にお構いなしにゴツい球を投げてきた。
Fクラス 坂本雄二 英語
&
Fクラス 吉井明久 英語
真正面で受けたのに、明久の点数が減少している。明久は集中力を高めた。ミットの真ん中で受けるために。全神経を集中させてダメージのないように捕球するために。
『ストライクッ!』
少し遅れて審判のコール。
西村教諭は雄二の球に反応できなかったようで、驚いたように見送っていた。散々明久の遅い球に慣れていた後でのこの豪速球だ。いくら西村教諭と言えども、簡単に反応てまきるものではない。
「ナイスボール」
「当然だ」
明久がボールを返球しつつ雄二を褒めると、雄二は小さく口の端をつり上げた。ようやく、いつもの調子を取り戻したようだ。
『ど真ん中 ストレート すぐに行くぞ』
そして、雄二はボールを受け取りながらそんなアイコンタクトを送った。ボールに目が慣れる隙を与えないよう間髪入れずに投球する気のようだ。
明久も慌ててミットを構える。
雄二はボールを受け取る時と、普通はサインの確認などの間を取るとこなく、すぐさま腕を振り上げて2球目を投げ込んできた。
1球目と同じコースに、一瞬でボールが到達する。またしても明久の身体にフィードバックの痛みが走る。
「ス……、ストライッ!」
受けたボールを投げ返し、明久が視線を雄二に送る。
『危ないじゃないか! 取り損なったらどうする気だよ!』
なんとか捕球できたものの、下手をすれば明久の召喚獣は一瞬で戦闘不能になるところだった。
だというのに、
『ぬるいこと言うなよ。俺の球、全部捕るんだろ?』
詫びる素振りすら見せず、雄二はそんな挑発とも言える視線を送ってきた。
これには明久も対抗心を燃やし、召喚獣を構え直させる。点数では雄二が上だが、召喚獣の操作に関しては明久が上だ。次こそは完璧捕球してみせる。
と、気合いを入れ直した矢先――
「タイム」
西村教諭がタイムを申告。バッターボックスの外に出て数回素振りをすると、すぐに戻ってきた。
『プレイ!』
一瞬だけ試合が中断され、すぐに再開された。明久たちは西村教諭の間の取り方に訝しんだが、気を降り直して投球の体勢に入る。
雄二が力強くボールを握り、狙ったコースに向けてボールを投げ込む。
――ギィン
「「!?」」
西村教諭の振ったバットがボールの下を掠め、ボールはキャッチャーの後方に飛んでいった。
『フ、ファール!』
2球も見逃したのに、西村教諭はまさかの3球目でアジャストしてきた。
「迷いのない、良いボールだな。坂本」
西村教諭はバットを構え直し、雄二に向かってそんなことを言った。
「だが、いくらお前の球が速くとも、全て同じコースでは合わせることは不可能ではないぞ」
あまり俺を舐めるんじゃぞ、と西村教諭が睨みを効かせる。
明久やFクラスのメンバーは、その威圧感にに冷や汗を流した。――2人を除いて。
『明久。ど真ん中 ストレート 行くぞ』
『え?』
雄二はもう一度同じコースを指示し、明久の返答を待たずに投球モーションに入る。
――キィン
『ファール!』
今度の打球はサード方向へのファール。まぐれ当たりでははなく、本当に当てにきている。
『雄二、どうするの? このままじゃ』
『心配するな明久。次行くぞ』
間を置かず雄二の召喚獣が腕を振り上げる。明久もこうなってはやるしかない、とミットを構える。
「行くぞ鉄人!」
「西村先生と呼べ!」
ストライクゾーンの真ん中で、ボールとバットがぶつかる。
――ギィイン
「むっ?」
手応えはあった、だが良い手応えではない。ボールは鈍い金属音を響かせて、センター方向へとフラフラと上がっていく。
雄二が最後に投げたのは全力ではなく少し遅いストレート。雄二の豪速球に合わせてきた西村教諭のバットは、その微妙な変化に対応できずに芯でボールをとらえることができなかった。
『よし! 打ち取った!』
『いや、待て! あれは入るかもしれねぇぞ!?』
打球に勢いこそない。しかし高さと角度がある。プロ野球でも打ち取った打球がそのまま伸びてホームランになることは時折見られる。ましてや野球場とは比べるまでもなく狭いグラウンドだ。柵を越える可能性は十分にある。
ここに来ての追加点。誰もが絶望的な状況に息を飲むの中、諦めない男たちがいた。
「秀隆ぁーっ!」
「わーってるよっ!」
秀隆はセンターの召喚フィールドギリギリまで召喚獣を走らせる。そこで召喚獣を反転させると、打球を見据えてある『キーワード』を叫んだ。
「『展開』!」
ある条件を満たした時のみ発動でる召喚獣の特殊能力。秀隆の召喚獣の腕輪が光る。
Fクラス 神崎秀隆 英語
たかが2点。されど2点。科目で400点を超えたことにより条件を満たした秀隆の召喚獣は無数の浮遊する盾を展開。それを全て階段状に並べて、水平方向に向ける。
「行けっ!」
秀隆の召喚獣が盾を足場にして飛び登っていく。そして、
「うおぉおおっ!」
最上段で大きくジャンプし、頭上まできたボールを捕らえる。
「うっし――ってヤバ」
上空でキャッチしたものの、着地で足を滑らせて、秀隆の召喚獣はそのまま地面に背中から落下した。
「がはっ……っ!」
秀隆の背中にフィードバックの衝撃が走る。少なくとも2階相当の高さから落ちたのだ。秀隆は痛みから片膝をついて悶絶した。
『「神崎(君)っ!」』
レフトの横溝とライトの瑞希が慌てて駆け寄る。
「神崎君、大丈夫ですか?」
『ボールはどうなった?』
秀隆の召喚獣が、痛みに震えながらグローブを掲げる。
その中には、すっぽりと白球が入っていた。
『バ、バッター…アウトッ!』
『『『うおぉおおーーっ!!』』』
秀隆のファインプレーにより追加点を阻止。一気にFクラスが活気づく。
「予定とは違うが――さて、先生方。手前勝手で悪いが……こっちも色々と事情が変わっちまったんだ」
雄二が獰猛な笑みを浮かべて教師チームに告げる。
「――これ以上は、1点たりとも取らせねぇ」
ご感想などお待ちしております。
サブタイトルは?
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欲しい
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あったら嬉しい
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なくてもいい
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いらない