ようやく復活した雄二。はたしてその作戦とは……?
第百三十一問
「おっしゃテメェら! こっちの攻撃はあと2回! きっちり点数もぎ取って、俺らのお宝を取り戻すぞ!」
「「「おうっ!!」」」
「向こうにゃ点数は負けてるが、運動能力じゃ決して負けてねぇ! 若さってもんを見せてやれ!」
「「「おうっ!!」」」
「ここから先、俺は全力を出す! だから……お前らも協力してくれ! 大事な物を取り戻すために! 合言葉は――」
「「「
「反撃、行くぞお前ら!」
「「「っしゃあーーっ!!」」」
いつもの雄二の鼓舞に、Fクラス全員に否が応にも力が入る。やるべきことがはっきりして――自分の中の靄が晴れて――やっと調子が戻ってきたようだ。
「近藤、横溝、秀吉!」
雄二が1番、2番、3番打者の名前を呼ぶ。呼ばれた3人は、それぞれ雄二の前に立った。
「作戦だ。いいか? どうせこのまままともに向こうとやり合ったところで勝ち目はねぇ。偶然でフォアボールやポテンヒットが出たとしても、点数を入れる程には続けられないだろうからな」
先の回はほぼ奇襲のような形で上手くいった。だが、攻撃に関してはまだ厳しい状況にある。雄二の言う通り、偶然で出塁できたとしても、点を取るには至らないだろう。
「だから、その後の例の作戦に全てを賭ける。お前らは、何とか時間を稼いてほしい」
「うむ。了解じゃ」
「エロ――参考書のためだ。時間稼ぎくらいいくらでもやってやるさ」
「その代わり、次の回はしくじるなよ?」
3人は首を縦に振り、快く作戦を承諾した。せっかくの出番で活躍したいだろうに、それでも時間稼ぎを引き受けるあたり、Fクラスの団結力の固さがうかがえる。
『エロ本、エロ本、エロ本……』
『抱き枕、水着写真、シャワーカーテン……』
欲望に忠実だという意味では。
『プレイッ!』
試合再開。まずは先頭打者の近藤がバッターボックスに立つ。
「雄二、仕込みの方は?」
「バッチリだ。クラスの連中にもちゃんと指示を出してある。あとは、時機が来るのを待つだけだ」
「そっか。じゃぁ、3人には上手くやってもらわないとね」
「ああ」
雄二の作戦の鍵は『時間』。その時までこの回を続けさせなければならない。
「それにしても、秀隆のライティングってあんなに高かったっけ?」
明久の記憶では調子の良い時でも300点はいってなかったはず。それを100点以上上げてきたのだ。しかもギリギリとはいえ召喚獣の腕輪能力が使える程に。どんなからくりがあるのやら。
「ん? ああ。俺の
「けど、400点超えていましたよね?」
「いったい何をしたのよ?」
「何をしたって……補充試験を受けただけだが?」
「「「は?」」」
補充試験を受けてきた。しかも試合途中で。戦闘不能にもなってないのに。
「なんでわざわざ? というか受けれたの?」
「立ち会いの教師に確認したら不承不承そうだったが許可してくれた」
「確認って?」
「『
「スペルミス?」
「…………それって」
「嘘、ですよね」
「当たり前だ」
秀隆は当たり前のように嘘をついていた。
「お前、それでよく教師を騙せたな」
「今の教師に真偽を確認する方法はないからな。絶対に疑ってただろうし、かといって本当に点数がなかったら試合にならない」
「だから、先生も不審に思いながらも受けさせてくれたっていうの?」
「分の悪い賭けだったけどな。試合後半の科目に絞って良かったぜ。たぶん、それなら試合に戻ってこれると思ったんだろうな。結局ライティングしか受けれなかったが、何とかなったしな」
「なぜ、そこまでのことを?」
「なぜ……ん〜? どっかの意地っ張りの目を覚ますには、どデカい花火がいると思ったからな」
秀隆がニヤニヤと雄二に視線を送ると、雄二は不機嫌そのものという顔で顔を背けた。
「けっ。余計なことしやがって」
「おんや〜? 意気揚々とマウンドに立って、あわや2点目を献上しそうになったのはどこのどいつかなぁ〜?」
これ見よがしに秀隆が雄二を煽る。雄二は額に青筋を浮かべながらも、事実なので言われるがままにしていた。
「ま、おかげで頭使ったから、しっかりと糖分補給させてもらうわ」
「わーってるよ。パフェでもなんでも好きなもん頼みやがれ」
「おー。流石は我らが代表。太っ腹だなぁ〜」
「やかましい!」
とうとう堪えきれずに雄二がキレた。
「だいたい! テメェが翔子の没収品について言わないから」
「俺は言ったぞ。 普段と様子が違うなら、没収品もいつものやつじゃないかもしれないぞってな」
「ぐっ……」
「というか、お前もお前でヴェールをお袋さんから預かってたそうじゃねぇか。普段から身内の話にちゃんと耳を傾けないからこうなったんじゃないのか?」
「あ、あれはだな……」
「まぁもう済んだことだからな。今は作戦に集中しようぜ」
今回は雄二がかなり状況的に不利だった。
「そいえば、試験監督は誰がしてくれたんですか?」
「先生たちは体育祭の方に行ってますよね?」
うまいこと手が空いている先生を捕まえられたのだろうか。
「マサ姉」
まさかの知り合いだった。
「小鳥遊さん? でもたしか司書さんじゃなかった?」
「マサ姉は一応学園の職員だから、試験期間中は臨時でテストの採点ができるんだよ。一応体育祭でも仕事はあるが、ほとんど留守番みたいなものみたいだったからな。今回はそれを利用した」
「では図書室で? それだと不正を疑われませんか?」
司書であ小鳥遊女史の根城は図書室。そこで補充試験を受けたとしたのなら、知り合いということもあってカンニングを疑われてもおかしくない。
「んにゃ、外のテントだ。流石にその辺は対策せれてたわ」
「…………ということは、実力でもぎ取った?」
「かなり無茶したけどな。おかげで脳が焼ききれそうだ」
「わーったってるだろ。いちいち蒸し返すんじゃねぇ」
「へいへい」
ヘラヘラと笑う秀隆に、雄二はますますピクリと眉を動かした。
「でも、坂本君もそれを見越して神崎君をセンターに入れたんですよね?」
「…………万が一に備えて守備につけただけだ。まさかあんなことになるとは思わなかった」
「転ばぬ先の杖。備えあれば憂いなしってな。ま、あれは俺も予想外だったけどな」
雄二の球速にすぐに対応してきた西村教諭は、はたして人間なのだろうか。
「だが、あれで勢いがついたのは事実だ。そこは感謝している」
「どーも」
「秀隆も雄二が打たれると思ってたの?」
「流石にそこまで考えてねぇよ。どっちかっつうと代打を想定してたからな」
「まぁ、だよね」
今回は、本当に運よく雄二の采配が功を奏したようだ。
『ストライッ! バッターアウト!』
『ぐ……!』
そうこうしている内に、先頭打者の近藤が三振に取られた。追い込まれてからかなり粘ったようだが、それなりに時間を稼いだはずだ。
続く横溝も、近藤と同じくカウントをフルに使って粘りに粘りを見せるが、絶妙なコースに剛速球を叩き込まれて凡退。残る打者は秀吉のみとなった。
待ちわびるチャンスは、まだ来ない。
「そろそろ来てもいいと思うだけど……」
「あと少しだ。あと少しで始まる。頑張ってくれ秀吉……!」
「秀吉。男を見せろよ」
『ファール!』
話している間にも試合は進む。コンパクトにバットを振り続ける秀吉は、教師チームの剛速球に必死に食らいついていた。
校舎に掲げられた時計が、午後2時28分を指している。秒針がないせいか、進む時間がやたらとゆっくりに感じられる。
「くそっ。向こうももっとボール球くらい投げてくれてもいいものを……!」
「相当慎重に投げているよね。先生の性格かな」
「ピッチャーはライティングの山田か。球速は反応できない程じゃねぇが、たしかに良いコントロールしてるな」
山田教諭はここまで見せ球以外でのボール球はない。これではフォアボールは期待できない。
「打ってはいけないかな?」
「無理だ。打っても飛ばないだろうし、セカンドとショートは寺井と大島だ」
「あの2人の守備を躱すのは俺たちにはキツイな」
若くて野球経験者の寺井教諭に、体育教師の大島教諭。たとえバットにボールを当てたとしても、そこを抜けるのは至難の技だろう。フォアボールも期待できない原状では、秀吉に頑張ってもらうしかない。
『ファール』
何度目かのファールのコール。カウントは2 - 1。相手はまだボール球を投げる余裕があるのに対して、こちらはもう一球たりともミスはできない。流石にこう何度も山田教諭の球をカットし続けていても、秀吉の集中力も切れてくるだろう。
「まだか、まだか……」
「もう少しのはずなんだ。頼む、秀吉……!」
「どうにか踏ん張ってくれ……!」
背中に感じるジリジリとした這い上がるような焦り。ベンチの明久たちには、ただ祈ることしかできない。
―カキン
『ファール』
ボールが投げ込まれる度に、明久たちの背中に冷たい汗が流れる。バッターボックスの秀吉も、体育着の裾で汗を拭う。秀吉の集中力も限界ギリギリ。もういつ打ち取られてもおかしくはない。
手に汗を握り、ベンチから身を乗り出して、明久たちが時機が来るのを心待ちにしていると――
「…………来た」
不意に康太が小さな声で呟いた。
「「っ!!」」
弾かれたように雄二と秀隆が振り返り、校舎に取り付けられたスピーカーを見る。
『――ジジ……ジ……』
そのスピーカーが、ノイズ混じりの音を出し始める。
その時がやって来た。
「来たかっ!」
「間に合ったな」
雄二が嬉しげに声を上げる。秀隆も、肩の荷が下りたように吐息を零す。
そして、一瞬遅れてスピーカーからアナウンスが響き渡った。
『――これより、中央グラウンドにて、借り物競争が始まります。出場選手の皆さんは、所定の位置に移動を――』
「「「来たあっ!!」」」
クラスの全員の声が重なる。
その直後、秀吉が打ち上げた球が捕球され、ついにアウトとなった。これで3アウトでチェンジ。チェンジではあるが――目的は果たせた。
「やれやれ……。どうにか間に合ったようじゃの」
「ああ! よくやってくれた秀吉! 近藤! 横溝!」
「お疲れ秀吉。もう一踏ん張りだな」
「うむ。ワシも男じゃからな。まだまだやれるぞい」
雄二がバシバシと秀吉の肩を叩き、秀隆は秀吉と拳を突き合わす。
『? 彼らはどうしたのでしょうか? アウトになったのに、何か良いことでも?』
『さて。どなんでしょうか』
『あの連中のことです。また何か企んでいるのでしょう』
教師たちが訝しげにFクラスを見やる。たしかにFクラスは4回の攻撃も三者凡退という悲惨な結果だ。教師チームの勝利はほぼ目前。それだというのに、Fクラスはまるで勝利が確定したかのような喜びよう。疑うなという方が無理がある。
そして、その嫌な予感も当たっている。4回を捨ててまでも狙いすました最終回。逆転するための布石は既に巻かれている。あとは、彼らを待つばかり。
「吉井、坂本、神崎。何を喜んでいるかは知らんが、守備につく用意をしろ」
はしゃいでいる明久たちのとろこに、西村教諭が来て守備の準備を促す。
「分かってます。でも、もう少し待ってください」
「? 何を待てと?」
「すぐに分かりますよ。そろそろ来ますから」
何のことだか分からない様子の西村教諭に明久たちは不敵に笑ってみせる。そして辺りを見回すと――遠くから駆けてくる人影が見えた。我がFクラスのクラスメイトたちだ。
「なんだアイツらは。あんなに急いで――」
西村教諭がこちらに走ってくる生徒3人を見つけて疑問符を浮かべる。そんな中、Fクラスの生徒たちは野球場にいる立ち会いの教師に向かって大声で叫んだ。
『遠藤先生! 借り物競争です! すいませんが一緒に来てください!』
『え? でも私、今からリーディングの立ち会いを』
『いいから来てください!』
『でも――』
『なんと言おうとダメですよ! 今日は、野球よりも体育祭が優先されるんですから!』
『『『――っ!!』』』
教師たちが目を見張る。そう。事前にルールでも決められている。野球はあくまでも交流が目的。優先されるべきは体育祭の本種目、と。
『あ、えっと……すみませんっ。そういうわけで、ちょっと行ってきます!』
『先生、急いで!』
立ち会いの遠藤教諭が手を引かれ、グラウンドを離れた。
「それなら仕方ない。ベンチで待機している先生の科目で代わりを――」
『船越先生! 来てください!』
『竹中先生、お願いします!』
ベンチの2人にも声がかかる。頼んでいるのは、やはりFクラスのメンバー。これで手
「坂本。これはお前の作戦か」
「さて。どうでしょうね?」
「ならば、神崎の方か」
「はて。なんのことやら」
「とぼけるな。さっきからここに来ている生徒は全員Fクラスの人間だろうが」
「はは。偶然じゃないですか?」
「借り物で先生が被ることなんてあるんですねー」
もちろん、偶然などではない。教師チームのオーダーが判明した時に、雄二がクラスメイトに頼んでおいて、教師を借り出すようにしていたのだから。おそらく、彼らが握っている紙には、まったく違った内容がかかれているだろう。
「ならば仕方ない。さっきの回の立ち会いの先生にまた頼んで」
「おっと。そいつはルール違反だぜ」
「事前に決めていただろう? "同じ科目は2度使わない"と」
「ならばどうしろと言うんだ。立ち会いの教師はいない。試合に参加している教師は立ち会いができない。こっちのチームに8人でやれというのか?」
西村教諭が明久たちを鋭く睨む。
サッカーなどと違い、野球は人数が途中で不足するとその時点で試合続行不可能とされ、敗北となる。
明久たちがこれを利用して無効試合に持ち込もうとしている、とでも思っているんだろう。だが、明久たちはそんなことはしない。そもそもこんな盤外戦術で無効試合になったら、学園長が難癖をつけて没収品の返却を反故にするに決まっている。そうなってしまってはここまでの苦労が骨折り損である。
「鉄じ――西村先生。まだ他にも勝負できる科目があるじゃないですか」
「だから何を言っているんだ吉井。さっきから立ち会いの教師がいないと」
「違いますよ。立ち会いの先生がいなくても、野球の勝負ができる科目が残っていると言っているんです」
これこそが、雄二が最初に考えた作戦。体育祭のプログラムとルールを見て、Fクラスの勝利のために立てた方程式。
「最後の勝負は、体育の――実技で勝負といきましょう」
テストの点数ではない。実際に生徒と教師が身体を使う体育。これも、立派な授業科目の一つ。
「問題ないよな? 今回の野球大会は授業科目を使うんだからな?」
「……少し待て」
西村教諭は唸るように声を絞り出すと、一度自チームのベンチに戻り相談し始めた。
しばらく話合った後、西村教諭はFクラスに告げる。
「――よかろう。最後は俺たち自ら貴様らを叩き潰してやる」
ドスの効いた声とともに、バットを握りしめる。
「さぁ全員、グローブをつけろ! 5回の守備はハードになるぞ!」
雄二が事前に野球部に借りておいたグローブを指さす。
こうして最終回。たった1回だけの、教師と生徒の野球大会が幕を開けた。
ご感想などお待ちしております。
サブタイトルは?
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欲しい
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あったら嬉しい
-
なくてもいい
-
いらない