バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

17 / 148
閑話です。明久と秀隆のある日の休日前編です。


閑話 主人公sの休日1

主人公sの休日

 

Side明久

 

「ふあ~。よく寝た~」

 

上半身を起こし、少し伸びをして、明久はベッドから降りた。部屋に日の光を取り入れる為隙間から陽光が差すカーテンを開ける。

 

「うん。今日も良い天気だ」

 

彼の言葉通り、窓から見える空は、雲が1割未満しかない。所謂、快晴だ。

 

「さて、朝ご飯でも食べようかな」

 

吉井明久という人物を知る人ならこの台詞に違和感を覚えるかもしれない。実際彼は数日前まで朝食どころかその日食べる物にすら苦心していたのだ。だが、今彼は朝食用に食パンを切り分けトースターにセットし、冷蔵庫から紙パックの野菜ジュースを取り出した。

 

「これも姫路さん達のお蔭だね」

 

そう。明久が今人並みかそれより少し低い水準の食生活を送れているのは、ひとえにクラスメート、主に姫路瑞希と島田美波そして神崎秀隆のアドバイスのお蔭だった。

 

「まさかこんなにパンやジュースが安く買えるなんて思わなかったよ」

 

瑞希と美波は、主に『買い物術』を明久にアドバイスしていた。例えば『スーパーより商店街の方が安い時がある』とか『ジュースやお菓子は薬局で安く買える』などである。実際、明久が今焼いている食パンは商店街のパン屋で一斤買いしたもので、スーパーより2割程安く買えた。ジュースも、スーパーなら一本100円少々のものを薬局で80円で購入したのだ。

 

――チン――

 

と、トーストが焼けた合図のベルの音が鳴った。

 

「お。焼けた、焼けた。さあ食べよう」

 

こうして明久は細やかな、しかし彼にとっては贅沢な朝食を摂った。

 

 

――1時間後――

 

「うん。バッチリ!」

 

明久は鏡の前で身だしなみのチェックをしていた。普段は髪型や服装には拘らない明久だが、今日ばかりは特別だ。

 

「あ、もうこんな時間か。そろそろ行かないと!」

 

明久はカバンを引っ手繰るようにして取ると、急いで靴を履き、勢いよく玄関から外に出た。

 

――30分後――

 

明久は文月学園近くの商店街、その中央に位置する噴水に居た。腕時計と噴水に備え付けられた時計、更には携帯の時計も確認して、待ち合わせ時間に間に合った事を確認した。

 

「ふう。こうしていられるのも、秀隆とムッツリーニのお蔭だね。軍資金も出来たし」

 

秀隆は、明久に『資金繰り』についてアドバイスしていた。

 

「まさか僕が自ら漫画やゲームを手放すなんて」

 

秀隆は明久に『漫画やゲームを売る事』を提言したのだ。明久も最初は渋ったが、

 

「やらないゲームや読まない漫画は、例え名作でも持っているだけじゃ『宝の持ち腐れ』だ。それならネットオークションや古本屋に売って欲しい人に手渡した方がいい。何より、お前の部屋にもう置く場所がないだろう?」

 

秀隆の言う通り、明久の部屋はゲーム、漫画、聖典(エロ本)などで埋め尽くされ、これ以上物が置けない状況だった。それにこれからも欲しいゲームや漫画は次々に出て来る。なので、明久は泣く泣く本当にやらなくなったゲームや読まなくなった漫画を売り払うことにした。何故ネットオークションかと言うと、モノによってはプレミアムがつき市場価格よりも高く売却される可能性があるからだ。

その手のモノに詳しい康太にマージンとして売却価格の1割を支払う契約で仲介してもらったところ、何と明久の予想より遥か高値で取引された。これで明久は当面の食費の他に今日の軍資金も手に入れることができた。

 

「吉井君! お待たせしました!」

「アキ! ヤッホー!」

 

明久が携帯で次の新作ゲームの情報を検索していた時、瑞希と美波が現れた。明久は慌てて携帯を隠すと――

 

「ううん。僕も今来たところだよ」

 

と男が一度は言ってみたい台詞の一つを笑顔で言った。そう。今日、明久は瑞希と美波の3人で買い物に行くのだ。と言ってもメインは女子2人で明久はその付き添いである。

そうは言っても、本人のスタンスがどうあれ、傍から見たら両手に花のリア充以外の何者でもなかった。実際、明久に向かってモテない野郎共の嫉妬の視線が突き刺さっていた。

 

「ふふ。吉井君、それ嘘ですね?」

「え?」

「さっき携帯見てたの、見えてたわよ?」

「あちゃ~」

 

明久は恥ずかしくなって後頭部を掻いた。しまらないのは明久らしいと言えばらしい。

 

「まあいいわ。行きましょう」

「そうですね」

 

そういうと、瑞希と美波は明久の腕に自分の腕を絡めた。立ち位置は明久を真ん中にして右が瑞希、左が美波だ。この光景を見て、増々明久への嫉妬の視線が強くなった。

 

「え? ちょっ!2人とも!?」

 

明久は二人の突然の行動に目を白黒させた。

 

「何よ? 文句あるの?」

「な、ないです……」

 

美波が笑顔ですごむ。明久は「これは逆らえない」と感じ、諦めてそのまま従うことにした。

 

「ふふ。よろしい。さ、行きましょ」

「はい」

「うん」

 

3人は目的地であるショッピングモールに向かう為、そのままバス停に歩いて行った。

 

「くくく。そうはいくかよ。明久、テメエだけ幸せになろうなんて俺が許さねえぞ」

 

その背後に黒い影が迫っているとも知らずに。

 

「……雄二、早く行く」

「あだだだ! わ、分かった! 分かったからアイアンクローで引っ張るのはヤメロ!」

「アレはお姉さま……と豚野郎! こうしてはいられませんわ!」

 

その背後に黒い影が迫っているとも知らずに。

 

 

Side秀隆

 

「ん、あ~」

 

明久が起床したのとほぼ同時刻、秀隆も起床した。

 

「……飯食うか」

 

起床したばかりでまだ眠たい眼を擦りながら、秀隆はもそもそと台所に移動した。

 

「ふあ~……寝みい」

 

欠伸をしながら朝食の準備をする秀隆。トースターに食パンをセットし、電気ケトルでお湯を沸かす。その間に冷蔵庫から出来合いのサラダを取り出す。サラダをテーブルに置くと丁度お湯が沸いたのでドリップのコーヒーを入れた。

 

「いただきます」

 

手を合わせて朝食を摂る秀隆。メニューは明久とほぼ同じ。違うのはサラダとコーヒーだけである。秀隆が朝食を食べていると――

 

――ピンポーン――

 

インターホンのチャイムがなった。

 

「誰だ? こんな時間に」

 

時計を確認すると午前8時を少し回ったところ。今日は明久たちと遊ぶ約束はしていないし、宅配便が届く予定もない。

 

「は~い」

 

時間が時間とは言え出ないわけにもいかず、秀隆は重い腰をあげる。

 

「どちらさ……」

「おはよう」

 

ドアを開けると、そこに優子がいた。

 

「……何の用だ?」

「あら? 用がないと来ちゃいけないのかしら?」

 

ジト目で聞く秀隆に、優子は澄ました顔で首を傾げて聞いた。傍から見れば可愛らしい行為であるが、今の秀隆にとっては鬱陶しい以外の感情は芽生えなかった。

 

「……まあいい。取り敢えず上がれよ」

「そのつもりよ。お邪魔します」

 

優子は遠慮する素振りも見せず秀隆の部屋に上がった。

 

「取り敢えずそこに座ってくれ。あとコーヒーと紅茶どっちがいい?」

「じゃあ、紅茶で」

「ん。パックしかないぞ」

「構わなわよ」

 

秀隆はティーカップにパックの紅茶を淹れると優子に出した。

 

「ありがとう。あ、朝食まだなら食べてていいわよ」

「言われなくてもそのつもりだ」

 

秀隆も椅子に座ると朝食の続きをとった。

 

「(……にしても、態度変わりすぎだろう)」

 

秀隆は朝食を食べながらそう思った。

 

「(この間までお互いにいがみ合ってたっつうのに。あれ以来すっかり前と同じ、いやそれ以上に絡んでくるようになったな)」

 

小学校の頃はよく秀吉や優子と一緒に遊んでいた秀隆。もちろん、お互いの家に行ったことも何度もある。だが、今日の様に事前に何の連絡もなく突然押しかけて来ることはなかった。

 

「(……まあ別にいいけどな)」

 

秀隆もこの状況は満更でもないようで、特に文句も言わずに食べ続けた。

 

「で、要件は何だ?」

 

食後のコーヒーを啜りながら秀隆が優子に尋ねた。

 

「要件?」

「あるんだろう? お前がそんな格好するなんて普段だと考えられないからな」

「アンタの中で私は普段どんな格好で過ごしてんのよ?」

 

秀隆がそう言うのも無理はない。普段の優子の服装は基本的にTシャツとジーンズ。もしくはジャージ、酷い時は下着姿なんてこともある。まだ二人が不仲だった頃に、秀隆が秀吉に強引に木下邸に招かれた時、そんな優子に何度も遭遇しては言い争っていた。実はこれも秀吉が二人の縒りを戻そうした為だったのだが、この頃は完全に裏目に出ていた。

 

「まあ深く聞かないことにするわ」

「そうか。で?」

「買い物に付き合ってほしいのよ」

 

優子の要件は買い物の付き添いだった。

 

「何で俺が? 工藤とか霧島はどうした?」

「その愛子と郊外のショッピングモールに行く予定だったのよ。けど今朝になって部活の練習を忘れてたって電話があったの。因みに代表は坂本君とデートだって」

 

優子は「ヤレヤレ」と首を振った。

 

「事情は分かった。けど他の奴は? 佐藤とか?」

「美穂は今日塾の模試だそうよ」

「Aクラスの他の女子」

「皆既に予定あり」

「姫路や島田」

「二人とも吉井君とデートだってアンタも知ってんでしょ」

「リリア」

「ご両親と温泉に行くそうよ。トレイズ君が一緒に行くって言ってたわ」

「……秀吉」

「何が悲しくて弟とこんな格好して買い物に行かなきゃなんないのよ。それに秀吉は今日は部活よ」

「……」

 

万策尽きたとはこのことである。

 

「はあ~」

 

秀隆は溜め息を吐くと、改めて優子の格好を観察した。薄いライムグリーンのワンピースが爽やかな印象を与える。鮮やかなオレンジ色のポッシェットとのコントラストが中々いい風合いになっている。

 

「(工藤からドタキャンされたのは……着替えた後、いや家を出て少ししてからか。そんで手あたり次第に電話して残ったのが俺だったってとこか)」

 

優子の話と優子が来た時間から秀隆はそう推測した。

 

「……何よ? 人の事ジロジロ見て」

「ん? ああ。悪い」

 

どうやら考えごとに耽って優子を凝視していたようだ。見つめられていた優子は顔を少し赤らめて抗議した。秀隆はそんな優子の様子に気づいてはいなかったが。

 

「それで、行くの? 行かないの?」

「行くって言うまで居座る気だろ。お前結構頑固だからな」

「分かってるならさっさと準備しなさい」

「へいへい」

 

優子に催促され、秀隆は着替えるために自室に入った。

 

 

Side明久

 

「吉井君、これどうですか?」

「うん。似合ってるよ」

「アキ、これ見て見て!」

「へえ。いいんじゃない?」

 

明久達3人はショッピングモールにある洋服店に来ていた。洋服と言っても女性物の専門店なので明久は2人が次々に持ってくる服の感想を言うだけだった。

 

「もう! アキったらさっきから同じ感想ばっかりじゃない!」

「そ、そう言われても……」

 

明久は基本的ファッションに疎く、それも女子の流行にはてんで興味がなかったので在り来りな感想しか出てこなかった。その上、只でさえレベルの高い2人なので、明久は何を着ても似合うとしか思えなかった。

 

「まあまあ美波ちゃん。次のお店に行ってみましょう?」

「そうね。アキ、次はちゃんと感想を言いなさいよ!」

「わ、分かったよ……」

 

3人の買い物は続く。

 

 

Side秀隆

 

「あら。これ結構良いじゃない」

「ええ。良くお似合いですよ」

「あの、優子さん?」

「ああ、こっちも捨てがたいわね~」

「でしたらこちらなんて如何でしょう?」

「もしも~し」

 

ショッピングモールに来て約1時間。秀隆は優子の着せ替え人形になっていた。最初は優子の服などを見ていたのだが、何故か途中から秀隆のファッションの話になり、優子が

 

「私がコーディネートしてあげる」

 

といきなり秀隆の服を物色し始め、最終的に店員を巻き込んで(ただしこの店員ノリノリである)、今に至る。

 

「ほら、アンタはどう思う?」

「別に俺はどうでも……」

「あらいけませんよ。最近は男性もファッションに気を配る時代ですから。多少の知識と興味は持ち合わせていませんと」

「……」

 

女性2人のテンポとテンションに、秀隆はついていけなかった。

 

「……取り敢えずこれで」

 

最初のうちは買うことを渋っていた秀隆も、優子達の勢いに押されて服を一着購入するはめになった。

 

 

No Side

 

「「「「「あ」」」」」

 

ショッピングモールのレストラン街。そろそろ昼時で誰もが食事を摂ろうとしている。そんな時、秀隆達5人は鉢合わせした。

 

「お前らも来てたのか」

「秀隆達だって」

「瑞希達が言ってたショッピングモールってここだったの」

「まあね。この辺じゃあここが一番大きいからね」

「優子ちゃんも神崎君とお買い物ですか?」

 

5人は話し合った結果、一緒に食事をすることになった。

 

 

――レストラン――

 

 

明久達は取り敢えず近くにあったファミリーレストランに入った。席についてそれぞれメニューを見て食べるものを決めている。

 

「私は『春野菜のサラダスパ』にしますね」

「あ、ウチもそれにする!」

「私は『クラムチャウダーのパンセット』にするわ」

「僕は『和風おろしハンバーグ』で。秀隆は?」

「『オムライス』」

 

秀隆の注文に、明久達の目が点になった。

 

「……何だよ?」

「いえ、その……」

「意外と子供っぽいもの頼むのね」

「そうか?」

「うん。何か、こうもっと大人っぽい『フィレステーキセット』とか頼むのかと思ったよ」

 

と明久は普段秀隆達にからかわれているので意趣返しを試みた。

 

「ステーキのどこが大人っぽいんだ?」

「え、えーと……」

 

秀隆の質問に詰まる明久。意趣返しはアッサリと打ち砕かれた。

 

「ほら。吉井君をからかわないの。決まったんなら店員を呼ぶわよ?」

 

明久を弄る秀隆を優子が諌め、店員を呼ぶために呼び鈴を押した。

 

「ご注文をお伺いします」

 

直ぐに店員が来たので、5人は先程決めたメニューを注文した。

 

「ではごゆっくりどうぞ」

 

 暫くして、5人の前に注文した料理がならんだ。

 

『いただきます!!』

 

食事の前に手を合わせて、5人は食べ始めた。

 

「……いまいちだな」

 

食べ始めた直後、秀隆が呟いた。

 

「そうですか?」

「おいしいわよ?」

 

瑞希と美波が首を傾げる。彼女たちは味に文句はないようだ。

 

「チキンライスの鶏肉はパサパサだしケチャップも酸味が強すぎる。卵が半熟なのは及第点だが、あまりフワトロってかんじじゃないな。62点ってとこか」

 

秀隆の口から次々にダメ出しが出て来る。明久達は作った人が可哀そうに思えてきた。

 

「そ、そんなに言わなくても」

「お前のも一口もらうぞ」

「あ!」

 

秀隆は明久の了承も得ず、明久のハンバーグを一口分取り口に運んだ。

 

「……んぐ。やっぱり。ハンバーグもパティがパサパサ。和風と言いながらソースは市販品のポン酢。56点だな」

「タカがファミレスの料理なんだから、そんなにレベル高いもの期待しても無駄でしょ?」

 

厳しい点数をつける秀隆に、優子は呆れ気味に言った。

 

「何を言う。最近は一般人も舌が肥えてきているんだ。ファミレスも顧客のニーズに応えていかないと直ぐに潰れるぞ?」

「アンタさっきと大違いね」

 

メンズファッション店でのことを思い出して、優子は溜め息を吐いた。

 

「ま、まあまあ。折角皆で食事してるんだから楽しく食べようよ!」

「そ、そうですよ!」

「神崎も優子ももっと笑って!」

 

明久達に言われて、秀隆と優子は互いの顔を見合った。

 

「……そうだな。スマンな」

「そうね。ゴメンなさい」

 

場の雰囲気を乱していたことに気づいて、2人は謝った。

 

「いいよ。さ、早く食べちゃおう」

「ああ」

 

それから、秀隆達は他愛ない雑談をしながら食事を続けた。




ご意見・ご指摘・ご感想お待ちしております。

1話分の長さは?

  • 5000字程度(約5分)が良い
  • 10000字程度(約20分)は欲しい
  • 区切りが良ければ何文字でも構わない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。