バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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第十八問です。妖怪との交渉前までです。


第十八問

第十八問

 

Fクラスの出し物も決まり、漸く学園祭に向けて最初の一歩を進みだしたその日の放課後。

 

「ねえ。三人とも、ちょっといい?」

「ん?」

「どうしたのじゃ?」

「何か用? 美波」

 

美波が帰り支度をしていた秀隆、明久、秀吉を呼び止めた。その表情は、どことなく沈んでいる。

 

「用って言うか相談なんだけど……」

「島田から相談とは珍しいな。何だ?」

「坂本を何とか引っ張り出せないかしら?」

 

美波の相談は、雄二を学園祭に参加させられないか、という内容だった。これに明久達は首を横に振る。

 

「正直難しいと思うよ」

「アイツは俺並に興味のない事には徹底して無関心だからな」

「余程の理由がない限り無理じゃろうな」

 

LHRでの態度からも、雄二が学園祭に参加する気がないことは明白。美波の願いを叶えるには相当に骨が折れるだろう。

 

「本当にどうにか出来ないの? このままだと喫茶店が失敗する気がするの……」

 

秀隆達の話を聞いて、美波の顔が増々暗くなる。

 

「そんな大袈裟な。たかが学園祭だろ?」

「そうそう。確かに設備は欲しいけどさ」

「違うの。大袈裟な話でも、設備の話でもないの」

「どういうことじゃ?」

 

美波の声が真剣みを増していく。彼女は一体何を心配しているのか。

 

「本人には『誰にも言わないで』って言われたけど、事情が事情だから……一応秘密の話だからね?」

 

と前置きして美波が話し出す。

 

「実は、瑞希が……」

「姫路がどうかしたか?」

「瑞希が……転校するかもしれないの……」

「む?」

「なんと!」

「ほえ?」

 

瑞希の転校。その余りの衝撃に、三人は驚きを隠せなかった。特に明久は、素っ頓狂な声をだすとそのまま微動だにしなくなった。

 

「あ、コイツ処理落ちしかけてやがる!」

「もう! 不測の事態に弱いんだから!」

「しっかりするのじゃ、明久!」

 

思考回路がフリーズした明久を、秀吉が揺すって覚醒させる。

 

「ああ、秀吉。秀隆。モヒカンになっても、友達でいてくれるかい?」

「どう処理したらそんな展開になるのじゃ?」

「安心しろ。お前との友情なんぞ毛先程もねえよ」

 

一度明久の思考回路を検証すればある意味論文が一報書けるかもしれない。

 

「……はっ! 美波! 姫路さんが転校ってどういうこと?」

「どうもこうも、そのままの意味。このままだと瑞希は転校しちゃうかもしれないの」

「このままだと? ……ああ。そういう事か。面倒だな……」

 

美波の説明に、秀隆は事の重大さを理解した。

 

「秀隆。一人で納得しておらんで、わし等にも説明してくれ」

「簡単に言うとな。姫路は『Fクラス』のせいで転校するかもしれないってことだ」

「Fクラスのせい?」

 

瑞希の転校には、Fクラスが大きく関わっているようだ。

 

「考えてもみろ。教室はボロボロ。設備は茣蓙とミカン箱。周りの生徒の殆どは落ちこぼれ。こんな教室に、姫路みたいな病弱な娘を親が安心して通わせられると思うか?」

「……思わないね。少なくとも僕が姫路さんの親なら」

「わしだってそうじゃ」

 

秀隆の説明に、明久と秀吉は同意。確かに、瑞希のみならず、Fクラスのような劣悪な環境に、自分の子供を置きたいと思う親はいないだろう。

 

「だから、喫茶店を成功させて少しでも設備を向上させたいってわけか」

「ええ。瑞希も召喚大会に出てFクラスの良さをアピールするって息巻いてたわ」

「じゃが、問題は設備じゃの」

 

例え瑞希と美波が召喚大会で優勝したとしても、肝心の設備が今のままだと意味がない。瑞希の転校阻止には、喫茶店の成功が絶対条件だ。

 

「……アキは、その……瑞希が転校するなんて嫌だよね?」

「当たり前じゃないか! それが例え美波でも、秀吉でも!」

「俺や雄二はいいのかよ」

 

美波の質問に食い気味に答える明久。秀隆の質問には目を逸らした。

 

「そっか……うん! アンタはそういう奴よね」

 

明久の力強い言葉に、美波の顔に笑みが浮かぶ。

 

「そういう事なら、何としても雄二の奴を焚き付けてやる!」

「わしもクラスメートの転校となれば黙ってられんの」

「姫路は大事な戦力だからな。今転校されるわけにもいかん」

 

瑞希の転校を阻止するために、明久達は絶対に雄二を参加させる事を決めた。

 

「それじゃ、先ずは雄二に連絡を取らないと」

「鞄は……まだあるな。学校にはいるみたいだ」

 

明久は雄二を呼び出す為に携帯に電話をかけた。

 

『……もしもし』

「あ、雄二。ちょっと話が」

『明久か丁度良かった。悪いが後で俺の鞄を届け――げっ! 翔子!』

「もしもし?」

『くそ! 見つかっちまった。とにかく頼んだ!』

 

それだけ言い残すと、雄二はそのまま電話を切った。

 

「どうだった?」

「えっと……『見つかった』とか『鞄を頼んだ』って」

「多分霧島から逃げてんだな」

「雄二はああ見えて異性に滅法弱いからの」

 

明久達の脳裏に、翔子と壮絶な鬼ごっこを繰り広げる雄二の姿が容易に浮かび上がった。

 

「じゃあ、坂本と連絡を取るのは無理そうね」

「いや、これはチャンスだ」

「そうだな」

 

美波は諦めかけていたが、明久と秀隆は逆にチャンスだと捉えた。

 

「え? どうやるの?」

「まあ見てな。明久、頼んだぞ」

「OK」

 

明久は秀隆の指示に親指を上げて答えると走って教室を出た。

 

「暫くしたら明久から俺の携帯に電話があるはずだ。そしたら俺は直ぐに秀吉に代わるから、秀吉は霧島のフリをして電話に出てくれ」

「そんなんで大丈夫なのかしら?」

「大丈夫さ。まあ見てなって」

 

――数分後――

 

「おっ。来た、来た」

 

数分後、秀隆の携帯に明久からの着信が入った。

 

「――もしもし? 雄二か?」

『秀隆か。何の用だ?』

「まあ待て。今代わる。(秀吉、頼んだ)」

「(任された。)……もしもし、雄二?」

『人違いです』

 

秀吉が翔子の声色で話した途端、雄二は電話を瞬時に切った。

 

「本当にこれで大丈夫なの?」

 

美波が心配そうに聞く。美波でなくとも、この作戦で成功すると思う者は皆無に等しい。

 

「まあ見てろよ」

 

それから程なく、雄二を連れた明久が教室に入って来た。

 

「明久から大体の事情は聞いた。取り敢えず、喫茶店の成功だけじゃ不十分だな」

 

明久が既に事情を説明していたお蔭か、雄二は教室に入って早々美波にそう告げた。

 

「やっぱり、神崎の言った通りなのね」

「なんだ。秀隆も分かってたのか」

「当たり前だ」

 

どうやら雄二も秀隆同様、瑞希の転校にはFクラスの生徒と教室にも原因があると考えたようだ。

 

「まあ、学力に関しては召喚大会で結果を残せばいいとして、問題は教室だな」

「ああ。こればっかりは俺達じゃどうにも出来ない」

 

一学生が教室の改装など資金的にも技術的にも出来るはずもない。こればっかりは二人もお手上げ状態だ。

 

「じゃあ、どうするの?」

「どうにか出来る奴に頼むしかないな」

「それは誰なの?」

 

雄二は教室を改修できる人物に心当たりがあるようだ。

 

「学園長に直訴すればいい」

「学園長に? 僕らのお願いなんて聞いてもらえるのかな?」

「おいおい。ここは曲がりなりにも教育機関だぞ? 生徒の健康を害する恐れがある以上、改善を要求するのは生徒として当然の権利だ」

 

文月学園は当然教育機関であるが故に、親御さんから預かった生徒達に、安心して教育を受けさせる責務がある。教室の老朽化が原因で生徒の健康を損なうようなことはあっては本末転倒。だから、雄二達の要求は正当なもので学園としても通常は拒まれるものではない。

 

「じゃあ早速学園長に会いに行こうよ」

「そうだな」

「俺も行くか」

「わしも行こう。お主らだけじゃ何となく不安じゃからの」

 

学園長室には秀隆、明久、雄二、秀吉の四人で行くことになった。美波は学園祭の準備を進めるのと、翔子に会ったら『雄二は既に帰った』と伝言を言うように頼まれ四人とは別れた。

 




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