第二十問
「いつもは只の馬鹿に見えるけど、坂本の統率力は凄いわね」
「そうだね。普段は馬鹿にしか見えないのに」
「まったくだな。普段は嫁の尻に敷かれまくりのダメ亭主にしか見えんがな」
などと美波、明久、秀隆が口々に雄二に対する誹謗中傷を並べている眼の前で、Fクラスでは着実に文化祭開催に向けて最終調整が進められている。
「それに、秀隆のお蔭でまともなテーブルも用意できたしね」
そう言って明久が近くにあったテーブルクロスを捲ると、その下からDクラスで使用されている机が現れた。
「ホント、神崎の知り合いがDクラスに居てくれてよかったわ。危うく段ボール箱で店を開く羽目になるところだったわ」
「……そうだな」
その机は、秀隆が聡を介してDクラス代表の平賀と交渉して借り入れたものだ。平賀も、Dクラスの面積的に机の半数は使用しないし、何よりFクラスには借りがあるというので快く承諾してくれた。ただし、平賀『以外』の『とある生徒』に賄賂を贈る羽目になってしまったが。
「にしても、このクロスも凄いな。店で売ってるやつとパッと見て遜色ないぞ」
「あ、それは木下君が縫ってくれたんですよ」
「まあ、演劇の小道具作りで慣れているからの」
眼を輝かせて秀吉を褒める瑞希。秀吉は慣れている事とは言え、正面から褒められたことが余りないのか彼にしては素っ気ない返答だった。
「それにこの衣装も」
「それは康太に感謝だな」
今秀隆達が着ているのは、いつもの制服ではなく、各々の召喚獣の装備だ。今回のコンセプトの一つである『コスプレ』。その衣装の殆どは康太が用意した、または作ったものである。秀隆の美波の軍服や秀吉の胴着、明久と雄二の学ランなどは容易に手に入るが、秀隆の変形銃や瑞希、リリアの鎧などはそう簡単に手には入らない。しかし、康太はこれらをほぼ完璧な仕上がりで用意していた。しかも秀隆の銃に至っては剣形態への変換も再現されているほどだ。
「まったくね。いやらしいことばかり考えている奴だと思っていたけど、こういう特技もあったなんて。少し見直したわ」
実はこれも康太の原動力『エロ』の延長戦なのだが、知らぬは仏である。
「後は……お客さんが来てくれるか、だね」
「まあ、教室内も何とか綺麗にしたし、大丈夫じゃないのか?」
「…………料理も完璧」
「うわあ!」
明久の後ろに文字通り音もなく忍び寄った康太の声に、明久は大声を出して驚いた。
「康太。厨房の首尾は?」
「…………問題ない。それと――」
康太は秀隆の質問に簡潔に答えると、
「…………味見用」
テーブルに一口サイズのプチシュークリーム、マカロン、胡麻団子が盛られた皿を置いた。プチシューは一口サイズと小さいサイズながらも、半分に切られたシュー生地からカスタードクリームが顔を覗かせており、芸が細かく見た目にも美味しそうだ。マカロンは生地の色が赤、黄、緑とカラフルで、外から見える中のクリームも生クリーム、カスタード、チョコと組み合わせが様々でどれを食べようかという、選ぶ楽しさも演出されている。胡麻団子は黒胡麻と白胡麻の二種類があり、少々焦げ目が窺えるが、それがかえって香ばしさを演出する良いアクセントになっている。
「紅茶と烏龍茶、コーヒーもできました」
とそこに丁度良いタイミングでリリアが飲み物の入ったトレーを持ってやって来た。どれもカップから湯気を揺らめかせ淹れたての良い香りが鼻孔を擽る。
「わー! これ、食べていいんですか?」
「…………(コクコク)」
「どうぞ」
「試食なんだから食わなきゃしゃあないだろ」
「「頂きます!」」
「わしも相伴させてもらおうかの」
康太達から許可を得た瑞希と美波は我先にとお菓子に手を付けた。それに便乗して秀吉も手を伸ばす。瑞希はプチシュー、美波はマカロン(赤)、秀吉は胡麻団子(白胡麻)を一口頬張った。
「お、美味しいです! 凄く美味しいです!」
「マカロンも! 外はサクサクだし、中の生クリームは甘いのにしつこくない」
「胡麻団子は外はカリカリ、中はモチモチ。それに甘すぎないのがいいのう」
三人とも想像以上の美味しさに舌鼓を打ち、
「「「ほう……」」」
それぞれ紅茶、コーヒー、烏龍茶を一口啜りホッと息を吐いた。その顔は蕩ける様にトロンとしていて、まさに『午後のティータイム』といった雰囲気だ。
「「「……(グッ!」」」
秀隆、康太、リリアの三人は瑞希達の反応を見てサムズアップを重ねた。
「それじゃあ僕も……」
三人の表情を見てか、明久も胡麻団子(黒胡麻)の一つに手を伸ばし、一口頬張った。
「……もぐもぐ……う~ん。外はカリカリ、中はモチモチ、甘すぎず『辛すぎる』味わいが何とってゴッパア!」
そしてその『辛さ』に思わず噴き出した。
「くくく……」
そんな明久を見て、隠そうともせずほくそ笑む者が一人。
「ひ、秀隆の仕業か!」
「ご名答。そいつは俺が作った『ロシアン胡麻団子』の『当たり団子』だよ」
「中身は何なんですか?」
「ん? ハバネロをペースト状にして固めたもんだよ」
聞くだけで辛そうな中身に、瑞希、美波、秀吉は苦笑いが止まらなかった。特に秀吉は下手をすれば自分が食べていたかもしれないので首の後ろに冷や汗をびっしりとかいている。
「勿論、希望者にはシュークリームver.もマカロンver.も用意してある」
「…………パーティー向け料理」
学園祭とは言え学生同士の団体や家族で来店する場合もある。これは秀隆がその場合を想定して考案したメニューだ。
「とは言っても、学園祭で痛い眼は見たくないから注文は少ないだろうけどな」
「まあいいんじゃないか? お祭りなんだしな」
と、秀隆達の背後、教室の出入り口の方から雄二が声を掛けてきた。
「あれ? 坂本君はどこかに行ってたんですか?」
「ん? ああ。学園長とどこまで設備を補習していいか確認してきたんだ」
「そうですか。ご苦労様です」
本当は試験召喚大会の試合科目についての打合せだったのだが、事情を知らない瑞希達に言う訳にもいかないので雄二はそうはぐらかした。
「(……首尾はどうだ?)」
「(……一応『何事も』なければ順当に勝ち進めれる様にはした)」
その『何事』が相手の実力以外の事ではない事を祈るばかりだ。
「んじゃ。喫茶店は女子とムッツリーニに任せた。俺と明久、秀隆と秀吉は一回戦だ」
「了解」
「おう」
「承知」
「………… (コク」
雄二がテキパキと指示を出し、教室を出ようとした時、
「待って、アンタ達も大会にでるの?」
美波が呼び止めた。
「そうだが?」
「もしかして、『賞品』が目的?」
出場を肯定した秀隆の台詞に、美波の視線が鋭くなる。
「ん~、まあそうかな?」
嘘は言っていない。実際『チケットの回収』が目的なので賞品狙いなのは間違いがない。
「……誰と行くつもり?」
「私も知りたいです。吉井君、誰と行こうと思ってるんですか?」
明久が頷いた瞬間、美波の眼からハイライトが少し消えた。それに伴い美波の身体から若干の殺気が放たれる。それは美波の隣に居る姫路も同様だ。
「え、え~と……」
明久が返答に窮していると、
「明久は俺と行くつもりなんだ」
雄二が爆弾を投下した。
「え? 坂本と、『幸せ』になりに行くの?」
「待て島田。お前の思考プロセスは一体どうなってるんだ?」
色々とすっ飛ばした美波の言葉に、秀隆は思わずツッコミを入れた。
「俺は何度も断っているんだがな」
「アキ、やっぱりアンタ木下よりも坂本の方が……」
「待って、その『やっぱり』って何!? そして秀吉もそんな寂しそうな顔しないで!」
秀吉はそんな行動をとるから男として認識されないのでは? と秀隆は本気で思った。
「吉井君も男の子なんですからもっと女の子に興味を持った方が……」
「それが出来たら明久も苦労はしないさ」
「雄二! 尤もらしく言わないで! 全然フォローになってないから!」
雄二の思考の9割は明久をからかうことで出来ているようだ。
「島田、姫路。冗談なんだから真に受けるな。雄二も、明久とは言え相方なんだから試合前にいざこざを作るんじゃねえよ」
「なんだ……」
「冗談ですか……」
「へいへい」
「何か貶された気がするけどありがとう」
秀隆が呆れ返った顔で指摘。その指摘に、美波と瑞希は安堵の息を吐き、雄二は軽く受け流し、明久は納得がいっていないようだが礼を言う。
「明久はチケットを売って生活費にするつもりなんだよ」
「何? また金欠なの?」
「じ、実は……」
これは秀隆が即興でついた嘘。明久もそれが分かっているのですぐさま口裏を合わせた。しかし、そうとは知らない瑞希と美波はこそこそと相談すると、
「あ、あの! 吉井君!」
「もし、もしアキさえよければ……」
「ん? 何?」
「「ウチで一緒に暮らしませんか(暮さない)?」」
トンデモ発言をぶっ放した。
「さあ、雄二! 早く行こうか! 遅れて失格になるわけにはいかないしね!」
明久は自分の身 (貞操)の危険を本能的に感じたのか、瞬時に教室から姿を消した。
「ったく。何を勘違いしているんだか」
「それが明久だろ。俺はもう行くから、お前達も遅れるなよ」
「おう」
「うむ」
雄二は軽く手をひらひらさせると、明久を追って教室を出た。
「んじゃ。行きますかね」
「秀隆君達もチケットが欲しいんですか?」
続いて教室を出ようとした秀隆と秀吉に、リリアが声を掛ける。
「んにゃ。俺の狙いは腕輪の方さ」
「腕輪って……確か召喚獣に特殊能力がつけられるんでしたっけ?」
「アンタまだ強くなりたいの?」
「強さを求めるのに理由はねえよ。じゃあな」
「ではの。軽く済ましてくるぞい」
「…………健闘を」
美波の呆れ声の問いに、秀隆は軽くそう答えると教室を出た。秀吉もそれに続く。
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