バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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本編の途中ですが、お正月番外編です。本編と時系列が異なりますが、よろしければご覧ください。


凶刃の正月

凶刃の年越し

 

 

 2013年も終わりを迎える12月31日大晦日。秀隆は台所で夕餉の支度をしていた。今日のメニューは鍋。夜の冷え込みが酷いので身体も温まる。

 

「秀隆~。ま~だ~?」

 

 料理中の秀隆に向けて、夕食の催促を投げかける声が一つ。

 

「……優子。手伝えとは言わんが、お前もう少し我慢するとか出来ないのか?」

「だってお腹空いたんだも~ん」

 

 テーブルの上に顎を乗せ、その下では足をパタパタと揺らす姿は、普段の優等生然とした彼女からは想像も出来ない程だらしない。こっちが普段の優子で、学校での姿が仮面だと知っている秀隆でさえそのギャップに面食らう位だ。

 

「で、まだなの?」

「はいはい。今持っていくよ」

 

 エプロン姿に鍋つかみ、頭にバンダナを巻いた姿で台所から鍋を運んでくる秀隆。優子はそんな姿の秀隆をジッと見て一言。

 

「似合わないわね」

「玄関は向こうだ」

 

 優子の酷評を冷淡にあしらう秀隆。この流れも既に茶飯の事なので二人ともそれ以上のやり取りもせず、食卓を整える。

 

「今日のメニューは?」

 

 優子の問いかけに、秀隆は蓋を開けることで答える。開かれた鍋からは朦々と湯気が立ち上がり、その中には『乳白色』の液体が――

 

「……何これ?」

「鍋だ」

「それは聞いたわよ。私が聞きたいのは何でお鍋なのに色が白いのよ?」

「『飛鳥鍋』だからだ」

 

 飛鳥鍋。奈良県の郷土料理で牛乳を使用する以外は至った普通の鍋である。元は飛鳥時代に唐から来た僧侶が寒さを凌ぐ為にヤギの乳で作った鍋料理が始まりとされている。

 

「また変わったものを作ったわね」

「まあ年越しだしな」

「……本音は?」

「牛乳が賞味期限ギリギリだったから丁度良いと思った」

「何でシチューとかにしないのよ……」

 

 優子が目頭を抑える。普通牛乳を使うならシチューやグラタンを思い浮かぶだろう。しかし秀隆は何故か飛鳥鍋。その理由も、

 

「大晦日だからな」

「いや、意味わかんないわよ」

 

 飛鳥鍋にする理由は特になかったようだ。

 

「まあいいわ。食べてもいいんでしょ? よそうからお皿貸して」

「ん」

 

 優子に自分の分を入れてもらい食事の準備が整った。

 

「「頂きます」」

 

 二人で手を合わせ、鍋をつつく。

 

「あ、美味しい」

「だろ?」

 

 具の人参を一口頬張った優子が思わずそう零す。それを聞いた秀隆の表情はしたり顔だ。

 

「まあ鍋の具もシチューとそう違わないからな。違いは出汁かルーかだけだ」

「そう言えばそうね。シチューの隠し味にお味噌を入れるって聞くし。意外と合うのね」

「だろ?」

 

その後は暫し二人とも無言で鍋に舌鼓を打った。

 

「そう言えば……」

 

鍋の中身も減り、食事も一段落着いた頃、秀隆がそう切り出した。

 

「お前ここに居ていいのか?」

「どういう意味よ?」

 

暗に邪魔だと言う意味だと捉えたのだろう。優子が少々棘のある口調で問い返す。

 

「別に大した意味はねえよ。ただ親父さん達が心配しねえのかって」

「ああ。それなら大丈夫よ。二人とも今は飛行機の中だから」

「飛行機?」

「私と秀吉でプレゼントしたのよ」

 

優子の話に拠ると、日頃の感謝を込めて秀吉と二人で費用を出し合って両親に『飛行機から眺める初日の出ツアー』をプレゼントしたそうだ。

 

「成る程。秀吉が短期のバイトをやらないかって誘って来たのはそういう訳か」

「あら? 知らなかったの? てっきり秀吉が話してると思ってたけど」

「秀吉からは『演技の幅を広げる為』としか聞いてねえよ」

 

本人として恥ずかしいとか照れ臭い気持ちもあったのだろう。秀吉は秀隆だけでなく明久達いつものメンバーにも真実を告げていなかった。

 

「まあいいや。で、お前らはその間どう過ごすって言って説き伏せたんだ?」

「秀吉はお寺で奉納舞を踊る予定があったから別に問題なかったわ」

 

 神事としての奉納舞は神社で舞われるのが通例ではあるが、神仏習合の折り、一部仏閣でも奉納舞が行われる場合も出てきた。逆に神社に釣鐘堂が設けられる場合もある。

また、奉納舞と言えば神社の巫女さんを始め女性を思い浮かべるが、実は舞い手が女性でなければならない理由はない。寧ろ奉納舞として踊られていた能では踊り手は男しかいないし、今でも宗教(神道)上の関係で女人禁制の島があるほどだ。神事としての奉納舞は男の踊り手の方が適切かもしれない。そこのお寺がそんな事を考えているかどうかは不明だが。

 

「ああ。そうだったな。んじゃお前は?」

「代表や愛子達と過ごすって」

「大嘘じゃねえか」

 

秀隆の顔が呆れ返ったものになる。優子の両親も友達と過ごすと言われて実は男の部屋に上がり込んでいたなんて思わないだろう。事実を知ったら、下手をすれば卒倒ものである。

 

「大丈夫よ。『達』の中にアンタも含んでるから」

「『達』の中の一部以外がいないとかありえねえだろ」

 

ケロリと悪びれもせずに言う優子。秀隆は飛行機の中で来光を待ち侘びている木下夫妻に心の中で謝罪する。

 

「だってアンタの家に行くって言ったらお父さん猛反対するし」

「いやそれ当然の反応だからな」

 

訪れる相手が学園底辺のFクラスの男子生徒。その上観察処分者で悪名高き『月華凶刃』。いくら幼なじみとは言え、いや幼なじみだからこそあまり良い顔はしないだろう。当の秀隆ですらそんな心情なのだ。父親ともなるとその心中は図り知れない。

 

「まあこの話はいいわ。それより、そろそろ行きましょう」

「ん? もうそんな時間か」

 

秀隆と優子は二人手分けして食卓を片付けると、防寒着を着こみ外に出た。目指す場所は秀吉が奉納舞を納めるお寺。初詣も兼ねて見学に行くようだ。

 

「んじゃ、行くとしますか」

「ええ」

 

 鍵を閉め、二人連れ立ってお寺へと歩き出す。

 

 

――お寺――

 

 

「うわぁ。結構混んでるわね」

「そうだな」

 

 大晦日、それも日付が変わる間際という時刻もあってか、お寺の境内は多くの人でごった返している。

 

「……まあ、アレも理由の一つかもな」

「……ええ」

 

 境内の一角。奉納舞を踊る特別舞台では舞の衣装に身を包んだ秀吉が榊と鈴を持って嫋やかに舞いを踊っていた。その舞台の周りには、そんな秀吉の姿を眼に焼き付けようと躍起になっている野郎どもの姿が。中には学園で見知った顔もちらほらと。そこだけ周りと異質な空気を醸し出していて、そばを通る人(主に女性)が奇異の眼で見ていた。

 

「まったく。秀吉は男だってのに」

「まあ本人は舞に集中して気づいてみないだし。舞台も結構高いから心配ないだろ」

 

 優子と秀隆がその光景に呆れ返っていると、

 

「あれ? 秀隆と木下さん?」

 

 後ろから如何にもバカっぽい声が聞こえてきた。

 

「明久か」

「吉井君こんばんは」

 

 二人が振り返ると、そこには予想通り明久が居た。その後ろには当然の如く瑞希と美波の姿も見える。

 

「こんばんは。神崎君、優子ちゃん」

「アンタ達も来てたのね」

「ええ。秀吉がちゃんと踊れているかをチェックしにね」

「無精のお前が良く来る気になったな」

「そりゃあ秀吉の巫女服なんて滅多に見れなって痛い!」

 

 明久がうっかりと口を滑らせ、両サイドから女性陣の制裁(頬つねり)を受ける。

 

「取り敢えず、いい加減秀吉に嫉妬するのは止めとけ」

「そうよ。秀吉は男なんだから嫉妬するだけ無意味よ」

 

 毎度の事ではあるが、やはり明久達の秀吉に対する認識はまだまだ女性のそれのようだ。

 

「何だ。お前らも来てたのか」

「……奇遇」

 

と、そこに横から人混みを掻き分けて雄二がやって来た。その後ろから翔子が歩いて来る。

 

「おうおう。大晦日もお熱いこって」

「本当だよ。ここが学園だったら血祭りにあげてるとこだよ」

「テメェが言うと冗談に聞こえねえんだよ」

 

明久からしたら冗談ではなく本気なのだろう。その証拠に「え?何言ってんだコイツ」と言いたげな顔をしている。

 

「それに、お熱いのはお前らもだろうが」

「「「っ!!」」」

 

 雄二の指摘に、明久、瑞希、美波の三人は揃って顔を耳まで真っ赤に染め上げる。しかし、

 

「ほう。『も』ときたか」

「そうね。『も』って言ったわね」

 

 秀隆と優子の反応は違う。雄二の言葉尻を捕らえ、反撃してきた。

 

「なっ! それは言葉の綾だっての!」

「まあそう言う事にしといてやろう(ニヤニヤ」

「そうね(ニヤニヤ」

「……雄二。嬉しい」

 

 雄二は慌てて否定するが、時すでに遅し。秀隆と優子は二人して雄二を揶い、翔子は翔子で頬を染めて恥ずかしがっている。それを見て雄二がまた喚く。

 

「はははっ! 本当に吉井君達は面白いね!」

「…………ネタに困らない」

 

 今度は愛子と康太が合流。図らずしもいつもの面子(秀吉除く)が集合したことになる。

 

「そう言う愛子だって土屋君と同伴だなんてやるじゃない」

「なっ! ボクらは別にそん――」

「…………偶々そこであっただけ。特に特別な事はない」

「……そこは即答しなくてもいいんじゃないかな(ボソッ」

「?」

 

 珍しく優子に揶揄されて顔を真っ赤にする愛子。しかし康太がその心情を察せず直ぐに否定してしまったため、一気に(表情は)暗くなってしまった。

 

「まあまあ。土屋君だって内心では――」

 

 優子が慌てて愛子をフォローしようとしたその時、

 

 

――ゴーン、ゴーン――

 

 

 除夜の鐘が響き渡り、年の終わりを告げる。

 

「俺達も突きに行くか」

「そうね」

「うん」

「はい」

「ええ」

「ま、折角だしな」

「……雄二が行くなら私も」

「ボク達も行こうか」

「…………ああ」

 

 秀隆達もそれぞれの組で順番に鐘を突く。そして――

 

 

――ゴーン――

 

 住職が108回目の鐘を突き、新年の幕が上がる。

 

「……秀隆」

「ん?」

 

 不意に優子が秀隆を呼ぶ。秀隆が優子の方を向くと、

 

「今年もよろしく、ね」

 

 はにかんだ笑顔で微笑む幼馴染みの少女の顔が。

 

「ああ。今年もよろしくな」

 

 秀隆も笑顔で答える。その胸に抱いた新たな決意と共に。

 




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