第二十四問
二回戦を終え、誠と聡に嫌味を言われながら宣伝をした秀隆は、秀吉と別れ一人廊下を歩いていた。理由は単純、
「ふう。間に合った~」
帰る途中で催しただけである。文化祭なのでトイレもかなり混雑していて間に合うかどうか若干不安が過ったが、最悪の事態は免れた。
「さて、そろそろ宣伝効果も出始めたは――」
「わっぷっ!」
「っと!」
秀隆が次の算段を考えながら歩いていると、丁度角を曲がって来た誰かとぶつかってしまった。膝から少し上に衝撃を感じたので、ぶつかった相手は子供の様だ。
「おっと大丈夫か?」
「は、はいです……」
秀隆が足元を見ると、額に両手を当てて尻餅をついている少女がいた。
「悪いな。ちょっと考えごとをしていたんだ。立てるか?」
「はい。ありがとうございます!」
少女は差し出された秀隆の手をしっかりと握り元気よく立ち上がった。
「おっと秀隆。白昼堂々と幼女をナンパとはやるな」
「これがそう見えるんなら脳外科手術を受けることを勧めてやるよ」
「そこはせめて眼科だろう!?」
後ろからかけられた声に秀隆は振り返りもせず辛辣な言葉を返す。当然声の主が雄二と分かっての返答だ。予想の斜め上の返しを受けた雄二は激しいツッコミを入れる。
「んで、実際お前は何やってんだ?」
「考えごとして歩いてたらこのちびっ子とぶつかっただけだ」
「ちびっ子じゃないです! 葉月です!」
雄二に状況を簡潔に説明するが、その内容に少女、葉月が(自分の扱いに)抗議した。
「悪い、悪い。んで、葉月はどこに行こうとしたんだ? なんか慌ててたみたいだが」
秀隆とぶつかって尻餅を着くほどだから駆け足で移動していたことになる。つまり急ぐ必要があったと言う訳だ。
「葉月は2-Fクラスに行きたいんです。人を探しているんです」
「「……」」
葉月から聞いた行先に思わず二人は沈黙してしまった。
「? 如何したんです?」
「……いや。何でもない」
「俺達も2-Fクラスなんだ」
「そうなんですか? なら一緒に行くです!」
「お、おう……」
どの道一緒に行くんだけどな。という台詞を飲み込んで、三人はFクラスへ行くため旧校舎へと歩いて行く。
――2-F――
「ここが2-Fの教室だ」
「ありがとうございます。お兄さんたち」
「気にするなちびっ子」
「ちびっ子じゃなくて葉月です!」
秀隆達三人が2-Fに到着すると、明久達が深刻そうに話し込んでいた。
「あ、雄二に秀隆。戻ったんだ」
「その娘は如何したのじゃ?」
「途中でぶつかっちまってな。詫びにここまで道案内してきたんだ」
「で、この中に捜しているのはどんな奴だ?」
雄二が葉月に特定を促していると――
『お、坂本の妹か?』
『可愛いなあ~。ねえ、5年後にお兄さんと付き合わないかい?』
『寧ろ俺は今だからこそ付き合いたい!』
「よしお前ら目ぇ食いしばれ」
『『『どうやってだよ!?』』』
「……アイツ等は無視してくれ。で、どうなんだ?」
葉月に蔓延る変態とそれに制裁を加える秀隆を無視し、雄二は葉月に目的の人物の特定を急かす。葉月は少し悩んだ後、
「葉月はお兄ちゃんを捜しているです」
「お兄ちゃん? 名前は?」
「えっと……分からないです……」
「ふむ。家族ではないようだな」
手に付いた血糊をふき取りながら秀隆が結論付ける。雄二が葉月に「他に特徴はあるか?」と尋ねると、葉月は少し考えた後、
「う~ん、と……バカなお兄ちゃんでした!」
と独特な特徴を元気よく答えた。
「そうか……」
それを聞いた雄二と秀隆は辺りを見回し、
「沢山いるな」
「寧ろバカしかいないな」
と答えた。誰も否定できないところが2-Fの悲しき宿命である。
「あ、その……そうじゃなくて――」
「ん? まだ他に特徴があるのか?」
「すっごくバカなお兄ちゃんでした」
『『『吉井だな』』』
「……」
葉月の挙げた第二の特徴に全員(客生徒含む)の視線が明久に集中。明久は一人目から煌めく液体を流すはめに。
「ま、全く失礼だな。僕に小さい女の子の知り合い何ていないよ。だから人違いじゃ――」
「あ、バカなお兄ちゃんだ!」
「ごふぁ!」
明久を見つけた葉月が勢いよく、元気に抱き着いた。その可愛らしい頭部を明久の鳩尾にクリーンヒットさせて。
「人違いが、何だって?」
「……人違いだと良かったなあ……」
「何時だったか小学生にバカにされたことがあるってのは葉月のことだったのか」
結果として、葉月が捜していたのは明久で間違いないようだ。
「って、君は誰? さっきも言ったけど、僕に君みたいな小さな子供の知り合いはいないよ?」
「え? バカなお兄ちゃん、葉月のこと忘れたですか?」
明久が自分を知らないと知って、葉月の眼に涙が滲む。
「バカなお兄ちゃんのバカァ! 葉月一生懸命『バカなお兄ちゃん知りませんか?』っていろんな人に聞いて捜したのに!」
とうとう泣き出してしまった。恐らくその聞き込みの過程で『バカなお兄ちゃんなら2-Fにいる』という情報を得たのだろう。これで葉月が此処に来たがっていた理由がはっきりした。
「バカなお兄ちゃんがバカでごめんな」
「バカなお兄ちゃんはバカじゃからの。許してやって欲しいのじゃ」
「あのバカは死んでも治らんからな。今度はバカなお兄ちゃんの頭の中が葉月で忘れられない位の思い出を刻んでやってくれ」
「……僕も泣いていいかな? って秀隆のは色々とアウトだ!」
雄二達が葉月を宥めていると、
「でも、でも、バカなお兄ちゃん葉月と『結婚の約束』もしたのに!」
途轍もない爆弾が投下された。
「瑞希!!」
「美波ちゃん!!」
「「ヤルわよ!!」」
「うわぁ!」
そこに運悪く(?) 美波と瑞希が居合わせてしまう。二人は勢いよく明久に抱き着くとそのまま押し倒してしまった。(因みに二人の射線上に居た葉月はいつの間にか康太が安全な位置へと動かしていた。)
「「如何して私(ウチ)じゃダメなんですか(なのよ)!!」」
「え? え?」
明久を押し倒した体勢のまま、瑞希と美波が詰め寄る。
「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて! 僕は結婚の約束なんて全然――」
「酷いです! ファーストキスもあげたのにー!」
「「ズルい(です)! ウチ(私)だってまだなのに!(アキ(吉井君)! そんな悪い事をするのはこの口(ですか)?)」」
「お前ら本音がダダ漏れになってるぞ」
口の両端を二人に引っ張られながら明久がもごもごと抗議をする。おそらく「お願いします! 話を聞いて下さい!」と言っているのだろう。
「あ、お姉ちゃん遊ぶに来たよ!」
「葉月!?」
「お姉ちゃん……葉月ちゃん……ぬいぐるみ……ああ! あの時のぬいぐるみの子か!」
女子二人の下で記憶を絞り出す様に呟いた明久だったが、突然何かを思い出したのか叫びながら半身を上げた。
「ぬいぐるみの子、じゃないです。葉月ですっ!」
自分を思い出してくれたのは良いが、名前が違ったので葉月は頬をプクッと膨らませる。
「ごめんごめん。けど葉月ちゃん、僕がここの生徒だって良く分かったね」
「お兄ちゃん、ここの制服着てましたから」
「アキと葉月って知り合いだったの?」
明久に頭を撫でられる葉月を羨ましそうに見ながら、美波は明久に二人の関係を聞く。
「あ、うん。去年ちょっとね……」
明久にとっては自身が観察処分者になる切欠となった思い出なので余り他人には話したくないようだ。
「美波こそ、葉月ちゃんのこと知ってるの?」
「知ってるも何も、葉月はウチの妹よ」
「え?」
「さっき島田のこと『お姉ちゃん』って言ってただろ」
明久は身の危険の為それどころではなかったから聞こえてなかったようだ。
「吉井君、酷いです。美波ちゃんとはもう家族ぐるみのお付き合いだなんて。私はまだ両親にも会ってもらってないのに。実はもう『お義兄ちゃん』になってたり……」
「で、この現状はどういうわけだ?」
「また営業妨害でもあったか?」
秀隆と雄二は一人ぶつぶつと壊れかけている瑞希を無視して予想を遥かに下回る客入りの理由を確認する。
「こっちでは何も起きとらんぞ」
「はい。あれ以降、騒ぎ立てるようなお客さんはいません」
「ふむ……なら、原因は外か」
「だろうな。あんだけ宣伝しといてこの客入りなら、外で変な噂が流れてるんだろう」
「そう言えば、葉月ここに来る途中で変な話聞いたよ」
雄二と秀隆の会話が聞こえたのか、葉月が何か思い出したようだ。
「何て話だ?」
「えっと……旧校舎のコスプレ喫茶は汚くて料理が不味くて馬鹿だから行かない方がいいって」
「なるほどな……」
葉月の話で、秀隆達(明久を除く)は犯人が誰だか分かった。
「十中八九、奴らだろうな」
「あ奴らも懲りぬのう」
「え? 奴らって常夏コンビ?」
「他に誰がいるんだよ?」
「だって常夏コンビは鉄人が」
「学祭の見回りがあるのにいつまでも二人に構ってるわけにもいかないだろ。保健室で厳重注意したら即釈放に決まっている」
悲しい事に、秀隆のこの推測は的中していた。
「それに、ウチに来た客でウチに不満を持ってるのは常夏コンビ位だろ?」
「それもそうだね」
「それじゃ、シバき倒しに行くか」
バキバキと指を鳴らしながら好戦的な笑みを浮かべる雄二。どうやら『交渉術』だけでは暴れ足りなかったらしい。
「お兄ちゃん、遊びに行こ♪」
葉月が無邪気な笑みを浮かべて明久の腰に抱きつく。明久に会うことが目的だったのだから、明久と遊びたくて仕方がないのだろう。
「ごめんね葉月ちゃん。お兄ちゃん、ちょっと用事ができちゃって」
「ええ~!! 折角来たのに!」
「なら、葉月も一緒に行けばいいだろ。丁度昼時だ。序に飯でも食えばいい」
「それに、葉月が居ないと噂の出所が分からんからな」
「ならウチも行くわ。葉月のおもりもしないと」
「なら木下と姫路も行ってきたらどうだ?」
会話を聞きつけたのか、須川がやって来てそう提案した。
「いいんですか?」
「どうせお前らが原因をどうにかしてくれない限りはこの状態だしな。残りの面子でどうにかなるだろ」
客足が少ない今なら厨房は康太と須川がいれば事足りるし、フロアには今や看板娘になりつつあるリリアがいる。秀隆達が抜けても現状何とかできるのだ。悲しい事ではあるが。
「なら、須川の提案に甘える事にするかの」
「おう! その代わり、きっちり落とし前つけてくれよ」
「任せておけ」
グッとサムズアップする須川に笑顔で答える秀隆。常夏コンビの末路が思いやられる。
「で、葉月はどの辺でその話を聞いたんだ?」
「えっとね……短いスカートを穿いた綺麗なお姉さんが沢山居る所です!」
「何だって! 雄二、急いで駆けつけないと!」
「そうだな明久! 我がFクラス成功の為にも(低いアングルから)じっくりと観察しなとな!」
葉月から場所を聞くや否や、明久と雄二は一目散に教室から駆け出していった。
「アキ、最低」
「吉井君、酷いです」
「お兄ちゃんのバカ!」
「というか、アイツら場所分かってんのか?」
「……恐らく、Aクラスじゃ」
背中に女性陣からの非難を浴びる明久らを他所に、秀吉がボソリと呟いた。
「何で分かるんだ?」
「この間、姉上が姿見の前でメイド服広げて唸っとったからの。スカートの丈が短いの何だのと」
「なるほどな。てかよく優子が着る事にしたよな」
「何でも工藤に嵌められたらしいそうじゃ」
「……工藤とは余り面識がない筈だが、妙に納得がいくな」
「(まあ理由は別にもあるようじゃがの)」
そんな秀吉の内心を知る由もなく、秀隆は葉月達を連れ、明久達を追いかける。
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