バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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第二十五話。Aクラスメイドカフェ前半です。


第二十五話

第二十五問

 

 

「よし。ここは止めるか」

「何言ってるのさ雄二! 早く中に入ろうよ!」

「頼む! ここだけは、『Aクラス』だけは勘弁してくれ!!」

 

 葉月の証言を頼りにAクラスまでやって来た一行であったが、やはり直前になって雄二が渋りだした。因みにコスプレのままだと目立つので全員制服に着替えている。

 

「ダメだよ雄二」

「そうじゃぞ。ここに常夏コンビがおるやも知れんのじゃ」

「ぐ……しかしな……」

 

 明久達の説得にも二の足を踏む雄二。それほどまでに翔子に会いたくないようだ。

 

「まあそう言ってやるな」

「そうだ! 秀隆の言う通りだ!」

 

 ぐずる雄二を秀隆が フォローする――

 

「『愛しの彼女』が居るんだ。心の準備ぐらい必要だろ?」

 

――筈もなかった。

 

「ああ、そうか。Aクラスには雄二の『大好き』な霧島さんがいるもんね」

「雄二は意外と初(うぶ)で奥手じゃからのう」

「ホント、素直じゃないわゃね」

「坂本君、何だか可愛いです」

「おっきいお兄さんは恥ずかしがり屋さんですね!」

 

 秀隆の一言に全員がわ悪乗りし、結果、雄二は葉月にまで誂われる始末。

 

「お前らっ! ……そう言う秀隆はどうなんだよ?」

 

 雄二は顔を真っ赤にして否定しようとするが、泥沼化させるより道連れにしようと秀隆にふる。

 

「何がだ?」

 

 しかし、ふられた当人は本気で雄二のふりが分かっていなかったようだ。

 

「……そうだった。お前はそういう奴だったな」

「ここまで来ると狙っておるとしか思えんの」

「木下さんも大変ね」

「何を言ってるのか分からんが、時間がないんだからとっとと入る――」

 

 

――パシャ、パシャ――

 

 

 秀隆がAクラスの方に向き直ると、無心でシャッターを切り続けるよく見知った少年が一人。

 

「……康太。そこで何をしている?」

「…………敵情視察(パシャ)」

「ほう。最近の敵情視察はローアングルからするのか? それと、お前には厨房を任せておいた筈だが?」

「そうだよ、ムッツリーニ。撮られる側の気持ちも考え――」

「…………1枚100円」

「2ダース買おう」

「売ってんじゃねえし買うんじゃねえよ!」

 

 康太は明久に写真を24枚押しつけると急急と退散した。

 

「まったく。ムッツリーニにも困ったもんだよ」

「然り気無く写真をポケットに入れてるお主も大概じゃろうに」

 

 いつもの事とは言え、明久の本能(煩悩)主体の行動には呆れるばかりである。

 

「「アキ(吉井君)。その写真をどうするつもり(ですか)?」」

 

 ゾワリ、と明久の後ろから般若も斯くやと言わんばかりのプレッシャーがおしかかる。正体は言わずもがな恋に恋する乙女二人組。

 

「い、イヤだなぁ二人とも。処分するに決まっているじゃないか」

「あ、そうでなんすか」

「本当に?」

 

 慌て取り繕う明久。信じやすい性格の瑞希はなんの疑いも持たなかったが、美波は疑いの視線を送る。

 

「さあ、早く中に入ろう…………野郎の足ばっかりじゃないか!」

「「やっぱり見てるんじゃないの(ですか)!!」」

「ほふぇんなふぁい! ふゅいへぇきふぉふぉろなんれふ! (ごめんなさい! つい出来心なんです!)」

「お主も懲りん奴じゃのう――先に入るぞい」

 

 女性三名から仕置きを受ける明久を尻目に、秀吉はAクラスのドアを潜る。

 

「……お帰りなさいませ。ごしゅ……お嬢様」

「霧島よ。わしは男じゃからご主人様で合っておるぞ」

 

 メイド服に身を包んだ翔子が出迎えた。オーソドックスなメイド服だが、翔子の持つ淑やかな 雰囲気と相まって清楚な印象を醸し出している。

 

「霧島さん綺麗です」

「似合ってるわね」

「……ありがとう。二人の衣装も可愛いかった」

「あ、見てくれてたんですか?」

「……(コク) 召喚大会が早く終わったから」

 

 翔子は優子とペアなので、試合はほぼ一瞬で終わらせていた。只でさえ学年首席とAクラス上位者のコンビなのに、その上操作力が高いのだから、その結果も納得というものだ。むしろ対戦相手が気の毒でならない。

 

「ほら、早く入れ」

「……ちっ」

 

 秀隆に急かされつつ雄二が入場。翔子は雄二の姿を見つけるや否やそそくさと近づき――

 

「……お帰りなさい。今夜は寝かせませんよ。ダーリン」

 

 と耳元で官能的に囁いた。

 

「霧島さん、大胆です!」

「ウチも見習わないと……」

「あのお姉さん寝ないで遊ぶのかな?」

 

 それを聞いた女子が三者三様な反応を示すなか、

 

「……………………(ジー」

 

その様子を物陰からジッと睨み付ける様に見ている一対の瞳が。

 

「……優子。そこで何をしてる?」

「ひゅいっ!!」

 

 バレるとは思っていなかったのか、優子は秀隆に言い当てられると素頓狂な声を出して完全に身を隠してしまった。

 

「……愛子」

「ラジャー♪ ――さぁ優子、観念してね~♪」

「あ、ちょっと愛子! 引っ張らないで! まだ心の準備が――!」

 

 愛子に連行されて、優子が秀隆達の前に現れる。翔子と同じメイド服姿なのだが、優子は恥ずかしいのか右手で隠す様に胸を抱え、左手でスカートの裾を抑える様に握っている。

 

「ほらほら、折角神崎君が来てるんだからさ、サービスしないと♪」

「はああぁ!? な、何でそんな事――」

「ええー? だって優子着替えてる時に『秀隆が見たら……』って――」

「ぎゃああああ! それ以上言うなああああ!!」

 

 

 何かをバラそうとした愛子の口を、慌てて優子が塞ぐ。尤も、中身は兎も角、何を言おうとしたかはその場のメンバーにはほぼ推察されていたが。

 

「それで、神崎は何とも思わないの?」

「ん? 何がだ?」

「木下さんの格好よ」

「んー?」

 

 美波に言われて、秀隆は優子の格好をマジマジと観察する。

 

「……何よ?」

 

 その秀隆を優子はギロリと不貞腐れた表情で一瞥。頬は恥ずかしさで赤らんだままだ。

 

「……ふむ」

 

 秀隆はツカツカと優子に近づき、

 

「……ちょっと動くなよ」

「ふええええぇ!? ちょっ、ち、近い近い!」

 

 秀隆は優子の髪を掻き上げる。秀隆の顔が近づいたことで顔どころか耳、項まで真っ赤に染まる。

 

「……うん。やっぱこっちだな」

「へ?」

 

 秀隆は優子がアワアワしている間に、優子の前髪の分け目を軽く整えていた。

 

「っと、そうだ。優子この前やった髪留めって持ってるか?」

「え、ええ……」

「じゃあ後でそれに変えとけ。いいワンポイントになると思う」

「あ、うん……わかった」

「それと……」

「うん?」

 

 秀隆はもう一度優子の姿を観察すると、

 

「やっぱ霧島と比べると……胸がさみ」

「コロス」

 

 優子の殺意が篭った右ストレートを、秀隆は紙一重で首を少し傾けて躱す。

 

「そうそう。そっちの表情(かお)の方が優子らしくていいぞ」

「ふぇっ! ……変な事言ってんじゃないわよ!」

 

 顔や項どころか目に見える箇所全てを茹で蛸の様にして、優子は秀隆に猛ラッシュをかけるが、秀隆はその悉くを躱していく。

 

「神崎君って、天然なの?」

「いや、あれは天然とかじゃなくて――」

「さて、優子もからかった事だし、そろそろ席に案内してもらおうか」

「はあぁっ!?」

「ただ木下さんをおちょくって楽しんでいるだけだと思うよ」

「神崎君って悪魔か何かなのかな?」

 

 明久達は「本気の時の秀隆は悪魔が可愛く見える」とは流石に言えなかった。言ったら後日秀隆にどんな仕返しをされるか分かったものじゃないからだ。

 

「何だ~? Aクラスの生徒は客一人満足に案内出来ないのか?」

「そ、そんなわけないわよ!」

 

 大人しく付いて来なさい! と優子は肩を怒らせながら歩いて行く。秀隆は歩き出す直前にチラリと明久達の方を振り返る。一瞬の間ではあったが、その眼は雄弁に語っていた。

 

『優子の舵はこう取れ』

 

「「いやそれ秀隆(神崎君)だけだから!」」

 

 ビシッという効果音が響いてきそうな程の明久と愛子の鋭いツッコミが入った。

 

「取り敢えず、この席でいいかしら?」

「ああ」

 

 案内されたテーブルに秀隆達は腰を下ろす。テーブルには(雄二がいるからという理由で)翔子と(面白そうだからと)愛子も付いてきていた。勿論、翔子は雄二の傍らに控えている。

 

「んじゃ、奴らが来るまで飯でも食うとするか」

 

 と秀隆は渡されたメニューを開く。明久達もそのつもりだったので各々メニューを開き注文していく。

 

「ウチは『ふわふわシフォンケーキセット』にするわ。飲み物は紅茶でお願い」

「あ、じゃあ私も同じ物を」

「葉月もです! 飲み物はオレンジジュースがいいです!」

「僕は『サンドイッチセット』にしよ。飲み物はコーヒーで」

「ではわしもそれにしようかの」

「は~い。ふわふわシフォンケーキの紅茶セットが2つとオレンジジュースセットが1つ。サンドイッチのコーヒーセットが2つだね。ちょっと待っててね」

 

 注文を聞いた愛子が急ぎ足で厨房に向かう。

 

「んじゃ、俺は――」

「『メイドとの熱々新婚生活』ですね。只今お持ちします」

 

 翔子は普段の話し方からは想像出来ないほど早口で捲し立てると、雄二に二の句を継げる隙を与える間もなく立ち去って行った。

 

「あ、おい! 翔子っ!」

 

 慌てて雄二が呼び止めようとするが、時既に遅し。しかし翔子は厨房ではないのは当然として、一体何処に行ったのだろうか。

 

「……明久! 俺は絶対に負けられないんだ!」

「あ、うん。それは僕も一緒なんだけど」

「わしらもじゃな」

「まあな。優子、カルボナーラパスタセット頼む。パスタは……」

「言っとくけど、フェットチーネなんてウチにはないからね」

 

 フェットチーネとは日本の棊子麺に似た平打ちのパスタで、秀隆の最近のマイブームでもある。

 

「んだよ。パスタって書くならフェットチーネとペンネぐらい用意しとけよ」

「アンタはその上にコンキリエとかフィリッジも用意しろとか言うでしょうが」

「当然だな」

「はぁ……コーヒーはブラックで食後ね」

「よろしく」

 

 優子は秀隆からメニューを受け取ると「少し待ってなさい」と厨房ヘ。秀隆はそれを見送って明久達に向き合うのだが、

 

「どうした?」

 

 明久達(秀吉を除く)は皆一様にポカンと呆けた様に口を開けていた。

 

「いや、だってさ」

「お前らもう夫婦だろ」

「どこがだよ?」

「全部よ。全部」

「阿吽の呼吸と言うか、お互いに考えが分かってるみたいな会話でしたし」

 

 秀隆と優子の掛け合いを見れば、誰だってそう感じるだろう。

 

「そうか? 別に普通だろ?」

 

 問題は本人達にその自覚が皆無であることだ。

 

「雄二。僕ここまで無自覚なカップル初めて見たよ」

「俺はある意味二組目も見てるがな」

「お主らはまだ良いわい。わしはデートの度に姉上から惚気を聞かされて腹が一杯じゃというのに」

「木下も大変ね」

「はいは~い。何やら楽しそうな会話の途中だけど、ご注文の品持って来たよ」

 

 と、そうこうしている内に愛子達が注文の品を持ってやってくる。瑞希達女性三人組にはシフォンケーキの乗った皿とデザートフォーク、瑞希と美波には追加で湯気の立つ紅茶の入ったティーカップと傍らには砂糖とミルクの入った小瓶。葉月にはオレンジジュースのコップが。明久と秀吉にはレタス、ハム、トマト、卵が挟まれたオーソドックスなサンドイッチとコーヒー。そして雄二には婚姻届けと印鑑と朱肉が――

 

「おい待て翔子! これウチの実印だぞ!」

「お義母さんから借りてきた」

「あの母親何やってくれてんだ!」

「そんなことより早くサインして」

「誰がするかあああっ!!!」

 

 雄二の悲痛な魂の叫びが煌びやかに飾られたAクラスに轟くのであった。

 




後編では例のコンビが登場します。

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