バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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第二十七問です。今回は常夏コンビ撃退後と大会第3回戦です。


第二十七問

第二十七問

 

雄二と秀隆の機転によりAクラスから常夏コンビを追い払って数十分後――

 

「7番テーブル、特性チーズインハンバーグセット2つ、珈琲と紅茶1つずつ!」

「2番テーブル、特性チーズインハンバーグセット3つ! デザートにクレープ2つ、クレープシュゼット1つ!」

「16番テーブル、特性チーズインハンバーグセットとショートケーキ!」

「だあああもう! なんだってこんな事に!?」

 

秀隆は未だAクラスの厨房でハンバーグを焼いていた。事の始まりは常夏コンビを撃退して直ぐの事。

 

「さ~て、常夏コンビ(バカども)も追い払ったし、これで心置きなく調理が――」

「ちょ~と待ってもらおうかしら?」

「は~い。これは没収だよ~♪」

 

持ってきたクーラーボックスを肩にかけ、Aクラスを退散しようとした秀隆を、優子がその肩を掴み止め、愛子がクーラーボックスを没収する。

 

「おいおい。なんのマネだ? クーラーボックス《その》中身はFクラスで使う予定なんだが?」

「それがねえ。どうも金額的に坂本君だけの支払いじゃ足りなくて」

「バカを言え。テメエらの代表はそれで納得したろうが」

「アンタたちの食事代とメイド服のレンタル代の方はね」

「あん?」

 

含みのある言い方をする愛子と優子。まだ支払われていない代金があると言うが、思い当たるフシがない。

 

「他になにかあったか?」

「厨房のレンタル代と食材の使用料」

「はあっ!?」

 

突然の要求に、秀隆の目も点になる。

 

「おまっ、それは屁理屈――」

「屁理屈なんて言わせないわよ? アンタだって坂本君で支払ったんだからな」

「ぐっ……」

 

坂本を生贄にした秀隆としては、そう言われてしまうと返す言葉もない。

 

「まあまあ。そんな固い事言わずにさ~」

「断る。第一そんな事誰が認め――」

「姫路さんと島田さんは認めたわよ?」

 

優子の告げた報告に、秀隆が瑞希達の居たテーブルを睨みつけると、扉の方を向いて頑なに眼を合わせようとしないFクラス女子2名の姿が。

 

「テメエら……」

「だって、木下さんが神崎が必要だって言うから」

「だからって身売りすることねえじゃねえか」

「ほ、ほら神崎君はお料理がお上手ですから。多分それだと思いまして」

「だったら明久でもいいだろ」

「「吉井君(アキ)は私(ウチ)のだからダメです!!」」

「まだテメエらもんじゃねえだろうが」

 

年頃の女子高生にしてはかなり大胆な宣言である。因みにこの時偶然にも明久が盛大にクシャミをしたとかしなかったとか。

 

「はあ。んで、本当の理由は?」

「他のお客さんがさっきのハンバーグを食べたいって言って収拾がつかないのよ」

「……まあ、そんな事だろうと思ったよ」

 

ざっと辺りを見回すと、教室の彼方此方で客が生徒に問いかけ、その度に頭を下げている生徒の姿が見える。どうやらハンバーグの注文を断っているようだ。中には「どうしてあの生徒達は良くて自分達はダメなんだ!」と怒鳴る客まで出てきだした。

 

「じゃあコレだけやるから後は適当に焼いて出せばいいだろ。ソースは最悪ケチャップでもかければ」

「それだけじゃダメなのよ」

 

客の要望がハンバーグだけなら、それを渡してしまえば事が済む。しかし優子はそれだくでないと言う。

 

「なにがだよ? ハンバーグが欲しいならやるって言ってんだぞ?」

「実は神崎君にちょっと厨房を手伝って欲しくて」

「別に部外者の俺が入る理由はないだろ」

「そうなんだけどさ〜」

 

はぐらかすように答える愛子に、秀隆も苛立ちがつのる。

 

「はっきりしないな。理由があるならちゃんと言えよ」

「……このままだと厨房がまわらないのよ」

 

優子が少し悔しそうに答える。

 

「神崎君も見たと思うけど、ウチのクラスって料理が得意な子が少ないんだ」

「まあ、少なくとも男子は慣れてなさそうだったな」

「女子も似たりよったりよ」

「家庭料理ならともかく、本格的なデザートなんて作ったことないからねえ」

 

家の手伝いで台所に立つことはあっても、デザート作りまで経験しているのはごく一部だ。

 

「そんなわけで、未経験者ばかりな上にお客さんも予想以上に来るものだから、手が回らないのよ」

「じゃあなんでメイド喫茶なんて面倒な模擬店にしたんだよ」

「その場のノリと勢い?」

「お前ら本当にAクラスか?」

 

成績優秀なAクラスといえど中身は高校生。文化祭で浮かれてないと言えば嘘になる。あれもこれもと言う内に、想定以上に凝ったものになってしまったというわけだ。

 

「はぁ……。しゃあない。手伝ってやるよ」

「いいの?」

「ここまで聞かされて断ったら俺が悪いみたいになるだろう。仕方ないから、ひと肌脱いでやるよ」

「え? 神崎君も脱ぐの?」

「『も』ってなんだよ。本当に脱ぐわけねえだろ。って優子どした?」

「な、何でもない……」

 

鼻を手で覆い秀隆から顔を背ける優子。そんな優子を見て、愛子が増々厭らしい顔つきになる。

 

「アッレ~? 優子もしかしてエッチな妄そ――」

「フンッ!」

「おっと」

 

顔を覗き込むようにして茶化す愛子に、優子の裏拳が迫るが、愛子はそれをヒラリと躱す。

 

「バカなことしてないでとっとと厨房に行くぞ」

 

そんな二人を尻目に、秀隆はクーラーボックスを担ぎ直し、厨房へと歩いて行く。

 

――そして現在に至る。

 

「オラ! ハンバーグ上がったぞ! 盛り付け急げよ!」

「分かってるわよ!」

「こっちだって大変なんだよ!」

 

巻き込まれた以上は道ずれと、秀隆は優子だけでなく愛子も手伝いに駆り出した。今では秀隆がハンバーグの焼きを担当し、盛り付けを優子と愛子が中心に担当している。

 

「神崎君クレープお願い!」

「あいよ! そこのハンバーグあと2分で焼きあがるからスキレット温めといてくれ!」

「神崎、煮込みハンバーグってできるか?」

「時間かかるし煮込み用のソース作ってないから無理! 代わりにソース増しで勘弁してもらえ!」

「分かった!」

 

更にはデザートの仕上げやメニューにはない注文への対応など、Aクラス生徒以上の働きぶりである。

 

「ほい、クレープ一丁上がり! ハンバーグの方はどうだ?」

「大丈夫!」

「よし、んじゃ後は任せたぞ」

 

残りのハンバーグも僅かになったため、秀隆はデザートの方にシフトチェンジした。Aクラスは元々メイド喫茶なのでデザートの種類も豊富だった。その殆どは買ってきた出来合いのものだが、中には自分達で盛り付けするものもある。秀隆はそれの指導と手伝いも流れでするようになっていた。

 

――十数分後――

 

「……やっと終わった……」

「お疲れ様」

 

秀隆が持参したハンバーグも完売し、秀隆は厨房の隅に置かれた椅子に座って一息ついていた。そこに優子が飲み物を持ってくる。

 

「ありがとよ。んで、幾らだ?」

「私の奢り」

「なら有難く頂戴しとくか」

「何よそれ」

 

優子からコップを受け取り一口啜る秀隆。中身は市販のスポーツドリンクだったが、厨房の熱気で汗をかきっぱなしだった秀隆には良く浸みた。

 

「……ふう。で、お客さんの評価は?」

「大好評も大好評よ。明日もあるのかって聞きいてくる人もいたわ」

「んじゃFクラスに行けば食えるって言っといてくれ」

「そう伝えてあるわよ」

「随分と気前がいいな」

「まあそれ位はやっとかないと後が怖いからね」

 

んだよそれ。と軽く笑う秀隆。つられて笑う優子。まだ周りはてんてこ舞いだというのに、その一角だけ仄かな雰囲気を醸し出していた。

 

『ねえ。あの二人本当に付き合ってないの?』

『それどころか、試召戦争終わるまでいがみ合ってたらしい』

『うっそ! アレどう見たって彼氏彼女の雰囲気じゃん』

『寧ろ夫婦だよ、夫婦』

『畜生! リア充爆発しろ!』

 

厨房やフロアの裏でそんな会話が繰り広げられているとは露も知らない2人であった。

 

「それでは、試験召喚大会第3回戦を始めます!」

 

Aクラスでの修羅場を乗り越えて間もなく、秀隆は試験召喚大会の会場にいた。大会も3回戦。そろそろ実力者が揃ってきたこともあり、会場のボルテージも上がり調子だ。

さらに言えば、Fクラスの3組がここまで危なげなく勝ち進んでいることも、盛り上がりに一役買っていた。

 

「今回の相手は3年生のようじゃな」

「そうだな」

 

今回の二人の相手は3年Dクラスのコンビ。Dクラスとは言え、召喚獣の操作においては1年のアドバンテージは大きい。1、2回戦もこのアドバンテージを駆使して勝利していたようだ。

 

「はっ! Fクラスが相手かよ。こりゃ楽勝だな」

「そうだな」

 

多分に漏れず、このコンビもFクラスを下に見ている。仕方ないとことはいえ、聞きあきたその台詞に、秀隆はあからさまな溜息を吐いた。

 

「そう言って何人の上位クラスが散って逝ったことやら」

「そうじゃの」

 

秀吉も秀隆の挑発に乗せ、溜め息を吐く。その態度に、Dクラスコンビは見る見る内に苛立っていく。

 

「テメエ等! ここまでマグレで勝てたからっていい気になってんじゃねえぞ!」

「先輩の敬い方を教えてやるよ!」

「……常夏コンビといい、アンタらといい……敬われたいならそれ相応の言動で示せっての!」

「試合、開始!」

「「「「試獣召喚(サモン)っ!」」」」

 

 魔法陣の中から現れる4体の召喚獣。いつもの秀隆と秀吉の召喚獣に、Dクラスコンビの装備はオーソドックスな西洋戦士と野武士。気になる点数は――

 

Fクラス 神崎秀隆 現国:334点 & Fクラス 木下秀吉 現国 94点       

                VS

Dクラス  田中太郎 現国:113点 & Dクラス  鈴木一郎  現国:120点

 

Fクラスではまずあり得ない点数に、Dクラスコンビも舌を巻く。

 

「「だああああ!!」

 

かと思いきや、Dクラスコンビは秀隆に向かって波状攻撃を仕掛けてきた。田中(戦士)が先に仕掛け、避けたところを鈴木(野武士)が仕留める作戦のようだ。

 

「ふーん。そう来るか」

 

それに対し秀隆は――

 

――ガキィン――

 

避ける素振りも見せず、あえて受けることを選択した。

 

「「はあっ!?」」

 

予想外の行動に、Dクラスコンビは一瞬思考が止まった。

 

「おいおい。試合中に止まってていいのか?」

「は?」

「でやあああっ!」

 

鈴木の召喚獣の動きが止まったところを、秀吉の召喚獣が切り捨てる。これで戦況は2対1。

 

「なっ!?」

「余所見とは余裕だな?」

 

鈴木の方に気を取られていた田中の召喚獣の眉間を、秀隆の召喚獣が放った弾丸が打ち抜く。これでFクラスの勝利が決定した。

 

試合後の宣伝も終えFクラスへ帰還している間、秀隆は終始顎に手を当て、思案顔だった。

 

「どうしたのじゃ?」

「いや。さっきの3年生の動きが、な」

「なにかおかしかったかの?」

 

秀吉が先程の試合を思い返してみても、不審な点は見当たらなかった。

 

「新学期含めて、今まで俺達が相手してきた上位クラスの奴等はどういう反応だった?」

「そりゃあバカにしていたのう。何せFクラスじゃからな」

「だな。じゃあ、俺や姫路の点数を見たらどうなった?」

「驚いておったな」

「だけどアイツらはそうじゃなかった。試合が始まった途端、俺に攻撃してきた」

「別に普通ではないかの? トーナメント式の大会じゃし、前の試合で秀隆の点数を知っていてもおかしくはないぞい? それに強い奴から斃すのは常套手段だと秀隆も言っておるじゃろ?」

「……まあな。(考え過ぎか?)」

 

秀吉の言う事に一応の納得は示したが、まだ引っ掛かりが取れないでいた。その後、二人が教室に入ると――

 

「何だこれ?」

「何じゃろうな?」

 

顔を赤らめて悶絶する瑞希と美波。慌てふためいた様子で弁明する明久(ただし弁明できていない)。必死の形相で子供用のチャイナ服を繕う康太と、キラキラした瞳で完成を待っている葉月。それらを傍観しながら烏龍茶を啜る雄二。正にカオスの一言に尽きる。

 

「よう。お前ら、勝ったのか?」

「ああ。相手は3年だったが」

「3年が出ていたのか? そろそろ受験に本腰入れる時期だろ?」

「さあな。んで、お前らは?」

「……相手が食中毒で不戦勝だった」

「……姫路を厨房に入れてないだろうな?」

「それはない……と思いたい」

 

雄二の背筋に冷や汗が流れる。瑞希の料理は、多少改善傾向にあるとはいえ、その突拍子もない食材(薬剤)をチョイスする癖は治りきっていない。

 

「…………出来た」

「わ、このお兄さん凄いです!」

 

そうこうしている内に、葉月用のチャイナ服が完成した。会心の出来だったようで、康太も満足げだ。

 

「そういや何でチャイナなんだ?」

「ああ。常夏コンビにやられたダメージが思いの外デカくてな。それで姫路達に外回りで宣伝してもらおうとな」

「それでチャイナか。まあ目立つしインパクトもあるからな。妥当と言えば妥当だろ」

「本来はもっと色んな服を着せた方がいいんだけどな」

「取り敢えずはそれでいいだろ。で、その姫路達が何かおかしいんだが?」

「実はな、明久が『チャイナ服を着た姫路たちを愛してる』と言ってな」

「……またか。この天然たらしは」

「違う! 僕はただ純粋にチャイナ服が好きで――」

「それを着た姫路と島田は?」

「大好きさ!」

「「~~~~~///!!!」」

 

その一言で、また一段と妄想がヒートアップする瑞希と美波。もやは危ない薬でも打ってるんじゃないかと言わんばかりの悶絶具合だ。

 

「あれ!? 2人ともどうしたの?」

「お前が原因だよバカ」

「?」

 

つくづく、天然とは末恐ろしいものであると思い知らされた一同だった。




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