バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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第二十八問です。今回から段々と物語が進展していくかもです。


第二十八問

第二十八問

 

「そうだ。雄二、少し意見を聞きたい」

「ん? 何だ?」

 

周りのカオスな状況を完全に無視して、秀隆は先程の3年生との試合を雄二に話した。

 

「なるほどな。確かに気になると言えば気になるが、まだ確証を得るには弱いな」

「だよなあ。まあ、俺の思い過ごしならいいんだが」

 

秀隆はまだ腑に落ちないのか、顎に手を当てたまままだ思案している。

 

「気になるのは仕方ないが、今は店の売り上げをどう伸ばすかを考えてくれ」

「ん。そうだな。おいお前ら! いつまでもイチャついてないでとっとと着替えて来い!」

 

秀隆の怒号で我に返った面々は、まだ顔を赤めながらも、いそいそと更衣室に動いた。

 

「まったく。んじゃ俺は厨房の様子でも見て来るわ」

「おう。任せてた」

 

――30分後――

 

「たっだいまー」

「ただいま戻りました」

「ただいまです!」

「お帰り三人とも。宣伝ご苦労様」

 

 チャイナ服を着た娘3人がFクラスに帰って来た。明久のこ言葉通り、瑞希ら3人は、Fクラスの集客数向上のため、看板を持って校舎中を歩いていたのだ。

 

「お客さんも結構入ってるわね」

「うん。3人のお蔭だよ」

 

効果は客入りの通り。常夏コンビに妨害される前ほどの賑わいに戻っていた。

 

「んで、俺には労いの言葉はないのか?」

 

3人の陰からのそっと秀隆が顔を出す。3人に変な虫が付くといけないからと、秀隆も一緒に回っていたのだ。実際、秀隆が居るのにも構いなくナンパをふっかける猛者が居たほどだ(その結果は顔に靴の跡)。

 

「あ、秀隆もお疲れ」

「まったくだ。面倒臭いったらありゃしねえ」

 

後頭部をボリボリと掻きながら厨房へと秀隆は歩いて行くが、

 

「あ、そのままフロアお願い」

「……まじかよ」

 

心底げんなりした顔をしつつも、秀隆は渋々そのままフロアで注文を取りに行く。今Fクラスは客入りもあってフロアが少し混雑気味になっている。秀隆もそこは空気を読んでフロアに従事することにした。

 

「ん?」

 

それから暫くして、秀隆はとある人物が来店していた事に気づく。

 

「竹原がなんでこんなところに?」

 

竹原教頭が秀吉と一言二言会話を交わしていた。その後秀吉は直ぐにその場を離れたが、そのすぐ後に今度は明久が竹原に呼ばれていた。

 

「どういう事だ?」

 

別段険悪な雰囲気があるわけでもない。しかし、秀隆は教頭がここに居ることに言いようのない違和感を覚えた。

 

「すみませーん!」

「うぃーっす(アイツがここに来る目的ってなんだ?)」

 

お客である女子生徒に呼ばれてそちらか視線を外すが、やはり教頭の行動が気にかかる。普通なら、ただ噂を聞きつけて見に来た、ただの見回りの一環などの理由が考えられるが、どうにも教頭にはそれらが当てはまらない気がしてならなかった。

チラリと秀隆が竹原教頭の様子を覗き見ると、教頭に特に変わった様子はなく、ただ携帯電話をいじっているだけだった。

 

「考え過ぎだといいんだが……」

「…………秀隆」

「ん? どした?」

 

教頭の動向にブツブツと疑念を呟く秀隆の背後から康太が現れた。

 

「小麦粉がもうすぐなくなりそうだから持ってきて欲しい」

「ん。分かった」

「…………明久が先に茶葉を取りに行ってる」

「OK。ついでに適当に無くなりそうなもん持ってくる」

「…………頼んだ」

 

Fクラスは教室が狭いので、旧校舎の使われていない教室の一つを倉庫代わりに使っている。飲み物や調味料のストックはそこの保管している。

 

「おい。明久。ついでに小麦粉――」

「あ、丁度良かった! この人たち秀隆と遊びたいんだってさ!」

 

倉庫代わりの空き教室のドアを開けるなり、明久は秀隆を中に押し込み、自分は外に出てドアを閉めてしまった。

 

「おい明久――」

 

秀隆は文句を言いかけたが、眼の前に居る人物らを見て止めた。目深に被ったニット帽やパーカー、人相の悪い眼つきといい、どう見ても『普通の人』ではなかった。

 

「ふーん。そういう事か」

 

事態を察した秀隆は、指を鉤爪の様に曲げ、パキッと鳴らす。

 

「おい。誰だが知らねえが、俺らは吉井明久って奴に用があるんだ。さっさとそこを――」

「シッ!」

「がっ!」

 

脅しにかかったチンピラの顎を、秀隆の掌底が押し上げる。チンピラは不意の攻撃にバランスを崩し、そのまま後頭部から倒れた。

 

「こいつ……っ!」

「やっちまえ!」

「さーて、『どこの誰の命令』か話してもらおうか!」

 

――数十秒後――

 

「「「お、覚えてろよお!」」」

 

チンピラたちは秀隆にボコられて、お約束の捨て台詞を吐いて這々の体で一目散に逃げていった。

物陰から空き教室の前で中の様子を伺っていた明久も呆れた様子で見ていた。

 

「何だったんだろうね。あの人たち」

「さあな。ま、人生の道を外したの奴らなのは間違いねえな」

 

逃げていくチンピラを不思議そうな眼で見送る明久と、興味なさげに携帯を弄る秀隆。その後は目的のモノを教室まで運び、何事もなく時間が過ぎていった。

 

――二時間後――

 

「おい明久。そろそろ4回戦の時間だぞ」

「あ、もうそんな時間?」

 

時計を確認すると午後2時過ぎ。4回戦は2時半からの予定なので、そろそろ会場に移動する時間だ。

 

「吉井君達もですか?」

「ウチらもそろそろなのよ」

 

 明久達の会話が聞こえたのか、瑞希と美波も集まって来る。

 

「俺らもそろそろか?」

「そうじゃの。そろそろ時間のはずじゃ」

 

4回戦が終われば次は準決勝。つまり今8組中3組が2-Fのペアと言う事になる。組み合わせによっては、ベスト4の内3組がFクラスになるという快挙も達成できる。

 

「お兄ちゃんどこかに行っちゃうの?」

 

葉月が明久の足元に抱き着いて来た。どうやら明久が教室を出ていく雰囲気を察したようだ。

 

「ごめんね葉月ちゃん。ちょっと今から大事な用があるんだ」

「チビッ子はここでお留守番だな」

「うう~。でも……」

 

名残惜しそうに明久のズボンから手を放そうとしない葉月。よほど明久と一緒に居たいようだ。

 

「その代り、大人しく良い子にしてたら……バカなお兄ちゃんが『大人なデート』に連れて行ってくれるぞ」

「葉月、お手伝いしてくる!」

「葉月ちゃん待って! 僕には葉月ちゃんが期待するような経済力はないんだ!」

 

この年代の子共には『大人の』という言葉は絶大な効果を発揮する。葉月もその多分に漏れず、眼を輝かせて張り切ってフロアの手伝いに行った。当然、明久の悲痛な叫びが彼女の耳に届くことはない。

 

「「……」」

 

そしてそれを羨ましそうに睨む女子2人(瑞希と美波)。

 

「……お前らも小学生に嫉妬してないでとっとと行くぞ」

「……はい」

「うう。葉月ばっかりずるい……」

 

後ろ髪を引かれる思いで、瑞希たちも大会会場に移動した。

 

――試験召喚大会第4回戦会場――

 

「それでは、試験召喚大会第4回戦を始めます!」

『『『わああああああっ!!』』』

 

司会兼審判である古典教師の宣言と共に上がる喝采。回が進むにつれ、会場の熱気も上がっているようだ。

 

「また3年が相手か」

「じゃな。しかも今度はBクラスの様じゃな」

 

秀隆と秀吉の次の相手は3-Bクラスのコンビだった。対戦相手の二人は、相手がFクラスともいう事もあり、余裕そうな笑みを浮かべている。

 

「(……揺さぶってみるか)」

「ん? どうしたのじゃ?」

 

相手を睨む秀隆の雰囲気が気になったのか、秀吉が心配そうに尋ねる。

 

「いや。なんでもない。――それより先輩方、こんなところで遊んでいていいんですか?」

 

秀隆は秀吉のには答えず、対戦相手である先輩二人に話しかける。

 

「あん?」

「何がだ?」

「だってまだ時間はあるとはいえ先輩方は受験生でしょう? そろそろ志望校も絞って勉強する時期じゃないんすか?」

 

傍から聞いたらただの受験に関する質問にしか聞こえない。

 

「ああ? んな事お前らが心配する必要ねえよ」

「そうそう。てか、お前らFクラス(落ちこぼれ)どもはどうせ就職だから受験の心配しなくていいよなあ!」

 

ゲラゲラとわざと聞こえるように嘲笑う上級生2人。こちらを見下したその態度に、秀吉はムッときたて怒りをあらわにしたが、秀隆は対称的に表情を変えなった。

 

「随分と余裕なんすね。よっぽど自身があるか、偏差値の低い大学でも受けるんですか? 或いは……推薦の()()でもあるんですか?」

「「……」」

 

一瞬だけBクラスコンビの顔が強張ったのを、秀隆は見逃さなかった。

 

「(ビンゴか)」

「では、試合開始!」

「「「「試獣召喚(サモン)!!」」」」

 

魔法陣の中から召喚獣が現れる。Bクラスコンビの装備は、1人が胴着に籠手の格闘家スタイルと、もう1人狩人の衣装にライフルの遠距離タイプ。点数も100点代後半から200点近くとBクラスでも上位の部類だろう。その自負があるのか、3-Bコンビは召喚獣が出てからも余裕の笑みを崩さなかった。

 

Fクラス 神崎秀隆 古典 412点

 

この点数を見るまでは。

 

「お主、また古典の点上がっとらんか?」

「そうか? というか秀吉はもっと頑張れよ」

「……古典何ぞ能や狂言をやらん限り不要じゃて」

 

因みに秀吉の点数は36点であった。

 

「な、なんだその点は!?」

「お、おい。そういや神崎って聞いてた要注意生徒じゃ……」

「ん? 要注意?」

「あ、おい馬鹿!? なに喋ってんだ!」

「あ、やべ」

 

気づいた時には思う遅い。今の一連の会話で、既に秀隆の頭では、『トーナメントの違和感』の正体が形になり始めていた。

 

「い、いや待て。点数の低い奴を速攻で倒して2人掛かりでやればイケるはずだ!」

「そ、そうだな!」

 

対戦相手2人は最初のターゲットを秀吉に決めたようだ。胴着の方が秀吉に向かって突進をかける。

 

「だりゃあああっ!」

 

まだ少し近接戦闘の射程圏内まて間合いが開いていたが、胴着の方が飛び蹴りを見舞って来る。当然これは陽動。躱されること前提で攻撃をしかけている。左右どちらかに避けようものなら、後方に控えたライフルが狙撃し、後ろに引いても、点数の高さ(=身体能力の高さ)を活かし、すぐさま間合いを詰め攻撃する算段。しかし二人の眼に映ったのは――

 

「「突っこんで来るだと!?」」

 

目論見とは真逆の反応。秀吉は避けるのではなく、召喚獣を()に走らせた。

 

「はあああっ!」

「ぐっ!」

 

すれ違いざまに斬りつける。しかし浅く傷を負わせた程度で、点数も数点しか削れなかった。

 

「よし、このまま――」

「上手く行くとでも?」

 

着地地点には既に秀隆の召喚獣が双剣を構えていた。

 

「しまっ」

「驟雨双破斬っ!」

 

着地した瞬間秀隆の召喚獣は連続突きを繰り出す。そこから続けざまに斬り上げ、斬り払いの連携技。相手も咄嗟に籠手でなんとかガードしようとしたが、手数の多い攻撃を防ぎきれず、戦死してしまう。

 

「くっそがぁ!」

 

ライフルの方も予想外の急展開と数的不利に陥ったことに動揺したのか、ライフル銃を乱射してきた。しかし、幾ら点数の低い秀吉と言えども、碌に狙いが定まっていない銃撃に当たるわけもなく。

 

「これで仕舞いじゃ!」

 

間合いを詰めて首を刎ねる。またしてもFクラスのコンビの勝利で幕を閉じた。

 




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