バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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第三十問です。今回は少々シリアス(?)かもしれません


第三十問

第三十問

 

 

――♪♪♪♪――

 

 

 廃工場に、流行りのレゲエ音楽が鳴り響く。工場内は原色のキツイ蛍光で彩られ、壁や柱の至る所に品のない落書きが描き殴られている。そんな閑散とした廃工場のイメージとはかけはなれた乱雑とした空間の中で、数十人もの男どもが騒ぎ立てている。酒に煙草、怪しげや薬物は当たり前。机の上には投げ捨てらたトランプや麻雀牌。おおよそ賭けでもしていたのだろう、そのすぐ近くにはクシャクシャになった数枚の紙幣が散乱している。如何にも不良・チンピラの溜まり場と言った風合いだ。そしてその中でも特に異質な空間。大仰なテーブルとソファーが置いてある一角。赤く彩られたソファーの中心に、ドッカリと腰を下ろしたモヒカンヘアーで鼻にピアスを通した男がいた。周りに後ろ手に縛られた少女6人、瑞希、美波、葉月、翔子、愛子、そして優子を囲んで。

 

「兄貴~。いい加減ソイツ等ヤッちゃいましょうよ~」

 

 酔っているのか、間延びした口調の男が、モヒカンに提案する。

 

「あ、さんせー。俺巨乳ちゃんね」

「あ、ずりー!」

「バカだなお前ら。貧乳はステータスって言葉を知らねえのか?」

「じゃあ俺黒髪ちゃんで」

「あの太もも、たまんねーなあ」

「俺、一回幼女とヤッてみたかったんだよねえ」

 

 口々に言いながら、下卑た視線を送る不良達。葉月は勿論、瑞希と美波、愛子は恐怖で身体が震えている。普段無表情な翔子でさえ、肩が小刻みに震えている。

 

「まあ、待てよお前ら」

 

 兄貴と呼ばれたモヒカン男は、煙草を一本取り出すと火をつけ紫煙を燻らす。

 

「良いか、お前ら。何で俺があんないけ好かない野郎の言う事を聞いてると思う?」

「報酬の為じゃないんですかい?」

 

 勿体ぶった話し方をするモヒカン男に、一人が疑問を投げる。

 

「当然それもあるが、いわば『将来投資』ってやつよ」

「しょーらいとーし?」

「おうよ。いいか? もしこれが成功すれば、俺達はあの野郎の『裏』を知ることになる。つまり、入用になったらなったら『裏をバラす』って脅してソイツから巻き上げればいいのよ。金も、女もな」

 

 女、の部分でモヒカン男は未だ恐怖に身を震わせる様子を見せていない優子を見る。優子はそんな男を憎しみの眼で一瞥しただけで、直ぐにソッポを向いた。

 

「なーるほど!」

「兄貴あったまいいー!」

 

 口々に賞賛の言葉を述べる手下たち。モヒカン男は気分を良くしたのか、一気に酒を呷り「そうだろ!」と剛毅に笑うが。

 

「……バッカみたい」

 

 その一言で場の空気が凍り付く。

 

「あん? 今何か言ったか?」

「バカじゃないの? って言ったのよ」

「んだとこら!」

 

 モヒカン男が怒りに声を荒げてソファーから立ち上がる。しかし優子は、そんな男を怯むことなく睨みつける。

 

「本当に上手くいくと思ってるの?」

「なにぃ?」

「アンタみたいな奴はね、蜥蜴の尻尾で終わるって相場で決まってるのよ」

「はっ! 何を言うかと言えば。俺らは奴の悪事を知ってるんだぜ?」

「どうせ知っているって言ってもこの誘拐だけでしょ?」

「誘拐は立派な犯罪だろ?」

「ええそうね。けど、その人がアンタ達に依頼した証拠はどこにあるの?」

「そ、それは……」

「それと、バラすって言ったけど、アナタ達相手の素性分かってるの? 分かってなきゃ意味ないことぐらい理解できるでしょ?」

「こ、こっちは奴の顔を知ってるんだ。張り込めば素性だって直ぐに――」

「どうせクラブかどこかで飲んでる時に声を掛けてられて話しに乗っただけでしょ? そんなの、アンタ達みたいなバカを釣り出すための常套手段じゃないの」

「……」

「分かった? アンタ達はただ利用されただけのバカ――」

「うるせえ!!」

 

 優子に悉く言い負かされ、ついにモヒカン男がキレた。

 

「さっきから偉そうにベラベラと捲し立てやがって! そんなにテメエの頭が良いのを自慢してえのか? ああ?」

「そんなわけないでしょ。ただね――」

 

 ここで優子は一息つき、

 

「アンタみたいなバカが詰めの甘い作戦をベラベラと自慢げに喋るのが気に入らないだけよ!」

「上等だゴラァ!」

 

 モヒカン男が雄叫びを上げ、手にした酒瓶をテーブルに叩き付ける。酒瓶は胴の真ん中付近から割れ、トゲトゲしい断面が鋭利な輝きを放つ。

 

「いいぜ。そんなに死にたいならよ――」

 

 モヒカン男は優子の胸倉を掴み、強制的に立ち上がらせる。体格然も相まって、優子は爪先立ちの状態で苦しそうに呻く。

 

「「「「「優子ちゃん(お姉ちゃん)!!」」」」」

 

 瑞希達は悲鳴を上げるが、モヒカン男の睨み一つでまた竦み上がってしまった。モヒカン男はその刃物の様な瓶の残骸を優子の眼の前に付きつけると、

 

「テメエの顔も、身体も、心も、ズタボロにぶっ壊してから殺してやるよ!」

 

 叫びながら大きく振りかぶる。

 

 

――大きくなったら。僕が優子ちゃんを護ってあげるね――

 

 

 覚悟を決め、眼を瞑った優子の脳裏を過ったのは、幼い日の遠い記憶と交わした約束。

 

「……なさいよ」

「死ねやコラーーッ!!!」

「助けに来なさいよバカヤロー!」

 

 

――バリーン――

 

 

 モヒカン男が瓶を振り下ろす直前、ガラスが割れる音が辺りに響く。その場に居た全員が音のした方に視線を向けると、窓ガラスを突き破って工場内に侵入してきた黒い影。黒いフード付きのパーカーを着た人であった。その人物は着地の体勢から立ち上がると、スタスタとモヒカン男の方へと歩みを進める。フードに覆われていて顔は分からないが、背格好から若い男だという事が見て取れる。その手には、一振りの木刀を携えていた。

 

「おい待てや。テメエここが何処だか分かってんのか?」

 

 不良の一人が道を塞ぐ。くちゃくちゃとガムを咀嚼し、かなり高圧的な態度で問い質す。

 

「邪魔だ」

「あ、んっ!」

 

 一閃。黒パーカーが木刀を無造作に一閃。黒パーカーが無造作に振るった木刀の一撃で、不良Aは数人を巻き込んで壁際まで吹き飛び、そのまま気絶した。

 

「この野郎!」

 

 今度は不良Bが殴りかかるが、

 

 

――パキュ――

 

 

 空気が弾けた様な軽い音がしたかと思うと、不良Bが地面に倒れる。何が起きたか一瞬分からなかったが、黒パーカーが足を上げた体勢で止まっているので、不良Bの顎を蹴り上げて脳震盪を起こさせ、気絶させたことが読み取れた。そしてその反動からか、パーカーのフードが肌蹴る。

 

「あ……」

 

 優子はその顔を見て、思わず声を漏らす。パーカーで隠れていた顔は、白い短髪に、鋭い紅い瞳。彼女が一番待ち望んだ顔。

 

「よう、優子。助けに来たぜ」

 

 神崎秀隆の姿が、そこにはあった。

 

「バカ! 遅すぎるわよ!」

「悪かったって。この埋め合わせは今度するさ」

「もう! 約束だからね」

「おう」

 

 周りの状況が見えていないかの様な二人の会話に、周囲の誰もが呆気に取られている。

 

「白い髪に紅い瞳、木刀……まさか、月華凶刃!?」

 

 不良の一人が秀隆の正体に気づき、どよめきが波紋の様に広がっていく。

 

「まあ、バレるか」

 

 木刀の背で肩を叩きながら、秀隆は辺りを見回す。

 

「そんだけ派手な顔してたら嫌でも印象に残るわよ」

「なんか酷くねえかそれ?」

「凶刃テメエ! 何しにここに来た!?」

 

 モヒカン男が声を上げる。秀隆はそちらに一瞥投げると、

 

「テメエ等ぶっ潰しに来ただけだが?」

 

 然もありなんと言ってのける。

 

「はっ! これだけの人数相手に勝てるとでも思ってんのかよ?」

「これっぽっちの雑魚共に負けるとでも思ってんのか?」

 

 挑発に挑発で返す秀隆。モヒカン男は顔通り沸点が低いのか、直ぐに額に血管が浮き上がる。

 

「テメエ等! ぶっ殺せ!」

『『『おおおおおっ!!!』』』

 

 モヒカン男の号令で、不良たちが一斉に秀隆に躍りかかる。

 

「ほい」

 

 迫りる不良の波を前にして秀隆は木刀を『真上』に投げた。

 

「な、なんだ?」

 

 その奇妙な行動に、不良たちの足が一瞬止まる。

 

「バカが」

 

 その瞬間、秀隆が両腕を振った。

 

「ぎゃっ!」

「ぐぇっ!」

「あー!」

 

 途端に数名の不良たちが悲鳴を上げて倒れる。その光景を見て、不良達の足が完全に止まる。落ちてきた木刀が地面とぶつかり、木独特の音を響かせる。

 

「そうら!」

 

 更に立て続けに両腕を振る秀隆。また数人の不良が地に伏した。

 

 

――キィン――

 

 

と、偶々不良の一人が構えていた金属バットから、金属同士がぶつかる音が響く。

 

「え?」

 

 その音を聞いて、不良達が改めて秀隆の両腕に注目すると、秀隆のパーカーの両腕の袖口から鎖が伸びていた。

 

「よっと」

 

 秀隆が腕を引くと、鎖が揺れ、弧を描く。次の瞬間には、秀隆の両手に鉄球が握られていた。所謂、鎖分銅だ。

 

「テメエ等ビビってんじゃねえ! とっととぶっ殺せ!」

「で、でも兄――」

「デモもテロもねえ! さっさと行け!」

 

 種が分かったのもあって、モヒカン男が手下たちに突撃を命じる。不良達も最初は躊躇っていたが、結局リーダーの命令にしたがい、突撃を仕掛ける。

 

「んじゃ、行きますかあ!」

 

 秀隆は右足で地面に落ちていた木刀を蹴り上げ、左手でキャッチし、駆け出す。

 

「おらあ!」

 

 先ずは不良Cが鉄バットで秀隆の脳天を狙うが、

 

「っと」

 

 秀隆は間合いの一歩外でブレーキをかけ、一撃を回避。

 

「はっ!」

「ぎゃっ!」

 

 逆に不良Cの脳天を打ち据える。

 

「だりゃあ!」

「おらあ!」

 

 次に不良DとEが後ろから連携をしかける。

 

「しっ!」

 

 それを察知した秀隆は、後方に飛び込み、その勢いを利用した肘鉄を二人の鳩尾に叩き込こむ。

 

「「ぐぇっ!?」」

 

思わぬカウンターを受けた不良二人は、蛙が潰された時の様な声をあげ、後頭部から倒れた。

 

「面倒だな。まとめてかかってこいや!」

 

 その後も、数的不利をものともせず、秀隆の優勢で攻防は続く。突撃してきた相手には足払いをかけ、その回転の勢いを利用した蹴りを顎に見舞う。避けきれそうにない攻撃は木刀で受け、カウンターの拳、蹴りを鳩尾や水月に叩き込み、時に流し、相手の首を強く打つ。羽交い絞めにされようものなら、掴まれた腕を軸にして相手を蹴り上げ、その勢いで拘束を無理矢理外し、反撃に打って出る。こうして見る見るうちに不良達は倒れ、屍(気絶)の山が築かれていく。

 

「な、何なんだよアイツ……」

 

 眼の前で繰り広げられる惨劇を、モヒカン男は信じられないといった風に口をあんぐりと開けて見守っていた。

 

「兄貴!」

「あん?」

 

 とそこに帽子を深く被った赤毛の不良がモヒカン男のそばに近寄る。

 

「このままじゃ埒が明きやせん」

「んなこたぁ分かってる!」

「ですから――」

 

 子分からの耳打ちに、モヒカン男の表情は一転し、勝ち誇ったような笑みになる。

 

「ほう。良い考えじゃねえか。直ぐやるぞ!」

「へい!」

 

 赤毛の不良が直ぐに仲間の元に駆ける。

 

「眼にもの見せてくれるぜ、凶刃よぅ」

 

 モヒカン男は既に勝利に酔いしれていた。

 

「しゃあ!」

「りゃっ!」

 

 もう二十人程倒しただろうか。流石の秀隆もいくらか反撃を受け、至る所に傷を負っていた。しかし、顔に疲弊の色は浮かんでおらず、寧ろ相手を倒すごとに瞳の輝きが増していっているような感覚さえ覚える。その異様な光景に、不良達の追撃の手が緩み始めたその時。

 

「おい! 凶刃!」

「ああ?」

 

 モヒカン男が声を張る。

 

「これを見な!」

 

 秀隆がそちらを見ると、モヒカン男が優子の首を左手で締める様に抱き、右手でナイフを顔に突きつけていた。瑞希達もそれぞれ『帽子を深く被った』子分の不良達に取り押さえられている。

 

「……ちっ」

 

 モヒカン男の意図を察し、秀隆は木刀を足元に放り投げた。

 

「ようし。それで良い」

 

 モヒカン男がニタニタを笑う。それに対し、秀隆も嗤う。

 

「何が可笑しい?」

「別に、バカの考えることは大体一緒だなって思っただけだ」

 

――ドゴッ――

 

「か、はっ!」

 

 不良Fが秀隆の腹部を思い切り殴りつける。秀隆は倒れこそしなかったものの、身体を九の字に曲げ、口から涎を垂らす。

 

「おらあ!」

 

 それを皮切りに、不良達の反撃と言う名のリンチが始まる。無抵抗なのを良いことに、顔や腹、背中などを無秩序に殴り、蹴り、得物を叩き付ける。

 

「「「「「神崎(君)(お兄ちゃん)!!」」」」」

 

 姫路達が悲鳴を上げ、秀隆の名前を叫ぶ。が、優子は為されるがままの秀隆を、ジッと見つめていた。

 

「薄情な女だな。アイツ等みたいに叫んでみたらどうだ?」

「叫んで状況が変わるならとっくにそうしてるわよ」

 

 努めて冷静に、優子はそう答えた。

 

「ふん。可愛げのない」

「なくて結構よ。それに、アンタ達はアイツの事を何にも分かってない」

「ああん?」

 

 何かあるのかと思い、モヒカン男はもう一度秀隆を見る。しかしそこには今まで通り暴行を受けている秀隆がいるだけだ。

 

「は! 天下の凶刃様も、人質の前には無力ってわけだ」

「普通ならね」

 

 絶望的な状況なのに、優子の声は平常と変わらない。

 

「アイツが単独行動をした上にただ殴られるだけ? そんなわけないじゃない。アイツがああも派手にやってるってことは」

 

 優子はチラリと瑞希達の方、正確には瑞希達を取り押さえている不良の方を見る。

 

「既に作戦は成功してるってことよ」

「流石は木下姉。ご明察だ」

「!?」

 

 声を出したのは秀隆ではなく、瑞希達を取り押さえていた不良の一人、モヒカン男に耳打ちした『赤毛』の不良だった。

 

「て、テメエら何モンだ!?」

「俺達か? 俺達は――」

 

 赤毛の不良と、その周りの不良達が一斉に帽子を脱ぎ捨てる。

 

「凶刃の悪友だよ」

 

 帽子を脱ぎ、正体を露わにした雄二は、モヒカン男に向かって不敵に笑う。それに伴い、明久、秀吉、ムッツリーニも正体を明かす。

 

「テメエは、悪鬼羅刹!」

「俺の事も知ってたか」

 

 翔子の縄を解きながらモヒカン男を警戒する雄二。明久達も瑞希達の縄を解き、解放する。

 

「テメエ等、どっから入りやがった?」

「どこって普通にそこの窓からだが?」

 

 そう言って雄二が指を差したのは、秀隆が侵入してきた窓だった。

 

 

「どっかのバカがご丁寧に開けてくれたからな」

「うっせいよバカ」

 

 モヒカン男を無視して互いをバカにし合う雄二と秀隆。

 

「ふん。まあいい探す手間が省けたからな」

「何だと?」

 

 手間が省けた、というモヒカン男の言葉に雄二が眉を顰める。が、モヒカン男はニタニタと笑うばかり。

 

「それに、こっちにはまだ人質がいるんだ」

「ぐっ……」

 

 そう。モヒカン男の手の内にはまだ優子がいる。これでは迂闊に手出しできない『筈』である。

 

「ククク……俺が何の為に優子をテメエの人質にしたと思ってるんだ?」

 

 ボロボロの秀隆が笑い声を零しながら、ヨロヨロと立ち上がる。顔中が痣だらけで、右の瞼は腫れ上がり、口の端からは血を流しているのに、嬉々とした笑みを浮かべている。その不気味としか言いようのない光景に、周りの不良達は一歩引いて秀隆から距離をとった。

 

「あん?」

「優子、分かってるよな?」

 

 傷だらけなのにも関わらず、人を食ったような秀隆の表情と言葉。優子は自分のすべきことを察した。

 

「……はあ。今度絶対に奢ってもらうから、ね!」

 

 秀隆に文句を言いながら、優子はモヒカン男の足の甲を思い切り踵で踏みつけた。

 

「ぎゃあっ!」

 

 完全に油断していたモヒカン男は、突然襲ってきた激痛に思わず手を放す。

 

「ガブッ!」

 

 更に優子がナイフを持っていた方の手に噛みついた。この反撃で、モヒカン男は得物を手放す。

 

「シッ!」

 

 その隙を逃さず、秀隆は三度、鎖分銅を振るう。

 

「ぎゃあああっ!」

『『『あ、兄貴!?』』』

 

直線を描いて進む分銅は、見事にモヒカン男の眉間を捉えた。そして周りの不良達が驚愕している間に、素早く起き上がり、優子の元に駆けよる。

 

「流石だな優子。ナイス踏みつけ」

「それどう言う意味よ?」

 

 優子の縄を解きながら軽口を叩く秀隆と、それにいつものノリで応える優子。本当にこの二人だけはこの状況を物ともしていなかった。

 

「て、テメエ等……ただで済むと思うなよ……?」

 

 ダメージから回復したモヒカン男が怒りと憎しみの籠った眼で秀隆達を睨みつける。取り巻きの不良達も改めて得物を構え、臨戦態勢に入る。それを見て、雄二は「上等だ」と指を指を鳴らし、明久達も身構える。

 

「クカカ。いつ俺の作戦が『これだけ』つったよ?」

『『『『『え?』』』』』

 

 秀隆の放った一言に、優子『以外』の全員が驚愕する。それを余所に、秀隆はポケットをゴソゴソと漁る。

 

「優子が言っただろ? 俺の作戦は既に成就してるってな」

 

 そして取り出したのは『通話中』の表示がされた携帯電話。

 

「ま、まさ――」

「そこまでだ!」

 

 モヒカン男が言い終わる前に、工場入口の扉が開け放たれ、眩いライトの光が外から中に侵入する。光の中心には、スーツ姿の青年が一人。

 

「貴様ら、薬物法違反、未成年者略取、婦女暴行未遂及び傷害の現行犯で逮捕する!」

 

 青年の宣言と共に、ライトの光の影から幾人もの警官隊がなだれ込む。

 

「ち、チクショー!」

 

 抵抗虚しく、手錠をかけられるモヒカン男。誘拐事件の幕引きは、文字通り、ドラマの様な展開で終幕となった。

 




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