バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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大変長らくお待たせしました! 第三十二問です!


第三十二問

第三十二問

 

 

 引率の先生の誘導に従い、秀隆と秀吉は準決勝の会場へと少し速足で移動している。

 

「神崎君、木下君。もう直ぐ入場が始まりますから急いでください」

 

 先生が二人を急かす。それに対し、二人ともただ黙って頷いてついて行く。

 

『大変お待たせしました! これより、試験召喚大会準決勝を行います!』

「さ、入場して下さい」

 

 司会の先生の声に合わせ、引率の先生が二人に道を譲る。

 

『『『わああああああっ!!!』』』

 

 ステージを挟んで向かい合った入場口から選手が入場した途端、観客席から歓声が上がる。一組は当然、秀隆と秀吉ペア。もう一組は、ある意味宿敵とも言える常夏コンビである。

 

「よう。性懲りもなく出場してきたみたいだな」

「まったく。お前らが公衆の面前で恥をかかないように配慮してやった先輩の優しさを踏みにじりやがって」

 

 司会の先生が召喚システムについて説明する中、下卑た笑みを浮かべ、ゲラゲラとあざ笑う常夏コンビ。その態度自体は他の上級クラスの生徒と大差はないが、秀隆たちには今まで以上の憎しみが込み上げて来る。

 

「……」

 

 その証拠に、秀吉が今まで見せたことのない怖い形相で常夏コンビを睨みつけている。秀隆はそんな秀吉の肩をポンと一つ叩く。

 

「止めておけ。お前がいくら睨んだところで、あの猿共にお前の気持ちなんぞ微塵も分かりゃしねえよ」

「テメエ。先輩に向かって何てこと言いやがる!?」

 

 秀隆の横柄な態度に夏川が目くじらを立てる。秀隆は常夏コンビを一瞥すると、

 

「……ハッ」

 

 と鼻で嗤った。

 

「「ぶっ殺してやるよ!!」」

 

 常夏コンビの堪忍袋の緒が切れたと同時に――

 

『それでは試合開始!』

「「「「試獣召喚(サモン)っ!」」」」

 

 試合開始のゴングが鳴り、四人とも一斉に召喚獣を召喚する。常夏コンビの装備は、夏川が羽のついた羽織の様な服装に武器は太刀、常村が左腕に肩まであるガントレットを装着した軽戦士風で武器は片刃の大剣だ。

 

「テメエらFクラスじゃお目にかかれない点数を見せて――」

 

――パンッ――

 

 夏川が言い切る前に、会場に一発、いや『二発同時』の銃声が響く。

 

Fクラス 神崎秀隆 保体:537点       Aクラス 常村勇作 英語:0点

&          VS          &

Fクラス 木下秀吉 保体: 92点       Aクラス 夏川俊平 英語:0点

 

『し、勝者、Fクラス、神崎君、木下君ペア』

 

 余りにも一瞬の出来事に、司会の先生も何が起こったのか分からず、辛うじて電光掲示板に現れた点数から秀隆達が勝利したことだけが理解できた。観客に至っては勝者が決定しても呆気に取られているばかりだ。

 

「な……一体何が……?」

「俺達の点が一瞬で……?」

「帰るぞ秀吉」

「うむ」

 

 茫然とする常夏コンビを背に、秀隆と秀吉は会場から去ろうとするが、

 

「「待てやコラー!」」

 

 いち早くそれに気づいた常夏コンビが制止する。

 

「何っすか? もう勝負はついたでしょう?」

「こんな結果納得できるか!?」

「そうだ! 再試合だ!」

 

 試合結果を不服とした常夏コンビは当然再試合を申し出るが、秀隆はそれに応じようとはしない。

 

「アンタ等の点数がどうだったかは知らないけど、開始直後に攻撃されないと油断してたそっちが悪いだけだろ?」

「んなもん武器が銃だなんて――」

「事前に相手の下調べしてなかったそっちが悪い」

「だからって開始直後に攻撃ってのは――」

「大会とは言ってもこれは言わば試験召喚戦争の一環で延長。だったら戦場でそんな甘いこと考えてる方がおかしい」

 

 常夏コンビの反論に淡々と、にべもなく答える秀隆。常夏コンビは二の句を告げれずにいたが、

 

「はっ! そうだ、客だ! お前らが良くても、観客が納得するかな?」

 

 客席の方に向き、観客に意見を求める。

 

『そうだそうだ!』

『もっと試合を見せろ!』

 

 あっさりと終わってしまった準決勝に消化不良な観客たちは、当然再試合を要求する。

 

「どうだ? これでもまだやらないって言えるか?」

 

 完全に観客を味方に付けた常夏コンビは勝ち誇ったかのような表情でさらに問い詰める。

 

「……やれやれ」

 

 心底呆れたように首を横に振り、秀隆はステージに戻り、秀吉もその後を追いかける。

 

「漸くその気になったか」

「逃げ場塞いどいてよく言うぜ。それで、科目はどうするんです? まさか無くなった保体でやるわけにもいかないでしょう?」

「安心しろ、念の為に補充テストを受けてたから保体以外は全部行けるぜ」

「へえ」

 

 秀隆がニヤリと笑う。いつもの企んだ笑みで。

 

「なら、地理なんてどうです?」

「秀隆!?」

 

 地理を提案した秀隆に、秀吉は驚愕する。秀隆が最も得意な科目は化学。逆に地理は最も苦手な科目だ。秀吉も当然化学を選ぶと思っていた。

 

「別に俺達は構わないぜ」

「ああ。お前らFクラスと違って俺達Aクラスに死角はないからな」

「ならもう一つ提案。2対1でやりません?」

「2対1だと? 俺達のどっちかと戦おうってのか?」

「逆ですよ。こっちからは俺『一人』で戦うんで、そっちはお二人でどうぞ」

「お主何を考えておるんじゃ!?」

 

 苦手な地理でしかも2対1。いくらなんでもこれは無謀だ。

 

「おいおい。冗談かよ?」

「まさかテメエ。一人で俺達に勝つつもりかよ?」

「実際さっき俺一人に負けてますよね? まさかそれとも、『また負ける』のが怖いんですか? センパイ方?」

「……いいぜ。やってやるよ」

「後で吠え面かくんじゃねえぞ」

「……はっ」

 

 負ける要素が一つもない。秀隆の嘲笑は全てを語っていた。

 

『……ええ。それでは地理の先生もやってきたところなので、試験召喚大会の準決勝再試合を開始しします!』

「「「試獣召喚(サモン)っ!!!」」」

 

 再戦開始のゴングと共に再び召喚される三人の召喚獣。そして注目のその点数は――

 

Aクラス 常村勇作 地理:189点

Fクラス 神崎秀隆 地理:62点   VS            

Aクラス 夏川俊平 地理:182点

 

「「はあっ!?」」

 

 その差約3倍。秀吉の予想通り、圧倒的に秀隆の不利である。尤も、秀吉も秀隆と似たり寄ったりの点数なので仮に秀吉が参戦していたとしても戦力的に大差はなかったが。

 

「テメエ。ふざけてんのか!?」

「何なんだその点数は!?」

 

 秀隆の点数を見た常夏コンビが怒号を上げる。会場の観客、果ては司会と地理担当の先生も驚愕してる。

 

「如何にも。これが俺の『苦手科目』の点数だが?」

「んだと?」

「まだ分からないのか?」

 

 秀隆と召喚獣はヤレヤレ、といった風に首を左右に振り、

 

「アンタらごとき、この点で十分だってことだよ」

 

 中指を突き立てる。

 

「「上等だゴラアアアアッ!!!」」

 

 最早優等生とは思えない程の怒りの顔と雄叫びで、常夏コンビは召喚獣を突貫させる。対して秀隆の召喚獣は、手を軽く開き、右腕を上に、左腕を下にして構える。所謂『天地上下の構え』である。

 

「どりゃあああっ!」

 

 先ずは夏川の召喚獣が斬りかかる。

 

「はっ! たぁっ!」

 

 秀隆はその剣を右腕でいなし、左の掌底を召喚獣の腹部に叩き込む。

 

「貰ったあ!」

 

 その隙を突いて、常村の召喚獣が死角から斬りつけるが、

 

「せいやぁっ!」

 

 後上段回し蹴りで軌道を逸らし、その顔面に膝蹴りを見舞う。攻撃自体は、生身の喧嘩であればどちらも致命的な一撃となるが、点差もあり、相手の召喚獣にはあまり有効打を与えることができなかった。

 

「なっ!?」

「ちぃ!」

 

 だが相手の動揺を誘う事が出来た。この隙に一気に攻めかかるだろう。秀吉はそう思っていたが、

 

「どうした? もう終わりか?」

 

 秀隆は追撃することなく、相手が再び立ち上がるのを悠長に待っていた。

 

「……何企んでやがる?」

 

 ここまでされては、いい加減常夏コンビも秀隆が何かを企んでいることは把握できた。

 

「企む? 何のことですか?」

「とぼけんじゃねえ! テメエ、何か企んでやがるな?」

「まあ、流石に分かるか。まあ企むっていっても大した事じゃねえよ」

「あん?」

「ただアンタらが無様に負けるところを観衆に見せたいだけだよ」

 

 と言い放って、秀隆はまた天地上下の構えを取らせる。常夏コンビもある程度冷静になったのか、今度は一気に攻めずに、得物を構えたままジリジリトと間合いを詰める。

 

「へえ。流石にバカじゃないか」

「当たり前だ」

「俺達はテメエらとは違うんだよ」

「なるほど。じゃあ――」

 

 秀隆の召喚獣が膝に力を込める。

 

「こっちから行くまでだ」

 

 秀隆は召喚獣を常夏コンビの元へ肉薄させる。

 

「ハッ! バカが!」

「返り討ちだ!」

 

 当然常夏コンビは迎撃の構えを取る。それにも構わず、秀隆は召喚獣を走らせる。

 

「ここだあっ!」

 

 タイミングを見計らい、夏川は剣を秀隆の召喚獣に叩き付けようとする。

 

「……」

 

 秀隆はその攻撃を紙一重で横に跳び、回避するが、

 

「貰ったあっ!」

 

 それを見越し、常村が死角から攻撃する。

 

「……だろうな」

 

 秀隆は着地と同時に更に召喚獣を横に飛ばす。

 

「逃がすか!」

 

 常村も千載一遇のチャンスを逃さまいと、武器の軌道を変え、追い詰める。

 

 

――ガキィン――

 

 

「「んなあっ!」」

 

 常夏コンビの顔が今日何度目かの驚愕に歪む。常村の召喚獣が斬りつけたのは、秀隆の召喚獣ではなく、夏川の召喚獣が振り下ろした剣だった。夏川の召喚獣が秀隆の召喚獣を仕留め損ねた後、当然夏川は次の攻撃の為、構え直そうとしていた。だがそれよりも速く、秀隆の召喚獣が「剣の上」を飛び越えた為、それを追っていた常村の剣が夏川の剣を叩いたのだった。

 

「常村テメエ何やってんだ!?」

「テメエが鈍いのが悪いんだろうが!?」

 

 常夏コンビは互いに互いを罵り合い、秀隆から注意を逸らした。

 

「余所見すんなって言ったろ?」

 

 その隙に秀隆は夏川の召喚獣に接敵、その剣の柄を掴む。

 

「しまっ!?」

 

 そのまま足払いをかけると同時に柄を捻り、夏川の召喚獣から剣を奪い、

 

「さようなら」

 

 一刀の元に斬り伏せる。

 

「夏川!?」

「終わりだ」

「あっ!?」

 

 秀隆は夏川から奪った剣が消える前に、剣を横に振り、夏川の召喚獣の首を刎ねた。

 

『勝者! 神崎秀隆!』

 

 結局、常夏コンビが勇んで挑戦した再戦も、あっけなく秀隆の勝利で終わった。いや、2対1で、しかも相手の苦手教科で負けたとあっては、二人の屈辱は前以上であろう。その証拠に、二人とも肩をワナワナと震わせ、親の仇の様に秀隆を睨みつけている。

 

「テメエ……」

「どうした? 先輩方?」

 

 対称的に、秀隆の態度は冷ややかで、まるでもう興味を無くした玩具の様に常夏コンビを見ている。

 

「インチキだ! こんなのあるわけがねえ!」

「ああそうだ! 絶対イカサマがあったに違いねえ!」

 

 などと騒ぎ立てる常夏コンビ、自分達が負けたのが余程信じられないのだろう。周りからの非難めいた視線にも気づかず、秀隆の不正を訴える。

 

「いい加減にせんかあ!!」

「「!!?」」

 

 突如、空気が震えんばかりの怒号が会場に木霊した。声のした方へその場に居た全員が視線を奔らせる。そこには、浅黒い肌で筋骨隆々の教師、鉄人こと西村教諭が居た。

 

「お前達! さっきから聞いていれば……!」

 

 鉄人は声を荒げながら、常夏コンビの方へズンズンと進んで行く。

 

「げえっ!?」

「て、鉄人!?」

「西村先生と呼べ!」

 

 常夏コンビの元に着くなり挨拶代りの鉄拳を見舞う。

 

「でっ! 何しやがる!?」

「た、体罰だぞ!?」

「喧しい!」

 

 常夏コンビの必死の抵抗も、鉄人の怒号一喝で消し飛んでしまう。

 

「お前達! 何だあの態度は? Aクラスとして恥ずかしくないのか?」

「け、けど――」

「けどもあるか! それに、アイツ等が不正をしたと言う証拠がどこにある?」

「じゃないと俺達がFクラスに負けるなんて――」

「それはお前らの主観でしかないだろうが!」

 

 その後も、公衆の面前で鉄人からの説教を喰らう常夏コンビ。そんな二人を尻目に、秀隆は秀吉を促し、会場をあとにした。

 

「良いのか? 放っておいて」

「アイツ等の処理は鉄人に投げていいだろ。それより明久達だ」

 

 秀隆の興味は既に別会場で行われているであろう明久達の試合に向いていた。

 

「相手は姉上に霧島じゃったの」

「ああ。客観的にも主観的にも、明久と雄二の不利は確実だからな」

「明久は作戦があると言っとったが?」

「どうせ雄二を人身御供にして不戦勝を勝ち取ろうって腹だろ」

「……なるほどの。なら秀隆が居ないと意味がないの」

「何で俺がいると成功するってなるんだよ? まあいい。兎も角。霧島は釣れるだろうが、優子がそんな手に引っかかるわけがねえ」

「(じゃから秀隆が要ると言うとろうに)」

 

 と、二人が明久達の会場に向かっていると――

 

「あ、二人も終わったんだ」

「ご苦労さん」

 

 前から明久と雄二が向かってくるところだった。

 

「お前ら、もう負けたのか?」

「いきなり失礼だな……まあそう言われてもしかたないが」

「僕達、勝っちゃったんだよ」

「「はあ!?」」

 

 明久達の勝利報告に、秀隆達は開いた口が塞がらなかった。

 

「おまっ!? 一体どんな手使ったんだよ?」

「お主も常夏コンビの事言えぬのう。まあ気持ちは分かるがの」

「まあ当然だろうな。俺が逆の立場でも同じ事いってるだろうよ」

「だよねえ」

「んで、実際何があった?」

「それが……」

 

 明久にしては歯切れが悪く、雄二の顔色を窺っている。雄二は一言溜め息を吐くと、

 

「翔子達が会場に来なかったんだ」

 

 と告げた。

 

「「……はあっ!?」

 




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