一応の言い訳をさせて頂くと、精神的に不安定な時期がありまして、中々続きを書けずにいてそのままズルズルと放置状態でした。
最近SEEDの二次小説を書いてまたモチベーションが出てきたので、亀更新になるとは思いますがボチボチやっていきたいと思ってます。
第三十三問
Aクラスに続く廊下を、秀隆は速足に歩いていた。その表情は険しく、すれ違う人がみな一様に避けていく。中には制服を着ているにも関わらず、不審者と思い教師を呼ぼうとする人もいた。
それにも目もくれず、秀隆は目的地を黙々と目指す。その場所には案外すんなりと到着した。
「邪魔するぞ」
ガラリとドアが乱暴に開かれる。その音とあからさまに不機嫌な声に、室内にいた人のほとんどが振り返った。
それすらも意に介さず、秀隆は案内しようとする生徒を無視し、空いている適当なテーブルに座る。
どっかりと背もたれに体重を預け、眼光鋭く居座る姿に、給仕担当の生徒は誰も近づけないでいた。
「……ご注文をお伺いします」
そんな彼にひとりの少女が注目を聞きにきた。翔子だ。彼女は臆面もせず、秀隆に水とメニューを差し出した。
「……チーズケーキとコーヒー。うんと苦くしてくれ」
「かしこまりました」
メニューも開きもせず秀隆はオーダーを出した。翔子も素直に注目を承り、引き下がる。周りで見ていた人がホッと息を吐くのが感じられる。
「お待たせしました」
「……」
頼まれた品を持ってきたのは翔子とは別の少女。彼女はテーブルにケーキとコーヒーを置くと、そのまま秀隆の正面に座った。
「……ここはいつからコンカフェになったんだ?」
「休憩よ。代表に頼まれたの」
フンと不機嫌なままに鼻を鳴らす秀隆。対面した少女、優子も、肘をついてそちらから視線を反らしていた。
「借りを返したつもりか?」
単刀直入。優子相手にまどろっこしい応答は無意味と知っているのでシンプルに問い質した。『借り』とは、当然昨夜の一件である。
「そんなわけないでしょ。こっちが忙しかったのよ」
周りの喧騒を指して示してみせる。確かに、クラス中生徒が忙しそうに動き回っている。客足も多く、厨房班もてんてこ舞いなようだ。
優子の言っていることは嘘ではない。半分は、ではあるが。
「……私が出場を止めた」
いつの間にか優子の後ろに立っていた翔子が説明した。
「……ここが忙しかったのはそう。けど、本当の理由は優子」
「あん?」
優子がどうしたと言うのだろうか。改めて秀隆は優子を観察する。頭、手、足、顔、まじまじと見ていたので優子は不機嫌な顔をした。
「……?」
秀隆は違和感を覚えた。その違和感を探るべく。秀隆は顔を優子に近づける。
「……何よ?」
優子が横目に睨んでくるのもお構い無し。無遠慮に彼女の顔を覗き込む。
「あ……」
そこでやっと分かった。彼女は化粧をしていた。優子とて年頃の女子高生。多少の化粧は嗜むだろう。しかし今の彼女は化粧下地からコンシーラー、目元にはチークやアイシャドウとしっかりとメイクをしている。その化粧の下に見える涙袋のあたりが少し腫れていた。それにさっきは気づかなかったが、手や足が時折小刻みに震えていた。
「……悪ぃ」
秀隆はバツの悪そうに顔を離した。気丈な優子の態度で気づかなかった。いや、優子だけではない。瑞希や美波もそうだ。みんなが何もなかったかのように振る舞っているが、昨夜のできごとは、普通トラウマになってもおかしくはない。男性恐怖症に陥って表を歩けなくなっても不思議ではないのだ。
翔子の言った優子の体調不良は、精神的な不安定さだった。
「……アンタが謝ることないでしょ?」
それでも、優子は気丈に振る舞った。周りに心配されない様に。秀隆に悟られないように。
秀隆もそれを悟り、おもむろにコーヒーに口をつけた。
「……苦いな」
「アンタがオーダーしたからね」
そこで初めて、優子は笑った。
『間もなく、試験召喚大会決勝戦を始めます。吉井明久君、坂本雄二君、木下秀吉さん、神崎英孝君は至急会場控え室まで集合してください。繰り返しますーー』
暫くして、大会決勝戦準備のアナウンスが入った。ケーキとコーヒーを平らげた秀隆はテーブルをたつ。
「うっし! んじゃちょっくら行ってくるわ」
「頑張んなさいよ」
優子のエールにヒラヒラと手を振り返し、秀隆はAクラスを後にした。
「……優子。私たちも行こう」
「え?」
秀隆が出ていった後、接客に戻ろうとした優子を翔子が誘った。
「……私はココやっとくから、代表は坂本君の応援に行ってくるといいわ」
翔子の誘いを、やんわりと優子は断った。しかし、翔子は首を横に降る。
「……優子も一緒」
「私はいいわよ」
翔子は頑なに優子の腕を取る。優子はその手を解こうとしたが、翔子の地からが思いの外強く中々外せない。
「……ダメ。優子も見るべき」
「わたしが行ったってどうしようもないでしょう?」
それでも翔子は引き下がらない。元々頑固な性格ではあるが、それにしても今回は粘っている。
「……行こう? 優子」
コテン、と翔子が首を傾げる。普段からは見せない可愛さに、優子はつい絆されそうになる。
「うっ……可愛く言ってもダメなものはダメ!」
「…………ちっ」
不意に聞こえた舌打ちは聞かなかったことにした。
「行ってくればいいじゃん!」
「うわっとっ!?」
突然の後ろからの突撃に、優子は辛うじて踏ん張った。愛子が後ろから抱きついてきたのだ。愛子はそのまま優子の頬をぷにぷにとつつく。
「愛子! 危ないじゃない! それとつつくな!」
優子は愛子を引き剥がすが、愛子は離れたくないとばかりにまた抱きついてきた。
「そんなに恥ずかしいがらなくてもいいじゃあん」
愛子さらにウリウリと優子の頬を指でつく。優子は本当に鬱陶しそうに愛子の手を払った。
「止めなさい。それに、私は行く気はないわよ」
「何で?」
愛子は優子の言っている意味が分からないと首を傾げる。優子は優子で、頑なに観戦拒否の姿勢を崩さなかった。
「行ってなんになるのよ?」
「何にもなんない事はなくない?」
行っても意味はないと言う優子に、行く意味はあると言う愛子。問答は平行線を辿るだけ。それを見かねてか思うところがあるのか、翔子が口を開いた。
「……確かに私たちが行っても、勝敗は変わらないかもしれない」
「変わらない? そんなの分からないじゃん?」
優子を肯定するような翔子に、愛子は疑問を投げかけた。
「代表は坂本君が勝つと思ってるんでしょ」
「けど負けるかもしれないよ?」
翔子が雄二の勝利を願っているのは言うまでもない。しかし勝負は時の運。どちらが勝つかは最後まで分からない。
「……もちろん雄二が勝つ。それは変わらない」
「凄いよね。そんなに確信できるの」
「……だから大事なのは『私の』気持ち」
「代表の?」
翔子はコクンと頷く。
「……愛子も言ってたけど、勝負は時の運。どちらが勝つかは分からない。けど、どちらかが勝つ事は決まってる」
「そりゃあまあ。理屈ではそうだけど」
「……だったら私は雄二が勝つことを信じる。例えどんな結果になっても『雄二を信じた私』の気持ちは変わらない。だから私は雄二を応援する」
結果は関係ない。大事なのは相手を想う気持ち。自分が信じた相手を信じること。偽りも濁りもない親愛の眼差しに、優子も愛子も見入っていた。
「……それで雄二が少しでも頑張ってくれたら嬉しい」
「代表って乙女チックだよねえ」
「……そして雄二と結婚する」
「それは飛躍しすぎよ」
いい話だったのに、何だかんだいつもと変わらぬ翔子に優子は苦笑してしまった。
「じゃあ優子も行かなきゃね」
「何でそうなるのよ?」
「優子だって神崎君に勝ってほしいでしょ?」
勝ってほしい、のかどうか優子は判断しかねていた。というより、秀隆が『負ける』姿が想像できない。快勝だろうが辛勝だろうが、最後まで立っている姿は想像にかたくないが、無様に倒れ混んでいる姿がどうにもしっくりこない。
それも信頼からくるものなのだが、この時の優子はまだソレに気づいていなかった。
「アイツなら私がいなくても何とかするでしょ」
「そんなこと言ってえ。神崎君のカッコいい姿見たくないの?」
「アイツがカッコよくなるわけないでしょ」
見飽きた相手に、今さらカッコいいなどと言う感情は沸き上がってこない。いつも通り、ただそこに居るだけ。それが当たり前なのだ。
「そう? けど良いの?」
「何が?」
「だって大会で活躍したらファンの娘とかできちゃうんじゃない?」
秀隆は今まで不良のイメージが強かったが、試験召喚戦争や今大会の活躍っぷりで、そのイメージが払拭されつつある。愛子はそれを危惧するよう言ったのだが。
「別に良いんじゃない? それで有頂天になるわけでもないし」
優子は微塵も危機感を感じてはいなかった。
「……何かムカつく」
「……同感」
その余裕に、愛子も翔子も苛立ちを覚えた。
「兎に角! 私は行かない! 第一、代表も私もいなくなったら誰がココを切り盛りするのよ?」
「それは……」
優子の言う通り、今Aクラスの出し物は翔子と優子が取り仕切っている。その二人が抜けてしまうのは運営的にもよろしくない、というのが優子の弁。
「大丈夫だと思うよ?」
そこに待ったをかけたのは久保だ。言い争っている三人を何事かと気にして声をかけてきたのだ。
「多分ピークは過ぎてるし、召喚大会が始まればお客さんはそっちに行くだろうし」
久保の言う通り、試験召喚大会の間は客足は会場に向く傾向にある。Aクラスの大ヴィジョンでも放送はしているが、スポーツ観戦の様に画面越しよりも生で見た方が臨場感があるため、どの試合も客席は満杯になる。その時にAクラスに来るのは、純粋に喫茶店を楽しむ人と会場から溢れた人だ。基本的に客はお喋りするか観戦に夢中なので、注文ミスさえなければ問題ない。
始めはたどたどしかった生徒たちも、今は慣れてハキハキとできている。
「それに僕や鳳君たちもいるから大丈夫だよ」
久保はトンと自分の胸を打つ。久保に限らず、Aクラス生徒はみな優秀で真面目だ。指揮系統が二人減ったところで大きな問題にはならない、と久保は太鼓判を押す。
「えー? 私はー?」
「もちろん、工藤さんも頼りにしてるよ」
愛子は持ち前の愛嬌があるので接客では人気者だ。軽率な言動のわりにキチンと仕事もこなすので信頼も厚い。
「だから行ってきなよ」
「そうだよ!」
『こっちは大丈夫だよ』
『行ってきなよ木下さん』
久保に愛子だけでなく、他のAクラスのみんなも優子を送り出そうと声を上げる。その様子に、お客さんまでもが温かい笑みを浮かべた。
「……行こう、優子」
翔子が今一度優子の手を取る。周りに後押しされて、優子も渋々ながら観念した。
「……仕方ないわね。みんな、後をお願い」
「もちろん」
「任せといて!」
『おう!』
『行ってらっしゃい!』
着替える間も惜しいと、翔子はメイド服のまま優子を連れ出した。
「ちょと代表! せめて着替えてからーー!」
「……早くしないと席がなくなっちゃう」
その華奢な身体のどこにそんなパワーがあるのかと、翔子は猛烈な勢いで優子を引っ張って行った。
「ふう。やっと行ったね」
一仕事終えたように、愛子は額の汗を拭う素振りをみせる。もちろん、本当に汗などかいてはいない。
「工藤さんは良かったの?」
久保が愛子に尋ねる。こういったイベントは愛子も機雷ではないはずだ。
「そりゃあ行けるなら行きたいけどさ。そしたら優子絶対行かないもん」
優子がやせ我慢しているわけではないと愛子も分かっている。それでも、優子には見に行ってほしかった。
「せっかくの幼なじみの晴れ舞台だよ? 行かせてあげなきゃ友達が廃るよ」
「なるほどね」
久保は一応は納得した。
「土屋くんは出てないみたいだし。工藤さんは行く意味がないのかもね」
「さーて仕事仕事! 二人がいない分頑張らないと!」
久保の言葉を遮る様に愛子はわざとらしく声を張り上げた。
「やれやれ。案外素直じゃないね」
久保は何かを覚ったように肩をすくませる。傍を通った女生徒もしたり顔で頷いた。
『すみませーん!』
「はい! 少々お待ちください!」
とは言っても二人の穴を埋めなければならないのは事実で、久保もすぐに接客に勤しむことになる。
決勝戦のゴングは、もう間もなくだ。
ご感想などございましたらよろしくお願いいたします。ん
1話分の長さは?
-
5000字程度(約5分)が良い
-
10000字程度(約20分)は欲しい
-
区切りが良ければ何文字でも構わない