第三十五問
雄二が余計な思考を止め、目の前の戦いに専念し始めた時、観客の視線はもう一方のバトルに集中していた。
「ツインバレットっ!」
バックステップからの2丁拳銃による連射。足元に雨と振る弾丸を、明久は召喚獣を大きくジャンプさせることで回避。
「崩襲脚っ!」
落下の勢いと体重を乗せた高所からの踏みつけを、秀隆は銃をクロスさせて受け止めた。
「ぐぅ……だあっ!」
一気に膝にかかる重圧を耐えきり、明久の召喚獣を撥ね飛ばすように打ち上げた。
「エアリアルバレット!」
追撃の連射。空中にいる明久はその凶弾から逃れることはできない。
「魔神、閃光断!」
空中で斬り上げ、斬り払いからの衝撃波で銃弾を打ち落としていく。
「やるな! だが甘い!」
着地ポイントを狙って、秀隆は再び弾丸をばら撒く。またしても回避困難な盤面を作らされた。
「終わらない!」
明久は落下の勢いを利用し、木刀をステージに叩きつけて破片をばら撒いた。物理干渉のできる観察処分者だからこそ可能な技。飛散した破片は銃弾とぶつかり合い相殺される。いくつか掠りはしたが、致命傷は免れた。二度目の窮地も何とか脱した。
「はぁ……はぁ……」
「ふぅ……ふぅ……」
肩で息をする2人。観察処分者の召喚獣操作は精神力だけでなく体力も消費する。さらにはダメージもフィードバックされるから長期戦には不向き--と観戦していた文月学園生徒は思っていた。
2人の戦いは正に格闘技。それも時間無制限ルール無用のストリートファイト。同級生はもちろん、試召戦争を経験済みの3年生、これから経験スルであろう1年生も改めて思い知ることになる。点数だけでは勝てないのだろうかと。
観客たちは明久たちの様子から決着は近いと感じていた。
「へへっ……」
「ははっ……」
そんな中で、2人は笑った。膝に手を当て、顔中に汗をかいているというのに、心底楽しそうに笑った。
「いやぁ何時ぶりだ? お前とこんだけ戦わせたのは」
「覚えてないよ。喧嘩すらしてこなかったんだから」
生身の喧嘩では明久が一方的にボコボコにされて終わるだろう。召喚獣という対等な状況でこそなしえる白熱したバトル。目の前の相手に全力で立ち向かえる昂揚感。明久も始めての経験に、戸惑いつつも興奮を隠せない。
「なんか……もっと戦ってたいね」
「やなこった。とっととケリをつけるぞ」
悪態をついてはいるが、秀隆の方も十分に楽しそうだ。観察処分者の制限、試召戦争の制約、それらを一切考察しなくていい。柄にもなくただただ純粋な闘志が漲る。その様子に、観客たちも興奮し、固唾を飲んで見入っている。
「「魔神剣!」」
再び放たれる衝撃波。先ほどと同じようで、今度は展開が変わった。
「--双牙!」
秀隆はもう1本の剣も振り、2つ目の衝撃波を放つ。1つ目が相殺された陰からの2つ目が明久を襲う。
「裂空斬!」
明久はこれを冷静にジャンプして回避。さらには垂直方向の回転斬りを加えて逆襲を仕掛ける。
「おっと」
秀隆も冷静に見ていてバックスステップで難なく回避。明久はこれを見て着地と同時にダッシュし距離を詰める。
「飛燕瞬連斬!」
「閃空衝裂破!」
明久はすれ違いざまに斬りつけ、さらに飛び上がりながらの連続斬りを放つ、が秀隆も飛び上がりながらの連続水平方向回転斬りで対応した。空中で刃が激突し2人の間合いがまた開く。
間髪いれず、着地と同時に両者が仕掛ける。
「「爪竜連牙斬!」」
流れるような連続斬り。剣舞のような立ち合いに火花が散る。
つばぜり合いからの離脱、接近して斬り合い。時に銃弾が頬を掠め、木刀が脇腹を捉えんと薙ぐ。 少し前よりも更に激しい一進一退の攻防。時間にして僅か10分程度のはずが、何倍にも長く感じらる。
「閃光墜刃牙!」
「月閃、虚崩!」
明久の回転斬りからの突き上げに、秀隆は弧を描く様な斬り上げからの斬り落としで応じる。
お互いに残り体力は僅か。どちらかが、あるいは両方がいつ倒れてもおかしくない。
「はあああっ!」
「やあああっ!」
白熱した勝負が繰り広げられる一方で--
「おらおらおらおらぁ!」
「ぐぅ--!」
雄二と秀吉は正に一方的な展開だった。避けることも逃げるとこも許さない文字通りの猛攻。時折みせていた隙も鳴りを潜めただただ殴る。秀吉も何とか抵抗を試みるが、その尽くを上から捩じ伏せれジリジリと後退を余儀なくされる。
「どうした秀吉! さっきみたいに挑発してみせろよ!」
牙を剥き出しに悪役の如く意地悪く嗤う雄二。秀吉も不敵に笑ってみせるが、どう見てもハッタリ。首筋に冷や汗が流れる。
「っ! しまった!」
ついに秀吉の召喚獣はステージの端まで来てしまった。
召喚フィールドはバトルステージよりもいくらか広く展開はされている。が、ステージ外に召喚獣が出た場合ダウン扱い。つまり敗北となる。
「万事窮すだなあ、秀吉!」
雄二の笑みが更に邪悪になる。しかし窮地な状況とは裏腹に、秀吉の瞳はまだ諦めていなかった。
「これで止めだ!」
雄二のアッパーカットがガードの隙間から秀吉の顎を捉えた。秀吉の召喚獣はなす術なくステージに放物線を描く。誰がどう見ても場外退場だった。
「よし! 明久そっちは--」
「今じゃ!」
雄二が勝利を確信し、後ろを向いた瞬間、秀吉は薙刀を雄二に向かって投げつけた。
「なっ!?」
秀吉が投げた薙刀は、雄二の背中に深々と突き刺さった。
Fクラス 坂本雄二 歴史 0点
雄二の点数が0点になると同時に、秀吉の召喚獣がドタンと地面に落ちた。
「坂本雄二、戦死! 木下秀吉、場外により退場!」
「ま、待ってくれ!」
引き分けを宣言する西村教諭に、雄二が追いすがる。
「秀吉は場外だったはずだ! 最後の攻撃は無効だ!」
「場外退場の条件は『ステージ外の地面に着いた場合』だ。木下の召喚獣は攻撃時、まだ地面に落ちていなかった」
つまり空中セーフということだ。ルール上は有効とはいえ、納得できるかと言えば話は別だ。
「んなもん、納得できるか!」
「ならばどうする? ビデオ判定もできん。仮に木下の攻撃が無効だとして、既に点数を失ってしまったお前の召喚獣はどうするというのだ?」
「ぐっ……」
けんもほろろ。西村教諭は雄二の抗議を一切撥ね付けた。
「しかし、お前の気持ちも分からんではない。その辺りのルールは今後改定していくとして、今は相方を信じてやってはどうだ?」
「む……」
そう。この大会はソロではなくペア。たとえ自分が倒れても相方が生きていればまだ勝機はある。
「明久……」
雄二はただ明久を信じるしかないのだ。それが一番癪ではあるのだが。
ギィンと鈍い音が響く。明久の木刀が召喚獣の手から離れて宙を舞う。剣戟の最中、振りおろした木刀が、掬い上げるように斬り上げられた剣に弾かれたのだ。
明久の召喚獣は大きく手を広げ、無防備な腹をさらけ出す。
「終わりだ!」
秀隆はもう片方の剣で明久の召喚獣を貫かんと突き出す。その凶刃が明久の喉元に迫った。
「(そんな--!)」
明久も自信の敗北を悟る。ここまで来たのに。頑張ってきたのに。最後の最後で。最早諦めるしかなかった。
『バカのお兄ちゃーん!』
『アキ! 負けるな!』
『明久君! 頑張って!』
葉月の、美波の、瑞希の声が聞こえた。まだ信じてくれている。まだ諦めないでいてくれている。まだ負けたわけではない。まだ戦える。
「っ!」
明久は咄嗟に上体を大きく反らし、ブリッジの姿勢で迫り来る刃を回避した。
「なにぃ!?」
全くの予想外。躱されるなど微塵も思ってなかった秀隆は驚きで動きを止めてしまう。
「ここだぁ!」
明久はブリッジの体勢から跳ね起きると、呆気に取られている秀隆の腕を取った。
「しまっーー」
腕に伝わる感覚で正気に戻るが、もう遅い。
「だあああっ!」
豪快な1本背負い。秀隆の召喚獣が半回転して背中からステージに叩きつけられる。
「か、は……」
背中と、頭部も打ったのか後頭部に激痛が走る。体がふらつき膝を着きそうになるが、なんとか踏ん張ってそれは耐えた。
「こ、のぉっ!」
気力を振り絞って引き金を引く、が衝撃と痛みでふらつく頭では、当然狙いをつけれず、銃弾は大きく外れた。
「いけ! 明久!」
「おおおおっ!」
召喚獣を叩きつけた時にこぼれ落ちた剣。明久はそれを素早く拾うと、秀隆の召喚獣の胸に突き立てた。
「があああっ!」
「秀隆!」
フィードバックされた痛みで秀隆が悶える。秀吉が心配してかけよるが、秀隆はそれを手で制した。
呼吸を整えて姿勢を正すと、明久に向かってニヤリと笑う。
「やりゃあ、できるじゃねえか」
Fクラス 神崎秀隆 日本史 0点
秀隆は背中から倒れ込むと、そのまま大の字になって寝っ転がった。
「神崎秀隆、戦死! よって勝者、吉井明久! 坂本雄二!」
西村教諭が高らかに勝者を宣言する。明久まだ信じられないかの様に呆然としていた。けれども、どこを見てもステージに立っているのは明久の召喚獣だ。
「やったな! 明久!」
雄二が明久の首に腕を回す。頭を拳でグリグリとされ、ようやく事態が飲み込めた。
「僕……勝ったんだ……」
「ああ! お前が勝ったんだ!」
今回ばかりは、雄二も素直に明久を褒め称えた。点数でみるなら、番狂わせのジャイアントキリング。正直誰もが予想していなかった結末に、観客は立ち上がり、あちこちから拍手の音が鳴り響く。
明久はその中に瑞希たちの姿を見つけた。
「勝った……やったー!」
会場に明久の勝鬨が轟いた。
「してやられたの」
寝転ぶ秀隆の側で、秀吉が膝をついた。
「まあな。あの状況で負けるとは思わなかった」
「本当かの?」
秀吉が疑いの目を向ける。
「何が?」
「お主のことじゃ。わざと負けたのではないか?」
明久に花を持たせるために。そう問いかける秀吉に、秀隆は首を横に振る。
「んな八百長みたいなことするかよ。……本気で勝ちにいって、本気で負けたよ」
差し出された手を取り、立ち上がる。身体についた埃を払った顔は、どこか晴れやかだった。
「運じゃねえ。あいつは実力で勝ちをもぎ取ったんだ」
「そうか。なら、仕方がないの」
秀吉も明久に称賛を送る。1年生の頃から何かにつけて話題に上がる明久だが、今回は面目躍如。期待以上の大活躍だった。あの西村教諭でさえ、涙を流して拍手している。
「まあ、俺とあいつに『差』があるとしたら--」
秀隆は何かいいかけて、止めた。
「あるとしら、何じゃ?」
「いや、何でもねえよ」
秀隆はチラリと観客席を見やった。そこに確かに居るであろう人に向けて。
『それでは、表彰式を執り行います! 優勝ペアの吉井明久君! 坂本雄二君! 前へ!』
小休止の後、大会表彰式が行われた。ステージ上に設けられた表彰台に明久の雄二が上がり、その横に秀吉と秀隆が並び立った。
『学園長より、表彰状と記念品が授与されます!』
「よく頑張ったさね」
学園長から明久と雄二に表彰状が授与された。その横から西村教諭が黒金の腕輪を、高橋教諭が如月ランドのプレオープンプレミアムチケットの入った封筒を2人に手渡す。
割れんばかりの拍手の中、2人は恭しく優勝の栄誉を賜った。
「よくやったな」
「おめでとうございます」
普段は問題ばかり起こす2人だが、この時ばかりは教師陣からも感心の声が上がる。
2人が賞状と腕輪を掲げると、再び盛大な拍手が巻き起こった。
秀吉と秀隆も明久たち程ではないが、喝采の拍手を受けながら同様に賞状と、賞品の腕輪とプレオープンチケットを受け取り、表彰式は滞りなく終わった。
「ちょっとよろしいですかな?」
そこに待ったの声がかかるまでは。
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