バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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召喚大会エキシビション(腕輪デモンストレーション)です


第三十六問

第三十六問

 

「ちょっとよろしいかな?」

 

表彰式も無事閉幕――の直前に待ったをかけたのは、竹原教頭だった。彼は困惑する放送部からマイクをさらうと、そのままステージに上がった。

 

「ご来場の皆様、私は文月学園教頭の竹原です」

 

ざわついていた会場も、現れたのが教頭だと知って波が引いた。慣例的な拍手もちらほらと鳴る。

 

「まずは優勝した吉井君、坂本君。それに準優勝の木下君――神崎、君に敢闘の意を送ります。おめでとう」

 

型どおりの世辞の言葉。明久たちや学園長、それに西村、高橋両教諭さえもが突然の教頭の登壇を訝しげに見やる。特に秀隆は懐疑の念を隠そうともせず、険しく睨み付けた。

 

「全員がFクラスという、我が校では謂わば最低ランクの成績を持つ生徒たちではありますが、名だたる成績上位者を打ち倒したのはひとえに――」

 

そんな視線などお構い無しに、竹原は美辞麗句を並べていく。だがその端々に、Fクラスに対する侮蔑が感じられた。西村教諭は時折眉を引くつかせ、高橋教諭も口に手をあて悟られないようにしているが、明らかに眉をひそめている。

 

「――そんな我が校きっての画期的なシステム。試験召喚システムですが、この度その技術は更なる進歩を遂げました。そう、彼らが手にした腕輪がそうです!」

 

殊更に大袈裟な手振りで明久たちを示す。一般の観客たちも竹原の熱弁に当てられたのか、再び大きな拍手を送る。竹原が手で制すると、拍手も波のように引いていった。

 

「さて皆様、そんな新技術の一端を、目の当たりにしたいとは思いませんか?」

 

ここで竹原が観客たちに問う。当然、目新しい技術を拝めるとなれば、彼らも見たいに違いない。その返答とばかりに、盛大な拍手がステージを包んだ。

 

「……やられたさね」

 

拍手の鳴り止まぬ最中、学園長がボソリとぼやく。

 

「ああ。まんまとしてやられた」

 

秀隆も、苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「どういうこと?」

「竹原のやろう、どう足掻いても腕輪を暴走させる気だったんだ。常夏コンビは勿論、誰が優勝してもこうやって乱入して腕輪を使わざるを得ない状況を作る」

「そんでもって、調整できてない腕輪を使った途端にに暴走。大スキャンダルってわけだ」

「あやつ、そこまで考えておったのか」

 

状況を理解した明久たちの顔も険しくなる。

 

「それだけじゃねえ。竹原がどっかに情報を漏らしてるとすれば、暴走しなくてもデータは取れる」

「どう転んでも自分は損しないってか。とんだタヌキ野郎だな」

 

竹原とて危ない橋を渡っているのは承知。ならば必ず失敗しない作戦でくる。現に竹原は挑むような、勝ち誇ったような顔で明久たちを見やっている。

 

「それどころか、想定以上に竹原有利だ」

「え?」

「この場に『俺』と『明久』がいる」

「何でお主らがいるとマズイんじゃ?」

「――観察処分者か!」

 

そう。腕輪を手にしたのは観察処分者の2人。もし暴走すれば、その被害は『実際に』観客席におよぶ可能性がある。その場合の損害は想像できない。

 

「ま、マズイよ!」

「ああ。もし暴走させようもんなら、文字通り学園崩壊の危機だ」

「姫路の転校どころの問題ではないの」

 

瑞希の転校を阻止するどころか、学園の存続自体が危うくなる。竹原にとってはサブプランの1つだっただろうが、竹原の予想以上に明久たちが活躍したおかげで、最高の状況を造り出してしまった。

 

「けど、状況的にやるしかねえ」

「でも誰が」

「それには考えがある――学園長」

 

秀隆がこっそりと学園長に近づき、耳打ちする。学園長は最初驚いたが、覚悟を決めたかのように頷いた。

 

「よろしいですね? 学園長?」

 

自分の熱弁に酔いしれていた竹原が学園に振った。当然断れないことは承知の上だ。

 

「いいだろう。ただ流石に最終チェックは必要だから10分ほど時間をもらうよ。その間に、ガキ――吉井たちに誰が使うか決めておいてもらう」

「……まあいいでしょう。では皆様、10分後にデモンストレーション開始とします!」

 

10分間の小休止。観客たちはこの間にトイレに行くなどしてデモンストレーションを見逃すまいとする。竹原にとっては願ったりの状況だ。

 

「して、どうするのじゃ?」

「取りあえず、黒金の代理召喚は確定だ」

「それは俺がやろう」

 

雄二が学園長から腕輪をもらい装着。つけ心地を確認するように軽く腕を振る。

 

「そのままワシが科目変更をするじゃだめかの?」

「普通ならそれで誤魔化しは効くが、あの竹原だ。絶対に納得はしないだろう」

「明久か秀隆。どっちかが腕輪を使わないと、ってことか」

 

全員で腕を組んで考える。被害のことを考えると、属性付与よりも同時召喚のほうがまだ小さく思える。

 

「……竹原は多分俺を指名する」

 

秀隆が断定するように言う。

 

「お前を? 根拠はあるのか?」

「属性付与の方が見た目が派手だ。火とか雷とか。ただ召喚獣が1体増えるだけよりも見映えはいい。それに――」

「それに?」

「アイツは俺が嫌いだからな。俺に恥をかかせたい。俺を加害者に仕立て上げたいはずだ」

 

秀隆は肩を竦める。今思えば、最初に学園長に直訴した時から竹原は秀隆に敵意を向けていた。2人の間には因縁がありそうだった。

 

「お前竹原に何か恨みでもかったのか?」

「知らねえよ。ただ1年の頃にアイツを論破してやっただけだ」

「完全にそれじゃん」

 

少なからず、竹原の方には秀隆を陥れたい理由があるようだ。

 

「しかし大丈夫かの? 学園長の話では属性付与はコントロールが難しいようじゃが」

「その辺は気合いで何とかするしかないだろうな」

 

秀隆もぶっつけ本番なのだからコントロールの難しさがどれ程かは分からない。どのみちやってみるしかないのだ。

 

「……分かった。ヤバそうになったら即フィールドを解除する」

「頼んだ」

 

短い作戦会議も終わり、雄二と秀隆はステージの中央に移動した。他の面々はステージの外にいる。

 

「交換範囲はステージまで。時間は5分。パフォーマンスは武器に属性を付与するだけ。これでいいかい?」

「ええ。問題ないですよ」

 

どうせ暴走したらパフォーマンスも何もないのだからな、と竹原は心中でほくそ笑んだ。

 

「雄二。フィールド展開したらなるべく離れろ」

「分かってる。まだ死にたくないからな」

「俺だって死ぬ気はねえよ」

 

互いに笑い。拳を突き合わす。それを合図と見た学園長が開始を宣言した。

 

「始めとくれ!」

「教科『地理』指定! 展開!」

「試獣召喚!」

 

雄二の掛け声でフィールドが展開され、秀隆の召喚獣も問題なく召喚された。科目を地理にしたのは、少しでも暴走を押さえるためだ。今回はパフォーマンスなので武器は剣1本だけを携え、もう1本は納刀している。

 

「属性付与、『炎』!」

 

秀隆の声に呼応して、腕輪が赤く光と、召喚獣の武器が炎に包まれた。

 

「ぐっ!」

 

秀隆の顔が苦悶に歪む。炎の剣を握る召喚獣の手から『熱』が伝わってくる。高温に熱された鉄棒を押し付けられたような感覚に、額から脂汗が滲む。

 

「(こりゃあコントロールできないわけだ)」

 

蓋を明けてみれば当然だった。召喚獣の物理干渉が腕輪の属性にまで付与されているのだ。これではコントロールどころか維持することすらままならない。秀隆もその熱と痛みに耐えることしかできない。

 

「秀隆?」

「秀隆……」

 

明久たちも心配そうに秀隆を見やる。唯一竹原だけは、愉快そうに笑っていた。

 

「どうしました、神崎君? いつものふてぶてしさが見受けられませんが」

「ちっとは黙っててもらえませんかね?」

 

言い返してはみるものの、それで痛みが和らぐわけもなく。寧ろ時間と共に増していく。もはや拷問に近い。

 

「(どうするよ? 技の1つでも披露すりゃ万々歳なんだろうが)」

 

痛みでそれもできそうにない。正直このまま終わっても目的は達成できてはいるが、竹原がまた観客を煽ってくるとも限らない。

 

「(解除するか?)」

「(ダメだ。解除した後別の教科でもう一度って言われたら今度こそコントロールできねえ)」

 

何とかこの一発で終わらせないと。しかし焦れば焦るほどコントロールの精細を欠いてしまう。現に、時おり炎が大きく揺らめいている。

 

「……」

 

状況に変化無し。剣に炎を宿したものの、ただただ棒立ちしている召喚獣の姿に、観客席の空気も下がっていく。竹原は頃合いを見計らって、ポケットに手を入れた。

 

「――なっ!?」

 

すると突然、召喚フィールドが範囲を広げ観客席を包むほどの広さになった。

 

「ヤロウ!」

 

睨みつける視線の先で、竹原が嗤っていた。

 

「どうなっている!?」

「いったい何が……」

 

不測の事態に西村教諭も高橋教諭も召喚フィールドを見渡す。

 

「竹原め。やってくれたね」

 

学園長が苦い顔をする。おそらく何者かが召喚システムのコントロールルームに侵入し、フィールドの制御を弄ったのだ。竹原がここまでするなは、流石に予想外だった。

 

「(マズイ。このままだと――!)」

 

ひょっとすればフィールドの解除も属性付与の解除も出来ないかもしれない。そうなれば、あとは暴走を待つばかり。竹原の思う壺だ。

 

「私はね、学園長」

 

竹原が他に聞こえないよう小さくぼやく。

 

「勝てない勝負はしない主義なんですよ」

「……だろうね」

 

勝つ為に手段を選ばないの間違いだろう、と学園長は心の中でつっこんだ。とは言え、この状況では、秀隆が上手くコントロールしてくれるのを祈るばかりだ。不幸中の幸いか、腕輪の出力制御にはセキュリティでロックしてあるから外部からは弄られない。

 

「(考えろ! 考えろ!!)」

 

秀隆ははやる気持ちを押さえて制御に集中する。視界の端で明久たちが動いたようだが、今は気にしてられない。

 

「ぐ、うぅ……」

 

しかし時間をおうごとに熱と痛みは増していく。意識も朦朧としてきて、保つだけで精一杯だ。

 

「……雄二……神崎……」

 

観客席の翔子が祈るように手を握る。その横で、1人がスッと立ち上がった。彼女は腕を組み、スゥっとおもいっきり息を吸い込むと――

 

『秀隆! しっかりしなさい! そのくらい屁でもないでしょうが!』

 

静寂に包まれていた会場に響く怒声。大声で言うだけ言った優子は、またスッと席に座った。腕は組んだまま、どっしりと構え秀隆をじっと見やる。

 

「……はっ」

 

秀隆の口元が緩む。こんな状況でも祈るでもなく、見守るでもなく、活を入れてきた。それで事態が好転するとも思わないのに。

 

「あーあ。言われちゃあ、しゃあないよな」

 

秀隆は吹っ切れたように笑う。彼女は信じているわけではない。ただ座して待っているだけだ。秀隆が使いこなすのを。ただそれだけだった。

 

「やるしかねぇよなぁ!」

 

気合い一閃。秀隆の召喚獣が青白いオーラに包まれる。

 

「これは――!」

 

召喚獣の変化に観客席が一気に沸き立つ。その一方で、想定外の事態に竹原の表情が歪む。

 

「竹原ぁ」

 

秀隆が竹原に振り向き、ニタアと笑う。その笑みは、いつも以上に邪悪なものだった。

 

「ば、馬鹿な……アレを制御するなど……それはまだ――」

 

実用段階ではなかったはず。出かかった言葉を竹原は飲み込んだ。竹原の想定とは異なり、現にソレはそこに居るのだ。

 

「悪いなぁ竹原。まだ『上手く』コントロール出来ねえみてぇだ」

 

秀隆は召喚獣を、ゆっくりと竹原に向かって歩ませる。

 

「や、止めろ! 来るな!」

 

炎とオーラを纏いヒタヒタと歩いてくる召喚獣に竹原は戦慄した。踵を返し、その場から逃れようと走り出す。

 

「紅蓮剣!」

 

秀隆の召喚獣は空中に飛び上がり剣を横薙ぎに一閃。炎を纏った衝撃波を竹原の足元に向かって放った。

 

「ぎゃあああっ!」

 

衝撃波は竹原から大きく離れた所で炸裂したが、竹原はその衝撃におののき悲鳴を上げてへたり込んでしまう。

 

『雄二! 今だ!』

「明久!?」

 

校内放送から明久の声が聞こえる。

 

『常夏コンビがコントロールルームで制御を弄ってたんだ! 2人とも倒したからもう大丈夫!』

「よし! フィールド解除!」

 

雄二が腕輪を操作すると、召喚フィールドが解除され秀隆の召喚獣も陽炎のように消えた。気が抜けて、秀隆が膝から崩れ落ちる。

 

「おい! 大丈夫か?」

 

倒れ込む寸前で、雄二が秀隆を受け止めた。

 

「--雄二……竹原は……?」

「竹原のヤロウ、向こうでへたり込んでるぜ」

「へっ……ざまぁ……ねぇ……な――」

 

秀隆はそのまま雄二の腕の中で気絶してしまった。

 

「おい、秀隆! おい!」

 

波乱に満ちた清涼祭は、波乱のまま終わりを告げた。




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