バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回から強化合宿編です。


第三章 強化合宿編
第三十八問


第三十八問

 

文月学園に続くつづら折りの坂を3人の生徒が上っていた。

 

「ったく。んで俺が朝っぱらから……」

「まあ良いではないか。たまには早めに登校するのも悪くなかろう?」

「そうよ。ただでさえアンタは遅刻ギリギリなんだから」

 

ぶつくさと文句を垂れる男子生徒、神崎秀隆をもう2人、木下優子と秀吉が窘める。

秀吉は部活の朝練のため、優子は授業の予習のために朝早くから登校するようにしている。対して秀隆は登校時間ギリギリまで布団をかぶり、学校に着くのは始業間際。いい加減に見かねた2人が今日は無理やり引っ張ってきたというわけだ。

 

「……ズボラな癖して優等生ぶりやがって」

「何か言ったかしら?」

 

ボソリとこぼした秀隆に優子が笑いかける。薄き開いた眼から鋭い眼光が漏れ出ていた。

 

「ナンデモナイデス」

「そう。……口には気をつけることね」

「まったく……」

 

いつも通りの2人に秀吉が嘆息する。いい加減お互いに素直になれないのだろうか。

そうこうしているうちに学園にたどり着く。校門前ではいつものように西村教諭が登校する生徒たちと挨拶を交わしていた。

 

「おはようございます。西村先生」

「おはようございますなのじゃ」

「はよっす」

「おお。おはよう……って神崎か!?」

 

秀隆を見つけて、西村教諭は驚きの声を上げた。

 

「何なんすか藪から棒に」

「いや、すまん。まさかお前がこんな早くに登校するとは……」

 

酷い言われようだが、普段の秀隆の素行からすれば当然の反応だ。秀隆もそれは否定せず、秀吉たちは苦笑いを浮かべる。

 

「こいつらに連行されたんすよ」

「それはお前がいつも遅刻ギリギリに登校するからだろう。普段からもっと早く登校するよう心がけるんだな」

「嫌です。俺はギリギリまで寝ていたいんで」

「まったく……」

 

ぶれない秀隆に西村教諭も呆れ返った。秀吉の部活もあるので3人はそのまま校門をくぐる。

 

「ったく。何で鉄人まで……」

「当たり前でしょうが」

 

秀隆が文句を垂れながら下駄箱を開けると、中からヒラリと何かが落ちてきた。

 

「うん?」

 

拾い上げると、それは封筒だった。四角にバラの模様があしらわれ、ハートのシールで封がされていた。

 

「ラブレター?」

 

そう。それはどう見てもラブレターだった。

 

「何じゃ秀隆。お主もすみに置けん--姉上! 関節はそっちには曲がら――!」

 

茶化す秀吉の腕を、優子が無言で捩る。そんな2人をよそに、秀隆は封筒を電灯に翳した。

 

「何してんのよ?」

「いやあ。カッターの刃でも入ってんのかと思って」

 

平然と言ってのける秀隆に優子が呆れた。

 

「アンタねえ。素直に女子からの好意だと思わないの?」

「秀隆は女運が悪いからのおおおおっ!」

 

優子が秀吉の関節をギリギリと絞め上げる。秀隆は一通り封筒を検分すると、無造作に封を開けた。中身は薄いピンクの便箋。こちらの四角にもバラの模様があり如何にも女の子がラブレターに使いそうだ。

秀隆は書かれた文を読むと、ふんと鼻を鳴らした。

 

「何が書かれてたのよ?」

 

その様子を訝しがった秀吉の関節を絞め上げたまま訊ねる。秀隆は「ほらよ」と2人に便箋を見せた。

 

『アナタの秘密を握っています』

 

そこに書かれていたのは、明らかな脅迫文だった。

 

「どうやら、本当に女運がないらしいな」

 

秀隆は便箋をヒラヒラさせ、自嘲気味に笑った。

 

『最悪じゃあーーーーっっ!』

 

同時刻、屋上で明久の悲痛な雄叫びが響いていた。

 

「おう明久、どうした?」

「あ、秀隆に秀吉、おはよう。何でもないよ」

 

秀隆たちが教室で雑談をしていると、明久が入ってきた。にこやかに挨拶を交わすが、その顔は明らかに落胆していた。

 

「ウソばっかり。さっき窓から変な叫び声が聞こえてきたし、何か隠してるんでしょう?」

 

そこにやって来たのは美波だ。彼女は腰に手を当てると覗き込むように明久を睨む。

 

「おはよう、美波」

「おはよう、アキ。で、何を隠しているのよ?」

 

美波の瞳が更に吊り上がる。一言でも余計な事を喋れば拳が飛んできそうだ。

 

「いやだなあ。別に何も隠してなんかないよ」

「まさか、またラブレターを貰ったんじゃないでしょうね?」

「美波、言葉には気をつけるんだ。ラブレターという単語に反応して皆が僕に向けてカッターを構えている」

恐ろしく素早い反応である。何人かは『ラ』の字が聞こえた瞬間にカッターを構えていた。よほど明久が幸せになるのが許せないらしい。

 

「皆、カッターは早いわ。落ち着きなさい」

「あ、ありがとう美波」

 

殺気立つクラスメイトを片手を上げて美波が制する。他の連中と一緒になって攻めてくると思っていた明久は少しホッとしていた。

 

「だいたい、どう考えてもアキがラブレターなんか貰えるわけがないでしょう? 隠しているのは別のものだわ」

 

上げて下げるとはまさにこの事だ。美波の勘の鋭さにぎょっとするが、プライドを傷つけられたのか明久はムッとしたようだ。

 

「ふふん! そのまさかさ! 今朝僕の靴箱にラブレターが――」

 

ドスッという音とともに、明久の足元にカッターが突き刺さった。

 

「次は耳よ」

「心の底からごめんなさい」

 

次の瞬間には、明久の額は床を擦ったいた。恐ろしく早い手のひら返しである。

 

「お前こうなるって分かってただろうに」

「明久じゃからな。学習しておらんかったんじゃろ」

 

横から見ていた2人も呆れ返ったいた。

 

「それじゃあ正直に答えなさい」

「はい。実は僕が隠していたのはきょう――」

 

何かを言いかけて急に明久が口を噤み、美波は怪訝な顔をする。

 

「きょう、何よ?」

「きょ、きょう――」

 

しどろもどろになり目も泳いでいる。何かを誤魔化そうとしているのは明白だった。

 

「きょ、競泳用水着愛好会の勧誘文!」

 

一瞬で場の空気が凍りついた。

 

「明久、お前な……」

「いくら何でもそれはないじゃろう……」

 

明久のついた咄嗟の嘘に、秀隆も秀吉も頭を抱えた。

 

「アキ……本当なの?」

 

美波には見抜けなかったようだ。驚愕で開いた口を手で覆ってはいるが、その頬は朱に染まっている。

 

「島田、真に受けるな。明久の嘘だから」

「え!? そうなのっ! アキの事だからてっきり……」

 

美波の中での明久像はいったいどうなっているのやら。

 

「もう! 何でそんな嘘つくの?!」

「ご、ごめん……」

 

腰に手を当ててプリプリと怒る美波。怒ってはいるのに、そのつり上がった瞳と膨らませた頬が小動物を思わせて、明久は可愛いと思ってしまった。気恥ずかしさで眼を逸らす明久の顔を、美波がさらに覗き込む。

 

「もう、ちゃんと聞いてるの?」

「き、聞いてるよ!」

 

普段から明久にアプローチしているのに、こういうことには鈍感なんだなあと、秀隆は呆れ気味に2人の様子を眺めていた。

 

「ほれほれ、2人ともその辺にしとくのじゃ」

 

秀吉がパンパンと手を打ち収拾をつけた。明久はホッとしたようだが、美波は納得がいかないのか明久をまだ横目で睨んでいる。

 

「して、本当は何があったのじゃ?」

「実は……下駄箱にこんなのが入ってたんだ」

 

秀吉にも問われ観念したのか、明久は1枚の紙を見せた。受け取った秀吉が内容を読み上げる。

 

「なになに……あなたの秘密を握っています、じゃと?」

「なにこれ! 脅迫状ない!」

 

美波が怒ったように声を上げる。秀隆も興味深さうに脅迫状を覗き見た。

 

「傍にいる異性にこれ以上近づくな、ねえ。お前なにやらかしたんだ?」

「なにもしてないよ!」

 

明久からしたら謂れのない濡れ衣である。

 

「落ち着くのじゃ明久。この文面からして、手紙の主は明久の近くにいる異性になんらかの強い感情を抱いておるようじゃな」

「まあ、大方嫉妬だろ」

 

内容からして、ストーカー気質の輩が明久に嫉妬して脅迫してきた、といったところだろう。

 

「つまり犯人は、Fクラスのたった3人の異性、姫路さんとリリアと秀吉に好意を寄せているヤツってことになるね」

「島田ステイ。明久のいつもの冗談だ」

「だとしても! ウチはアキを分からせる必要があるのよ!」

 

明久に襲いかかりそうになる美波の首根っこを秀隆が掴む。気持ちは分かるが、かといって武力行使にでたら逆効果だろう。頭に血が上ったせいか判断力が鈍っているようだ

 

「あれ? 僕の推理間違ってた?」

「よし」

「シャアっ!」

「ぶべらっ!」

 

キョトンとする明久の顔面に、美波の右ストレートが突き刺さった。

 

「どぼじで……」

「明久、今のはお主が悪いぞい」

 

秀吉も呆れ、美波は怒りが収まらないのかプンとむくれている。

 

「んで、忠告に従わない場合は同封した写真を公開する、ってあるがどんな写真だ?」

「あ、それまだ見てないや。こっちの封筒かな?」

 

明久の脅迫状にはもう一回り小さい写真サイズの封筒が同封されていた。明久がそちらを開けると、3枚の写真が入っていた。秀隆たちもどんなものかと覗き込む。

1枚目は、メイド服姿の明久だった。

 

「清涼祭の時のか」

「い、いつの間に……」

「やはり流れて似合っておるのう」

「……なんだか負けた気分だわ」

 

清涼祭の時に常夏コンビを罠に嵌めるために女装していた時の写真だ。流れで一時そのまま接客していたのでその時のだろう。

 

「けど、この程度の写真なら康太が撮ってるだろ」

「なにそれ初耳なんだけど!」

「……土屋に頼んだら焼き増ししてくれるかしら?」

「やめてよ!」

「ほれ明久、次の写真を見せるのじゃ」

「う、うん……」

 

聞き捨てならない言葉が聞こえたが、秀吉に催促されて明久は写真を捲る。

2枚目は、同じくメイド服姿の明久だった。ただしこちらは、スカートの隙間からパンツ(男物)が覗いている。

 

「トランスだからセーフ。トランスだからセーフ。トランスだからセーフ」

「いやアウトだろ」

「これは、なんと……」

「な、何てもの見せるのよ!」

 

顔を真っ赤にして手で覆う美波。しかし指の隙間がだいぶ開いているので意味をなしていない。ガッツリと明久のトランスを脳裏に焼きつけていた。

 

「……これで当分生きられるわ」

「何がとは言わないが、お前も大分毒されてきたな」

 

朱に交われば赤くなるとはこのことである。

 

「んで、ラストは?」

「僕もう見るのが怖いんだけど……」

 

しかし確かめずにはいられないのも事実なので、明久は恐怖半分、諦め半分で最後の1枚を捲る。

3枚目は、ブラジャーを持って立ち尽くす明久だった。着替え中なのか、メイド服が着崩れしている。

 

「何てもの持っているのよ!」

「いったあっ!」

 

あまりの衝撃に美波が明久の後頭部を叩いた。

 

「し、仕方がなかったんだ! 霧島さんから渡された着替えに入ってたから――」

「だからって持つ意味ないでしょ!」

 

バシバシと明久の頭を叩く美波。彼女の言うことももっともであるが、明久も健全な高校生男子。ブラジャーに興味を抱いても仕方がないのである。

2人がギャーギャーと騒いでいる横で、秀隆は真剣な表情で写真を見ていた。

 

「どうしたのじゃ秀隆? 何か気になる事でもあるのかの?」

「ん? ああ。これいつ撮ったんだ?」

「いつ? さっき清涼祭って言ったじゃない」

 

秀隆の疑問に、美波が明久にチョークスリーパーをかけながら答える。明久はとっくにギブアップのタッチをしているが無視されていた。

 

「そうじゃなくて、これ着替えてる時の写真だろ? 他のはチャンスは何度かあったかもしれねえけど、これは着替え中の一回だけ。しかもこの時はAクラスの更衣室を借りたはずだ」

「言われてみればそうじゃの」

 

そもそも明久がメイド服に着替えたのも常夏コンビというアクシデントに見舞われたからだ。つまりその場に居合わせていなければ、これらの写真は撮影できなかったのである。

 

「けどAクラスって結構お客さん入ってたよね?」

「そこなんだよなあ。客の出入りが激しいから一々誰が抜け出したかなんて確認してないしなあ」

「隠しカメラってことはないの?」

 

美波の指摘通り、隠しカメラなら客の出入り関係なく撮影できる。

 

「まあそうだが、けどこれは明らかな盗撮だろ? 隠しカメラ仕掛けてたなら、『私は他にも盗撮してます』って言ってるようなもんだ。そんなリスク犯して脅迫のネタにするか?」

「それもそうね」

 

結局、この写真から犯人を割り出すのは難しそうだ。

 

「しかし、明久にも脅迫文とはの」

「え!? 秀吉にもきたの?」

「ワシじゃなくて秀隆にじゃよ」

「ほら」

 

秀隆は自分に送られた脅迫文を明久と美波に見せた。

 

「本当だ。僕と同じだ」

「けど『あなたの悪行を公表します』ってなにやらかしたのよ?」

「おいおい。善良な一生徒を捕まえてなに言ってんだよ?」

「どの口が言ってんのよ」

 

やれやれと芝居かかった仕種で首を振る秀隆を、美波がジト目で睨む。

 

「ま、大方中学ん時のことだろうよ」

「ああ、坂本と同じ不良時代ってやつ?」

 

秀隆が凶刃と言われる由縁でもある。

 

「けどあれって割りと有名だよね?」

「言っても一部だけどな。大半は不良の事情なんて知らねえしな」

「つまり黒歴史ってわけね」

 

美波が納得して手を打った。

 

「……違わねえが言い方どうにかなんねえか?」

「お主のせいじゃろうて」

 

早い話が、公人が昔のヤンチャ話を暴露されるようなものである。しかし秀隆はそれで堪えるようなタチではない。

 

「秀隆に近い異性って木下さん?」

「そりゃあそうでしょ」

「なんで優子限定なんだよ?」

 

秀隆の疑問に、明久と美波は「マジかよ」という顔をした。

 

「なんだよその顔」

「アンタ本気で言ってるの?」

「本気も何も、優子以外にも明久と同じくFクラスの3人もいるし、一応霧島もだろ」

 

翔子の場合は雄二にいきそうだが、交友関係という意味では間違ってはいない。

本気でそう思っている秀隆に、2人は信じられないものを見たようだ。

 

「木下、アンタが神崎が脅迫文貰ったってことは優子も?」

「もちろん承知しておる」

「木下さん何て言ってた?」

「……Fクラスも大変ね、と言っておった」

 

揃いも揃ってこれである。3人は深い溜め息を吐いた。

 

「おはようございます」

「おはようございます!」

 

するとドアの方から挨拶をする声が聞こえてきた。明久たちがドアの方を向くと、噂をすればなんとやら、瑞希とリリアだった。

 

「おはよう。姫路さん、リリア」

「おはようなのじゃ。2人とも今日は遅かったの?」

 

言われてみれば、2人にしては遅い時刻での登校である。

 

「来る途中で忘れ物に気がついて取りに戻ってたので」

「私は昨日夜更かししちゃってちょっと寝坊してしまいました」

 

はにかんで笑う顔がいかにも可愛らしい。男ばかりのFクラスにとって数少ない癒し要素である。

 

「皆さん集まってどうしたんですか?」

「そうなのよ! 実は――」

「待った!」

 

瑞希たちに話しかけた美波を明久が制した。そのまま美波を連れて2人に背を向ける。

 

「ちょっと! いきなり何よ?」

「姫路さんたちには脅迫文は秘密にして欲しいんだ」

 

明久は瑞希には脅迫文を打ち明けないよう頼んだ。

 

「なんでよ? ひょっとしたら心当たりがあるかもでしょ?」

「けど2人にに心配かけちゃうし、それにもしかしたら2人にも危害が出るかもしれないし」

 

逆上した脅迫犯が瑞希たちに危害を加えないとも限らない。そのことを明久は清涼祭で痛いほど学んだ。

 

「……分かったわ。けど――」

 

明久の気持ちを察した美波は明久の頼みをきいたが、別に聞きたいことができた。

 

「けど?」

「ウチはいいの?」

 

美波が上目遣いで明久に尋ねる。美波もFクラスの女子なのだ。明久は美波が心配でないだろうか。

 

「まあ流れで話しちゃったけど、美波は大丈夫。だって――」

「だって?」

「美波に手を出す命知らずなんてそうそういな待って美波関節はそっちには曲がらないっ!」

 

心配したそばからこれである。

 

「なによ! 心配して損したじゃない!」

「ゴメン! ゴメンってば!」

「何やってんだか」

 

秀隆も今日何度目か分からない溜め息を吐く。

 

「あ、あのう……」

「ああ、すまん何でもない。明久のメイド服の写真が裏取引きされてるって噂が流れたたけだ」

「ええ!」

「どこでですか!」

 

リリアは普通に驚いていたが、瑞希の驚きは少し毛色が違うようだ。

 

「どこかは分かんねえよ。あくまで噂だ」

「大変ですねえ」

「そうですか……」

 

瑞希は明らかにしょぼくれている。

 

「姫路よ。さっきから明久のメイド服写真に興味があるようじゃな?」

「え? ええ。ちょと欲しいなあって」

「姫路さん!?」

 

瑞希も染まりつつあるようだ。

 

「手に入ったらなにする気だ?」

「そうですね――取りあえずスキャナーを買います」

「スキャナーですか?」

 

焼き増し用のプリンターなら分かるが、スキャナーは予想がつかなかった。

 

「はい。でないと――明久君の可愛いい姿を全世界に発信できないじゃないですか」

「明久早まるでない!」

「島田も『その手があったか』って顔してんじゃねえよ」

 

窓に手をかける明久を秀吉が服の裾を引っ張って抑えた。

 

「なんでそんな噂が流れてるんですか?」

「清涼祭で明久が女装しただろ? それでだよ」

「可愛かったですよねえ」

 

その時のことを思い出したのだろう。瑞希が普段見せないようなニヤケ顔をする。

 

「そんなわけで、どうすっかって考えてたとこだ」

「そうだったんですね」

「取りあえず、康太んとこでも行くか」

 

盗撮と情報収集のエキスパートの康太なら良い知恵を貸してくれるだろう。

 

「そうだね。じゃあ姫路さんまた後で」

「はい」

 

瑞希たちは自分たちの席に移動し、明久たちは康太を探す。目的の人は、教室の角で誰かと話し込んでいた。

 

「聞いてよムッツリーニ!」

「後にしろ、今は俺の先約だ」

「なにやってんだ雄二?」

 

康太と話し込んでいたのは雄二だった。こちらもなにやら深刻な様子だ。

 

「お前らか。今俺の人生が崩壊しそうなんだ。後にしてくれ」

「人生が崩壊?」

「…………雄二の結婚が近いらしい」

「そんなの既定路線だろ」

 

雄二が翔子の婚約者であることは(雄二以外の)周知の事実である。

 

「そうだよ。子供ができそうならともかく」

「笑えない冗談を言うんじゃない」

 

どうやら子供すら秒読みらしい。

 

「んで、何があった?」

「翔子が捏造された俺のプロポーズを父親に聞かせようとしたんだ」

 

雄二曰く、機械音痴の翔子がMP3プレイヤーを持っていたことを不信に思い問い詰めたところ、中身は音楽ではなく雄二のプロポーズ。もちろん録音した記憶はないので捏造だとすぐに分かったが、プレイヤーは再生用のだったので音源が別にあるとのこと。

 

「つまりその偽プロポーズの音源を探し出すってわけだね」

「そういうことだ」

「プロポーズしちまった方が早いだろ」

「何てこと言うんだ貴様は!」

 

雄二はまだ独身を謳歌したいらしい。

 

「…………そっちは?」

「僕のメイド服女装姿が全世界に発信されそうなんだ」

「は?」

「はしょり過ぎだ馬鹿」

 

秀隆は明久と自分に脅迫文が来たことを説明した。

 

「お前らも似たようなものか」

「そういうことだ」

「しかし明久が変態だなんて今更だろう」

「黙れ妻帯者! 人生の墓場へ帰れ!」

「何だとこの変態! メイド喫茶に出勤しろ」

 

言い合いをしておいて、2人の目から液体が流れた。

 

「…………お互いに傷つくならやめとけばいいのに」

「それが分からんから馬鹿(Fクラス)なんだよ」

 

そもそもこうなると分かっていれば喧嘩なんてしないはずだ。

 

「というか、秀隆はいいの?」

「なに? 秀隆もか?」

「俺のはまあ、別にいい。暴露されてもたいした問題じゃないしな」

「お前ならそうか」

「…………肝がすわっている」

 

普通は黒歴史を曝されるのは避けたいはずだが、秀隆のは周知の事実なのか本人はさして気にしていなかった。

 

「それに」

「それに?」

「犯人が見つかれば嚇しのネタになる」

 

くっくっく、と邪悪な笑みを浮かべる秀隆に、3人は『こいつだけは敵にまわしてはいけない』と改めて認識した。




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