バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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バカとテストと召喚獣の二次創作小説です。木下姉弟と幼馴染の少年『神崎秀隆』が吉井明久を始めとするFクラスのメンバーと打倒Aクラスを目指して奮闘するドタバタ学園コメディです。オリジナルキャラクターが登場、オリジナル設定を含みます。それらが嫌だという方は閲覧をお控え下さい。それ以外の方はゆっくりとお楽しみ下さい。

さあ嵐の時間だ



第四十一問

第四十一問

 

「よっす」

「…………ただいま」

「あ、おかえり」

 

部屋に戻った2人を、明久たちが出迎える。3人は向かい合わせに座りとトランプをしていた。中央に捨札と思わしきカードの山がありそれぞれも数枚の手札を持っている。

 

「ほれ、上がりだ」

 

雄二が手札からAを2枚出し、手札が0になった。

 

「またあ?! 雄二強すぎない?」

「お前が弱いんだよバカが」

 

秀吉と明久の手札を見ても、明久の方が圧倒的に多い。それだけみても強さの差は歴然だ。

 

「そんなことより。ムッツリーニよ、もう体調はよいのかの?」

「…………(コクン)」

「それは良かったのじゃ」

 

秀吉がホッと胸を撫で下ろす。折角の合宿で初日から体調不良でダウンしては気の毒でならない。

 

「秀隆もお疲れ様」

「俺は付き添っただけだよ。……いい暇潰しもできたしな」

「暇潰しって?」

 

秀隆はそれには答えず、曖昧に首を振った。3人は康太の方を向くが、康太も首を横に振る。知らないか、答える気はないということだ。

 

「……やけに広い部屋だな?」

 

秀隆がざっと室内を見渡す。部屋の広さは8人部屋ほどの大きさ。そこに明久たち5人が押し込められたかたちだ。他の部屋は想定人数で割り当てられているはずだから班わけの影響だろう。けっして問題児を寄せ集めただけだとは信じたくない。

 

「早速で悪いが、康太、例の件だが--」

「…………調べてある」

 

そこはさすがムッツリーニの異名を持つ康太。きっちりと仕事はこなしているようだ。

 

「…………犯人が使ったと思われる道具の痕跡を見つけた」

「おお! さすがムッツリーニだね」

「…………手口と使用機器からして、明久と雄二の犯人は同一人物である可能性が高い」

 

盗撮や盗聴、音声編集技術を持つ生徒など、いくらマンモス校の文月学園とは言え限られてくる。そもそも康太1人でもイレギュラーなのにそれが2人になって時点で普通は異常である。

 

「もう犯人も分かったの?」

「…………さすがにそこまでは分からない」

 

いくら康太が諜報のエキスパートだとは言え、一両日で犯人特定まではいたっていない。

 

「そっか。そうだよね」

「…………犯人は女子生徒でお尻に火傷の痕があることしか分からなかった」

「君はいったい何を調べたんだい?」

 

女子生徒だけなら分かるが、顔や声はおろか、何故か火傷の痕があることは普通は分からない。

 

「…………校内に網をはった」

 

康太はポケットから小型の装置を取り出した。

 

「それは?」

「…………小型録音機。昨日学校中に盗聴器を仕掛けた」

 

目には目を、盗聴器には盗聴器をと言わんばかりの行動力だ。もはや呆れを通り越して感心までしてくる。

 

「いやお前が盗聴してどうする……今更だが」

「今更だな」

「今更だね」

「今更じゃの」

 

ある意味での康太の通常運行である。

康太が録音機のスイッチを押すと、内臓された音源からノイズ混じりの音声が聞こえだした。

 

『--いらっしゃい』

 

「ずいぶん音が悪いね」

「校内全体に張り巡らしたんだ。音質や精度にこだわる余裕なんてないだろう」

「それに多分犯人は声を作ってる。よほど素性を知られたくないんだろうな」

 

ノイズが混じっているが、犯人は繕った声色をしている。かろうじて女子生徒だと分かるのが関の山だ。

 

『……雄二のプロポーズを、もう一つお願い』

 

続けて聞こえてきたもう1人の声。こちらも聞き取りにくいが、話の内容と喋り方で断定はできた。

 

「翔子のやつ、もう動いてやがったか!」

「よっぽどお気に入りだったんだな」

 

雄二は翔子に甘い言葉をかけることは一切ない。そんな翔子にとって、ねつ造されたものとはいえ、雄二のプロポーズは貴重品だ。歯軋りする雄二の横では、明久が人を殺しそうな視線で雄二を睨んでいる。

 

『まいど。二度目だから安くしとくよ』

『……値段はどうでもいいから、早く』

『さすがはお嬢さま。太っ腹だね。じゃあ早速明日--と言いたいところだけど明日から強化合宿だから引き渡しは来週の月曜日で』

『……分かった。それまで我慢する』

 

取り引きの会話はそこで終わっていた。

 

「あ、危ねえ……。強化合宿があって助かった」

「タイムリミットが来週の月曜日まで延びたね」

「つっても土日は動けねえから実質あと4日。この合宿中が肝だな」

 

リミットが延びたとはいえ、実際の期限はそう変わっていない。早急に犯人を見つけ出さないことには意味がない。

 

「…………次が明久の方」

 

康太がまた録音機を操作すると、今度は別の生徒の声が聞こえた。

 

『--明ひ--吉井君の女装写真ありますか?』

『あいよ。よし--豚野郎の写真1枚ね』

 

「ねえ? 今、僕罵倒されてなかった?」

「気のせいだろ」

「よく聞こえなかったな」

 

明久の疑問はスルーし、犯人を特定できないか音声に集中する。

 

『--相変わらず凄い写真ですね。こんな写真を撮っているのがバレたらひどい目に合うんじゃないですか?』

 

どうやら取り引きされているのはかなり際どい写真のようだ。買い取る方も買い取る方だが、売る方も相当のリスクをおっているらしい。

 

『ここだけの話。実は一度母親にバレてね』

『大丈夫だったんですか?』

『文字通りお尻にお灸をすえられたよ。まったく。いつの時代の罰なんだか……』

『それはまた……』

『おかげでまだ火傷の痕が残ってるよ。乙女に対して酷いとは思わないかい?』

 

そこからは他愛のない商談がいくつか続き、録音は終わった。

 

「…………ここまでが昨日分かった情報」

「取りあえず康太は逮捕されないように気をつけておけ」

 

盗聴にプライバシーの侵害。もし訴えられたら逃れようがない。

 

「…………バレなきゃ平気」

「バレた時のリスクを考えろってんだよ」

 

開き直る康太に、秀隆は軽くチョップをかます。

 

「ともかく、お尻に火傷の痕は分かったね」

「女子であることも間違いなさそうだな」

「喋り方が芝居がかっておったが間違いないじゃろうな」

 

合宿があることも把握しているので文月学園の生徒で間違いないだろう。問題は--

 

「問題はどうやってお尻の火傷を確認するかだね」

 

明久がとんでもない発言をする。しかし犯人の特徴がそれしかない以上、そこを確認するしかない。

 

「スカートを捲ってまわったとしても分からない可能性もあるし」

「赤外線カメラでも火傷の痕は分からないだろうなあ……」

 

明久と雄二はああでもないこうでもないと頭を捻る。悩みの内容が『尻を覗く』という最低最悪なものではあるが。

 

「まったくお主らときたら……」

「いつもの事だ」

 

秀吉も呆れ返るが、ある意味平常運転なので咎めはしなかった。

 

「そうだ!」

 

明久が妙案を思いついたとばかりに手を打つ。そこに全員の視線が集中した。

 

「もうすぐお風呂の時間だし、秀吉に見てきてもらえばいいんだ!」

 

鼻息を鳴らして自慢気に提案する。明久の中では、これ以上ない作戦だった。

 

「明久よ。なぜにワシが女風呂に入ることが前提になっておるのじゃ?」

 

珍しく秀吉の方眉がひくひくと動いている。

 

「ダメなの?」

「ダメに決まっておろうが! ワシは男じゃぞ!」

「それ以前に、その作戦は不可能だ」

 

明久の作戦に、雄二と秀隆が首を横に振る。

 

「どうしてダメなの?」

「だからワシが男じゃからじゃ」

「しおりの3ページ目を見てみろ」

 

言われた通りにしおりを確認してみる。そこには大浴場までのルートと、各クラス男女別の入浴時間が記されている。

 

~合宿所での入浴時間について~

 

・男子ABCクラス : 20 :00 ~ 21:00 大浴場(男)

・男子DEFクラス : 21 :00 ~ 22:00 大浴場(男)

・女子ABCクラス : 20 : 00 ~ 21:00 大浴場(女)

・女子DEFクラス : 21 : 00 ~ 21:00 大浴場(女)

・Fクラス木下秀吉 : 20:00 ~ 21:00 個人風呂④

 

「なぜじゃあ!」

 

秀吉が驚愕の雄叫びを上げる。秀吉だけ大浴場から隔離されていた。

 

「大方、PTAからクレームでも入ったんだろ。『木下秀吉との入浴は男子の劣情を煽る』とかなんとか」

「ワシは男じゃ!」

 

いくら叫んでも、既に決まってしまったものは変えようがない。

 

「これじゃあ秀吉に見てきてもらえないじゃないか!」

「そういうことだ」

 

明久の名案は、別の形で阻止されてしまう。

 

「こうなったら……ムッツリーニに盗撮器をつけてもらうしか」

「…………用意はできている」

「盗撮犯捕まえる俺たちが盗撮してどうすんだよバカ」

 

結局、犯人探しは振り出しに戻ってしまった。

再び5人で頭を悩ませていると--

 

『ちょっとあなたたち! そこを退きなさい!』

『落ち着いてください!』

『そうよ!』

『何かの間違いです!』

 

にわかに外が騒がしくなった。

 

「なんだあ?」

「何かあったのかな?」

 

その様子に聞き耳を立てていると、

 

「全員手を後ろに回して床に伏せなさい!」

 

引戸が勢いよく開かれ、女子が雪崩れ込んでくる。

 

「な、なんなのじゃいったい!?」

「木下君はこっちへ。他の4人は抵抗を止めて大人しくしなさい!」

 

先頭に立っていたのはCクラス代表の小山友香だ。彼女は取り巻きの女子生徒に秀吉の保護を指示すると、明久たち4人を睨みつける。

既に窓際で脱出を試みていた4人は起点を制されたかたちになった。

 

「……なぜお主らは咄嗟に窓に移動できるのじゃ?」

「日頃の行いだろうな」

 

指示通り窓から離れた秀隆はどっかりと床に腰をおろした。胡座をかいた膝に肘をつき、不満そうに小山を睨み返す。

 

「仰々しくぞろぞろと、いったい何の真似だ?」

 

雄二も窓から手を離し、小山に問う。彼女は「白々しい」と吐き捨てた。

 

「よくもまあ、そんなシラを切れたものね。あなたたちが犯人だというのは分かりきっているのに」

 

小山は唾棄すべき人を見たかのように冷たく睨む。よく見ると周りの女子生徒たちも小山に同調するように、腕を組んで頷いている。

 

「ああ? 意味が分かんねえよ。犯人ってなんだよ?」

「『コレ』の犯人よ」

 

秀隆がイラついた声で問い質すと、小山は小さな箱の様なものを取り出した。

 

「…………CCDカメラと小型集音装置」

 

その手のものに圧倒的な知識量を持つ康太が答える。小型の高性能カメラとマイク。なぜそれを小山が持っているのか。

 

「これが女子風呂の脱衣所に仕掛けられていたのよ」

 

忌々しげに声を唸らせる。それが女子風呂にあったのなら、答えは一つしかない。

 

「それって盗撮じゃないか! いったい誰がそんなことを」

「とぼけないで。あなたたち以外に誰がこんなことするっていうのよ?」

 

小山は犯人は明久たち以外にいないと決めつけているようだ。他の女子生徒も同じ意見なのだろう。みな一様に明久たちを睨む。

 

「違う! ワシらはそんなことしておらん!」

「そうです! 明久君たちじゃありません!」

「何かの間違いよ!」

「濡れ衣です!」

 

一歩前に出て小山に抗議する秀吉。その声に呼応するように、女子生徒の人集りから明久たちを擁護する声が響く。

 

「あなたたち、まだそんな事を言っているの?」

 

小山が立ち位置を少しずらす。人集りの一部が割れ、女子生徒に取り押さえられた人物が現れる。

 

「姫路さん! 美波! リリアさん!」

「おいおい。こいつはどういう了見だ?」

 

取り押さえられていたのはFクラスの女子3人だった。みな後ろ手に手を取られ、振りほどこうと身動ぎしている。特に美波は、

 

「お姉さま! 大人しくして下さいまし!」

「美春! アンタどさくさに紛れてドコ触ってんのよ!」

 

清水に押さえられセクハラを受けたいた。

 

「|止めるんだ清水さん! 美波が嫌がっているじゃないか!《清水さんそこ変わって!》」

「本音が駄々漏れじゃねえかバカ」

 

こんな時でも、欲望に忠実な明久である。

 

「お黙りなさい! この薄汚い豚野郎! お姉さまの裸体を覗こうなど万死に値しますわ!」

「アンタもよ美春!」

 

言ってるそばから美晴の胸や尻を触り、うなじの匂いをかぐ清水。常日頃から美波に嫌がられているというのにまったく懲りた様子がない。

 

「コホン。……とにかく、あなたたち以外に誰がいるというの?」

「んなもん全員じゃねえか」

 

端から決まったことを、と問う小山に秀隆は何を当然のことをと答えた。

 

「全員ってどういう意味よ?」

「全員は全員だよ。俺たちも含め、他の男子生徒、女子生徒。先生にはては合宿所の従業員まで。つまり、この合宿所館内にいる全員だ」

 

秀隆は自分たちも容疑者であることを認めつつ、他にも容疑者がいることを示唆した。

 

「なんでそうなるのよ?」

「取りあえずそのカメラだな。康太、アレってどこで、いくらで買える?」

「…………専門店なら十数万円。けどネットならもう少し安く買える」

「つまり、入手するのは割りと簡単だってことだ」

 

秀隆の確認に、康太はコクンと頷いた。

近年のネット通販の充実っぷりは凄まじく、今までは専門店に行かなければ買えなかったものが資金さえあれば簡単に手に入るようになった。なんならジャンクパーツからカメラの作り方がネットのブログに載っているほどである。

犯人がそれほどの知識を持ち合わせていたのかは分からないが、少なくともともカメラの入手自体は容易にできる。

 

「だから何よ?」

「分かんねえのか? カメラが簡単に用意できるなら、俺たち以外に仕掛けた奴がいることは否定できない」

「けどあなたたちが犯人でないことも証明できてないわ」

 

小山は完全に犯人はFクラスだと決めつけているので秀隆の推論にも聞く耳を持たない。それどころか悪魔の証明をさせようとする。

そのことに苛立ちつつも、秀隆は努めて冷静に対応する。

 

「じゃあ聞くが、俺たちの中でカメラを仕掛けられそうなのは誰だ?」

 

次に秀隆は実行犯候補を聞いた。小山は少し考えたすえ、

 

「……土屋君、かしら」

 

康太を挙げた。ムッツリーニの噂は学校中に広まっているし、明久たちも真っ先に康太を思い浮かべる。当の本人は首がネジ切れるほど振って否定しているが。

 

「つまりお前の見立てでは、康太がカメラを仕掛けて、他は見張りかアリバイ作り係ってわけだな?」

「……そうね」

 

情報を整理し、秀隆は小山がFクラスが犯人だと決めるに至った経緯を推察。小山も渋々だがそれを 認めた。

 

「ならその推理は根底から見直す必要があるな」

「なんでよ?」

「今回のは康太は不可能だからだよ」

 

秀隆は康太が乗り物酔いしていたこと、康太を医務室に運んだこと、そこで薬を飲んで眠っていたことを説明した。

 

「少なくとも、俺たちが合宿所にきてからお前たちが突撃してくるまで康太は医務室でダウンしていたんだ。その間に仕掛けられていたなら康太には無理だ」

「それより前の可能性だってあるじゃない」

「いやその頃は電車かバスの中だぞ? どうやって合宿所の脱衣所に仕掛けるだよ?」

 

康太は(エロにかける)行動力は超人並みだが超能力者ではない。テレポートで移動したり物を運んだりは当然できっこない。

 

「それにそのアリバイだってあなたたちが言ってるだけじゃない。他の証言者がいないと--」

「アリバイなら証言できるわよ」

 

人集りのさらに奥から声が上がり、全員がそちらを見やる。そこには人を掻き分けてこちらにやって来る優子、翔子、美穂の3人。風呂上がりなのか顔がほんのりと朱に染まっていた。その後ろには西村教諭も控えていた。

 

「木下さん?」

「鉄人!? なんでここに?」

 

小山が優子を訝しげ見る。西村教諭も明久に「西村先生と呼べ」と釘を刺し、明久と女子生徒たちを見回す。

 

「騒ぎがあると聞きつけて来てみれば……。お前らこれはどういうことだ?」

「コイツらが盗撮していたんです」

 

小山は西村教諭にもカメラをつき出し、経緯を説明した。黙って説明を聞き終わった西村教諭は溜め息を一つ吐くと、

 

「すまないがな、小山。お前の推理は間違っている」

「なっ!? 西村先生もコイツらを庇うんですか!?」

 

普段から明久たちに頭を悩まされている西村教諭でさえ、小山の推理を否定した。西村教諭は腕を組んで説明する。

 

「小山。確かにお前の言う通り、コイツらは何をしでかすか分からんほどのバカだ。盗撮を真っ先に疑う気持ちも分かる」

「だったら--」

「だがな、そのカメラは『盗撮疑惑があった』証拠であって『吉井たちが犯人である』証拠にはならん。裁判でも犯行を行ったという物的証拠がないと立件は難しいんだ」

「でもアリバイが」

「少なくとも、土屋君と秀隆のアリバイは私たちが立証できりやわよ」

「はい。私も土屋君と一緒に医務室で休んでいました」

 

追い討ちをかけるように、優子と美穂が2人のアリバイを証言する。

 

「当然私たちだけじゃないわよ。医務室には養護係の先生もいたわ。もし抜け出そうとしても、仕切りのカーテンの音がするから分かったはずよ」

「じゃ、じゃあ神崎君が」

「それも無理ね。秀隆は土屋君と美穂が快復するまで私と一緒にいたわ。それも西村先生とここの女将さんが見てるわ」

 

優子の証言に、小山は西村教諭を見る。西村教諭はそれに静かに頷いた。肯定の意だ。

小山は苦虫を噛み潰したような顔になるが、それでも持論を曲げようとしない。

 

「それでも! 残りの2人の犯行でないと言えないわ!」

 

ここまでくると推理ではなく言いがかりなのだが、頭に血が上った小山はそのことに気がついていない。

 

「……雄二は、犯人じゃない」

 

小山に異を唱えたのは翔子だ。彼女は確信を持って雄二の無罪を主張した。

 

「証拠はあるの?」

「……雄二に、そんなものは、必要ない」

 

どういうこと? と小山は首を傾げるが、翔子は小山を尻目に雄二に近づいていく。

 

「……なんだよ?」

 

嫌な予感がしたのか雄二が警戒する。翔子は何の脈絡もなく雄二の腕に抱きつくと、

 

「……雄二には、私がいるもの」

 

雄二の腕に胸を押しつけるようにして宣言した。いわゆる「当ててんのよ」である。

 

「ば、バカやろう! こんな所でなに言ってんだ!」

「他所ならいいのかよ」

 

翔子を引き剥がすのに必死で、秀隆の疑問は耳に入っていないようだ。

雄二が手加減しているのか翔子が意外と力強いのか中々離れてくれない。

 

「……雄二は、私の裸に、興味ないの?」

 

能面のような無表情からとんでもない発言が出て、周りがざわつき出す。

 

「な、何を言ってんだ! 誰がお前の裸なんかに興味あるか!」

「……それはそれで許せない」

 

翔子は雄二の腕から離れると、右手で雄二の頭を鷲掴みにする。

 

「あだだだだっ! あ、アイアンクローはやめろお!」

 

急にいちゃつきだした2人を他所に、視線が明久に集まる。

 

「吉井君は?」

「え?」

「吉井君はあるの? アリバイ」

「えーと……」

 

明久は合宿所に着いてから部屋に直行し、それからは雄二、秀吉の3人とトランプをしていた。それがアリバイと言えばアリバイだが、小山の口振りからしてそれをすんなりと信じてもらえるとは思えない。

 

「明久君は犯人ではありません!」

「そうよ! アキがそんなことするわけないわ!」

 

明久が返答に窮していると、瑞希と美波が助け船を出した。

 

「姫路さん……美波……」

「確かに明久君はちょとおバカで欲望に忠実で女装が可愛いですけど」

「アキはバカだし変態だし女装が似合うけど」

「待って君たちの中で僕はどういう存在なの」

 

助け船は泥船だったようだ。

 

「「覗きなんてしません(しないわ)!」」

「なにを根拠に」

 

小山が呆れた様子で瑞希と美波を見やる。2人からむしろ明久が容疑者最有力である証言しか得られてない。

 

「だって明久君が望むなら--」

「ウチらが見せてあげるもの」

「止めるんだ2人とも! 皆の汚物を見るような視線が痛い!」

 

逆上せていたのかこの2人の脳内もだいぶ茹だっているようだ。

2人の発言により、場がいっそうざわめき立つ。宥めようにもこれ以上は抑えが効かなくなりそうだ。

 

「ウオッホンっ!」

 

大きな咳払い一つ。西村教諭の咳払いに、その場の全員が黙り込んだ。

 

「お前たちいい加減にせんか! 状況証拠だけで級友を犯人に仕立て上げるんじゃない!」

「けど……」

「それにその物的証拠も意味をなさなくなったしな」

 

秀隆の発言に、全員が注目した。

 

「そう言われればそうね」

「確かにな」

 

それに優子や雄二も納得し、西村教諭と翔子も頷いた。

 

「な、なんでよ!」

「だってお前、それ素手で触ってんじゃん」

 

秀隆は小山の持つカメラを指差す。

 

「それが盗撮の証拠ってんならタオルかハンカチにくるんどかないと、犯人の指紋が分からなくなるだろ」

「他にも触った人がいるなら、複数人の指紋が取れるわね」

「それ一つ一つ照合していくのは時間がかかるだろうな」

 

犯人を検挙する場合、指紋は何よりも重要な証拠である。犯人が用意周到に手袋などをしていたら指紋は最初から取れないかもしれないが、その確認すらもはや不可能になっていた。

「つまり、ここで犯人探しをするのは無意味だってことだ」

「けど!」

「いい加減にせんか!」

 

まだ喰い下がる小山を、西村教諭が一喝した。

 

「小山。これだけの証言があっても吉井たちを犯人だと言い張るのはもはや言いがかりでしかない。これ以上吉井たちを責め立てるのは止めなさい」

「……分かりました」

 

西村教諭に諭され、小山も渋々引いた。未練がましい視線から、未だに明久たちを疑っているのは違いないが。

 

「お前たちも、入浴の済んだものは部屋に戻り、まだなものは早く風呂に入りなさい」

 

西村教諭の指示で、その場は解散となった。群がっていた女子生徒も三々五々に散っていく。

 

「姫路。霧島。お前たちも戻るんだ」

「でも……」

「……雄二が心配」

 

瑞希や翔子は明久たちが心配でその場を離れようとしなかった。

 

「ありがとう姫路さん。でも大丈夫だから」

「本当ですか?」

「アキ、無理してない?」

「大丈夫だって。2人とも心配性だなあ」

 

不安そうに明久の顔を覗き込む2人に、明久は心配しないよう微笑んだ。

 

「そうですか」

「なら、いいわ」

 

2人とも明久の笑顔に安心したのかホッとして笑顔を見せた。

 

「あ、でもさっきみたいなことはもう言わないでね」

「2人とも女の子なんだから」

 

明久が照れたように2人に釘を指す。明久とて男だから、あんなことを言われて嬉しくないわけはないが、人前で言われるのは憚れる。

 

「「あ……」」

 

2人とも自分の言ったとこの大胆さに気がついたのか時間差で耳まで赤くなった。

 

「だ、大丈夫です! けど見るんならご飯前にしてくれたら……。普段はもうちょっとスリムなので」

「姫路さん?」

「ウチも普段はもう少し胸があるんだから」

「それは嘘」

 

明久の左頬に立派な紅葉が咲いた。

 

 




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