バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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バカとテストと召喚獣の二次創作小説です。木下姉弟と幼馴染の少年『神崎秀隆』が吉井明久を始めとするFクラスのメンバーと打倒Aクラスを目指して奮闘するドタバタ学園コメディです。オリジナルキャラクターが登場、オリジナル設定を含みます。それらが嫌だという方は閲覧をお控え下さい。それ以外の方はゆっくりとお楽しみ下さい。

修学旅行で浴衣にワクワクした思い出。


第四十四問

第四十四問

 

一悶着あった勉強時間も、楽しい夕食も終えた明久たちは、割り当てられた部屋に籠って作戦会議を始めた。

時刻は20時前。入浴時間まではまだ少し時間がある。

 

「僕は工藤さんが犯人だと思う」

 

開口一番に明久が切り出した。勉強時間の時の一件で、愛子がみせた手際から判断したようだ。

 

「俺もその可能性が高いと思う」

 

明久の意見に雄二が同意する。雄二も明久と同じく愛子に疑惑を抱いていた。

 

「じゃあ、工藤さんを一気に取り押さえる?」

 

雄二の同意を得た明久はすぐにでも愛子を取り押さえることを提案。これで愛子が犯人だったら事件は万事解決するはずだ。

 

「それは早計だろ」

 

だが秀隆が明久に待ったをかける。秀隆は愛子を犯人と断定するのは早いと指摘した。

 

「どうして?」

「昨日も言ったろ。下手に動いたら、犯人に警戒されて証拠を隠滅されるかもしれない」

「…………チャンスは一度きり」

 

現状、犯人に繋がる確固たる証拠がないので下手な行動はかえって命取りになる。

明久も納得したのか、悔しそうな表情を浮かべる。

 

「あんなに怪しいのに」

「怪しさだけで言えば、康太もだろ」

 

秀隆の台詞に康太は激しく首を横に振る。

 

「そういえば、ムッツリーニもあのレコーダー持ってたっけ」

「ああ。カメラといい、レコーダーといい、状況証拠だけで言えば容疑者筆頭は康太だ」

 

秀隆の指摘に、康太以外の全員が同意した。

 

「…………失礼極まりない」

「ごめんて。ムッツリーニ」

「しかし今回はムッツリーニの仕業ではないぞい。他に犯人がいるはずじゃ」

「やっぱり工藤か?」

 

康太が犯人でないとすれば、現時点で怪しいのは愛子と言うことになる。

 

「んー。たぶん工藤は違うと思うんだよなあ」

 

しかし秀隆は愛子犯人説に難色を示した。

 

「なぜそう思うのじゃ?」

「工藤には動機がない」

「ドウキ?」

 

明久が何のことやらという顔をする。

 

「理由だよ、理由。工藤が明久を脅迫する理由が思いつかない」

 

秀隆は愛子が明久を脅迫する意味はないと言う。

 

「しかし、雄二のプロポーズはどうじゃ? 工藤なら雄二のプロポーズを捏造するくらいは雑作もないと思うのじゃが」

 

実際に捏造した台詞の被害にあった明久がウンウンと頷く。

 

「確かに、工藤なら霧島に頼まれて雄二のプロポーズを捏造するくらいわけないだろうな」

 

その点は秀隆も同じ意見だった。

 

「けど康太の調査だと、明久の脅迫犯も雄二のプロポーズを捏造したのも、今回の盗撮犯も同一人物だ」

「そうだね」

「各々が別の犯人だったら一つずつ容疑者を割り出せばいいが、同一犯となると、これら全てで利益を得る奴が犯人ってことになる」

 

サスペンスドラマでは、容疑者の候補にあがるのは事件が起きたことにより利益を得る者たちだ。

今回もそのセオリーに則るのであれば、愛子が明久を脅迫することで何ならかの利益を得るということになる。

 

「それはドラマでの話だろ。現実ではそんなもの度外視で犯罪を犯すやつはごまんといる」

「そうなんだけどよう」

 

現実はフィクションではない。ドラマの設定がそのまま現実と当てはまるわけではないのだ。

 

「それに利益というが、なにも金や嫉妬心で動くとも限らん。明久を貶めるのが目的かもしれない」

 

明久をいじめて楽しむ。確かにそれが目的なら動機はないと言ってもいい。

 

「けど脅迫だぞ? あの工藤がそんな陰湿なことするか?」

 

勉強時間での工藤の印象からして、明久を弄るなら堂々と弄りそうだと秀隆は感じていた。

 

「そこは何とも言えないな。俺たちは工藤のことを良く知らないんだ」

「まあ、確かに……」

 

愛子は今年からの転校生であるため明久たちはもちろん、Aクラスの生徒も付き合いはまだ浅い。裏の一面があったとしてもおかしくはない。

結論として、愛子はクロよりのグレー。第一容疑者候補となった。

 

「しかしてどうするのじゃ? 工藤が犯人にしろ違うにしろ、それを確かめる方法がないぞい?」

「だから、尻の火傷の痕を覗くしかないんだ」

 

今夜も突撃するというわけだ。

 

「けど、どうしようか? 昨日は先生たちに邪魔されちゃったから、何か作戦を練らないと」

 

昨夜は西村教諭率いる教師陣の警戒網を突破できずあえなく失敗に終わっている。工夫を凝らさねば、前回の二の舞を演じることになる。

 

「そういや詳しく聞いてなかったな。誰が警備に当たってたんだ?」

「布施先生、大島先生、そして鉄人じゃ」

「鉄人はともかく、布施先生と大島先生ならスルーできたんじゃ?」

「いや、鉄人以外の先生は召喚獣を召喚してきた」

「あー。そういやココ、召喚システム使えるように改装してたんだったな」

「先生たちの召喚獣も物理干渉がてぎるゆえ、ワシらも召喚獣で対抗するしかなかった」

 

明久たちが観察処分者になるまでは、先生たちは自分の召喚獣で雑務をこなしていたという。

 

「なるほど……うん? 鉄人以外? 鉄人は?」

「鉄人は……素手だったよ……」

「は?」

 

明久の言っている意味が分からない。

 

「先生たちは召喚獣を使ったんなら、フィールドが張られたんだよな?」

「ああ。化学、保健体育、総合科目だな」

「てことは鉄人も召喚したんじゃないのか?」

「鉄人は担任変えのドタバタでテストが受けられなかたったんだって」

 

明久たちが布施教諭から聞いた話だと、学園は『教師も日々精進すべし』という方針で、教育者側も定期的にテストを受けているということだ。

 

「要するに、鉄人は補充試験を受けていないから点数がなくて召喚できなかったと」

「そう」

「それで明久の召喚獣を素手で殴り飛ばしたと」

「そう」

「……化け物かよ……」

 

召喚獣はたとえ点数が低くてもゴリラ以上のパワーを出せる。その召喚獣を素手で殴り飛ばすのは、人間業とは思えない。

 

「そんなわけだ。参加しないというなら知恵を貸してくれ」

「貸せつっても方法なんざひとつしかねえよ」

「なにか作戦あるの?」

 

あるのなら最初から出して欲しかった。

 

「作戦なんてもんじゃねえよ。質でダメなら量で押し切るだけ。頭数そろえての正面突破だ」

 

点数では明久たちが圧倒的に劣る。それならば、その差は数で補うしかない。

 

「やっぱりそうなるよな」

「当たり前だ。向こうが3人なら、こっちは4班編成で当たればいい。それなら1班くらいはくぐり抜けられるだろ」

「でも大丈夫? 今からみんなを呼びに行く時間はないよ?」

「心配するな。夕飯の時に既に声はかけてある」

 

既に根回しは済んでいたようで、すぐに残るFクラス男子が部屋に入ってきた。

 

「坂本。大事な話ってなんだ?」

 

先頭に立っていた須川が気だるそうに聞く。他の面々も、興味なさそうに口々に文句を垂れている。

雄二はそんな一同を見渡すと、静かに口を開いた。

 

「みんな……女風呂の覗きに興味はないか?」

『『『詳しく聞かせろ』』』

 

見事な手の平の返しようである。

 

「昨夜俺たちは女風呂への覗きを敢行したんだが、そこで卑劣にも待ち伏せしていた教師陣の妨害にあってしまったんだ」

『『『ふむ。それで?』』』

 

卑劣なのは覗きを冒した明久たちなのだが、Fクラスの彼らには関係のないことだ。

 

「そこで、入浴時間になったら女子風呂警備隊の排除に協力してもらいたい。報酬はその後に得られる理想郷(アガルタ)の光景だ。どうだ?」

『『『乗った!!』』』

 

二つ返事で作戦参加を表明する須川たち。彼らにはリスク管理とか罪の意識といものは存在しないのだろうか。

雄二はテキパキと班分けを指示し、各班が担当する先生も決めた。このあたりの手際のよさは腐っても神童。我らがFクラス代表だ。

 

「康太、時刻は?」

「…………二〇一〇時」

 

康太が腕時計で時刻を確認する。この時間帯なら、ちょうど脱衣が終わって湯船につかっているころだろう。

 

「いいか、俺たちの目的は一つ! 理想郷(アガルタ)への到達だ! 途中になにがあろうとも、己が神気を四肢に込め、目的地まで突き進め! 神魔必滅・見敵必殺! ここが我らが行く末の分水嶺だと思え!」

『『『おおおーーっ!!』』』

 

決戦前の決起集会のようにも見えるが、やろうとしていることはただの覗きである。

崇高な理念も気高い理想もない。ただ本能の赴くままにまかせているだけだ。

 

「お前ら気合を入れろ! Fクラス、出陣るぞ!」

『『『うおおおおっ!!!』』』

 

煩悩の塊が女子風呂を目指して放たれた。

秀隆は一行を「いってらっさーい」と手を振り見送った。一人部屋に残された秀隆は、そのままゴロンと仰向けになる。

 

「容疑者なら、他にもいるんだよなあ」

 

動機だけでみれば、有力な容疑者候補は他にもいる。だがそちらにも決定的な証拠がない。自分で口にした推定無罪の法則が、思考に枷をかけていた。

とは言っても、秀隆も最初から『疑わしい』だけで犯人を断定するつもりはない。それこそ、刑事ドラマのように徹底的に証拠を探し当て完膚なきまでにねじ伏せるつもりだ。

 

「やっぱり犯行現場を押さえるしかないよなあ」

 

明久たちのように直接火傷の痕を確認しないのであれば、犯人が盗撮した現場を押さえるしかない。だがそれも、犯人が再びカメラを仕掛けるという前提のはなしだ。この警戒網の中、それを行うのはいくらなんでも無謀でしかない。

 

「とりあえず、優子の報告を待つしかないか」

 

決め手に欠ける以上、下手に動くことは好ましくない。秀隆は今日もひとり、大浴場に赴いた。

 

「今日も一人なんだな」

 

昨日に引き続き広い温泉を堪能していると、またしても聡と平賀がやってきた。

 

「ようお前ら。昨日ぶり」

「正確には夕食ぶりだよ」

「そういやそうだな」

 

昨日と同じく秀隆の隣に浸かり、大きな息を吐く。

 

「なあ。さっきFクラスの連中が集団でどっかに走っていったけんだけど?」

理想郷(アガルタ)に行くんだと」

理想郷(アガルタ)あ?」

「そんな所あったかなあ?」

 

2人して首を傾げる。娯楽のほとんどない合宿所で理想郷と称せるようなところがあるのかという顔だ。

 

「女風呂」

「お前ら何をしている俺たちも早く行くぞ」

 

秀隆から答えを聞いた聡は、我先にと風呂からあがろうと立ち上がる。

 

「止めときなよ。どうせ上手くいかないって」

「けど今はFクラスが攻めてんだろ? その隙に隠れて行けば――」

「ちなみに最終防衛ラインは鉄人だ」

「…………」

鉄人の名を聞いた途端、聡の身体がピタリと止まる。

元いた場所に戻ると、そのまま肩まで湯船に浸かった。

 

「明日も早いから、休める時に休んどかないとな」

「そうしとけ」

「現金だなあ」

 

変わり身の早さに平賀も苦笑するしかない。

 

「けどFクラスって懲りないっていうか、無駄に行動力あるよな」

「本当だね。少しはその熱量を勉強に回せばいいのに」

 

それは学園側も常々思っていることだが、秀隆は「無理だな」と一蹴した。

 

「Fクラスは単に成績が悪いってだけじゃなくて、一部を除いて、そもそも勉強だとか努力だとかが嫌いな奴らの集まりだ。そんな奴らに勉強しろって言ったところで逆効果なだけだ」

 

そうでなければ、Fクラスになることなんてないどろうと秀隆は言う。成績如何ではなく本質の問題だということだ。

 

「けど、将来的なことを考えたら、今の内から少しでも勉強してた方がいいのに」

「あいつらは欲望に忠実で短絡的だからな。刹那主義とまでは言わないが、目の前に人参でもぶら下げないとテコでも動かんさ」

「それが『覗き』?」

「今はな」

 

ただでさえ勉強漬けで嫌気がさしていた時に雄二からの覗きの誘い。Fクラスのメンバーが乗らないわけがない。

 

「まあでも、悪いことばかりじゃねえ。少なくとも、合宿の目標は達せそうだ」

「覗きをしてるのに?」

 

問題行動を起こしているのに目標を達成できるとはどういう意味か。

 

「この合宿の目的はモチベーションの向上だろ?」

「うん」

「女風呂の警備には先生がついている。先生の召喚獣は物理干渉ができるから、否応なしに召喚獣で戦うことになる。んで、召喚獣を召喚するにはテストで点数を取らないといけないから――」

「必然的に勉強する必要があるってことね。なるほど」

 

Fクラスの(エロスに対する)行動力が、意図せずして合宿の目的と重なっていた。それに気づいているから、学園側も明久たちを隔離や強制送還せず、監視強化に留めているのだ。

 

「なんていうか、マッチポンプみたいだな」

「んなことしたって学園にメリットなんて1ミリもねえだろ。たかだか一クラスの成績を上げるために女子生徒のプライバシーを犠牲にするかよ?」

 

それこそマスコミの格好の的。バッシングは免れない。

 

「それもそうか」

「そうだよ九条。そんなことしたら学園が潰れちゃうよ」

「……」

 

平賀の言葉で、秀隆は考えこんだ。もし例の盗撮犯がこうなることを予期していたら? 竹原の件もあるからありえないこともない。

 

「……流石に考え過ぎか……」

 

竹原は試験召喚システムを他校に流出させ学園長の失脚を狙っていた。しかし、今の学園でそれを狙うものが果たしているのだろうか。竹原の一件で、学園側もセキュリティを強化しているはずだ。

 

「どうした、秀隆? 怖い顔して」

 

心配そうに聡が秀隆の顔を覗きこむ。思わず表情に出ていたようだ。

 

「ん? ああ、すまん何でもない」

「そうか」

「また何か企んでるんじゃ?」

 

平賀は秀隆かまた悪巧みを考えていると思ったようだ。

 

「俺ってそんな信用ないのな」

 

肩を竦める秀隆。日頃の行いが行いなので致し方ない。

 

「むしろ信頼の表れかもしれないぞ? 『何かやってくれる』って」

「『しでかす』の間違いだろ?」

 

平賀はその問いには「ノーコメントで」と回答を避けた。

 

「まあいいや。……そろそろ上がるか」

「俺らも上がるか?」

「そうだね」

 

3人は一緒に風呂からあがり、脱衣場に向かう。浴室から脱衣場に入った時、秀隆はこっそりと周囲を見渡した。

 

「どうした?」

「ん? ああ、ちょっと耳に水が入ったみたいだ」

 

聡が少し遅れた秀隆を不審に思うが、秀隆はケンケンで耳から水を出す仕種をしてごまかした。

 

「おいおい。風呂で泳いだのかよ?」

「ちげえよ。シャワーん時に入ったんだよ」

 

少し無理があるかと思ったが、聡も平賀も気にする様子はなく、そのまま着替えにはいった。

 

「あれ? 浴衣って使用禁止じゃなかった?」

 

秀隆が着替えたものを見て平賀が首を傾げる。昨日に引き続き、秀隆は禁止されていた浴衣を着ていた。

 

「かたいこと言うなよ」

「けど先生に怒られるんじゃ?」

「安心しろ。昨日鉄人に注意された」

「なおさらダメじゃないか」

 

そうやって笑いあっていると、

 

『――放送連絡です。Fクラス神崎秀隆。至急臨時指導室に来てくるように』

 

西村教諭からの呼び出しがかかった。

 

「ほら」

「……いや、たぶん別件だ」

 

嫌な予感がしつつも、拒否したら拳が飛んでくるのは目に見えているため、大人しく出頭することにした。

 

「西村先生。神崎です」

「入りなさい」

「失礼しまーす」

 

臨時指導室に入ると、西村教諭がパイプ椅子に座って待っていた。事務所の一つを改装した指導室は、パイプ椅子一組と小さな事務机だけの簡素な造りになっている。これで白熱電球のスタンドライトでもあれば、まさしく刑事ドラマの取調室を彷彿とさせる。

 

「座りなさい」

「うーす」

 

腕を組み、瞑目したまま短く指示を出す。秀隆も大人しく椅子を引き、机をはさんで西村教諭の向かいに座る。

 

「んで、どういったご要件で?」

「相変わらず不遜な奴だなお前は」

 

秀隆の慇懃無礼な態度に眉を歪ませるが、今更だし、指摘したとろこで直しはしないので、それ以上は咎めないことにした。

 

「それと、昨日も言ったが、備え付けの浴衣は使用禁止だ」

「まあまあ。いいじゃないっすか。減るもんじゃなし」

「ダメだ。規則だからな」

 

取り付く島もない。秀隆は芝居がかった仕種で肩を竦め、大仰にため息を吐いてみせる。

 

「たかだか浴衣ですよ? 売店の時とは違うでしょう?」

「禁止されているものは禁止だ」

「頭ごなしに『禁止』と言われても納得しかねますよ」

「理由ならある」

 

いつものトンデモ校則かと思っていた秀隆は少し驚いた。

 

「あるんすか? 浴衣に?」

「ある。――なんだと思う?」

 

西村教諭は自分の口では言わず、秀隆に考えさせた。秀隆は不審に思いつつ、口に手を当て少し考えた後、答えた。

 

「まあ無難に、ふざけて汚したり破いたりしないように、ですか?」

 

学園所有の施設とはいえ、一般客も利用できる半公共施設のため故の配慮だと考えた。

 

「それもある。が、それだけじゃない」

「それだけじゃないって……あとは浴衣姿に欲情したバカがおっ始めるくらいしか」

 

秀隆が西村教諭の方を見ると、黙って瞑目していた。それが返答だ。

 

「……まじすか?」

「分かったら明日以降は体育着を着るように。ところで」

 

これでこの話は終わりとばかりに、西村教諭は本題を切り出した。

 

「吉井たちが女風呂に突撃したのは知ってるな?」

「ええ。見送りましたから」

「まったく情けない。反省するどころか、数を増やしてこようとは」

 

明久たちの襲撃を思い返したのか、西村教諭が深いため息を吐く。彼らの辞書に「反省」の文字はないのだからそこを嘆いてもしかたがない。

 

「それで、明久たちは?」

「当然捕らえてある。今は別室で女子生徒監視の下、指導中だ」

 

ということは、今日も瑞希たち監視下で反省文を書かされているのだろう。自業自得なので同情はしないが。

 

「それで? 犯人が捕まったのならなんで俺が?」

「その主犯格が『秀隆の指示だ』と自白したんだ」

「アイツら売りやがったな!」

 

明久も立派なFクラスである。保身の為に秀隆を売るなど朝飯前。躊躇うはずがない。

 

「で? どうなんだ?」

「――雄二に『知恵を貸せ』と頼まれたから貸したまでです」

 

下手に言い逃れをしても心象が悪くなるだけなので正直に話した。

 

「なるぼど……遺言はそれだけか?」

「さすがに酷くないですか?!」

 

信じてもらえるとは思ってはいないが、死刑宣告されるいわれもない。

 

「冗談だ」

「冗談に聞こえないっすよ」

 

本人はお茶目のつもりだろうが、日頃の言動(体罰)から冗談ではすまなさそうなのが恐ろしい。

 

「だが、入れ知恵をしたというのであれば、少なくとも共犯者だな」

「あ、やっぱりそうなります?」

 

そこは覚悟していた。

 

「なのでお前も反省文を書くように」

 

西村教諭は机にA4サイズの用紙を置いた。文月学園で使われている反省文用の用紙だ。

 

「へーい。言語は?」

「実行犯じゃないからな。日本語で勘弁してやる」

「うっす。……ちなみに、もし俺も参加していたら」

「最近は韓流ドラマが流行りらしいな」

「日本語って素晴らしいなあ!」

 

秀隆が日本語の素晴らしさを再認識した瞬間であった。

 




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