バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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バカとテストと召喚獣の二次創作小説です。木下姉弟と幼馴染の少年『神崎秀隆』が吉井明久を始めとするFクラスのメンバーと打倒Aクラスを目指して奮闘するドタバタ学園コメディです。オリジナルキャラクターが登場、オリジナル設定を含みます。それらが嫌だという方は閲覧をお控え下さい。それ以外の方はゆっくりとお楽しみ下さい。

合宿3日目。終盤に差し掛かります。



第四十五問

第四十五問

 

覗きの共犯として鉄人から罰を言い渡された翌朝。秀隆はけたたましい怒号で目が覚めた。

眠気眼をこすりなが騒ぎの方を向くと、明久が足元の雄二にめがけて花瓶を振りかぶっている。

 

「……何やってんだお前ら?」

「おお! 起きたか秀隆! 寝起きですまんが手伝ってくれんか!?」

「…………(コクコク)」

「死ね雄二! 死んで詫びろ! あるいは法廷に出頭するんだ!」

 

秀吉が必死に明久を羽交い締めにし、康太が花瓶を押さえている。寝起きで頭がよく回らないが、わけのわからない状況だということは分かった。

 

「とりあえず落ち着けバカ」

「ぐふぅ!」

「ぎゃあああっ!」

 

無防備な明久の脇腹に拳が刺さる。明久は膝から崩れ落ち、その膝小僧が雄二の眉間にクリーンヒットした。

 

「おいお前ら! 起床時間だ――ぞ?」

 

脇腹を押さえてうずくまる明久。頭を抱えて転がる回る雄二。立ったまま鼻提灯を膨らます秀隆にオロオロする秀吉と康太。

 

「お前らは朝っぱらからなにをしとるんだ……」

 

西村教諭も頭を抱えるはめになった。

 

「そう言えば雄二。昨夜妙なことを言われたんだ」

 

朝のドタバタ騒ぎのあとの朝食中、明久が正面に座る雄二に声をかけた。明久たちは騒ぎのせいで食堂の隅で食べることになったが、秘密の話をするにはむしろ都合がよい。

 

「ん? なんだ?」

「工藤さんに『脱衣場にまだ見つかっていないカメラがある』って」

「なんだと?」

 

忙しなく動いていた雄二の箸が止まる。つられて他の3人も食事の手を止めた。

 

「怪しいよね。そんなこのを知ってるなんて、やっぱり工藤さんが犯人なのかな?」

「いや、そうとは限らんじゃろ。それならわざわざ怪しまれるようなことを言うとは思えん」

「工藤が俺らをおちょくってるなら話は別だが、そんなことする意味もないしな」

 

愛子がなぜもう一つのカメラの存在を知っているかは謎だが、それを精査する時間も手立てもない。

 

「…………確認するしかない」

「やっぱりそうなるのか」

 

どんなに議論を重ねても、最後には覗きの敢行で結論がでる。

 

「まあでも、それならそれで合点がいくな」

「ああ。工藤の情報はありがたい」

「え? カメラがあることが?」

 

明久はピンときていないようだ。

 

「ああ。カメラの存在を工藤しか知らないってことは、そこに女子の着替えが映っている可能性が高い。そうなれば、入浴していない女子の裸も確認できる」

「…………カメラの場所は5秒もあれば特定できる」

 

こういった時だけ康太が頼もしく見える。

 

「いや、何もそこまでせんでも。工藤に頼んでカメラを取ってきてもらえばよかろう」

 

雄二に否定的な声をあげたのは秀吉だ。秀吉の言う通り、わざわざ雄二たちが突貫しなくても、既にカメラを把握している工藤に頼めば済むことだ。

 

「それは難しいだろうな」 

 

対して秀隆は、工藤の協力は得られないだろうと言う。

 

「なぜじゃ?」

「俺らがカメラを求める目的は『尻に火傷の痕がある女子』を探すためだ。可能性なら今すぐにでもカメラを探しに行ったほうがいい」

 

しかし今は教師陣の監視もあるし、康太曰く、脱衣場は使用時以外は施錠されているので侵入できない。

 

「けどそれが工藤の目的と一致しないなら、共闘は難しいだろうな」

「工藤さんの目的?」

 

秀隆は愛子には自分たちとは別の目的があるのではと予測する。

 

「考えられる目的は2つ」

 

秀隆はだし巻きを箸で2つに割る。

 

「一つは盗撮犯を見つけること。カメラが仕掛けられているってことは、必ず回収にくる。その時を押さえれば犯人を検挙できる」

 

言い終わると、だし巻きの一欠片を口に運ぶ。

 

「なるほどの。して、もう一つはなんじゃ?」

「もう一つは、工藤がこの状況を楽しんでいる」

「え? 覗きや盗撮を? 工藤さんってもしかして露出狂なの?」

 

明久の台詞で康太が血の海に沈んだ。いったいなにを妄想したのか。

 

「ありゃあお前らをからかって遊んでいるだけだろ。そうじゃなくて、アイツが楽しんでいるのはこのどんちゃん騒ぎだ」

「つまり、この『男子VS女子』の構図を楽しんでいるということか?」

「そうだ」

 

雄二の解答に頷く。雄二もなるほどなと腕を組んだ。

 

「工藤はおそらくだが、物事を自分の面白い方へと持っていきたがるきらいがある。一種の快楽主義だな」

「工藤さんは、みんなが騒いでいるのが面白いからこのままにしているってこと?」

「でないと、カメラに気づいているのに先生はおろか、霧島たちにすら話てないのはおかしいだろ」

「そう言えばそうだね」

 

普通は盗撮に気がついたら周りに知らせたり先生に報告したりして対応する。一つ目のカメラがまさにそれだ。

 

「要はカメラをまだ隠していた方が工藤にとって都合が良いってことだ」

 

秀隆は残しておいただし巻きを頬張る。愛子の目的が何にせよ、利害が一致しないのであれば、協力を取り付けるは難しい。

 

「諦めて今まで通りの方法を貫けってことか……」

「そのようじゃの」

 

そんなわけで、議題はあの警備網をどう突破するかに変わった。

 

「そこで昨日の反省点だ。明久、昨日の敗因はなんだと思う?」

「敗因? う〜ん……秀隆が参加してくれなかったから?」

「それもある」

「ねえよ。責任をこっちに押しつけるな」

 

勝手に敗因にされた秀隆が抗議する。

 

「じゃあ――向こうが女子の半数を防衛に回したからじゃないかな?」

 

教師陣だけでなく女子生徒(主に後半組)も守備隊に参加したせいで、明久たちは質でも数でも下回るはめになった。

 

「…………敵側には工藤愛子もいた」

「姫路と島田に加え、霧島に姉上もおったぞい」

「そうだ。昨日の敗因は、Aクラス含め敵の戦力が大幅に増強されたからだ」

 

女子生徒に加えて当然のように教師陣もいる。彼我の差は歴然。正面突破を挑もうなど蛮勇を超えて無謀である。

 

「そこでこちらも更に戦力を増強しようと思う。具体的には、他のクラスにも参加を呼びかけて対抗するんだ」

 

向こうが女子総出で迎え討つなら、こちらは男子総動員で攻めたてるというわけだ。実にシンプルな作戦だが、明久は少し浮かない顔をした。

 

「どうしたのじゃ、明久?」

「う〜ん。なんかこの作戦がいつもと違う感じがして……。ほら、向こうが戦力を増やすからこっちも増やすって、なんだか僕ららしくなくてイマイチ……」

「ほう……。明久のくせによく分かってるじゃないか」

「少しは成長したってか?」

 

不満を募らせる明久に、雄二と秀隆はむしろ感心したようだ。

 

「明久の言う通り。増員は戦力強化だけが目的じゃない」

「他にも目的があるの?」

「ああ。それは、俺たちの『保身』だ」

「保身って? なにから身を守るの?」

「責任」

 

明久の質問に、秀隆が一言で返す。

 

「責任? なんの?」

「いいか、明久。まだ未遂で済んでいるからたいした罰を受けていないが、覗きは立派な犯罪だ。バレたら処罰は免れない」

 

堂々と真正面から突撃しておいてバレるもなにもないが、あえてそこはツッコまないでおく。

 

「盗撮の真犯人を捕まえても、覗きをしたのは事実だからな」

 

ある程度の温情はあるかもしれないが、罪を犯したことに変わりはない。

 

「だから人数を増やすことで責任の所在を有耶無耶にする。向こうも戦いながら顔を覚えることなんてできないだろう」

 

通常の試召戦争と違って今回のは人の入り乱れが激しい。

本来審判役の先生も参加しているので個人の特定は難しくなる。

 

「Fクラスだけ、もっと言えば俺たちだけなら主犯格を処分して終わりだが、複数のクラスにまたがるとそうもいかない。そこで処遇に差をつけようものならマスコミの格好の餌だ」

 

文月学園は斬新なシステムを取り入れた試験校として評価されている一方、その階級制のようなクラス別けから『公正さに欠ける』との批判の声も少なくない。今回の一件でもしそのようなことがあれば、世間からのバッシングは避けられない。

 

「つまり学園は完全にもみ消すか全員処罰するかの二択しかなくなる。そうすれば、一人ひとりの責任の比重は下がるってわけだ」

「一言で言えば『赤信号みんなで渡れば怖くない』だ」

「急に安っぽくなったの」

 

口惜しことに、だいたいそれで合っているのだ。

 

「なるほどね。流石は雄二と秀隆だ。汚いことを考えたら右に出る人はいないね」

「知略に富んでいると言え」

 

訂正しつつ、雄二が味噌汁をすする。

 

「しかし大丈夫かの? すべて工藤の言う通りカメラがある前提じゃが」

「いや、 むしろ最初のカメラが見つかったのがおかしかったんだ」

「盗撮するってのにすぐに見つかるような場所にカメラを仕掛けるわけがねえよ。康太が良い例だろ?」

 

康太が主催するムッツリ商会に並ぶ商品は全て彼が手ずから作り上げている。そしてその『眼』は未だ見つかってはいない。こんな身近なことろに盗撮の模範があるのもどうかとは思うが。

 

「最初のカメラはカモフラージュの可能性が高い」

「おまけに犯人は俺らってことになってるかるな。真犯人は安心して盗撮仕放題さ」

「なるほどの」

 

話し合いの末、今日は他クラスへの要請を行うことになった。

 

「どこから行く?」

「もちろんAクラスだ。同じ手間なら戦力は高い方がいいに決まってる」

「Aクラスなら合同授業で交流もあるから、話もしやすいじゃろうて」

 

まずはAクラスから攻め、次いでD・Eクラス、B・Cクラスと交渉する方針で決まった。

 

――合同授業時間――

 

「Aクラスなら、久保を説得するのが手っ取り早いな」

「よし明久、行って来い」

「明久なら適任じゃな」 

「…………頼んだ」

 

Aクラスへの交渉役は明久に白羽の矢が立った。

 

「別にいいけど、なんで僕なの?」

「「「「……………………」」」」

 

明久の素朴な疑問に、全員が視線を逸らした。

 

「あ、あのさ。なんだか凄く嫌な感じがするんだけど、本当に大丈夫なの?」

「心配するな。久保はお前に危害を加えん……たぶん」

「今たぶんって言った!?」

「あ、安心するのじゃ明久! 久保はお主に悪意は抱いておらん」

「…………彼に敵意はない」

 

奥歯にものが挟まったような言い方をする秀隆たちに、明久は逆に不安を募らせる。

 

「明久、早く行って来い」

「え? でも……」

「お前はこの中では一番久保に好かれている。自信を持て」

「う、うん……」

 

雄二の台詞に違和感を抱きまだ踏ん切りがつかない。

 

「……ただし、いざという時はコレを使え」

 

そう言って雄二は明久のポケットに何かをねじ込んだ。不審に思った明久が確認すると、それはスタンガン(20万ボルト)だった。

 

「一応もう一度聞くけど、本当に大丈夫んだよね?」

「安心しろ。そいつはどこぞの電気ネズミ2匹分の威力がある」

「威力の方の心配はしてないんだけど?」

 

釈然としないものを感じながらも、明久は交渉のため、久保の座る席に移動した。

 

「そういや秀隆もAクラスに知り合いがいたな?」

「誠か? アイツは無理だぞ。ノリは良いが根っからの真面目ちゃんだ。覗きに加担はしねえよ」

「それでも一応頼む」

「しゃあねえな。貸しだからな」

「問題ない。明久が返す」

 

本人不在のまま契約が交わされ、秀隆は席を立って誠を探した。

そこまで広い部屋でもないので、探し人はすぐに見つかった。

 

「よっす。ここいいか?」

「秀隆? いいよ」

 

許可がおりたので秀隆は誠の正面に腰を据えた。

 

「珍しいね。君がコッチに来るなんて」

「俺だってたまには真面目に勉強くらいするさ」

 

真面目くさって言う秀隆に、誠は「嘘ばっかり」と笑った。

 

「君がなんの打算なく勉強するわけないじゃないか」

「俺ってそんなに信用ないか?」

 

聡に次いで誠までも言われてもしまいさすがに少しヘコんだフリをした。

 

「信用ないというか、秀隆って暗躍するタイプじゃん? C.E.の議長みたいに」

「それ、最後は失敗して死ぬパターンじゃねえか!」

「ごめんごめん。けど、君が勉強するのは必要に迫られた時だ。違うかい?」

「さすがだな。よく理解ってらっしゃる」

 

秀隆は肩を竦めると、身を乗り出して誠に顔を近づけた。

 

「単刀直入に聞く。女風呂の覗きに興味はないか?」

「君は何を言ってるんだ?」

 

予想の斜め上の質問に、誠も思わず聞き返した。

 

「……冗談言わないでよ」

 

誠の表情が暗くなる。よりにもよって犯罪に加担しろと言うのだから無理もない。秀隆とてそこは承知の上だ。

 

「当然、無理にとは言わない」

「当たり前だよ。初日に盗撮騒ぎがあったのに。なんで覗きなんかするのさ?」

「盗撮騒ぎがあったからだよ」

 

秀隆は明久たちが覗きを決行した経緯を手短に説明した。もちろん、明久たちの脅迫のことは伏せてある。

 

「なるほどね。まあ坂本君がムキになるのも分かるけど、だからって覗きしたってなんの解決にもならないじゃないか」

「ごもっとも。けど2つ目のカメラがある以上、真犯人がいるはずだ。現行犯を捕らえれば万事解決って寸法さ」

「理屈は分かるけど、随分と荒っぽいなあ。君たちらしくもない」

 

誠も明久と同じ違和感を感じていた。権謀術数が得意なものが2人もいての正面突破は荒業がすぎる。

 

「ていうか君は大丈夫なの?」

「大丈夫? 何が?」

「木下さんにバレたらタダじゃすまないんじゃない」

「なんで皆して優子を出すんだ?」

 

誠が「まじかよコイツ」という今までに見たことのない顔をした。

 

「それに俺は今のところ不参加だよ」

「え? 誘っておいて? それは流石に筋が通らないんじゃ」

「安心しろ。最終日は参加する」

「最終日だけって、やっぱり何か企んでるんじゃないか」

「ノーコメント」

 

結局誠は不参加を表明。他のAクラス男子も同じだろうと言った。

 

「まあそうだよな。一応他の奴らにも声をかけといてくれ」

「無駄だと思うけどなあ」

「無駄でもいいさ」

 

秀隆としても、最初から約束を取り付けられると思っていない。元々がダメ元なのだ。これくらいは想定済みだ。

 

「ところで相談なんだが」

「なに? まだ何かあるの?」

「ここの答え教えてくれね?」

「それくらい自分でやりなよ……」

 

どこまでもマイペースな秀隆に、誠も呆れ返った。

 

「ただいま」

「戻ったぞ」

 

秀隆と明久が同時に帰還。成果は2人とも失敗に終わっていた。

 

「ごめん。失敗だったよ」

「こっちもだ。予想通りの返答だった」

「そうか。明久が無事で何よりだ」

「いや、そんな危ないことしてないんだけど……」

 

雄二が珍しく明久の身を案じる。その方向性は明久の思ったものと些かの乖離はあるが。

 

「しかし、そうなると他のクラスとの交渉を迅速に進めないといけなくなるな」

 

Aクラスを陥落させていれば、E〜Bクラスは 夕食時に交渉すればなんとか間に合ったが、そうもいかなくなった。

 

「それはそうだけど、今は授業中だよ?」

 

自習といえども授業は授業。不要に他クラスに立ち入ることはできない。

 

「そんなことは分かっている。だが全クラスとなると休み時間だけじゃ全然時間が足りないからな。どうしても抜け出す必要がある」

 

授業一コマに対して休憩時間は10分しかない。その間で交渉を成立させるのは厳しい。

問題は監視役の西村教諭をどう掻い潜るか。雄二が思案顔で西村教諭を睨んでいると、明久たちに近づく人影が。

 

「こら。アンタたち、また何か悪巧みしてるんでしょう」

 

人影の正体は美波だった。彼女は腰に手を当てると、つり目を更につり上げて明久を睨んだ。

悪巧みという単語に反応して西村教諭の肩がピクリと動く。

 

「イヤだなあ。美波、別に僕たちは悪いことなんて考えてないよ?」

 

覗きが犯罪でなければ、である。

 

「まったく。今更アンタたちに問題を起こすな、とは言わないけど……。よりによって覗きだなんて……。少しは覗かれる側の気持ちを考えたらどうなの?」

 

これは美波の言っていることが正しい。明久たちも、脅迫を受けておらず初日に盗撮の濡れ衣を着せられておらず瑞希の胸がもう少し小さければ覗きなんてしなかっただろう。

 

「よりによって、お風呂の覗きなんて……。周りと比較されるし、隠すものはないし、パッドを入れることもできないし、寄せて上げることも……」

「あの、美波。それは身体の一部のピンポイントな箇所を見られるのが嫌なように聞こえるんだけど」

「というか、今更だろ」

「何か言った?」

 

秀隆の言葉に、美波の声色が低くなる。

 

「明久は胸より尻か脚派だと言ったんだ」

「ならいいわ」

「よくないよ! 勝手に僕の性癖を捻じ曲げないでよ!」

 

と、明久たちが騒いでいると、雄二が視線で訴えてきた。

 

『鉄人にマークされている。島田を遠ざけろ』

 

言われて西村教諭の方を見ると、確かに西村教諭はこちらを睨んでいる。美波の言った悪巧みに警戒しているようだ。

 

『秀隆、頼んだ』

『何で俺が?』

『美波を怒らせたのは秀隆じゃないか』

 

秀隆からしたら知ったことではないが、他の面子も秀隆に視線を集中させているので、仕方なく引き受けるこのにした。

 

「そうだ島田。少し耳寄りな情報があるんだが」

「何よ? くだらないことだったらお断りよ」

「そう無碍にするなよ。絶対に気にいるからよ」

 

そう言うからにはよほどの自信があるのだろう。美波も少し耳を傾ける。

 

「胸を大きくする方法に興味はないか?」

「「詳しく聞かせてもらおうかしら?」」

「なんで優子まで来てんだよ……」

 

『胸を大きくする』を聞きつけて、どこからともなく優子も参戦した。

 

「そんなことはどうでもいいから、早く教えなさいよ」

「そうよ。早く教えなさい」

 

美波と優子が秀隆を急かす。

2人が話に集中している隙に、明久たちはコッソリと入口の方へ移動した。秀隆もそれを目で追うと、美波たちに向き合う。

 

「はあ……。まあ、方法っていってもなにも特別なものじゃない。道具もいらないし、なんなら今すぐにでもできる」

「本当に?」

「嘘じゃないわよね?」

 

手軽にできたら苦労はしない。2人と半信半疑だった。

 

「本当だ。その方法は」

「「方法は?」」

「方法は――『腕立て伏せ』だ」

「「はあ?!」」

 

もったいぶった割に、出てきたのは筋トレ。歯科も腕立て伏せだ。2人の顔色が疑念に染まる。

 

「まあ一度やってみろ」

「やってみろって」

「腕立て伏せでしょ?」

「もちろん、ただ普通に腕立て伏せをするんじゃない。少し工夫するんだ」

「工夫って?」

「まず、普通の腕立て伏せの体勢をとる」

 

言われるまま、2人は腕立て伏せの体勢をとる。

 

「腕は肩幅より少し広め。広げ過ぎないようにな」

「こう?」

「そうだ。んで椅子や台座に足を乗せる。体重を肩から腕で支える感じだ」

「ふむふむ」

 

近くにあった椅子に足を乗せる。運動不足だと、この体勢でも少しきつい。

 

「その状態で腕立て伏せをする。これだけだ。とりあえず、1日10回を3セットからだな」

「……けっこうキツいわね」

「そう? このくらいなら余裕よ」

 

優子は辛そうだが、美波はまだまだ余裕があった。

 

「けど、本当にこれで大きくなるんでしょうね?」

 

優子が尋ねる。腕の筋肉は鍛えられそうだが。

 

「もちろんだ。ちゃんと実績もある」

「そう? なら大丈夫そうね」

「ああ。これを毎日続ければ――立派な胸筋が育つ」

 

教室に破裂音が2度響く。

秀隆はその日、女子の本気のビンタは内側に響くと学んだ。




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