バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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バカとテストと召喚獣の二次創作小説です。木下姉弟と幼馴染の少年『神崎秀隆』が吉井明久を始めとするFクラスのメンバーと打倒Aクラスを目指して奮闘するドタバタ学園コメディです。オリジナルキャラクターが登場、オリジナル設定を含みます。それらが嫌だという方は閲覧をお控え下さい。それ以外の方はゆっくりとお楽しみ下さい。

いよいよ真相にせまっていきます。



第四十六問

第四十六問

 

そんなこんなで夕食も終わり、いつものブリーフィング時間となった。

 

「秀隆大丈夫?」

「大丈夫だ」

「いや、でも――」

「大丈夫だ」

 

心配する明久だが、秀隆は仏頂面で「大丈夫」の一点張り。しかし痛々しくも立派な両頬の紅葉が説得力を失わさせていた。

明久も自分が打たれたかのように自分の頬を擦る。

 

「島田と姉上に打たれるなぞ……いったい何をしでかしたのじゃ?」

「――別になにもしてねえよ。……前々から『胸を大きくしたい』ってたからトレーニングを教えただけだ」

 

ぶっきらぼうに言う秀隆に、秀吉たちも「トレーニング?」と疑問符を浮かべる。

 

「それだけで引っ叩くほど怒るか普通? どうせ嘘八百こいたんだろ」

「んなわけあるか。俺はただ『腕立て伏せ』を教えただけだぜ?」

「腕立て伏せ? どんな?」

 

秀隆は美波たちにした『腕立て伏せ』の説明を明久たちにもした。

 

「……そりゃお前、育つのは胸は胸でも胸筋だろ……」

 

普段から鍛えている雄二がため息混じりにツッコむ。

 

「胸には変わらん。第一、あんな脂肪の塊を支えるには筋肉が必須だ」

「けど胸筋トレーニングって……」

「叩かれて当然じゃな」

「…………残当」

 

全員が呆れ返る。秀隆は納得はしなかったが。

 

「それより、そっちの首尾はどうだったんだよ。まさか全滅とは言わないよな?」

 

秀隆が頬を犠牲にしたのは明久たちを他クラスの交渉に行かせるためだ。ここでなんの成果もなかったら張っ倒すつもりだ。

 

「問題ないーーと言いたいところだが、結果は最低限だな」

「E・Dクラスは参加してくれたけど、CとBクラスはダメだったよ」

 

参加を表明したのは下位クラスだけで上位層は不参加を決めこんだ。

 

「まあ、妥当か。Cクラスは代表が小山だし。Bクラスは代表が代表だからな」

 

Cクラスは代表が女子生徒の小山友香だ。バレー部のホープでもある彼女は女子生徒からの信頼もあつい。反対にCクラス男子は発言力が低く小山に頭が上がらない。覗きに不参加なのも、犯罪を犯すことへの抵抗や後ろめたさだけでなく、小山にバレた時のリスクを恐れたからだ。

対してBクラスの代表は根本恭司だが、彼はその狡猾で陰湿な性格ゆえ、たいした見返りもなしに何かに加担することはない。加えて元来の性格の悪さと、新学期早々に試召戦争でFクラスに敗北したことで、クラスメイトからの信頼はほぼない。仮に根本が参加を表明したとしても、「根本が参加するならしない」となる生徒の方が多い。

結果として、戦力はFクラスに毛が生えたほどのEクラスと、至って普通の学力のDクラスだけの増強となった。

 

「けど、Eクラスはともかく、よくDクラス――平賀が参加を決めたな」

 

Eクラスは部活動には熱心だが反面学業は疎かにしがちで、テストの点数も部活動を禁止にならない程度しかない。周りからの評価も『部活をしているだけFクラスよりマシ』くらいなもので、本質的にはFクラスと大差ない。

Dクラスは学力は学年平均かそれより少し下。生徒の認識も『THE高校生』で、その場のノリと雰囲気で覗きに参加する生徒がいてもおかしくはないが、平賀は代表だけあって根は真面目だからその手のイベントへの参加は渋るはず。C・Bクラスほどではないにしろ多少難航すると思っていた。

 

「あー。そうだな。平賀は渋ったな」

「そうだね。平賀君は、ね」

 

雄二と明久が含みのある反応をする。秀吉と康太も微妙な表情だ。

 

「はっきりしないな。何なんだよ?」

「えーと。Dクラスに秀隆の友達の九条君、だっけ?」

「聡がどうかしたか?」

「平賀を説得したのは、その九条なんじゃよ」

「聡が? ……あー。なんとなく分かったわ」

 

明久たちの話によれば、E・Dクラスの教室に行った時に、最初に出てきたのが聡だという。

 

「ワシらを見たとたんに『待っていたぞ心の友よ』と言われた時には驚いたぞい」

「…………面食らった」

 

予期せぬ来訪者を心より受け入れたのだから無理もない。

 

「その九条を起点に、話が一気にE・Dクラスに広まってな。最後は数の暴力で平賀を圧倒して終わった」

「はあ。あのバカが……」

 

昨夜の聡との会話を思い出す。よくよく考えれば、聡は既に覗きに興味を示していたのだ。そこに明久たちから声がかかれば、結果はおのずと見えていたはずだ。

 

「鳳といい、九条といい。お前の交友関係はどうなってるんだ?」

 

秀隆が中学生の時からの付き合いだというから、秀隆がそうとう荒れていた時からである。そんな時に、秀隆と聡と誠、性格がバラバラな3人が出会い、今なお友人でいるとこが、雄二には不思議でならない。

 

「どうって……普通にクラスが同じで席が近かっただけだが?」

 

事も無げに答える秀隆。それだけ聞くと、本当に至って普通の関わり方だ。

 

「まあ、絡んできた不良を殴りとばしたり、カツアゲしてきたチンピラをシメたりしたが」

「やっぱり普通じゃねえな」

 

普通の中学生は不良を殴りとばしたりチンピラをノシたりはしない。

 

「――っと。もうこんな時間か。ムッツリーニ、作戦開始時間と集合場所は両クラスに伝達してきたな?」

「…………問題ない」

 

そうこうしている内に、作戦開始時間が迫ってきた。

予定時刻は二〇一〇時。前番組が入浴を開始した時を見計らって攻め入る手筈になっている。

明久たちもそろそろ出発しようとしたその時――

 

「吉井っ! 大変だ!」

 

Fクラスの須川が勢いよく扉を開いて飛び込んできた。表情はかなり逼迫している。

 

「須川君、どうしたの? 作戦開始まではあと少し時間があるけど」

「やられたっ! 大食堂で敵が待ち伏せしていたんだ! 今は戦力が分断されて、各階に散り散りになっている!」

「なんだって!?」

 

女子側に先手を打たれていた。こちら側の戦力が集結する前を叩かれたのだ。

 

「……情報が漏れていたか?」

「…………情報が漏洩するようはことはない」

 

秀隆の疑念を払拭するように康太が即座に否定した。

伝達役に康太を指名したのも、彼の機密保持能力の高さからだ。康太がそんなヘマをするはずがないし、拷問して吐かせでもしない限りは他の男子からも漏れることはない。

そもそも奇襲的に先手を打つはそれなりの準備時間がいるはずだ。情報が漏れていないと言うのなら……

 

「こちらの考えが読まれていたか……」

 

雄二が悔しそうに呻る。

これだけの迎撃準備がされていたということは、雄二の作戦が既に露呈していたということ。ゴリ押しとはいえ、雄二の常識外れの作戦を見抜ける人物は一人しかいない。

 

「霧島翔子じゃな。さすが、学年代表の名は伊達ではないのう」

「よっぽど雄二が覗きをするのを許せないんだね」

 

雄二の突拍子もない作戦も、翔子の頭脳の前には形無しというわけだ。もっとも、頭脳関係なく、翔子が雄二の性格を熟知しているいわゆる『人読み』の可能性の方が高そうだが。

 

「…………迷っているヒマはない」

「だな。雄二、どうするよ?」

「どうするもこうするも、こうなっては作戦なんて殆どないようなものだ。分散された戦力を、一旦編成し直すしかない! とにかく出るぞ!」

「「「おう!」」」

 

明久たちは戦況を確認すべく部屋を出る。

 

「――今回ばかりは、お前にも参戦してもらうぞ」

「しゃあねえな。状況が状況だからな」

 

秀隆も参加を決め、報告のあった大食堂に走る。そこは既に戦場だった。

 

『このスケベども! 大人しくお縄につきなさい!』

『覗きなんてさせないんだから!』

『くそっ! なんで女子がいるんだよっ!?』

『知るかよ! とにかく応戦するぞ!』

 

徒党を組んで攻め込む女子生徒を相手に召喚獣を喚んで応戦する男子生徒たち。だがその点数の差は圧倒的だ。

 

Dクラス 小野寺優子 化学 116点

          VS

Fクラス 朝倉正広  化学 44点

 

朝倉の召喚獣が小野寺の召喚獣にあっさりと打倒されるのを見て、須川が声を上げる。

 

「皆落ち着け! 召喚獣は触れないんだ。いくら召喚したところで、無視して突っ切ってしまえばいい!」

「っ! 須川、止せっ!」

 

秀隆の静止を聞かず、召喚獣を無視して小野寺の横を通り抜けようとした須川の前に、布施教諭が立ちはだかった。

 

「Fクラスの須川亮君ですね? 特別指導室に連行させてもらいます試獣召喚(サモン)!」

 

布施教諭が召喚獣を召喚する。教師陣の召喚獣は、点数も然ることながら物理干渉ができる。そのパワーはゴリラ、あるいは重機以上。とてもじゃないが生身の人間が適う相手ではない。

雄二が一点集中の作戦に拘るのもの、ひとえに教師陣が警備にあたっているからだ。いくら強力な召喚獣でも、一度に相手できる敵の数は限られている。そのための一点集中。そのための頭数だ。

 

「全員聞け! とにかく一点集中でこの場を突っ切る! 俺に続くんだ!」

 

雄二が布施教諭を睨みながら周囲をつぶさに観察し、走り出す。

 

「雄二! そっちは一番敵の層が厚いよ!」

 

よりにもよって、一番包囲網の集中している場所に雄二は向かっていった。

 

「だからこそだ! 層の薄い場所は、突破してもその先に罠が仕掛けられている可能性がある! ここは苦しくても一番危険な方に進んだ!」

 

言われて明久も周りをよく見ると、確かに敵の包囲網に不自然な隙間がある。危うく敵の罠に引っかかるところだった。

 

『坂本に続け! 先生を迂回してこの場を逃れるんだ!』

『一気に行くぞぉーっ!』

 

浮足立ったクラスメイトたちも、雄二の指示でその視点が一箇所に集中する。

だが、そこにも立ちはだかる壁があった。

 

「行かせるとでも?」

「くそっ! 木下姉か!」

 

立ちはだかったのは優子だった。優子は守備隊を一個小隊率いて雄二たちの迎撃にあたる。

 

「退かないと怪我するぞ!」

「やれるものならやってみなさい! 先生! Aクラス木下優子、Fクラス坂本雄二君に――」

「Fクラス神崎秀隆が受ける! 試獣召喚(サモン)!」

「くっ! やってくれる……」

 

雄二に対戦を挑んだ優子に、秀隆が割り込む。他の女子生徒も、優子の召喚に合わせて召喚獣を喚んだ。

 

「秀隆!」

「お前ら先に行け! コイツは俺が相手する」

「……スマン!」

 

明久たちは優子の相手を秀隆に任せ、その場を後にした。

 

「アナタたちは坂本君たちを追って」

『え? でも……』

「いいから! 的になりたいの?!」

「もう遅えよ!」

 

優子たちが言い争っている間に、秀隆の召喚獣が女子生徒の一人に肉薄する。

 

「双牙斬!」

『きゃあああーっ!』

 

袈裟がけからの斬り上げで、女子生徒の召喚獣が霧散する。

 

「このっ!」

「っとお!」

 

空中にいる秀隆の召喚獣を、優子が横薙ぎに一閃。秀隆はこれを双剣でギリギリで受け、その勢いのまま後退した。

 

「いててて。昼間といい、思いっきり引っ叩きやがる」

「昼間のはアンタが悪いんでしょうが!」

 

昼間の一部始終を見ていた生徒はウンウンと、優子に同意するように頷いた。

 

「それよりも、今ので分かったでしょ? アイツの相手は私がするから、アナタたちは早く坂本君を」

『わ、分かった!』

『気をつけてね!』

 

秀隆に敵わぬと悟った女子生徒たちは、この場を優子に任せ、明久たちの後を追った。

 

『神崎。俺たちも加勢するぞ! 試獣召喚(サモン)!』

「ばっ! 止せ! 退け!」

「邪魔よ! 月光・烏!」 

『ぎゃあああっ!!』

 

加勢しよと召喚したE・Fクラス生徒を、優子は上空からランスを投擲して一掃した。戦死した男子生徒が女子生徒に捕縛され特別指導室送りになる。

 

「脆いわね」

「クソッタレが」

 

悪態をつくが感情に任せて突っ込んだりはしない。

ジリジリと立ち位置をずらしつつ間合いを測る両者。本来なら加勢すべき布施教諭も固唾をのんで見てしまった。

 

「はあぁっ!」

「やあぁっ!」

 

双剣とランスがぶつかる。点数は2人とも高得点。演出のためのエフェクトだと分かっているのに、火花散らす激突に、布施教諭は思わず顔を庇った。

 

「お前も島田も、手加減ってのを知らないのか?」

「アンタに言われたくないわよ!」

 

ランスの刺突を上体を反らして躱し、カウンターの足払いを飛んで避ける。

 

「こっちはアンタのせいで赤っ恥かいたのよ!」

「胸をデカくしたいっつうから教えただけだろうが!」

「私が言ってるのはカップで胸板じゃないのよ!」

「どっちも胸囲には変わりねえだろ!」

「違うわよ!」

 

双剣の連撃をランスが弾く。鎧の体重を乗せたタックルは召喚獣を馬跳びして回避。

戦闘が激しくなるにつれ、舌戦もヒートアップしていった。

 

「筋肉がなきゃ、支えるもんも支えられねえだろうが!」

「その支えるもんを寄越せって言ってんのよ!」

 

雲行きが怪しくなってきた。

 

「だいいち、胸の大きさなんて体質だろうが! 今更悪あがきしたって変わんねえだろ!」

「うっさい! アンタには分かんないでしょうね! 『持たざるもの』の苦悩が!」

「知るかそんなもん!」

 

剣戟に混じる怒声に、周りも注目し始める。

 

「瑞希、代表に愛子。オマケに美穂まで――着替えのたびに惨めな気持ちになるこっちの身にもなりなさいよ!」

「だから知らねえっての!」

『なんかあそこだけ雰囲気違くね?』

『う、うん……』

 

被害が予想外の方に飛び火している。皆が呆気にとられ、自分たちの戦闘を止め、2人の様子を見守る。

 

「あの――2人ともその辺で……」

「今取り込み中なんで!」

「少しすっこんでてください!」

「はい……」

 

さすがにこれ以上はと布施教諭が仲裁に入るが、2人の剣幕に圧倒されて引き下がってしまう。

 

「だいたい、なんでお風呂の覗きなのよ?! そんなに瑞希たちの裸がみたいの?!」

「んなもん興味ねえよ!」

『いやそれはウソだろ……』

 

正直、瑞希たちの裸体は男子だけでなく女子でも話題になっている。それに興味がないと言うならば何故覗きに参加しているのだ。

 

「嘘おっしゃい! アンタの秘蔵本巨乳ばっかじゃない!」

「ばっ! お前なんで知ってーーっ!」

「ベッド下の二重底なんてお見通しよ!」

「機密情報をバラすんじゃねえ!」

 

ギャラリーももはや戦闘などそっちのけで、2人の口喧嘩に耳を傾けている。

 

「じゃあ言わせてもらうがな! お前さんざん秀吉の容姿ががどうのこうの言っておいて、最近『男の娘』ジャンルにハマってんじゃないか?」

「なっ! どうしてそれを――」

「残念だったな! あの店の店長とは仲が良いんだ!」

「プライバシーの侵害よ!」

「お互い様だろうが!」

 

口喧嘩が痴話喧嘩になっている。他の生徒たちも、先程のいがみ合いはどこへやら。召喚獣を消して、完全に観戦モードになっている。

 

『二重底か。俺もやってみるか』

『止めとけ。俺もこの前引き出しの二重底が母親にバレた』

『木下さん、男の娘好きなんだ』

『けど分かる。木下君可愛いし』

 

座って雑談する者、勝敗を予想する者、それを賭けにする者まで現れる。そんな周囲をよそに、戦闘は激化する。別の方向へ。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

「はぁ……はぁ……」

 

これでもかという程の戦闘と舌戦を繰り広げ、両名とも肩で息をするほどに消耗していた。あと一撃で決着がつく。誰もがそう思った。

 

「……」

 

先に構えたのは秀隆だ。キックボクシングのように両手を顔の横にもっていき、双剣の刃を外向きにして構える。

 

「っ!」

 

優子も対応すべくランスを構え直す。

 

「……止めだ」

 

そう呟くと、秀隆は武器を足元にポトリと落とし、召喚獣ともども両手を上にする。

 

「降参。俺の負けだ。特別指導室でもどこでも連れてけばいい」

 

秀隆の降伏。不満を覚えるほどの呆気なさすぎる決着に、ギャラリーもぽかんと口を開ける。

 

「……そう。なら大人しくしておくことね」

 

敵に戦意なしとみた優子も槍を収めた。

 

「布施先生。私はこのバカを特別指導室に連行するので後をお願いします」

「おい! 腕を捻るな! 俺の関節はそっちには曲がらねえよ!」

「あ、はい。分かりました。お願いします」

「ほら、キリキリ歩きなさい」

「分かったから腕を捻るな!」

 

秀隆の腕を捻りあげると、呆気にとられたままの布施教諭を置き去りに、優子はスタスタと歩き出しす。秀隆も腕を取られたままなので大人しく従うしかない。

特別指導室となっている教室は、既に捕縛された生徒でいっぱいだった。覗きに加担した男子生徒、監視役の教師だけでなく、後半組や既に入浴を終えた一部女子生徒も補佐役としている。

 

「あそこが空いてるわ」

 

教室の隅に空きスペースを見つけた優子は秀隆をそこに引っ張っていく。

 

「はい、神崎君。とりあえず反省文を英語で最低一枚は書き終えてください」

 

監督役の五十嵐教諭が一言添えて用紙を置いていく。監視と指導は優子に任せるようだ。

 

「はー。だりぃ」

「覗きなんてするからよ」

 

優子の指摘はスルーして辺りを見渡す。皆英語の反省文に四苦八苦しているようだ。

 

「高橋先生がいないな」

「高橋先生なら警備組よ」

 

さらりと告げる優子に、秀隆はわざとらしく驚いた。

 

「げっ。それじゃあ明久たちは無駄骨だな」

「白々しいわね。分かってて殿を引き受けたくせに」

 

心にもないことを言う秀隆を、優子がじろりと睨む。

 

「まあ先手打たれて勝ち目がないのは目に見えていたからな。高橋先生の出陣は予想外だったけどな」

 

秀隆は紙にペンを走らせる。机には一応辞書もあるので英文を書くこと自体は問題なさそうだ。

 

「今まで不参加だったのに、なんで出てきたのよ?」

「なりゆきだよ。本当は明日まで待つつもりだった」

「そう。それで、坂本君たちを行かせた理由は?」

「勝ち目はなかったって言ったろ? 退こうが進もうが結果は一緒。だったら進ませた方がまだマシさ」

「士気が下がらないから?」

「そういうこと」

 

尋問に答えながら書き進めていく。優子も手元をのぞき込みながら、秀吉もこのくらいできたら、と独りごちた。

 

「……なあ。ここコレで合ってるか?」

「なによ。それくらい辞書引きなさいよ」

 

文句を垂れつつ秀隆がペンで叩く箇所を見る。そこには英文でこう書かれていた。

 

『How’s it going?(首尾はどうだ?)』

 

読んだ瞬間、優子はさっと周囲を見渡す。五十嵐教諭も他の生徒を見ているし、皆自分の反省文で手いっぱいだ。こちらに注目している気配はない。

 

「そうね。私ならこう書くわ」

 

秀隆の英文の上に優子の答えを書く。

 

『In conclusion, I’m not sure(よく分からないの)』

 

優子の答えを読んだ秀隆は、そうだよなと頷いた。

 

「密集地帯の上、皆友達とお喋りしていたから、いちいち周りを気にすることもない、か」

 

声量を絞り考える風をして論点をまとめる。優子も秀隆の予想に「ええ」と頷いた。

 

「ただ――少し妙なのよ」

「妙?」

 

優子は答える変わりにまた紙に英文を記す。

 

『Someone shouted "There is a camera!"(誰かが『カメラがある』って叫んだそうなの)』

 

「あん?」

 

秀隆の眉間にシワがよる。

 

「お前、パッと見で分かるか?」

「無理ね。普通、アレがそうだとはすぐには分からないと思うわ」

「だよな」

 

小山たちが突撃して来た時のことを思い返す。彼女がカメラだと言って見せたのは、見た目はマッチ箱サイズの黒い箱だ。物陰に隠されては見つけるのも容易ではない。よく見れば作動中を示すLEDが光っていたがそれのサイズも米粒ほど。ましてやレンズがどこにあるかも分からない。

それが瞬時にカメラと分かるのは、康太と同じくその手の道具に精通しているか、あるいは――

 

「他には?」

 

険しい表情のまま秀隆が聞く。その顔を見て、優子も黙ってペンを走らせる。彼の予想が合っているのなら、優子の解答も検討はついていた。

 

『Someone said to Koyama "The culprit is Akihisa Yoshii F-class"(誰かが小山さんに『犯人はFクラスの吉井明久に違いない』と)』

 

秀隆の頭の中で、何かがカチリとハマった。動機に手口、状況証拠は十分。あとは物証とできれば証言さえあれば。

 

「少しは役に立った?」

 

聞かれて伏せていた目線を上げると、ジッとこちらを見つめる優子と目が合った。彼女は心配する風でも、怒っているわけでもなく、ただ微笑んでいた。

 

「ああ。バッチリだ。今度詰め合わせする」

「そ。楽しみにしてるわ」

 

満面の笑みで答える秀隆に、笑みを浮かべたまま優子は目を閉じて短く返した。

その後手早く反省文を書き終えた秀隆は、未だ苦戦している生徒や石抱に処されている明久たちを横目に部屋に戻った。

 

 

 

 

 




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