次回撮影会です。
第四十七問
部屋に戻るなり、秀隆は備え付けの机に筆記用具としおりを広げ、何かを書き殴っていく。時々考え込みながらも、あっという間に書き上げた。
「づがれだー」
それとほぼ同時に明久たちも帰ってきた。今日も瑞希たちからのオシオキを受け、全員もれなくぐったりしている。
「おつかれ」
「毎度のことだが、かったりいな」
「そうじゃな。もう慣れてしまったがの」
「………………いつものこと」
それぞれに肩を回したり腰を伸ばしたりする明久たちに、普通なれるもんじゃないけどな、と秀隆は苦笑する。
「それより、雄二これを見てくれ」
一転して真剣な顔で秀隆が雄二に差し出す。先程殴り書きしたしおりだ。
「なんだこれ?」
「明日の敵の布陣を予想してみた。お前の意見を聞きたい」
いつになく真面目な声色で言われ、雄二もしおりに素早く目を走らせる。秀隆の予想図を見終わると「はっ」と短く笑った。
「驚いたな。俺の予想とほぼ同じだ。想定される敵の戦力も教師の配置も」
「どれどれ」
明久たちもどをんなものかと雄二の後ろから覗き見た。
「うわ。すっごく細かく書いてある」
「これが雄二の考えと同じなら、作戦を練りやすいの」
「…………助かる」
3人は口々に感心するが、雄二の眉間にはシワがよったままだ。
「だが疑問もある。お前は今日高橋女史に会っていないはずだ。なぜ彼女が居ることが分かる?」
「優子に聞いた。オマケに良い情報も入手した」
「なるほど。その情報とコレはなんの関係がある?」
「ソレとの直接の関係はない。だが、犯人に繋がる有力な情報だ」
「本当に?!」
犯人が特定できたと聞いて、明久は息巻いた。
「犯人は誰なの?」
「詳しくは言えない。まだ容疑者の段階だ」
「しかし確信を得ておるのじゃろ?」
秀吉の問に、秀隆はしっかりと頷いた。
「ああ。ほぼ間違いないだろう」
「ならなんでソイツの名前を教えない?」
雄二の声色が厳しくなる。そこまで分かっているのに教えないのは犯人を庇っているからだ、と暗に雄二は言う。
秀隆は雄二の思惑を否定するように首を横に振った。
「昨日も言ったろ。犯人は警戒心が強いし用意周到だ。不意にどこから漏れるか分からん」
「じゃあどんなヤツかだけは教えろ」
こうなっては頑として聞かないのを知っているので、雄二は犯人の特質を聞くことにした。
「犯人は明久を相当妬んでいるヤツだ」
「明久だけか?」
雄二は眉をひそめる。犯人は明久と秀隆に脅迫文を送り、雄二のプロポーズを捏造した。ならば3人に恨みあるいは妬みがあるはずだ。
「明久だけだ。少なくとも、雄二は関係ない」
「根拠は……木下優子の情報か?」
「そうだ」
情報を一つ一つ吟味するように、雄二が質問を重ねる。それに秀隆は頷いた。
「優子に最初のカメラが見つかった時の脱衣所状況を探ってもらった」
「それで?」
「俺は最初のカメラは偶然バレたと思っていた」
愛子の情報で本命が別にあり、最初のカメラはカモフラージュだった可能性が出てきた。かと言って、盗撮の最たる証拠であるカメラをわざわざ見つけやすい場所に置くことはない。秀隆も雄二もそう考えていた。
「実は最初のカメラが本命で、もう一つのカメラは念のためって可能性もあるからな」
「ああ。だが実際は違った」
「やっぱりもう一つのカメラが本命だったってこと? でもそれはもう分かってることじゃ?」
「そっちじゃない。違ったのは最初のカメラの見つかり方だ」
「見つかり方?」
「犯人は――自分でカメラをばらしたんだ」
「なにっ!?」
雄二が驚愕に目を見開く。雄二だけじゃない。明久も秀吉も康太も驚きを隠せずにいた。
「自らバラしたじゃと?」
「…………ありえない」
「なんでそんなことを?」
明久は理解できなかったが、雄二には思い当たる節があった。
「本命を隠すために、わざと差し出したのか」
「それもあるが、同時にFクラス――明久に罪をなすりつけるためだ」
「どういうことじゃ?」
「想像してみろよ。もし盗撮されたとして、その犯人が即座に捕まったらどう思う?」
「どうって……盗撮犯は捕まったんだからもう――ってまさか」
明久の想像を、秀隆は肯定した。
「そのまさかさ。盗撮犯が見つかればもうカメラはないと思うだろう。そうすれば、真犯人は悠々と盗撮できる」
「もしもう一つも見つかっても、そっちも偽犯人が被ってくれるってわけだ」
たとえ自分に容疑が向けられても、既に犯人に仕立て上げた人に押しつければいい。とても狡猾な手口だ。
「その生贄が俺たちってわけだ」
「正確には明久一人だ」
「僕ぅ?」
犯人に仕立て上げられた明久が情けなく叫ぶ。
「真犯人は名指しで明久が犯人だと小山に告げたそうだ」
「なるほどな。そうすれば明久は貶められて、犯人の言う『親しい異性』から遠ざけられる」
「そして自分はその意中の相手に近づけられる」
「悪魔のような発想じゃな」
「…………えげつない」
意中の相手を手中に収めるために、明久を陥れる。それが脅迫犯の狙いだ。
「盗撮の裏に、とんでもないものが隠れていたな」
「もちろん、盗撮も目的だろうな。犯人からしたら一石二鳥って寸法さ」
秀隆が大仰に肩をすくめる。犯人の陰湿で大胆な作戦に拍手を送りたい気分だ。
「ついでに言えば、俺たちが覗きを試みたのも追い風だな」
「騒ぎがワシらに集中すれば、犯人はますます動きやすくなるというわけじゃな」
犯人を探しあてるつもりが、逆に犯人の手助けをしていたとは皮肉なことだ。
「でもどうするの? 今更覗きを止めるなんて」
既に明久たちは覗きの実行犯として西村教諭たちに目をつけられているし、FクラスだけでなくE・Dクラスも巻き込んでいる。今更引くに引けないし。
「しかしこのままでお主らは脅迫犯の影に怯え、かつ覗き犯として不名誉な称号を掲げることになるぞい」
「分かっている。そして俺は残りの人生を翔子に奪われ、明久は残りの人生を変態として過ごすことになる」
「…………どちらにせよ詰み」
引いたところで待つのは絶望的な未来のみ。ならば、とるべき道はひとつしかない。
「真犯人を捕まえる。これしか道はねえ」
「だな。どうせ引けないなら、前に進むしかねえ」
「そうだね。圧倒的な戦力差だったけど、そんなものは僕らにとってはいつものことだし。こういった逆境を覆すのが僕らの真骨頂だし!」
背後には脅迫と覗き、証拠不十分だった盗撮疑惑が迫り、前面には比較するのも馬鹿馬鹿しくなるほどの高い壁。絶望の淵に立たされ、誰しもが戦意を喪失するような状況でも、明久たちの闘志は燃え尽きていない。
「…………このまま引き下がれない」
「そうじゃな。こんなことはFクラスに入ってからは慣れっこじゃ。今更慌てるまでもない」
秀吉と康太の士気も高い。今こそが、Fクラスの真価が試される時だ。
「その意気だ。まだ手立てはある」
「そうだ。諦めない限り、俺たちにはまだ手が残されている」
秀隆と雄二も、諦めないでいる明久たちに希望を見出した。
「流石の2人じゃな。もう次の一手を考えておるとは」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってる?」
「霧島のゴリラ」
「歯ぁ食いしばれ」
肝心な時に締まらないのもいつものこと。
「落ち着くのじゃ雄二。――して、その作戦は?」
胸ぐらを掴んで拳を振り下ろそうとする雄二を秀吉が制する。雄二と秀隆はその体勢のままニヤリと笑い高らかに告げた。
「「正面突破だ」」
「秀吉。今回はダメかもしれない」
明久たちの顔が絶望と呆れに染まる。
「そう悲観そうな顔をするな。ちゃんと理由がある」
「理由とな?」
「そうだ。正面突破の基本スタンスは変えないが、事前準備で考えがある」
「事前準備って、また人数を増やすの?」
「そうだ。向こうもこちらの戦力増強を見越して戦力を強化したんだろうが、高橋女史を投入したということは、それももう頭打ちだ」
「そっか。まだ余力があるなら高橋先生まで参加する必要はないもんね」
学年主任である高橋教諭は、女子生徒にとって西村教諭と双璧をなす防衛の要だ。その高橋教諭を投入したということは、それ以上の戦力がいないということ。
「そうだ。だがこちらにはまだBクラスとAクラスがある」
「その2クラスを引き込めれば、まだ挽回の余地はある」
B・Aクラスが加われば、敵の強力な布陣にも抵抗することができる。
「向こうの布陣は教師を中心とした防御主体の形たが、色々と弱点もある。それが何か分かるか?」
「微塵も分からないね!」
「チョキの正しい使い方を教えてやる」
「ふぎぁあああっ! 目がっ! 目があっ!」
雄二のゴツい指が明久の眼球とフレンチキッチンを交わす。
「召喚フィールドには『干渉』っつう現象がある。別々の教師が一定範囲内で異なる教科フィールドを展開すると、科目同士で打ち消し合って召喚獣が消滅するって現象だ」
「要するに教師は余程開けた場所でないと複数のフィールドを展開できないということじゃろう?」
「そういうことだ」
普段の試験召喚戦争ならば、参加人数も2クラスで戦場は2年生のフロア全体に及ぶ。他のクラスは当然授業中なので参加できる教師の数も限られているので干渉は起きにくい。
しかし今回は合宿所で参加人数は2年生ほぼ全員。引率の教師陣ももれなく参加するので干渉の起こりやすさは桁違い。付け入る隙はそこにある。
「それを考慮した上で、秀隆が考えた敵の布陣がコレだ。俺も同じ布陣を予想していた。」
雄二が床にしおりを広げる。そこには秀隆が予想した明日の敵の布陣が事細かに書かれている。
「この短期間でこれを考えたのかの?」
「すごいや。先生の配置だけじゃなくてクラスや人数も書いてある」
秀吉と明久が手放しで褒める。
「ぶっちゃけその変は適当だ。各階の配置は正直そこまで重要じゃない」
「だな。肝心なのは高橋女史の陣だ」
雄二はしおりに書かれた『高橋先生』をトントンと指で叩く。そこは大浴場に続く階段の下だ。
「今日とは違う場所なんだね?」
「今日が何処だったかは分からんが、俺ならソコに置く」
「そうだな。強い駒を重要な場所に配置するのは定石だからな」
「仮に他の先生が取りこぼしたとしても、高橋先生の所で刈り取る算段じゃな」
「…………まさに鉄壁」
高橋教諭の攻撃を受けた明久が身震いする。
「高橋先生の点数は?」
「総合科目で7000点オーバー。明久が瞬殺だった」
「そりゃお手上げだな」
教師相手でも多少の点差なら操作技術で渡り合える明久が手も足も出なかった。並の戦力では露程もかなわない。
「それに高橋先生を突破しても、次に待っているのは鉄人だ」
秀隆が高橋教諭のところからつつっと女子風呂までなぞる。その途中に、デカデカとした鉄人の二文字。
「だが俺たちは高橋女史を突破して、あるヤツを極力無傷で鉄人の前まで連れて行く必要がある」
「あるヤツ?」
西村教諭に対抗できる生徒が2年生、いや学園にいただろうか。明久は思いつかなかったが、雄二の目はしっかりとソイツを捉えていた。
「お前だよ明久。お前が鉄人と闘って勝利する。これが絶対条件だ」
「それは僕が観察処分者だから?」
「そうだ。ヤツを生身で倒すのは不可能だ。人間は武器を持ちえて初めて猛獣と対等たりえる。その武器を持っているのは明久、お前だけだ」
観察処分者の召喚獣は物理干渉ができる。ゴリラ以上のパワーを持つ西村教諭に対抗できる唯一の方法だ。
「けどそれなら秀隆でもいいよね?」
秀隆も観察処分者だ。その上秀隆の方がテストの成績は良いから戦力は上。西村教諭を相手取るなら秀隆のほうが適任に思える。なにより、作戦のためとはいえ明久とて西村教諭の相手はできることなら避けたい。
「逆に聞くがな、秀隆が鉄人のところまで無傷で行けると思うか?」
「え? うーん……」
明久は少し考える素振りを見せるが、結論はすぐに出た。
「……たぶん無理かな。僕が向こうなら絶対に通したくないし」
「そうだ。こちらにとって姫路や翔子が厄介なように、向こうにとって秀隆は厄介極まりない敵だ」
「テストの点数、召喚獣の操作、盤外戦術。どれをとっても苦戦を強いられるの」
「…………まともに相手をしたくない」
瑞希や翔子は圧倒的な戦力で敵を上からねじ伏せる。対して秀隆は点数では劣るものの、テクニックと知略を駆使し外から切り崩していく。相手にするには戦略を練らねばならない。
「だからおそらく、秀隆の相手は高橋女史や翔子たちになる。いくら秀隆と言えどもこれだけの戦力の前では無傷ではいられないだろう」
「それに比べてお前はFクラスの底辺と認識されている。言い換えれば、『吉井くらいなら鉄人がなんとかしてくれる』と思われている」
実際明久は初日に西村教諭に素手で倒されている。そのことも敵の心理に拍車をかけていた。
「つまり、明久の方が突破しやすいというわけじゃな?」
「ああ。大島先生は康太。高橋先生は俺が担当する。そうすれば明久が鉄人の所までたどり着く確率はかなり上がる」
「…………今度は負けない」
自慢の保健体育で教師相手とは言え大島教諭に3度の敗北をきした康太が静かに闘志を燃やす。愛子にも、借りを返さなければならない。
「だが俺一人で高橋先生の陣を相手取るのはさすがに厳しい。戦力の増強は必須だ」
作戦を成功させるには、どうしてもC〜Aクラスの参加が必須だ。
「じゃが大丈夫かの? 高橋先生や姫路だけでなく、姉上や他のAクラス女子も付随しているはずじゃが」
「その辺りは手を打つつもりだ。問題はそこまでの道中と取り巻きの相手だが」
「安心しろ。戦力増強の手は考えてある」
そう言って雄二が掲げて見せたのはデジタルカメラと、部屋備え付けの浴衣だった。
「雄二。備え付けの浴衣は使用禁止だぞ」
「お前に言われたくねえ」
「けど、それをどうするの?」
「着せて写真を撮り、A〜Cクラスの劣情を煽る。うまくやれば覗きへの興味がある湧いて協力を取り付けられるはずだ」
ようは色香で釣る作戦である。
「ふ〜ん。なんか雄二の作戦っていつもこんなのばっかだね」
「ほっとけ」
「まあ男子高校生なんて欲望の塊だからな。少なからず効果は出るだろうよ」
安直な作戦だが、ターゲットがはっきりしている分効果は出やすいだろう。
「そうだね。じゃあはい、秀吉」
「……またワシが着るのかのう……?」
秀吉が渋い顔をする。この手の作戦で矢面に立つのはいつも秀吉だ。
「安心しろ。今回は秀吉だけじゃなくて姫路と島田にも着てもらう」
多くの男子生徒を懐柔するにはそれぞれの需要を満たす必要がある。被写体は多いに越したことはない。
「いや、ワシは一人で着るのが不満なわけじゃないのじゃが……」
「諦めろ。色香が強いんだろ?」
「むう……」
秀隆に揶揄われて口をとがらせる。そういうところが可愛らしいんだと明久は思った。
「それじゃあ、明久は姫路と島田に連絡を取ってくれ。ムッツリーニにはカメラの準備だ」
雄二の指示で明久は2人にメールを、康太は猛烈な勢いでカメラのレンズを磨き出す。
それと同時に秀隆も携帯電話を開いた。
「どこに連絡するんだ?」
「誠。別ルートで協力を仰いでみる」
「それは助かる。頼んだ」
「期待はせずにいろ」
秀隆がニヤリと嗤う。この顔をする時は、たいてい碌なことにならないが、協力者を募るというのなら任せるほかない。
「バカぁっ! 僕のバカぁっ! ある意味自分の才能にビックリだよチクショウ!」
突然の明久の雄叫びに、雄二も秀隆も何事かと訝しむ。
「どうした、明久? 何か悲鳴が聞こえたが」
「色々と大変なことが起きたんだ! 今は僕の邪魔をしないで――」
「大変なこと? それは――っとと」
明久に近寄ろうとした雄二がたまたまそこに落ちていたバナナの皮で滑る。そのはずみで明久を巻き込んで倒れてしまい、ドサクサで明久の携帯電話が二つに割れた。
「大変なこととはいったいなんだ?」
「たった今貴様が作った状況だよコノヤロー!」
明久が足元で無残な姿に変わり果てた携帯を指さした。
「ん? これは明久の携帯電話か? すまんな。今度修理して返す」
「今はそんなこといから、雄二の携帯電話を貸して!」
罪悪感もあってか、雄二も大人しく携帯電話を差し出す。明久はそれを引ったくるように奪いすぐさま電話帳を開いた。
「ねえ雄二。アドレス帳に霧島さんしか登録されてないんだけど?」
「なんだと? ……翔子の仕業だな。まったく。家に帰ったらアドレス帳を入力し直さないといけないな」
雄二の携帯電話は翔子によって検閲されているらしく、アドレス帳から両親と翔子以外が消されることが度々あるのだという。
明久もアドレス帳頼りだったので、送り先のアドレスも電話番号も暗記しているわけもなく。
「明久、そんな深刻そうな顔をしてどうしたんだ? まるで間違えて島田に告白まがいのメールをしてしまって弁明しようとする前に俺に携帯電話を壊されて何もできなくなってしまった、みたいな顔をしているぞ」
「あはははっ。なにを言っているのさ雄二。そんなわけないじゃないか」
「そうだよな。それだと俺がまるで極悪人みたいだもんな」
「そうだよ。あはははっ」
明久は笑いながらカチカチと携帯電話を操作し、どこかにメールを送信した。
「うん? 明久、俺の携帯電話で何を送信――ゴふっ! ななななんてことをしてくれたんだキサマ!」
「だまれ! キサマも僕と同じよう色々なものを失え!」
言うやいなや、明久は雄叫びとともに雄二の携帯電話をお茶に投げ入れた。
「おわぁっ! 俺の携帯電話をお茶に突っ込みやがったな! これじゃ壊れて弁明もなにもできないだろうがクズ野郎!」
「そう! それだよ! それが僕が今雄二に抱いてる気持ち!」
「なにをわけのわからんことを! ――と、とにかく今は早く翔子の部屋に行って誤解を解かないと大変なことに――!」
雄二は慌てふためいた様子で部屋から勢いよく飛び出し、
「ぶべらあっ!」
勢いよく部屋に舞い戻ってきた。
扉の外では西村教諭が拳を突き出した状態で静止している。
「部屋から出るな」
「イエッサー」
ドスの効いた声で威す西村教諭に、明久が全力の敬礼で返答する。実質的に隔離された状態だ。
「お前何送ったんだよ?」
「え? 霧島さんに改めて告白したいって」
「雄二の携帯電話で?」
「雄二の携帯電話で」
そりゃ雄二も慌てるはずだ、と秀隆も納得した。
「そうだ! 秀隆の携帯電話貸してよ!」
「今の見て貸すと思うか?」
あの惨劇を見て、素直に貸す気にはなれない。
「うぐ……」
「はぁ……島田には俺から訂正メール送っといてやるから」
「ありがとう! さすがは秀隆だよ!」
「現金なやつだな」
苦笑しながらも、秀隆はメールを打つと送信した。これで安心だと明久も胸をなでおろす。
「そういえば、2人はまだ携帯電話持ってないの?」
「うむ。今のところ必要ないからの」
「…………いざという時に鳴ったら困る」
康太の言ういざという時は置いておいて、今どきの高校生で携帯電話を持っていないのは少数派だろう。
「部活で遅くなる時があるなら連絡用に持っておいた方がいいぞ。今の時代なにが起きるか分からないからな。康太は――電源切っとけ」
「そうじゃの。姉上も持ったようじゃし、考えておくかの」
「…………検討する」
清涼祭のこともあったので、連絡手段が多いに越したことはない。
「あとは姫路さんを待つだけだね」
「いや、鉄人が問題だ」
秀隆は親指で扉の方をさす。
「確かに、あのままじゃと姫路が入ってこれんの」
「なんとか言い訳できないかな?」
「いや、昔やらかしたバカがいたみたいでな。男女部屋の移動には敏感になっているはずだ」
そうなれば、瑞希はにべもなく突き返されてしまう。
なんとか西村教諭を遠ざけられないかと思案していると、
『西村先生。ちょっとよろしいですか?』
『高橋先生。どうかされましたか?』
外から高橋教諭と西村教諭の会話が聞こえてきた。高橋教諭は少し慌てている様子だ。
『帰りのバスの件でトラブル――手違いがありまして』
『なんですって?』
『今他の先生方と対応をしているんですが……』
『……仕方がありませんな。私もいきましょう』
『すみません』
どうやらトラブルがあったようだ。聞き見を立ててい明久たちは気配を感じて急いで扉から離れた。直後、西村教諭の渋面が現れた。
「――お前ら。俺は急用でここを離れるが、決して部屋から出るんじゃないぞ」
「あ、はい」
「うっす」
「承知しましたのじゃ」
「…………了解」
脅すように告げると西村教諭は扉をバタンと閉め、高橋教諭とともに離れていった。渡りに船とはこのことだ。
「運が良かったね」
「だな。鉄人が戻って来るまでにチャチャっと終わらしちまおう」
「じゃな。となると、ここを少し片付けんとな」
明久と雄二のイザコザで、部屋が少し散らかっている。撮影するには些か不向きだ。
「そうだね」
手分けして片付ける。とりあえず、荷物は右に、ゴミは左に寄せ、明久が雄二を左側に投げた。
「ぐあああッ! せ、背中にガラスの破片がっ!」
「あ、雄二。起きたなら手伝ってよ」
「その前に何か言うことがあるだろう!」
「大丈夫。致命傷じゃないみたいだから」
「そう思うならお前にも、こうだ!」
「ああっ! 僕の着替えがガラスまみれに!」
こうなっては着替えどころじゃない。
「お前も同じ痛みを味わえ!」
「それなら浴衣を着るからいいさ! 秀吉とペアルックだからね!」
「…………羨ましい」
「鼻血出すほどかよ?」
「お主ら……ワシの性別を完全に忘れとらんか?」
そんなこんなくだらないやり取りをしていると、誰かが扉を叩いた――。
ご感想などお待ちしております。
1話分の長さは?
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5000字程度(約5分)が良い
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10000字程度(約20分)は欲しい
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区切りが良ければ何文字でも構わない