バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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バカとテストと召喚獣の二次創作小説です。木下姉弟と幼馴染の少年『神崎秀隆』が吉井明久を始めとするFクラスのメンバーと打倒Aクラスを目指して奮闘するドタバタ学園コメディです。オリジナルキャラクターが登場、オリジナル設定を含みます。それらが嫌だという方は閲覧をお控え下さい。それ以外の方はゆっくりとお楽しみ下さい。

強化合宿最終日その2です。



第五十問

第五十問

 

強化合宿最終日。女子風呂に繋がる1階階段前の突破は、高橋教諭率いる瑞希、翔子らAクラス女子守備隊の圧倒的戦力により絶望的に思われた。

しかし久保利通・鳳誠率いるAクラス男子の参入によりそのバランスが崩れた。守備隊に動揺が走り、士気の下がっていた明久たち男子は息を吹き返した。

 

「まさか……貴方たちまで……」

 

高橋教諭がAクラス男子、その先頭に立つ久保と誠を睨む。いつも冷静沈着な高橋教諭も今回ばかりは持ち前の冷静さを保てていなかった。

 

「申し訳ありません。高橋先生。けど、僕も吉井君と同様、自分の気持ちに嘘はつけないのです」

 

久保がよく通る凛とした声で高橋教諭に対峙する。明久は久保の言葉に薄ら寒いものを感じていたが、高橋教諭は言葉通りに受け取った。

 

「やはり、貴方も男の子、というわけですか」

「どう捉えてもらっても構いません。僕も誰になんと言われようとも――好きなものは好きなんです」

 

久保が横目でチラリと明久を見やる。明久は一瞬悪寒を感じ、瑞希は敏感にそれを察して眉間にシワをよせた。

 

「鳳君、貴方もですか?」

「さっきも言いましたけど、僕はどっちかって言えば反対なんですよ」

「ではなぜ?」

 

反対ならばこちらに協力してほしい。高橋教諭は目で訴えたが、誠は頭を振った。

 

「コイツに乗った。ただそれだけです」

「友だちのよしみ、というわけですか」

「そんなところですね」

 

久保は積極的に、誠は消極的だが参加する理由がある。2人がそれなら他のAクラス男子も同じ。交渉や説得は無意味だと判断した。

 

「形勢逆転だね」

「いや、まだ微不利だ」

 

勝利を確信した明久に、秀隆が釘を刺す。

見据える先は瑞希と翔子。この2人を抑えておかねば、明久と康太を突破させたとしても後ろから追いつかれて挟まれる。

 

「じゃが作戦通りなら――」

「問題はその後だ。最悪を想定した場合、あの2人は取り除かないといけない」

「…………どうする?」

 

おそらく、秀隆の言う最悪は翔子も気づいている。それを加味した上で、この場を切り抜けなければならない。

 

 

「……時間を稼ぐ。久保、誠、頼めるか?」

「何をすればいい?」

「懸念材料を減らしたい。Aクラス女子の排除と後ろの警戒を頼む」

「任されよう。Aクラス男子、召喚獣を展開! 半数は僕と女子守備隊の排除! もう半分は鳳君と後詰めの敵戦力の警戒!」

『『『了解!』』』

 

久保の号令でAクラス男子が召喚獣を喚び、散開していく。守備隊もそれに応じて臨戦態勢を取る。誠は移動前に秀隆に顔を近づけた。

 

「秀隆。彼女から伝言――『動いた』」

「――わかった」

「じゃあ、頼んだよ」

「おう」

 

誠は秀隆にそう耳打ちすると、自分の持ち場へと移動した。

 

「――さて、と」

 

秀隆はまた一歩前へ進む。先程の教訓から高橋教諭は安易に攻撃することはなかったが、警戒レベルを最大限まで引き上げる。瑞希と翔子もいつでも攻撃できるよう武器を握り直す。

 

「――正直、貴方たちを侮っていたのかもしれません」

 

高橋教諭が静かに独白する。

 

「いやあ、苦労しましたよ。ここまで根回しするのに」

 

対して秀隆は、いつものように人を食った笑みで返す。

 

「…………どうやって?」

 

翔子が短く聞いた。彼女の想定では、Aクラスの参入は少数、少なくとも久保と誠は不参加のはずだった。いかにAクラスとはいえ、2人以外ならこの布陣ならばどうにでもなったはずだった。

 

「人を動かす方法は主に3つ」

 

秀隆は顔の横で3本の指を立てる。

 

「1つは『信頼』。これはまあ、説明不要だな。2つ目は『恐怖』。言うことを聞かないとどうなってもしらないぞってな。つまりは脅迫だ。3つ目は――『餌』」

「餌?」

「対価、報酬だな。報酬がデカければデカいほど、餌が良いほどよく釣れるってわけだ」

 

秀隆が厭らしく嗤う。写真撮影の時、明久(エビ)で瑞希の協力(鯛)を得た。今回も何らかの報酬で久保たちの協力を得た。そう言いたいのだろう。

 

「そんなもので、Aクラスの生徒たちが……!」

 

優秀なAクラス生徒、自慢の生徒たちがそんなものに釣られるとは、にわかには信じ難い。

 

「人ってのは先生の思っている以上に欲望、誘惑に弱いんですよ。『欲しい』ってだけで万引きや窃盗をしたり、内申点のために犯罪紛いの片棒をかついだりする奴までいますから」

「つまり、貴方は彼らの心を動かすほどの対価を提示した、ということですか。いったい何を?」

「それは言えませんね。契約内容は守秘義務が原則ですから」

 

どちらにせよ、碌でもないものには違いないだろう。金銭か、あるいは単純な脅し。でなければ優秀なAクラス生徒が秀隆に屈するわけがない。高橋先生はそう考えた。実際はただの写真なのだが。

 

――ヴヴヴ ヴヴヴ――

 

秀隆のハーフパンツのポケットからバイブレーションの音が響く。音はすぐに止んだが、秀隆は満足そうに笑った。

 

「んでその点を踏まえると、人間ってのはメリットがデメリットを大きく上回れば大抵のことはやっちゃうんですよ。善悪に関わらずね」

 

俗に言う魔が差したという事象は、その時の状況にもよるが、メリットに目がくらんでデメリットを度外視してしまった場合に起きる。

 

「そしてそれに『男女差』はない。人間は皆等しく、己の欲望の下僕なんですよ」

「何が言いたいんですですか?」

 

話の内容が抽象的すぎる。道徳の授業ならば彼の話に耳を傾ける価値はあるだろうが、なぜ今こんな話をするのか。

彼は時間稼ぎと言っていたが、何か関係あるのだろうか。

 

「言ったはずですよ。『根回し』するのに苦労したって」

 

秀隆がサーカスで座長が観衆に向かって挨拶をするように、おもむろに両手を広げる。

 

「それに言ったでしょう? 欲深いのは『男子』だけじゃないって――」

「何を言って――」

 

そこで高橋教諭ははたと気づく。西村教諭の話では、瑞希と翔子は積極的に明久たちのオシオキに参加さしていた。西村教諭が抑えていなければイジメとも捉えられかねない程の苛烈さで。

それが今回は専守防衛とは言え大人しい。消極的と言ってもいい。その上、無防備に突っ立ているだけのように見える秀隆に対しての攻撃も極端に少ない。

 

「――さあ、始めようか」

 

それが『合図』だった。

 

『『えっ!?』』

 

秀隆と対峙していた瑞希と翔子が突然反転し、近くにいた『女子生徒』を斬りつけた。斬られた女子生徒2人は理解する暇もなく、ただただ消滅していく召喚獣を唖然と眺めていた。

あまりにも唐突な出来事に、高橋教諭も、女子も男子も呆気にとられていた。

 

「――貴女たち、いったい何をっ!?」

 

いち早く我に返った高橋教諭が鞭を振るう。だが動揺した頭では狙いが定まらず、鞭は瑞希の足元を掠めただけだった。

 

「……ごめんなさい」

「貴女たち! いったいこれはどういうつもりですか!?」

 

高橋教諭が珍しく怒りの声を上げる。今の今まで味方だった2人が突然裏切ったのだから無理もない。しかも今回の作戦を立てたのは翔子だ。

 

『どういうことなの?』

『姫路さんが裏切るなんて……』

『代表が男子についたってことは作戦は筒抜けだったの?』

 

女子生徒とから口々に疑問の声が上がる。動揺は伝播し、守備隊に綻びができた。

 

「よし。上手くいったな」

「ちょっと待て! なんで翔子と姫路が女子に反旗を翻してんだ?」

 

雄二が乱暴に秀隆の肩を揺らす。こんなことは事前の作戦プランになかったはずだ。そもそも2人が仲間を裏切るなんて余程のことがない限りありえない。雄二の脳裏に嫌な予感が走る。

 

「そうです。神崎君、いったい彼女たちに何をしたんです?」

「何って、さっき言ったばかりですよ? 人を動かすのは餌だって」

「そんな……っ!」

 

悪名高い秀隆のことだ。瑞希たちの弱みのひとつやふたつ握っていると思っていたが、まさかの餌だったとは。彼女らが裏切るほどの対価とはいったいなんだろうか。

 

「ごめんなさい、先生……」

「……ごめんなさい」

 

瑞希と翔子が本当に申し訳無さそうに頭を下げる。しかし敵意は向いていないものの、女子側に返り咲く気はないようだ。

 

「貴女たちをそうまでさせる対価とは何なんですか?」

 

説得したところで彼女たちの意思は変わらない。ならばせめて、その理由が知りたい。

 

「……この戦いが終わったら、神崎君がくれると約束してくれたんです」

「……これが終わったら、神崎がとりなしてくれる」

 

2人は瞑目して思い浮かべる。自分たちが報酬を得た未来を。そして目を開くと、高らかにその報酬の中身を宣言した。

いったいどれほどの価値のあるものかと、皆が固唾をのんで2人の言葉に集中した。

 

「明久君の――あられもない浴衣姿の写真を!」

「……雄二が両親の前でプロポーズしてくれるよう、説得してくれる」

 

場がシンと静まり返る。2人の言葉を理解できたものはこの場にはほとんどいなかった。

 

「「ちょっと待てぇえええーーーーいっ!」」

 

一呼吸遅れて、被害者(明久と雄二)の怒号が廊下に木霊する。

 

「え? ちょ、待って! 写真ってなに!? 僕の浴衣写真なんていつの間に撮ったの? しかもあられもないってどういこと?」

「ちょっと待て! 俺はまだプロポーズする気はねえぞ! だいたいそれじゃあ目的が――」

 

雄二と明久が秀隆を睨む。諸悪の根源は、肩を震わせていた。

 

「だーはっはっはっ! やっぱ欲が深い奴は餌で釣るに限るよなあ!」

「悪魔じゃ。本物の悪魔がここにおるぞ」

 

秀隆は目的のためには手段を選ばない。仲間を犠牲にすることも、当初の目的が意味をなさなくなろうとも。

 

「どういことだコラあっ!」

 

雄二が秀隆の胸ぐらを掴む。翔子による偽プロポーズの流布を防ぐつもりだったのが、逆に後押しされてしまっているのだから当たり前だ。

 

「考えてもみろよ。いくらなんでも、俺一人でこの防衛網を抑えるのは不可能だ」

「だからそのためのAクラス男子だろうが! そのための作戦もあっただろ!」

 

当初の作戦では、Aクラスが高橋教諭らを抑えている間に、雄二が白金の腕輪を起動。腕輪の召喚フィールド生成で干渉を起こし高橋教諭の召喚獣を消した後、混乱に乗じて明久と康太が突破する算段だった。

そのプランが崩れた。いや、崩された。ミスをしたわけでもない。Aクラスだって参加してくれた。獅子身中の虫。仲間だった男がそれを破綻させた。瑞希と翔子をこちらに引き入れたのは嬉しい誤算なはずだった。その生贄が自分でなければ。

 

「お前だって賛成したじゃないか!」

「干渉による妨害はいい手だよ。俺も上手くいくと思ってる。けど先生や霧島がこちらの意図に気づいて再展開せずに明久を追ったらおしまいだ」

「だったらこっちから――」

「腕輪は点数を消費する。お前も戦力だから連発はできねえ。そもそも審判役の先生が今回は向こう側なんだぞ。最初の頃に須川がやろうとしたように、召喚獣を無視されて終わりだよ」

「うぐっ……」

 

秀隆は雄二の作戦の穴をことごとく突いてくる。反論しようにも、怒りと混乱で煮えたぎった頭では反撃の言葉が浮かばない。

 

「だから、いっその事こっちに引き込むことにした。その方が手っ取り早いし。最悪Aクラスが不参加でも、さっき言った作戦も決行できる」

「――わかった。百万歩譲って翔子と姫路を引き入れたのはナイス判断だとしよう」

「だろ?」

「けどその餌が俺のプロポーズってどういことだ!? これじゃあ意味がないじゃねえか!」

 

事の発端は明久たちが盗撮の冤罪をかけられたことだかま、目的は真犯人を捕まえることで同一犯が作成した雄二のプロポーズ音源と明久のメイド服写真のデータを押さえることだ。それももはや、秀隆のせいで意味をなさなくなった。

 

「そうだよ! 写真を取り戻そうとしてるのに、逆にばら撒いてどうするのさ!」

「大丈夫です! 美波ちゃんにしか見せませんから!」

「それはもう大丈夫じゃないよね!」

 

瑞希がフォローになってないフォローを入れる。

 

「秀吉も言ってただろ。作戦の成功如何関係なく現状と変わらないって」

「お前……まさか……」

 

秀隆がニヤリと嗤い、雄二の顔が絶望に歪む。

 

「だったら、最大限利用しない手はないよなあ?」

「「悪魔かお前は!」」

 

たとえ今回の覗きが成功に終わっても、翔子はあの手この手で雄二との結婚を取り付けようとするし、監察処分者である明久の汚名は広がるばかり。

ならばいっその事、それを利用してやろうと考えたのが、秀隆の作戦だ。もちろん、独断である。

 

「霧島さん……姫路さん……。そんなもののために貴女たちは……」

 

一片の想像すらしていなかった対価に呆然としている。彼女たちの意思は、そんなくだらなもので変わってしまうのか。未だに信じられないようだ。

 

「くだらなくなんてありません!」

「……先生は何も分かっていない」

 

くだらないと一蹴した髙橋教諭に2人が反論する。

 

「……私は、雄二と結婚する。絶対に、なにがあっても」

 

雄二との結婚。コレは翔子にとって夢や目標ではなく。必ず達成されるべき未来なのだ。雄二の意志に関係なく。

 

「ならば貴女からプロポーズをすればよいのでは?」

 

混乱しているのか、髙橋教諭が少し的外れな質問をする。そもそも雄二はまだ満18歳でないので両親の合意なしに結婚はできないのだが。

髙橋教諭の指摘に、翔子は首を横に振った。

 

「……もう、何度もしている。けど、受け取ってくれない」

「当たり前だ」

 

法律もあるが、当然雄二にも結婚に対する考え方がある。それが満たされない内は結婚する気は毛頭ない。

 

「……だから、雄二にしてもらうことにした」

「流石に理論が飛躍しすぎでは?」

 

雄二が「よく言ってくれた」と首を大きく縦に振る。片方の意志を尊重しない結婚なんて失敗する未来しか見えない。

 

「せめて婚約か、ご両親に言って許嫁にしてもらうべきです」

「なんのフォローにもなってねぇええ!」

 

やはりだいぶん混乱しているようだ。

 

「先生は分かっていないんです。あの写真の素晴らしさを」

 

次に口を開いたのは瑞希だ。正直翔子だけでお腹いっぱいなのだが、嫌な予感がしつつも聴く他ない。

 

「明久君の嫉妬しちゃうくらい白いきめ細かい肌の綺麗さ、うなじから鎖骨にかけてのラインの色っぽさ。どちらかといえば可愛い方の顔なのに身体はシッカリと男の子で腕や胸板に筋肉があって、それがはだけた浴衣から覗くエロティシズムというか官能美が――」

「ひ、姫路さん――?」

 

瑞希が今まで聞いたことのない早口で明久の写真の素晴らしさについてまくし立てる。おそらくは昨日の夜から、いやひょっとしたら今の今まで溜め込んでいたであろう感情を一気に放出しているようだ。

普段の大人しい優等生ぶりからは想像もできないほどに矢継ぎ早に紡がれることば(妄想)に、髙橋教諭だけでなく周りの生徒たちもドン引きしている。

注目の的となった明久は、顔を両手で手覆い「ヤメて!」と悶絶している。

 

『吉井君ってそんなエッチな身体してるんだ』

『そういえば、顔は悪くないわよね?』

『……ちょと見たいかも』

「皆、姫路さんに惑わされちゃダメだ! 正気に戻るんだ!」

 

なぜか覗きを敢行した明久が女子生徒を諭すようになっている。

 

「――つまり、明久君の写真にはそれだけの価値があるんです!」

 

熱弁を奮う瑞希に、髙橋教諭も頭をかかえる。

 

「――正直、貴女たちが何を考えているかはサッパリ分かりません」

 

周りも激しく同意した。

 

「ですが、個人的な感情で道を外れようとしていることは分かりました。ならば貴女たちと言えど手心を加えることはできません」

 

髙橋教諭も、瑞希たちを敵として認識した。

 

「明久君、土屋君。ココは私たちが抑えておきますから早く行ってください」

「……吉井、土屋、早く行って」

 

いつもなら頼もしく見えていたその背中も、今は煤けて見える。このままにしておくと色々と危ない。明久の危機センサーががんがん警報を鳴らしている。

 

「ちょっと待つんだ姫路さん。僕は写真について君に小一時間ほど聞きたいとこが――」

「…………明久。行こう」

「待ってムッツリーニ! 僕は姫路さんと話が――」

 

瑞希を問いただそうとする明久を無理矢理引っ張る。明久も粘るが、康太の力が意外と強くて流されてしまった。

 

「今だ雄二!」

「くそったれ! こうなりゃヤケだ! ーー起動(アウェイクン)っ!」

 

雄二の腕輪が起動し、召喚フィールドが展開される。

展開されたフィールドは髙橋教諭の張っていたフィールドと干渉。双方のフィールドが消失し召喚獣も消え去った。

 

「――しまった!」

 

混乱して判断が遅れてしまった。フィールドを再展開した時は、明久と康太はもう大浴場に続く階段を駆け下りていた。

 

「よし。作戦通りだな」

 

一仕事終えたように額を拭う。結果だけみればその通りなのだが、払った犠牲は想定より大きい。

 

「だらあぁあっ!」

「ぐふぅ!」

 

当然、犠牲者からすれば怒りの矛先が元凶に向けられる。

いつもは躱すか受け止めている雄二の拳を、秀隆は大人しく受け入れた。

 

「……テメエ、なんのつもりだ?」

 

殴った拳を握り直す。返答次第ではもう一発お見舞いする。

 

「なあに。コレくらいで作戦が成功するなら安いもんさ」

「さもお主が犠牲になっとるような台詞じゃが、実際に犠牲になっとるのは明久と雄二じゃからな」

 

ジト目でツッコミを入れる秀吉をスルーし、ハーフパンツについた埃を払う。

 

「さて、そろそろ仕上げといくか」

「仕上げだと?」

 

雄二が訝しがる。明久と康太は今しがた突破したばかり。西村教諭はまだのはずで、せいぜい大島教諭の所に辿りついたかどうかだ。

 

「ああ。もう十分時間は稼いだからな」

 

そう言って秀隆の手にはいつの間にか、通話中の表示が光る携帯電話が握られていた。




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