バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

59 / 137
バカとテストと召喚獣の二次創作小説です。木下姉弟と幼馴染の少年『神崎秀隆』が吉井明久を始めとするFクラスのメンバーと打倒Aクラスを目指して奮闘するドタバタ学園コメディです。オリジナルキャラクターが登場、オリジナル設定を含みます。それらが嫌だという方は閲覧をお控え下さい。それ以外の方はゆっくりとお楽しみ下さい。

如月ハイランド編その2。お化け屋敷です。



如月ハイランド編-2

如月ハイランド編-2

 

雄二たちがワチャワチャと騒いでいると、一団の背後から忍び寄る影があった。

 

『お兄さんたち、こんにちは!』

 

元気よくかけられた声に振り向くと、大きなリボンをつけたキツネの着ぐるみが愛嬌を振りまいて近づいてきた。

 

『お兄さんたち、フィーが面白いアトラクションを教えてあげるよ?』

 

着ぐるみから聞こえてくるのは見た目通りの女性の声。しかしボイスチェンジャーはついていないのか、くぐもってはいるが、その声に聞き覚えはある。

 

「おい姫路。アルバイトか?」

『ち、違うよ? フィーはフィーだよ? 姫路瑞希じゃないよ?』

「誰もフルネームは言ってないんだがな」

 

基本的に嘘のつけない瑞希は雄二のカマかけにあっさり引っかかってしまった。

 

『そ、それは気のせいですっ! ……よ?』

「そうか。それならいいんだ。悪かったなフィーとやら」

『ううん。分ってくれたなら――』

「そういえばさっき明久がバイトの女子大生に映画に誘われていたな」

『ええっ!? どこで見たんですか!?』

「やっぱり姫路じゃねえか」

『あぅぅ……』

 

雄二がフィー、もとい瑞希に詰め寄っていると、

 

『そこまでだ雄二――じゃなくてそこのブサイクな男っ!』

 

颯爽と現れたのは、フィーと似たようなキツネの着ぐるみ。ただしこちらはオスなのかリボンをつけていない。

 

「その頭の悪そうな仕種……明久かっ!」

『失礼なっ! ぼ――ノインのどこが頭が悪いだと言うんだ!』

「黙れ! 頭部を前後逆につけているヤツをバカと言ってなにが悪い!」

 

ノインは後頭部を正面にして雄二に向かって吠えるが、絵面がシュールすぎてまったく様になっていない。ヒーローどころか海外のカートゥーンアニメも真っ青である。

ノインだと思って近づいてきた子どもが泣いてしまうほどだ。

 

『あ、明久君っ。頭が逆です!』

『うわっ! しまった! どおりで見えにくいはずだ!』

『早く直さないと、坂本君にバレてしまいます!』

 

未だに誤魔化せると思っているあたり、つくづくこの2人はお似合いのカップルだと思う。

 

「なあ、あの2人って……」

「Fクラスの吉井明久と姫路瑞希だ」

「なんでその2人がこんなところでバイトしてるんだ?」

「それは知らん、が見当はつく。おおかた雄二と霧島をくっつける気だろう」

「代表と坂本を?」

 

2人の関係を知らないトレイズに秀隆が簡単に説明する。

 

「――つまり、煮えきらない2人の関係を吉井たちが進展させようとしてるってことか?」

「そういうことだ」

「それって大丈夫なのか?」

 

人の恋路を邪魔する奴は――という慣用句があるように、恋愛に関しては当人からの相談でもないかぎりは、外野は基本的に黙って見守るしかない。ましてそれを横から無理矢理推し進めようなど野暮でしかない。

 

「まあ大丈夫だろ。雄二と霧島だし」

「そうね。代表と坂本君なら大丈夫ね」

「コレが日本の常識なのか?」

 

トレイズが日本についての間違った認識を深めようとした時、

 

『お兄さんたち、フィーが面白いアトラクションを紹介してあげるよ?』

 

また後ろから声がかかった。振り向くと、今頭部が前後逆なノインとあたふたしているフィーと同じ姿のキツネの着ぐるみ。こちらもフィーと名乗っていたから別個体だろうか。

こちらのフィーからも、聞いたことのある声がした。

 

「今度は島田か」

『違うよ。ウチ――フィーは美波じゃないよ』

「自分で正体明かしたら世話ないわよ」

 

Fクラスで腹芸のできる生徒はほぼいないので、島田(フィー)の正体もあっさりバレた。

 

『だからウチは島田だじゃなくてフィーだよ?』

「そっちにもフィーがいるが?」

『アレはフィー・アイン。フィーはフィー・ツヴァイだよ』

「クローンかなにかなの?」

『ノインはフィー・ノインだよ』

「その設定は色々マズイだろ……」

 

フィーの裏設定は中々闇が深そうだ。

 

「まあいい。それで、フィーのおすすめアトラクションは何だ?」

『おすすめはお化け屋敷だよ!』

 

フィーが指差すのは噴水を挟んだ向こう側にある建物。本物の廃病院を改装したという件のお化け屋敷だ。

 

「へえ。あそこにはなにがあるんだ?」

『行ってからのお楽しみだよ♪』

 

愛嬌たっぷりにジェスチャーを交えてお化け屋敷を薦めるフィー。瑞希も美波もこういったバイトが結構はまり役なのかもしれない。

 

「だとよ、雄二」

「なにがだ?」

「島田がお化け屋敷に行けだと」

『だから島田じゃなくて、フィーだよ!』

「ふむ……」

 

雄二は顎に手を当てて考える。如月ハイランドはアミューズメントパークの名に違わず、前評判通り最新のアトラクションが豊富にある。

3Dの体感型アトラクションからジェットコースターを始めとした絶叫マシン。定番のコーヒカップやメリーゴーランド。中には外観や名前からはどんなアトラクションか想像できないものもある。

そんな中、島田もといフィーが薦めたのはお化け屋敷。しかも明久たちが関わっているとしたら――

 

「よし決めた。翔子」

「……うん」

「お化け屋敷『以外』に行くぞ」

『ど、どうしてそうなるのよ!』

 

演技も忘れた美波が雄二の腕にすがる。

 

「どうしてもクソもあるか。お前らのことだ。どうせお化け屋敷に何らかの仕掛けが施されているのは明白だ。ならばわざわざそんな所に行く必要はない」

『お、お願いですからお化け屋敷に行ってください!』

「い・や・だ!」

 

いつの間にかもう一匹のフィー――瑞希も雄二の腕にすがる。両手に花ならぬ両手にキツネだ。雄二も迷惑そうに2人を振り解こうと腕を振る。

 

「……雄二、お化け屋敷に行こう」

 

翔子もお化け屋敷に行くことを提案。その後ろには頭部を元に戻したキツネもいた。

 

「断る。明久になにを吹き込まれたかは知らんが、お化け屋敷はゴメンだ」

「……お化け屋敷以外ならいいの?」

「ああ」

「……じゃあ、『アレ』は?」

 

翔子が指差したのは、日本一と噂される観覧車だった。夜にはライトアップされるというそれには、遠目からでも行列ができているのが見える。

 

「アレか。アレなら、まあ……」

「……よかった。雄二と2人になれる」

「Whats?」

 

安心したようにいう翔子に、雄二の目が点になる。

 

『あの観覧車のゴンドラは2人乗りなんだよ!』

 

翔子の後ろからノインが楽しそうに説明してくれた。

 

「明久テメエ諮りやがったな!」

『なんのことだか。あと明久じゃなくてノインだよ』

「そんなことはどうでもいい!」

「どうなっているんだ?」

「雄二がお化け屋敷を拒否しているから、それを逆手に取って2人きりになれるアトラクションに誘導したんだな」

「なんで吉井君ってこういう時だけ頭の回転が速いのかしら?」

「明久だからな」

 

普段から雄二に酷い目に遭わされている明久がお返しとばかりに煽り返す。これで雄二はお化け屋敷か観覧車かの2択を迫られた。

 

「ハイ、すいまセーン。お待たせしまシタ」

 

ここで追い打ちをかけるように、先ほど入場口で雄二たちの対応をしていたスタッフがやってきた。

 

「坂本雄二サン、お化け屋敷に行ってくだサイ」

「だからイヤだと言っているだろう」

「……じゃあ観覧車」

「それもイヤだ!」

 

雄二がことごとく提案を拒否するので先に進めない。埒が明かないと判断した秀隆はある提案をした。

 

「とりあえず、観覧車は人が多いから後回しにするとして、お化け屋敷に行く行かないだけでも多数決で決めないか?」

「そうね。このままだと日も暮れてしまいそうだわ。2人はそれでいい?」

「はい!」

「まあ……」

 

リリアとトレイズも賛同した。

 

「ちょっと待て。ここに居るのは6人だぞ? 半々に別れたらどうする?」

「そん時はお前の要望通りにお化け屋敷に行かないでいい。霧島もそれでいいか?」

「……私も構わない」

「だとよ」

「それなら、まあ……」

 

雄二も自分にやや有利な条件に渋々納得した。

 

「じゃあ、『お化け屋敷に行く』に賛成のヤツは挙手!」

 

翔子←挙手

秀隆←挙手

優子←挙手

リリア←挙手

 

6人中4人の挙手で可決された。一瞬の出来事だった。

 

「ちょっと待てっ!」

 

当然反対だった雄二は納得がいかない。トレイズも心なしか残念そうだった。

 

「なんだよ雄二。もう決まったことだぞ」

「お前最初からこうなるって分ってたな!?」

「なにを今更。俺が面白いイベントを見逃すわけないだろうが」

「キサマ他人事だと思って!」

 

雄二が秀隆の胸ぐらを掴み上げるが、もう後の祭りだ。

 

「坂本翔子サン、お化け屋敷ナラ、彼氏に抱きつき放題ですヨ?」

「……雄二、今直ぐお化け屋敷に行こう」

「汚いぞキサマ! 翔子を罠に嵌めようなんて! それと翔子を勝手に入籍させるな! ソイツの苗字は霧島だ!」

 

雄二のツッコミがジェットコースターのように暴れまくる。

 

「坂本君。多数決で決まったんだから観念しなさい」

「お前らはいいのか? 元々が廃病院だぞ? 何が出てもおかしくはないんだぞ?」

 

往生際の悪い雄二は、残った女性陣2人を丸め込もうと恐怖心を煽るが、

 

「馬鹿馬鹿しい。そんな非科学的なのもありはしないわよ」

「スリルがあって楽しそうです!」

「そういえばこういうヤツらだった!」

 

あえなく失敗に終わった。

 

「トレイズ。顔が青いが大丈夫か?」

「……大丈夫だ。問題ない」

「それ、大丈夫じゃないやつな」

 

むしろトレイズの方が青くなっていた。

 

「……雄二、行く」

「いだだだぁっ! 分かった! 分かったから肘関節をキメるのをやめろ!」

「それではコチラにサインをくだサーイ」

 

スタッフが取り出した紙とペンを雄二の前に差し出す。秀隆が覗き込むと、誓約書の文字が見えた。

 

「へえ。誓約書か」

「誓約書? そんなに危険なの?」

「ホラーハウスや絶叫マシンではたまにあるな」

「だがまあ、面白そうではあるな」

 

誓約書を書かされるとなると相当のスリルが満ちていることの証左だ。文字通りの非現実的な体験を味わえるだろう。

 

【誓約書】

1. 私、坂本雄二は霧島翔子を妻とし、生涯愛し、苦楽を共にする事を誓います。

2. 婚礼の式場には如月ハイランドを利用する事を誓います。

3. どのような事態になろうとも、離縁しない事を誓います。

 

これが婚約の誓約書でなければ。

 

「……はい雄二。実印」

「朱肉はこちらデース」

「俺だけか!? この状況をおかしいと思っているのは俺だけなのか!?」

「安心しろ。全員思っているから」

 

流れるような動作に、雄二の絶叫が木霊する。

 

「冗談デス。誓約書はいいのデ、中に入ってくだサイ」

「……うん。冗談」

「カーボン紙を入れて写しまで用意しておいて冗談だと言い張るのか」

 

しかもきっちり3枚用意する徹底ぶりである。

 

「それデハ、邪魔になりそうな荷物はコチラで一度預かりマス。他の皆サンもよろしけれバ」

「……お願い」

 

翔子がスタッフにカバンを渡す。アミューズメントパークに来たにしては少しカバンが大きいようだ。

 

「私たちはいいわ」

「俺たちも大丈夫」

「そうデスか?」

「……私のカバンは、零れちゃうから横にしないで欲しい」

「分かりまシタ。気をつけマス」

 

零れるということは飲み物でも入っているのだろうか。

 

「それデハ、行ってらっしゃいマセ」

 

スタッフに見送られ、一行はお化け屋敷の扉をくぐる。

 

『私だ。ターゲットがお化け屋敷に入った。吉井さん考案の作戦を実行しろ』

 

扉が閉まる前にスタッフの不穏な会話が聞こえた。やはり明久がなにか仕掛ける気なようだ。

 

『……ところで明久君。さっき女子大生に声をかけられたって聞きましたけど? まさか大事な作戦中に……?』

『え? なんのこと?』

『アキ。ウチにも詳しく』

『こわっ! 着ぐるみ越しなのに圧が怖い! 待って2人とも僕の話を――』

 

それとは別にファンタジーキツネたちの痴話喧嘩も聞こえていた。

 

「結構本格的だな」

「そうね。廃病院を改築しただけあって雰囲気は満点ね」

 

リノリウムの床を歩きながら秀隆と優子が感想を述べる。

一行は雄二と翔子を先頭に次いでリリアとトレイズ、殿に秀隆と優子という隊列で順路を進んで行く。

改築されているとはいえ元々が古い建物だったのだろう。壁は一部がコンクリートがむき出しで天井にも所々穴が空いている。 床も平坦ではなく凸凹。崩れた天井が障害物となって横たわっている。

空調もわざと低い温度に設定されているのか上着を羽織っていても肌寒く感じ、冷たい風も吹き抜けている。

演出のため、当然照明も薄暗く、蛍光とがチカチカと消灯と点灯を繰り返す。雨漏りを意識してか時々ピチョンと水滴の落ちる音もする。

これだけでも、怖くて進む足が竦んでしまう人が続出しそうだ。

 

「り、リリア。怖くなったら、俺の手を、に、握ってもいいからな?」

「大丈夫ですよ。トレイズ」

 

にこやかに答えるリリアとは対照的に、トレイズからは引きつった笑みが取れない。水音や照明のチラつきに肩をビクつかせ、大きな音が鳴ろうものなら叫び声を上げる始末。

ようするに、一番ビビっていた。

 

「トレイズって、こういうの苦手だったんだな」

「意外よね」

「日本のホラーハウスは陰湿的なんだよ!」

 

言ってるそばから、誰もいない病室から聞こえる声に涙目になっている。本当に楽しそうなリリアとは真逆だ。

 

「……ちょっと怖い」

 

宣伝通りの恐怖体験に、感情の起伏の乏しい翔子も少し慄いていた。

 

「こういうものにあまりビビらないお前が怖がるなんて、珍しいな」

「……そうかも」

 

自然と雄二の身体に身を寄せる。雄二もそれを拒んだりはしない。普段から、これくらい可愛げがあれば、と思わなくもないが。

 

「というか、リリアとトレイズは普通のリアクションだとして、お前らはリアクションなさすぎだろ?」

「いや? 普通に楽しんでるが?」

「そうか?」

「ああ。お前らが適度にイチャついてるのを楽しんでいる」

「趣味が悪すぎるだろ!」

 

秀隆の楽しみ方は普通人とは異なるようだ。

 

「まあ、元廃病院とはいえ作り物だしな。事故が起きないと分かっているならそうでもない」

「け、けど、日本のホラーだと怨霊とか祟りってのがあるんだろ?」

「そんときゃお祓いでも行くさ」

「無神教なのか信心深いのか分かんねえヤツだな」

 

と、騒がしく進んで行くと、風の音に混じって何が聞こえてきた。

 

『――――じの――がす――』

「うん?」

 

聞こえてくるのは廊下の天井付近についてあるスピーカーからのようだ。館内放送から流れる怨嗟をイメージした演出だろう。

 

「へえ。凝ってんな」

「そうね。これは少し怖いかも」

 

少し立ち止まってスピーカーに耳を傾けてみる。

断続的に聞こえてくるその声に、翔子が気づいた。

 

「……この声、雄二の声」

「うん? そうなのか?」

 

翔子に言われて秀隆もよく聞いてみると、確かに雄二の声に似ている。

 

「秀吉あたりに声真似をさせているのか?」

「かもな。しかし自分の声が聞こえるのはある意味では怖いが、明久が考えたにしては普通の演出――」

 

『姫路の方が翔子よりも好きだな。胸も大きいし』

 

前言撤回。まったく普通ではなかった。

 

「……雄二、覚悟はできてる?」

「怖えっ! 翔子が般若のような形相に! 確かにこれはスリル満点の演出だ!」

 

問題は演出でないというとこだ。

それと同時に、雄二の後でバンっと仕掛けが動く音がした。

 

「翔子! なにか出てきたぞ!」

 

そちらに気を逸らそうと音のした方を向く。そこには今の今までなかったあるものが現れていた。木製の棒に無数の金属棒が突き刺さったそれは――

 

「釘バット?」

「用意周到すぎんだろ」

「確実に息の根を止めるつもりね」

「……気が利いている」

 

落ちてきた釘バットを一本掴むと、雄二に向かって振りかざす。

 

「畜生っ! 明久のヤツ、覚えとけよ!」

「……雄二、逃がさない」

 

決死の鬼ごっこが始まり、雄二と翔子は秀隆たちを置いてけぼりにして走り去ってしまった。

 

「なあ、秀隆」

「なんだ? トレイズ?」

「代表って、本当に坂本が好きなのか?」

 

さっきのですっかり恐怖の薄れたトレイズが当然の疑問を投げかける。ここまでされたら、普通は相手が自分を好いているとは思えない。

 

「んー。まあ好きなんだろ。霧島も雄二も」

「アレでなのか?」

「代表は少し……かなりヤンデレが入ってはいるし恋愛観も歪んでるけど、最後は坂本君の気持ちを尊重するし、なにより坂本君が本当に嫌なことなしないわよ」

「雄二も好き嫌いはハッキリ言うし、そもそもアイツは興味ないヤツにはとことん無関心だ。好きでもなきゃ脅し以外で如月ハイランドくんだりまで来ねえよ」

 

2人の関係性は、互いの信頼関係が成り立っているから成立しているのだという。

 

「だいいち、霧島が多少暴力的でも雄二は男だ。明久と違ってちゃんと鍛えてるから、いざとなったら腕力でどうにでもなる」

「それをしないってことは、それができないか、する必要のないかのどちらかね」

「坂本は後者だと?」

「どっちもだろうな」

 

雄二も博愛主義者ではないが、基本的に女に自分から手を出すことはない。それは翔子に対しても同じだし、翔子にはそれ以上に精一杯傷つけないようにしているフシもみえる。

 

「それがなんであんな関係に?」

「知らん。昔なにかがあったらしいが、雄二もそれを全く話さない」

「代表もはぐらかすばっかりね」

 

過去に2人の間になにがあったかは分からないが、それが切欠で今の関係があるなら、またなにかの切欠で進展する可能性はある。

 

「まあ明久の作戦じゃあ絶対に進まねえな」

「そうね。絶対に進まないわね」

 

問題はその切欠を作ろうとしているのが明久たちFクラスの人間だということだ。

 

「吉井はなんでこんな作戦を?」

「たぶん、いや十中八九、吊り橋理論を勘違いしてるな」

 

吊り橋理論とは、恐怖や緊張による心拍数の上昇を恋愛感情による胸の高鳴りと勘違いする心理現象のことである。

 

「吊り橋理論ってアレか? アクション映画のラストで主人公とヒロインが恋仲に落ちるやつ」

「それだ。苦難を乗り越えた男女が段々と恋愛感情を抱いていくやつ」

「それがなんでこんな事に?」

「苦難の所しか注視しなかったんだろう。とりあえず危機的状況を作っておけば後は勝手にくっつくと思ったんだな」

「ついでに日頃の鬱憤晴らしもあるんじゃないかしら?」

「ありえるな。いつも雄二にしてやられてるから、仕返しできるチャンスを逃すわけがねえ」

「坂本たちって本当に友だちなのか?」

 

恋路の後押しと仕返しが両立するとは思えない。

 

「まあ、明久だし」

「吉井君だもの」

「吉井君ですから」

「君らの吉井に対するその信頼はなんなんだ?」

 

これもある意味ではFクラスの平常運転である。

 

『――が――――だな』

 

と、またスピーカーからノイズ混じりの声が聞こえてくる。

 

「今度は俺か」

 

雄二がやられたのなら次は自分だと半ば予想はしてたが、本当にしてくるとは。

 

「まあ秀隆もターゲットよね?」

「つっても何言うんだ?」

 

『優子よりも島田の方が良いな。胸も大きいし』

 

「雄二と同じじゃねえか!」

 

ちょっとワクワクしていた気持ちを返してほしい。

 

「明久のヤツ、雄二で満足して手ぇ抜きやがったな」

「なんで少し期待してんだよ」

 

これにはトレイズも呆れ顔を隠せない。

 

「本当に、芸のないわね」

 

優子も何でもない風をよそおっているが、額に青筋が薄く浮かんでいる。

 

「木下は怒んないんだな」

「この程度でいちいち目くじら立てないわよ。それに――」

 

優子は両手で自分の胸を持ち上げてみせる。

 

「私の方が『ある』し」

「いや変わんねえだろってぇ!」

 

秀隆の腰に優子の無言の蹴りが入る。

 

「ってぇなおい!」

「美波のぺったんこと一緒にするからよ」

『なんですってえっ!』

『美波落ち着いて!』

「いやお前がキレてどうするよ」

 

なぜか別方向に火花が散っていた。




ご感想などお待ちしております。

1話分の長さは?

  • 5000字程度(約5分)が良い
  • 10000字程度(約20分)は欲しい
  • 区切りが良ければ何文字でも構わない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。