第五問
瑞希が用意したレジャーシートを、秀隆と明久で広げ、天候にも恵まれちょとしたピクニックの様な昼食タイムとなった。
「まるでピクニックかハイキングに来たような感じゃの」
「そうだね。何だかウキウキするね」
「……子供」
「そういう康太も身体が楽しそうに揺れてるぞ?」
「あの……お口に合うかあんまり自身はないんですけど……」
「「「「「おお!!(わあ!!)」」」」」」
瑞希が開けた重箱の中には唐揚げや海老フライ卵焼きにサラダなどの定番のおかずがギッシリと詰まっていた。見ているだけで涎が出てきそうな出来栄えであった。
「それじゃあ、お箸とお皿配っちゃいますね」
「あっ、私も手伝います」
姫路とリリアは二人で食事の準備を始めたが、残された野郎どもの胃袋は我慢の限界だった。
「それじゃ、雄二と島田さんには悪いけどお先に――」
「……(ヒョイ)」
「おい、康太。抜け駆けは――」
康太が唐揚げを一つを摘み、そのまま流れるように口に運び――
「……(パク)」
――バタン――
――ガタガタガタ――
正座したまま豪快に頭からコンクリートの床にダイブ、陸に上がった魚のように痙攣しはじめた。
「「「……」」」
残った秀隆達は互いに顔を見合わせた。
「わわっ、土屋君!?」
「大丈夫ですか!?」
姫路とリリアが慌てて配ろうとしていた箸と紙皿を落とした。
「……(グッ)」
親指を上げて『美味しかった』と意思表示をする康太。しかしその足はKO寸前のボクサーの如くふらついていた。
「あ、お口に合いましたか? 良かったです」
康太の意思が伝わったのか顔を綻ばす瑞希。天然とは恐ろしいものだ。
「良かったらどんどん食べてくださいね」
「う、うん。ありがたく頂くよ」
残りのメンバーにも食べるよう促す瑞希。しかし彼女の知らないところで命をかけた作戦会議が起きていた。
「(……秀隆、秀吉。これどう思う?)」
「(どうもこうも、どう見たって姫路の料理が原因だろう)」
「(じゃな。そうとしか考えられん)」
「(けど何で?見た目は美味しそうなのに)」
「(見た目は、な。康太の様子からして恐らく洗剤だとか薬品の類が入ってるんだろう。しかも大量に)」
倒れた康太の様子からして恐らく料理が不味かったわけではなく薬品による中毒の可能性が高い、と秀隆が二人に伝えると顔が真っ青になって大量の冷や汗がダラダラと出始めた。
「(お前ら、身体は頑丈か?)」
「(正直自信ないよ。食事の回数が極端に少なすぎて胃腸が退化しているかも)」
「(ならワシに任せてもらおう。こう見えてもワシの胃袋はジャガイモの芽を食べても頑丈な程じゃ)」
ジャガイモの芽はステロイドアルカロイド系のソラニンと呼ばれる、神経に作用する猛毒を含んでいる。中毒量は成人男性で200~400mg。中毒すると溶血作用を示し、頻脈、頭痛、嘔吐、胃炎、食欲減退などの症状を起こす。大量摂取すると昏睡状態になり最悪しに至る。
はっきりと言って胃腸の丈夫さとは関係ないが、それでも平気だと言う秀吉の胃袋は、頑丈と言うより異常である。
秀隆達がアレコレと瑞希の料理(殺人兵器)の処理に困っていると、
「おう、待たせたな! へー、こりゃ旨そうじゃないか。どれどれ」
[[rb:雄二 > 憐れな子羊]]が登場した。
「あっ、雄二」
明久が止める間もなく、雄二は素手で卵焼きを口に放り込み、
――バタン――
――ガタガタガタ――
再放送が始まった。
「さ、坂本!? ちょっと、どうしたの!?」
遅れてきた美波が雄二に駆け寄る。
明久たちは康太と同様に激しく震えている雄二を見ている。すると、倒れたままの雄二がこちらに目を向け、目線で訴えてきた。
『毒を盛ったな』
『毒じゃない。姫路さんの実力だよ』
明久も目線で返事をする。一年の頃から一緒に行動してきた明久達だからできる特技だ。
「……姫路。[[rb:弁当 > コレ]]の味付けを教えてほしいんだが」
「味付けと言っても普通ですよ? ただ海老フライには『硫酸』を、卵焼きには『クロロ酢酸』を隠し味に少し入れた位で」
説明するまでもないと思うが、硫酸は低濃度でも強酸性を示す劇物であり、クロロ酢酸は腐食性をしめす劇物であるため、どちらも取り扱うにも資格が必要となる。当然ながら摂取した場合人体には悪影響しか及ぼさない。
料理に入れたモノが発覚したことで瑞希を除く面々の顔はまるで漂白したように白くなった。
「……購買に行って何か買ってくる。明久、手伝ってくれ」
「うん。分った」
楽しいはずのランチタイムがなんともバイオレンスな時間になってしまった。
――数分後――
「……しかし、まさか姫路にこんな欠点がとは思いもしなかった」
「…………意外」
「全くだ。見た目はすごく旨そうなのに」
被害者二名は、大量の水を摂取し大事(?)には至らなかった。ただそれだけで身体に入った薬物が完全に抜けるわけではないので顔色も悪く、手足は小刻みに震えたままだ。
「……すみません」
「気にしなくていいよ、姫路さん。誰だって失敗することはあるし」
「そうだぞ、姫路。そんなことでいちいち気を落としていたら明久なんて生きていることが恥ずかしい位だ」
「そうだな。黒歴史の量だけで言ったら多分体育館じゃ埋まらないくらいはあるだろうな」
「失礼な!」
瑞希への明久のフォローを秀隆と雄二が茶化す。それを見て、瑞希もようやく落ち着いたのか笑みを浮かべた。
「ただまあ、薬品を入れさえしなければいい感じにできていたと思うぞ?なんなら明久の家で練習すればいいんじゃないか。……花嫁修業の一環として」
「はっ、花嫁修業ですか!?」
「え!? ちょっ、何言ってんのさ!」
秀隆の言葉を真に受けて赤面する明久と瑞希。そんな二人を見て、[[rb:秀隆 > 元凶]]はケラケラと笑っていた。
「……お主、態と言いおったな」
「まあな。お前も知っているだろ。俺はああいう状況を高みの見物するのが好きなんだよ」
「相変わらずいい性格しとるの。じゃが、この状況をどうするつもりじゃ?」
「ん? ああ。さすがにこのままはマズいか。おーいお前ら、帰って来ーい」
秀隆が手をパンパンと叩き、様々な妄想を駆り立てて耳まで真っ赤にした二人を現実に引き戻した。
「はっ! まったく。いきなり何言い出すのさ」
「すまん、すまん。けど考えてみろ。女の子が態々お前の世話をしに来てくれるってのに、なんの不満があるんだ? 第一お目の生活破綻ぶりは誰かに定期的にでも管理してもらわない限り直らないだろうが」
明久とて、健全な高校生男子、彼女との甘い生活を夢見るなと言われても無理な相談である。
「そっ、そこまで酷くはないと……」
「ガスと水道は止められてそのうえ冷蔵庫には食料の一つもない。こんな生活していて生きている方が不思議だ」
「むっ、失礼な。塩と砂糖とサラダ油ぐらいはあるよ」
「『ぐらいは』じゃなくて『しか』ないんだろうが」
明久の私生活を聞いて女性陣は唖然としていた。少なくとも、『現代人』の生きていける生活環境ではない。
「確かに、世話する奴が居た方が良いな」
「そうじゃな」
「……同意」
「そうね」
「私もそう思います」
秀隆の意見に明久と瑞希を除いた全員が賛成した。ただし雄二と康太、美波の眼は笑ってはおらず、リリアの眼は何故かキラキラしたものが光っていた。
「あの……吉井君さえ迷惑でなければ、お願いしてもいいですか?」
あっさりと了承されたことに明久は驚いた。そして美波は声が出ないのか口を金魚のようにパクパクさせ,リリアの眼の輝きはますます激しくなった。
それを見ていた秀隆は(秀吉曰く悪魔のような)笑みを浮かべ、
「ほら、本人の了承も得たから問題ないだろ? 何なら島田も参加するか? 明久が変なことをすればいつもみたいに関節技で沈めればいいし」
特大の爆弾を投下した。
「ななな何で!う,ウチが!?」
「その前に僕、まだ了承してないんだけど……」
明久の言葉も虚しく、パンを食べつつマッタリとした時間が過ぎていった。
「次の獲物はBクラスだったか?」
「ああ。BクラスにもDクラス同様、俺たちがAクラスに勝つ為の要素がある。元々俺たちじゃAクラスにはバカ正直に真正面から挑んだところで勝ち目は無いからな」
Aクラスはこの学園選りすぐりのエリートクラス。試召戦争は代表の撃破が勝利条件となるが、Aクラス代表は謂わば学年主席。ただでさえ実力差があるのだ。いくら雄二が権謀術数を巡らせようが、Aクラスに勝つには困難を極める。
「どうゆう作戦でいくのですか?」
「Bクラスと、この戦争のシステムを使いAクラスに一騎討ちを申し込む」
「「「「「「一騎討ち?」」」」」」
雄二の作戦に本人と秀隆以外の全員が疑問を挙げた。
「まあ、妥当なところか。[[rb:Fクラス > うち]]じゃあどう足掻いてもAクラスには勝てねえしな」
「ああ。だからこその一騎討ちだ」
「ち、ちょっと待ってよ。二人だけで進めないでよ」
雄二と秀隆の二人が勝手に進めていくので、ついていけなくなった明久が待ったをかけた。
「何だ分からないのか? 仕方ない。ちゃんと説明してやるから、その耳垢が詰まりきって腐ってしまった耳の穴をかっぽじってよく聞けよ?」
「う、うん……」
秀隆の言い方には棘が百本くらい生えていたが、明久は黙って説明を聞くことにした。明久だけでなく他のメンバーも雄二の言葉に耳を傾ける。
「まず俺も秀隆も言っていたように、うちの戦力じゃあどんな作戦を立てようとも正面切って戦ったんじゃあAクラスには勝てない」
「随分と後ろ向きね?」
「考えてもみろ。いくら戦略でカバーしようともそれを補って余りある地力が向こうにはあるんだ。たとえ奇襲が成功してもこっちの被害の方が大きいのは目に見えている。対代表となると尚更だ」
「確かにAクラスの代表ともなると、わしらが束になってかかろうが打ち倒せるかどうか」
「加えて姫路以外の学年トップ10が向こうにはいるんだ。とてもじゃないが太刀打ちできねえ」
「じゃあ一騎討ちなら何とかなるの?」
「ああ。一騎打ちなら味方の支援もない代わりに余計な横槍を心配する必要もない。担当科目次第だが、まともに戦争をするよりも勝率は高くなる」
「なるほど!だから一騎討ちなのですね!」
雄二の説明にリリアがポンッと手を打つ。
「けど、どうやって一騎討ちに持ち込むの?」
「そのためにBクラスを使うんだ。明久、試召戦争で下位クラスが負けたらどうなるか知っているな?」
「も、もちろんだよ……えっと……」
雄二の質問に明久は眼を泳がせながら逸らした。知らないのは明白である。
「設備をランク一つ落とされるんですよ」
すかさず瑞希からフォローが入る。
「つまりBクラスならCクラスの設備になるわけだ」
「そうだね.常識だね」
「……じゃあ上位クラスが負けた場合は?」
「悔しい」
「……ペンチ」
「いや、ここはライターとマチバリだ」
「やや、僕を爪切り要らずにする動きが! て言うか秀隆のは何?! 拷問でもするの!?」
「ん? 熱したマチバリをお前の爪の間に入れるだけだが?」
「怖い! 想像するだけで怖いよ!」
秀隆の罰は拷問とイコールであるようだ。
「あ、相手の設備と入れ替わるんですよね?」
見かねた瑞希からのフォローが入ったことで何とかその場は治まった。
「ああ.そのシステムを利用して交渉する」
「しかし雄二よ。相手がそう易々とこちらの思惑に乗ってくれるかの? 向こうとしては普通に戦争をした方がリスクは低いじゃろうし」
「何、その心配はない。そのための作戦も考えてある。だから明久」
「な、何?」
いきなり話を振られて警戒色を出す明久.
「放課後Bクラスに行って宣戦布告して来い」
「断る。前回僕が行ったんだから今度は秀隆が行けば良いじゃないか」
「……だそうだ」
「だが断る」
「そんなわけだ。明久、行って来い」
「どんなわけだよ! もう少し粘れよ!」
自分の時とは打って変わってあっさりとした受け答えに明久が非難の声を上げた.
「やれやれ仕方ないな。ならお前ら二人でジャンケンをして負けた方が行くってのはどうだ? ただし,ただ普通にしても面白くないから心理戦ありでな」
「……それなら良いけど」
「秀隆は?」
「大丈夫だ、問題ない」
「そうかならとっととやってくれ」
心理戦ありのジャンケンなら自分にも勝ち目があると判断したのか明久は雄二の提案に賛成し,秀隆も受け入れた。
「なら僕はグーを出すよ」
「そうか、なら俺もグーをだそう」
お互いにグーを出すという二人。だが明久はこの時秀隆が密かにほくそ笑んでいたのに気づいていなかった。
「んじゃ,最初はグーからな」
「OK。じゃあいくよ」
「「最初は――」」
「グー!」
「ギャアアアーーー!!!」
グーと言った瞬間に明久の顔面に秀隆の放った右のコークスクリューパンチが油断しきっていた明久の顔面に突き刺さり、後ろのフェンスに激突した。
「ジャンケンホイッと」
明久は激突した瞬間に手を開いていたのでパー、そして秀隆はそれを見て出したのでチョキ。果は明久の負けとなった。
「んじゃ、明久の負けだな」
「む,無効だ!今の明らかに不正があった!」
「Dクラス戦の時の様に殴られるのを心配しているのか? なら安心しろ、Bクラスは美少年好きが多いからその心配はない」
「そっか、なら安心だね」
秀隆から聞いたBクラスの情報に明久はホッと胸を撫で下ろす。
「だけど、お前不細工だからなあ……」
「む。失礼な、365度どう見ても美少年じゃないか!」
「5度多いぞ」
「実質5度じゃな」
「……微少年」
「3人とも嫌いだ!」
明久は泣きながら宣戦布告するためBクラスに駆けていった。
――放課後――
「……言い訳を聞こうか?」
「予想通りだ」
「ま、当然の結果だな」
「くきいー! 殺す! 殺しKILL!」
少しも悪びれる様子の無い二人に明久が襲い掛かる。
「落ち着け」
「騒ぐなバカ」
「ぐふあっ!?」
だが雄二の拳が後ろから腰に、秀隆の蹴りが腹に直撃しあえなく撃沈した。
「んじゃ、先に帰るぞ。明日も午前中はテストなんだから寝すぎるなよ」
「俺らも帰るか」
「そうじゃな」
地に伏す明久を放って置いて、秀隆たちは帰路に着いた。
――秀隆・秀吉帰宅中――
「っとそうだ。悪い秀吉、ちょっと寄りたい店があるんだが、手伝ってもらえるか?」
「何じゃ? わしにできることなら何でも言ってくれ」
「悪いな」
「何、わしと御主の中じゃろう?」
秀隆と秀吉は帰る途中でとある店に寄った。
「ここかの?」
「ああ。すんませーん」
――翌日――
「さて、皆、総合科目の試験御苦労だった」
教壇に上がった雄二からクラスメイトに向けて声がかかる。今日は対Aクラス戦にとっても重要となるBクラス戦の日。雄二の声も、心なしか力が篭っている様に感じられた。
「今日は午後からBクラスとの試召戦争に突入するが、殺る気は十分か?」
『『『おおーーーーーーーーッ!』』』
雄二の物騒な物言いにも誰も疑問も持たず雄叫びを上げた。緊張か、はたまたアドレナリンの作用か、皆興奮しているようだ。
「今回の戦争は敵を教室に押し込むことが重要になる。その為、開戦直後の渡り廊下戦は絶対に負けるわけにはいかない」
今回は前回よりも渡り廊下が要になっているようだ。
「そこで、前戦部隊の指揮を姫路にとってもらう。秀隆、お前は今回は副司令官として姫路のフォローを頼む」
「が、頑張ります!」
「ま、やるだけやるさ」
雄二に指名された瑞希が両拳を握って尽力の意を示した。秀隆はやる気がなさそうだが、こう見えて責任感は強い方なのでやる時はしっかりとやってくれるだろう、と明久や雄二は思った。
「お前ら、きっちり死んでこい!!」
『『『おおーーーーーーー!!!』』』
――キーン、コーン、カーン、コーン――
Fクラスの士気が上がり、開戦の狼煙を上げるチャイムが鳴り響いた。
「よしっ! 行ってこい!目指すはシステムデスクだ!」
雄二の号令の元、Fクラス対Bクラスの試験召喚戦争が開戦した。
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