バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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バカとテストと召喚獣の二次創作小説です。木下姉弟と幼馴染の少年『神崎秀隆』が吉井明久を始めとするFクラスのメンバーと打倒Aクラスを目指して奮闘するドタバタ学園コメディです。オリジナルキャラクターが登場、オリジナル設定を含みます。それらが嫌だという方は閲覧をお控え下さい。それ以外の方はゆっくりとお楽しみ下さい。

如月ハイランド編のクイズ回です。



如月ハイランド編-3

如月ハイランド編-3

 

恐怖(雄二限定)のお化け屋敷を出ると、出口近くの噴水で雄二たちが待っていた。翔子はもう釘バットを持っていなかったから、宥めすかすのには成功したらしい。

2人のそばには例のスタッフがいて、なにやら首を捻っていた。

 

「よう、雄二。吊り橋理論は効果あったか?」

「お前分かってて聞いてるだろ」

 

ニヤけながら告げる秀隆に、雄二は苦い顔で返す。あれで2人がくっつけると思っているのは明久とこのスタッフくらいなのもだ。

 

「坂本も大変だな」

「マクスウェルか。ありがとう。俺の味方はお前だけだ」

 

大げさなように聞こえるが、事実上雄二に同情的なのはトレイズだけなのだ。完全な味方ではないかもしれないが、貶め入れないだけでもありがたかった。

 

「……雄二、そろそろお昼」

 

女性陣で話に花を咲かせていた翔子がふと上を見上げながら呟く。つられて同じ方向を見ると、噴水にある時計の針は午後1時過ぎを示していた。

 

「もうこんな時間か。どおりで腹が減るはずだ」

「じゃあどっかで飯くうか? レストランかフードコートはあるだろ」

「そうね」

 

とりあえず他のアトラクションは後回しにして昼食の流れになった。

 

「……あの、私のバック――」

「デハ、豪華なランチを用意してありマスので、コチラへどうぞ。他の皆サンもついて来てくだサイ」

 

翔子がスタッフからバックを返してもらおうとしたが、スタッフはランチの用意があるからとスタスタと歩き出した。

 

「……」

「翔子、どうかしたか?」

「……なんでも、ない」

 

翔子は一瞬寂しそうな顔をしたが、はぐれてはいけないとスタッフを追いかけ、雄二たちもそれに続いた。

スタスタと歩き続けるスタッフを早足で追いかけ暫く歩くと、小洒落たレストランが見えてきた。このレストランが昼食会場らしい。

 

「坂本夫妻はこちらの、他の皆サンはそちらのスタッフについて行ってくだサイ」

「さらっと入籍させるなと言っただろ!」

 

レストランの入り口で待っていたのはレストラン専門のスタッフだった。レストランによく合うウェイターの姿に身を包んだのは、これまたよく見た顔だった。

 

「今度は秀吉か」

「それと、島田だな」

 

ウェイターに扮していたのは秀吉と美波。スタッフの説明によると、雄二側を秀吉が、秀隆たちを美波が給仕するらしい。

2人とも爽やかな笑みを浮かべているが、秀吉は額に冷や汗を流しているし、美波の笑みは貼り付けたように引きつっている。

 

「ソレデハ、豪華なランチをお楽しみくだサイ」

 

そう告げて頭を下げると、外国人スタッフはその場を離れた。

 

「それでは坂本ご夫妻はこちらに」

「他の皆様はこちらへどうぞ」

「お前まで俺を結婚させるんじゃねえ!」

「もはやテンプレになってるな」

 

雄二は秀吉に抗議したが、翔子に腕を取られたので大人しく従うしかなくなった。秀隆たちも雄二が移動したのを見て美波の案内に続く。

レストランには既に大勢の来場者がテーブルに座っており、会場に敷き詰められた丸テーブルはほぼ満席だった。

ただ案内されたのがパーティ会場のようや広間なのと、奥の方に見えるステージと箱型のテーブルがレストランではなく別のものを連想させる

 

「クイズ番組?」

「みたいだな」

 

ステージの造りがテレビのバラエティ番組でよくあるクイズ番組のそれだった。ここで余興でもやるのだろうか。秀隆と優子は少し訝しげに、トレイズはもの珍しそうに、リリアは目をキラキラさせてステージを見ていた。

 

「こちらへどうぞ」

 

美波にテーブル群の中の一席に案内され、秀隆を頂点に時計回りに優子、トレイズ、リリアの順で座った。座る時にもう一度ステージの方を見ると、雄二たちはステージ近くの一際目立つテーブルに案内されていた。あそこがプレミアムチケットの特等席なのだろう。

テーブルには既に皿やカトラリーが並べられている。どれも有名な洋食器メーカーのデザインらしい。

 

「ああ、そういうことか」

 

並べられた料理と、脇に立てかけてあったメニューを見て秀隆が納得したように頷く。

 

「なにが?」

「この昼飯、披露宴料理の試食会を兼ねてるんだよ」

 

優子もメニューを開いてみる。料理は既にコースに決まっていて、左のページにはおそらく今置かれている料理名と、これから出てくるであろう料理名が記されていた。選べるのは右ページのドリンクだけのようだ。当然アルコールはない。

 

「本当ね。デザートまでついてるわ」

「どれも美味しそうです」

「プレオープンだろ? ここまでするのか?」

「プレオープンだからだろ。ここで良い印象をつけとけば、オープンしてからもここを利用したいと思うカップルもいるかもしれないし」

「少なくても、結婚式の会場の候補にはなるわね」

 

料理のクオリティで式場を決めるカップルも少なくない。如月ハイランド側もそれを見越して、本番さながらのコース料理を用意したのだろう。

 

「飲み物は何にしますか?」

 

テーブルで談笑していると、美波がオーダー表を持ってやってきた。

 

「烏龍茶」

「ジャスミンティーで」

「オレンジジュースをお願いします」

「俺はコーラで」

「かしこまりました」

 

オーダーを聞きメモを取る美波。そんな美波をリリアがジッと見つめていた。

 

「リリア、どうかした?」

「あ、ううん。なんでもないです。ただ、美波ちゃん似合ってるなあって」

 

リリアの言う通り、美波の男装は様になっていた。キリッとしたつり目は凛々しさを与え、いつもは自然とさせているポニーテールも、今回はワックスで固めてピシっとストレートにしている。男装の麗人と言っても過言ではないだろう。

 

「そう? ありがとう♪」

 

褒められて顔を綻ばせる美波。その笑顔はいつもの美波らしい笑顔だ。

 

「本当によく似合ってるわよ」

 

優子も美波を褒める。

 

「ありがとう。優子」

「ええ。特に『胸』のあたりが何もしなくても男性らしくてよく似合ってるわ」

 

美波の顔が笑顔のままビシッと固まる。おそらく、いや確実にお化け屋敷のことを根に持っていた。

 

「……お前ら、どんぐりの背比べって知ってるか?」

「「なんですって!」」

「大声を出すな。他の客に迷惑だ」

 

煽られた上に秀隆に注意されて、優子も美波も憮然となる。それを見て、トレイズが軽く笑った。

 

「どうした?」

「いや、君らって本当に仲がいいんだなって」

「そうか?」

「そうだよ。Aクラスってほら、言っちゃなんだけど少しピリついてるから」

「ああ……」

 

Aクラスは成績上位陣のあつまり。良くも悪くもプライドが高い生徒も多い。それに早くも大学受験を見据えて勉強する生徒もいるので、一部例外はあるものの、クラス内はどことなく緊張感で満ちていた。

 

「まあ仕方ないだろう。Aクラスは勉強が第一だからな」

「それは分ってるんだけどな……」

 

トレイズの語尾には「もう少し肩の力を抜いても」が続くが、優子の手前言うのは憚れた。

 

「分かってるわよ。もう少し肩の力を抜けって言うんでしょう?」

「いや、まあ……」

「大丈夫よ。皆ちゃんと目標を持って勉強しているし、生き抜くもそれなりにしているわ」

「むしろ、問題はFクラスだろうな」

 

Aクラスの生徒は自分なり夢や目標を持って勉強しているのに対し、Fクラスはただ自堕落に日々を過ごしている生徒が大半だ。

 

「先生たちも、学力以前にそこを気にしているでしょうね」

 

夢や目標は未来を生きる原動力だ。未来を見据えず、刹那的に今の欲望だけを満たそうとしている生徒たちを教師陣も危惧していた。

 

「そんなわけで、少しピリついてるAクラスの方がまだマシさ。不安なら誠や久保あたりを誘ってみるといい。結構気さくに付き合ってくれるぜ」

「私や愛子も暇な時はあるから遠慮なく言ってね」

「ありがとう」

 

Aクラスの雰囲気についていけるか少し不安だったトレイズの悩みは解消されホッと笑顔が零れる。リリアもそんなトレイズを見て笑顔になる。

 

「お待たせしました。ドリンクとオードブルです」

 

と、そこにオードブルが運ばれ、一同は料理に取り掛かることにした。

 

『皆様、本日は如月ハイランドのプレオープンイベントにご参加いただき、誠にありがとうございます!』

 

デザートも食べ終え、食後のコーヒーと紅茶を飲んでいると、会場に大きな声でアナウンスが流れた。ここからが本番のようだ。

 

『なんと、本日ですが、この会場に結婚を前提にお付き合いを始めようとされている高校生のカップルがいらっしゃっているのです!』

 

とあるテーブルにスポットライトが当たり、 会場内に「わーっ!」と歓声が響く。そのテーブルの主、雄二の方を見ると、雄二が盛大にむせ返っていた。

 

『そこて、当如月グループとしては、そんなお2人を応援すべく、とある催しを企画いたしました! 題して、【如月ハイランドウェディング体験】プレゼントクイズ〜!』

 

アナウンサーの宣言とともにレストランの入り口が閉鎖された。これで退路を断たれた雄二はクイズに参加せざるをえない。

 

「明久のやつ。最初からこれが狙いか」

「吉井君にしては考えたわね。ただ遊ぶだけじゃ坂本君がウェディング体験に参加しないから強硬手段を取ったのね」

「しかもクイズ形式することで余興の演出も兼ねてやがる。如月グループも相当のやり手だな」

 

元々プレミアムチケットの方には『どんな手を使ってでも結婚させる』という意図があったのだから、如月グループとしても明久の提案は渡りに船だったのだろう。

 

『本企画の内容は至ってシンプル。こちらの出すクイズに答えていただき、見事全問正解したら、弊社の提供する最高級のウェディングプランを体験していただけるというものです! もちろん、ご本人様のご希望によってはそのま入籍ということでも問題はございませんが』

「問題だろうが」

 

日本の婚姻可能年齢は男子満18歳、女子満16歳で少なくとも雄二は満たしていないのでせいぜい婚約止まりだ。

 

『それでは、坂本雄二さん&翔子さん! 前方のステージへとお進みください!』

 

雄二たちのテーブルとステージがライトで繋がれ、既に断れる雰囲気でもない。雄二は渋々、翔子は気合い十分にステージに備え付けられた解答者席に座った。

 

『それでは【如月ハイランドウェディング体験】プレゼントクイズを始めます!』

 

2人が席についたところで早速クイズが始まる。観客も、秀隆たちもどんなクイズが始まるのか少し楽しみにしていた。

 

結論から言えば、クイズ企画は出来レースだった。

最初の2人の形染めはともかく、雄二がわざと間違えた「鯖の味噌煮」を無理矢理正解にしたり、挙句の果てには無回答までも正解にした。

あからさまな出来レースに、観客たちも少し萎えはじめていた。

 

『ちょっとおかしくな〜い? アタシらも結婚する予定なのに、なんでそんなコーコーセーだけがトクベツ扱いなワケ〜?』

 

会場に不快な声が響く。声の主を探すと、入り口でスタッフと揉めていたヤンキーカップルのカノジョだった。

 

「……アイツら、チケットを取り戻せたのね」

「みたいだな」

 

破るのはやり過ぎかと思って自重したが、裏目に出てしまったようだ。

カップルたちは司会の注意も無視して自分たちも参加させろとギャーギャー騒いでいる。近くに座っている人たちも迷惑そうに体を2人から遠ざける。

 

「じゃあ、こうしようよっ! アタシらがソイツらに問題だすから、答えれたらそっちの勝ち、間違えたらアタシらの勝ちってことで」

『そんな勝手に――』

 

司会の制止も聞かずズカズカと壇上に上がるヤンキーカップル。雄二にとっては間違えればウェディング体験を押し付けられるのだからこの際相手の態度は考えないことにした。

 

『じゃあ問題だ』

 

ヤンキーカレシが壇上のマイクを1つひったくり、わざとなのか巻き舌で聞き取りにくい発音で問題を出す。

皆が固唾を飲んで待ち受けた問題は――

 

『ヨーロッパの首都はどこだコルァ!』

 

ヨーロッパ。ユーラシア大陸北西の半島を包括し、ウラル山脈の水分嶺、ウラル川、カスピ海、黒海、ボスポラス海峡などがアジアとの境界となっている世界で2番目に小さな『大州』である。当然『国』ではないので首都は存在しない。

予想のはるか斜め上、いや斜め下の問題に、会場がシーンと静まり返る。

 

『オラ、答えろよ? 分かんねえのか?』

 

ヤンキーが勝ち誇ったように雄二を煽る。ヨーロッパは国ではないので答えよがないのだが、ヤンキーはそれを難問に悩んでいると勘違いしている。

 

『……坂本雄二さん、翔子さん。おめでと――』

「ブリュッセル」

 

司会が茶番を終わらせようと雄二たちの勝ちを宣言しようとした時、思いもよらぬ方向から解答が返ってきた。

 

『ああん?』

 

ヤンキーもオラついて解答者を探す。答えたのは、秀隆だ。秀隆は挑発するような目つきでヤンキーを睨む。

 

「ヨーロッパの首都。つまりヨーロッパ連合EUの本部が置かれている首都は、ベルギーのブリュッセルだ。そうだろ?」

 

秀隆はリリアにも確認を求めた。リリアは驚いた顔をしたが、秀隆の質問には、

 

「はい!」

 

と答えた。

秀隆の解答に会場中から「おおー」と感嘆の声が溢れる。

 

『そ、そこのテーブルの方! 正解です!』

 

茶番を終わらせられるなら何でもいいと、司会も秀隆の解答を正解にした。納得のいかないヤンキーバカップルは文句をまくし立てていたがもはや誰も聞く耳を持たない。

 

『それでは、ウェディング体験の方に――』

「ちょっと待ってほしい」

 

再び待ったをかける声が上がった。その声を上げたのも秀隆だ。壇上の雄二も困惑している。

司会は「これ以上事態をややこしくするな」と非難めいた視線を秀隆に送り、優子も「余計なことをするな」と咎めた。しかし秀隆はそんな2人を無視してスタスタとステージに上がる。

 

『なんだテメエは?』

「アンタの問題に解答したやつだよ」

 

秀隆は解答者席の翔子に目配せすると、会場をグルっと見渡した。

 

「せっかくの勝負に水を差しちまったから、アンタらに挽回のチャンスをと思ってさ」

『おう。気が利くじゃねえからコラ』

『分かってる〜』

 

バカップルの反応にニヤリと笑う秀隆。雄二は知っている。この顔は、碌でもないことを考えている時の顔だ。

 

「じゃあ俺が問題を出すから答えてくれ。正解した方の勝ちってことで」

『いいぜ』

「……分かった」

 

ヤンキーと翔子が頷き、勝負が始まった。

 

「じゃあ問題――アフリカの首都はどこだ?」

「は?」

 

雄二の、会場中の目が再び点になる。アフリカ大陸はユーラシア大陸の南西に位置する大陸でヨーロッパと同じ大州である。当然、アフリカにも首都は存在しないのだが、秀隆がこのバカップルと同じ問題を出すわけがない。雄二がその意図を考えていると、

 

――ピンポーン――

 

隣からボタンを押す音がした。押したのは、当然翔子だ。

 

「はい。霧島翔子さん」

「……ケープタウン、プレトリア、ブルームフォンテーン」

『は?』

 

翔子は3つの都市の名前を答えた。雄二もケープタウンは聞いたことがあるが、他2つはまったく知らない。他の観客も同じだろう、翔子の解答にざわめいていた。

 

「正解」

『はあ!? なんだそりゃ!? なんで首都なのに3つも名前が上がるんだよ!?』

 

この疑問はもっともだ。仮にアフリカ大陸に首都があったとしても1つのはずだ。3つもあるわけがない。

 

「リリアーヌさん。解説をどうぞ」

 

秀隆が仰々しくリリアに解説を求めた。名指しされたリリアはおっかなびっくり立ち上がると、ハッキリとした声で答えた。

 

「えーと。アフリカ――南アフリカ共和国には立法、行政、司法で3つの首都があって、それがケープタウン、プレトリア、ブルームフォンテーンです。南アフリカは世界で唯一首都が3つある国なんです」

 

リリアの解説に再び拍手が起きる。リリアは恥ずかしそうにペコリと観衆に向けて一礼するとそそくさと席に座った。

 

「と、いうわけで坂本さん、霧島さんおめでとうございます」

『ちょっと待てや! インチキだろこんなもん!』

 

ヤンキーが秀隆の肩を掴んで罵声を浴びせるが、秀隆はその手を払い冷ややかに睨む。

 

「インチキ? そういうなら今調べてもらいましょうか? たぶん事務所にいけばパソコンもあるでしょうからすぐに確認できますよ?」

『うぐ……っ』

 

丁寧な口調とは裏腹の有無を言わせぬ圧力にヤンキーも怯みをみせる。その隙にヤンキーカップルは駆けつけたスタッフにステージから引きずり降ろされ、秀隆も何事もなかったかのように自分のテーブルに戻った。

 

『……コホン。えー少々アクシデントもございましたが、改めて、坂本雄二様、翔子様、ウェディング体験獲得おめでとうございます!』

 

気を取り直して司会も雄二たちを祝福し、観衆も2人に割れんばかりの拍手を送った。

 

「よく南アフリカの首都なんて知ってたわね」

「この前雑学系のクイズ番組でやってたのを覚えてたんだよ」

「俺はよくヨーロッパの首都からEUの本部を連想できたと思うぞ」

「私もです」

「あの程度の屁理屈は朝飯前さ」

「屁理屈って自覚はあったのね」

 

そうでもなければ、普通ヨーロッパの首都という存在しないものを答えることはできない。

 

「すまねえな。トレイズ。またリリアを巻き込んじまった」

「いや、まあ……今回は仕方がない、か?」

 

確かにリリアがあのカップルから逆恨みされる可能性もあるが、リリアの知識のおかげで乗り越えられたところもあるので複雑な気持ちだ。

 

「今度映画のペアチケットを渡すからそれで勘弁してくれ」

「分かった。今回は事情も事情だからな」

 

トレイズも現金なものである。

 

『それでは、お2人にはウェディング衣装に着替えていただくのでここで一旦お別れです。ウェディング体験は別会場で行われるので、ご見学をご希望の方はアナウンスがあるまでしばしご歓談ください』

 

壇上にウェディング担当と思われるスタッフと、今日一日雄二について回っている例の外国人スタッフが2人を舞台袖に引き上げ、ステージの解答者席も片付けられた。

準備ができるまでトイレに立つ人、見学をしないのでそのまま退出する人が次々とテーブルから離れる。

 

「私はどうする?」

「ここまできたから、一応見とくしかないだろ」

「私も見てみたいです」

「リリアが良いなら俺も見学で」

 

秀隆たちも乗りかかった船なのでそのまま見学することにした。

 

「じゃあちょっとトイレ行ってくるわ」

 

時間がかかりそうなので、秀隆は先にトイレを済ましておくことにした。

 

「私も行くわ」

「俺は後で行くかな」

「私も後で行きます」

 

秀隆と優子が連れ立ってトイレに行き、戻ってきたらリリアとトレイズも行くことになった。

 

「……さてと」

 

トイレに向かう途中、秀隆がおもむろに携帯電話を取り出す。

 

「どこかに電話?」

「ああ。念のためにな」

 

優子の質問に曖昧に答える。不審に思った優子は携帯電話の発信画面を見て、そこに映し出されたなまえを見て納得し、ため息を吐く。

 

「……何事もなければいいわね」

「そうだな」

 

できれば杞憂であってほしいと秀隆も優子も願った。




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