バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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バカとテストと召喚獣の二次創作小説です。木下姉弟と幼馴染の少年『神崎秀隆』が吉井明久を始めとするFクラスのメンバーと打倒Aクラスを目指して奮闘するドタバタ学園コメディです。オリジナルキャラクターが登場、オリジナル設定を含みます。それらが嫌だという方は閲覧をお控え下さい。それ以外の方はゆっくりとお楽しみ下さい。

如月ハイランド編・ウェディング体験回です。少し胸糞表現がありますがご了承ください。



如月ハイランド編-4

如月ハイランド編-4

 

『それでは皆様、ウェディング体験の準備が整いましたので、スタッフの案内に従って移動してください』

 

トイレを済ませテーブルで談笑していると、先ほどまでクイズ企画で司会をしていたスタッフのアナウンスが入った。

秀隆たちも案内係のスタッフに従い移動する。

案内されたのは、園内に併設されたグランドホテルの横に建てられている小さなチャペルだ。

チャペル門扉は美しい花々で着飾られ、重々しい扉を開くと、正面には女神を模した大きなステンドグラス。室内も白亜の石造りで入り口から続くヴァージンロードの両脇に長椅子が整然とならんでいる。

バージンロードの到着点にはステージが置かれ、無数のバルーンや電飾で装飾され、スモークまで焚かれている。

 

「すっげえな」

「綺麗なな部屋ですね」

「ライトにバルーンにスモークまで炊いてあるわ」

「電飾だけでもいくらかかるか分かんねえな」

 

如月グループが『最高級』と胸を張って言うのも頷ける。チャペルでこのクオリティなら、披露宴に使われる鳳凰の間とやらは会場代だけでいくらかかるか想像もできない。体験とはいえ、ここで結婚式をあげるれるのは幸運と言う他ない。

秀隆たちは長椅子の一列に、ヴァージンロード側からトレイズ、リリア、優子、秀隆の順に座り、主役の登場を待った。

 

「お、雄二だ」

 

ステージ袖から雄二が不機嫌そのものの顔で現れた。窮屈そうにウェディングスーツに身を包んでいるが、体格がガッシリとしているので中々に様になっている。

 

「結構似合ってるわね」

「上背もあるしガッシリしてるからな」

「スーツ姿の坂本君、カッコいいですね」

「……そうだな」

 

リリアが雄二を褒めるので、トレイズは少し面白くない顔をする。

 

「気にするな。お前もそのうち着るんだからよ」

「べ、べつにそんなんじゃ……」

 

秀隆のからかいにトレイズがモゴモゴと否定していると

 

『それでは、新郎のプロフィール紹介を――』

 

新郎役である雄二のプロフィール紹介が始まった。体験とはいえ本物の結婚式の流れを踏襲するのはさすがの徹底ぶりだ。雄二のプロフィールも明久あたりから聞き出して――

 

『――省略します』

 

いなかった。本当に流れだけ掴んでメインイベントだけ執り行うのだろう。

 

『ま、紹介なんていらねぇよな』

『興味ないし〜』

『俺たちの結婚式に使えるかどうかが重要だからな』

『だよね〜』

 

大声で無粋な声が上がる。騒いでいるのは、またしても例のヤンキーカップルだ。2人はスタッフの注意もどこ吹く風。べらべらと身勝手な持論を展開しながら下卑た笑みを浮かべていた。

 

「アイツら、まだいたのか」

「主催側も下手に追い出せないんだろうな。ああいう輩は下手に刺激するとあることないこと吹聴しやがるから」

「オープン前に変な噂でも流されたら本末転倒だもの」

「けど、ちょっと酷いです」

 

リリアが珍しく眉をひそめる。それほどまでに、ヤンキーカップルの騒がしさは目に余る。運わるく隣に座った別のカップルも顔をしかめていた。

 

『――それでは、いよいよご新婦様のご登場です!』

 

心なしかBGMの音量も少しあがり、アナウンスとともに会場のライトも暗くなる。壁際からスモークも立ち込め、バカップルの喧騒を打ち消そうと否応にも雰囲気を盛り上げにかかる。

雄二が「これで翔子に花嫁衣装が似合ってなからったら」などど軽い気持ちで待っていると、

 

『本イベントの主役、霧島翔子さんです!』

 

アナウンスと同時にチャペルの扉が開かれ、逆光の中にウェディングドレスに着飾った翔子が現れた。

純白のヴェールで顔を覆い、すこし俯き気味にヴァージンロードをゆっくりと歩く。

 

『…………綺麗』

 

静まり返った式場に、誰かが零した言葉が反響したように響く。

シワひとつない純白のシルクのドレス。ドレスの色に合わせて作られたブーケの緑が、その美しさを際立てる。スカートの裾は床に届かない程度に整えられ、ヴァージンロードを歩ききるまで汚れをつけることはなかった。

その場にいた全員が翔子の花嫁姿に魅了されていた。優子もリリアもほうっと息を吐き、トレイズもまるで自分が花婿になっかのような緊張感を抱いた。秀隆でさえ、その美しさに息を呑むほどだ。

それは雄二も例外ではなく、ただただ呆然として、翔子に見惚れていた。見慣れた少女の初めて見る姿に、言葉もなにも浮かばないほどに。

 

「……雄二……」

 

雄二の前に立ち、顔を正面に上げた翔子が呼びかける。その声に、雄二は弾かれたように我に返った。

 

「翔子、か……?」

 

動揺して、やっと出てきた言葉の間抜けさにも雄二は気づかない。翔子もはにかみながら「……うん」と答えた。

 

「……私、お嫁さんに見える?」

「あ、ああ……。少なくとも、花婿には見えない」

 

なにを当たり前のことを、と普段なら思っているだろう。しかし今の雄二は言葉を絞り出すのに精一杯で、周りもその事を指摘しない。そのくらい翔子の花嫁姿が会場を魅力していた。

 

「……雄二」

 

翔子が再び雄二の名を呼び、ブーケを構え直した。

 

「…………嬉しい……」

 

そのままブーケに顔を伏せて、肩を震わせる。慌てた雄二が駆け寄ろうか躊躇っている。

 

『ど、どうしたのでしょうか? 泣いているようにも見えますが……?』

 

司会も思い出したかのようにアナウンスを入れる。

たしかに、彼女は静かにないていた。それに気がついた観衆からもざわめきが起こる。

 

「……ずっと……夢、だっから……」

 

涙混じりのかすれた小さな声。それでもハッキリと聞き取れるように翔子はつぶやいた。

 

『夢、ですか……?』

「……小さな頃から……ずっと夢だった……。私と雄二、2人で結婚式を挙げること……。私が雄二のお嫁さんになること……。私ひとりじゃ絶対に叶えられない、小さい頃からの夢……」

 

霧島翔子を知る者なら誰もが知っている翔子の夢。おそらく幼き少女たちが一度は夢見るであろう小さな夢。しかし大人になるにつれて失われてしまう夢。

そんな夢を、翔子はずっと抱き続けてきた。雄二になんど突き放されようと持ち続けてきた夢。

仮初の結婚式ではあるが、それがようやく花を咲かせ始めた。

 

「……だから、本当に嬉しい……。他の誰でもなく、雄二と一緒にこうしていられることが……」

 

そこまで言って、感極まったのか翔子はまたブーケに顔を埋めて泣き出してしまった。翔子の本心を聞いて、雄二の顔に真剣味が増した。

トレイズは無意識に隣に座る少女を見た。彼女は目に涙を浮かべ、ステージにたつ翔子を見ている。果たして自分は翔子のように覚悟を持つことができるのだろうか。その時この少女はなんと言ってくれるのだろうか。

自分を見つめる視線に気がついたのか、ふとリリアと目が合った。驚いて慌てて顔を前に向ける。そんな彼に、リリアは柔らかく微笑んだ。

優子もまた、隣に座る少年を横目で盗み見る。彼は涙こそ浮かべてはいないが、真剣な眼差しでステージの2人を見ている。かつて自分が宣言した決意の言葉。彼はあれをどう捉えているのだろうか。いつまで彼の隣に立っていられるだろうか。

考えても詮無いことと優子は視線を翔子に戻す。そんな彼女の視線に気づきながら、秀隆はただ無言で前を見ていた。

 

『どうやら嬉し泣きのようですね。花嫁は相当に一途な方のようです。さて、花婿はこの告白にどう応えるのでしょうか?』

 

アナウンスの問いかけに、雄二も覚悟を決めたようだ。より一層真剣な眼差しを翔子に向け、言葉を発しようとしたその時――

 

『あーあ、つまんな〜い!』

 

この場で最も唾棄すべき横槍が入った。

 

『マジつまんないこのイベント〜。人のノロケなんてどうでもいいからぁ〜。早く演出とか見せてくんな〜い?』

『だよな〜。前らのことなんてどうでもいいっての!』

 

騒ぎ出したののは例にもよって件のバカップル。カノジョの方は言葉通り、心底つまらなさそうにステージを見上げている。

カレシも、主役は自分たちだと言わんばかりにステージの2人を見下している。

 

『ってか、お嫁さんが夢ってオマエいくつだよ? なに? キャラ作り? それともここのスタッフの脚本か? バカみてえ。つうかバカだろ。ぶっちゃけキモいんだよっ!』

『純愛ごっこでもしてんの〜? そういうの最近は流行らないっしょ。そんなもん見るために貴重な時間割いてるんじゃないんだケドぉ〜。あのオンナ、マジでアタマおかしいんじゃね?』

 

最前列にいるせいで、カップルの言葉ひとつひとつがなんの障害もなくステージまで届く。

 

『分かった!コレってコントじゃね? あんなキモい夢持ち続けてるヤツがいるわけねえじゃん!』

『えっ!? コレってコントなのぉ? だとしたら超ウケるんですけどぉ〜!』

「アイツら……!」

 

会場中に響くように大声で騒ぎ、翔子を指差して嘲笑う2人に、ついにトレイズの堪忍袋の尾が切れた。2人に詰め寄ろうと立ち上がるトレイズを、秀隆が制する。

 

「止めろトレイズ」

「けどっ!」

「お願い、トレイズ」

 

少し語気を強める。トレイズはなおも何か言いたげに口を開くが、リリアに腕を引かれ納得のいかぬまま座り直す。

 

「ごめんね。トレイズ」

「いや、リリアが謝ることじゃ……」

「私だってあの人たちを許せない。けど、あんな人たちのせいでトレイズが傷つくのもイヤ」

「リリア……」

 

よく見ると、リリアも下唇を噛んでこらえている。あの2人の言葉は言葉以上にリリアも傷つけていた。トレイズは、それが悔しい。

 

「……くそっ!」

「落ちつけトレイズ」

「なんで君はそんなに冷静なんだ?」

 

トレイズには秀隆の冷静さが異様に思えるほど不自然だった。それに対し秀隆は、ふっと少し淋しげに笑った。

 

「冷静、か。そんな風に見えてるなら、俺はとんだ薄情者だな」

「違うのか?」

「いや、冷静ではあるな。腸が煮えかえるほどにな」

「そうね。むしろあそこまで下衆だと安心するわ」

 

秀隆と優子の言葉をトレイズが理解するよりも早く、

 

『ねぇ〜。はやくこの茶番終わらせてくんなあ〜い? いいかげん飽きてきたんですケドぉ〜』

『そうだな。オラどけやキモオンナっ!オマエらなんてお呼びじゃねえんだよ!』

『んだとコラぁ!』

 

ステージの脇、従業員通用口のドアから怒りの形相の明久が飛び出してきた。

 

『さっきから聞いてればベラベラと――テメエらに霧島さんの気持ちが――』

『あ、明久君落ち着いてください!』

 

バカップルに飛びかかろうとした明久を瑞希が羽交い締めにして止める。それでも止まりそうにない明久を、美波と秀吉、康太まで含めた4人がかりでなんとか舞台袖から引きずり降ろす。

 

「あの馬鹿が」

「まあ、吉井君らしいわね」

 

会場にいた全員の視線が明久に向いたその一瞬、

 

『は、花嫁さん? 花嫁さんはどちらに行かれたのですかっ?』

 

翔子が姿をくらませた。

さっきまで立っていた場所に、ブーケとヴェールだけを残して。

 

『霧島さん? 霧島翔子さーん? 皆さん、霧島翔子さんを探してください!』

 

翔子の姿が消えたところでイベントは中止。スタッフもバタバタと慌ただしく翔子の捜索に負われることになってしまった。

 

「俺たちも探そう!」

「はい!」

「そうね」

 

優子たちも翔子を探すべく立ち上がる。

 

「早く行こう。代表がハイランドから出たら厄介だ」

「いや、それはないな」

 

トレイズは翔子の脱走を危惧したが、秀隆はそれを否定した。

 

「なんでだ?」

「霧島はたぶんドレスに合わせてヒールが高めのウェディングシューズを履いているはずだ。履き慣れてない上に走りにくい靴で長距離の徒歩移動は考えにくい」

「なら、走れたとしてもそう遠くには行けないわね」

「それでも、お客さんに紛れ込まれたら――」

「それもないわね。代表はウェディングドレスだから、かえって目立つわ」

「それならどこに……」

「んなもん1箇所しかねえよ」

 

トレイズは途方に暮れるが、秀隆は既に答えは決まっていると言いのけた。

 

「どこなんだ?」

「グランドホテル。近距離かつウェディングドレスが目立たないのはそこしかない」

「ホテルは隣。披露宴会場もあるから花嫁姿の代表がいてもおかしくはないわね」

「たぶん新郎新婦の控え室もあるだろう」

「すぐに行こう!」

 

居場所の目処が立ち、トレイズたちは翔子を探しにホテルへ向かおうとするが、

 

「俺はパスだ」

「なっ!?」

 

秀隆はこれを拒否。トレイズとリリアの目が皿のように丸く見開かれる。

 

「お前なんでっ?」

「霧島の捜索はそっち任せる。俺には別にやることができたんでな」

「やること? それは霧島さんより大事なんですか?」

 

リリアとトレイズは秀隆を非難めいた、少し軽蔑したような眼で睨む。この期に及んで翔子より優先すべきことがあるのか、と。

 

「……分ったわ。そっちは任せる」

「木下さん!?」

「んじゃそっちは頼むわ」

「待てよ」

 

出入り口とは逆。ステージの方に行きかけた秀隆を、トレイズが呼び止める。

 

「なんでお前はそんなに平然としてられるんだ? 代表が他人だからか?」

「トレイズ」

「代表はお前の友だちじゃないのかよ! なんで友だちが貶されて、そんなに平気でいられるんだよ!」

 

感情の赴くままに秀隆に怒鳴る。頭ではバカップルへの八つ当たりだとは分かっていても、どうしても怒りの感情を抑えられない。

トレイズに怒鳴られた秀隆は、一瞬の間を開けて、笑い出した。

 

「……クククッ。俺が霧島と友だちか」

「違うのか」

「まあ、友だちの友だちを友だちだって言うなら違わねえな。俺も丸くなったもんだ」

「……よく分からねえけど、代表と友だちってことだろ? だったら早く探そうぜ。控え室にいるとは限らねえし、客室だって何部屋あるか分からないんだ」

「あー。ホテル中探す必要はねえよ。たぶん各階一部屋か二部屋で十分だ」

「なんでそこまで分かるんですか?」

 

リリアの疑問に、秀隆は軽い口調で答える。

 

「ホテルならあんだろ。白いもんが紛れ込んでも違和感ない部屋が」

「違和感のない部屋?」

 

秀隆が示したヒントの答えを、リリアとトレイズは見つけられないかったが、優子は察したようだ。

 

「……確かに。あそこなら隠れる場所もあるかも」

「じゃあそっちは頼んだぞ。こっちはこっちでやらせてもらう」

 

秀隆はニヤリと歯を見せて笑うと、優子たちを残してステージに向かった。

 

「あ、おいっ!」

「大丈夫よマクスウェル君。あっちは秀隆に任せましょう」

「木下まで……なにを根拠に?」

「……そうね。この際だからアナタも覚えておくといいわ」

「なにを?」

「アイツが歯を見せたら、もう終わりってこと」

「?」

 

優子の言っている意味がいまいちピンとこない。歯を見せたからといってなんになると言うのだ。

 

「まあ、いずれイヤになるほど思い知るわ。それより、代表を見つけないと」

「そうでした。それで、霧島さんはどこにいるのでしょうか?」

「秀隆のやつは白いものが混ざり込んでも違和感ないって」

「それも歩きながら話すわ。さあ、行きましょう」

 

いまだ疑問符を浮かべる2人を連れ立って、優子は翔子を探しに出る。

一方秀隆は、ステージに近づくと、ちょうど雄二がスタッフからの翔子捜索依頼を断っているところだった。

 

「いいのか? 嫁さん探さなくて?」

「嫁じゃねえつってんだろ。テメエこそなに企んでやがる?」

「なんのことやら」

「惚けるんじゃねえよ。テメエがその顔をしてる時は碌なことがねえんだ」

 

いつものような他愛もない言葉に、いつにない怒りが感じられた。

 

「今回はお前に被害はないから安心しな」

「そうか。……そこを退いてくれ。便所に行きてえんだ」

「ああ、悪い」

 

秀隆は半歩横にズレて道を譲る。

雄二はその横を事も無げに通り過ぎた。翔子の残した、少し重たくなったヴェールを持って。

 

「存分に、用を済ませるといいさ」

「……ちっ」

 

すれ違いざまに投げられた言葉に舌打ちをして、雄二はチャペルから出て行った。

 

「さて、と」

 

秀隆はそのままステージ脇の『STAFF ONLY』と書かれた扉を躊躇もなく開ける。扉の先はスタッフルームになっていて、多くのスタッフが電話をしたり他のスタッフに指示を出したりと、バタバタと慌ただしく駆け回っている。

そんな忙しなく蠢く群衆の中から、秀隆は目当ての集団を探し当てるとそちらに足を向けた。

 

「離してよ! アイツら、一発殴らないと気がすまない!」

「気持ちは分かるが落ち着くのじゃ! 暴力沙汰になればプレオープン自体がめちゃくちゃになってしまうのじゃ!」

「そうよアキ。悔しいけど、あんな奴らは方っておいて、今は霧島さんを探しましょう?」

「でもっ!」

 

目当て人、明久は康太に羽交い締めにされながも、怒りが収まらぬまま暴れていた。

 

「落ち着けバカ」

「げふぅっ!?」

 

そんな明久の顔面に、秀隆は一発蹴りを入れた。

 

「か、神崎君!? 一体なにをっ!?」

「頭に血ぃ上って茹だったバカを冷まさせてやったんだよ」

 

悪びれることもなく、秀隆は顔を抑えて蹲る明久の前に立つ。

 

「ちぃとは冷めたか?」

「ててて……いきなり何するのさ! って秀隆?」

「よう。少しは周りを見れるようになったか」

 

明久に言われて、スタッフルームに秀隆がいる違和感に皆が気づいた。

 

「お主なぜここに?」

「それは後だ。んで、テメエは奴ら殴ってどうする気だよ?」

「決まってる。霧島さんにちゃんと謝らせてやるんだ!」

「んな事しても霧島の気が晴れるわけねえだろ」

「だからってっ!」

「奴らのせいで霧島が傷ついたのは間違いねえが、俺たちにはその傷を癒せねえ。自分で立ち直るか、『然るべきヤツ』が傍に居てやるしかねえよ」

「それは……」

 

そんな事は頭では分かっている。殴って謝罪させたところで、ただの自分の自己満足で、翔子のためにはならないと。

 

「秀吉も言ってただろ? もしお前が奴らを殴ったりしたら、連中は嬉々としてあることないこと世間に吹聴するだろう。そしたら如月ハイランドの評判はオープン前に失墜。その責任をお前が負うことになるぞ」

 

瑞希たちの顔色がさらに暗くなる。

あのカップルのような思考の持ち主は、全て自分が正しいとしか思っていない。自分が正義で自分に従わない者は全て悪。そんな連中にいくら謝罪をさせようとも火に油を注ぐだけだ。

 

「……クソっ!」

 

明久が悔しさで涙を浮かべながら床を殴る。

そんな明久と周りを秀隆は見回し、ふぅとため息を吐いた。

 

「んなシケた面してんじゃねえよ。誰も手がねえとは言ってねえだろ」

「え?」

 

明久たちは驚いて弾かれたように秀隆を見る。

 

「ほ、本当に?」

「ああ」

「でも、アンタさっき下手に手を出したらって……」

「こっちから手を出したら奴らの思う壺だ。だが――」

 

秀隆はニヤリと、いつもの人を食ったかのような笑みを浮かべる。

 

「手が出せねえなら、手を『出させれば』いいだけだ」

「向こうから手を出させるじゃと?」

「…………そんなことできるのか?」

「俺を誰だと思ってやがる」

 

秀隆の提案に秀吉も康太も懐疑的だが、秀隆は皮肉めいた笑みを崩さない。

 

「テメエら手ぇ貸せ。思い上がった馬鹿どもを、キッチリと地獄に叩き落としてやろうじゃねえか」

 

大げさに両手を広げ芝居かかった口調で鼓舞する。

 

「さあ、楽しい楽しい反撃の始まりだ!」

 




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