バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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第四巻編その2果たして明久と美波はいつも通りの日常を送ることができるのか?


第五十四問

第五十問

 

西村教諭が無慈悲にも教室を後にし、残された明久は、FFF団による処刑執行を待つばかりとなってしまう。明久はせめてものていこうと身体をよじるが、須川にあけっなく取り押さえつけられた。

 

「吉井! 抵抗するな! 往生際が悪いぞ!」

「くそっ、 誰か助け――そうだっ! 姫路さん! 姫路さんは!? 優しい姫路さんならきっと助けて――」

「残念だが明久。それは無理だ」

「どうしてさ!? 姫路さんなら困っているクラスメイトを見捨てたりはしないはずだよ!」

「普段の姫路ならそうなんだけどな」

 

秀隆はくいっと親指で瑞希の席を指す。明久も(ついでに須川も)瑞希の席に首を回すと、

 

「……美波ちゃん、なんで……やっぱり、明久君のこと……」

「ごらんの有様だ」

「まだそれやってたの!?」

 

瑞希は未だに放心状態でうわ言を呟いている。かれこれ30分以上経っていても意識の戻らない瑞希に、明久も驚きを隠せない。

 

「ではこれより吉井明久の私刑を開始する」

「待って、死刑じゃなくて私刑なの!? ただの八つ当たりじゃないか!?」

「今更かよ……」

 

万事休す。明久の命が風前の灯となったその時、

 

「こ、これはいったい何事じゃ!?」

 

いつもより少し遅れて登校したクラスメイト、木下秀吉が、教室の惨状を見て目を丸くした。

 

「秀吉! 良かった……! ずっと来ないから今日は休みなのかと思ったよ」

「今朝は少々支度に手間取ってしまったがゆえに遅くなったのじゃが……。明久、お主らは何をしておるのじゃ?」

 

扉の取っ手に手をかけたままの秀吉が尋ねる。登校したら級友が簀巻きにされて覆面集団に囲まれているのだから疑問も持ちたくなる。

 

「明久が島田とキスをしてFFF団に襲われた。以上だ」

「なるほどそれで――今なんと言った?」

 

いつもの事かと納得しかけた秀吉も、さすがにキスの一言が引っかった。

 

「言った通りだよ。今朝昇降口前で明久と島田がキスをした。目撃者は俺を含めて多数。証拠の写真もある」

 

秀隆は康太から写真を取り上げると秀吉に見せた。

 

「これは……。雄二はいつもの事としても、明久もこれでは確かにの。しかし、島田も大胆なことをしたものじゃな」

「さらっと俺が処刑されるのを日常に組み込むんじゃねぇ!」

「して、その肝心の島田の姿が見えぬようじゃが?」

「トイレかどっかで頭冷やしてるんだろ」

 

――ガラッ――

 

噂をすれば影。今話題の渦中にある美波が、秀吉が入ってきたのとは別のドアから教室に入ってきた。美波は俯いたまま、一言も発することなく、早足で自分の席に行くと、ストンとそのまま座る。顔こそ見えなかったが、恥ずかしさで耳まで真っ赤にそまったままだ。

 

「「「…………」」」

 

いつもと違う雰囲気の美波、Fクラスの誰もが言葉を発せずに教室内が水を打ったようにシンと静まり返る。

 

「おはようございます皆さん。今日は諸事情により布施先生の代わりに私が授業を――どうしたんですか皆さん?」

 

1限目の授業の先生も、この事態に目を丸くしていた。

 

――カツン カツン――

 

静まり返った教室に、チョークの音が異様に甲高く響く。

普段なら授業中にも関わらず私語で騒がしい教室が、不気味なほどに静まり返っているのだ。

布施教諭の代理で授業を受け持った先生も、その異様さに妙な緊張感を覚えた。

 

「ん?」

 

そんな中、ふと誰かの視線に気がついた明久はキョロキョロと辺りを見回す。

すると視線が合い、慌てて顔を逸らす人がいた。美波だ。

 

「…………」

 

明久が目線をノートに向けると、また視線を感じた。顔を上げてそちらを見れば、やはり視線が合うのと同時に顔を伏せる美波。

その『好きな人をふと視線で追ってしまう恋する乙女』らしさに、明久の心臓の鼓動は速くなり、ガラにもなくドギマギしてしまう。

今朝のキスシーンまでフラッシュバックしてきて、板書するどころではなくなっている。

『……では須川君。このハーバー・ボッシュ法の化学反応式において、6molのアンモニアを得るために必要な水素と窒素の物質量を答えてください』

『塩酸を吉井の目に流し込みます』

『違います。では朝倉君』

『塩酸を吉井の耳に流し込みます』

『流し込む場所が違うという意味ではありません。それでは有働君』

『濃硫酸を吉井の目と耳に流し込みます』

『『それだっ!!』』

『それだ、ではありません。それと、解答する時は吉井君ではなく先生を見て答えてください』

 

Fクラス男子が無駄口も叩かず黙っていたのは、単に明久への嫉妬と憎しみを噛みしめていたからだ。口を開けば怨嗟の声が鳴り止まない。

 

『仕方ありません。神崎君、答えてください』

『……んあ?』

『んあ、ではありません。授業中に居眠りをしないでください』

『……水素9molと窒素3mol』

『正解です。この場合――』

『――を明久の口に流し込みます』

『不正解です』

 

そんないつもと違う空気の中、1限目の終わりを告げるチャイムが鳴る。

 

「えー…………。今日はここまでにします」

 

先生も大きなため息を吐き、教室からやたら疲れた様子で退出した。

 

『吉井のやつ、島田と目と目で通じ合ってたぞ……!』

『島田は狙い目だと思っていたのに……!』

『ちくしょう……! 姫路、木下に続いて島田までヤツに持っていかれたら、このクラスの希望が……!』

『まだだ! まだリリアちゃんとアキちゃんが……!』

 

授業が終わってからも、呪詛の言葉を吐き、明久に嫉妬と殺意のこもった視線が飛び交う。

そんな中、明久の席に近づくのは、ピョコピョコと動く馬の尻尾をあつらえた少女。

 

「み、美波?」

「アキ。お、おはよ……」

「あ、うん。おはよう……」

 

まともに明久の顔を見れず、目を伏せたまま美波が挨拶をする。明久も同じように顔を背けて挨拶を返す。いつもの怒られた時の気まずさとは別の空気が2人の間を流れていく。

 

「あ、あのねアキ。お願いが2つあるんだけど、いいかな……?」

「お願い? 何かな?」 

 

今朝の事は忘れてほしいとでも言うのだろうか。明久としてもそれなら内心ありがたいお願いだが、残念ながらしばらくは脳裏に焼きついて忘れることは難しいそうだ。

 

「えっと、ひとつはアキのちゃぶ台を一緒に使わせてほしいの」

「へ? 僕のちゃぶ台を?」

「うん。ウチのちゃぶ台、この前美春と色々あって使いにくくなっちゃって……」

 

言われて美波のちゃぶ台を見てみると、確かに美波のちゃぶ台のはボロボロになっていた。天板傷だらけで足も1本折れそうになっている。これでは使いにくいことこの上ないだろう。

美春と聞いてそう言えばと思い返してみると、停学明け早々に、Dクラスの女子生徒で美波に歪んだ好意を持つ清水美春がFクラス美波に突撃してきたのを思い出した。あの時は明久も襲われて、清水は教室中で暴れまわった。なんとか秀隆たちと取り押さえて西村教諭に突き出したが、度々Fクラスを訪れてはイザコザを起こしていった。

合宿中に盗撮の真犯人として生徒指導室に連行されてから少しは反省して大人しくなったかと思ったが、まったく懲りていないようだ。

 

「アキ、ウチと一緒でもいい?」

「あ、うん。別にいいけど」

「そう。ありがとう」

 

今のFクラス(FFF団)の現状を考えたら、保身のためにも断るのが正解なのだが、元来の人の良さと女性に対する甘さから、反射的にOKしてしまった。

了承を得た美波は不安そうな顔つきから一転、パッと花が咲くように笑顔を見せた。その笑顔で、明久の鼓動がまた1段速くなる。

 

「じゃあ、す、座るわね……」

 

美波は一度唾を飲み込むと、明久の隣にちょこんと座った。

 

「…………」

「な、なによアキ。なんで黙り込むのよ」

「いや、その、別に……」

 

しどろもどろになる明久。隣に座ることは了承したが、その距離がとても近く感じる。実際、2人の距離は髪の毛が触れ合うほど近い。

その光景に、教室の不穏な空気がまた濃くなった。

 

「そ、それとねアキ。2つ目のお願いなんだけど……良かったら、その……今日お昼一緒に食べない?」

「あ、そ、そうだね。それじゃ、お昼に水飲み場で……」

 

2つ目のお願いは昼食のお誘い。昨日までなら何気ない日常の光景で済んでいたが、今日に限って言えば何かが違う。

明久も変な緊張感で思わず声が少し上擦ってしまう。

 

「ううん。そうじゃなくてね、ウチがアキの分も作ってきたから――」

 

美波が手に提げた鞄から何か包のようなものを取り出したその時、

 

「お姉さまっ! 何をしているんですか!? そんな豚野郎に密着して!?」

 

件の清水が悲鳴のような制止の声を響かせてFクラスに突撃してきた。

 

「み、美春!? ウチの邪魔をしにきたの!?」

「当然です! そこの豚野郎がお姉さまに密着している姿を見て黙っていられるはずがありません!?」

 

それができるなら今頃『盗撮犯』などという不名誉を賜ってはいない。

 

「み、密着って、仕方ないでしょ!? 代わりのちゃぶ台なんてないし、狭いんだからくっつかないとダメだし……」

 

普通なら、授業に支障がきたすほど壊れた机は学校に相談すれば交換してくれる可能はあるが、Fクラスではそれも望めない。

ちゃぶ台の天板も2人で使うには十分な大きさだが、授業を聞くためには同じ側に座る必要がある。横方向に向かいあって座るにしても、隣の席との間隔を考えるとそれも厳しい。

結果として、美波の主張するように、くっついて座るしかないのだが、

 

「お姉さま。それなら姫路さんかリリアーヌさんのことろでいいじゃないですか! どうしてその豚野郎のところにする必要があるんですか!?」

 

それに清水が反論する。しかし今回の反論は、いつもの自分勝手な理論に比べると一理ある。

一緒にの机で勉強するにしても、瑞希とリリアは同性であるため何かと話やすいし相談もしやすいだろうし、とうぜん2人とも明久と比べて成績が良いので美波の学力向上に役立つ。この2点だけでも、明久のところに行くより瑞希の所に行く方がはるかに利点がある。なにより、今のFクラスの雰囲気からして、身を護るためにも瑞希たちと一緒にいた方がいい。

 

「そ、それは……。だってほら、瑞希たちはきちんと勉強するから邪魔しちゃ悪いでしょ? その点、アキは邪魔になってもならなくてもどうせ成績はわるいんだし……」

「美波。僕、微妙に悪口を言われている気がするんだけど」

 

ちゃぶ台を貸そうというのにこの仕打ちである。しかし明久は、その美波の罵倒にどことなく安心感を覚えていた。

 

「あの、美波ちゃん。私は別に邪魔なんて思いませんからこっちに来てください。その……色々と話したいこともありますし……」

「私も、美波ちゃんさえ良ければ大丈夫ですよ」

 

そこに横から瑞希がおずおずと手を上げ、リリアもそれに同調する。もっとも、リリアは善意からだが、瑞希の方は建前で、聞きたいことがあるということの方が本音だろう。

 

「ありがとう2人とも。気持ちは嬉しいけど……。2人とも優しいから、ウチが邪魔でも我慢しちゃうでしょ」

「い、いいえっ。本当に邪魔なんて思ってないですから」

「私もです」

 

美波は2人の申し出をやんわりと断る。その少し卑屈ともいえる断り方に、リリアは不思議そうに美波を見つめ、瑞希は両手を振って否定した。

 

「そうですお姉さま! お2人もこう言っていくださってますし、席を移動して、手作りのお弁当は美春と一緒に食べましょう! お姉さまが昨日お弁当用の食材を買う姿を確認してから、美春はなにも食べずにたっぷりとお腹を空かせてきましたから!」

 

つまり昨日の夜からなにも食べていないという。明久のように極貧生活を送っているわけでもないのに、食べ盛りの女子高生が断食するのはかえって心配になってくる。

 

「でも、これはその、アキのために」

「お姉さまが朝の4時に起きてわざわざお手製のタレで漬け込んだ唐揚げとか、ちょっと奮発して買った挽肉で作ったハンバーグとか、産地にこだわって厳選したジャガイモで作ったポテトサラダとか、考えるだけで美春は、美春は……」

「待ちなさい美春! どうしてアンタがそこまで知っているの!?」

 

買い物している所を見かけたというのはまだ分かるが、朝の4時に起きてなにを作ったまで把握しているのはさすがにストーカーじみている。美波は一度警察に相談した方がよいのでは、と明久は心配になった。

 

「しかも、ご飯の所には赤いハートマークですよ!」

「美春――――っ!」

 

耳どころか首まで真っ赤にして美波が叫ぶ。よほど恥ずかしかったのだろう。普段ならここで(明久に)関節技が火を吹くところだが、それも今日は鳴りを潜めている。

 

「あのね、美春。よく聞いて。今までは我慢してきたけど、これからはそういうのを止めてほしいの。だって――」

 

顔を赤く染め上げたまま、美波が清水に向けてハッキリと告げる。

 

「――だって、ウチはアキと付き合っているんだから」

「畳返しっ!!」

 

美波の交際宣言と同時、明久は膨れ上がった殺気に、咄嗟に畳を盾にする。その畳に間髪入れず無数のカッターナイフが飛来、畳に突き刺さる。何本かは裏地まで刃が突き抜けており、その勢いと込められた想い(憎しみ)を物語る。

Fクラスの床が普通のタイルだったら、今頃明久の命はなかっただろう。

 

『『――――チッ』』

 

忌々しげな舌打が教室中かろ響く。刺さった本数からしてほぼ全員、しかも一人頭2本はカッターナイフを投げたことになる。学校に持ってくるカッターナイフなど、1本でも十分だというのに。

 

「お、お姉さま……? 付き合ってなんて、冗談、ですよね……?」

 

打ちひしがれたようによろめく清水。そもそも付き合ってうるという話など、当の明久ですらも初耳だ。

ショックで狼狽える清水に、美波は静かに首を横に振った。

 

「冗談なんかじゃないわ。本当の話」

「そ、それじゃあお姉さま。美春が幻覚だと思った今朝のき、キスも……?」

「……うん」

 

何かを思い出したか、美波は一瞬動きを止めるとコクンと小さく頷く。改めて、明久も今朝の出来事が夢ではなかったのだと実感した。

 

「だからね、美春。これからもウチの」

「……男なんか」

 

受け入れがたい事実を知った清水の肩が小刻みに揺れ出す。

 

「あくまでウチの友だちとして」

「……男なんかが存在するから」

 

清水の揺れが段々と大きくなる。

 

「美春、聞いてるの?」

「男なんかが存在するからお姉さまが惑わされるんですーっ!」

 

弾かれたように動き出す清水。その怒りの矛先は――

 

「ぼ、僕ぅ!?」

 

明久だった。清水はいつものようにどこからかナイフとフォークを取り出すと、猛烈な勢いで明久に襲いかかった。

 

「この豚野郎を始末します! そして美春が第二の吉井明久としてお姉さまと結ばれるのです!」

「ちょ、ちょっと清水さん!?  かなり錯乱してない!? 僕を始末したところで入れ替わるのは難しいと思うけど!?」

「極力身体を傷つけないように始末した後、皮を丁寧に剥いで被って吉井明久になりすまします!」

「それ凄くグロいんだけど!? 最近ホラー映画でも観たの!?」

「大丈夫です! 日本昔話でも狸さんがやっていました!」

「原典は意外と可愛かった!?」

 

清水の計画の原典はともかく、明久に襲いかかる清水の動きは尋常ではない。辛うじて避けてはいるものの、このままでは捕まるのは時間の問題だ。

助けを求めようにも、誰も明久を助けてくれる気配はない。

雄二は意地悪な顔をして事態を面白そうに見守っているし、康太は消しカスで練り消し作りに勤しんでいる(ふりをして清水のスカートを覗いている)。秀隆にいたっては、この状況でもちゃぶ台に突っ伏していびきをかいている。当然、非力な瑞希や秀吉に助けを求めることができるはずもない。

 

「男なんて、この世から居なくなってしまえばいいんですっ! お姉さまに必要なのは美春なんです!」

「待って清水さん! 君にだってお父さんはいるはずでしょう? そんな悲しいこと言わないで!」

「アレは誰よりも先に消えるべき存在です!」

 

唾棄するように吐き捨てる清水。いったい彼女の父親とどんな確執があるというのか。明久は思春期の女の子特有の『お父さんなんて大嫌い』期だと理解した。

 

「とにかく、豚野郎は消えるべきです! そしてお姉さまと結婚して、生まれてくる娘にお姉さまの『美波』から一文字とって『未来』と名付けるのです!」

「待つんだ清水さん! 男の子が生まれたらどうするんだ!」

「男なんか生まれても『波平』で十分です!」

「そんな、あんまりだよ!」

「2人とも! それ以前にウチと美春じゃ子供ができないって気づきなさい!」

 

それでも、美波の『波』の文字をとっているあたりはさすがの執念といえる。

 

「さあ、5秒あげます。神への祈りを捧げなさい」

「く……っ!」

 

ついに教室の隅に追いやられ、逃げ道を失った。宣言通りの5秒後、清水が明久に向かってナイフを振りかざす。

 

「これで――きゃっ!」

 

振りかざしたナイフを下ろそうとした時、清水が突如悲鳴を上げて手を押さえる。彼女が握っていたはずのナイフは、畳に突き刺さっていた。その横には、使い古した消しゴムが落ちている。

 

「さっきから五月蝿いと思ってみれば……。なにやってんだ清水?」

「秀隆!」

「神崎秀隆っ! また美春の邪魔を……っ!」

 

明久の窮地を救ったのは、今の今まではいびきをかいていた秀隆だった。

ムクリと起き上がった秀隆は、あくびをしながら半眼で清水を睨む。

 

「ありがとう秀隆! 助かったよ!」

「別にお前を助けたわけじゃねえよ。俺の貴重な睡眠時間を邪魔するなら容赦しないってだけだ」

「が、学校は勉強をする場所ですよ!」

「美春。アンタも人のこといえないでしょ」

 

清水が秀隆に向かって正論を吠えるが、この状況ては説得力は皆無だった。

 

「んで、なんでこうなった?」

「実は……」

 

斯々然々と明久は事の顛末をかいつまんで説明した。

 

「なるほどな。清水。ちゃぶ台に関してはお前の主張も一理あるが、これはFクラスの、明久と島田の問題だお前が口を出す筋合いはねえ」

「そうはいきません! 美春にはその豚野郎の皮を剥いでなり替わるという使命があるのです!」

「……皮モノはさすがにジャンルがニッチすぎんだろ……」

 

清水の使命、もとい野望に秀隆も顔をしかめる。

 

「とにかく、邪魔立てするならアナタとて容赦はしません!」

「上等だ。そのヘキ、合宿で痛い目みて治んねえなら今度こそ叩き潰すだけだ」

 

2人の剣幕に、 果たし合いをするガンマンの様な緊迫した雰囲気がFクラスを包む。

 

――ガラッ――

 

「死になさい!」

「オラぁ!」

「さあ授業を始めるぞ――貴様らは何をしているんだ?」

 

そこに何も知る由もない西村教諭がやってきた。

西村教諭がドアを開けたのを合図に、秀隆と清水は両者飛びかかり、空中で鍔迫り合いが始まる。その光景に、西村教諭も目を丸くした。

 

「邪魔をしないでください! 今日こそこの豚野郎との因縁に決着をつけるんです!」

「こっちの台詞だ! 2度と歯向かう気が起きないようにしてやるよ!」

「……やれやれ。2人とも武器を収めなさい」

 

西村教諭が2人の間に割って入る。その有無を言わさぬ眼光に、2人は渋々引き下がった。

 

「清水。授業が始まるから自分の教室に戻りなさい」

「今日は美春にとって大事な用があるんです! 西村先生、今だけは見逃してください!」

「その用とはなんだ? まさか『愛しのお姉さまと一緒に授業を受けたい』とでも言うんじゃないだろうな?」

 

合宿以降、清水の人となりを理解したのか、西村教諭が先手を打つ。

 

「それもありますが、今回は違います! 今日は『この教室の男子を殲滅する』という立派な目的が――」

「もう一度だけ言う。自分の教室に戻りなさい。これは警告だ。聞かないのなら、強制的に生徒指導室に連行する。もちろん、今日一日は出られないと思うように」

「く……っ!」

 

西村教諭にそう警告を言い渡されては、清水も大人しく従うしかない。

 

「……分かりました。ですが、代わりにひとつだけお願いがあります」

「一応聞いておこう」

「吉井明久の抹殺をあきらめる代わりに、お姉さまをDクラスに――」

「今後この教室への立ち入りを禁ずる」

 

言葉を言い切らぬうちに、清水は強制的に退出させられた。ピシリと無情にもドアが閉まる音が廊下に響く。

 

『お、お姉さま! まだお話が! せめてその豚野郎と席を離してお姉さまの貞操を――』

「清水。最近のお前の言動は目に余るものがある。……そんなに生活指導を受けたいか?」

 

ドンドンと乱暴にドアを叩く音が急に鳴り止んだ。

西村教諭の生活指導。明久や雄二、秀隆ですら慣れることのない地獄。一般の生徒が受けたら、少なくとも一週間は廃人と化すほどの恐怖。それは清水とて例外ではない。

 

『お姉さま……っ! ちゃぶ台だから豚野郎の近くに居るというなら、美春にも考えがありますからね……っ!』

 

呪詛の様な捨て台詞を残し、清水はDクラスへと退散した。

 

 

 

 

 

 

 




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