バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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原作第4巻、明久と美波のキス騒動その3。今回は原作でも指折りの小っ恥ずかしい(と思っている)シーンです。



第五十五問

第五十五問

 

ドアの覗き窓越しに明久を怨みがましく睨み不穏当な言葉を残すと、清水は西村教諭の警告に従い、Dクラスへと引き下がった。

 

「さあ全員席に着け。今日は遠藤先生が別件で手が離せないので俺が授業を代わりに担当することになった。ビシバシいくからそのつもりで覚悟するように。特に神崎」

「なんで俺だけ!?」

 

1限目の時もそうだが、今日は代理の教師が授業を担当するのが多い。召喚システムの件なのか、はたまたどこかのクラスの試験監督をしているのか。いずれにせよ学園側も早急な対応に追われているようだ。

そしてその結果、遠藤教諭の代理が西村教諭になってしまったことは、明久たちにとって不運でしかない。

特に名指しで警告された秀隆は悲鳴を上げた。

 

「聞いたぞ神崎。キサマ、1限目に堂々と居眠りをしていたそうだな」

「あ、あれには理由が……」

「ほう。貴重な授業時間中に居眠りをしなければいけない理由か。いったい何だと言うのだ?」

 

穏便に聞いているようで、西村教諭の額には既に血管が浮き上がっている。

 

「昨夜オンラインゲームで煽り行為をしてきた奴を朝までボコしていたら睡眠時間がなくなりました」

「授業中に一瞬でも瞼を閉じたら生活指導を受けてもらう」

「まばたきすら禁止だと!? そりゃあんまりだろ!」

「それでは、今日の授業を始める」

 

秀隆は理不尽な物言いに異を唱えるが、当然西村教諭が聞き入れるはずもなく、何ごともなかったかのように授業が開始された。

生徒たちが各々自分の席につく中、美波はちゃっかりと明久のちゃぶ台に並んで座った。

 

「今日は教科書の86ページから始める。内容は――」

 

西村教諭は黒板に教科書の内容を板書していく。明久も今更美波に席を移れとも言えず、そのまま授業を受けることにした。

 

「――"I wish I were a bird" これは仮定法過去という特殊な過去形で」

 

西村教諭が代理に来たことは不運はであるが、同時に幸運でもあった。西村教諭の授業ならば、清水もおいそれと乱入してくることはできない。少なくとも、この授業は穏便に過ごせるはずだ。

 

「――つまり直接的な和訳は『私は鳥であったことを望む』だが――」

 

だからと言って警戒は怠れない。清水があれしきのことで美波を諦めるとは思えない。なにより、明久と美波が付き合っているというのは、美波の誤解なのだから。まずはそれを解かなければ。

 

――サワッ――

 

「ひゃあっ!」

 

明久がどうしたものかと悩んでいると、突然首筋にこそばゆいものを感じ、思わず悲鳴を上げてしまった。

 

「……吉井。授業中は静かにするように」

「あ、はい……」

 

不可抗力なのに西村教諭に注意されてしまった。明久は釈然としないものを感じながらも、睨まれては敵わないので大人しく謝った。

 

「(ごめんね、アキ)」

 

明久が座るら直すと、横から美波が小声で謝ってきた。横を見ると、美波が自分の横髪を手で押さえている。どうやら不意に美波の髪が明久の首筋に触れていたようだ。

 

「(い、いや別にいいけど……)」

 

まだこそばゆい首筋に手を当てる。時々女子生徒が『中途半端な長さにしているとくすぐったくてイヤ』と言っている理由がよく理解できた。たしかに、これでは首筋が気になって授業に集中できやしない。

 

「ひゃあっ!」

 

そんなことを考えていたら、また例の感触が襲ってきた。そんなに触れるものだろかと美波の方を見ると、今度の美波は自分の髪の毛を持って楽しそうに笑っていた。

 

「(アキってば、『ひゃあっ!』って。変な声)」

 

どうやら今度のはわざとやったらしい。偶然ならばできるだけ我慢はするが、故意というなら話は別。彼我の距離は同じなのだから同じように仕返しはできる。

とは言っても、明久の髪は短いので美波の首筋までは届かない。なにか妙案はないかと思案していると、ふと筆箱の中に入れていたものを思い出した。筆箱を探ると、目当てのものを取り出す。

 

「(……アキ、なにしているの?)」

「(もちろん、仕返しの準備だよ。これで美波に同じ事をーー)」

「(…………)」

 

ーーサワッ――

 

「ひゃあっ!」

「吉井! 静かにしろ!」

「す、すみません……」

 

3度目の感覚。今度はさっきよりも大きな声で叫んでしまったので、また西村教諭に睨まれる羽目になった。

 

「(ず、ズルいぞ美波! 今度は僕の攻撃の番のはず! 邪魔はナシだよ!)」

「(そんなもの用意されたら邪魔するに決まってるでしょ!? インクが付いちゃうじゃない!)」

 

明久が反撃の手段として用意したのは筆ペン。たしかにこれなら似たような感覚を美波に味あわせることはできるが、その代わりに美波の首筋はインクまみれになってしまう。当然美波はそんなことさせまいと明久の腕を取り反撃を封じた。

 

「(くそっ! ……それなら、美波の髪を使うまでだ!)」

「(ちょ、ちょっと!)」

 

明久に髪を掴ませまいと美波は自分の髪を押さえるが、距離が近いのでそんな防御は無力に等しい。すぐに明久に束ねられた後ろ髪を掴まれてしまう。

美波の髪を掴んだまま、明久の動きが止まる。反撃がくると身構えていた美波は、急に動きを止めた明久を訝しんで覗き込んだ。

 

「(…………)」

「(あ、アキ? どうしたの?)」

「(い、いや……その……)」

 

明久が口ごもる。明久は自分の記憶と今触っているものの感覚の違いに困惑していた。

明久の知る髪の毛(といっても自分の髪だが)は、こんなにサラサラと手触りの良いものでもなければ、フワリと良い匂いも漂ってこない。おそらくはシャンプーやコンディショナーのおかげだろうが、自分のと比べても違いが大きすぎる。ましてや、触っていてこんなにドキドキすることなどありえない。見た目は自分の頭にも生えている髪の毛なのに、髪の毛じゃないような感覚。

そこまで考えて、明久はある結論を出した。

 

「(なるほど。ヅラか……)」

「(アンタなに言ってんの!?)」

 

せめてウィッグかエクステと言えという言葉を、美波は辛うじて飲み込んだ。明久がそんなオシャレなものに精通しているとは思えないし、もしそんなことを言おうものなら自分がカツラだと認めてしまうことになる。

とは言え、このまま誤解されたままでは洒落にならない。美波は頭の後ろに手を回すと、髪を束ねていたヘアゴムを抜き取った。その瞬間、束ねられていた柔らかそうな髪がふわっと宙に広がった。太陽の光を浴びたそれは、絹のように滑らかなで、銀細工のような煌びやかさを帯びていた。

 

「(コレでもキチンと手入れした自慢の髪なんだからね!? ヅラ扱いだなんて冗談じゃないわ!? ちゃんと触って確かめなさい! )」

 

美波は広がった髪を一房手に取ると、明久の方へ押しやった。しかし明久がそれを触る気配はない。

 

「(ごめん、美波。僕の誤解だったよ)」

「(? 怪しいわね? 本当にちゃんと分かったの?)」

 

一向に髪の毛に触れようとしない明久に、美波も疑わしげな視線を送る。

 

「(もちろんだよ。いくら僕でもこんな――なものを……)」

「(こんな、なに?)」

「(そ、その……こんな――綺麗なもの、を……)」

「(……え……?)」

 

いくら鈍感な明久とは言え、美波の髪が偽物でないことは触らずともすぐに理解できた。ただ素直にその事を告げられず、頬を朱に染めて言い淀んでいると――

 

『『『もう我慢ならねええええーーっ!!!』』』

 

教室中から怒号が飛び交った。

明久が慌てて顔を上げると、そこには両手にカッターナイフを握りしめ、血涙を流しながらこちらを般若のような形相で睨みつけるクラスメイトたちの姿。

 

『さっきから見てりゃあ、これ見よがしにイチャつきやがって……っ!』

『殺す。マジ殺す。絶対的に殺す。魂まで殺す』

『お姉さまのお御髪(みぐし)にふれるなんて……八つ裂きにしてもなお赦されません……!』

『出入り口を固めろ! ここで確実に殺るぞ!』

 

退路を塞ぎ、投擲の構えを取るクラスメイトたち。だが明久にも畳返しがある。

 

『全員カッターの投擲後、間髪入れずちゃぶ台を叩きつけるのです! 決してお姉さまに当たらないように注意するのですよっ!』

『『『Yes Ma' am!』』』

 

清水の統制の下、Fクラスが一丸となり明久の息の根を止めにかかる。これにはさすがの明久も万事休すかと思われた。ーー清水がなぜここに居るかに目を瞑れば。

 

「お姉さま! 早くこちらに避難してください! そんな豚野郎と一緒にいると危険です!」

 

その危険は清水たちが明久を四方から攻撃しようとしているからなのだが、当たり前のように、清水らがその事実に気づくことはない。

 

「清水さんいつの間に!? しかもどうして皆は清水さんの指示でちゃぶ台を構えているの!? もっとクラスメイトを大事にしようよ!」

「美春。まだウチのことを諦めてくれないの? こんなことをしても、お互いに傷つくだけなのに……」

「お姉さまはそこの豚野郎に騙されているだけなんです! お姉さまのことを本当に想っているのはこの美春だけ――」

 

明久たちが騒ぎ立てている中、西村教諭の持っていたチョークにピシリとヒビが入る。

 

「お前ら! 今は授業中だぞ!!」

 

ついにはしびれを切らした西村教諭の怒声が轟く。

たったの数秒前までの喧騒が嘘のように静かになった。西村教諭は一度教室中をギロリと見渡した後、目当ての生徒を睨みつける。

 

「清水。授業はどうした?」

 

西村教諭に睨まれて、清水の肩がビクリと揺れる。しかし清水はその恐怖を押しのけて口を開いた。

 

「そ、それどころではありません……! 今はお姉さまが――」

「清水」

 

必死の申し開きも、西村教諭の前では風に飛ばされる紙切れのように脆い。清水は西村教諭に低い声で名前を呼ばれただけで押し黙ってしまった。

 

「2度目の警告だ。自分の教室に戻りなさい。従わないのなら……」

 

 

そこから先は告げず、腕を組んで清水を再び睨む。このままではタダでは済まないと、誰もが一瞬で理解した。

 

「……分かりました」

 

不承不承といった(てい)で清水が教室から出ていった。教室を出る時に、明久を親の仇のように睨みつけるのも忘れない。

 

「お前たちも、こういったことは休み時間にするように」

「先生! 休み時間でもクラスメイトを惨殺するのはいけないことだと思います!」

「それでは授業に戻る。……神崎、次に寝たら分っているな?」

「イエッサー!」

 

明久の抗議が受け入れられるはずもなく、授業が再開された。渋々席に座りながら、明久は西村教諭監視下な上にあんな状況でも寝ていた秀隆に呆れと感心を覚えた。

 

「おい明久」

 

休み時間。授業が終わると同時に自分に向けて投げられたカッターナイフやちゃぶ台の雨をかいくぐり、トイレを済ませて明久が教室に戻ると、雄二に呼び止められた。

雄二の方に目をやると、雄二が難しい顔をしてこちらをうかがっている。雄二の周りには秀吉、康太、秀隆といつもの面子も揃っていた。

 

「雄二か。どうかしたの?」

「どうしたもこうしたもない」

「お前のせいで面倒なことになりそうだ」

「…………(コクリ)」

 

秀隆と雄二が本当に面倒臭そうな顔で言い、康太もそれを肯定するように頷いた。

 

「面倒なこと?」

「Dクラスが試召戦争の準備を始めたようなのじゃ」

「試召戦争? Dクラスが? 確かなの?」

「…………情報網(盗聴器)に引っかかった」

「こっちにも悟からのタレコミがあった。今はまだ補充テストの段階だそうだが、開戦も時間の問題らしい」

 

康太の情報網(盗聴器)と秀隆の友人でDクラス生徒でもある九条悟からの情報なら、Dクラスが開戦の準備をしているというのは確かな情報なのだろう。

テストの点数がそのまま戦闘力に反映される試験召喚獣を使用した戦いである試召戦争。その勝敗はクラスの設備を左右するため、文月学園で学生生活を送る上での重要な要素である。現に、明久たちは4月早々に最上位クラスであるAクラスに敗北し設備がちゃぶ台からミカン箱に格下げされた時期があった。

 

「けど、DクラスがBクラスに攻め込んでも僕らには関係ないんじゃない? どうせ僕らはまだ試召戦争を仕掛ける権利はないし」

 

試召戦争に敗北したクラスは、設備の降格とともに向こう3ヶ月間は試召戦争を仕掛けられないというペナルティを負う。

これは試召戦争の泥沼化を防ぐためのもので、いつまで経っても戦争を続けていては本来の履修計画 (カリキュラム)に支障をきたすからだ。

明久たちFクラスも、Aクラスに敗北したことでその権利を剥奪されている。

 

「お主の言う通り、Dクラスの狙いがBクラスであれば問題ないのじゃが……」

「え? 違うの? まさかAクラスとか……?」

 

Dクラスの上はC〜Aクラスであるが、Cクラスは雄二の策略でAクラスに試召戦争を挑み、あえなく敗北している。そのため、今のCクラスの設備はDクラスと同じもの。設備が同じであれば、戦争を仕掛ける意味はない。

 

「違ぇよ。それならそもそも面倒とか言わねえだろ」

「え? それじゃあ……」

「Dクラスの狙いはFクラスだ」

 

雄二が苦々しげに告げる。

 

「ええっ!? そんなまさか!」

「…………そのまかさ」

「けど、ぼくらはまだ試召戦争をする権利はないはずだよね?」

 

4月の敗北からまだ3ヶ月は経過していないので、先のペナルティによりFクラスから試召戦争を仕掛けることはできない。

 

「たしかに、俺たち()()仕掛けることはできない。けど、だからといって試召戦争に無関係というわけじゃなねえ。他クラスから試召戦争を申し込まれたら受けざるをえない」

「例えるなら、車を持っていなくても自動車事故にあう可能性がないのと一緒だ。事故の加害者にはならないが、被害者にならないとはいえない」

「嫌な例えだなあ」

 

とは言うものの、今のFクラスの現状を鑑みれば、妥当な例えだと言える。

 

「けど、なんでDクラスがFクラスを? 下位のクラスを攻める理由なんてないんじゃない?」

 

4月にFクラスが打倒Aクラスを掲げて試召戦争を仕掛けたのも、(表向きは)Aクラスの設備を手に入れるためだ。上位クラスが下位クラスに勝利しても、特に設備が現状より良くなることはないので、上位クラスから下位クラスに戦争を仕掛けるメリットはない。

 

「だから、さっき言っただろ。お前のせいで面倒なことになりそうだと」

 

しかし、今回は勝手が違った。

 

「僕せい?」

「お主には心当たりがあるじゃろう。DクラスがFクラスを攻める理由に」

 

秀吉の指摘に、明久は腕を組んで考える。ほどなく、ひとりの少女の顔が脳裏に浮かぶ。

 

「……清水さん?」

「…………正解」

 

Dクラスで試召戦争を仕掛けるほど明久との因縁があるのは、清水くらいしかいない。

 

「やってくれたな明久。お前と島田がイチャコラした腹いせに、ヒートアップした清水はDクラスを巻き込んで俺たちに八つ当たりをするつもりだ」

「べ、別にイチャついてなんか……」

「お前あんだけ見せつけておいて『違います』なんて通用すると思うか?」

「仮にお主が本当にそんな気がなかったとしても、清水はそうは思っとらんようじゃぞ」

「…………FFF団も同じ」

 

たからこそ、清水も須川たちも明久を目の敵にしていたのだ。

 

「それに清水が言っていだろ? ちゃぶ台だからナントカって」

「清水はお前と島田を引き離すために、Fクラスの設備をまたミカン箱と茣蓙にするつもりだ」

 

机をミカン箱にさえしてしまえば、たしかに相席は不可能になる。それどころか、まともに授業を受けることも困難になってしまう。

 

「け、けどDクラスだって全員が乗り気なわけじゃないでしょ? いくら清水さんでも、そんな目的でDクラス全員をまとめ上げるのは無理なんじゃない? Dクラスの代表だって反対するだろうし」

 

Dクラスの代表の平賀は(文月学園では)比較的良識を持った生徒だ。設備の向上ではなく、一個人の報復で試召戦争を起こそうとすれば反対するはずだ。

 

「そこで今の状況が問題になる。結果的に失敗に終わったとは言え、俺たちは例の集団覗き事件の主犯だ。当然女子生徒のほとんどは俺たちに良い感情を持っていない。むしろ自分たちの手で制裁を下したいと考えていてもおかしくはない」

 

合宿、停学明けで秀隆たちが各クラスに謝罪して回ったとは言え、それだけで手打にしてやろうという、心優しい生徒ばかりではない。Fクラスへの不満を燻らせている生徒も少なくははい。

 

「加えてDクラス代表の平賀も集団覗きに参加しちまった。おかげで男子生徒の発言力は合宿前より落ちこんでいる」

「つまり、怒りに燃える女子生徒と嫉妬に燃える清水を抑えきれんというわけじゃ」

 

覗きには2年生の男子全員が参加した。ほとんど騙されたようなものだったとは言え、覗きに加担した事実は消えない。このことも、清水ら開戦派を勢いづける要因のひとつだ。

 

「雄二、攻め込まれたら勝てる見込みはあるの?」

「難しいな。ウチのクラスは朝からの騒ぎのせいで、点数の補充ができていない。まともな戦力は姫路たち女子3人だけだ」

「俺も点数はあるにはあるが高橋先生との戦いで結構消耗しちまった。タイマンならなんとかなるが、囲まれると正直厳しい」

 

秀隆の召喚獣は銃弾に点数を消費するため点数がない今は集団戦、長期戦で不利になる。持ち前の操作技術にも限界はある。

他の男子生徒も点数はほとんどないはずだが、Dクラスは既に補充テストを受け始めているので、開戦するころにはある程度の回復はしているはずだ。

 

「いくら姫路がAクラス相当の実力の持ち主とはいえ、姫路だけでDクラスを相手取るのは不可能じゃな」

 

仮に瑞希が10人分の働きをしたとしても、Dクラス女子は20人以上。倍近くの戦力差はどうしようもない。強力な『熱線』の腕輪も乱発できるものではなし、そもそもテストの点数が400点を超えていないと使えない。

 

「ってなわけで、今回の試召戦争は回避する方が賢明だな。Dクラスの設備を奪ってもメリットもないし。せっかく貸しのあるクラスを敵に回す必要もない」

「え? 回避できるの?」

 

今回の試召戦争はあくまで清水の私怨から始まったものだ。清水の溜飲さえ下げることができれば戦争を回避することは可能だ。

 

「ああ。お前と島田次第だが……」

 

そう言って雄二はキョロキョロと辺りを見渡す。

 

「誰か探してるの?」

「島田だよ。近くにいないかと思ったが」

「島田ならさっき姫路と出ていったぞ」

 

秀隆が親指で教室の出入り口を指す。

 

「そういえば、さっきトイレから戻ってくる時にすれ違ったよ」

「本当か?」

「うん。2人ともすごく真剣な顔してたから、何か悩みでもあるのかな?」

 

明久が心配そうに思い出していた。

 

「……修羅場か」

「……修羅場だな」

「……修羅場じゃな」

「…………修羅場」

「え? あの2人喧嘩でもしてるの?」

 

その原因が自分にあるとは毛先ほども思っていない明久は、本当に不思議そうな顔をして、他の4人を盛大に呆れさせた。

 

「……まあ、いい。それより明久。ひとつ確認したいことがある」

「ん? なに?」

「本当にお前と島田は付き合っているのか?」

 

雄二の言葉が明久に突き刺さる。

朝からの騒ぎで有耶無耶になったいたが、事の起こりの根幹はそこにある。

 

「僕の記憶だと、付き合ってはない、と思う……」

「付き合ってない? あれだけやっておいてか?」

 

秀隆が少し非難めいた台詞を吐くのも無理はない。朝からの美波の明久に対する態度は、付き合いたての恋人そのものだ。

 

「しかし、島田はそうは思っとらんようじゃが?」

「うん。たぶんそれは僕が合宿中に送ったメールが原因で――」

 

明久は合宿中に美波に誤って送ってしまったメールについて説明した。

 

「なるほどのう。明久も明久じゃが……雄二、お主もなんというタイミングでやらかしたもんじゃな」

「…………秀隆も同罪」

「う……。まあ、たしかに悪かった。すまん明久」

「まさかそんな内容だったとは。すまなかった」

「まったくだよ。2人とも腹を切って詫びるべきだ」

 

今回ばかりは雄二も秀隆も明久に向かって素直に謝った。

 

「しかし、根本的な原因は明久の確認不足じゃな」

「うっ。たしかに……」

 

雄二も秀隆も、責任はその後のフォローができなかった(しなかった)と言うだけで、直接的な原因は明久のメールだ。全責任を2人に押し付けるのは、それこそお門違いだ。合宿中にもその後にも、いくらでも弁明の機会はあったのだから。

 

「だが誤解というなら話は早い」

「そうだな。島田と清水に事実を話して納得してもらえれば、戦争をする理由もなくなるな」

 

Dクラスの女子生徒に多少不満は残るかもしれないが、開戦に息巻いている核を失えば、自ずと開戦ムードも霧散するはずだ。

 

「とりあえず、まずは島田を探すか」

 

なんにせよ、まずは美波の誤解を解かなければならない。

瑞希と教室を出たというから学園のどこかにはいるはずだ、と雄二たちが思案していると、教室のドアが勢いよく開かれた。

 

 

 

 

 

 




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