バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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原作第4巻。明久と美波のキス騒動その4。ついに明久が美波に告白の真実を打ち明けます。


第五十六問

第五十二問

 

雄二が解決策を提示しようとした時、教室の扉が勢いよく開かれて、誰かが明久たちの方へ駆けてきた。

 

「あ、あの、明久君っ! 聞きたいことがあります!」

 

息を切らせながらやってきたのは、瑞希だった。普段はおっとりとしている彼女には珍しい剣幕で迫られ、明久も驚きを隠せない。

 

「え? な、なに?」

「そ、その……。み、美波ちゃんに告白したって、本当……ですか……?」

 

徐々に尻すぼみになっていく瑞希の台詞。しかし、彼女の言わんとしていることは、明久にもきちんと理解できた。

 

「その……それなんだけど……」

「姫路。そのことなら島田も一緒の方がいいだろう。島田がどこにいるか分かるか?」

「美波ちゃんなら、さっきまで一緒に屋上に居ましたけど……」

「ならまだ屋上にいるかもな」

「そうだな。とっとと見つけて話をつけよう」

 

疑問符を浮かべる瑞希を尻目に、秀隆と雄二は移動を始めた。康太もそれに続く。

 

「ごめんね姫路さん。往復させることになっちゃって」

「あ、いえ。私は全然構いませんので」

「ワシらも移動するとしよう。明久が遅れては話もできんからの」

 

雄二たちを追いかけるようにして、明久たちも教室を出た。

 

「ムッツリーニ。屋上に『ヤツ』の盗聴器があるか確認できるか?」

 

屋上に続く階段の下で、雄二が康太に話かけていた。ヤツというのは、おそらく清水のことだろう。

 

「…………たぶん、ある。Fクラスにも仕掛けてあった」

 

授業中に良いタイミングでFクラスに押しかけてきたのも、盗聴器で様子を探っていたからだった。清水の言動からして、かなり前から仕掛けてあったに違いない。

 

「油断も隙もねえな。Fクラスのはどうした?」

「…………さっきの授業中に外しておいた」

「そうか。ならさっきの会話は清水には聞かれてないってことだな」

「…………(コクン)」

 

だとすれば、清水には明久のメールが誤解であったと知らないはずだ。ならば、別の方法で誤解だと伝える必要があるが、屋上の盗聴器を介すると録音されてしまう可能性がある。

 

「あのさ、ムッツリーニ。屋上にも盗聴器があったら、外すか少しの間だけ使えないようにしてもらえないかな?」

「…………分った」

 

康太が明久のお願いを承諾したところで、屋上へ続く扉の前に着いた。

扉を開けると、抜けるような青空が広がり、その空の下で美波がひとり佇んでいた。

 

「あ、瑞希――アンタたちも? 皆揃ってどうしたのよ?」

 

美波が驚いた顔をみせる。瑞希が戻って来たかと思えば、いつもの面子が雁首揃えてやってきたのだからそれはそうだろう。

 

「ムッツリーニ」

「…………(コクリ)」

 

雄二の指示で、康太が鋭い目つきで手に小さな機械を持って屋上を静かに、素早く走り回る。

 

「…………オーケー」

 

ものの1分も経たない内に作業を終えた康太。これで盗聴と録音の心配もなく、心置きなく話ができる。

 

「どうしたの、アキ?」

「あ、えっと……」

 

美波の視線を受けて、明久が露骨に動揺した。おそらく、真実を伝えた後の自分の姿を想像して慄いているのだろう。

 

「神よ、ご加護を……」

「? なにしてるの、アキ?」

「うん。まあ、ちょっとしたおまじないだよ」

 

命だけは助かりますように、と明久は胸の前で十字を切り神に祈りを捧げた。覚悟を極めると、明久は美波に向けて口を開く。

 

「美波。実は話しておきたいことがあるんだ」

「あ、うん。なに?」

「強化合宿の時に送ったメールなんだけど……」

「め、メールって、あのメールのこと?」

 

美波が()()()と聞いて頬を赤く染めた。おそらくメールの内容を思い出して、ついに明久の口から聞けると思ったのだろう。いよいよという緊張感と、皆の前で言わなくてもという恥ずかしさで、手を後ろに回してモジモジさせる。

 

「うん。あのメールなんだけど、実は」

「実は?」

その期待は、無残にも砕かれることになる。

 

「実は――誤解なんだ」

 

ほかならぬ明久の手によって。

 

「…………え?」

 

美波が顔を赤くしたたま固まる。きちんと告白されると思ったら、なかったことにされたのだ。美波の胸の内にはジェットコースターのように感情が渦巻いていた。

 

「誤解というか、送り先を間違えたって言った方が正しいかな」

 

明久はメールは悪戯ではなく、ただの確認不足だと正直に伝える。自分の命のためにも。

 

「だ、誰と間違えたの?」

 

固まったまま美波が聞いてくる。あのメールが誤送だと言うのなら、いったい本当の送り先は誰だったのか。

 

「須川君、かな」

「「えええっ!?」」

 

真実を聞いて、美波だけでなく瑞希も大いに驚いていた。

 

「じゃ、じゃあアキは、ウチじゃなくて須川に告白したつもりだったの!?」

「そ、そんな! なんだかんだ言っても明久君は女の子が好きなんだって想っていたのに、やっぱり男の子を、しかも坂本君でも神崎君でも木下君でも久保君でもなくて、須川君が好きだなんて……!」

 

事実を公表したつもりが、あらぬ疑いをかけられることになってしまった。

 

「待てお前ら。秀吉と久保はまだしもなんで俺がそのラインナップに入ってんだよ!?」

「まったくだ。秀吉と久保はともかく、俺をその中に入れるんじゃねえ!」

「お主ら、ワシはともかくとはどういう了見なのじゃ?」

 

珍しく秀吉の笑顔が怖い。

 

「いや、そうじゃなくてね? 須川君から『お前は本当に女子に興味があるのか? 坂本や神崎や木下の方がいいんじゃないか?』っていう感じのメールがあったから、それに返事をしてたら宛先を間違えて美波にしちゃってて」

「よし。あとで須川はシメる」

 

明久は丁度美波に返信するタイミングで須川からのメールも来たので、その返事を誤って美波に送ったと説明した。美波への告白紛いのメールは、不幸なタイミングが重なった結果だった。

 

「で、でも、メールは告白としか思えない文章だったし――」

 

美波がポケットから携帯電話を取り出して操作して、明久からのメールを確認した。

 

「え? あれ? なんだか今見ると、このメール、告白にしては少しおかしいようなんだけど……」

「そもそも告白として送ってないみたいだからな」

「私も見て良いですか?」

 

瑞希が瑞希の携帯電話を覗き込む。 

 

「えっと……このメールの頭についている鍵マークはなんですか?」

「そ、それはただの飾りだから今は関係ないの!」

 

どうやらガッツリ鍵付きにして保存しているようだ。

 

「明久、なんて送ったか憶えているか?」

「え? 細かいところまでは憶えてないけど……」

 

携帯電話はあの後雄二に壊されたから記録として残ってないし、そもそも合宿からかれこれ2週間近くたっている。明久の記憶力では思い出すのは難しい。

 

「アキからメールには『もちろん好きだからに決まってるじゃないか! 雄二たちなんかよりもずっと!』って書いてあるわ」

「ふむ。告白にしては妙な文章じゃとは思わんかったのか?」

「受けた時はそこまで気が回らなかったけど……。けど、冷静になって見直すと、ちょっと変かもしれないわね……」

「それに最初から気づいていれば話は速かったんだがな」

 

その前に美波が明久になんと言ってメールを送ったかは分からないが、その返信だとしてもその内容で告白と捉えるのはいささか無理がある。

 

「あー。今合点がいった。合宿でお前が明久に夜這いしかけたのはそのせいか」

「え!? 美波ちゃん、明久君に夜這いをしたんですか!?」

「え? あ、あの時は告白されたと思って……。居ても立ってもいられなくて、つい……」

 

瑞希がショックを受けたかのように手で口を覆った。

美波がそんな大胆な、ともすれば破廉恥な行動をするとは思ってもみなかったのだろう。このままでは2人の友情にヒビがはいってしまう。なんとかフォローしなければと明久が口を開き、

 

「ずるいですよ、美波ちゃん! どうして私も誘ってくれなかったんですか!?」

 

そっと口を閉じた。

 

「だ、だって……あの時瑞希は気持ちよさそうに寝てたし。ほら、夜更かしはお肌の天敵だっていうじゃない?」

「それくらいは我慢します! それに、私だって明久君に坂本君や神崎君より好きってだ言われたことないのに!」

「待つんだ姫路さん! それだと僕が雄二と秀隆が好きなことが決定事項みたいじゃないか!」

「あ、明久……。俺はどんな返事をしたらいいんだ……?」

「普通に嫌がれ!」

「明久。今後俺の半径10キロメートル以内に入るな」

「それは嫌がり過ぎじゃない!?」

 

明久のリアクションに雄二はガハハと笑い、秀隆も口角をニヤリと上げる。明久の不幸を面白がっているようだ。

 

「まあとにかく、そんなわけでアレは間違いメールだったんだよ」

「そっか。誤解だったのね。ウチもちょっとおかしいな、とは思ってたんだけど、納得がいったわ」

「あはは。美波はそそっかしいなあ」

「もうっ。送り先を間違えるアキには言われたくないわよ」

 

明久と美波は2人でわっはっは、とひとしきり笑い合った後、

 

「どうしてくれんのよー!? ウチのファーストキスーっ!?」

 

美波がすごい勢いで明久の胸倉を掴んだ。

 

「ごごごごめんなさいっ! 僕も悪気はなかったんです!」

「ごめんで済む問題じゃないでしょ!?」

たしかに、乙女の貴重なファーストキスを誤解で奪っておいて、謝って済まされる問題ではない。明久は自分の保身のため、なんとか考えをめぐらす。

 

「そ、その美波」

「なによ!?」

「えっと――僕も初めてだったから、おあいこってことじゃ、だめかな?」

「ダメに決まってんだろ」

 

明久の的外れな提案に、雄二も呆れながらツッコミを入れる。

 

「え……? そ、そうなんだ……。それは、その……えっと……ご、ご馳走さま……?」

「おい! それでいいのか島田!」

「しかもお前が食った側かよ。いや島田からキスしたから間違いじゃないのか?」

 

明久提案にこれまた場違いな返事をする美波。なんだかん似た者同士だ。ここで、明久にひとつ疑問がわいた

 

「あのさ、美波。怒らないで答えて欲しいんだけど」

「え? なに?」

「僕と美波が付き合っているって話なんだけど、あれってもしかして、美波が僕のことを……その……す――」

「あ、あれはねっ! ほら、美春があまりにもしつこくから、彼氏でもいたら諦めてくれるかと想って、そしたらアキがタイミングよく告白してきたものだから……」

 

明久の言葉を遮り、手と口を忙しなく動かす美波。その慌てふためいて言い訳をする美波の様子に、明久以外の全員が生暖かい視線を送る。

 

「なんだ。そういうことか」

 

納得して手を叩く明久。少し悔しい気がしたのは気のせいだろうか。

 

「島田。お前それ言い訳になってると思ってんのか?」

「ひとり以外にはバレバレだぞ?」

「そうじゃな。まあ、告白が誤解などと言われたのじゃから、誤魔化したくなるの気持ちも分からんではないが」

「…………素直じゃない」

「べ、別に言い訳とかじゃなくてホントに……っ! 誰がこんなバカと!」

 

他の連中がニヤケ顔で美波を弄る中、明久だけがキョトンとしている。恋する乙女の複雑な心境を理解することは、明久にはまだ難しいようだ。

 

「まったく……。それならそうと先に言ってよ。それくらいだったらいくらでも強力するのに」

「え? それって――」

「美波が僕のこと好きなんじゃないかって思っちゃったじゃないか。美波は嫌だろうけど、恋人の()()くらいはしてあげるよ?」

「う……」

 

曇りなき眼で美波を見つめる明久。明久の言葉にまったくの他意はなく、美波の言い訳を本心ととらえていた。

 

「まあ、そもそも美波が僕を好きになるとは思えないし。それに――」

「そ、それに、なによ?」

「それに、美波があんなにしおらしいなんておかしいもんね」

「……そうね。まったく、本当に、アンタの言う通りね!」

「み、美波!? なんか僕の関節が嫌な音を立てているように聞こえるんだけど!?」

 

いつものように余計な一言を言って、明久が美波に関節技を極められた。いつもと違うのは、身から出た錆とは言え、美波の目頭が熱くなっていることくらいだ。

 

「とにかく、誤解は解けたようじゃの。後はこの話を清水に伝えれば、問題は万事解決というわけじゃな」

「ああ。清水も納得するだろう」

「……話はうまく伝えておく」

 

これでどうにか、問題は解決できそうだ。

 

「え? 瑞希、どういうこと?」

「実は私もよく知らなくて……。なにかあったんですか?」

「ああ。実はな――」

 

雄二が2人にDクラスが試召戦争の準備を始めようとしていること。その中心に清水がいることを説明した。

 

「そんなことが……。皆ごめんね。美春が迷惑かけて」

「別に美波が謝ることじゃないよ」

「そうだな。根本的な原因を作ったのは明久だしな」

「うぐ……」

「まあ、その根本の根本を作ったのは清水だがな」

 

そもそも明久たちが集団覗きを決行したのも、清水が明久たちを脅迫し、女子風呂に小型カメラを仕掛け、あまつさえ明久たちをその犯人に仕立て上げようとしたからだ。

清水の野望は打ち砕かれたわけだが、その余波がここまで来てしまっていた。

 

「ぶっちゃけて言うと、一番手っ取り早いのは島田が清水と縁を切ることだ」

「それは……」

「それはダメだって言ったじゃないか」

 

秀隆の言葉に、美波は口ごもる。明久もそれをフォローするように秀隆を咎めた。

 

「わーってるよ。まあ、お優しい吉井君と島田さんがそんなことできるはずもないか」

 

棘のある言い方に、明久と美波もムッとした表情をする。瑞希ですら、少し嫌な顔をした。

 

「よせ、秀隆。それに今はそれは悪手だ」

「どういうことじゃ?」

 

秀隆の案を、雄二は逆効果だと一蹴した。

 

「考えてもみろ。清水が試召戦争を仕掛けようとしたのは、明久と島田が付き合ってると勘違いしたからだろ。そんな状況で島田が清水と縁を切ろうなんて言ってみろ。ますます逆上した清水は、死なば諸共、玉砕覚悟で突撃してくるに決まってる」

「…………下手をすればリアルファイト」

 

試召戦争のルールでは、召喚者への直接攻撃は禁止されているが、怒り狂った清水にはそのルールは意味をなさないだろう。

 

「そうなりゃ儲けもんだ。今度こそヤツをぶん殴れる」

「だからダメだってば」

 

合宿最終日、優子を護るためとはいえ、秀隆が清水を蹴り飛ばしたことを明久はまだ認めていない。

 

「そうだぞ。お前のは過剰防衛だ」

 

珍しく、雄二が明久に賛同した。

 

「なんじゃ。明久とお主の意見が合うとは珍しいの」

「別に明久みたいに清水を心配したわけじゃねえ。下手に警察沙汰にでもなって、秀隆が退学でもたら貴重な戦力が減って困るだろ。それだけだ」

「そこは嘘でも友情って言いなさいよ……」

 

雄二の忖度ない現実的な考えに、美波も呆れ顔だ。

 

「しかし、本当にお主は清水を毛嫌いしておるようじゃな」

「…………容赦がない」

「神崎君は、そんなに同性愛者が嫌いなんですか?」

 

親の仇のように清水に敵愾心を燃やす秀隆に、瑞希は疑問を投げかけた。

 

「合宿の時も言ったけどな、同性愛自体に偏見がないわけじゃねえが興味もねえ。もし清水が島田を巡って明久とただの恋敵っつう関係だったなら、俺は普通に傍観するだけだ」

「ちょっと、気味が悪いこと言わないでよ」

 

美波が両手を抱いて身震いする。それを聞いて、明久は少ししょんぼりした。自分は美波からそこまで嫌われていたのかと、見当違いなことを考えていた。

 

「それが盗聴するわ盗撮するわ嫌がる島田に無理やり迫るわ。まんまストーカで笑う気も起きねえ。傍から見て不快なヤツを野放しにしておくほど、俺は優しくねえからな」

「まあ、お前はそうだな」

 

如月ハイランドでチンピラカップルにわざわざ喧嘩をふっかけたことからもその性格がよく分かる。

 

「とにかく、今回は清水の誤解を解けば戦争は回避できるんだ。ろくに点数のない今の戦力で勢い任せに突っ込まれたら勝ち目はねえ」

「そうじゃな。下手に敗北すれば、また茣蓙とミカン箱に逆戻りじゃしな」

「…………それは避けたい」

「つうわけで、今回は清水を説得して穏便に済ます。文句はねえな」

「へいへい」

 

雄二は最後に秀隆に釘を刺すように睨みつけた。秀隆も不承不承といった体で賛成した。

その後、清水の誤解も無事解け、Dクラスも試召戦争の準備を取り止めた。授業も瑞希と相席になり、清水の怒りも収まった。

その代わり、入れ変わるようにして別の人物が明久に怒りの矛先を向けることとなった。

 

「瑞希、お昼にしない?」

 

昼休みのチャイムが鳴るや否や、美波が瑞希に話しかけた。

 

「あ、美波」

 

教室を出ていこうとする2人を、明久が呼び止める。

 

「なによ、アキ。ウチになにか用?」

「えっとさ、今朝言ってたお弁当のことなんだけど……」

 

言ってるそばから美波の片眉がピクリと動く。

 

「なぁに、アキ? ウチにあそこまで恥をかかせておいて、今度はお弁当までたかろうって言うの?」

「ごめんなさい。心の底からごめんなさい」

 

言葉の端々に殺意を込める美波。そんな美波を前に、明久はただ平服して平謝りすることしかできない。あんなことがあった上での弁当の要求はさすがに無理がある。

 

「まったく。アキは本当に無神経なんだから……。瑞希、今日は天気が良いし、リリアも誘ってこんなバカの居ない気持ちの良いところで食べましょ」

「あ、美波ちゃん待ってください」

 

ズンズンと移動する美波の後を、瑞希も明久に一礼した後でパタパタと追いかけた。結局、明久は昼食のアテをなくしてしまった。

 

「なんだ明久。島田が作ってくれた弁当はもらえなかったのか」

 

そこにいつものように雄二が弁当を持ってやってきた。その後ろには秀隆と秀吉の姿もあった。

 

「うん。美波のご機嫌が斜めでもらえなかった。すごく期待したのに……」

「気持ちは分かるが、あの状況でよくもらると思ったな」

「それに、この状況で弁当なぞを渡したら、また清水が乗り込んでくるかもしれんからな。諦めることじゃ」

「それはそうなんだけどね……」

 

明久のテンションが見るからに下がっていく。美波は料理上手だし、今朝の清水の情報からも、今日の弁当はかなり気合いが入っていたはずだ。さぞ美味しいに違いなかっただろうと、明久は今更ながらに真実を打ち明けたことを後悔した。その場合、Dクラスと開戦していたわけだが。

 

「仕方ねえな。俺の弁当のおかずを分けてやるよ」

「本当!」

 

秀隆の申し出に、明久が身を乗り出す。

 

「おいおい。随分と優しいじゃないか」

「一応明久が弁明できなかったのは俺の責任もあるからな。せめてもの罪滅ぼしだよ」

「ふむ。なら俺も少し分けてやるか。明久に貸しを残したままなのも気持ちが悪いしな」

 

雄二も秀隆の提案に乗ることにした。

 

「ありがとう2人とも! 持つべきは友だちだね!」

「気色悪いことを言うな。――ほらよ」

「こっちもできだぞ」

「やったーっ!」

 

2人が弁当箱の蓋に取り分けたおかずに、明久は手放しで喜んだ。

 

秀隆:米粒1つ、ひじき1本、鮭の小骨1本、卵焼き1欠け

雄二:米粒1つ、胡麻1粒、刻み海苔1枚、レタス1欠片

 

「ちゃんと米も用意してやったからな」

「期待した僕がバカだったよちくしょーっ!」

「それでも食べはするんじゃな」

 

当然、普通に分け与えられるはずもく。文句を叫つつも分け与えられた分を食べる明久は、自分の(さが)を呪った。

 

 

 

 

 

 




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