バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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原作第4巻。今回は明久と美波の熱演(?)回その1です。


第五十八問

第五十八問

 

「それで、ウチにどうしろって言うのよ?」

 

教室に戻ってきた女性陣に雄二が事情を説明すると、美波は半眼で明久を睨みつけてきた。腹の虫はまだ治まっていないようだ。珍しく腹を立てている美波に、リリアも目を白黒させている。

 

「明久と付き合っている演技をしてもらいたい。それも、周りで見ているヤツがムカついて血管が切れるくらいベタベタな感じでな」

「絶対にイヤっ!」

 

断固たる拒否。今朝あんなことがあったばかりなのに、今度は付き合っているフリをしろというのは虫が良すぎる。しかも美波のためにではなく、Fクラスの保身のためにだと言うのだ。美波からしたら質の悪い冗談にしか聞こえない。

 

「そこを曲げて協力してほしいのじゃ」

「できれば島田だけじゃなくて姫路にもな」

「え? わ、私もですか?」

「うむ。島田と明久の演技だけでは現実味に欠けるからの。お主には2人の間柄を妬む役をしてほしいのじゃ」

「明久君と美波ちゃんの仲を妬む役、ですか……」

 

秀吉からの依頼を反芻する瑞希。明久と美波、瑞希の関係を知っているものからすれば、瑞希は適役だと思えるだろう。もっとも、その肝心の渦中にいる明久が、2人の気持ちに気がついていないことが問題だが。

 

「ウチはなんと言われてもイヤ。こんなバカと恋人同士なんて、冗談じゃないもの」

 

取り付く島もないとは正にこの事。そっぽを向いて完全に拒絶する姿勢だ。

 

「島田よ。冷静になって考えてほしいのじゃ。たしかに色々と思うことはあるじゃろうが、このまま意固地になったままでいると、後々後悔する時が来るやもしれんぞ? そうなったら、一生お主は後ろめたさを背負うことになるはずすざゃ」

 

秀吉の悲壮感を孕んだ訴えに、その場のほぼ全員が訝しがった。

 

「それにな島田。これはFクラスだけじゃなくて、お前の保身のためでもある」

「……どういう意味よ?」

 

明久と恋人のフリをして、いったい何から身を守れるというのか。

 

「分かんねえのか? 清水だよ。清水」

「なんで美春が出てくるのよ?」

「考えてもみろ。もしこのままBクラスに負けて茣蓙とミカン箱の教室になったら、元々病弱な姫路でなくても、体調を崩して休むヤツが続出する」

「そうですね。私は耐えられないかもしれません」

「私も少し不安です」

 

瑞希とリリアが不安そうな顔をする。ただでさえ空調のくの字もない旧校舎の中でもボロボロの教室なのだ。夏の熱中症に冬の風邪やインフルエンザ。体調不良になる理由は探すまでもない。

 

「島田は比較的身体が丈夫な方かもしれんが、それでもあの教室で風邪を引かない自信はないだろ?」

「そりゃぁ、まぁ……」

「んで、今朝のアレだ。清水はお前と明久が付き合っているのは勘違いだと分かった。分かったからこそ、アイツはまだ自分にもチャンスがあると踏んでいるはずだ」

「回りくどいわね。ハッキリいいなさいよ」

 

まどろっこしい言い方をする秀隆に、美波を苛立ちをつのらせる。

 

「だから、そんな状況で風邪でも引いてみろ。清水は看病と称してお前の家に上がり込むぞ。その上、ナニをしでかすか――」

「坂本。ウチはなにをすればいいの?」

 

熱い掌返し。さっきまでのつっけんどんとした態度が嘘だったかのように美波は雄二に迫る。美波にとって、清水に家に入られることは死活問題なのだ。

 

「あのさ、美波の恋人役だけど、別に僕でなくても良くない?」

 

明久が突然そんな提案をした。美波が嫌がっているというのもあるが、清水の嫉妬心を煽るために美波に恋人がいれば良いので、相手が自分である必要はないと判断したのだろう。

 

「え? それって、他の誰かが美波ちゃんの恋人役になるってことですよね? それは良い考えかもしれませんけど……誰がやるんですか?」

 

明久が恋人役を降りるというのなら、代役が必要だ。

 

「誰って、例えば雄二とか」

「ほほう。お前は俺に死ねと言うのか」

「それじゃあ、ムッツリーニは?」

「…………盗聴器の操作がある」

「じゃあ、秀隆」

「俺にそんな演技ができるわけないだろう」

「う〜ん……他には、須川君とか」

「明久よ。ワシの名前が飛ばされた気がするのじゃが、他意はないのじゃろう?」

 

秀吉だと女の子同士になるから成立しない、と明久が思っているのは秘密だ。

 

「というか、代役は無理だ。今朝あんなことを公衆の面前でやっておいて、他に恋人がいるだなんて誰が信じるんだ? 島田と明久にしかできないことなんだよ」

 

他に恋人がいるのに、人目を憚らずキスをしていたらそれはそれで大問題だ。

 

「今朝なにかあったんですか?」

 

今朝の一件を知らないリリアが首を傾げた。

 

「島田が明久にキスをした。以上」

「わぁ……」

「ちょっと! 勘違いするようなこと言わないでよ!」

「勘違いしたのは島田だけどな」

 

改めて説明すると、なんとも奇天烈な出来事だった。

 

「あ、あの、美波ちゃん、明久君。気が乗らないかもしれませんけど、よろしくお願いします!」

 

意を決したように、瑞希が美波と明久に向けて頭を下げた。さっきまで迷っていたようだかま、急に瑞希に懇願されて明久も美波も困惑を隠せない。

 

「すごく個人的なお願いなんですけど、たぶんまた教室の設備が悪くなったら、今度こそ転校させられてしまう気がするんです」

 

清涼祭前も、瑞希にとってFクラスの環境がよくないとされて父親に転校させられそうになっていた。あの時は試験召喚大会で結果を残せたから許されたが、また同じ環境に戻ろうものなら、転校させられてもおかしくはない。

 

「私、やっぱり転校なんてしたくないんです。だから、協力してください!」

「え、いや、僕はもちろん協力するけど……」

 

明久が横目でチラリと美波を見やる。美波は腕を組んで逡巡した後、「も〜っ!」と頭を乱暴に掻きむしった。

 

「分かったわよ! とりあえず形だけでもやれば良いんでしょ! けど、演技の内容次第じゃ、どうするか知らないからね!」

「明久君、美波ちゃん……ありがとうございます!」

 

美波の返事を聞いて、瑞希がもう一度深く頭を下げた。

 

「ま、まぁあくまでも私の貞操を守るためだし……。瑞希のためだけじゃないから、そこまで気にしなくても……」

「ふふ。美波ちゃん、素直じゃないですね」

「リリアっ!」

 

そっぽを向いて照れ隠しする美波をリリアがからかった。

ともあれ、これでなんとか役者は揃った。

 

「そうと決まれば、早速演技開始じゃな。3人とも、これを受け取るのじゃ」

 

そう言うと、秀吉は明久たちにステープラーでとめられた冊子のようなものを手渡した。

明久が開いて中を見ると、手書きで名前とその下に台詞のようなものが書き込まれている。

 

「これって台本? もう書き終えたの? いつの間に?」

「ほとんどはワシの持っていた台本の引用じゃがな」

「それでも凄いですよ」

 

たった数ページとはいえ、きちんと台本の形に仕上げてくるあたり、やはり秀吉の演技へのこだわりは強い。

 

「凄えな。ほんとよくここまで書けたな」

「ああ。正直支持を出した俺もA4用紙1枚ぐらいを想像していたぞ」

「いくら清水を欺くためとはいえ、演技には手を抜かんて」

 

明久たちに誇らしげに褒められて胸を張る秀吉。さすがは演劇部のホープといったところか。

 

「お前らはそれを持って屋上で演技開始だ。ムッツリーニ、清水の盗聴器はどうなってる?」

「…………さっきは接触不良を装っただけだから、今はまた動くようにしてある」

「そうか。だとしたら、演技以外の会話は一切しないようにするんだ。清水にバレたら、元も子もないからな」

「ちょっと待ってよ。まだ台本を覚えるどころかほとんど目を通してもいないのに」

「…………大丈夫。屋上のカメラには死角がある。台本を読みながらの演技でいい」

 

康太は紙を取り出すと、簡単な屋上の見取り図を描いてそこにカメラの死角になる位置に丸印を付け加えていった。

 

「そうですか。読みながらでいいのなら、なんとかなりそうですね、美波ちゃん」

「そうね。それは助かるけど、でもせめて内容を確認させてくれない? 変なシーンがあるかどうか気になるもの。その……キスシーンとか……」

 

キスシーンと言われて、今朝唇に感じた柔らかい感触が蘇ってしまい、2人してまた耳まで赤くなった。

 

「安心せい。そのようなシーンは入れてらん。まあ、たとえ入れたとしても、カメラの死角におるのじゃから音だけで事は足りるしの。それよりも、時間がないから急ぐのじゃ」

 

明久たちが言い訳をする暇も与えず、秀吉は明久たちの背中を押してきょうしつから追い出した。

 

「さて……ムッツリーニ」

「…………分かってる」

 

康太は雄二の指示でカバンから小型の機械を取り出した。

 

「それはなんですか?」

「…………ただのスピーカー」

 

ただし聞こえてくるのは屋上に仕掛けた康太の盗聴器の音声である。

康太がメモリをいじって周波数を合わせると、雑音が響いた後、明久と美波の会話が聞こえてきた。

 

『……ねえ、アキ』

『ん? なに、美波?』

「どうやら始まったようだな」

屋上では、明久と美波の一世一代の大芝居が打たれていた。

 

『今更なんだけど……あ、アキにきちんとウチの気持ちを伝えておこうと思うの』

『え? そんなの今更言われなくても……』

『それでも聞いてほしいの。…………こういうことは、ハッキリとさせておきたいから』

『う、うん。分かった。それなら聞かせてほしい。美波の本当の気持ち』

「ここまでは順調だな」

「そうじゃな。島田は若干アレンジしたようじゃが」

「…………誤差の範囲」

「そうだな。肝心なのはこの次だ」

「ドキドキします!」

 

秀吉の台本を読みながら明久たちの熱演を聞き入る。リリアなんて手に汗握るほど没頭していた。

 

『わ、わざわざ――』

 

ここで美波の台詞が一瞬途切れた。

 

「なんだ? 盗聴器の不具合か?」

「…………そんなはずはない」

「きっと島田が台詞を言うのを躊躇っておるのじゃろうな」

 

次のシーンは美波の告白だ。美波でなくても、告白するのは勇気がいる。たとえ演技であっても。

 

『わざわざこんな所に呼び出してごめんね、アキ……。あのね、アキ、ウチは、アキのことが――』

 

スピーカー越しに美波が大きく息を吸ったことが分かる。このシーンを成功させるだけでも、清水の嫉妬心は最高潮になるはずだ。後の演技は流れでなんとかなる。

 

『アキのことが――嫌いなのっ!』

 

なんとかなるはずだった。

 

『初めて会った時からずっとアキのことが嫌い! あれから友だちとして一緒にいるのがずっと辛かった! 本当は友だちでいるなんて、我慢できなかったのに!』

 

好意とは真逆の嫌悪の告白。美波はわざわざ決別するために明久を屋上まで呼び出したというのか。

盗み聞きしていた雄二たちも、あまりの展開に開いた口が塞がらないでいる。

 

『美波……』

 

それでも、明久はなんとか軌道修正しようと演技を続けた。

 

『アキ……』

『僕もずっと、同じ気持ちだった』

 

次に聞こえた鈍い音は、理不尽でもあり当然でもあった。

 

「まったくお主らは、なんという失態を……」

 

顔面を陥没させた明久を待ち受けていたのは、額に手を当てて呆れ返る秀吉と苦虫を噛み潰したような表情の雄二に、声も出せないほど腹を抱えて笑う秀隆。

美波は教室に戻るなり自分のちゃぶ台に突っ伏して、それをリリアと瑞希が宥めていた。

 

「だ、だって仕方ないじゃない! あんな台詞言えるわけないもの! しかも録音されているかもしれないのよ!?」

「そ、そうだよっ! それに美波があんな可愛い台詞を言えるわけがないじゃないかっ!」

「もう1回殴られたいの?」

「心の底からごめんなさい」

 

美波に笑顔で凄まれて、明久は即座に土下座した。

 

「ていうか、神崎! アンタもいつまで笑ってんのよっ!」

「そうだよ秀隆! 他人事だと思って!」

「だっはははっ! 悪ぃ悪ぃ。いやぁ、面白いもん聞かせてもらったわ」

「くそっ! 腹立つ……」

「いつかアンタにも同じ目を合わさせてやるんだから……」

 

美波と明久が恨めしそうに秀隆を睨むが、そこに秀吉が横槍を入れた。

 

「残念じゃが島田に明久よ。その願いは叶わん」

「どうしてよ?」

「秀隆がこのくらいじゃ動じないから?」

「おい。人を感情がないみたいに言うな。俺にだって恥じらいくらいはあるぞ」

「それもあるのじゃが。明久よ、秀隆が告白を『受ける側』になるということは『する側』は誰になると思う?」

「え? まあ、木下さんじゃない?」

 

本当に優子がするかはともかく、秀隆に告白するなら真っ先に優子が思い浮かぶのが明久たちの共通認識だ。

 

「そうじゃ。姉上じゃ。そして姉上この台詞を言わせるということは、姉上もこの台本を読むことになる」

「うん。そうだね」

「そんなことになれば……ワシは朝日を拝めなくなってしまう」

「さ、さすがに優子ちゃんもそこまでしないのでは……?」

 

そうだといいんじゃがな、と乾いた笑いをする秀吉の背中には、ひどく哀愁が漂っていた。

 

「お前ら暢気にしてる暇はないぞ。明久と島田にはもう一度演技してもらわなきゃいけないんだ」

「無理よ! ただでさえ恥ずかし台詞なのに、聞かれてるって分かってたらマトモな演技なんてできないわよっ!」

「あ、それなら木下君。お手本を見せてもらえませんか? その方が演技に箔がつくと思うんです」

 

思いついたようにポンと手を叩く瑞希。瑞希の言う通り、明久たちは演技に関してはズブの素人。台本を読みながらとはいえ、恥ずかしさのあまり台詞が棒読みになってしまっては演技だとすぐにバレてしまう。秀吉に実演してもらって、雰囲気をつかみ取ればいくらかマシにはなるだろう。

 

「うむ? 別に良いが」

 

秀吉は台本を読んで台詞を頭に叩き込むと、目を瞑って深呼吸を数回した。これが秀吉が『役』に入る時のルーティンだという。

秀吉はゆっくりと目を開くと、秀隆の手を握った。

 

「は?」

 

呆気にとられる秀隆を気にすることなく、秀吉は目を潤ませ、少し上目遣いになって口を開く。

 

「わざわざこんな所に呼び出して悪かったわね、秀隆」

 

その声は、秀吉のものであって秀吉ではなかった。

 

「あのね、私……アンタのことが好きなの!」

 

頬を朱に染めて紡がれる言葉。突然始まった秀吉の告白に、明久たちも目が離せない。

 

「あんなことがあったけど、やっぱり私はアンタのことが好き! 誰がなんと言おうと、私はアンタの側にいたい!」

 

誰が固唾を飲み込む音すら聞こえる。ドラマのワンシーンのような光景に、明久たちは魅入ってしまった。

 

「だからお願い! 私と――」

「秀吉。ストップ」

 

台詞の途中で、我に返った秀隆が秀吉の口に手を当てた。これ以上は必要ないということだ。

 

「――とまあ、ざっとこんな具合じゃな」

 

秀隆の手をどけて、秀吉がいつもの声で話し始めた。

 

「お前、台詞が台本と全然違うじゃねえか」

「演劇ではアドリブ力も問われるのでな」

 

ジト目で睨む秀隆を秀吉は涼しい顔で流した。

 

「す、凄いわね……」

「そ、そうですね……。本当に優子ちゃんが告白してるみたいてました……」

「私、まだ胸がドキドキしてます……」

 

秀吉の演技に、女性陣は度肝を抜かれたようだ。

 

「さすがの演技力だな。まったく違和感がなかったぞ」

「うん。もしあのまま告白されてたら、僕だったら即オーケーしちゃうよ」

「…………男冥利に尽きる」

 

明久たちも、秀吉の圧巻の演技に感服していた。

 

「つうか、なんで優子の声で演るんだよ?」

 

秀隆にしては珍しく、秀吉を非難した。

 

「なに、一番現実味のある演技をしたまでじゃて」

「お前なあ……。だいいち、優子はあんなにしおらしくねえだろうが」

「神崎も大概デリカシーがないわね……」

「そもそも、台本がどうのこうの言っておいて木下姉の声で演じて良かったのか?」

「…………はっ!」

 

雄二の指摘で気がついたようだ。バレたら確実に優子から制裁を受けるだろう。

 

「と、とにかくじゃ。このままでは清水が嫉妬するどころか全くその逆の結果になりかねん。ムッツリーニ。先ほどの屋上での会話は清水に伝わっておるのか?」

「…………微妙。一応途中でまた接触不良を装っておいた」

 

ちゃぶ台の上で機械をいじっていた康太がそのままの体勢で答えた。全部は聞かれなかったとはいえ、どこまで聞かれたことやら……。

 

「序盤の台詞は台本通りじゃから、向こうも真偽について訝しがっておるところじゃろう。まだ取り返せる範囲じゃ。ここからきっちりと恋人同士を演じてもらうぞい」

「「う……」」

 

念を押すように2人に秀吉が迫る。演劇部として、半端は許さないということだろう。

 

「先ほどは姫路の出番に入る前に中断となってしまったようじゃから、ここから先は姫路にも参加してもらうかの」

「は、はいっ。頑張りますっ!」

「うむ。よろしく頼むぞい」

「瑞希ちゃん、頑張ってください!」

 

瑞希は両手を握って気合いを入れ、リリアも同じようなポーズで瑞希にエールを送った。

 

「それはいいんだけど、そろそろ次の授業が始まるんじゃない?」

 

明久が休憩時間の残りの時間を確認しようと時計を見ると、既に午後の授業の開始時刻になっていた。

 

「午後の授業は自習じゃ。他のクラスでは、皆がテストを受けておるからの。採点やら試験監督やらで教師も手一杯なのじゃろう」

「午前の授業も代理の先生でしたね」

「おまけに試験召喚システムのメンテナンスも難航してるっぽいしな。そのせいで、休日にも補習をするらしい」

 

秀隆が「七面倒臭い」と悪態をつく。

週末に補習があるのは面倒だが、午後から授業がないのは明久たちには都合が良い。他のクラスもテスト中ということは、明久たちが演技をしていても怪しむ人間は清水以外はいないということだ。

 

「次は明久と島田だ教室を抜け出して逢引をしているという設定でいくぞい。明久と島田は腕を組むのじゃ」

「…………」

 

明久と美波が顔を見合わせる。今の今で、腕を組むのは中々にハードルが高い。

 

「あ、あのっ、木下君。別に腕を組まなくても……その、手を握るくらいでも良いんじゃないですか?」

 

明久たちの気持ちを慮ってか、はたまた、ただ自分が見ていたくないだけなのか、瑞希がそんな提案をした。

 

「姫路よ。お主の気持ちも分からんではないが、移動の間にカメラや人の目があるやもしれん。これは必要なことなのじゃ」

「清水の嫉妬心を煽れなければ意味がないからな。少しオーバーなくらいがちょうど良い」

「で、でも……」

「明久、島田。先ほどの失敗を挽回するためにも頑張るのじゃ。視覚的な効果は役作りの上でお主らにも都合が良いのじゃ」

 

だが瑞希の提案は、秀吉と雄二にあっさりと却下されてしまう。瑞希は食い下がったが、残念ながら流れを変えられそうにはない。

 

「実際に恋人同士みたいな行動を取ることで、お前ら自身もそんな気になるってことだ」

「そうなれば、ますます清水は嫉妬に駆られるじゃろうて」

「まあ、そういうことなら……」

「……仕方ないわね……」

 

これも最悪の未来を回避するため、と美波も不承不承といった様子で頷いた。

 

「うむ。では、舞台は今一度屋上としよう。ムッツリーニもその方が都合が良いじゃろ?」

「…………盗聴器に手を加えるなら屋上のヤツが自然」

 

都合の悪い展開になった時に、また盗聴を中断させるなら他の機械よりも、一度不調を装った屋上のヤツが一番自然でやり易い。

 

「そっか。じゃあ、行こうか美波」

 

そう言って明久は美波の方に肘を出す。

 

「……一応腕は組むけど、変なところ触ったりしたら殺すからね」

「りょ、了解。気をつけるよ」

 

美波が明久の腕を取り、殺気のこもった目で見つめた。2人は到底恋人とは思えないほどのギスギスした雰囲気を纏って教室を出て行った。

第2ラウンド開始。はたして今度こそ上手くいくのだろうか。




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