バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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Bクラス戦その1です。


第六問

第六問

 

『いたぞ! Bクラスだ!』

『高橋先生を連れているぞ!』

 

明久らFクラスが渡り廊下に到着した時、丁度Bクラスも到着した。

Bクラスは比較的文系が得意な生徒が多いので、Fクラスは理数系で勝負しようと考えていたが、そこはBクラス、学年主任の高橋教諭に頼み、総合科目で一気に決着をつけてしまおうというわけだ。

 

『Fクラスだ!生かして帰すな!』

『『『おおーーー!!』』』

 

Bクラスからそんな優等生らしからぬ物騒な掛け声が上がった。

今回のFクラス前線は戦力の大半(人数にして約3分の2)を当てていたが、対してBクラスは10数人程度。数ではFクラスに利があるが、一人一人の点数はB当然クラスの方が圧倒的に上である。現に--

 

Fクラス 佐々義文 総合科目 746点

VS 

Bクラス 馬場利樹 総合科目 1943点

 

Fクラス 成田裕輔 数学 69点

VS 

Bクラス 竹井宏平 数学  159点

 

Fクラス 榊原卓哉 物理 77点

VS 

Bクラス 植草一 物理  152点

 

圧倒的な点差により、あっと言う間にFクラスの何人かが指導室(地獄)送りにされてしまった。しかもこちらが有利に進めようとしていた理数系の科目ですら約2倍以上の差がでてしまっている始末である。

 

「くっ! 皆、1対1はこっちが不利だ! なるべく2、3人で囲んで仲間をフォローしあうんだ!」

『『『おう!!』』』

 

このままではジリ貧になると判断した明久が指示をだす。何故明久なのか。

 

「お、遅れ……まし……た。す、すみま…せん……」

「悪い。遅れた」

 

司令役の2人が戦場にいなかったからだ。瑞希は体力がないので他の生徒について戦線まで走っていくことができなかった。実際、Fクラスから渡り廊下まではそんなに距離はないのに既に息切れで、肩で呼吸をしている有様であった。秀隆は常人以上の運動神経を持っているが、走るのが面倒だったので、瑞希に便乗するかたちでやってきたのだ。瑞希の護衛という建前で。

 

「秀隆はサボってただけでしょ。姫路さん、来たばっかりで申し訳ないけど……」

「あ、はい。わかりました。行って、きますぅ」

 

瑞希は戦況を打破するため、フラフラとよろめきながらも戦闘に参加しに赴いた。

 

「姫路の奴、頑張るなあ」

「秀隆も、遅れた分だけ働いてよね」

「ええー」

「『ええー』じゃないよ!」

「わーったよ。ああ面倒臭い」

 

秀隆も、悪態を吐きながらも自分の仕事をするため戦場に赴いた。

 

『来たぞ! 姫路瑞希だ!』

 

流石に先日のDクラス戦でFクラスに姫路瑞希がいることが知れ渡っていた。

 

「Bクラス岩下です。Fクラス姫路さんに数学勝負を申し込みます!!」

「律子、私も手伝う」

 

瑞希を野放しにはできないので、Bクラスは二人掛りで瑞希に挑むようだ。

 

「さて、俺も行きますか。相手は……アンタらでいいや。五十嵐先生、お願いします」

『Fクラス風情が舐めるなよ!』

『一気に畳んじまえ!』

 

 秀隆は、相手の戦力と戦意を削るために、自らBクラス二人相手に勝負を挑んだ。

 

『『『『『『試獣召喚 (サモン)!!』』』』』』

 

Fクラス 姫路瑞希 数学 412点

VS 

Bクラス 岩下律子&菊山真由美 数学 189点&151点

 

Fクラス 神崎秀隆 化学 469点

VS 

Bクラス 本田忠&徳永義信 化学 163点&157点

 

呼びかけに応じ、6体の試獣が召喚された。秀隆は前回と同じ黒いガンマンスタイルに二丁銃剣。今回は納刀状態だった。瑞希は豪華な装飾の入った騎士鎧に試獣の2倍以上の大きさはあろう大剣。対するBクラス勢は、岩下と菊山が西洋鎧に両刃の剣、本田と徳永が武者鎧に大槌と槍であった。

Bクラスの4人の点数は 同クラスでも上位にあたる。()()()Fクラス相手には申し分なさ過ぎるくらいの人材である。ただ、今回は相手が悪すぎた。

 

「あれ? 二人の召喚獣、アクセサリーなんてしてるんだね」

「あ、はい。数学は結構解けたので」

「俺はまあ、それなりだな」

 

明久が二人の試獣が金色の腕輪を填めているのに気づいた。これも試験召喚システムの一環である。

 

「そ、それって!」

「そんなの、私たちで勝てるわけ、ないじゃない!」

「聞いてねえぞ、そんなの!」

「卑怯だ!」

 

腕輪の意味を知るBクラスの四人は戦慄した。

 

「じゃ、いきますね」

 

瑞希が胸の前で祈るように右手を握ると、それに合わせて、前に突き出した試獣の右手が輝きだした。

 

「んじゃ、俺もいきますか」

 

秀隆が腰を落とすと、試獣も腰を落とし、いつでも飛びだせる体勢を取った。

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ!」

「律子! とにかく避けないと!!」

「逃げるぞ!」

「ああ! 一旦体勢を整えよう!」

 

 四人は態勢を整えようと距離をとるが、

 

「遅えよ! 抜砕竜斬!」

「やあああ!!」

 

――キュボ――

――ズババババババ――

 

時すでに遅く、岩下の試獣は瑞希の試獣の放った熱線に焼かれ、本田の試獣は一気に間合いを詰めた秀隆の試獣にすれ違いざまに微塵に斬り刻まれた。

ここで召喚獣について補足説明をしておこう。召喚獣は一定の点数(400点)を超えると特殊能力が使えるようになる腕輪を与えられるのだ。

ただし能力の使用する度に点数を消費する。能力とその消費点数は個人によって異なるが、戦いを有利に進めることができるという点は変わりない。(ただし秀隆の様に自力で技を開発することはあくまでも例外で特殊なことに留意しておきたい)

 

「り、律子!?」

「本田!?」

 

相方が一瞬で倒されてしまい、菊入と徳永は一旦その場で止まってしまった。そして、戦場においてその行動は死を意味する。

 

「ごめんなさい。これも勝負ですので!」

「んじゃ、そういうことで」

 

その隙を見す見すと見逃すはずもなく、瑞希は菊入の試獣を上半身と下半身に分断し、秀隆は徳永の試獣の眉間を打ち抜いた。

 

『い、岩下達がやられたぞ!?』

『一撃なんて……そんな馬鹿な!?』

『姫路瑞希、予想以上の要注意人物ね!』

『急いで神崎の情報を集めろ! 早く!』

 

クラスメイトが一気に倒されてしまい慌てるBクラス生徒達。二人掛りで倒せない相手が二人もいるのでは、作戦などを見直す必要も出てくる。Bクラスが慌てるもの無理がないといえた。

 

『中堅部隊と入れ替わりつつ後退!戦死だけはするな!』

 

部隊長格の男子生徒が叫びながら指示を出す。瑞希と秀隆の能力を見ればこの指示は的確と言える。

 

「ほら、姫路、指示」

「あ、はい。えーっと……皆さん、頑張って下さい!!」

「いや、もうちょっと具体的にだな--」

『よっしゃあーーー!!!』

『やったるでー!』

『『『おおーー!!!』』』

 

瑞希が出したのは指示と言うより応援であっが、Fクラスの面々は単純なため姫路に声をかけられただけでやる気に満ちた。Bクラス相手に果敢に戦いを申し込んでいく。その光景は呆れを通り越して最早感心するレベル。

 

「……まあいい。明久、秀吉。俺たちは一旦教室に戻るぞ。姫路、後は任せた」

「あ、はい。分かりました」

「うむ。そうじゃな」

「え? 何で?」

 

秀隆が戦線は瑞希に任せて教室に戻る、と明久と秀吉に指示した。秀吉はすぐに諒解したが、明久は意図が分かっていなかった。

 

「Bクラスの代表なんだが……『あの』根本らしい」

「根本って『あの』根本恭二?」

「ああ」

 

文月学園2年Bクラス代表、根元恭二には悪い噂が絶えなかった。曰く、カンニングの常連。曰く、球技大会で相手に一服盛った、など。目的の為には手段を選ばない悪党として文月学園の、特に2年生の間で知れ渡っていた。

 

「……なるほど。戻っておいた方がいいかもね」

「雄二の身に何かあるとは思えんが、念のためにの」

 

根本の名を聞いて。ようやく明久も秀隆の意図を理解した。卑怯者で知れる根本のことである。渡り廊下でFクラス本隊が戦っている隙を突いて直接代表の首を狙ってくることも考えられた。あの雄二がそんな簡単な手に引っ掛かるとも思えないが、用心に越したことはないだろう。

 

「んじゃ、戻るぞ」

「了解」

「了解じゃ」

 

――Fクラス教室――

 

「うわ、こりゃ酷い」

「まさかこうくるとはのう」

「流石は根本恭二、と言ったところか」

 

教室に戻った秀隆達が見たのは、無残にもボロボロにされたFクラスだった。卓袱台の天盤は到る所に傷を付けられ、足が完全に折れてしまっている物まである。座布団も引き裂かれ、元々少なくなっていた中綿が見えている。更に酷いのは、生徒個人の持ち物である筆記用具や参考書までもが使用不可能になるほどに壊されていた。

 

「これじゃ補給試験どころじゃないね」

「地味じゃが、効果的な作戦じゃな」

 

明久と秀吉が、改めて根本の卑怯さを痛感していると、

 

「あまり気にするな。修復に時間はかかるが、大した支障はない」

 

雄二が教室に入ってきた。今までどこかに外出でもしていたのだろうか。

 

「雄二がそう言うならいいけど……と言うか、どうして教室がこんなになっているのに気付かなかったの?」

「Bクラスから協定を結びたいという申し出があってな。調印のために教室を空にしていた」

「協定だと? 内容は?」

 

雄二はBクラスとの協定調印のため教室を開けていたと言う。そして、その隙を突かれた結果が現在のFクラスの状況というわけだ。

それこそが根元の作戦だったのかもしれないが、秀隆はFクラスの惨状よりも協定の内容が気になっていた。

 

「ああ。午後4時までに決着がつかなかったら明日の午前9時からに持ち越し。その間は試召戦争に関わる一切の行動を禁止する。てな具合だ」

「……お前、それ承諾したのか?」

「ん? ああ」

 

秀隆は雄二が協定を承諾したのを聞くと、心底落胆したような溜息を吐いた。

 

「お前、将来何でもない詐欺とかに引っ掛かりそうだな」

「何故そう思う?」

「そうだよ、秀隆。雄二なら引っ掛かるより引っ掛けるっベボラ!!」

 

明久が雄二を茶化して殴られてしまったが、場はシリアスとした雰囲気に包まれていた。

 

「まず確認したい。お前が協定を結んだのは姫路のためだな?」

「そうだ。何か問題があるか?」

 

瑞希は学力こそ学年トップクラスだが、体力は学年ワーストクラスに入る。そのため、瑞希にとって長期戦は不利に働く場合がある。そう判断して、雄二は協定に調印したのだ。

 

「前半だけならな。だが後半はまずい」

「後半って……試召戦争に関わる一切の行動を禁止する」

「……っ! そうか、そういう事か」

 

雄二は協定の後半部分を改めて噛み締め、自分のミスに気がついた。

 

「どういう事?」

「よく考えてみろ。試召戦争に関わる行動ってなんだ?」

「うーん……補給試験とかかな?」

「まあそれもあるが、その補給をするには何が必要だ?」

「そりゃあ勉……あ、そうか!」

 

明久も、協定の重大さに気がついた。

 

「そう。まずは勉強ができなくなるな。まあこれは家でやればいい。バレなきゃ違反じゃないしな。というか、そもそもFクラスの奴らがまともに勉強するとは思えんがな」

「まあそうだね」

 

秀隆の説明に、明久は頷いた。

 

「だが重要なのはそこじゃない。重要なのは『他のクラスに攻められた時に対処できなくなること』だ」

「くそ! 俺としたことがっ!」

 

雄二は奥歯を噛み締める。自分の犯したミスに自分を殴りたくなる。

 

「落ち着くんじゃ雄二よ」

「そうだよ。他のクラスって言ってもFクラスに攻めてくるわけないよ」

 

明久のいう通り、普通なら下位のクラスに攻めいる理由はない。メリットがない上に負けた時のデメリットが大きすぎる。

 

「相手が普通の奴ならな。だが、今回の相手は根本率いるBクラスだ。どんな手を使ってくるか分からん」

「ああ。必要以上の警戒を怠るべきじゃない」

「なるほどの。それでその協定がネックになるわけじゃな」

「そうか! 普段なら場外戦略とかで対処できるけど、『試召戦争に関わる一切の行為を禁止』に引っかかるからできないんだ!」

「やっとわかったか」

 

試験召喚戦争に関わる行為。この広すぎる範囲指定のせいで、いくらでも難癖をつけられるのだ。

 

「まあ結んじまったもんはしょうがない。それはそれで考えるさ」

「スマンな。次から気を付ける」

「じゃあ早くこの状況を何とかしようよ」

 

明久の言う通り、協定の効果は午後4時以降なため今は補充試験もままならない教室の有様をどうにかする方が先決である。

 

「そうだな。取り敢えず職員室に行って……」

「いや、その必要はない。秀吉」

「承知した」

 

秀隆と秀吉は目配せすると一旦教室を出ていった。

 

「何だろう?」

「さあな」

 

明久と雄二が不思議そうに待っていると、

 

「待たせたな」

 

段ボール箱を一箱ずつ持って二人が帰ってきた。

 

「何だ、その段ボール箱?」

「これは『隠し兵糧』じゃ」

 

と言って秀吉が段ボール箱を開けると、中には大量の鉛筆が入っていた。それも一本一本ではなく一ダース箱単位だ。

 

「おお!」

「こっちは鉛筆削りと消しゴム、あと下敷きだ。一応人数分はあるはずだ」

「凄いよ!いったいどうしたの?」

 

明久が興奮気味に聞いた。たかが鉛筆や消しゴムと言っても、高校生二人がここまで大量に仕入れることは普通ではない。

 

「親父の知り合いが文房具屋で、前に在庫処分するやつを安く譲ってもらったんだ。んで、鉄人に許可もらって寄贈って形で倉庫に置かせてもらってた」

「そうなんだ」

「というか、まるで必要になることが予め分かっていたような行動だな」

 

雄二は、秀隆がこの状況を予期していたことに驚いていた。

 

「んなわけねえよ。実際いくつかは学校の備品として先生たちも使ってたしな」

「わしもこうなるとは思わんかったからの」

「まあ結果として『転ばぬ先の杖』ってことだね」

「「「!!?」」」

 

明久が一言で感想を言ったとたん、秀隆、雄二、秀吉は信じられないものを見たかのように驚いた。

 

「皆、どうしたの?」

「あ、明久が……」

「そんな諺を知っているとは……」

「これは……今日は地球最期の日か……」

「皆酷くない!? 特に秀隆!」

 

明久は涙を流しながら抗議した。だが明久の学力を考えれば、秀隆達の反応も頷けるのだから仕方ないと言える。

 

「まあそれはいいとして、雄二は新しい教科書と卓袱台の手配を頼む。流石に俺もそこまでは手が回せない」

「おう。それは任せておけ」

「では、わし等は戻ろうかの。そろそろ戦局も動いたころじゃろう」

「そうだね。そうしようか」

 

秀隆達は雄二に後を頼み、戦場に戻った。

 

 




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