バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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明けましておめでとうございます(遅)
本年もよろしくお願いいたします。


第五十九問

第五十九問

 

『あはは。美波ってば、そんなに腕をギュッてされたら歩きにくいよ』

『ふふっ。別にいいでしょ? ウチらは付き合ってるんだから、これくらい』

 

明久たちが教室を出ていってから、秀隆たちも監視(という名の盗聴)を再開した。

 

「今のところは順調か?」

「…………たぶん」

「明久の声が震えてるな?」

「緊張しているんでしょうか?」

 

リリアもまさか明久の関節が極められているとは思いもしないだろう。

 

『でも美波、そのせいでさっきから肘に当たっているんだけど』

『え!? こ、この、スケベっ!』

『――アバラ骨が』

「ああ、アレは痛い」

「なんで分かるんだよ?」

「……身近にいるからな」

 

今Aクラスで誰がくしゃみをしたのは言うまでもない。

 

『うふふふ。アキってば、冗談が好きなんだから。本当に可愛い』

『あはは。やだなぁ美波ったら。さっきより更にくっつくなんて』

『いいじゃない。思いっきり強く抱きしめたいんだもの』

『まったく。美波は甘えん坊だなあ』

 

言葉だけを聞けば、ただウザいカップルが白昼堂々と惚気でいるだけだが、組み敷かれている明久の腕はそれどころの事態ではなかった。

 

『ねえ美波』

『うん? なぁに、アキ?』

『美波は僕のどこが好きなのかな?』

「お、いい感じにウザくなってきたな」

「ああ。これなら清水も憤慨するだろう」

「でも、私も美波ちゃんが吉井君のどこをすきになったのかは気になります」

「…………確かに」

 

最初は渋っていたリリアも、今は興味津々で美波の台詞に耳を傾けている。

 

『そんなの、決まっているじゃない』

 

美波も明久の意図を察してかノッてきた。さすがに素直に答えるわけがないから、おそらく、『頭の天辺から爪先まで』とか『顔や性格も全部』とかのお馴染みの台詞で濁すたろう。

 

『頭の天辺から眉毛まで、全部好き!』

「デコかよ」

「デコだな」

「おデコですね」

「…………ピンポイント」

 

どうやら美波はおデコフェチなようだ。

 

『そう言うアキはどうなの?』

『そりゃあ、もちろん美波と一緒だよ』

『もうっ。アキったら。本当に可愛いんだから……っ!』

 

一瞬明久のうめき声が洩れ聞こえた。

 

「あのバカ……」

「明久のヤツ。本当に臨機応変って言葉を知らないな」

「…………ある意味台本通り」

 

ただし結果は台本とは真逆である。

 

『じゃあ美波、あっちに行こうか』

『ううん。向こうにしましょ?』

 

そうこうしている内に屋上に上がった2人は、今度はどの場所で居座るかで揉めていた。

 

「何で揉めているんでしょうか?」

「分からん。適当に座って駄弁ってればいいだろうに」

 

最悪音声だけでも入れば、清水を挑発することはできるが、明久と美波は明久の腕の寿命をかけて静かな攻防戦を繰り広げていた。

2人がそんなこんな言い争っていると――

 

『ふ、2人とも何をしているんですかっ! 今は授業中なんですよ!』

 

聞こえてきたのは第三者の声。瑞希のご登場だ。

 

「ここで姫路の登場か」

「みたいだな。なんか気迫籠もっているが」

「迫真の演技ですね!」

 

ある意味演技でもないだが。

 

『瑞希…………』

『そ、そんなにくっついて、腕まで組んで……! そんなの、まるで……そのっ……つ、付き合ってるみたいじゃないですか!』

「そういや姫路の台詞って台本に書いてないな」

 

手元で台本を広げながら秀隆が呟いた。

 

「なになに――ホントだな。台詞じゃなくて『思いの丈を叫べ』ってあるな」

「アドリブってことでしょうか?」

 

なぜ秀吉がこんな書き方をしたのかはさて置いて、屋上では演技が続けられていた。

 

『そうよ瑞希。ウチとアキは付き合ってるの』

『え? つ、付き合っているって、本当ですか?』

『うん。黙っていてごめんね。瑞希……?』

「なんか昼ドラみてぇだな」

「というか昼ドラだな」

「ドキドキハラハラします」

「…………ドロドロ」

 

傍から聞いているだけなら暢気なものであるが、当の明久は精神的にも肉体的にもたまったものではない。

 

『美波ちゃん……。やっぱり明久君のこと、好きだったんですねか……?』

『それも、黙っていてごめん。ウチも瑞希の気持ち、知っていたのに……』

「島田も凄えな。よくスラスラとアドリブで言える」

「いやまあ、アドリブというか」

「…………ほとんど本音」

 

いずれ訪れた未来の一幕だったかもしれない。

 

『止めて2人とも! 僕のために争わないで!』

 

――ゴキン、ゴキン――

 

「今一瞬変な音しませんでしたか?」

「……島田のヤツ。やりやがったな」

 

まさか一瞬で関節を外してはめ戻すとは。

 

「にしても、明久のヤツはしばらく黙っておいた方が良さそうだな」

「だな。余計な事を言うと清水に勘づかれかねん」

 

その清水も、今や盗聴に必死でそれどころではないかもしれない。

 

『やっぱりそうでしたか……。美波ちゃんも、明久君のことが……』

『謝って済むことじゃないと思うけど……ごめんなさい。ウチのこと、許せないでしょうね……』

『いえ。美波ちゃんの気持ち、私もなんとなく分かっていましたから。むしろこうやってハッキリ言ってもらったことで気持ちが楽になったくらいです』

『え? 許してくれるの、瑞希?』

『許すとか、許さないとかじゃなくて……。その、人を、誰か好きになることは自由だと思いますから。美波ちゃんを責めることなんて、私にはできません』

『瑞希……。ありがとう……』

 

瑞希にしろ、このまま疑心暗鬼の中で美波と過ごすより、ここで互いの気持ちをハッキリさせておいた方が良いに決まっている。戸惑いはあるだろうが、友だち思いの瑞希が、そんなことで美波のと友情を反故にするわけがない。

 

「なんか良い感じにまとまってきたな」

「これぞ青春、って感じですね」

「そうだな。むしろ明久が蚊帳の外になってるな」

「…………主役不在」

 

昼ドラ展開からの青春ドラマ。明久を巡る女の闘いが、いつの間にか友情物語に変わっていた。

 

『けど、今朝のキスは許しません。あれは反則ですっ! しかも明久君の初めてだったみたいですし!』

 

ただし、嫉妬しないとは言っていない。

 

『そ、それは、だって、あんなメールとか色々あったから、つい!』

「よくよく考えたら、つい、で告白なら分かるが、キスはぶっ飛んでんな」

「まあ、島田だしな」

「…………勢いしかない」

「よっぽど思い詰めていたんですね」

 

どちらかといえば、舞い上がっていたのだろう。

 

『つい、じゃないですっ! あんなズルは神が許しても私が』

 

――ドンッ――

 

「ん?」

「誰が壁を叩いたんでしょうか?」

「おおかた秀吉だろう。暴走した姫路を止めに入ったんだな」

 

いくらアドリブ任せとは言え、このままでは収拾がつかなくなる。

 

『こ、こほん……。とにかく、美波ちゃんのバカっ!』

『あっ! 瑞希っ!』

 

最後に捨て台詞を吐いて、瑞希は屋上から立ち去った。

 

「これで一応終わりか?」

「みたいだな。あとは明久たちがイチャつきを再開したら完ぺ――」

『ちょ、ちょっとアキ!? なに瑞希の後を追おうとしてるのよ!?』

 

一息ついたのも束の間、大問題が発生した。

 

「あのバカっ! いったいなにやってんだ!?」

「吉井君は瑞希ちゃんを選ぶんでしょうか?」

「いくら明久でも、普段ならともかく、今はそんなことしている場合じゃないのは分かってるはずだが?」

「…………緊急事態」

 

音声だけでは、明久が本当に瑞希を追おうとしているのか、他の不測の事態が起きたのかは判断できない。

 

『ねえ、アキ……。ウチと一緒に居て? ウチはその、アキのことが……』

『み、美波ごめん! 僕、行かなきゃならない所があるんだ!』

『あ……』

 

どうやら明久は、美波の制止を振り切って屋上から出ていってしまったようだ。

 

「終わったな」

「ああ」

「…………完全敗北」

「美波ちゃん……」

 

これではどう解釈しても、明久が美波より瑞希を選んだようにしか見えない。

 

『…………そう…………。そういうことなの……』

『し、島田落ち着くのじゃ。迂闊な台詞は……』

『もういいわ。演技なんておしまい。……どうせアンタは、瑞希みたいな女の子が好きなんでしょ……!』

 

盗聴器越しに、美波の怒りと悲しみが垣間見えた。

 

教室のドアを壊さんとばかりの勢いで開き、美波が教室に戻ってきた。

何事かと一同が美波の方を向くが、一瞬で目線を明後日の方向に向けた。今の美波は、鬼神の如く殺気に満ち溢れていた。

美波は大股で自分のちゃぶ台に座ると、ドカっと腕を枕にして突っ伏した。背中からも禍々しいオーラを放っている。触らぬ神に祟りなしを体現しているかのようだ。

 

「すまぬ。皆の衆」

 

少し遅れて秀吉も教室に戻ってきた。申し訳なさそうな顔をして秀隆たちの側に座る。

 

「木下君。お疲れ様でした」

「お疲れさん。お前はよくやったよ」

「そうだな。悪いのは明久だな」

「…………全部台無し」

 

リリアを筆頭に秀吉を皆で労う。明久の行動がなければ、作戦はほぼほぼ成功していただろう。

 

「いやはや面目ないのじゃ。まさか明久があんな行動に出るとは」

「それなんだが、なにがあったんだ?」

「ワシも物陰から見ていたからよく分からんのじゃが、途中から明久がなにやら慌てていたようじゃった」

「それって瑞希ちゃんが出てきた時ですか?」

「いや、それより少し前のような気がするの」

「…………あー」

「…………そういうことか」

 

秀隆と雄二は事態をなんとなく察したようだ。

 

「まあ、ともかく、過ぎた事を悔やんでも仕方ねえ。作戦は失敗したが、まだ手がないわけじゃない」

 

雄二がパンと手を叩く。さすが神童の二つ名は伊達じゃなく、善後策も講じていたようだ。

 

「しかしどうするのじゃ? 島田があの状態では、清水を挑発することは難しいと思うのじゃが」

「それについても考えがある」

「どうするんですか?」

「今は言えない。下手に喋ってBクラスに気取られるのは避けたい」

 

雄二が警戒するように廊下に目を向ける。

根本たちの会話の内容からして、Bクラスは監視役の生徒をFクラスに差し向けているはずだ。

 

「合宿の時の秀隆と同じ、ということじゃな」

「俺の時より敵が明白だけどな」

「…………分かりやすい」

 

ただ敵が分かっている分。余計に慎重を期す必要がある。

 

「だがいずれにせよ、『あの』島田はどうにかしないとな」

 

雄二が片目で美波の方に目を向ける。それに合わせて秀隆たちも美波の方を見る。そこには、変わらず負のオーラを纏った美波が居た。

 

「Dクラスはもちろん、最悪Bクラスと戦うことになったとしても、島田があの調子だと志気がだだ下がりだ」

 

ただでさえ自分たちより上位のクラスに挑むのに、一人でも『あんな状態の生徒』がいれば、そちらが気になって戦いどころではない。しかも美波はFクラスの中心メンバーのひとり。美波の状態は士気にも直結する。

 

「そりゃあそうだが、今の島田を誰が説得できるんだ?」

 

今の美波は、へそを曲げるどころか近づく者を皆傷つけかねない状態だ。ちょっとやそっとの慰めや説得に応じるとは思えない。

 

「とりあえず、ムッツリーニはBクラス、秀隆はDクラスの情報収集。秀吉は万が一に備えて別の台本を考えておいてくれ」

「それは良いが、雄二は何をするのじゃ?」

「俺は次の作戦の計画に移る。と言っても、まだ形にもなってないから急ごしらえだが」

 

秀隆たちにそう指示を出すと、雄二は席を立った。

 

「どこへ行くんだ?」

「ちょっと確認しておきたいことがある。すぐに戻る」

 

雄二はそう言い残すと教室を出て行った。

 

「確認したいことじゃと?」

「作戦に必要なんだろ。とりあえず、俺たちも俺たちの仕事をするか」

「…………了解」

 

雄二の指示をこなすため、秀隆たちもそれぞれ行動に移る。リリアは雄二たちが異動したあと、じっと下を向いて考え込んだ。

 

「ただいま」

「戻りました」

 

しばらくして、雄二たちか再集結したとほぼ同時に明久と瑞希が帰ってきた。2人並んで雄二の席に移動する。

 

「雄二、僕らの演技はどうだった?」

「失敗もいいところだカス野郎」

 

暢気に作戦の成否を聞いてきた明久に、雄二が辛辣な言葉で返す。

 

「坂本君、失敗ってどういうことですか?」

 

瑞希も失敗したとは思っていなかったんだろう。不思議そうに雄二に聞いた。

 

「どうもこうもあるか。このバカが最後に逃げ出してくれたおかげで、全部台無しだ」

「さすがにあの状況で島田と明久が付き合っているなんて思うヤツはいねえよ」

 

雄二が丸めた台本で明久の頭をパカンと叩き、秀隆も呆れたように肩をすくめる。他の3人も似たようなリアクションだった。

 

「そうじゃな。せめてもの救いは、島田が明久に好意を持っておると思わせることができたことじゃが……」

「…………それだけでは不十分」

 

その好意すら、最期の一幕で台無しになっている可能性もある。どのみち清水を動かすことは難しくなった。

 

「オマケに、もう一度トライしようにも、島田はあの調子な上に、お前も姫路と一緒に仲良く戻ってくるときたもんだ」

 

言われて明久が美波の方を見ると、美波は明久を一瞥したあと、「ふんっ!」とソッポを向いた。怒り心頭のご様子だ。

 

「ご、ごめんなさい。美波ちゃんと付き合っているのに、私と明久が一緒に帰ってくるなんて不自然ですよね……」

「いや、それ自体はクラスメイトじゃからそこまで不自然ではないのじゃが……。明久が島田を放置した後で姫路と一緒に戻ってくるという状況がマズイのじゃ」

「美波ちゃん、すっごく傷ついていると思います」

 

リリアも美波に同情して、明久を少し非難めいた目で睨む。

 

「あう……」

「とりあえず、明久は島田に詫びのひとつでも入れていたほうがいいな」

「そうだね。うん。行ってくるよ」

 

明久も反省したのか、真剣な表情で美波の席に移動した。

 

「それで、これからどうしましょう?」

「次の作戦は考えてある。が、明久と島田が鍵になるのは変わらない」

「現状、清水を焚きつける方法がそれ以外ないからな。……まあ、他にもあるにはあるが、そっちの方が島田は嫌がるだろうし」

 

なんにせよ、美波の機嫌が戻ってくれることに期待する他ないのだが、

 

「どうして瑞希ばっかり、いつもお姫様扱いなのよ!」

 

教室中に美波の怒号が轟いた。

ナニゴトかとクラス中の視線が美波と明久に集中する。

 

「み、美波?」

「じゃあウチはなんなの!? 男だとでも思ってるの!? なんでウチにはいつもそんな態度なのよ!?」

 

怒髪天を衝く。美波は烈火のように怒りを顕にし、一気にまくし立てた。その剣幕に、明久もタジタジだ。

 

「べ、別にそんなつもりは!」

「瑞希が転校させられそうになったらウチが瑞希の両親に話をしに行くわ。だから、もう話しかけないで。アンタなんか顔も見たくない!」

 

吐き捨てるように怒鳴ると美波はまたそっぽを向いた。

 

「ごめん。悪かったよ」

 

明久は最後に一言だけ謝ると、トボトボと雄二たちの元に帰っていく。

落ち込む明久を、雄二たちは『やっちゃったな』という顔で迎えた。

 

「完全に怒らせちゃったよ……」

「見てりゃ分かるよ」

 

秀隆が苦笑する。あれだけの剣幕でまくし立てたのだ。秀隆だけでなく教室にいた全員に今の会話は聞かれていただろう。

 

「ごめんなさい。私も後で美波ちゃんに謝っておきますから……」

「…………それは時間をおいてからにした方が良い」

「うむ。ムッツリーニの言う通りじゃな。今の島田には、明久や姫路が下手な事を言えば逆効果になりなねん」

「つうか、誰が話しかけても噛みつかれそうだ」

 

触らぬ神に祟りなし。美波の近くで駄弁っていた生徒たちも、そそくさと場所を変えた。美波の周りにだけポカンとドーナツの様な空間ができていた。

 

「ほとぼりが冷めるまで待つしかないな」

「そうじゃな。しばらくしたら、島田も落ち着くじゃろう」

 

とりあえず美波はしばらく気持ちの整理がつくまで放っておくことにした。

 

「あの、私が美波ちゃんとお話ししてみます」

 

そこに手を挙げたのは、リリアだ。あまり自己主張をしない方のリリアが自ら名乗り出た。

 

「止しておいた方が良いぞ? 今の美波は誰の言葉にも耳を貸しそうにない」

「私が言うのもなんですが、今はそっとしておいた方が良いかと思います」

「確かにそう見えるかもしれませんけど、大丈夫だと思いますよ」

「しかしのう、リリア」

「今の島田はなあ」

「…………取り付く島もない」

 

露骨に『近寄ってくるな』オーラを放っている美波を、秀吉たちも不安げに見ていた。

 

「大丈夫です。それに……美波ちゃんの気持ち、私も少し分かりますから」

「え?」

 

リリアは一瞬顔を伏せたが、すぐに「じゃ、いってきます」と美波の方にトテトテと移動した。

 

「本当に大丈夫かな?」

「本人が大丈夫と言ってるんだ。今は信じるしかないだろ」

「そうじゃな。ワシらはワシらにできる事をしようぞ」

「…………(コクン)」

 

リリアが大丈夫だと言っている以上、美波のことはリリアに任せる他ない。

 

「今はその話は置いておいて、だ。とにかく、このままだといつまで経ってもDクラスから宣戦布告を受けることはない。こちらから状況を動かす必要がある」

 

雄二はいつになく硬い表情で状況を確認する。依然として、Fクラスが窮地に陥っていることには変わりないのだ。

 

「ムッツリーニ。Bクラスの様子はどうだった?」

「…………現在七割程度の補充を完了。一部では開戦の準備を進めている」

 

少なくとも、明日の朝イチで宣戦布告できる状態にはあるようだ。Bクラスの本気度がうかがえる。

 

「予想より早いな。根本も本気というわけか」

「休み時間もずっと補充テストに充てていた」

「そりゃ早えわ。宣戦布告されるのも時間の問題か」

 

秀隆もその本気さに舌を巻く。予想以上に根本はヤル気に満ちているようだ。

 

「秀隆。Dクラスはどうだ?」

「一応補充テストは受けているみたいだが、完了したのはだいたい50パーセントくらいらしい。もっとも、午前中みたいな開戦気炎はもうないみたいだ」

 

清水だけが情緒不安定で恐ろしかったと付け加えた。

 

「なら、先ずはDクラスに仕掛ける前に時間を稼ぐ必要があるな。ムッツリーニ、悪いが須川たちと協力してBクラスに偽情報を流してくれ」

「…………内容は?」

「DクラスがBクラスを狙って試召戦争の準備を始めているって感じで頼む」

「…………了解」

「雄二、それってなんの意味があるの?」

「言ったろ。ただの時間稼ぎだ」

「他にBクラスを狙っているっていうクラスがいたら根本も俺らへの宣戦布告を躊躇するだろ?」

「そっか、Bクラスだって格下相手とは言え連戦は嫌だもんね」

 

召喚獣の操作は精神的負担が大きい。いくら点数に差があるとは言え、疲れた頭では寝首をかかれるとも限らない。

 

「本当はCクラスが狙ってるってことにしたいんだけどな」

「Cクラスは前回Aクラスに負けておるからの」

 

CクラスもFクラス同様に試召戦争を仕掛ける権利を剥奪されているのでその手は使えなかった。

 

「んで、ムッツリーニ。ある程度ど偽情報の流布が終わったらそっちは須川たちに一任してくれ。お前には更にやってもらいたいことがある」

「…………分かった」

 

指示を受けた康太はスクっと立ち上がると須川の元に歩いていく。

康太から説明を受けた須川も、数人に声をかけて連れ立って教室を出た。

 

「さて、次に秀吉と秀隆だが」

「俺らは2人がかりか?」

「ああ。Dクラスに行って清水を交渉のテーブルに引き出してほしい」

「それは構わんが……交渉してなにをするつもりじゃ?」

「どうするもなにも、こっちの目的はひとつだ。清水を挑発して、敵意を煽る。向こうが乗ってきたら成功。乗らなければ失敗。それだけだ」

 

Dクラスに宣戦布告させるためには、清水の敵愾心を突くしかない。今朝のように勝手に怒り狂ってくれていたら楽なのだが、そうでなければ無理矢理にでも煽る他ない。

 

「なら、その場には島田も要るな。アイツがいないと、清水も警戒して交渉のテーブルにはつかないだろうし」

「え? でも今の美波だよ?」

 

明久が遠目から美波を覗き見ると、横にリリアが座っている以外はさっきと様子は変わらない。

背中しか見えないが、相変わらず怒りのオーラを放っている。

 

「そこはリリアに任せるしかないな」

「そうじゃな。少なくとも、交渉の場にいるくらいには機嫌もなおしてもらわねば」

 

リリアは美波になにやら話しかけているようだが、内容まではあまり聞き取れなかった。

 

「ともかく、頼めるか?」

「承知した。場所は空き教室、時間は放課後で良いな?」

「交渉のテーブルにつくのはDクラスからは清水と代表の平賀。こっちからは島田と雄二。あとは仲裁役の先生一人ってところか?」

「それで問題ない。あとは俺が何とかする」

「了解。んじゃ行くか」

「そうじゃな」

 

秀隆と秀吉もDクラスとの交渉のために教室を後にした。

 

「私はなにをしたら良いですか?」

 

残ったのは雄二、瑞希、そして明久の3人。雄二のことだから、この2人にも役割を用意しているはずだ。

だが雄二は瑞希の質問には答えず明久に向けて口を開いた。

 

「ところで明久」

「なに?」

「腹は減ってないか?」




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