第六十一問
家庭科室へ続く廊下を、明久、雄二、秀隆の3人はやや駆け足で走っていく。
「秀隆、さっき言ってたことって、どういう意味?」
明久が不安そうに聞いてくる。
「さっき言ってたこと?」
「姫路さんの料理が雄二の思惑通りになるって」
「ああ、それか。たぶん実際に見たほうが早いぞ」
家庭科室の前に着いた秀隆は、そう言って瑞希に気づかれないよう扉を少し開けた。
家庭科室では、瑞希が調理台に食材を並べて吟味しているとこだった。
「そういや、何を作るよう指示したんだ?」
秀隆が小声で雄二に尋ねる。
「別に具体的になにか作れって言ったわけじゃねえ。ただ『栄養価の高く』て、『ゼリー飲料の容器に入る』と指定したただけだ」
「ゼリー飲料?」
雄二の指示内容を聞いた秀隆が改めて調理台をのぞき込む。
「にしては食材が多いな」
秀隆の言う通り、調理台の上にある食材量はゼリーを作るにしては多い。
見ている間に瑞希は戸棚からボールを2つ取り出し、それぞれに白い粉末を入れていく。
「あれは、粉末のゼラチンと砂糖か」
「なんだ。意外と普通だな」
「そうだね。ゼリーくらいなら問題ないのかも」
「それだと困るんだが」
などと雄二たちがヒソヒソ話していると、
『栄養価の高いもの……ここはやっぱり鰻ですね』
おおよそゼリーからは想像できない食材が出てきた。
「待って! 今鰻って言った!?」
「落ち着け明久。鰻のゼリー寄せはちゃんとしたイギリス料理だ」
「それ以前に鰻はゼリー飲料の容器に入らないだろ。てかなんで家庭科室に鰻があるんだ?」
言っている側から瑞希が鰻をぶつ切りにしていく。
一通り切り終えた鰻をボールに入れ、今度は冷蔵庫を漁る。
『えーと、あとは……あ、スッポンの生き血もありますね』
「ねえ、雄二。彼女はいったい何を作ってるの!?」
「おそらく明久に活力を入れる為に滋養強壮効果のある食材を片っ端から入れていく気だな」
「というか誰だよスッポンの生き血なんて用意したやつ」
3人の心配と驚愕をよそに、瑞希はボールに鰻とスッポンの生き血を入れていく。
と、ここで明久があることに気がついた。
「ん? ちょっと待って。これだけなら雄二の言う通り、ただ滋養強壮効果の凄いゼリーができるだけじゃない?」
「……確かに。おい、秀隆。どこが俺の思惑通りになるんだよ?」
「おっかしぃな。そんなはずはないと思ったんだけどな」
食材のチョイスはともかく、確かにこのままの食材では一応食べれるゼリーが出来上がる。
「秀隆の勘も外れることもあるんだね」
「そりゃあ外れる時はあるさ」
『メインの食材も決まりましたし。次はゼリー液を作りましょう』
これで終わりかと思ったら、 瑞希のにゼリー作りはココからが本番なようだ。明久たちも慌てて口を閉じた。
『えーと……まずはココアの粉末をコーンポタージュで溶いて――』
「「「なんだって?」」」
鰻やスッポンの生き血が可愛く見えてくる台詞が聞こえた。
「待って! なんで!? さっきまで食材は普通だったのに!?」
「静かにしろ明久。姫路に見つかるぞ」
「それに食材は普通だろ」
「その使い方が普通じゃないんだけど!?」
明久の心配など(当たり前だが)お構いもせず、瑞希は湯気の立つ鍋に茶色い粉末を投入した。
『オレンジと長ネギ、どっちを入れると明久君は喜んでくれるでしょうか……?』
「迷わない! その2つの選択肢は迷わないよ姫路さん!」
「やべえ。味想像しただけで吐きそうになる」
「やめろバカ。こっちにも吐き気が感染(うつ)るだろうが」
迷った挙句、瑞希は両方とも細かく刻んで鍋に入れた。
『あとは隠し味にタバ――』
「帰るぞ」
「そうだな。これ以上聞くと明久が食えなくなる」
「もう十分だよ! あとせめて最後に入れられたのが『タバスコ』なのか『タバコ』なのかだけでも確認させて!」
さすがにココまできて食材以外を入れることはないだろうが、そうとも言い切れないのが瑞希の怖ろしいところだ。
「あまり時間もない。我儘を言うな」
「どうせ食えば分かる」
「僕の命に関わっているんだけど!?」
粘る明久を無理矢理引っ張って行った。
「よし。それじゃ、このまま新校舎の3階をうろつくぞ。暇そうにな」
「え? 時間がないんじゃなかったの?」
うろつく時間があるのなら瑞希の料理をまだ監視したかった。
「BクラスとDクラスに俺たちがまだなにも白井とアピールするためだ」
「ただ目的もなくうろつくことが?」
「Bクラスの立場になって考えてみろ。自分たちが必死こいて点数補充している時に、ターゲットのFクラスが、自習中とはいえ授業中に廊下をうろついてたらどう思う?」
「バカだと思う」
明久は特大ブーメランを投げつけた。
「……まあ、間違いじゃねえ。Fクラスのバカ共はこちらの意図に気づいていないと判断するだろうさ」
「なるほど。Dクラスは?」
「Dクラスは今は開戦する気配はないが、いざ開戦するってなった時の判断材料になる」
「そっか。戦うなら準備万端の相手よりなにも知らずに点数のない相手と戦う方が楽だもんね」
「なんだ。明久のクセによく分かってるじゃないか」
予想外に理解の早かった明久に、雄二が珍しく感心した。
「ふふん。僕だって成長してるつてわけさ」
明久が得意げに鼻を鳴らす。
それを見た雄二と秀隆がいやらしく笑う。
「ほう。なら、ひとつクイズといこうか」
「成長したなら、簡単に解けるよな?」
「いいよ。どうせブラついてるだけだしね」
意味もなくブラつくのが目的だが、そのまま歩き回るだけでなつまらない。
「なら英単語クイズにしよう」
「俺たちが英単語を言うから意味を答えるんだ。1問でも間違えたらお前の負けだ」
「ん。オッケー。ドンと来い」
明久に不利な条件だが、調子に乗った明久は勝つ気満々だ。
「じゃあ罰ゲームは『負けた方は勝った方の言う事を何でも聞く』だ。行くぞ」
「え!?」
明久が抗議しようとするがもう遅い。
「"astronaut"」
astronaut:宇宙飛行士
普段は使わない様な英単語だが、漫画やドラマに度々出てくるから耳に残っているはずだ。
明久もブツブツと単語を反芻しながら記憶を探る。
「どうした? 分からないのか?」
秀隆が余裕の笑みを浮かべて明久を煽る。
「ふっ。もちろんさ」
明久も余裕の笑みで返す。どうやら答えが分かったようだ。
「なら、答えてもらおうか」
解答を促す雄二に、明久は自信たっぷりに答えた。
「道路によく使われているアレだよね?」
「お前の負けだ」
完膚なきまでの敗北だった。
「どうして最後まで聞かずにそんなことが言えるのさ! 勝負は最後まで分からないはずだよ!」
「ほほう。ならお前は『宇宙飛行士』を道路のどこに使うと言うんだ?」
「…………」
「おおかた、『アスファルト』かその類似品とでも思ったんだろ?」
「…………ナンノコトデショウカ」
aとsが合っているだけ奇跡と言うべきか。
「仕方ない。今回はケアレスミスだけど僕の負けだよ」
「待て! 今のどこに注意を損なう要素があった!?」
「これでゴネたらぶん殴るところだ」
ヤレヤレと首を振る明久に雄二と秀隆もある意味戦慄を覚えた。
「じゃあ、今度は霧島さんの番だね」
「……頑張る」
「「どぅおわぁ!?」」
突然湧いて出た翔子に、雄二と秀隆は飛び上がるほど驚いた。
「しょ、翔子! いつの間に!?」
「まったく気配を感じなかったぞ!」
「いつの間にもなにも、問題を出し始めたあたりからずっといたじゃないか」
「……雄二が『なんでも言う事を聞く』って台詞が聞こえたから」
「こっからAクラスまでまあまあ離れているはずなんだが」
「雄二限定の地獄耳か」
Aクラスの設備的にも外の音はそんなに聞こえないはずだが、翔子の耳は雄二の台詞ならなんでも聞き取れるようだ。
「やっと追いついた! 代表、今は授業中よ!」
と、そこに翔子を追ってきたであろうひとりの少女。
「優子か」
「秀隆? アンタたちこんな所でなにしてんのよ?」
優子が秀隆たちを訝しげに睨む。授業中に外をほっつき歩いているのだから当然だ。
「サボり」
「なに堂々と宣言してんのよ。早く教室に戻りなさい」
「おい、木下姉! 翔子の監視は怠るなと言ってただろう!」
優等生らしく注意する優子に、雄二が抗議した。
「知らないわよ。私は代表のお母さんじゃないもの」
「だとしてもお前のクラスの代表だろ!」
「……雄二、優子は悪くない」
優子に詰め寄る雄二を、翔子が袖を引いて引き留めた。
「翔子……やっと分かってくれたか……!」
「……悪いのはその気にさせた雄二」
「前言撤回だ! やっぱりお前はなにも分かってねえ!」
「なにがあったのよ?」
「実は――」
喚き散らす雄二を横目に見ながら、明久が優子に事情を説明した。
「なるほど。ダメじゃない坂本君。そんな迂闊な台詞吐いたら代表が飛んでくるに決まってるじゃない」
「そう言えばそうだね」
「それもそうか」
「……そう」
「俺の味方はいないのか!?」
授業中の新校舎の廊下に優等生の雄たけびが木霊する。
「雄二、静かにしろ。今は授業中だぞ」
「サボってる人が言えた台詞じゃないでしょうが」
雄二を注意する秀隆の頭に優子のツッコミが入る。
「ほら、代表も帰るわよ」
「……優子、ダメ?」
翔子が小首を傾げて小動物のように優子にねだる。
「ダメに決まってるだろ」
当然雄二も、優子が窘めると思っていた。
「仕方ないわね。1問だけよ?」
「……ありがとう」
「結局こうなるのかよ!」
雄二が頭を掻きむしる。こうなることは予想できていたろうに。
「んじゃ、霧島が出題者で雄二が解答者な」
「待て勝手に進行するな! 俺は翔子の参加を認めた訳じゃないぞ!」
「今更そんなコトを言うなんて男らしくないよ? それとも、雄二は言い訳をして逃げるような男なのかい?」
「ぐっ……!」
秀吉ほどではないが、雄二も男らしさには一家言がある。明久に挑発されて引き下がるようでは、それこそ男が廃る。
「上等じゃねぇか! きっちり答えてやらぁ!」
「……坂本君ってこういう時は分かりやすいわね」
「雄二も単純だからな」
優子と秀隆が後でコソコソ話しているのも聞こえていないようだ。
「それじゃあ霧島さん、問題をどうぞ」
「……うん。えっと――」
翔子がなにかを思い出すように顎に手を当てる。そして出てきた問題はーー
「……"betrothed"」
ダッ (身を翻す雄二)
ガッ (雄二の肩を掴む明久)
「雄二、どこへ行こうというんだい?」
「明久、テメェ……!」
解答が分からず逃げ出そうとした雄二を明久が取り押さえる。こういった時の明久の判断力は早い。
「betrothed? 聞いた感じ過去形っぽいが」
「……そうね。その線で合ってるわ」
生真面目に考える秀隆に、優子がヒントを出すが、少し歯切れが悪い。
「……雄二、早く答えて」
雄二の解答を急かす翔子。このまま不正解なら、雄二は翔子の思うがままだ。
「霧島さん。いきなりトドメもなんだから少しヒントを上げてくれない?」
明久が珍しく雄二に助け舟を出す。が、当然たた助けたいわけではない。雄二の苦しむ姿を長く眺めたいだけだ。
「……え? でも……」
しかし、雄二に一刻も早く不正解になってほしい翔子はヒントを出し渋る。もちろん、それは明久も想定済みだ。
「大丈夫だよ霧島さん。ちょっと耳を貸して。ゴニョゴニョーー」
「おい明久! 翔子に余計なことを吹き込むんじゃねえ!」
明久が翔子に耳打ちしたことにより、雄二の警戒レベルが跳ね上がった。
「ーーね?」
「……分かった。雄二、ヒントとして、今から私の言う英単語を訳して」
「……それで答えが解るのか?」
「……大丈夫」
「む……」
怪しげに睨む雄二に、翔子がコクンと頷く。そこはきちんとヒントを出すようだ。
しかし雄二は迷った。確かにヒントを貰えれば正解する確率は高くなる。しかし明久の入れ知恵により、どんな単語を言われるか分かったものではない。たがこのままでは雄二に勝ち目がないのも事実。
「……分かった。ヒントをくれ」
悩み抜いた末、リスクとリターンを天秤にかけ、雄二はヒントをもらい受けることにした。
「……これから5つの単語を言うから、順番に日本語に訳して」
「5つか。それだけあれば十分だな」
雄二はこれでかなり楽になったと確信した。
「……"I"」
「『私は』」
「……"will"」
「『〜するだろう』」
「……"marriage"」
「……『結婚』」
「……"with"」
「『〜と』」
「……"Shouko"」
ダッ (身を翻す雄二)
ガッ (その肩を掴む明久)
「だから雄二、どこに行こうというんだい?」
「テメェ明久! ハメやがったなこのクソ野郎っ!」
「なんのことかな? それより、早く訳さないとヒントがもらえないよ?」
「アレのどこがヒントなんだよ!」
「坂本君、残念だけど本当にヒントよ。むしろ答えと言ってもいいわ」
「なんだとっ!?」
ただの明久による嫌がらせかと思いきや、優子によると本当にヒントらしい。しかもかなり正解に近い。
「つまり、雄二が霧島と結婚した状態ってことか」
「……はっ! 死刑囚か!」
「家畜だろ」
「………『婚約者』」
結婚は人生の墓場とはよく言うが、死刑宣告と思っているのは雄二くらいだろう。
「へえ"betrothed"って婚約者って意味なんだ」
「"betray"が『裏切り』だからそっち系かと思ってたわ」
「"betroth"が『結婚を約束する』って意味よ」
「ああ。その過去家で『結婚を約束した状態』だから婚約者か」
「流石は霧島さんに木下さん。Aクラスは伊達じゃないね」
「ま、まあこれくらいはね」
明久は素直に優子を褒めるが、どうもさっきから優子の様子が素っ気ない。
「……雄二、罰ゲーム」
「冗談じゃねえ! 罰ゲームで結婚させられてたまるか!」
当然翔子からの命令は『私と結婚して』だろうと思っていたが、翔子は首を横に振った。
「……アレは冗談」
「…………本当か?」
「……半分」
「半分は本気じゃねえか!」
翔子が雄二との結婚をあきらめるわけがなかった。
「……けど今は違う」
「じゃあなんなんだ?」
「……それは――」
頬を染めて翔子が俯きながら呟いた。
「――人前じゃ、恥ずかしくて言えない……」
「なにをやらす気だお前は!?」
翔子が羞恥心を覚えるほどの罰ゲームに、雄二は戦慄した。
「……こんな所で言わせるなんて、雄二はいやらしい」
「待てっ!? 本当になにをさせる気――」
「死ね雄二ぃぃーっ!」
翔子を問い詰める雄二の背後から明久が飛び蹴りを食らわす。
間一髪で雄二は翔子をかばいながらかわした。
「待て明久! なぜ俺を狙う!?」
「黙れこのケダモノ! 白昼堂々霧島さんとナニをするつもりだ!」
「こっちが聞きたいわ!」
嫉妬に燃える明久には、雄二の声は届かない。
「……雄二、こんな所でだなんて」
「翔子、頼むから黙っててくれ! 話が余計ややこしくなる!」
「雄二貴様霧島さんの口を無理矢理その薄汚い口で塞ぐ気だな!」
「するかそんなこと!」
「分かるもんか! 今朝『寝ている霧島さんに無理矢理キスをした』って聞いたぞ!」
ビシッと雄二を指指す明久。どうやら今朝の話が曲解されて伝わっているようだ。
「待て! 話の内容が変わっているぞ!? 本当は――」
「……キスだけじゃ終わらなかった」
翔子の一言で、明久の中で何かが弾けた。
「嫉妬と怒りが可能にした、殺戮行為の極致を思い知れ……っ!」
「うぉっ!? 明久の動きがマジで見えねぇ!」
「ちょっと秀隆、吉井君を止めなさいよ」
「無茶言うなよ。あんなのどうやって――」
「……キスの後、一緒に寝た」
明久のギアが更に上がる。
「ごふっ! バ、バカな……! 明久に力で負けるなんて……!」
「ねえ、たぶん添い寝したってことよね?」
「たぶんな」
「……とても、気持ち良かった」
明久の力が限界を突破した。
「更に分身――いや、残像か!? お前もう人間じゃないだろ!?」
「『殺したいほど羨ましい』という嫉妬心は不可能を可能にする……!」
「嫌な覚醒の仕方だなおい」
「上等だっ……!」
人間を止めた明久に、雄二も本気で相対するが、やや押され気味だ。
「くそっ! このままじゃ……っ!」
明久に喧嘩で負けるわけにはいかない。しかし劣勢は否めない。
「聞け、明久! お前のその嫉妬を向ける相手は他にもここにいるぞ!」
なのでヘイトを分散させることにした。
「俺と同じよなことは、そこの秀隆もやっている!」
明久の死角からの猛攻を捌きながら雄二が秀隆を指さす。
「はあ? んなわけねぇだろ」
秀隆は「何言ってんだコイツ」という顔。自覚がないからそうなるのも当然であるが、
「コイツはこの前木下姉とショッピングモールで手をつないで歩いてたぞ!」
「しゃああぁぁっ!」
「うぉっ!」
明久の矛先に秀隆が追加された。
「アレは人が多かったから仕方なくつないだだけだ! てかなんで雄二が知ってんだよ」
「俺もその場に居た(連行されていた)からな!」
「死ねぇ!」
「どぅわっ!」
「バカがっ! 墓穴掘りやがったな!」
廊下に靴底のラバーが擦れる音と怒号が飛び交う。
「それに俺はその程度だ! 雄二みたいなラッキーハプニングはねえよ!」
「俺のはラッキーでもなんでもねえ! つうかお前それ自分で言ってて虚しくならないか」
「ねえな!」
「おい木下姉。いくらなんでもヘタレすぎだろ」
「なんで私なのよ!?」
思わぬ方向に飛び火した。
「だいたい、私だってキスくらいしたことあるわよ!」
思わぬ爆弾が投下された。
廊下が急激に静まり返る。
「なに言ってんだ? そんな俺にはそんな記憶ねえぞ?」
「…………」
優子の相手が自分だと思っているのは自惚れか無自覚か。
だが優子の方も否定しなかった。
「お、おい優子。冗談、だよな……?」
恐る恐る尋ねる秀隆に、優子は頬を染めて俯いた。
「待て。いつだ? いつやった!?」
「……秘密」
「おおおぉおぃぃっ!」
「「どりゃぁぁっ!」」
明久と雄二が背後から秀隆に蹴りを入れるが、秀隆もそれをギリギリでかわした。
「待て! 早まるな! どうせぶつかった拍子に唇が頬に触れたとかその類だ!」
「それでも羨まけしからん!」
「ガッツリ島田とキスしたテメェが言えた台詞じゃねえだろ!」
「えっと……その……わりとガッツリ?」
「なにしてくれてんだこのバカ野郎!」
最早鬼神と化した明久の猛攻は止まらない。
ラバーの焦げた臭い纏う三つ巴の激戦は、西村教諭が止めに入るまで続いた。
『……優子、いつの間に?』
『……小学校の林間学校の時』
『……優子、大胆』
『……ほっておいて』
ご感想などお待ちしております。
1話分の長さは?
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5000字程度(約5分)が良い
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10000字程度(約20分)は欲しい
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区切りが良ければ何文字でも構わない