バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回から少しですがオリジナル展開に入ります。


第六十三問

第六十三問

 

「よし、時間だな」

 

6限目の授業もHRも終わり放課後。いよいよDクラスとの交渉の時間となった。

 

「最終確認だ。交渉のテーブルに着くのは俺と明久と島田。ただし、交渉は俺がする。明久と島田は余計な口出しはするなよ?」

「分かった」

「……分かってるわよ」

 

秀隆の確認に、明久は頷き、美波はそっぽを向いた。

交渉のテーブルに着くことを了承したとはいえ、明久と一緒にいるのは、まだわだかまりがあるようだ。

 

「ワシらは教室で待機で良いのかの?」

「ああ。Dクラスには『先日の覗き事件での謝罪』って名目で話してあるからな。向こうは代表の平賀と、女子代表の清水だからこっちも人数を合わせた方がいい」

「了解じゃ」

「…………(コクン)」

 

その上、まだBクラスの監視役がどこかに潜んでいるかもしれない。秀吉たちが教室に待機してくれていれば、何かあった時に対処もしやすい。

 

「うし、じゃあそろそろ――」

「神崎はいるか?」

 

秀隆たちが移動しようとした時、西村教諭がFクラスのドアを開いた。HRの時は召喚システムのメンテナンスで不在だったから、それが終わったのだろうか。

西村教諭は教室に残っていた秀隆を見つけると、一瞬安堵した表情になった。

 

「よかった。まだ帰っていなかったか」

「鉄人? 俺に何の用だ?」

「西村先生と呼べ。神崎、学園長がお呼びだ。至急来るように」

「はぁ!?」

 

西村教諭は秀隆を学園長の所に連れて行くという。

 

「ちょっと待てよ! 俺たちは今から大事な――」

「すまんが、明日にしてくれ。こちらも急いでるんだ」

「だから待――グェッ!」

 

西村教諭は有無を言わせず、秀隆の首根っこを掴むとそのまま引きずって行った。

 

「あ、先生ちょとっ!」

「お前らも、放課後だからといって、いつまでも学校にたむろしてないでで早く帰るように」

 

西村教諭は明久たちに一言だけ注意すると、そのまま教室を後にした。

 

「ど、どうしよう! 雄二だけじゃなくて秀隆まで連れて行かれるなんて! まさかこれも根本君の?」

「いや、鉄人は学園長と言っておったから、本当に緊急の用要件なんじゃろう」

「…………不運」

 

康太の言う通り、ここで秀隆が居なくなったのは不運としか言いようがない。

 

「……どうするのよ?」

 

美波が不満そうに明久たちを見やる。美波は『雄二が全てやる』と言われたから交渉に参加することを了承したのだ。その雄二も、代役の秀隆すらいなくなっては、彼女が不満に、不安に思うのも無理はない。

 

「ワシらでやるしかないじゃろうな」

「大丈夫なの?」

「大丈夫かどうかは分からんが、今更後には引けん」

 

既にDクラス代表の平賀と、メインターゲットの清水は空き教室に移動しているはずだ。

 

「とりあえず清水を怒らせることだけ考えるのじゃ」

「そうだね」

「…………」

 

どんどん進んで行く会話を、美波は腕をギュッと掴んで聞いていた。

 

一方、秀隆は西村教諭によって学園長室まで連行されていた。

 

「グェッ!」

 

首根っこを掴まれたまま引きずられ、そのまま部屋の中に放り込まれた。

 

「無様だねぇ」

「テメェクソババア、後で覚えとけよ」

 

秀隆の恨みしか籠もっていない視線を、学園長は軽く受け流す。

 

「はて。最近物忘れが酷くてね」

「じゃあ腕の良い脳神経外科を紹介するぜ。もう手遅れかもだがな」

「……口の減らないジャリだね」

「お褒めの言葉どうも」

 

両者の間にバチバチと火花が散る。このままでは埒が明かないので西村教諭はわざとらしく咳をした。

 

「学園長」

「分かっているよ。アンタを呼んだのはコレの件さね」

 

学園長がデスクの上にゴトッと何かを置いた。

 

「腕輪か!」

「そうさね。やっと調整の目処が立ったんだよ」

 

学園長がデスクに置いた腕輪をコツコツと指で叩く。

秀隆が清涼祭の召喚大会で獲得した『属性付与』の能力を持つ『虹色の腕輪』は、明久たちの腕輪と一緒に、大会後調整の為に秘密裏に回収・調整がされていた。

明久たち3人の腕輪は比較的早く持ち主の元に返されたが、秀隆の腕輪だけ合宿が終わっても調整中だった。

 

「まったく。アンタの要望を応えるためにシステムまでイジらないといけなくなっちまったよ」

「いや当然の要求だろうが」

 

腕輪を回収したのは、まだ調整不足で暴走の恐れがあっつから。特に秀隆の腕輪は、属性を付与した時に、召喚獣のダメージフィードバッグか物理干渉を介して召喚者にも属性によるダメージを負う。その不具合を解消する目処がようやく立ったという。

 

「とりあえず、付与された属性とそのフィードバッグを切り離すのには成功したよ」

「ならとっとと寄越せ。それがあれば今後の試召戦争で」

「待ちな。早るんじゃないよ。説明は最後まで聞くもんさね」

 

ズカズカと近寄って腕輪を取ろうとする秀隆を学園長が諌める。

 

「まだ何かあんのかよ?」

「フィードバッグを切り離すに当たって、腕輪の使用にいくつか制限をかけさせてもらうよ」

「は? 制限?」

 

秀隆の表情が険しくなる。せっかくの強力な腕輪が、その制限とやらのせいで使い物にならなくなったら意味がない。

 

「安心しな。使い難くなるかもしれないけど、使えないわけじゃないさね」

「本当だろうな?」

「もっと大人の言葉を信用しな」

「信用できる大人になってから言いやがれ」

 

売り言葉に買い言葉。再び2人の間に火花が散る。西村教諭が大きな咳をまたひとつ。

 

「……まあ、いい。それで、その制限ってのは?」

「1つは『消費点数の増加』。最初の設定だと毎秒2点だったけど、毎秒5点に引き上げさせてもらうよ」

「倍じゃねえか」

「能力の強さを鑑みたら妥当さね」

「ぐ……」

 

属性付与の能力は、起動しつつげている限り召喚獣の攻撃に属性に応じた追加効果を付与するもの。

殆ど使い捨ての二重召喚とはことなりフィールドにいる限り効果が継続する。その点を考慮すると、消費点数の増加は致し方ないといえる。

 

「仕方ないか。つうか、()()()()ってたな。他にもあんのか?」

「制限は後2つさね。2つ目は、『切り替えの制限』さね」

「切り替えの制限?」

「簡単に言えば、1つのフィールドでは1つの属性しか付与できないってことさ」

 

例えば、数学のフィールドで風属性を付与した場合、そのフィールドでは風属性以外は付与できない、というものだ。

 

「一度フィールドを出て入り直した場合でも?」

「ダメさね。属性付与はその時いた『科目』に紐付けられるのさ」

「つまり、仮に俺が布施先生の張った化学のフィールドで属性を付与した場合、鉄――西村先生の張った化学のフィールドでも」

「布施先生の時の情報が記録されてるから、同じ属性しか付与できないよ」

「厄介だな……」

「システム的にその方が管理しやすいんだよ」

 

召喚獣の点数は科目毎に管理されているから、腕輪能力もそれに則って管理した方が効率的だ。

 

「まあ、同じフィールドで一々切り替えててシステムをバグらせる方が面倒か。それで、最後のは?」

 

ここまでの制約は、秀隆でも納得がいくものだった。しかし、最後の制限には耳を疑った。

 

「最後は、『元々の腕輪能力との併用禁止』」

「はぁ!?」

 

召喚獣の腕輪との併用禁止。それは前の2つに比べて戦略を大きく狭めるものだ。

 

「なんでだよ!」

「騒ぐんじゃないよ。これはアタシにもどうにもできなかったんだ。同時使用すると、致命的なバグが発生するさね」

「じゃあそのバグを取り除いてくれよ」

「どうしようもできなかったって言ったじゃないか。それに、プログラミングってのは直ぐにどうこうできるもんじゃないんだ」

 

ゲームのバグにも、すぐに対応できるものと、原因が分からず対応できないものがある。学園長は今回は後者だと言う。

 

「再現性はあるんだけどね。どうやっても同じバグが発生する。これはおそらく『オカルト側』の問題さね」

 

召喚システムは科学とオカルトが奇跡的に融合してできたもの。未だその全貌が解明されたわけではない。特に、オカルト面はブラックボックスがまだまだ多い。

 

「まあ、仮に取り除けたとしても、取り除く気はないけどね」

「なんでだよ?」

「当たり前さね。アンタらは腕輪能力を2つ持ってるようなもんなんだよ。同時使用できようもんなら、パワーバランスが崩壊するのは目に見えてるじゃないか。特に、アンタの腕輪は遠隔操作ができるからね。」

「ちっ」

 

室内に秀隆の舌打が響く。まさに秀隆が考えていたのがそれだった。

防御面では申し分ない変わりに攻撃性能のない秀隆の召喚獣の腕輪。そこに虹色の腕輪の属性付与がかかるのだ。その上での遠隔操作。結果は火を見るより明らかだ。

 

「アタシはね、弱者による下剋上も、強者による制圧も認めてるよ。けどね、一方的な蹂躙まで赦したつもりはないよ」

 

学園長が秀隆の考えを見透かしたかのように睨みつける。

秀隆も、その鋭い眼光を真正面から受け止めた。

 

「…………とかなんとか言って、本当は後処理が面倒なだけだろ?」

「勘の鋭いガキは嫌いさね」

 

不敵に笑い返す秀隆と学園長。ある意味似た者同士だなと西村教諭は思った。

 

「まあ、致命的なバグがあるっつうなら仕方ねえか。んで、そのバグってのは?」

「点数が強制的に0になる」

「致命的すぎないかそのバグは!?」

「使わなければ問題ないさね」

「いやそうだけどよ!」

 

ゲームでいうところの進行不能バグレベル。学園長の言う通り使わなければいいだけだが、それを抑制のためとはいえ放置するのも納得はいかない。

 

「さて」

 

そう言って学園長がデスクのボタンを押すと、室内に召喚フィールドが展開された。

 

「それじゃ、テストに付き合ってもらうよ」

「今からか?」

「こういうのは早い方がいいだろう?」

 

学園長が秀隆に腕輪を放る。秀隆はそれをキャッチすると右腕に装着した。

 

「とりあえず使ってみな」

「相変わらず強引なババアだ。属性は何にする?」

「炎がいいね。見た目にも分かりすいし?」

「あいよ――試獣召喚(サモン)!」

 

秀隆の言霊に応じて魔法陣が現れ、お馴染みの召喚獣が出現した。

 

「んで、属性付与(エンチャント)(フレイム)!」

 

虹色の腕輪が起動し、秀隆の召喚獣が炎を纏う。

 

「…………熱くない」

 

大会後のデモンストレーションでは、本当に炎の中にいるかのような熱さだったのに、今はそれを全く感じない。

 

「どうやら、成功したようだね」

「ああ。そうだ――()()()()?」

 

学園長の一言が引っかかった。

 

「ババアテメェ。まさかコレがぶっつけ本番じゃねえよな?」

「シミュレーションでは問題なかったさね」

「実践してから言え!」

 

失敗した時のことなど、始めから考えていないようだ。

 

「それじゃ、適当に動いてみな。グズグズしてると点数が無くなっちまうよ」

「クソったれが……」

 

秀隆は召喚獣に剣を構えさせ、

 

「火炎れ――」

 

炎を纏った縦方向の回転斬りをしようとしたところで、学園長がフィールドを消した。

 

「やるじゃねえかクソババア」

「ふん。アンタの考えてることなんて、お見通しさね」

 

両者共にニヤリと不敵に笑う。なんだかんだ思考がにているところがあるようだ。本人たちは不本意だろうが。

 

「バカモノ!」

「がぁっ!」

 

油断したところで、西村教諭の拳が秀隆の脳天をかち割った。

 

「学園長に召喚獣を向けるなど、何を考えてるんだキサマはっ!」

「頭が、頭が砕けるように痛い!」

 

西村教諭の説教も、痛みに悶える秀隆には聞こえるはずもなく。

その後は西村教諭監視の下、虹色の腕輪を起動した召喚獣の動作確認を行った後、腕輪は再調整のため回収されたものの、ようやく秀隆は解放された。

 

秀隆は学園長室を出ると、旧校舎に急いだ。Dクラスとの交渉は既に始まっているはず、もしかしたらもう終わってるかもしれない。上手くいってくれてればいいのだが。

 

「っと!」

「ぬぁっ!」

 

廊下を曲がったところで、誰かにぶつかってしまった。秀隆はギリギリ踏ん張ったが、相手が尻もちをついてしまう。

 

「いたたた……」

「悪い、急いで――秀吉?」

 

ぶつかった相手は、なんと秀吉だった。

 

「おお、秀隆か。学園長の用事は済んだのか?」

「ああ。それより、慌ててたようだが何かあったのか?」

 

秀隆が秀吉の腕を引っ張って立たせる。

秀吉はお尻についた埃を払うと「そうじゃ!」と切り出した。

 

「お主、島田を見なかったか?」

「島田? 見てないが、島田がどうかしたのか?」

 

秀吉は美波を探していたようだが、交渉は終わったのだろうか。

 

「実は、Dクラスとの交渉中に島田が飛び出して行ってしまったのじゃ」

「はぁ!?」

 

秀隆は今日何度目かの驚きの悲鳴を上げる。

 

「どういうことだ?」

「実は……」

 

秀吉が事態をかいつまんで説明した。

Dクラスとの交渉開始早々、清水は明久と美波が恋人関係でないことを見抜いていた。それを明かしたばかりか、明久は美波に相応しくないと言い、普段から明久が美波を『女の子』として扱っていないことを糾弾した。

瑞希との扱いの違い、男友達の様な接し方。それらを指摘し、明久を最低だと罵った。そして清水の言葉に堪えきれなくなった美波は、教室を飛び出してしまったという。

 

「ワシはすぐに島田を追ったのじゃが、交渉はおそらく……」

「決裂、だな」

 

ターゲットとである清水が明久と美波の演技に気づいており、なおかつ美波が感情を抑えきれずにいたとしたら、交渉どころの話ではない。

 

「すまぬ、秀隆」

「お前のせいじゃねえよ。それこそ、全員の責任だ」

 

俯く秀吉の肩に、秀隆はポンと手を置いた。

 

「じゃがどうするのじゃ? このままではワシらはBクラスと……」

「どうしたんですか?」

 

その時、2人に話しかける声がして、2人は驚いて振り返った。

 

「姫路か? 放課後のこんな時間になにしてんだ?」

「図書館で少し勉強をしてました」

「真面目じゃのう」

「そんなことないですよ?」

 

まともな授業のない日でもきちんと勉強する。瑞希の優等生たるゆえんのひとつだ。

 

「それより、美波ちゃんがどうとかって聞こえたんですけど、なにかあったんですか?」

「……ああ。実はな」

 

秀隆と秀吉がこれまでの経緯を瑞希にも説明した。

 

「美波ちゃんがっ!? 大変です! すぐに探さないと!」

「落ち着け姫路。島田は携帯電話を持っていたはずだ。とりあえず連絡してみてくれ」

「分かりました!」

 

瑞希は急いでカバンから携帯電話を取り出して美波の番号にかけた。

 

「……出てくれません……」

 

何度かコールしているが、美波が出る気配がない。

 

「電源を切っておるのかの?」

「あるいは気づかないほど思い詰めているか」

「――あっ! もしもしっ!」

 

もうすぐ留守電に切り換わるところで繋がったようだ。

 

「もしもし美波ちゃ――え? 土屋君!?」

「なんじゃと?」

 

だが電話に出たのは、美波ではなく康太だった。

 

「どうして美波ちゃんの携帯に土屋君が」

「姫路、携帯電話借りるぞ」

「あ、は――」

 

瑞希の返事も待たず、秀隆は少し乱暴に瑞希から携帯電話を引ったくると、そのまま耳に当てた。

 

「康太、俺だ」

『…………秀隆?』

「ああ。島田はそっちにいるか?」

『…………まだ戻ってきてない。なにかあったのか?』

「詳しい説明は後だ。とりあえず、島田のカバンと携帯電話を持って昇降口に来てくれ」

『…………分かった』

 

康太に移動をお願いして、秀隆は電話を切った。

 

「どうして土屋君が美波ちゃんの携帯電話を?」

「それに、島田がまだ教室に戻っていないとはどういうことじゃ?」

「それを確認するために、昇降口に行くぞ」

「昇降口?」

「説明は後だ。急ぐぞ」

 

秀隆はある事を確認するために、昇降口へと走り出した。

昇降口で康太と合流した3人。秀隆は昇降口に着くと、真っ先に美波の下駄箱を開けた。

 

「…………まだ、靴はある」

「なら、まだ校内にいるってことですね」

 

下駄箱には、美波のローファーがまだ入っていた。つまり、学園から出ていないということだ。

 

「しかし、なぜ教室に戻らんかったんじゃ?」

「霧島さんみたいに、どこかに隠れているのでしょうか?」

 

如月ハイランドのウェディング体験で、ヤンキーカップルに侮辱された翔子は、会場を飛び出してホテルのリネン室に隠れていた。美波も同じようなことをしたのだろうか。

 

「…………とりあえず、手分けして探すぞ。秀吉と姫路は新校舎、康太と俺は旧校舎を探そう。一通り探したらまたここに集合。康太、悪いが島田のカバンは預かっといてくれ。姫路は島田の携帯電話を頼む」

「私がですか?」

「島田の家族からかかってきた時、お前が出たほうが自然だろ?」

「そうですね。分かりました」

 

康太が瑞希に携帯電話を渡す。瑞希は受け取った携帯電話を胸元でギュッと握りしめた。

 

「んじゃ、行くぞ」

「…………(コクン)」

「了解じゃ」

「分かりました!」

 

各々が担当した場所に向かう。階段で康太と別れた後、秀隆は携帯電話を取り出してアドレス帳を開いた。

 

「――ああ、俺だ。悪いが急ぎで頼みたいことが――」

 

約30分後、秀隆たちが再び昇降口に集まった。校舎中を探し回ったせいか瑞希の息が荒い。秀隆たちも多少呼吸が乱れている。そして、全員の顔が暗かった。

 

「……見つかっては、ないな」

「はい……」

 

秀隆の確認に、全員が首を横に振る。

 

「…………屋上や体育倉庫も探したけどいなかった」

「途中教師に何人かすれ違ったから聞いてみたが、島田の姿を見た者はおらんかった」

「美波ちゃん、どこに隠れているのでしょうか?」

 

めぼしい場所は全て探したはずだ。4人がかりで見つけれないとしたら、相当見つけにくい場所に隠れているのだろう。

 

「……いや、こうなると、島田はもう学校にはいないとみた方がいいな」

「ええっ!?」

 

秀隆は、美波はもう帰ってしまったと考えた。

 

「島田の靴は下駄箱にまだあるのじゃぞ?」

「そうですよ!」

「…………矛盾する」

「別に矛盾はしねえよ。上履きから履き替える暇がなかった。いや、そこまで気が回らなかったって言った方がただしいか」

 

顎に手を当てる秀隆の眉間にしわが寄る。

 

「どういうことですか?」

「さっき姫路が言ったように、霧島の時に近い。あの時も霧島は衝動的に会場から出ていった」

「しかし、あの時はホテルに隠れていたのじゃろう?」

「…………リネン室で見つけたはず」

「あの時は動きにくいヒールに目立つウェディングドレスだったからな。園内から出なかったというより、出られなかったって感じだ。けど、島田は制服な上に靴も動きやすい上履き」

「放課後だから、美波ちゃんが学校を出るのに誰も違和感を覚えなかった、ということですか?」

 

瑞希の問に、秀隆はコクンと頷いた。

いつだったか、遅刻ギリギリで登校した生徒が上履きに履き替えずスニーカーで教室に入ったということがあった。今回はその逆だと秀隆は言う。

 

「だとしたら、既に家に帰っておるのかの?」

「それなら良いが。姫路、島田の家の電話番号分かるか?」

「あ、はい。かけてみますね」

 

瑞希は携帯電話を開くと、美波の家に電話をかけた。

 

「――あ、もしもし。私、姫路瑞希と……はい、そうです。あの、美波ちゃんは……はい、はい……いえ、ありがとうござました」

 

電話を終えた瑞希は、暗い顔のまま首を横に振った。

 

「美波ちゃん、まだお家に帰ってないみたいです」

「なんじゃとっ!?」

「……無理もないか。上履きのままで学校を飛び出すほどショックだったんだ。たぶん、今頃きまりが悪くなって家に帰り辛いんだろう」

「…………どうする?」

 

学校にもおらず、家にも帰っていないとすると、当てもなくどこかを彷徨っているかもしれない。

 

「しばらく様子を見て、警察に相談するしか――」

「――私の、せいでしょうか?」

 

善後策を講じていたところに、瑞希がポツリと呟く。

 

「姫路?」

「私が、美波ちゃんの、気持ちを知ってたのに」

 

ポツリポツリと話す瑞希から、大粒の涙が零れる。

 

「姫路……」

「私のせいで美波ちゃんが!」

「落ち着け! 姫路!」

 

秀隆が大声を上げて瑞希の肩をがっと掴む。掴まれた瑞希の身体がビクンと震えた。

 

「で、でも……」

「いいか姫路。コレは絶対にお前のせいじゃない」

「そうじゃ。姫路が負い目を感じる必要などないのじゃ」

「…………誰の責任でもない」

 

自責の念に責められる瑞希を秀隆たちが諭す。

 

「いいか姫路。お前らは『たまたま』同じ気持ちを持ったにすぎない。その対象が同じだったこともだ」

「ドラマや演劇でなくとも、現実でも同じような状況になることはままあることじゃ」

「…………ある意味、当たり前のこと」

「そう、でしょうか……」

 

姫路が俯いて目をそらす。

 

「そうだ。お前らの感情は、決して否定されるものじゃない」

「それが否定されるなら、真っ先に否定されるべきは清水じゃ」

「…………けど否定されていない」

 

秀隆も以前、清水を毛嫌いしてるのはやり方が気に食わないだけでその感情そのものには興味ないと言っていた。

瑞希たちの感情は、尊ばれこそすれ、下卑されるものじゃない。

 

「けど、私が諦めていたら」

「本当にそう思うか?」

「え?」

 

瑞希の肩を掴む手に、いっそう力がこもる。

 

「お前が諦めていたら、本当にこんな事にはならなかったのか?」

「それは……」

「そうしたらお前は、後悔しないのか?」

「…………」

 

瑞希は目をふせて、じっと考えた。

演劇ではなく本当に付き合っている2人。楽しそうに笑い合ってる2人。その2人を、遠くから眺めている自分。

答えは、決まっていた。

 

「…………せん」

「うん?」

「…………ありません。後悔、しないわけ、ありません」

 

目に涙は湛えたまま。しかし、瑞希はハッキリと答えた。

 

「美波ちゃんは大切な友だちです。けど、例え裏切りだとしても、この気持ちに嘘をつくことは、私にはできません」

「島田も、きっと同じ気持ちじゃろうな」

「…………(コクン)」

 

だからこそ、2人の演技に気迫が溢れたのだ。

 

「けど、本当にいいんでしょうか?」

「いいんだよ。モヤモヤした気持ちのまま卑屈になっちまうと、それこそ両方失っちまう。そうなるくらいなら、腹を割って話して、改めてライバル宣言すればいい」

「そう、でしょうか?」

「ああ。むしろ自分気持ちに嘘ついて心にもないことを言う方が最悪だ。結局相手も自分も傷つけて、ズルズルと疎遠になっちまう。お前はそれでいいのか?」

「それは、嫌です」

「だったらよ。そこんとこ踏まえて島田と向き合わないとな」

 

いつになく饒舌に瑞希を励ます秀隆。まるで自分に言い聞かせているようだった。

 

「分かりました。ありがとうございます」

「おう」

 

秀隆は瑞希の肩から手を離す。

 

「しかし、腹を割って話すと言っても、肝心の島田がどこにおるのやら」

「…………街中を探すのは大変」

「そうですね。明日改めて――」

 

とその時、秀隆のポケットから携帯電話のヴァイブレーションの音がした。

 

「メールかの?」

「みたいだ――よしっ!」

 

秀隆がメールの内容を確認すると、安堵したように息を吐いた。

 

「島田が見つかった」

「ええっ!?」

「なんとっ!」

「…………いつの間に?」

 

メールの中身は、美波を見つけ、保護したというものだった。

 

「そ、それで美波ちゃんはどこにっ? 大丈夫なんですかっ?」

「慌てるな。特に怪我はしてないらしい。今話を聞いているらしいから、姫路も行ってくれ。島田の靴とカバンも忘れずに」

「それはもちろんですけど、美波ちゃんはいったいどこに?」

「ああ。島田は今――」




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