バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回からDクラス戦に入ります。


第六十五問

第六十一問

 

『我々Dクラスは、Fクラスに対して宣戦布告を行う!』

 

翌日。朝のHRの終了直後に、Dクラスの男子生徒がFクラスにやってきて、高らかに宣戦布告を告げた。

 

「? なんじゃと?」

 

近くで聞いていた秀吉が怪訝そうな顔をする。昨日の放課後、交渉が決裂した現場に居合わせていた秀吉からすれば、この宣戦布告は想定外のことだ。

 

「どういうことだ? 昨日聞いた話だと清水の挑発は失敗したはずだが?」

 

雄二も似たように疑問符を浮かべる。あの後電話で秀吉から聞いていた経緯との違いが腑に落ちないのだろう。

因みに明久へも電話したそうだが留守電にしていたらしく繋がらなかったらしい。

 

「ムッツリーニ、秀隆。状況は分かるか?」

「…………昨日何があったかまでは分からない。けど、今日は朝から清水がいやに興奮していた」

「今メールで確認した。悟も今朝開戦を知ったそうだ」

「だとすると、挑発は成功したんじゃないか?」

「いや、そんなはずはないのじゃが……」

 

昨日はDクラスの交渉後に美波の一件があってバタバタしていたから、その後の清水の様子は確認できていない。

今朝も美波からは昨日ことについての謝罪は(明久以外に)あったが、清水に関してはなにも言ってこなかった。

 

「……明久。お前なにかしたか?」

 

秀隆が探るような目で明久を睨む。秀隆だけではない。雄二も秀吉も康太も明久を怪しむような目で見ている。何かできるとしたら、あの場に最後まで残っていた明久以外いないのだから。

 

「い、いや別に。そ、そんな事より試召戦争だよ! 相手はBクラスじゃないとは言え、今の僕らには厳しい相手なんだから早く準備を始めないと!」

 

明久は注がれる視線から目を逸らして机に向かった。なにかを隠していることは明白だ。

 

「……まあ、そうだな。真実がどうあれ、先ずは目先の試召戦争だ。これでDクラスに負けたら元も子もないからな」

 

だが経緯はどうあれ、Bクラスと開戦という最悪の事態を避けられたのは事実だ。雄二もそれ以上は追及せず、Dクラスとの試召戦争に向けて指示を飛ばす。

 

「確かにその通りじゃな。今のワシらの中でまともに闘える者は少ない」

「アレコレ余計な事考える暇があったら手を動かせってな」

「…………防衛が優先」

 

秀吉たちも頭のスイッチを切り替える。せっかく想定通りにDクラスと開戦したのに、敗北してしまっては元の木阿弥以下になってしまう。

 

「それで雄二、作戦は?」

「当然考えてある。だが先ずは戦力の確認だ。今お前と姫路、島田、リリア以外に戦えるヤツがどの程度いるのかを調べる」

「俺も高橋先生と戦り合ってそこそこ消費してるんだがな」

「お前は点数関係なしにどうにかするだろ」

 

雄二の言葉に秀隆は「雑だなぁ」と苦笑する。

だが実際問題として、Fクラスでまともに戦えるであろう戦力がその4人なのだから仕方ない。

 

「野郎ども、よく聞け! さっき言われた通り、俺たちFクラスはこれよりDクラスとの試召戦争に突入する! 先ずは戦力の確認だ! 今から各自、自分の持ち点を紙に書いて提出するように!」

 

Dクラスの宣戦布告でにわかにざわついていた教室が静まり返り、各々が紙と鉛筆を取り出した。

強化合宿の覗き騒動である程度消費したからといって、全員が全員点数を失ったわけではない。秀隆のように高橋先生に挑んでないかぎり、戦場にならなかった科目は消費されていないし、辛うじて生き残ってまだ点数が残っている生徒もいる。

現状の戦力確認は、補充テストを受けるにあたり、残りの点数から受けるメンバーを選定するのも目的だ。

 

「そう言えば、秀吉ってどのくらい残ってるの?」

 

ふと明久が秀吉に尋ねた。秀吉も覗きのメンバーだったが、殆ど戦闘に参加していないので点数は残っているはずだ。

 

「実はワシも殆ど消費しておらん」

「あ、やっぱりそうなんだ」

「うむ。むしろ、なぜか女子生徒から庇護の対象にされておった……」

 

思い返してみれば、秀吉は隠しカメラの見つかった初日から女子生徒に庇われていた気がした。それが最終日にも続いていたというのだ。

 

「じゃあ戦力に秀吉も加えていいわけだ」

「うむ。総合科目勝負を挑まれたらワシらが率先して参加しよう」

 

そう言って秀吉も紙に自分の点数を書き記し、明久もそれに倣った。

 

「はい雄二」

「あいよ」

 

明久も点数を書いた紙を雄二に渡す。

雄二は全員の点数が出揃ったところで、パラパラとそのメモを捲りながら皆に呼びかけた。

 

「最初に下位10名に点数の補充をしてもらう。補充組は教室に残ってくれ。なお、補充を受けるのは数学が7名、世界史と化学と保健体育が1名ずつとする。各自の配置は点数の確認を終えてから発表する」

 

そう告げると、雄二はメモを小脇に抱えて自分のちゃぶ台に戻った。

「ねぇ、雄二」

 

ちゃぶ台にメモを広げて配置を考えている雄二に、明久が横から声をかける。

 

「なんだ」

「どうして点数補充をあんなに細かく分けるの? 僕らは早く点数を補充しなくちゃいけないから、先ず採点の早い数学に揃えるべきじゃないの?」

 

化学と保健体育はともかく、世界史は採点が甘い代わりに遅いことで有名だ。いち早く戦力を整えたいFクラスにとっては1番避けるべき科目だろう。

 

「明久にしては考えてるじゃないか、と言いたいとこだが、今回は極力時間を稼ぐのが目的だからな。戦術云々よりも、心理的な睨み合いが必要になる」

「それはわかるけど……」

「そんな睨み合いが必要な状況で数学教師だけを教室にいれて点数補充をしていたら相手はどう思う? こちら備えがないと教えているようなもんだろうが」

「けどそれなら、秀隆や姫路さんみたいに点数のある人を前線に置いとけばよくない?」

「アホか。秀隆はともかく、姫路まで前線に出してみろ。それこそ戦力がないのがバレるだろうが」

「俺はいいのかよ」

 

秀隆が横槍を入れる。だが明久の言う通り、時間を稼ぐと言うのなら、今まで散々戦場を引っ掻き回してきた秀隆が前線を張れば良い気がしないでもない。

 

「でも、僕らが点数がないのは皆にバレてるんだよ? そんなことしても向こうは警戒しないと思うけど?」

 

寧ろ向こうがゴリ押ししてきて、前線に戦力を出し渋ったために防衛線が突破されるかもしれないと明久は危惧した。

それに、たとえ点数を補充する科目を散らしたところで、相手が二の足を踏むとも思えない。

 

「それを警戒させるのが作戦ってもんだろうが。まあ、いいから見ていろ」

 

雄二は明久を軽くあしらうと、点数の書かれたメモを見ながらノートに布陣を描いていく。雄二の中では、既に作戦が出来上がっているのだろう。それこそ、Dクラスとの開戦を想定した時から。

雄二のノートを脇から見ていた明久は、自分の名前がが点数補充ではなく、前線の防衛戦に置かれているのを見つけた。

 

「あれ? 僕は点数補充じゃないの?」

「お前はまだ点数が残っていたからな。補充テストは戦死して0点になったヤツからやっていく」

「ああ、そっか。僕は鉄人としか戦ってなかったもんね」

 

その鉄人との戦いも、途中で秀隆たちの乱入により中断されていた。もう少しで鉄人の股間を粉砕できたのに、と明久は今更ながら悔しい思いがした。

 

「それに、お前は特別な人材だからな」

「特別って、いやぁ、そんな……」

 

明久が小っ恥ずかしそうに後頭部を掻く。

雄二の言葉をその言葉通りに受け取ったようだが、横で聞いていた秀隆は微妙そうな顔をした。

 

「今回の作戦でも、お前は重要な役どころになる。キツイだろうが耐えてくれ」

「了解。そこまで言われたからには頑張るしかないね」

「んじゃ、俺は後方でゆっくり――」

「お前には前線の指揮を取ってもらう」

「なんでだよっ!?」

「文句を言うな。キリキリ働けサボリ魔」

 

現在時刻は午前8時50分。9時開戦予定だから開戦まであと10分ほど。

明久たちはい不安と緊張感に包まれながら、開戦の時を待った。

 

「いいかお前ら! 前回勝ったからといって相手を舐めるなよ! この状況の上に相手は俺たちよりも2つもクラスが上だ! 下手に欲をかくと逆に痛い目を見るハメになるらな!」

 

出撃前ブリーフィングとして雄二が教壇に立つ。

 

「どんなに有利な状況でも決して深追いはするな! 決められた場所でひたすら防衛に徹しろ!」

 

下手に深追いすれば相手の思う壺。

事前の点数調査では、瑞希たち女子と秀隆、秀吉を除いたFクラス男子生徒の総合点数は10000点にも満たない。対して補充を終えたDクラス女子の総合点数は1人あたり1500点前後。単純計算でも女子だけで40000点弱。そこに男子生徒の点数も加わるのだから、彼我の戦略差は歴然だ。

戦力は向こうの方が遥かに上なのだから、待ち受けて返り討ちを画策している可能性は十分にある。そうなったら、たとえ有利に戦局を進めて行っても、あっという間に形勢は逆転されてしまう。

 

「向こうは圧倒的に有利な女子の総合科目をメインに攻めてくる! そこで防衛の主軸を秀隆と島田、秀吉とリリアの2組に編成する! 上手く立ち回れよ! 限界まで粘ったら状況によっては教室前まで退いてもいい! 以上だ! 検討を祈る!」

 

今回の試召戦争の要は旧校舎と新校舎を繋ぐ渡り廊下。そこをメインの戦場においた守りの布陣だ。

ブリーフィングが終了すると同時に時計の長針がカチリと動き、9時を示す。開戦の時間だ。

 

『いよっしゃぁああーっ!!』

 

開戦と同時に先行部隊がダッシュで現場を目指す。向こうもこちらに何かされる前に決着をつけようと電撃戦でくるはずなので、開幕はスピード勝負となる。

明久たち主要メンバーも戦場に赴くべく教室を飛び出す。

 

「美波、おはよう」

「…………」

 

教室を出る時に美波を見かけ挨拶をしてみるが、返事はない。

 

「Dクラスが宣戦布告をしてくれてよかったね」

「…………」

 

めげずに話を続けるが、顔を背けられて見向きもしてくれない。

 

「あとはこの戦いを乗り切るだけだね」

「…………そうね」

 

やっと聞けた返事も素っ気ない。なんとか美波の機嫌を伺おうと、明久は切り口を変えてみた。

 

「こうしていると、なんだか前の試召戦争の時を思い出さない?」

「…………そうね。アンタがウチのことを見捨てたこととかね」

 

明久が引きつった笑顔のまま硬直した。完全に墓穴を掘ったようだ。

 

「美波。もしかして……まだ怒ってる?」

 

明久が恐る恐る尋ねるが、美波はまだ顔を背けたままなので表情が読めない。

 

「…………別に」

「いや、怒ってるでしょそれ」

 

思わずツッコミを入れてしまい、また明久はデリカシーがないことを言ったと後悔した。また美波を怒らせてしまう。

 

「…………」

 

だが予想に反して、美波から怒号が響くことはなかった。やはり、今日の美波は様子がおかしい。

 

「美波?」

『大変だ! Dクラスの攻撃が想像以上に激しい! 至急応援を頼む!』

 

と、先行していたクラスメイトからの救援要請が入った。やはりDクラスは速攻で一気に勝負を決めるつもりだ。

 

「……ウチ、行くから」

「あ、僕も――」

 

明久も美波と行こうとするが、美波は明久を置いて駆け出してしまった。

 

「美波……」

「ま、まだ気持ちの整理がついてないんだろ」

「わっ!」

 

寂しそうに呟く明久の後ろから、秀隆が首に腕を回してきた。

 

「なんだ、秀隆か。でも、いつもなら……」

 

いつもなら、ちょっとした喧嘩くらいなら、1日経てば元通りだったのに。

 

「だからいつもと違うってことだろ。もう少し大人しくしときな」

「……うん」

「お主ら何をしとるんじゃ。ワシらも急ぐぞ。前線を突破されたら意味がないからの」

「おう」

「あ、うん」

秀吉に急かされて、明久たちも渡り廊下へと急いだ。

 

「Fクラス、覚悟しなさい!」

 

明久たちが渡り廊下にさしかかると、既に一部では戦闘が始まっていた。

 

「高橋先生! Dクラス玉野美紀が召喚を行います!」

 

Dクラスの女子生徒の1人が戦いを挑んできた。向こうは高橋教諭を連れている。予想通り、総合科目勝負で一気に攻め立てるようだ。

かと言って逃げるわけにもいかない。勝負を挑まれた以上、こちらも召喚獣を喚びださないと試合放棄と見なされて戦死扱いとなる。

どれだけ不利な勝負を挑まれようとも、即刻生徒指導室(地獄)に送られるよりは万が一に賭けるほかない。

 

「上等だ! Fクラスの底力を見せてやるぜ!」

「行けるのか、福村!」

「任せておけ! 目に物見せてやるぜ!」

 

玉野の勝負を受けたのは福村。勝算があるのか、その声は自信に満ちていた。

 

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

福村と玉野の声が喚び声が重なる。

キーワードと共に足元に魔法陣が描かれ、そこからお馴染みの召喚獣が現れた。自身を3頭身ほどの姿にデフォルメした召喚獣。ゴリラ以上のパワーを持つと言われる召喚獣の頭上に強さを表すテストの点数が浮かび上がる。

 

Dクラス 玉野美紀 総合科目 1543点

         VS

Fクラス 福村幸平 総合科目 118点

 

福村の自信はどうやら空元気だったようだ。

 

「くそ……っ! もう保たねぇ……!」

「福村!? まだ召喚したばかりだぞ!」

 

戦ってすらいないのだから持ち堪えるもなにもないのだが、福村の気持ちも分かる。相手とは10倍以上の点差があるのだ。これで勝てると思うほうがどうかしている。

 

「Dクラス、これ程とは……っ!」

「いやカッコつけてるとこ悪いがお前が酷いだけだからな?」

 

召喚獣の装備も、玉野が女足軽装備に打刀なのに対して、福村はボロボロの鎧とロングソード。普段から貧相な装備なのに、点数のせいで更に惨めになっていた。

 

「くらいなさいっ!」

 

玉野が福村の召喚獣に向かって刀を振り下ろす。普段なら剣で防御できるが、今の状態だと受けた瞬間に剣が折れてしまいそうだ。

 

「く……っ! こうなったら!」

 

玉野の召喚獣の動きに合わせ、福村が武器を捨てて構えを取る。

 

「ダメだ福村君! 無手で勝負なんて自殺行為だ!」

「けど、やるしかねぇんだ!」

 

武器が使えないなら無手も同義と判断したのだろうか、福村は明久の忠告も聞かず構えを解かない。

 

「い、いったい何を……!?」

「Fクラスを舐めるなよ!」

 

戸惑う玉野をよそに、福村の召喚獣が迫りくる刀に対して手をかざす。

誰もが固唾を飲んで見守る中、パンッと召喚獣が手を打ち鳴らす音が響く。

 

「へ、へへへ……。真剣白刃取り、成功だぜ……」

 

笑みを浮かべ得意げに告げる福村。彼が果敢に挑んだのは無手の奥義のひとつ、真剣白刃取りだった。

ただし、その刃を受けたのは両手ではなく召喚獣の脳天だった。

 

「失敗してんじゃねぇかよ!」

「ば……っ! ち、違ぇよ! コレが俺の狙い通りなんだよ!」

「狙って自滅するバカがいてたまるかよ!」

 

後に福村曰く、『アレは右脳と左脳を使った白刃取りだった』らしい。白刃取りの意味を今一度問いたくなる。

 

「福村幸平! 戦死!」

 

当然脳天で白刃取りした召喚獣の点数は0点となり、福村の弁明も虚しく戦死報告が入る。戦力差以前の問題ではあるが、その差は歴然と言える。

 

「くそっ! よくも福村を! 今度は俺が行くぜ! 試獣召喚!」

「いや、福村は勝手に自滅しただけだからな?」

 

名誉(?)の戦死により補習室に連行される福村を尻目に、戦いは続いていく。

そんな戦局を見回していた明久が、あることに気がついた。

 

「あれ? 向こうの人数が少ないような……?」

 

雄二はDクラスは一気に決着をつけにくると予想し、明久もそれに同意した。Dクラスが高橋教諭を連れているとこからも、その予想は外れていないだろうと思っていた。

しかし、実際向こうの主戦力である女子生徒は9人と少ない。Fクラスを制するにはこの渡り廊下の突破は必須。なのにこれだけしか戦力を投下しないのは不自然だ。

 

『くそっ! 点数では勝ってるのに!』

「悪いな。点数でどうにかなる程優しくはねぇからな!」

 

その上こちらには秀隆(鬼)がいる。秀隆を倒すためにも増援は必須のはずだが、Dクラスからの援軍は一向に来る気配がない。

 

『……やっぱり、姫路さんはがいないわ……』

『階段の方にもいなかったみたい』

『時間稼ぎが目的な戦い方だし、間違いないよね……』

 

そんな会話がDクラスから漏れ聞こえてくる。瑞希を警戒しているのかと思った矢先、Dクラスの女子生徒が2人戦線から離脱していった。

 

「向こうは人数が少ない! 取り囲んで上手く出入りしながら戦うのじゃ!」

 

明久が不審に思っていると、秀吉からの指示が聞こえた。

こちらの人数は20人程。向こうの約3倍のだ。個々の点数の差は大きいが、この人数差なら隙を補完しあいながら戦線を維持できる。

こちらはリーダー格である秀吉とリリアを正面に立てて、その周囲から他のメンバーで援護するような陣形を取っている。秀隆と美波は遊軍的な立ち回りで適宜応戦していく。

 

『清水からの伝言だ。「怪しい情報を掴んだので棒引きを固めます。その場所は相手の狙いが分かるまで6人で戦線を維持するように」とのことだ』

『了解』

 

と、そこにDクラス男子生徒が伝令を告げたかと思ったら、更に1人が戦線を離れていった。これでますます有利な戦況にはなったが、明久は向こうの意図がさっぱり掴めずにいた。

 

「ま、いっか。とりあえず、僕も雄二の指示通り動こう。――試獣召喚(サモン)っ!」

 

明久も周りの皆に倣って召喚獣を喚び出す。

明久が雄二から受けた指示は『召喚獣を出して、一瞬だけ戦いに出てから余裕たっぷりに離脱しろ。お前が点数を残しているというアピールが出来たら戻ってこい』というものだ。

こちらの意図もさっぱり検討がつかないが、考えても仕方ないので後で本人に聞くとして、先ずは指示通りに動くことにした。

 

Dクラス 玉野美紀 総合科目 1019点

VS

Fクラス 吉井明久 総合科目 368点

 

徐々に点数が削らている玉野に狙いを定めて、明久は召喚獣を動かす。

 

「あ、アキちゃ――じゃなかった吉井君!? こ、このぉっ!」

 

一瞬妙な呼ばれ方をした気がするが、明久は聞こえなかったことにして作戦を実行する。

玉野の召喚獣が振り下ろした刀をサイドステップでかわす。普段ならここから反撃の一撃と行くところだが、

 

「よしよし、と」

 

明久は敢えて攻撃に移らず、ハグして頭を撫でるという行為を選択した。完全に相手を舐めきった行動だが、雄二の言う『余裕たっぷり』を考えた結果こうなった。

 

「え……?」

 

反撃がくるかと身構えていた玉野が呆気に取られて召喚獣と一緒に撫でられた頭をさする。頬が軽く染まっているのは気のせいだろう。

 

「それじゃ秀吉。ここは大丈夫そうだし、僕は戻るね」

「うむ。了解じゃ」

 

明久は秀吉にその場を任せてフィールドから離脱する。フィールドで何もせずに離脱すれば敵前逃亡だが、後続とバトンタッチすれば問題はない。

 

「ん?」

 

フィールドを出たところで、背中に視線と寒気を感じた。そちらを向くと――美波がこちらを睨んでいた。親の仇を見るように。明久は美波の後ろに般若か阿修羅が見える気がしてならない。

 

「み、美波さん? ナニをそんなに怒ってらっしゃるのですか?」

「…………別に、怒ってないわよ」

「いや凄い怒ってるじゃん」

「…………ウチには全然そんな素振りすらしてくれないのに、Dクラスの子にはするんだ、とか全然思ってないし」

「あ、アレは作戦だから! あんな恥ずかしこと普通しないからっ!」

「……どうだか」

 

明久は参ったなと後頭部を掻く。やはり今日の美波はどこかおかしい。昨日のことを根に持ってるというのとはまた別な気がする。

と、視界の端で秀隆が顎をシャクってるのが見えた。早く行け、ということだろう。危うく作戦を忘れるところだった。

 

「じ、じゃあ美波。また後でね」

「あ……」

 

美波に背を向けて教室に走っていく明久。美波は明久にまだ何か言いたげだったが、離れていく背中が見えなくなると「はぁ」と深いため息を吐いた。

 

「後悔するくらいなら意地張らなきゃいいだろ」

「きゃぁっ!」

 

いきなり後ろから声をかけられて美波は飛び上がるほどに驚いた。さっきまで戦っていた秀隆が、いつの間にか後にいたのだ。

 

「か、神崎!? 驚かさないでよ!」

「お前が勝手に驚いたんだろうが」

 

秀隆は美波のクレームに文句を言われる筋合いはないと息を吐く。

 

「それで、まだ意地張ってんのか?」

「……別に、意地張ってるってわけじゃないけど……」

「それ、意地張ってる奴の常套句だからな」

 

秀隆も呆れたようにため息を吐く。

 

「ま、お前がそうしたいんなら、気が済むまでそうすればいいさ。だがな、このままお前がそんなんだと士気に関わる。やる気がないなら下がってもいいぞ」

「誰もやる気がないなんて言ってないでしょ!」

「だったらいつまでも不貞腐れた顔するなってんだよ」

「それは……」

「お主ら、何を騒いでおるのじゃ?」

 

騒ぎを聞きつけた秀吉が割って入ってきた。秀吉の後ろにはリリアの姿も見える。

 

「別に。島田がやる気なさそうだから下がっとけって言っただけだ」

「だから誰もやる気がないなんて言ってないわよ!」

「けど、美波ちゃん、ちょっと体調悪そうですよ?」

 

反論する美波に、リリアが心配そうにそう言った。

 

「そ、そう?」

「はい。なんだかいつもの元気がないみたいです」

「それは……」

 

美波が口ごもる。昨日アドバイスされて、まだ明久と仲直りできてないとは言えなかった。

 

「こいつ、明久とまだ喧嘩中なんだよ」

「ちょっと!」

 

それもすぐにバラされてしまうのだが。

 

「美波ちゃん……」

「う……。ごめん……」

「いえ、私は別に」

「謝る相手はリリアじゃねぇしな」

 

茶々を入れる秀隆を美波が睨む。

そんな中、秀吉意を決したように口を開いた。

 

「のう、島田。少し聞いてくれんか?」

「……なによ? 木下、アンタまでウチに説教するつもり?」

 

美波が少し苛立ったように秀吉に食ってかかる。

 

「そんなつもりはない。ただ、おそらくお主にとっても重要な話じゃ」

「いったい何なのよ?」

「おい待て秀吉」

 

秀吉が何を伝えるか察した秀隆は止めに入るが、秀吉はその前に美波に告げた。

 

「この試召戦争で――明久は戦死する」

 




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