バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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明久の戦死を知らされた美波はどう動くのか。
そして明久は清水と対峙して――


第六十六問

第六十六問

 

明久が戦死する。そう告げられても、美波にはその言葉の意味を理解するのに数秒を有した。

 

「アキが……戦死……? ちょっと、木下。変な冗談言わないでよ」

「冗談などではない。そのような『作戦』なのじゃ」

 

たちの悪い冗談だと笑う美波を、秀吉は申し訳なさそうに否定する。

作戦。明久の戦死は、予定調和だと言うのだ。

 

「ウソ……よね……?」

 

そんな事信じられるわけもない。現にリリアだって驚いているではないか。

しかし、秀隆だけは苦い顔をしている。その表情が、何よりの答えだ。

 

「な、なんでアキが戦死するのよ!?」

「そうですよ! 吉井君がそんな簡単に戦死なんて。それに今は腕輪だってあるんですよ?」

 

美波もリリアも、点数はともかく、明久が優れた召喚獣の操作技術の持ち主であることは知っている。

その操作技術で、清涼祭の召喚大会では秀隆を打倒し優勝したのだ。加えて明久はその大会優勝賞品である『黒金の腕輪』を有している。

点数を半分にして召喚獣の分身体を作り出す『二重召喚(ダブル)』の腕輪。ただでさえ扱いの難しい召喚獣を2体同時に操作することは一般生徒はおろか教師陣にも難しいことだが、観察処分者として日々召喚獣を使った雑用におわれている明久なら使いこなせるはず。

新学期早々のようなAクラス戦ならまだしも、今の明久がDクラスに、ただの試召戦争で遅れを取るとは思えなかった。

 

「普通ならの。じゃが、今回は違うのじゃ」

「違うって何よ? どう違うのよ!?」

「美波ちゃん落ち着いて!」

 

美波が胸ぐらを掴みかかるくらいの勢いで秀吉を問い詰める。

 

「今回の明久は特別な任務を受けておる」

「特別な任務?」

「確か、坂本君が吉井君に重要な役割があるって言ってましたよね?」

「それが特別な任務ってこと?」

 

美波の問いに、秀吉がそうじゃと頷く。

 

「明久の任務は、清水と一騎討ちすることじゃ」

「美春と? なんでアキと美春が一騎討ちなんか」

「この試召戦争を終わらせるためだよ」

 

さっきまで黙っていた秀隆が口を開いた。秀吉がここまで話してしまったから、隠し立ては無意味と判断したのだろう。当然、美波の矛先は秀隆に向く。

 

「試召戦争を終わらせるため? なんでそれがアキと美春の一騎討ちに繋がるのよ?」

「私も、少し意図が分かりません」

 

試召戦争を終わらせるなら、以前のように奇襲してDクラス代表の平賀を討ち取ればいいはずだ。

 

「平賀を討ち取るのは無理だ。新学期に敗けたことで向こうは俺たちを最も警戒しているからな。防衛を固めて簡単には前に出てこないだろう。ま、どの道今回はそうなるように仕向けたんだがな」

「なぜDクラスの防備を固めさせる必要が?」

「頭を押さえるためだ」

「頭? けど、代表の平賀君は」

「今回に限っては、向こうの頭は平賀だけじゃねぇ。そもそも、今回の試召戦争を開戦させるのに煽ったヤツがいるだろ?」

「……美春ね」

「そうだ」

 

今回の試召戦争。開戦の目的はBクラスとの試召戦争を回避するためだが、そもそもの発端は清水が明久に嫉妬したことだ。未遂に終わった清水によるFクラスとDクラスとの試召戦争をそのまま利用して無理やり開戦に持ち込んだ。

 

「今回の試召戦争は、本来Dクラスにとっては意味のない戦争だ。勝っても得る物もない上に敗けたら設備の降格。文字通りのハイリスクノーリターン。それでも開戦したのは、女子生徒の、清水の不満が爆発したからだ」

 

強化合宿での覗き騒動による女子生徒の不満と、以前から美波を巡って清水が明久に抱いていた嫉妬心。その両方が合わさって、今回の試召戦争が起きている。

 

「言いかえれば、清水の溜飲さえ下げれれば、この試召戦争は終わる。清水は目的を果たせるわけだし、平賀にもこれ以上続ける理由はなくなる」

「…………ちょっと待ちなさい。美春の溜飲を下げるって」

 

清水の怒りを鎮める。その方法は一つしかない。

 

「明久を斃す。それ以外ねぇだろ」

「そんな! 吉井君を生け贄にするってことですか!?」

 

リリアが悲鳴のような声を上げる。

美波は、唇を噛み締めて絞り出すように声を出した。

 

「なんで……アキが……アキだけなのよ」

「それが一番手っ取り早いからな」

「美春が原因ならウチにだって責任が!」

「お前の責任どうこうは関係ねぇんだよ。清水の狙いが明久な以上、アイツにしかできねぇんだ」

 

美波の怒りを柳のように受け流し、秀隆は肩を竦める。

 

「他に、他に方法はないんですか? 吉井君が犠牲にならずに清水さんの怒りを抑える方法は」

「残念だがなリリア。憎しみによる怒りを抑えるには、原因を取り除くしかねぇんだ。一時的に抑えたとしても、また爆発するかもしれん。お前にだって経験はあるだろ?」

「それは、そうですげど……」

 

苛立った時は6秒待てばおさまると言う話もあるが、それは結局怒りを蓄積するだけで根本的な解決にはならない。

 

「それに、明久が何を清水に言ったかは知らんが、結果として明久が清水を煽ったんだ。明久以外に怒りをぶつける相手はいねぇよ」

 

気晴らしも、結局は怒りの矛先を変えることでしかないのだ。

明久の犠牲は免れない。リリアは絶望的な状況に悔しそうに歯噛みした。

 

「ま、そう悲観すんな。合宿からのツケが回ったきたってだけさ」

「けど、アレは清水さんが!」

「因縁ふっかけたのは清水だが、覗きっつう安楽的な行動を選んだのは俺たちだからな。まぁアレで清水が調子づいたってのは否めねぇが」

 

やはりあの時――と秀隆が物騒なことを考えていると。

 

「……神崎」

「ん?」

「アンタ言ったわよね? 美春を抑えればこの試召戦争は終わるって」

「ああ。だから明久を――」

「ごめんリリア。後はお願い!」

 

美波はこの場をリリアに任せて戦場に背を向ける。

 

「おい待て」

 

走り出しそうとした美波の腕を、秀隆が反射的に掴む。

 

「離して」

「お前、何する気だ?」

「アキを助けに行くのよ」

「本気で言ってんのか?」

 

明久を助ける。そう宣言した美波を、秀隆が訝しげに睨む。

 

「本気よ」

「お前、状況が分かってんのか?」

「アキよりウチの方が点数はあるわ」

「そういうこと言ってんじゃねえよ。お前と明久の今の状況のことを言ってんだよ」

「…………」

 

美波は向こうを向いたままなので表情が見えない。

 

「いいか島田。ハッキリ言っておく。今回の試召戦争でお前には責任は殆どないが、これはお前が招いた戦争だ」

「…………」

「清水を拒絶も受け入れもせず、中途半端な関係のままにして、あまつさえ明久の優しさに甘えて今の立ち位置をズルズルと引き伸ばしてきたお前が、引き金を引いたんだ」

「ちょっと! 神崎君なにもそこまでっ! 美波ちゃんは関係ないはずです!」

「友だち関係ってのはな、お気に入りの服や靴みたいなもんだ。着心地、履き心地がいいからってずっと使っていたらすぐにボロボロになるに決まってるだろ。洗濯して汚れが取れて見た目は綺麗になっても、細かい傷やらホツレやらは消えねぇんだ。その内、破れてダメになる」

「神崎君?」

 

実感の篭ったように聞こえる台詞に、リリアは戸惑いを隠せない。

 

「今のお前に、明久との関係を洗い直せるのか?」

「…………」

 

美波は明久の事を考える。

デリカシーのないことを言って美波に怒られる明久の姿。授業中に頓珍漢な解答をして皆に笑われる明久。友だちとバカなことを言い合って笑い合う明久。葉月の遊び相手をして楽しそうに笑う明久。デートの時に、少し大人びた格好をして見栄を張る明久。

転校して早々に、慣れない外国語で懸命に話しかけてくれた明久。

全部、明久との大切な思い出だ。絶対に代えの利かない、美波の宝物。

 

「……ねぇ、神崎。ひとつ教えて」

「あん?」

 

こっちを向いた美波は、まっすぐに秀隆を見つめた。

 

「アンタはどうしたの?」

「俺?」

「アンタはボロボロになって履けなくなった靴をどうしたの? 捨てたの?」

「島田、お主それは」

 

美波に何か言いかけた秀吉を、秀隆が手で制した。リリアも驚いたように美波と秀隆を交互に見ている。

 

「…………捨てられたら、楽だったのにな……」

 

ため息とともに出てきたのは、そんな言葉だった。

 

「え?」

「アッサリ捨てられたら、どんだけ楽だったろうよ。こんな事になることも、いやココにいることすらなかったかもな」

 

秀隆は自嘲気味に笑う。「どっかで野垂れ死んでたのかもな」

 

「秀隆……」

「けど、できなかった。我ながら女々しくて惨めったらしくて情けねぇ話だが、捨てきれなかった。捨てようとしても、魚の小骨みたいに引っかかりやがる」

「神崎君……」

「それで、アンタはどうしたのよ」

 

まっすぐに聞いてくる美波に、秀隆もまっすぐに答えた。

 

「新しくすることにした」

「新しく?」

「ああ。今までの靴は履けない。かといって捨てることもできない。だから前のはとりあえずどっか棚にでも仕舞っといて、新しい靴を履くことにした。その靴が前みたいに履けるように。前以上にボロボロになるまで履き潰せるようにな」

「またボロボロになったら?」

「そんときゃまた新しくするさ。そうやって、新しい思い出を作っていけばいい。履けなくなっても、新しく、()()()らしく始めることはできるからな」

「そう……」

 

美波は秀隆の選択を噛み締めると、キッと秀隆を見つめた。

 

「なら、ウチもそうする」

「美波ちゃん?」

「ウチはアキに酷いことを言ったわ。正直、神崎の言う通り今の関係に、アキに甘えていたのかもしれない」

「それで?」

「それでも、アキとこのまま終わるなんてイヤ。たとえ元の関係に戻れなくても、ウチの未来はウチが決める。アンタに、美春なんかに、邪魔はさせない」

「茨の道だとしても?」

「上等よ」

 

覚悟の決まった瞳。秀隆は「はぁ」と今までとは別のため息を吐いた。

 

「どいつもこいつも。何に感化されたか知らんが(したた)かになりやがって」

 

そう言うと、秀隆は美波の腕を離した。

 

「神崎?」

「行けよ。覚悟決めたんなら、もう俺がとやかく言う筋合いもねぇだろ」

「秀隆!」

「神崎君!」

 

美波の熱意に秀隆が折れた。その光景にリリアと秀吉の顔に満面の笑みが浮かび上がる。

 

「美波ちゃん! 頑張ってください!」

「島田、急ぐのじゃ。今頃明久は清水と一騎討ちしておるはずじゃ。明久が殺られる前に早く行くがよい」

「さっさと行ってさっさとケリつけてこい」

「皆……ありがとう!」

 

リリアは拳を握って美波を鼓舞し、秀吉も笑顔で美波を送り出す。秀隆はシッシッと雑にあしらったが、その顔には捻くれた笑みがあった。

 

「あ、そうだ」

 

走り出そうとして、美波は一度振り向いた。

 

「神崎」

「んだよ。とっとと――」

「やっぱり、アンタたちお似合いよ!」

「ああん? いったい何のはな――」

「じゃ、行ってくるわ!」

 

それだけ言うと、 今度こそ美波はしっかりとした足取りで駆け出した。

その小さな胸に大きな決意を抱いて。

 

「なんだ、アレ?」

「さての」

「なんでしょうね?」

 

疑問符を浮かべる秀隆とは対照的に、秀吉とリリアもニヤニヤと秀隆を覗き見る。

 

「まぁ、いいか。にしても……。ヤレヤレ、まったく世話の焼ける」

「秀隆、お主ワザと島田を煽りおったな?」

「ええっ!? そうなんですか!?」

 

全て秀隆の掌の上だったとして、リリアは驚いた。

 

「別に煽ったわけじゃねえよ。焚きつけただけだ」

「一緒ではないか」

「なんで美波ちゃんを?」

「清水が気に食わねぇ。それだけだ」

 

秀隆はそれだけ言うと、プイッと横をむ向いた。「同じ轍を踏ますわけにもいかねぇしな」

 

「? 何か言いましたか?」

「何にも。それよりお前ら気張れよ。島田が抜けた分ほキッチリ働いてもらうからな」

「はい!」

「無論じゃ」

 

人数差の入れ替え戦法のおかけで戦場は膠着状態を維持できている。ここのままいけば、本来の作戦通りになるだろう。

 

「島田には今度なにか奢ってもらわねぇとな」

 

実は昨日の優子たちの女子会の飲食代がツケにされていることなど、この時の秀隆は知る由もなかった。

 

所変わって空き教室。

他に誰もいない教室の真ん中で、明久は目を瞑って佇んでいた。

暇つぶしもできないので思考を巡らせる。思い浮かぶのは、美波のことばかりだ。

自分は美波をぞんざいに扱っていたのだろうか。

自分は美波は美波を傷つけていたのだろうか。

もう、今までようにはいられないのだろうか。

 

「…………」

 

考えても考えても、堂々巡り空回りするだけで結論に至る気配すらない。

秀隆や瑞希たちに勉強を見てもらって多少賢くなったつもりでいたが、全然そんなことはなかった。

自分は、どうしようもないバカでしかなかった。

 

「そろそろ、かな……?」

 

絡まる思考を一度中断し外に意識を向ける。

近くで行われているであろう防衛戦の喧騒と、狙い通り誰かがこちらの様子を窺っているような気配を感じる。

 

「こんな所にひとりでいてくれて助かりました。アナタには話がありましたから」

 

待つことしばし。待ちわびていた相手の声が聞こえた。

作戦通りに相手が来てくれたことに胸を撫で下ろしながら、明久がゆっくりと目を開ける。

 

「話って、なにかな?」

 

明久は対峙した、対峙すべき相手、Dクラスの清水美春に向かって歩み寄る。明久から清水に話すことはないが、清水は別なようだ。

 

「そう難しい話ではありません。――要するに、白黒はっきりさせましょう、というだけです」

 

そう告げる清水の瞳は敵愾心に満ちている。

 

「幸いにも今は試召戦争中。分かりやすく決着をつけることができます」

 

清水の後ろには布施教諭の姿がある。なるほど。確かにこれ以上分かりやすい方法もないだろう。

提案という形を取ってはいるが、どのみちこの状況で敵前逃亡すれば即戦死。明久に戦う以外の選択肢はない。

あるいは――明久は断らないと確信しているのかもしれない。明久も決着をつけたがっているはずだと。清水のその予想はおおよそ正しかった。

 

「分かった。勝負しよう、清水さん」

 

明久の返答に頷くと、清水は布施教諭に召喚許可を願い出た。

 

「先生。召喚許可をお願いします」

「承認します」

 

布施教諭が承認し、召喚フィールドが展開される。

 

「「試獣召喚(サモン)!!」」

 

喚び声に呼応し、魔法陣の中から2人の召喚獣が現れる。明久の学ラン姿に木刀の召喚獣と、ロリカ・セグメンタタを纏いグラディウスを携えた清水の召喚獣。

新学年になってからまだ一学期すら終わっていないのに、幾度となく対面したような気がする。

お互いに構えを取らせながら睨み合う。清水も明久たちほどではないがそれなりに試召戦争を経験している。不意打ちのできない上に簡単にあしらえる相手でもない。

自然と、互いに隙を伺い合う状況に落ち着いた。

 

「……そう言えば、勝負を始める前にひとつ確認しておきたいことがありました」

 

緊迫した雰囲気の中、清水が召喚獣から目を離すことなく聞いてきた。

 

「何かな?」

 

明久も召喚獣に視線を固定したまま答えた。

 

「昨日の話ですが」

「うん」

「アレはこの試召戦争を起こすための狂言ですか? あの交渉も、最後の言葉も」

 

雄二の作戦で、Dクラスには『Fクラスが開戦を望んでいた』という情報が出回っている。

その情報自体はある意味事実なのだが、そのせいで清水は昨日の明久の言葉の真意に疑問を抱いたのだろう。

 

「それは……」

 

明久が言葉を詰まらせる。どんな美辞麗句を並べようと、どれだけ理屈を述べようとも、明久たちが開戦を望み、美波の気持ちを利用したという事実は変わらない。

どんな言葉も、空虚な言い訳にすらならない。

 

「どうなんですか?」

「…………」

 

改めて問いかける清水に、明久は返す言葉がない。

 

「そう、ですか……」

 

その沈黙を肯定と取ったのか、清水はそれ以上の質問はせず、言葉を切った。

 

「…………」

「…………」

 

召喚獣に動きもなく、無言の状態が続く。

しかし睨み合いでもない。清水は召喚獣が目を逸らし俯いていた。しかしそれもほんの数秒のこと。不意に、清水が震える声で呟いた。

 

「……泣いて、ました……」

 

怒りを伴う、静かな口調。

 

「……お姉さま、昨日走り去る時に……泣いて、ました」

 

それは明久も覚えている。清水の言う通り、美波は昨日、涙を浮かべて駆け出していた。

 

「きっかけは、不本意ながら美春の言葉です。……でも、原因は……原因は……っ!」

 

清水が顔を上げる。その瞳には、烈火のごとく怒りが宿っていた。

 

「オマエが……! オマエのような男がいるから……っ! お姉さまが泣く羽目になるんです!」

 

その言葉を皮切りに、清水が召喚獣を突撃させる。正面からの力任せのまっすぐな攻撃に、明久は召喚獣を、力を受け流すように動かした。

 

「ぐ……っ!」

 

直撃は避けたはずなのに、明久の身体に鈍い痛みが走る。それ程までに、両者の点数に大きな差があるということだ。

 

Dクラス 清水美春 化学 112点

         VS

Fクラス 吉井明久 化学 22点

 

約5倍の点差。圧倒的というのも馬鹿らしくなるほどの不利な点差。

だが、その誰もが絶望するような力量差でも、明久は諦めていない。

 

「どうしてオマエのような下郎がお姉さまの傍にいるのです! どうして人の気持ちを弄ぶ下衆がお姉さまと言葉を交わしているのです!」

 

駄々っ子のように叫びながら、清水は剣を振り回す。腕に痺れを感じるほどの一撃一刀を、明久も辛うじて木刀でいなしていく。

 

「どうして、お姉さまを利用するために平然と嘘をつく外道が友人面をして近くにいられるのです!」

 

木刀がグラディウスの一撃を受け止める音が響く。

 

「どうして、オマエなんです! どうして美春じゃないんです!」

 

泣き叫ぶように声を荒げる清水。

 

「オマエなんかが……オマエなんかが……っ!」

 

美波が泣くことになったのは事実。

明久たちが美波の気持ちを利用したのも事実。

 

「それでも――僕は……嘘は……嘘なんて、ついていないっ!」

「何を言ってっ!」

 

力任せに清水の剣を押し返す。

 

「君の言う通り、僕は美波に酷いことをした。傷つけて、泣かせてしまった!」

「今更懺悔ですか? ならばさっさと――」

「それでも、僕の言ったことは……嘘じゃないんだっ!」

「なっ!?」

 

鈍い音を響かせて、木刀が剣を弾いた。

 

「どうしようもないバカな僕にだって、言っていい嘘と悪い嘘の区別くらいつく! だから、昨日のアレは僕の本心だ!」

 

付き合っているという話が演技でも、キスをしたことの原因が勘違いでも、明久が清水に言ったことは、紛れもない明久の本心だった。

 

「それに、僕はどっかの誰かと違って、あんな場面で嘘をつけるほど器用じゃないからね」

 

悪友譲りの皮肉めいた笑みに、清水がギリリと歯軋りをする。

 

「ついでに言うと……正直、君にはそんなこと言われる筋合いはないよ」

「この期に及んで、まだそんな減らず口を!」

 

明久のらしくない挑発に、清水が更に気色ばむ。

 

「減らず口じゃないよ。コレも僕の本心だ」

「どこまで美春を愚弄すれば気が済むんですか!?」

 

大振りな一撃を、明久は今度は余裕をもって躱す。

怒りで清水の動きが単調で大雑把になっている。

 

「オマエのような輩に、美春の何が分かるというのですか!」

「確かに、僕には君の気持ちは分からない。けど、君の『抱いているもの』は何となく分かる」

「な、何を言って……っ!」

 

まっすぐにコチラを睨む明久の瞳に、清水はゾワリと背筋の凍る思いがした。

鏡の様な、水面の様なその瞳に、全て見透かされているような錯覚を覚えた。

 

「清水さん……君は……『失うのが怖い』んだね」

 




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