バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回も特に特別な進展はありませんが、姉の代わりに大人の女性(妖怪)はでてきます。


第七十一問

第七十一問

 

明久が隠しごとをしている。雄二と秀隆の指摘に。明久は大量の汗が流れ出るのを抑えられないでいた。

 

「アキが隠しごと? いったいどういう意味よ?」

「そのまんまの意味だ。コイツは俺たちに何かを隠している。今朝から様子がおかしいのもそのせいだろ」

「確かに今朝から明久君の様子はいつもと違いますけど」

「隠しごとがあると言えるのかの?」

 

いつもより身なりが整っている事と隠しごとに、何の関係があると言うのだろうか、と瑞希たちは首を傾げる。

 

「大有りだ。考えてもみろ。先週までコイツは昼メシひとつ禄に食えてなかったんたぞ?」

 

雄二の言う通り、明久の昼食は大抵菓子パンや学食の素うどん。酷い時は塩水や砂糖水。昼食なしもザラにあった。

 

「そんなヤツが、たったの一晩二晩そこらで、顔色ならまだしも、弁当を作ってくるほどマトモになれると思うか?」

 

酷い言われようだが、明久の普段の生活習慣からしたら妥当な評価と言える。一年生の頃よりはマシになったとは言え、まだまだだらけきった生活を送っているのは違いない。

 

「正確に言えば日曜日からだな。土曜日にコイツの家で買ったばかりだというボクシングゲームを遊んだが、その時の冷蔵庫にはほとんど食料はなかった」

「なら、日曜日に全部用意したってこと?」

「それなら、お弁当のおかずも前の日に仕込んでおいたってことですね」

 

雄二の情報が事実なら、明久は日曜日に食材を揃え調理し、制服にもアイロンをかけたということになる。

 

「けど、それで何を隠していると言うんですか?」

「それは分からん。が、明久が生活態度を改める『何か』が起きたことは間違いないだろうな」

「何か、って何よ?」

「考えられるのは、仕送りの減額か? 一人暮らしをいいことに、だらけきった生活を送る明久を見かねた明久の両親が、生活を見直させるために条件を言い渡したとか」

「確かに、それなら明久が急に真面目になったのも頷けるの」

「…………兵糧攻め」

 

明久が生活態度を改めたのは、改めざるを得なからだと雄二と秀隆は結論づけた。

 

「んで、そこんとこどうなんだ?」

 

秀隆が明久に詰め寄る。

黙って秀隆たちの話を聞いていた明久は、秀隆から目を逸らすと、

 

「……さ」

「さ?」

「さいなら!」

 

脱兎のごとく逃げ出した。

 

「テメェ待てコラ!」

「逃げられると思うなよ!」

 

秀隆と雄二も瞬時に身を翻し、明久を追う。

 

「きゃっ」

「うぉっと!」

 

2-Fの教室を出たところで、雄二が誰かとぶつかりかけた。

 

「悪い。急いでたってなんだ、翔子か?」

「……雄二?」

 

雄二の前に驚いたように立ち尽くしていたのは、翔子だった。翔子は男子生徒の履くズボンを両手で抱えるように持っていた。

 

「こんなところでどうした?」

「……雄二の制服を返しに来た」

 

と、翔子は持っていたズボンを雄二に差し出す。

 

「やれやれ。やっと制服を返す気になったんだな」

「おい雄二! 早くしねぇと明久が逃げるぞ!」

「分かってる!」

 

廊下から先に教室を出た秀隆の声。明久の前を聞いて、翔子の肩がピクリと揺れる。

 

「……雄二、吉井を追っているの?」

「ん? ああ……って、なんでズボンを離さないんだ翔子?」

 

翔子はズボンを返すどころか、握っていた手に力をこめる。

 

「……雄二」

「なんだ? 早くその手を離し」

「……私は雄二に酷いことをしたくない」

「酷いことをしたくない? よく分からんが、それは良い心がけだな」

「……だから、先に警告する」

「何を?」

「……大人しく、私にトランクスを渡して」

「何でそうなる!?」

 

翔子はあろうことかまたトランクスを要求してきた。酷いことをしないと言ったのに、酷いことをしようとしている。

 

「……雄二は今、吉井を追いかけようとしている」

「ああ。だから早くズボンを返すんだ」

「……つまり、雄二の浮気相手は吉井」

「だから何でそうなるんだ!?」

 

逃げ出した明久を追いかけているだけだと言うのに、浮気と言われる筋合いはない。

 

「……だから、トランクスを渡して、早く」

「くそっ! 何でこうなるんだ!?」

 

雄二はズボンの奪還を諦めて猛ダッシュで翔子から逃げ出した。

 

「……逃さない」

 

翔子も雄二のトランクスを奪うため、雄二を猛ダッシュで追いかける。

 

「待てコラぁ!」

「待てと言われて待つ馬鹿はいないよ!」

 

一方、逃げ出した明久と秀隆は、廊下を歩く生徒や先生の隙間を抜けながら追走劇を繰り広げていた。

身体能力だけで言えば秀隆の方が上だが、普段から西村教諭から逃げおおせている明久の方が逃げ方については上手だった。

 

「このままどこに隠れれば」

「逃がすか!」

 

廊下に人が少なくなったタイミングで秀隆は床を蹴って壁に着地し、

 

「飛天翔駆!」

 

壁を蹴って明久に飛び蹴りを仕掛ける。

 

「うわぁ!」

 

明久は咄嗟に横跳びで回避。

それが吉と出て、凶と出た。

 

「ぐおぉっ!」

 

聞こえたのは、明久ではなく別の人物の野太い悲鳴。

秀隆の蹴りは、たまたまた廊下を歩いていた筋骨隆々の男性『西村教諭』の脇腹に刺さっていた。

 

「げっ!?」

「鉄人!?」

「西村先生と呼べ」

 

蹴られた脇腹を押さえつつ、西村教諭の体がゆらりと揺れる。

 

「キサマら……何の騒ぎかは知らんが、教師に手を上げるとはどういった了見だ?」

「い、いや、今のは明久が」

「蹴ったのは秀隆じゃないか!」

「言い訳無用!」

「うおぉいっ!?」

 

秀隆の目の前を、前髪が逆立つほどの風圧で西村教諭の拳がかすめる。

 

「なんつう拳だよ! 砲丸投げの玉じゃねぇんだぞ!」

 

砲丸投げの玉の重量は一般男性用で約7キログラム。初速は約70キロメートル毎時。当然当たればひとたまりもない。

それのほぼ同じ速度で拳を繰り出せる西村教諭は、間違いなく化け物だ。

 

「お前ら! 何している!?」

 

と、後から雄二が追いついてきた。さらに後方には、夜叉のような気迫で迫る翔子の姿もある。

 

「雄二、ナイスタイミング!」

「召喚フィールドを頼む!」

「目の前に鉄人か――仕方ねぇ!」

 

状況を瞬時に理解した雄二が腕輪を起動させる。

 

「――起動(アウェイクン)!」

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

雄二が召喚フィールドを展開し、明久と秀隆が自身の分身である召喚獣を喚び出す。

 

「明久、二人がかりで仕留めるぞ!」

「オーケー!」

 

2人の召喚獣がそれぞれの武器を手に、西村教諭へと襲いかかる。

 

「くたばれ鉄――じ、ん……?」

 

だが、西村教諭に攻撃が当たる寸前、2人の召喚獣は霞のように消えてしまう。

 

「え? なんで?」

「干渉か? それにしては様子が――?」

 

突然の謎現象に2人が呆然としていると、

 

「お前ら、ボサッとしてんじゃねぇ!」

「教育的指導!」

「っとぉ!」

 

またしても西村教諭の拳が顔面スレスレを駆け抜ける。

 

「キサマら、この俺に蹴りを入れるだけでなく、よりによって召喚システムを悪用するとは……! あれ程試召戦争以外に使うなと指導したというのに……! その腐った性根、叩き直してくれる!」

 

召喚獣を使用したのが仇となり、西村教諭の逆鱗に触れてしまった。

 

「叩いて直るなら苦労しねぇよ!」

「案ずるな。テレビと一緒だ」

「それブラウン管じゃねぇか! それと、テレビは叩いたら直るは迷信だ!」

 

『……雄二、抵抗するならYシャツも没収する』

 

「じゃぁなお前ら! 鉄人の相手は任せた!」

 

後から迫る翔子の声を察して、近くの階段から駆け下りて、雄二は一目散にその場から逃げ出した。

 

「あ! 雄二待ってえぇぇっ!!」

 

雄二を追いかけようとした明久の横を、首を掴もうとした西村教諭の手が横切る。

 

「吉井! 大人しく生徒指導室に来い!」

「お断りです! 秀隆、ここは一旦ってあれ?」

 

横を見ると、秀隆の姿は既になかった。

 

「あの野郎いつの間に……!」

「ふんっ!」

「ふおぉっ!」

 

またしても西村教諭の掴みを紙一重でかわす。西村教諭が露骨に悔しそうに歪む。

 

「失礼します!」

 

西村教諭の体勢が崩れた隙に、明久も階段を駆け下りた。

 

「止まれ吉井! 大人しく生徒指導室でゆっくり茶でも飲んでゆけ」

「嫌です! お茶と一緒に涙も飲むことになりそうだから!」

「そんなことはない。汗も飲んでもらう」

「余計に嫌だ!」

 

明久も必死に逃げ走るが、身体能力はトライアスロンを趣味にしている西村教諭の方が圧倒的に高い。

徐々に2人の距離が(物理的に)近づいていく。

 

「これで終いだ吉――ぬぉっ!?」

 

捕まるあと一歩のところで、西村教諭が何かに躓いた。それと同時に明久の体にズキッと痛みが走る。

 

「今の……召喚獣のフィードバッグ……? 何で?」

 

走りながら後方を確認すると、数メートル後方で、西村教諭が明久の召喚獣に躓いて転んでいた。

西村教諭からしたら、走っている途中で丸太か瓦礫に足を取られたようなものだ。いくら日頃から鍛えていようとも、向こう脛の痛みは我慢できるものではない。

 

「よっしゃ! 何だかよく分からないけど今のうちっ!」

 

西村教諭が蹲っている隙に、明久はハードル走の要領で開いている窓から外に出る。そのまま追っ手を撒くために校舎に沿って歩く。

 

「それにしても、どうして召喚獣が出てきたんだろう……? 喚び出してもないのに」

 

雄二が逃げた時に召喚フィールドは解除されている。そもそもフィールドの範囲からして、明久がさっきいた場所は範囲外だ。

それに、その前は逆にフィールド内なのに召喚獣が消えてしまっている。

 

「あ、ラッキー。あそこから中に入ろう」

 

そんな事を考えていると、都合よく開けっぱなしになっている窓を見つけた。

 

「ふぅ……。ここまでくればしばらくは大丈夫かな?」

 

明久は窓のサッシに手をかけて一息で乗り越える。

入った屋内を改めて見渡すと、そこはどこか見覚えのある部屋だった。

応接用の革張りのソファと黒檀のセンターテーブル。一目見ただけで頭が痛くなりそうなタイトルのかかれた専門書で満たされた本棚。更には――

 

「何の用だいクソガキ」

「更には奇怪で醜悪な老人のオブジェ」

「出会い頭に罵倒かい! 本当に礼儀知らずなガキだね!」

 

明久の目の前にあったのはオブジェではなく、学園長の顔だった。

 

「まったくクソガキどもが……。揃いも揃って無断入室に加えて悪口とはね。また停学にでもなりたいのかい?」

「す、すみません……」

 

学園長に脅されて、明久は仕方なく平謝りをするが、ひとつ気になる一言があった。

 

「揃いも揃って……?」

「よう」

「なんだ明久。お前もここに逃げ込んだのか」

「あ、2人ともこんな所にいたんだ」

 

脇から聞こえた聞き慣れた声。本棚や植木の陰で分かりにくかったが、そこにはバラバラで逃げたはずの雄二と秀隆が居た。

 

「ここならそう簡単に見つからないからな」

「流石の鉄人も、学園長室は盲点だろうな」

 

問題児の考えることは一緒というわけだ。

 

「アンタらが何をしているのか知らないがね、ここはそうそう気安くを来ていい場所じゃないんだよクソガキども」

「まあそう言うなって。しばらく匿ってくれたら大人しくしてやるよ」

 

そう横柄に言うと、秀隆はどっかりとソファに腰を落とす。

 

「相変わらず偉そうなクソジャリだね。少しは敬意ってもんを示す気はないのかい?」

「んなもんあったらここに逃げ込んだりしねぇよ」

 

苦虫を噛み潰したように唸る学園長の言葉を、秀隆は軽く受け流す。とても学園の最高権力者を前にする態度ではない。

 

「ふん。いけ好かないガキめ。……それで、何か聞きたいことでもあるのかい? 見ての通り、アタシは忙しいんだけどね」

 

そう言うと学園長は手元の書類を指でトントンと叩く。昼休み中も書類仕事とは、確かに学園長も忙しいようだ。

 

「ああ。ちょいと確認したいことがある」

「俺もだ。っても秀隆と同じだがな」

 

ポカンとしている明久を尻目に、秀隆と雄二は学園長に質問があると言う。

 

「何だい? 聞くだけ聞いてやるよ」

「さっき、喚び出した召喚獣が何もしてないのに勝手に消えたんだが」

「また不具合でも起きたか?」

 

2人が聞きたかったことはさっき召喚獣に起きた現象のことだった。不具合、の一言に学園長が苦い顔をする。

 

「そうさね。そいつは、今起きている不具合のひとつさ」

「また腕輪か?」

 

明久たちが清涼祭の試験召喚大会で手に入れた腕輪には不具合がある。一応調整はしてあるが、繊細なプログラムのため、いつ不具合が再発してもおかしくはない。

 

「いいや、試験召喚システムの方さ」

 

学園長が面倒臭そうに答える。

 

「根本の方かよ。大丈夫なのか?」

「調子は悪いが心配にはおよばないよクソジャリ。まだ少し調整は必要だけど、夏休みに入る頃には使えるようになるはずだよ」

 

学園長は不具合の方は問題ないと言うが、

 

「おい待て。つまり、もうすぐ解禁される予定の俺たちの試召戦争は」

「二学期まで持ち越しってことか?」

「そうなるさね」

「そんな! 困ります!」

 

試召戦争で負けたクラスには『3ヶ月の開戦禁止』のペナルティが課せられる。ようやく解禁されるはずだったのに、またお預けを食らうことになる。

 

「そこを何とか――は、無理みたいだな」

「よく分かってるじゃないか。まぁ、一応使えないこともないんだがね……使わせる気はさらさらないよ。教職員にも、試召戦争の申し出があっても止めるように、と伝えてあるからね」

 

学園長が冷たく言い放つ。不具合関係なく、試召戦争を開戦させるつもりはなかったらしい。

 

「使えるのに禁止って、まるで意地悪みたいじゃないですか」

「『まるで』じゃなくて意地悪そのものさね」

「どうしてそんなことを? 使わせてくれたっていいじゃないですか!」

 

明久は食ってかかるが、学園長は冷たい表情のままだ。

 

「どうして? はん、説明されなきゃ分からないのかい?」

「分かりませんよそんなの」

「アンタはそうだろうね。けど、そこの白ジャリは察しているようだよ?」

「え?」

 

学園長は代わりに説明しろと言わんばかりに秀隆を指し示す。

 

「ま、意地悪ってんなら、俺らの日頃の行いってことだろ?」

「分かってんなら、改める気はないのかい?」

「アンタの見てくれよかマシだよ」

 

相変わらず両者の間にはバチバチと火花が散っている。

 

「まぁ後は――『本質を見失ってる』からか?」

「そうさね」

「本質?」

 

明久はまだピンと来ていないようだ。

 

「試験召喚システムの本質は、『学生の勉強へのモチベーションの向上』。つまり、勉強して成績を上げれば上位クラスの設備が手に入るかもって、やる気にさせることだ」

「だというのに、アンタらがやってきたことはどうだい? 校舎の壁の破壊や学年全体での覗きに、この前も試召戦争騒ぎ――学生の本分を逸脱するばかりか、悪い方向に向かってるじゃないか。ちゃんと勉強してるのかい?」

「う……」

 

流石に胸を張って勉強してますとは言いにくい。

 

「だが騒ぎをくり返す内に、結果的に俺たちの成績は向上してるはずだ。潰れた授業の補講も受けてるしな」

「そ、そうですよ!」

「事実がどうか、じゃないんだよ。世間からどう見られてるかが重要なんだよ」

「スポンサー様の顔色を覗うのも楽じゃねぇな」

 

学園長が疲れた顔でぼやく。

試験召喚システムという特異性のおかげで、文月学園は世間の注目を集めやすい。それはスポンサーを集めやすくし、研究費の確保や学費の低減に一役かっているが、半面世間体に弱いというデメリットもある。内部で成果が見えても、外部の人に理解されなければ学園の存在が危ぶまれる。学園長としは悩ましいところだ。

 

「だからこその禁止令だよ。別にずっとてわけじゃないさ。あと一週間程度で期末試験、その後は夏休みだろう? 二学期なんてあっという間さ」

 

学園長の言う通り、もうすぐ期末試験で、そこから約二週間したら終業式だ。そう考えると、確かに長くはない。

 

「ようは、余計なことは考えずに期末試験に集中して成績を上げろってことだよ」

「なるほど」

 

秀隆の説明に、明久はようやく納得したように頷いた。

 

「とは言っても、アンタらみたいのはどうせそれだけじゃまともに勉強なんてしないだろうしねぇ……」

 

元々不真面目がこうじてFクラス、ひいては観察処分者になっているのだからもっともな意見だ。

 

「成績の向上が見られないようなら、特別夏期講習でもやろうかねぇ」

「そ、そんなの酷いですよ学園長! 試召戦争が禁止されている上に、夏休みも減るなんてあんまりです!」

 

顎に手を当て思案する学園長に、明久がもう抗議する。

 

「贅沢な事を抜かすクソジャリだね。なんなら夏期講習に加えて試召戦争も三学期まで延期して勉強漬けにしてやってもいいんだよ?」

「うげ……」

 

それは勘弁して欲しいところ。いまから更に半年も西村教諭が担任なのは考えるだけでもゾッとする。なにより、明久が試召戦争をやる理由は瑞希の体調を慮ってのことだ。開戦禁止が三学期まで延長されたらそれこそ試召戦争をやる意味がなくなる。

 

「ま、夏期講習云々はともかく、三学期まで開戦禁止はオススメしねぇな。そこまでやる気もないだろうが」

「? どういうこと?」

「いいか。文月学園の魅力は曲がりなりにも試験召喚システムだ。俺や雄二みたいに最初からそれ目当てのヤツもいれば、入学してから興味持ったヤツも少なからずいる」

「そうだね」

「試験期間中の禁止は部活と同等扱いなら納得するヤツもいるだろうが、それを三学期まで禁止してみろ。解禁される頃にはもうすぐ新学年になるんだぞ? それじゃぁ下剋上を目指して勉強してきたやつが報われないだろ」

「つまり、それこそ本末転倒。勉強へのモチベーションアップもあったもんじゃないってことだ」

 

秀隆と雄二が学園長を挑むように睨み、学園長は面白くなさそうにため息を吐いた。

 

「その通りだよ。生徒からの顰蹙を買うようじゃそれこそ教育機関としての体を保てないからね。だから、今回は特別にシステムのリセットをオマケにしてやるよ」

「システムのリセット?」

 

それがなぜオマケになるのだろうか。

 

「ほぅ……。それは悪くはないな」

「ああ。どうせメンテナンスに必要なことだからオマケにされるのは癪だが、まぁ妥当なところだな」

 

雄二と秀隆は納得しているようだが、明久はやはり理解していないようだ。

 

「忘れたのか? 俺たちの召喚獣の装備は、振り分け試験の点数で決まる。それ以降の変更は期末試験までない」

「システムをリセットするってことは、その召喚獣の装備の情報も白紙に戻すということさね」

「つまり、期末試験の点数次第では俺たちの装備もまともなものにになる可能性があるってことだ」

「え!? そうなんですか!?」

 

装備が学ランに木刀の明久や、同じく学ランにメリケンサックの雄二にとってはこの上ないチャンスと言える。

 

「本来なら期末試験でしか変更できないことを、今回は特別にってことだよ」

 

装備のランクが上がればそれだけ試召戦争も有利に進められるかもしれない。

 

「本来は勉強ってのは誰のためでもなく自分のためにやるもんだからこういうのは間違ってると思うんだけどね……。今回は事情が事情なだけに特別さ」

「別に間違ってはないだろ。どんな目的であれ、結果的に自分の力になるならそこに意味はある。誰のためになるかどうかは結果論でしかねぇよ」

 

珍しく教育者らしいことを言う学園長に、秀隆が少しだけ反論した。とは言っても、考え方が少し違うだけで言ってることは同じだ。

 

「分かりました! 期末試験頑張ります!」

「どうしたんだ明久。そんなにやる気を出して」

 

装備の変更が余程嬉しかったのか、明久がいつになくやる気を出している。その異様なほどの気合の入れように、雄二も秀隆も少し引いている。

 

「よしっ! やろう2人とも!期末試験で良い点を取って、二学期の試召戦争で確実にAクラスを奪取するんだ!」

「お、おう。そうだな」

「ハナからそのつもりだが……」

 

明久の様子に、雄二も秀隆も戸惑いを隠せないでいる。

 

「バカどもの頭でも理解できたようでなりよりさね。それじゃ、用が済んだならさっさと出ていきな、ジャリども」

「はいっ。それじゃ、失礼しました!」

「あ、おいっ! 明久!? まだ昼休みは終わってねえぞ!」

「今廊下に出たらアイツらが!」

 

雄二と秀隆の制止を聞かず、明久は学園長室のドアを開ける。

 

「「ウェルカム」」

 

勉強に集中するにしても、先ずは目の前の障害をどうにかしないといけないようだった。

 




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