バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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期末試験に向けてやる気を出す明久だが、やはり明久は自分の家に帰りたくないようで……。


第七十二問

第七十二問

 

終業のチャイムも鳴り放課後。明久は帰り支度を始めた雄二と秀隆に話しかける。

 

「2人とも、ちょっといい?」

「ん? どうした、明久?」

「面倒事は勘弁してくれよ?」

「今日なんだけどさ、どっちかの家に泊めてもらえないかな? それで、期末試験の出題範囲の勉強を教えて欲しいんだ」

 

明久が放った一言で、教室にざわめきが広がった。

 

『おい……聞いたか、今の……?』

『確かに聞いたぜ。にわかには信じがたいが……』

『まさか、アイツらがな……』

『ああ。あの吉井たちが……』

『『期末試験の存在を知っているなんて』』

 

朝のHRで西村教諭から通達があった上に、今日の授業でもしきりに出題範囲の話をしていたので知らないはずがないのだが。これも日頃の行いのせいだろう。

 

「勉強を教えて欲しいだと?」

「どういう風の吹き回しだ?」

 

普段は勉強のべの字を欠片も意識しない明久が、試験勉強を教えて欲しいと願い出て、雄二と秀隆は訝しがった。

 

「うん」

「やれやれ……。お前はまだ七の段が覚えられないのか」

「七の段は案外鬼門だからな」

「待って! 僕は一度も九九の暗唱に不安があるなんて言った覚えはないよ!? 分数のかけ算だってきちんと出来るからね!?」

 

と明久は弁明するが、分数のかけ算で対抗してくるあたり、九九がきちんと言えるかも怪しいものである。

 

「ああそうか。三角形の面積の求め方に躓いてるところだったよな」

「(底辺) × (高さ) = (三角形の面積) ! いい加減に僕をバカ扱いするのはやめなさい!」

「ふむ。平行四辺形の面積の求め方は完璧だな」

「よくできたぞ明久。あとは最後に二で割ることを覚えたら三角形の面積が出せるようになるかなら?」

「…………」

 

2人に優しく諭されて、明久は数秒押し黙る。

 

「ふぅ、やれやれ……。2人は人の揚げ足を取るのは天才的だね」

「すげぇ! その返しは流石の俺でも予想外だ!」

「さては大してダメージ受けてないなお前?」

「ち、違う! 今のは勢いで喋ったからど忘れしただけで、問題で出たらきちんと解けるんだから!」

「あ、あの、明久君」

 

明久が2人と言い合っていると、瑞希が鞄を携えてやったきた。その横には美波とリリアもいる。

 

「なに、姫路さん?」

「あのですね、九九の覚え方にはコツがあるんですけど」

「言えるからね!? いくら僕でも九九くらいはちゃんと言えるからね!?」

「アキ、台形の面積の求め方はね」

「美波も何言ってるの!?」

「吉井君、円柱の体積の求め方なんですが」

「なんで皆僕が図形の問題に弱いと思ってるの!?」

「そうだよな。お前は勉強が全般的に弱いもんな」

「秀隆キサマ人をおちょくるのもいい大概にしなさい!」

 

やいのやいの騒いでいると、近くに座っていた秀吉が明久に疑問を投げかけた。

 

「しかし、急にどうしたのじゃ? 明久が特別な理由でもない限り考え難いのじゃが」

 

特別な理由、というところで秀吉は瑞希に意味深な視線を送る。明久が試召戦争に積極的なのも、瑞希の体調を慮ってのことだから、今回も瑞希絡みだろうと思っているようだ。

 

「いや、ホラ。さっき雄二が説明したじゃないか。『試験召喚システムのデータがリセットされる』とか、『期末テスト

の結果が悪いと夏期講習がある』って。木刀と学ランなんて装備からそろそろ卒業したいし、夏休みも満喫したいし、頑張ってみようかな〜、なんて」

「…………明久らしくない」

「そうね。アキがその程度で勉強するなんて思えないわ」

 

康太も美波も明久の理由に懐疑的だ。そもそも、その理由で勉強を頑張るなら、普段からもう少し勉強に励んでいるはずだ。

 

「それに明久が今更頑張って赤点回避したところで、木刀がナマクラに、学ランがボロい足軽鎧になるだけで大した強化にはなんないだろ」

「む。そんなこと分かんないじゃないか」

「じゃぁお前は今から頑張って勉強してEクラス並みの結果が出せるのか?」

「……来世に期待かな?」

「今生で諦めんじゃねぇよ」

 

などと漫才をやっていると、

 

「あの、明久君。私で良かったら……一緒にお勉強、しませんか?」

 

おずおずといった感じで瑞希が手を挙げる。教えるではなく一緒に勉強すると言うあたり、瑞希の人の良さがうかがえる。

いつもなら一も二もなく飛びつきそうな提案だが、明久は瑞希の申し出を受けるか思い留まった。

 

「姫路さんの家に泊めてもらうわけにもいかないしなぁ……」

「え? 明久君、私の家に来たいんですか?」

「あ、いやそうじゃなくて」

「そ、それなら家に電話してお父さんにお酒を飲まないように言っておかないと……。その……。もし、ですけど、明久君がお父さんに大(・)事(・)な(・)お(・)話(・)があるのなら酔っぱらっちゃってると困りますし……」

 

もじもじと体を捩らせて瑞希がもごもごと何かを呟く。

 

「まさか転校の話!? それなら説得に行かないと!」

 

どうやら明久は『大事なお話』というところだけ聞き取れたようだ。明久はまた瑞希が父親から転校を勧められたと勘違いした。

 

「転(・)向(・)、ですか? 明久君のお家って、仏教じゃないんですか?」

「ほぇ? 何の話?」

「いえ、ですから、お家の宗教が違うというお話を……」

「???」

 

瑞希は瑞希で転校を転向と勘違いし、話がまるで噛み合っていない。

 

「姫路って、たまに思考回路が明久と同レベルになるよな」

「そうじゃな。朱に交われば赤くなるといったところじゃろうか」

「元々少し抜けてるところあるしな」

「…………似たもの同士」

 

悪友たちがボソボソと言い合いながら2人の様子を見守っている中、面白くなさそうに唇を尖らせている少女が1人。

 

「あ、アキ! よ、良かったらウチの家で勉強しない? その……葉月も会いたがってるし」

 

美波も負けじと明久を家に誘う。妹をダシにしるのは後ろめたかったが、瑞希に対抗するには手段を選んでられない。

 

「う〜ん……。美波の家に泊めてもらうのもなぁ」

「た、多分大丈夫よ! アキが泊まるなら葉月も喜ぶわ! なんなら……ウチのベッドなら詰めればなんとか……」

「島田、それは止めとけ」

 

ドサクサに紛れて一線を越えようとする美波を、日でが制する。

 

「そ、そうですよ美波ちゃん! そんな、年頃の男女がひとつのベッドで寝るなんて……ふ、不純です!」

「瑞希だって、ドサクサに紛れてアキを両親に紹介しようとしたじゃない!」

「それでも美波ちゃんはいきすぎです!」

「盛り上がってるとこ悪いが、問題はそこじゃなんだよな」

 

秀隆が少し面倒臭そうにボヤく。

 

「? どういうことよ?」

「明久が泊まると知った葉月の行動を想像してみろ」

「え? う〜ん……」

 

美波は顎に人差し指を添えて言われたことを想像してみる。

 

「……ごめんアキ。やっぱり泊まりはナシで」

「あ、うん。それは別に」

「ウチはまだアキを殺したくないの」

「待って!? 美波の家は処刑場か何かなの!?」

 

明久が泊まるとしったら、葉月は明久を独占するはずだ。その光景を想像して、美波は妹の心配と嫉妬で明久をどうにかしてしまいそうだった。

 

「つうかよ。何で明久は他人の家に泊まりたがってんだ?」

「そうだ。今朝から気になっていたが、どうして俺や秀隆の家に泊まりたがる? 自分の家に何かあったのか?」

「う……」

 

2人に疑問を問われ、明久は返答に窮する。よほど言いたくない事情があるのだろうか。

 

「あー、えっと、実は」

「嘘をつくな」

「んなわけないだろ」

「急に勉強に目覚めて――って早いよ! まだ何も言ってないのに!」

 

とは言うものの、目が泳ぎすぎてクロールしているから嘘なのはバレバレだった。

 

「ま、次の試召戦争のこともあるし、勉強くらい教えてやること自体は吝かでもないな」

「そうだな。二学期に向けて戦力の増強は必要だからな」

「え? ホントに?」

「ただし、お前の家でな。その方がやりやすいだろ」

 

明久の家でと提案した後、雄二は小さく「我が家にはあの母親がいるからな……」と呟いた。やはり思春期の少年は友だちに母親を見せたがらないものなのだろう。

 

「僕の家はダメだよ! 今日はちょっと、その、都合が悪いんだ!」

「都合が悪いだぁ?」

「何かあるのか?」

「う、うん。実は今日、家に改装工事の業者が」

「改装工事あるなら家主のお前が立ち会ってなきゃダメだろ」

「それに今日は本来ならお前の家でボクシングゲームをやる予定だったろうが。お前は改装工事があるのに遊びに誘ったのか?」

「じゃなくて家の鍵を落としちゃって」

「それは管理会社に即連絡しないとマズいだろ」

「マンションなんだから管理人に言えば開けてもらえるだろ」

「でもなくて、家が火事になっちゃってさ」

「火事に遭ったくせに弁当を用意してYシャツにアイロンをかけたてきたのか?」

「火事の中アイロンかけるとかシュール過ぎるだろ」

 

明久の嘘がことごとく論破されていく。もっとも、その嘘も底の浅いものばかりなのだが。

 

「あー、えーと、他には他には……」

「他にはってる時点でたかが知れてんだよ」

「いい加減にしろ。お前の嘘は底が浅いんだよ」

「ぐ……」

 

万策尽きたのか、明久はガックリと肩を落とす。

 

「分かったよ。今日は大人しく家に帰るよ……」

 

諦めた明久が項垂れたまま踵を返すと、

 

「待つのじゃ明久。何をそこまで隠しているのじゃ?」

「うぇっ!?」

 

その肩を秀吉がグッと掴んだ。

 

「い、いや! べ、別に何も隠してないよ!?」

「動揺しまくっといて良く言うぜ……だが、俺も興味あるな」

「何があるかは分からんが、このバカがそこまで隠そうとするものか……面白そうだな」

 

秀吉に続き、秀隆と雄二もニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべる。

 

「よし。確かめに行くか」

「ちょ、ちょっと雄二!? 何言ってるの!?」

「何を慌てる必要がある? さっき雄二も言ってたが、今日はどの道お前の家で遊ぶ予定だったんだぞ?」

「それはそうだけど……だから今日は急に都合が」

「ウチも行くわ。何かアキの新しい一面が見られるかもしれないし」

「私も興味があります」

「…………家宅捜索」

「試験期間で部活もないし、ワシも行ってみようかの」

「私も言ってみたいですが……今日はちょっと用事があるのでまた今度にしますね」

「僕まだ許可してないからね!?」

 

明久の抵抗虚しく、皆明久の家に雪崩込むつもりになっている。

 

「とにかく今日はダメなんだ! その、もの凄く散らかってるから」

「あの、それならお手伝いしますけど? 綺麗にしないとお勉強に集中できませんし」

「う……っ」

 

瑞希の優しさが明久に刺さる。明久は何とか瑞希を家に近づけまいと、

 

「でも、散らかってるのは2000冊のエロ本なんだ!」

「…………任せておけ(グッ)」

 

別の者を呼び寄せてしまった。

 

「しまった! 更にムッツリーニの興味を煽る結果に!? もの凄い逆効果だ!」

「よし。それじゃあ意見もまとまったことだし、明久の家に行くとするか」

「だな。行くぞお前ら」

「「「おーっ」」」

「いってらっしゃいっ」

「やめてーっ!」

 

最後の悪あがきも効果なく、結局明久は首根っこを掴まれて皆に連行されるハメになった。

 

「さて、何が出てくることやら」

「明久はムッツリーニと違って滅多に隠しごとはせんからな。何があるか楽しみじゃな」

「…………隠しごとなんて何もない」

「康太、女物の下着に興味は?」

「…………興味なんてない」

「流石に隠しごとになれとるだけはあるの。嘘も堂に入っておる」

「…………!(ブンブン)」

「……アキの好みが胸の大きな娘だったら……(ブツブツ)」

「……明久君の好きな体型がスレンダーな女性だったら……(ブツブツ)」

 

明久の家に行く道中、明久以外は楽しそうに(?)会話をしながら歩いていた。

 

「しかし、明久が必死になるほど隠すもの、ねぇ……」

「何なのかしらね? 強化合宿であんな覗き騒ぎ起こすくらいだから、今更イヤらしい本を隠すなんて思えないし」

「堂々と読まれるのもそれはそれで困っちゃいますけど……」

「そうじゃな……。急に手作り弁当を持ってきたこと、Yシャツにアイロンがかかっておったことも合わせて考えると……」

「女でもできたか?」

「「「…………っ!?」」」

 

雄二の一言に、秀隆以外の皆が目を大きく見開く。

 

「んまぁ、可能性としてはなくはないか」

「あ、アキっ! どういうこと!? 説明しなさい!」

「む、むぅ……。明久に伴侶か……。友人としたは祝うべきなのじゃが、何というか釈然とせんというか、妬ましというか……」

「…………裏切り者……っ!」

「僕何も言ってないんだけど……」

 

雄二の一言で三者三様の反応を見せる中、瑞希だけは静かだった。

 

「大丈夫ですよ。明久君が私たちに内緒で誰かとお付き合いするなんて、そんなことするはずがあるません。私は明久君を信じています」

 

瑞希は冷静に、努めて冷静に明久に微笑みかける。

 

「ね、明久君? 私たちに隠れてそんな人がいたりなんて、しませんよね……?」

 

氷の様な笑みを浮かべて。

そんなこんなで一同は明久の住むマンションに到着した。

 

「ま、中に入れば全部分かるだろ。ほら明久、鍵を出せ」

「イヤだね」

 

この期に及んで、明久はまだ抵抗の意を示す。

 

「明久、裸Yシャツの苦しみ、味わってみるか?」

「えっ!? 待って! 途中のステップがたくさん飛んでない!?」

「…………薄く目を瞑って、唇を少し突き出してもらえるとありがたい」

「ムッツリーニ!ポーズを指定して何する気なの!?

売るの!? 抱き枕!? リバーシブルで裏面は秀吉!?」

「明久よ、そこでワシを巻き込むでない!」

「土屋君。できればシャツのボタンの上2つは開けておいてもらえると……」

「あとおヘソは出しておいて欲しいんだけど……」

「2人とも最近おかしいよね!? 分かったよ! 開けるよ! 開ければいいんでしょ!」

「…………ボタンを?」

「家の鍵を!」

 

とうとう観念して、明久は家の鍵を開ける。

 

「本当に彼女がいるのかしら……」

「少々緊張するのぅ……」

「大丈夫です。そんなこと、ありません……!」

 

皆が固唾を飲んで見守る中、明久は玄関の扉を開け、中を確認すると、パッと嬉しそうに笑った。

 

「それじゃ、あがってよ」

 

明久が皆を我が家に招き入れる。順番に玄関に入ったところで、秀隆がふんふん、と鼻を鳴らした。

 

「秀隆、どうかしたか?」

「いや、何でもない」

「?」

「こっちがリビングで――」

「「「……………………」」」

 

明久がリビングへ続くドアを開け放った時、一同の視界に飛び込んできたのは――ブラジャーと言う名の、女物の下着だった。

 

「いきなりフォローできない証拠がぁーっ!?」

 

室内に部屋干しされたソレを、明久は急いで別室に放り込む。

ブラジャーが部屋干しされていたと言うことは、少なからず『それが当たり前』の女性が明久と同じ部屋に住んでいるということだ。

明久は皆の反応を確認するため、ゆっくりと振り返る。

 

「……もう、これ以上ないくらいの物的証拠ね……」

「……そうじゃな……」

「…………殺したいほど、妬ましい……っ!!」

 

美波たちが思い思いの感想を言い、秀隆と雄二が思案顔でいると、

 

「ダメじゃないですか、明久君」

 

瑞希が笑顔で明久に近づき、静かに口を開いた。

 

「姫路さん? えっと、これは……」

「このブラ、明久君にはサイズが合っていませんよ?」

「「「「「コイツ認めない気だ!」」」」」

 

瑞希はブラジャーが明久の物だと言い張った。認めたくないが故の発言だろうが、それだとブラジャーは明久の私物だという、明久にとっては更に不名誉な誤解を招くことになる

。

 

「姫路さん、これは僕のしゃなくて!」

「あら、これは――」

 

弁明する明久を余所に、瑞希がリビングのテーブルに、化粧用のコットンパフが置いてあるのを発見した。

 

「ハンペンですね」

「「「「「ハンペェン!?」」」」」

 

ブラジャーに飽き足らず、コットンパフまでもハンペンと言い張った。

 

「おい、姫路。認めたくないのは分からんでもないが、いくら何でもソレは無理があるだろ」

「島田。お前の親友の感性はどうなってんだ?」

「ウチに聞かないでよ。ウチだって、できることなら認めたくないの」

「流石に混乱しとるようじゃの」

「…………精神が不安定」

 

皆が瑞希の精神状態を心配する中、瑞希はまた別の者を見つけた。

それは、食卓の上に置かれた女性向けヘルシー弁当だ。

 

「…………」

「ひ、姫路さん……? どうしたの……? そのお弁当が何か……?」

「しくしくしくしく……」

「うえぇっ!? どうして急に泣き出すの!?」

「もう、否定しきれません……」

「ちょっと待って!? どうして女物の下着も化粧用品もセーフなのにお弁当でアウトなの!?」

 

瑞希の中では明久は女性下着や化粧用品は既に所持している扱いなのだろうか。

 

「はぁ……。もうこうなったら仕方がないよね……。正直に言うよ。実は今、姉さんが帰ってきてるんだ」

 

もう隠しだてできないと判断した明久は、正直に姉が帰ってきていると白状した。

明久の告白で、全員納得したような表情になる。

 

「そ、そうよね。アキに彼女なんているはずないものね」

「…………早とちりだった」

「ホッとしたぞい」

 

真実を知って、美波たちが胸を撫で下ろす。身内の帰省よりも彼女を発想するあたり、皆少なからず動揺していたということだろう

 

「んなことだろうと思ったよ」

「何じゃ秀隆。お主明久の姉のことを知っておったのか?」

「いや。確かに玄関で微かに香水っぽい匂いがしたから女が居るとは思ったが、流石に彼女でもリビングで下着を干したりしないだろうから身内だろうなって」

「お前は警察犬か何かなのか?」

 

秀隆の動物並みの嗅覚はともかく、これで明久の部屋に存在した女性物の理由ははっきりとした。

 

「そうですか。明久君にはお姉さんがいたんですね。良かったです……」

 

安堵する瑞希に対し、明久はかなり微妙そうな顔をした。

 

「まぁ、そんなわけだからお勉強とか制服とかもきちんとしてたんだよ。分かってもらえた?」

 

明久はそう締括くると子の話は終りとばかりに打ち切ろうとするが、

 

「「まて明久」」

 

雄二と秀隆(悪友)がそれを逃すわけがなかった。

 

「な、何かな?」

「お前に姉がいることは分かった。だが、それだけでなぜ帰るのを嫌がる?」

「オマケにお前、今まで姉の存在すら隠してただろ。姉が帰省してるだけなら『勉強の邪魔になる』で済むだろ」

「あ、そう言えばそうですね」

「確かにおかしいのぅ」

「…………(コクコク)」

 

2人の指摘に他の皆もおなじ疑問を抱き始める。

明久はどうしたものかと頭を悩ますが、

 

「明久、もう全部ゲロって楽になれよ。な?」

 

雄二にポンポンと肩を叩かれ、明久も腹を括った。

 

「実は……僕の姉さんは、かなり、その……珍妙な人格をしているというか……常識がないというか……。だから一緒にいると大変で、色々と減点とかもされるし、それで家に帰りたくなくて……」

「あ、アキが非常識って言うなんて、どれだけ……?」

「むぅ……。恐ろしくはあるが、気になるのぅ……」

「…………是非会ってみたい」

「そうですね。会ってみたいですね」

「……やっぱりこうなるんだね……」

 

明久からしてみれば、姉の存在を打ち明ければ皆が興味を持つことは目に見えていた。そのさせないために、明久は姉の存在をひた隠しにしていたというのに。

 

「あー……、なんだ。お前ら、そういう下世話な興味は良くないぞ。誰にだって、隠したい姉とか母(・)親(・)とか、そんなもんがいるモンなんだからな」

「俺もパスだな。明久が非常識っつうくらいだ。何が起こるか分かったもんじゃねえ」

 

意外にも、明久に同意したのは悪友の2人。雄二は気不味そうに明久を気づかい、秀隆はしかめっ面で警戒心をむき出した。

 

「ゆ、雄二……、秀隆……! あ、ありがと――」

 

――ガチャリ――

 

その時、玄関のドアが開く音がリビングに響いた。

 

『あら……? 姉さんが買い物に行っている間に帰って来ていたのですね、アキ君』




次回いよいよ『あの人』が登場します。

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