バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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Bクラス戦その3です。


第八問

第八問

 

Cクラスの近くまで来た明久達は、そこで雄二に止められた。

 

「明久。お前たちはCクラスに入らなくていい。ドアの物陰で待機していてくれ」

「こっから先は、俺と雄二でやる」

「大丈夫なの?」

 

心配そうに二人を見る明久たち。いくら秀隆と雄二とはいえ、Bクラスが潜んでいるかもしれない場所にたった二人で向かわすのは危険過ぎる。

 

「心配すんな。んじゃ、行ってくる(明久、携帯を通話にして何時でも出れるようにしておけ)」

「(え? うん。分かった)」

 

密かにアイコンタクトで指示を送り、雄二と秀隆は明久達を待機させてCクラスに入った。

 

「ちーす」

「邪魔するぞ」

「あら? どちら様?」

 

Cクラスに入った二人を、ショートヘアの女子生徒が出迎えた。

 

「俺はFクラスの代表、坂本雄二」

「同じくFクラス、神崎秀隆。Cクラスの代表さんはいるかい?」

「代表は私よ」

 

雄二達を出迎えた女子生徒が代表の小山友香だった。

 

「アンタが小山友香か。実はアンタに話があるんだ」

「ふーん。話ねえ」

 

一瞬であったが、小山の視線がチラリと教室の隅に移動したのを秀隆は見逃さなかった。

 

「ああ。実は……Cクラスの代表を一目見ておきたくてな」

「そうな……へ?」

 

雄二の唐突な物言いに、小山は思わず間抜けな声を上げてしまった。

 

「いや。クラスメイトからCクラスに飛切りの美人な代表がいるって聞いたもんでな。これは俺もFクラス代表として一度挨拶しておかねばと思ったからな」

「こう言ってるけど、コイツ結構シャイでさ。俺が付き添いで来たってわけ。ほら、話したいことが山ほどあるんだろ? 早く話せよ」

「待て、急かすな。こういうのは順番が大事なんだ」

 

勝手に話を進める雄二と秀隆に、小山はどうしていいか分からず、ただアタフタするだけであった。そして、時折『ある一点』何度も見ていた。

 

「ん? おんやぁ? そこに居るのは、根本君じゃないか?」

「「!!」」

 

わざとらしく、おどけて言う秀隆。小山と根本はまさか気づかれているとは思ってもいなかったので大いに驚いた。

 

「お、ホントだ。それに、あそこに居るのは長谷川先生じゃないか?」

 

雄二も秀隆に合わせて今気づいたかのように言った。根本は自分の作戦が裏目に出たことを悟ってダラダラと冷や汗をかいた。

 

「どう言うことかな、根〜本く〜ん? なんで長谷川先生と一緒にCクラスにいるのかなぁ〜?」

「そ、それは……そう! 宿題だ! 長谷川先生に宿題を見てもらってたんだ。ですよね?」

「え、ええ……」

 

根本の咄嗟の思い付きに同意する長谷川先生。根本はこれで事なきを得たと感じた。

 

「ふーん。宿題ねえ。俺はてっきりCクラスと手を組んで俺達を嵌めようとしていたのかと思ったよ」

 

そう言うと、秀隆はグルリとCクラス全体を見渡し――

 

「ねえ。B()()()()の皆さん?」

 

と笑いかけた。

 

『『『!!』』』

 

何人かの生徒が秀隆の言葉に身体をビクッと震わせた。もちろん、秀隆はCクラスにBクラス生徒がいるという確証を持っていたわけではない。所謂、鎌をかけたのだ。これでCクラスにBクラスの生徒が混じっていることが確定した。

 

「それに、宿題なら態々CクラスじゃなくてもBクラスでいいんじゃないかな? もしくは職員室や生徒指導室で西村先生に教わるって手もあるな」

「冗談じゃねえ! 誰が好き好んで鉄……西村先生なんかに教わるかよ!」

「根本君。それは西村先生に失礼ですよ」

 

思わず出た根本の本音を長谷川教諭が注意した。確かに根本が言ったことは西村教諭に対して失礼なことだが、根本の意見は生徒の間では共通意見ではあった。

 

「そうか? 生徒指導担当だけあって教え方は分かりやすくて的確だと思うが?」

「お前頭おかしいのか!? あの鉄人だぞ!?」

「根本君!」

 

またしても長谷川先生に注意され、歯ぎしりする根本。だが秀隆の意見に疑問を抱いたのは根本だけではなかった。

 

「正気か秀隆?」

「当たり前だ。寧ろ教え方は高橋先生と1、2を争うぞ」

 

これは去年一年間2人の授業を受けた秀隆の率直な感想であった。それを聞いて、雄二だけでなく周りの生徒たちも増々信じられないものを見るような目線で秀隆を見た。

 

「それより、どうなんですか? 長谷川先生。本当に根本の宿題を見に来たんですか?」

「そ、それは……」

 

秀隆に問い詰められて言いよどむ長谷川先生。どうやら咄嗟に嘘をつくのは苦手らしい。

 

『どうすんだよ根本? お前が絶対成功するからって……』

「バカ! よせ!」

 

Bクラスの生徒がうっかり零したこの言葉で、根本の企みは確定した。

 

「やっぱりな」

「酷いじゃねえか。協定を破るなんて(スッ)」

 

――ガラッ――

 

秀隆が右手を上げると、Cクラスのドアが開き、外から明久らFクラスの生徒が雪崩込んできた。雄二が小山と話している間、秀隆がズボンに携帯を通話状態で隠しておいたので、教室でのやりとりは明久たちに筒抜けだった。

 

「先に協定を破ったのはそっちだからな。これはお互い様だろう?」

「クソ! こうなったら……お前ら、坂本を打ち取れ!」

 

 

完全に追い詰められた根本は雄二を倒すよう指示をだすが、

 

「承認できません」

 

長谷川先生が戦闘を許可しなかった。

 

「な、何でですか!?」

 

慌てた様子で理由を尋ねる根本。流石にこれは予想外過ぎたようだ。

 

「状況を見るからに、先に協定を破ったのは君たちBクラスのようですね。それなのに逆上してFクラスを襲うようなことは、教師として認めるわけにはいきません」

「ぐ……!」

 

根本の頼みを、長谷川先生は頑として聞き入れなかった。これにより、根本の作戦は崩壊した。

 

「まあ俺達も鬼じゃないさ。お前がこのまま大人しく帰るなら見逃してやってもいい」

「……くそっ……覚えてろよ!」

『あ! おい待てよ根本!』

 

根本は捨て台詞を吐くと、そのまま走ってCクラスから出ていった。慌ててBクラスの生徒たちも根本の後を追いかけた。

 

「では、私ももう失礼しますよ。Fクラスの皆さん、試召戦争頑張ってください」

「ありがとうございます」

 

長谷川先生も、Fクラスにエールを送るとCクラスを退室した。

 

「やれやれ。すまないな。騒がせちまって」

「い、いいえ。気にしないで」

 

小山は根本の作戦があっさりと論破され、更には根本が尻尾を巻いて逃げ出したのがまだ信じられなかった。

 

「そうか? 悪いな。お詫びと言っちゃなんだが、協定を結ばないか? そうだな……『1学期の間はお互いに戦争を仕掛けない』ってのはどうだ?」

「……何が目的? それなら同盟でもよくない?」

 

小山は自分達より立場の低いFクラスが同盟でなく協定を結ぶ理由が思いつかなかった。

 

「別に内容以外の目的はないさ。ま、しいて言えば『根本なんかと手を組むような代表のクラスとは同盟を結べない』ってとこかな」

「なっ!?」

 

秀隆の台詞は、言い換えれば『小山は根本と同等』と言っているようなものだ。

小山は自分と根本が同一扱いされてショックを受けた。

 

「まあ無理にとは――」

「その協定、結ぶわ!」

 

小山は雄二の台詞に被せるように宣言した。

 

「そ、そうか。もし破ったら――」

「絶対に破らない! あんな奴と違うってところを見せてあげる!」

「お、おう……」

 

怒鳴るように畳み掛ける小山に、流石の雄二もタジタジになった。

 

「んじゃ協定締結ってことで。そろそろお暇するか」

「そうだな。ちゃんとした協定書は後日送らせてもらう。じゃあな、小山」

「ええ。さようなら」

 

無事Cクラスとの協定を約束した雄二と秀隆は、明久たちを連れてCクラスを退室した。

 

「何とかなったね」

「そうじゃの。Cクラスと協定も結べたことじゃし、一安心じゃな」

「一時はどうなることかと思いました」

「本当ね」

 

後顧の憂いが断て、明久達はホッとしていた。

 

「何言ってんだ? Cクラスは終わってないぞ?」

「え?」

 

 秀隆と雄二の対Cクラス作戦はまだ続いていた。

 

「そうだ。Cクラスには少し痛い目を見てもらう」

「え? でも協定を結びましたよ?」

「甘いなリリアは。そんな事だと今に寝首を掻かれるぞ」

「でも、Cクラスの人たちに申し訳ないよ」

「根本とは言え、自分の彼氏を『あんな奴』扱いする奴だぞ? 例え協定を結んだとしても、使えないと思えば直ぐに俺たちを切り捨てるさ」

 

淡々と説明する雄二と秀隆。実際、小山は状況によってはFクラスとの協定を反故にする腹積もりであった。

 

「だから先手を打つ」

「先手? 何をする?」

「まあ明日のお楽しみさ。くっくっくっ。俺をあんな中途半端な作戦で嵌めようとした罪。Cクラスには悪いが連帯責任として償ってもらうぜ」

 

『秀隆だけは敵に回してはいけない』とその場に居た全員が思った。

 

――翌日――

 

朝のホームルーム終了早々、雄二が教壇に上がった。

 

「さて、今から対Cクラスの作戦を開始する」

「それで、結局何をするの?」

 

明久は昨日はぐらかされたので早く知りたくて堪らなかった。

 

「秀吉に『これ』を着てもらう」

 

そう言って雄二が取り出したのは、文月学園女子生徒の制服だった。

 

「……雄二。君に一体何があったの?」

「言ってやるな明久。雄二も色々と悩んでるんだ」

「お前ら後で校舎裏に来い」

 

ヒソヒソと不穏な会話をする秀隆と明久に、雄二がドスの利いた声ですごんだ。

 

「ま、冗談は置いといて。秀吉にそれを着せてどうするの?」

「秀吉にはこれを着てCクラスに行ってもらう。ただし『木下優子』としてな」

 

秀吉にはAクラスに双子の姉の『木下優子』が所属していた。二人は一卵性双生児かと思うほど瓜二つで違うのは成績と喋り方位である。

秀隆曰く、「気配も違う」とのことだが、気配で区別できるのは秀隆くらいである。

 

「わしは別に構わんが……」

 

秀吉はチラリと秀隆の方を見た。

 

「ああ。気にすんな。アイツのここで築き上げた地位がどうなろうと俺の知ったこっちゃねえって」

「(素直じゃないのう)」

 

秀吉は素っ気ない態度で言う秀隆に心の中でツッコミを入れた。

 

「何か言ったか?」

「別に、じゃ。さて、着替えるとするかの」

 

そう言うと、秀吉は女子の目もあるというのにその場で着替えだした。秀吉の着替え中、明久は悶絶し、康太は素早くカメラのシャッターを切っていた。

 

「よし、終わったぞい。ん? 皆どうしたのじゃ?」

「さあな?」

「まぁ、思春期ってやつだよ」

 

秀吉の着替えを見て殆どの男子が複雑な反応を示す中、秀隆と雄二だけは普段通りだった。

 

「何ででしょう? 男の子が眼の前で着替えていたのにちっとも違和感がありませんでした」

「ウチも。何だか普通に女の子が着替えているみたいだったわ」

「不思議ですね」

 

女子の三人も、秀吉が眼の前で着替えていても、何も感じなかった。それ程、秀吉の女装は様になっていた。

 

「それじゃあ行くぞ」

「う、うむ」

「あ、待って僕も行く」

「んじゃ、俺も秀吉の名演を拝みに行きますか」

 

秀吉達四人は作戦を実行に移すためCクラスに向かった。

 

――Cクラス前――

 

「――さて、ここからは秀吉一人で行ってもらう。頼んだぞ」

「あまり気が乗らんのう……」

 

Cクラスを眼の前にて、秀吉は今更ながら気が引けてきた。やはり血の繋がった姉を陥れるのは躊躇われるようだ。

 

「そこを何とか頼む。Aクラスのフリをして奴らを挑発するだけでいいんだ」

「演劇部期待のホープのお前ならやれるはずだ」

「むう……仕方ないのう。あまり期待せんでくれよ……」

 

雄二と秀隆の二人に説得されて、秀吉は溜め息を吐きトボトボとCクラスに歩いて行った。

 

「大丈夫かな?」

「まあ大丈夫だろ」

「ああ。秀吉の演技は学園一だからな。それより、秀吉がCクラスに入るぞ」

 

明久が心配する中、秀吉はドアの前で2、3回深呼吸するとCクラスに入っていった。

 

『静かにしなさい! この薄汚い豚ども!』

 

秀吉がCクラスに入った途端、普段の言動からは想像も出来ない位の罵声が聞こえてきた。もちろん、木下優子に扮した秀吉が言っているのだ。

 

『な、何なのよアンタ!』

『話しかけないで! 豚臭いわ!』

 

明久は「自分で話しかけておいてそれは酷いよ」と心の中でツッコんだ。

 

『アンタAクラスの木下優子ね! ちょっと成績が良いからっていい気になってんじゃないわよ! 何が目的なよよっ!?』

『ふんっ……私はね、こんな臭くて汚い教室が同じ校内にあるのが我慢できないの! 貴女達なんて豚小屋で十分だわ!!』

『なっ! 言うに事を欠いて、私達はFクラスがお似合いですって!?』

 

仕方ないとはいえ、豚小屋と聞いて即座にFクラスが連想されるのは如何なものかだろうか。

 

『手が穢れるのが凄く嫌だけど、準備も出来ているようだし、薄汚い貴女達を相応しい教室に送ってあげるわ。覚悟しておきなさい。近いうちに始末してあげる』

 

秀吉はそう言い残してCクラスを後にした。

 

「こんなもんかの?」

 

戻ってきた秀吉の表情は、もの凄くスッキリとしていた。

 

「ああ。素晴らしい仕事だった」

 

雄二が秀吉の演技で拍手を贈っている間に、Cクラスは喧騒に包まれる。

 

『Aクラス戦の準備を始めるわよ!』

 

Cクラスはすっかり秀吉の偽の挑発に乗り、Aクラスに敵意が向いた。

 

「よくやったな」

「何の。これしきのこと朝飯前じゃ」

 

秀隆の労いの言葉に胸を張る秀吉。演劇部の彼にとって、身内に化けることなど造作もないことなのだろう。

 

「そうか。ところで、躊躇なくそんな格好してるから女と間違われるんじゃないか?」

「なっ! どうしてもっと早く言ってくれなかったんじゃ!」

「面白そうだったから」

「~っ!」

 

秀隆の遅すぎた指摘に、秀吉は顔を真っ赤にして抗議した。

 

「おいお前ら、じゃれ合ってないで教室に戻るぞ」

 

秀隆達は十数分後に迫ったBクラス戦に備えるため教室に戻った。




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