バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回は勉強会in霧島邸その4。明久たちの帰還後〜パジャマパーティー(女子部屋)になります。書きたいこと多すぎて少し長くなってしまいました。お楽しみいただけたら幸いです。


第八十三問

第八十三問

 

優子が出ていってから数分後、這々の体で明久たちが帰ってきた。特に康太は雄二の肩に担がれるほどに疲弊(鼻血)していた。

 

「ただいま〜」

「お疲れさん。首尾はどうだ?」

「秀吉のおかげで何とかなったよ」

 

明久は秀吉が翔子の部屋にあったそれらしきものを片っ端から開封していったこと、どうして明久たちが急いで帰ってきたかを説明した。

 

「なるほど。それで康太があのザマってわけか」

 

愛子の下着で失血死しかけるとはいかにも康太らしい。瀕死になりながらも自分で輸血パックのカテーテルを腕に刺してるのは流石としかいいようがない。

 

「その模擬試験なんじゃが、少し妙なんじゃ」

「妙?」

 

秀吉は模擬試験に違和感を感じたという。

 

「模擬試験のいくつかが、ワシが開ける前に既に開封済みだったのじゃ」

「霧島が既に使ってたんじゃないのか?」

「いや。それにしては使用した形跡がなかった。その上、落丁したのもあったしの」

「印刷所のミスじゃないのか?」

「霧島さんが利用する印刷所がそんなことするかな?」

 

明久と秀吉が疑問符を浮かべる。どうやら優子の仕業とはバレていないようだ。途中でかち合うこともなかったらしい。なんにせよ。これでテスト勝負はなくなりそうだ。

 

「ところで、どうして秀吉は協力してくれたの?」

 

明久がずっと気になっていた疑問を秀吉に尋ねた。今回は大丈夫だっが、探索中に優子が戻ってくるリスクもあった。もし優子に見つかれば、どんな制裁が待ってるかは秀吉にも想像できたはずだ。そこまでの危険を冒してでも明久たちに協力する理由があるのだろうか。実際は既に優子は入れ違いで秀隆たちの所にいたからそんな心配は無用だったわけだが。

 

「ワシも色々と複雑での……」

 

秀吉が遠くを見るような目をする。

 

「女子と同衾して、何もなくば今後ワシは完全に女子扱いされるじゃろうし、何かあれば当然問題になる。これほど割に合わん状況はあるまいて……」

「そ、そっか。秀吉も色々と大変なんだね」

 

切なそうに語る秀吉に、明久も全て理解はできていないが少し同情した。

 

「おいお前ら、そんなことより今すぐ翔子の部屋に戻るぞ。秀隆はハンマーか何かを持ってこい。硬質ガラスを砕けるくらいの威力があるやつがいい」

「んなもん持ってるわけねぇだろ」

「いったいどうしたんだ?」

 

切羽詰まった様子で翔子の部屋に戻ろうとする雄二。 既に得ていた情報から答えは予想できるが、一応理由を聞いておく。

 

「翔子の野郎、俺との婚姻届を弁護士に預けているなんて嘘ついてやがった。本当はアイツの部屋に置いてあったんだ!」

「しかも硬質ガラスでコーティングしてまでね」

「賞状のように壁に飾ってあったのぅ」

「俺はアレを取り返さなきゃいけないんだ!」

 

優子の情報通りだが、状況は予想以上だ。雄二は婚姻届を取り返さんと躍起になっていた。

 

「落ち着け。それがダミーの可能性だってあるだろ?」

「そうだな。本物は本当に弁護士に預けて、部屋のは写しかもしれない」

「いいや、アイツがそんなマネするか。むしろ弁護士にダミーを預けている可能性の方が高い」

「相変わらず霧島さんの理解度が高いね」

「嫁さんだからな」

「だから嫁じゃねぇ!」

 

雄二が全力で否定する。なぜ翔子との婚約をそこまで破棄したいのか、明久には理解できない。

 

「でもよ、侵入してる間に女子が風呂から戻ってくるかもしれねぇだろ。そしたらどの道失敗じゃねぇか」

「そうだよ雄二。さっきだって工藤さんが忘れ物を取りに来たから仕方なく逃げてきたのに」

「ぐ……っ。それは、そうだが……」

 

秀隆と明久に諭されるが、雄二は諦めきれない様子。目の前に目的の物があるのに、入手する手立てがない歯痒さが痛烈に伝わってくる。

 

「なら、一度風呂に入らないか? というかそろそろ入りたいんだけど」

 

トレイズが風呂に入ることを提案。このままだといつまで経っても入浴できそうにない。

 

「そうだね。雄二、今は打つ手がないみたいだし、とりあえず今はお風呂に入ろうよ」

「俺は風呂どころじゃないんだが……。そうだな、ここは気分を変えて風呂にでも入って何か策を考えるか」

「それがいいのじゃ」

「なぁ、土屋はアレで大丈夫なのか?」

「…………大丈夫だ。問題ない」

「それ、死亡フラグだからな」

 

やいのやいの言いながらも、入浴するための支度を始める。

 

「それじゃ、秀吉はまた後でね」

「待ていっ」

「へ?」

 

部屋の前で分かれようとした明久の襟を秀吉が掴む。

 

「どうしたさ秀吉? お風呂に行かないの?」

「うむ。風呂に入るつもりじゃ。じゃが、なぜお主は別行動を取ろうとする?」

「え? だってお風呂でしょ?」

「うむ。風呂じゃ」

「だから、僕らは男湯で、秀吉は」

「ワシも男湯じゃ!」

「? 時間をずらして入りたいってこと?」

 

秀吉の台詞を、明久はいまいち理解できていないようだ。

 

「違うのじゃ! ワシもお主らと一緒に入るのじゃ!」

 

秀吉の大胆(?)な宣言に、明久は目を大きく見開いて驚いた。その後ろでは康太がまた鼻血を噴き出している。

 

「えぇぇっ!? だ、ダメだよ秀吉! そんなはしたないこと!」

「何がダメなのじゃ! 今日という今日こそはワシをきちんと男して見てもらうからの!」

「ダメだよ秀吉! そんな戸籍上の性別を信じるなんて!」

「ワシは生物学上も男じゃ!」

「そもそも戸籍上男なら男だろうが」

「別に男なんだから一緒に風呂に入るくらいいいだろ」

「何が問題なんだ?」

 

明久は秀吉を説き伏せようとするが、今回は明久と康太以外は秀吉側。珍しく秀吉が優勢だった。

 

「ふっふっふっ。観念するのじゃな明久。先の合宿では叶わんかったが、今日はそうはいかん。男同士裸の付き合いじゃ!」

「は、裸……」

「か、顔を赤らめるでないっ! とにかく、お主がなんと言おうともワシは男湯に入るからの!」

 

秀吉は明久の腕をガッチリと掴んでテコでも動かない構えだ。こうなってしまった秀吉は頑固で手に負えない。明久もついには音を上げた。

 

「……わ、分かったよ秀吉。それなら一緒にお風呂に入ろ――」

「ねぇ瑞希。突然だけど、人間って20分以上水中で息を止めれるそうなの。アキが挑戦してるとこを見てみたくない?」

「奇遇ですね美波ちゃん。実は私も、急に明久君が素潜りの世界記録を更新する瞬間を見てみくなっちゃったんです」

 

唐突に現れた瑞希と美波が、明久の両手を後ろ手で縛る。2人とも笑顔なのだが、後に夜叉が見える。

 

「じゃあ行きましょうかアキ。この家ならプールくらいありそうだし。とりあえず息継ぎなしで100往復くらいすればいいかしら?」

「その後はお風呂に頭の先まで浸かって10000まで数えましょうね? 身体の芯まで温まりますよ?」

「あははっ。2人とも、冗談が上手いなぁ。そんなことをしたら僕は死んじゃうじゃないか」

 

拘束を解こうともがくが、結び目を固く縛られているせいで一向に解ける気配がない。

戦慄する明久の肩に、誰かがポンと手を置く。

 

「大丈夫よ。吉井君」

 

明久の肩を叩いたのは優子だった。優子も笑顔なのだが、その後ろには般若がいた。

 

「木下さん。良かった流石に冗談」

「この秀隆(バカ)も一緒だから」

 

優子が明久の肩に手を置いたのは、助けるためでなく、逃げ出さないように押さえつけるためだった。そして反対の手では、逃げようとする秀隆の首根っこをガッシリと掴んでいる。

秀隆も優子の魔の手から逃れようと手足をバタバタさせて抵抗しているが、こちらも一向に動ける気配がしない。2人の身長差も相まってカートゥーンアニメのようなシュールさがある。

 

「おいバカ優子! 俺を巻き込むなんてどういう了見だっ!? 俺になんの恨みがあるってんだっ!」

「黙りなさいこの外道。どういう了見? なんの恨み? 面白いこと聞くわね? まさか、さっき私に何て言ったかもう忘れたわけじゃないわよね?」

「さっきって……アレの制裁はもう受けだろっ!」

「何寝ぼけたこと言ってんのよ――アレだけで済ませるわけないでしょ?」

 

ニッコリと微笑む優子。しかし、その笑顔は地獄の閻魔大王よりも恐ろしい。

 

「お前、まさか」

()()()()()()()瑞希たちが吉井君を懲らしめるみたいだし、便乗させてもらうことにしたの」

(はか)りやがったコノヤロウ!」

「何とでも言いなさい。秀吉がいる状況でお風呂に入るなんて、どうなるか分かっていたでしょう?」

「くそっ! それを見越してのアレかよ!」

 

秀吉の悩みは『女子扱い』されること。二卵性双生児とはいえ、なまじ優子と同じ顔に育ったことで傍から見たら美少女にしか見えない。男らしさを追及しても、背伸びした女の子としてか認識されないのだ。

姉として弟のコンプレックスを利用するのはどうかとも思ったが、人をゴリラ扱いした外道を懲らしめるためにはそんなことは些末事だ。

 

「おいコラ明久! テメェのせいでとんだトバッチリを食らったじゃねぇか!」

「知らないよそんなこと! というかそっちは秀隆がデリカシーのないこと言ったせいじゃん!」

「ノンデリ世界チャンピオンのお前に言われたかねぇよ!」

「それはこっちの台詞だ!」

 

明久場合は理不尽だとしても、秀隆は完全に自業自得だ。どちらかと言えば明久の方がとばっちりである。

 

「まったく、戻ってきてみたら、よりにもよって木下とお風呂だなんて……」

「工藤さんと優子ちゃんの戻りが遅かったので少し心配していましだが、むしろ良かったですね。後でお礼を言わないといけませんね」

「礼には及ばないわよ。……さぁ、観念しなさい。今日こそはたっぷりとキツいお灸をすえてあげるわ」

「あは、あははは……。み、皆さっきから冗談ばっかり。本当は僕をからかっているだけでしょ? ねぇ、冗談だよね!? なんで2人ともこっちを向いてくれないの!? どうして僕の両手をさらに厳重に縛るの!? とにかく話を聞いてよ! 誰か、誰か助けっいやぁああーっ!」

「くっそ! 何で俺の周りの女子はここぞという時にこんな怪力になるんだよっ! やっぱりお前らゴリ――まて話をしよう。 今ならまだ間に合う。だからその関節はそっちには曲がらな――」

 

明久と秀隆が瑞希たちによって地獄へ引きずられて行く一方で、

 

『……雄二』

『しょ、翔子!? お前いつの間に戻ってきたんだ!?』

『……婚姻届を盗もうとするなんて、許さない』

『ま、待て! 話を聞け! あれは盗難じゃなくて正当な権利でぎゃあああーっ!』

 

雄二は翔子によるお仕置きを受け、

 

『ムッツリーニ君』

『…………工藤、愛子……っ!』

『えいっ(チラッ)』

『ぐぼぁっ!(ブババ)』

 

康太は愛子により再び死の淵へと追いやられた。

 

「まったく……。風呂に入る時くらい少しは落ち着けんのか」

「あははは……。じゃ、俺たちだけでも風呂に入ろうか?」

「……そうじゃな。ここにいても時間の無駄なだけじゃしな」

 

結局秀吉はトレイズと2人で風呂に入ることとなった。リリアに一瞬不安そうな顔をされたが、特に問題もなく入浴時間は終了した。

 

それから数時間、模擬試験勝負は木下姉弟の活躍により中止。そのまま普通に勉強会を行い、日付けが代わりかけた所でお開きとなった。

 

「木下君。何かあったら大声で叫んで下さいね」

「……これ、防犯ブザーとスタンガン。雄二が何かしそうになったら使って」

「むぅ……。もはやワシの性別を正しく認識してくれるのは数えるほどしかおらぬということなのじゃろうか……?」

「大丈夫よ秀吉」

「姉上……」

 

優子が姉らしく秀吉に優しく声をかける。

 

「万が一何かあっても私は一向に気にしないから。むしろあってくれてもいいわよ?」

「姉上はいったい何を言ってるんじゃっ!?」

「木下姉は実の弟に何を言ってるんだ?」

「もはや、優子がFクラスに毒されたというより、優子が布教してた説が出てきたな」

 

瑞希たちの変な方向の猜疑心は優子が原因とすら思えてくる。

 

「アキ。分かっていると思うけど、万が一にも何かあっあら……」

「わ、分かってる! 何もしないよ!」

「というか、何かしかけたのは島田だろうが」

 

合宿の時に明久に夜襲をしかけたことなど、美波はすっかり忘れているようだ。

部屋割は秀吉(と優子)の希望と秀隆の説得(詭弁)により男子&秀吉部屋と女子部屋の二部屋に別けられた。一応は合宿の時に何もなかったことも考慮されたようだが、それにしたって明久や雄二への警戒心が強すぎる。信頼もへったくれもない。

 

「たまに思うけど、君らって本当に友だちなんだよな?」

「友だちだから、譲れないものでもあるんだろ。知らんけど」

 

どこか投げやりに答える秀隆に、トレイズも苦笑するしかなかった。

 

〜〜女子部屋〜〜

 

そんなこんなで就寝時間となり、皆明日に備え床に就く。

 

「ねぇねぇ〜、瑞希ちゃん、美波ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「なんですか?」

「変な質問じゃないわよね?」

「そんなことないよ〜。――ぶっちゃけ、瑞希ちゃんと美波ちゃんって吉井君のどこが好きなの?」

「「ぶっ!?」」

 

わけもなくパジャマ姿で眠くなるまでハーブティー片手に談笑していた。パジャマパーティの定番と言えば、やはり恋バナだ。愛子の投下した爆弾に2人がむせ返る。

 

「い、いきなり何てこと聞いてくるのよ!?」

「だってさ。2人とも露骨に吉井君を気にしるんだもん。ボク気になって夜しか眠れないよ」

「ちゃんと寝てるんじゃないですかっ!」

「にゃはは〜」

 

愛子は枕を両手で抱えて布団の上にゴロンと寝転がる。愛子は質問の答えにさして興味はなく、ただ2人のリアクションを見て面白がっているようだ。

 

「愛子、そんな出刃亀みたいな質問はやめなさい」

「えー。でも気になるじゃん。2人とも二年生の中だとレベル高いし、そんな2人が気になる相手って興味わかない?」

「わかないわよ。プライベートでセンシティブな話なんだから、無闇に聴くものじゃないわ」

「相変わらず優子は堅いなぁ」

「アンタが奔放すぎるのよ」

「リリアちゃんも興味あるよねー?」

「どうでしょうか?」

 

優子に釘を刺された愛子はリリアに同意を得ようとするが、リリアは曖昧な笑みを浮かべるに留めた。

 

「ちぇー。皆つまんないなー。もっと曝け出していこうよ」

「あら? ならアナタは曝け出せるのね? 自称実践派さん?」

「あはは。優子ったら、流石にその挑発は安くない?」

 

挑発的な笑みを浮かべる優子に、愛子も不遜な笑みで返す。これるものなら来てみろ、ということだ。

 

「じゃぁ聞くけど」

「いいよー。ふふ。何だかんだ言って、やっぱり優子もボクのHな話に興味が」

「土屋君とはどんな関係なの?」

「…………へ?」

 

優子の突拍子もない質問に、一瞬愛子の思考が停止する。

 

「き、急に何言いだすのさっ!?」

「だってアナタたちって新学期の試召戦争が初対面じゃない。それなのにもうライバル関係だなんて、愛子ってよっぽど土屋君を意識してるのね」

「なっ!? ちが」

「や、やっぱりそうなんですかっ?」

「どうりで。土屋にちょっかいかけていたのもそういう」

「だから違うってば! ボクがムッツリーニ君をどうこうだなんて、そんなことあるわけないじゃないっ」

 

 愛子は首と両手を振って否定するが、かえって怪しまれた。

 

「そうやって否定するなんて、ますます怪しくなりますよ?」

「……いつもの愛子なら笑って受け流す」

「ちょっ、リリアちゃんに代表まで――優子、プライベートでセンシティブな質問なんだから皆を止めてよ!」

「アンタが撒いた種でしょ。おとなしくゲロっちゃいなさい」

「……言えば楽になる」

 

2人をからかうつもりが、思わぬカウンターを受けてしまった。愛子はどうにか誤魔化せないかと思考を巡らせ、

 

「そ、そういう優子はどうなのさ?」

 

矛先を優子に向けた。

 

「私?」

「そうだよ! 優子と神崎君はどんな関係なのさっ!」

「ただの幼馴染みだけど」

 

即答する優子に、その場にいた全員が「マジかよ」という顔になる。

 

「なによ。皆して変な顔して」

「いや、だって」

「流石にそれは無理があるわよ」

 

怪訝そうな顔をする優子。しかし優子と秀隆がただの幼馴染みの関係なわけないだろうというのが、この場全員の見解だ。

 

「なんでよ?」

「なんて言うか……優子ちゃんと神崎君って、お互いに信頼し合っていると言うか」

「お互いの背中を預けられる関係、って感じですよね」

 

互いに背中合わせで敵の包囲網を突破せんとする2人の姿が容易に目に浮かぶ。

 

「口喧嘩しながらバッタバッタとなぎ倒しそうね」

「……凄く、分かる」

「そんなこと分からなくていいわよ」

 

本人を置いてけぼりにしてやいのやいの盛り上がる瑞希たちに、優子は呆れて嘆息した。

 

「だいたい、それなら吉井君もそうでしょ? 瑞希たちは、秀隆と吉井君が付き合ってると思うの?」

「それは……」

「そうだけど……」

 

優子の指摘に口ごもる2人。優子が内心「私はアリだけど」と思っていたのは内緒だ。

 

「ほらね。だから私も特にアイツと特別な関係なんかじゃ」

「じゃぁ、優子は神崎君が誰かに()られてもいいんだ?」

 

愛子の挑発するような笑みと言葉に、優子が一瞬硬直する。

 

「……()られる? 誰に?」

「誰かは分かんないけど、神崎君を好きな()とか」

「そんな子いるわけないでしょ」

 

優子は秀隆に恋愛感情を抱く女子はいないと断言するが、愛子はと意味深な笑みを崩さない。「それはどうかな〜?」

 

「……いやに挑発的じゃない。なんだって言うのよ?」

「あ、やっぱり優子知らないんだ」

「だから何をよ?」

「先週の文月新聞のランキング」

 

文月新聞とは文月学園新聞部が刊行している学校新聞で、その時々に起きた事件や噂の真相などを掲載している。

中でも人気なのが学園全生徒を(時には教師陣も)対象にした『文月学園ランキング』で、新聞部の独断と偏見によって決められたテーマに沿ってアンケートを取り、対象者をランキング付けしていくお遊び企画だ。ここにいる面子も、なんらかの形でランクインしたことがある。

 

「ああ、あの低俗なランキングね」

「ええ。あの最低なランキングね」

 

優子は以前『実は私生活が乱れていそうな生徒』、美波は『彼女にしたくない女子』でランクインした経験があり、未だに根に持っていた。

 

「それで、そのランキングがどうかしたんですか?」

「先週のテーマが『実は気になっている男子生徒』だったんだけど――」

「また俗物的なランキングね」

「――神崎君、5位だったよ」

「…………は?」

 

優子の目が点になる。5位ということは、二年生男子約150人の上から5番目ということだ。仮に1位の生徒が50票獲得したとして、少なくとも20〜30人は秀隆に投票したことになる。

 

「因みに1位は――」

「ちょ、ちょっと待ってよ。アイツがそんなランキングで5位? Fクラスな上に中学生の時は『月下凶刃』なんて中二病全開な二つ名で呼ばれていたアイツがっ!? その子たち頭大丈夫なの?」

「…………」

「ゆ、優子ちゃん。なんか翔子ちゃんも落ち込んでるんですけど……」

 

優子の台詞はそのまま雄二にも当てはまるため、翔子にもグサグサと刺さる。しかし、優子にはそれを気にしていられないほど動揺していた。

 

「そこまで言う? でも、仕方ないんじゃない?」

「なんでよ?」

「だってさ、神崎君って結構珍しい髪と瞳の色してるじゃん。それに召喚大会の時に上位クラスや先輩たちを圧倒してたし、決勝戦は吉井君とあの大立ち回りでしょ?」

「確かに、知らない人から見たら凄くカッコよく見えるわね」

 

目立つ髪色と瞳。召喚大会では常夏コンビとはいえ3-Aクラスを瞬殺。さらには白熱した決勝戦。観客が大いに盛り上がったことは間違いない。

 

「それと、停学明けで各クラスに謝罪行脚したでしょ。アレで好印象持った子もいるんじゃない?」

 

強化合宿で、男子生徒は全員で覗きを敢行するという暴挙に出て、秀隆もそれに参加し、結果停学処分となった。だが、それには真犯人を白日の元に曝すという目的があったのだが、秀隆はその意図を皆に伝えず巻き込んだことを停学明けに各クラスに謝罪して回った。

 

「けど、それには坂本君や西村先生もいたわけだし」

「それでも、形だけでも謝る姿勢を見せたのは凄いと思いますよ」

「大多数の男子は悪びれもしなかったしね」

 

男子生徒の中には反省文の他に自分のクラスで謝罪した生徒もいるが、多くは「Fクラスに唆された」を言い訳にして被害者だと主張した。そんな中で率先して自分の非を認めた秀隆に好意的な印象を抱いた生徒がいてもおかしくはない。

 

「つまり、秀隆のランキングは妥当だと言いたいの?」

「うん。今回は二年生だけにアンケート取ったみたいだけど、全校生徒入れたらひょっとするんじゃない?」

 

愛子は厭らしい笑みを浮かべてそう言った。いつも澄ました顔の優子も、これなら動揺すると考えたからだ。その目論見は最初は当たったが、

 

「ふ〜ん。なるほどね。アイツがねぇ」

 

優子はすぐに冷静さを取り戻していた。

 

「あれ? 何とも思わないの?」

「最初はビックリしたわよ。アイツがそんな隠れ人気キャラだなんて思わなかったもの――でも」

「でも?」

「別に私が心配する必要はないかなって」

「うわぁ。皆、聞いた? 」

「……正妻の余裕」

 

気にする必要はないと宣う優子を、愛子と翔子が囃し立てる。

 

「違うわよ。だってその子たちって、秀隆の表面的な所しかみてないじゃない?」

「まぁ、そうですね」

「そこしか見れないものね」

「話す機会もあまりないでしょうし」

 

クラスメイトの3人、加えて優子と翔子、愛子は秀隆の性格を良く知っているが、他クラスの生徒は一部を除き関わり合いはほぼ0だ。判断材料が表面的なものしかないのは致し方ない。

 

「だから仮に誰かと付き合っても、長続きしないわよ。すぐにあの性格に嫌気が差すわ」

「まぁ、あの性格を知ると、確かに彼氏にしたいとは思わないわね」

 

性格の悪さランキングでもトップ3に余裕でランクインする秀隆だ。その生徒たちも結局「何となく良いなあ」止まりで、彼氏にしたいかと言えば尻込みするだろう。

 

「だから、私が心配する意味はないのよ」

「そっか〜。そうだよねぇ」

 

話はこれで終わり、という風に優子は締めくくろうとしたが、愛子のニヤけ顔は鳴りを潜めるどころかさらに厭らしさを増している。他の皆も、よく見るとニンマリとしたニヤけ顔だ。

 

「なによ皆して」

「だってさ〜」

「優子ちゃんは否定しましたけど」

「そう思うってことは」

「神崎と釣り合うのは自分しかいないって言ってるようなものよ?」

「……やっぱり正妻の余裕」

「なぁっ!?」

 

予想外の追撃。そんなつもりは一切なかったのに、愛子たちはそう捉えたようだ。愛子たちでなくてもそう捉えるが。

 

「もぅ。優子ったら、素直じゃないんだから〜」

「ち、違うわよ! あ、アイツの性格について行けるのが私くらいってだけで! だ、誰があんなヤツっ!」

「そう思うってことは、()()()()()()じゃん」

「だから違うってっ!」

「そう言ってムキになるってことは意識してるってことでしょ〜?」

「……いつもの優子なら、無視して流す」

「優子ちゃんも女の子なんですね〜」

「いつもはクールぶってるのに」

「優子ちゃん、可愛いです」

「だーかーらーっ! 私はあんな性悪のことなんてー!」

 

顔を真っ赤にして両手をブンブン振り回す優子。思春期の少女らしい姿を皆して微笑ましく見る。クールで堅物な優等生の優子も、自分たちと同じ女のなのだ。

 

「これは、夜通し追及しないとね」

「そうですね。愛子ちゃんと優子ちゃん。2人一緒にじっくり聞かせてもらいますね」

「そうだ――え?」

「……2人とも、覚悟して」

「ちょ、ちょっと待ってよ! ボクだってあんな頭でっかちのことなんて何とも思ってないってばっ!」

「今夜は徹夜ですねー」

「リリアちゃんまでっ!? ゆ、優子助けて!」

「アンタのせいでしょうが! どうしてくれんのよ!」

 

結局愛子も瑞希たちの追及の手を逃れることはできず、優子共々辱めを受けるハメになったとさ。

 




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