バカと凶刃と召喚獣   作:赤辻康太郎

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今回は霧島邸での勉強会終了後〜期末テスト本番です。

※本編にあった問題部分は差し替えてあります。

明久の運命やいかに……!


第八十五問

第八十五問

 

翌日。朝から妙に機嫌の良い優子に皆が疑問を抱きつつ、勉強会は滞りなく終了し、昼過ぎには解散となった。

1日半の時間を勉強に費やしただけはあって、瑞希やAクラスメンバーはもちろん、明久や美波たちも確かな手応えを感じていた。

 

「さて、と」

 

秀隆も帰宅後、軽く掃除をしてから最後の追い込みのために勉強道具を広げる。夕食は作り置きがあるから気にしなくていいし、追い込みといっても公式や英単語を軽く見直す程度で、明日の本番に備えて今日は早めに寝るつもりでいた。

 

――ピンポーン――

 

「ん?」

 

不意にドアベルが鳴る。今日は来客の予定も宅配の予定もない。押し売りや勧誘を警戒しつつ、インターホンのカメラを覗く。

 

「明久?」

 

ドアの前に立っていたのは明久だった。秀隆は怪訝に思いながらすぐに玄関に出る。

 

「どうした明久?」

「ごめん秀隆。今晩泊めてくれない?」

「はぁ? お前何考えてんだ? 明日テストの本番だぞ?」

「うん……。それは分かってるんだけど……」

 

申し訳なさそうに俯く明久に、何かを察した秀隆はため息をしながら「まぁ、入れよ」と明久を招き入れた。

 

「お邪魔します」

「邪魔するんなら帰って欲しいんだけどな」

 

皮肉を混じえながら、とりあえず明久をダイニングに入れる。

 

「コーヒーでいいか?」

「あ、うん」

 

冷蔵庫から牛乳パック型のコーヒーのパックを取り出しコップに注ぐ。バイト先の『喫茶フランドール』が最近発売しだしたオリジナルブレンドのパックコーヒーだ。

 

「ありがとう」

「ああ。んで、姉貴と何かあったか?」

 

疑念ではなく確信を持って尋ねる。このタイミングで明久が押しかけてくるなど、玲絡み以外は考えにくい。

 

「うん。ちょっとね……」

 

明久は帰宅してからの玲とのやり取りをポツポツと説明した。

勉強会終了後、何だかんだ言っても玲も日本食を食べたいだろうし、せっかく久々に帰ってきているのだからと帰り道で夕食の献立を考えていた。明久の勉強のために色々と遠慮していただろうし、勉強会で試験対策はできているのだから今日くらいは、と帰宅後、夕食の買い出しに行こうとしたら、

 

「アキ君。アキ君にはそんな余裕はあるのですか?」

 

返ってきた答えがこれだった。そればかりか、玲は自分に構って勉強を疎かにしては本末転倒だとまで宣った。玲はあくまで明久の生活や学習状況を確認しにきただけなのだと。

 

「それで口論になったわけか」

「うん」

 

そうなってしまえば、後は売り言葉に買い言葉。『余計な』気遣いは無用と明久の善意をバッサリと切り捨てた玲に、明久も玲は姉弟のコミュケーションよりも成績が重要なんだと反論した。愛していると言っておきながら、自分のことなど歯牙にかけないのだと。

 

「んで、勢い余って家を飛び出してきた、と」

「うん。家に居ると、姉さんのことが余計に気になってきそうで」

 

イライラした時は些細なことですら大事に感じてしまう。その原因と思わしき存在が同じ家の中に居るのだから、邪魔をするなと釘は刺したものの、返って気になって集中できない。

 

「事情は分かった」

「それじゃ」

「それ飲んだら帰れ」

「なんでっ!?」

 

秀隆は明久に向かってシッシッと追い払うように手を振った。

 

「お前なぁ。たかだか口喧嘩して勢い余って家出しただけだろ。しかも着の身着のままって、勉強道具や制服はどうするんだよ?」

「それは……秀隆の貸してくれない?」

「死んでもゴメンだ」

「そこまで言わなくてもいいんじゃないかなっ!?」

 

秀隆も秀隆で明久をバッサリと切り捨てた。

 

「だいたい、それは俺じゃなくて雄二の役目だろうが」

 

雄二が聞いたら「そんなわけないだろ!」と怒り出しそうだ。

 

「もちろん、真っ先に雄二の家に行ったよ。でも門前払いされて」

「そりゃそうだろな。いきなり押しかけてきて『一晩止めろ』だなんて言われたら追い返したくもなる」

 

現に雄二には追い返されたし、秀隆からも追い出されそうになっている。

 

「それに、いいか明久。確かに玲さんの言葉には血も涙の欠片もひとつもないが、明久の現状をよく理解した指摘だ。間違っちゃいないとまでは言わないが、一理あるのは間違いない。お前もそのくらいわわかってるだろ?」

「それは、そう、だけど……」

 

あんな変人とはいえ、姉を思っての行動を邪険にされたのだから、明久もつい感情で動いてしまった。理解が追いつかないのではく、上手く飲み込めないのだ。

 

「まぁでも、晩飯の支度くらいは何とかなっただろうな。この前の食材も余ってただろうし」

「だよね。あんな言い方することないよね」

 

明久の家で勉強会をした時、夕食に使った食材は8人分の料理を作ってもかなり余っていた。それを使えば、日本食は無理でも簡単なメニューはできたはずだ。

 

「ま、結局お互いが意固地になった結果だな。玲さんもお前も追い払いたいわけでないだろうしな」

 

でないと実の弟に向かって『異性として愛してる』なんて言えるわけがない。

 

「わからないよ。僕を社会的に抹殺して家を乗っ取るつもりかもしれない」

「乗っ取るって、元々吉井家の家だろうが」

 

あの家には明久が両親と玲の家族4人で暮らしていたのだから、乗っ取るというより爪弾きにすると言った方が正しい。いや、むしろ社会的に抹殺することによって、玲に心身ともに依存させる気なのかもしれない。

 

「しかし、明久に晩飯を作らせないとなると、夕食はどうするつもりだったんだ?」

「そんなの外食じゃない? 姉さん料理できないし」

「けど明久にそんな余裕はないって言っておきながら、余計に時間のかかる外食はどうだろうな」

「姉さん一人で行くつもりなんだと思うよ」

「それなら、まぁ」

 

明久を一人残して自分は外食。分からなくはないが、何か腑に落ちない。

 

「玲さんはお前の生活態度と成績の確認のために帰ってきたんだよな?」

「うん」

「そして、帰ってからは改善させるために色々と監視してんだよな?」

「うん。おかげで色々減点されて結構ヤバいけど」

「……変だな」

「変? 何が?」

 

秀隆は玲の言動の違和感が気になった。

 

「なんかそれは矛盾してる気がする。仕事や学校のある昼間ならともかく、監視できる夜にお前を1人残して外食するか?」

「そう? 姉さんだから別におかしくないと思うけど」

「それだと監視の意味がないだろ。それに本番前なのに人の気持ちを逆撫でするようなこと言ったら、それこそダメだった時の言い訳にされるだろ」

「まぁ、姉さんのことだから、僕のことなんて何とも思ってないんでしょ」

 

実弟である明久が言うのだから間違いないのだろうが、明久の『お風呂写真』のアルバムまで作る玲が、本心からそんなこと言うのだろうか。

 

「明久。夕食以外で玲さんから似たようなこと言われたか? 例えば掃除とか」

「掃除? ……別に言われてないね」

「言われてない?」

「うん。むしろダメ出しされたくらいだよ」

「夕食の支度はダメで、掃除はオーケー? ――やっぱり変だな。さっきの話からすると、掃除も時間の無駄だって言ってもおかしくはないのに」

「……言われてみれば」

 

勉強に集中させたいなら、料理だけでなく、掃除や洗濯といった家事全般を禁止してもおかしくない。なのに、玲は料理のみを咎めた。

 

「けど、掃除や洗濯は誰かがやらないといけないけど、夕食は別にそうじゃないからじゃない? 姉さんだって、遅くなる時は外で食べて帰ってるし」

「まぁ……それもそうだよな。考え過ぎか?」

「そうだよ。台所に入れたくない理由があるわけでもないし」

 

明久の様に部屋の中にお宝があるわけでもあるまいし、玲が明久を台所に立ち入り禁止にする理由もない。

 

「台所に……入れたくない……」

 

だがそこが秀隆のアンテナに引っかかったようだ。秀隆はブツブツと呟きながら考え込んだ。

 

「まったく。姉さんったら、自分のことは棚に上げて、人のやることなすこと全部に難癖つけるんだから」

「――棚に上げて? そういや、お前霧島の家に行った時姉貴と揉めたって言ってたな」

「あ、うん」

「何で揉めたんだ?」

「それがさ、霧島さんの家に勉強しに行くって言ったら、その時点で褒められたものではないって」

「あん? 確かに、試験前に友だちの家に泊まりに行くのは褒められた行為ではないが、遊びが目的ではないし、むしろ最後の追い上げだから問題ないだろ」

「姉さん曰く、日頃から少しでも勉強していたら、こんな状況にはならなかったんじゃないか、だってさ」

「そりゃそうだが、お前勉強は苦手ってか嫌いだろ」

「うん。僕もそう言ったんだけど、『得手不得手を自覚することは良いことだけど、それは苦手だからできなくても仕方がないって言い訳にするためじゃない。苦手だからこそ、頑張って努力して克服しようって前向きに考えるためだ』って」

「絵に描いたような正論だな」

 

秀隆も苦笑いを隠せない。

玲の言う通り、苦手を苦手のままにして置くといつまで経っても人は成長しない。むしろ苦手なことに果敢にチャレンジして、失敗してでも克服しようと努力するからこそ成長できる。 玲の言葉は、秀隆にとっても耳が痛い正論だった。

 

「それで、お前はなんて?」

「自分だって料理ができないのを放置してるくせにって」

 

明久の記憶では、留学するまで玲は料理どころか台所に立った記憶すらない。帰省した時も、食材だけ買って明久に料理を押し付けたのだから、そこは未だに変わってないはずだと明久は言う。

 

「なるほどな。それで棚に上げて、か」

「まったく。ごみ捨てくらいはちゃんとしてくれるようにはなったみたいだけど、他の家事は相変わらず全然なのに」

「ん? ごみ捨ては玲さんの担当なのか?」

 

てっきり家事全般は明久の役目だと思っていた秀隆は、ごみ捨てとは言え玲が家事の一端を担っていたのは意外だ思った。

 

「ううん。そう言うわけじゃないんだけど」

「? よく分からんな。なら何で玲さんがごみ捨てしてるってなるんだ?」

「夜に水を飲みに台所に行くと、丸めたゴミ袋が置いてあるんだ。それが帰ったらなくなってるから、たぶん朝に姉さんが捨ててるんだと思う」

「なるとぼ――ん?」

 

ここでも秀隆は違和感を覚えた。

 

「ちょっと待て。夜にゴミが纏められてて、それが帰る頃にはなくなってるんだな?」

「そうだよ」

「気づくのにラグが長すぎないか? 朝に捨ててるとこを見たんじゃないのか?」

「僕が朝起きたら、姉さんは既に仕事の支度を終えてるから直接は見てないんだ」

「朝飯はどうしてる?」

「食卓にパンが置いてあるし、飲み物は姉さんがインスタントコーヒーを淹れてくれるから」

「台所に直接行ってない、と?」

「うん」

「……ちなみにゴミ袋の中身を見たりはしてないよな?」

「口が閉じてあるし、袋の色も黒だから外からも見えないよ」

「だよな」

 

明久もわざわざ閉じてある口を開いてまでゴミ袋を漁る趣味はない。

つまり、明久にとっては、中身の分からないゴミが夜に出現して、帰ってくるまでになくなってるというミステリーが起きていることになる。

 

「……明久。お前最近冷蔵庫は開けたか?」

「冷蔵庫? そりゃ、飲み物を取り出すから開けるけど?」

「食材の量に変化はないか?」

「たぶん、ないと思うけど」

「冷凍庫は?」

「そっちは見てないや」

「そうか……」

 

俯くようにして黙り込む秀隆。秀隆の頭の中でパズルが組み上がっていく。

明久の知らないパエリアのレシピ。大量の食材。夕食の支度は要らないという玲。加えて謎のゴミ袋。

秀隆の頭の中でピースが組み上がり、ひとつの(答え)が浮かび上がった。

 

「――なるほど。そういうことか」

「? 何がなるほどなの?」

「いや……お前らはお似合いの姉弟だと思ってな」

「気味の悪いこと言わないでよっ!」

 

クックック、と秀隆の薄気味悪い笑みと台詞に、明久は身の凍る思いがして本当に怖ろしそうに震え上がる。

 

「よし。気が変わった」

「! それじゃ」

「今すぐ帰れ」

「気が変わったんじゃないのっ!?」

 

宿泊許可かと思ったら、まさかのレッドカードだった。

 

「さっきも言ったろ。お前が着の身着のままで来たせいで、明日の用意なんてできるかよ。大人しく帰って、今日は早く寝るんだな」

「そんなぁ〜」

 

捨てられた子犬のようにガックリと項垂れる明久。

頼みの綱の秀隆にも断られ、明久はあの姉が待つ我が家に帰るしかなくなった。

 

「そう肩を落とすな。明日の試験で姉貴を見返せばいいだけだろ」

「うぅ……。分かったよ」

 

明久は項垂れたままコーヒーを飲み干すと、大人しく玄関に向かう。

 

「さっきも言ったが、今日は早く寝ろよ。体調不良で本領が発揮できなかったとなれば、それこそ本末転倒だ。それと、試験の最後5分から10分くらいは見直しの時間に充てておけよ。でないと変なミスした時に修正できないからな」

「分かってるよ……」

 

秀隆の小言を聞き流しながら靴を履く。

明久を見送るため、秀隆も玄関まで出る。

 

「ま、順当に行けば成績アップは間違いないんだ。そしたら祝勝会も兼ねて姉貴に手料理でも振る舞ってやれよ」

「秀隆、それイヤミのつもりで言ってるでしょ」

「流石にバレるか。ま、けど生活習慣も成績も何だかんだ言って姉貴がきっかけで上がったのは間違いないないんだ。そんくらいやってもバチは当たらんだろ」

 

玄関のドアを閉める明久に「じゃあな」と手を振る。

 

「まったく。素直じゃない姉弟だな」

 

秀隆は明久の出たドアにそう呟いた。自分のことを棚に上げて。

 

翌日。期末テスト本番。睡眠も朝食もしっかりと摂った秀隆は、心持ち足取りも軽く教室に入った。

 

「うーす――って明久、お前なにやってんだ?」

 

秀隆が教室に入ると、明久が自分の席で暗記シートを睨みつけながらブツブツと呪文の様に何かを呟いている。

その横では瑞希と美波が心配そうに明久を見つめ、雄二が呆れたように、肘をついて明久を見やる。

 

「あ、秀隆。おはよう……」

「おはよう、じゃねぇよ。お前フラフラじゃねぇか。そんなんで試験は大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。……ただ、あまり話しかけないでもらえるかな? 昨夜必死で詰め込んだものが出ていっちゃいそうだから……」

「詰め込んだって……お前まさか」

「アキったら昨日飲まず食わずで暗記してたみたいなの」

「夜もあまり寝てないようですし……心配です」

「お前なぁ……」

 

瑞希たちの心配をよそに明久は、

 

『紀元前334年、アレクサンドロス大王の東方遠征。紀元前330年、アケメネス朝ペルシアの滅亡。紀元前250年前後、パルティア王国の――』

 

と、呪言の様に覚えた年表を暗唱していた。

 

「バカ野郎が。だからあれ程体調管理には気をつけろと言ったのに」

「どうも、昨日また姉貴と揉めたらしいな」

「それは昨日聞いた。だから姉貴を見返すためにも万全の状態で試験に臨めと言ったんだがな」

 

どうやら明久は結局秀隆の忠告を聞かず、ほぼ徹夜で勉強したらしい。あの後玲とまた喧嘩でもしたのだろうか。明久があんな状態だから確かめようもない。

 

「ま、俺は明久がどうなろうと、成績が上がってくれさえすればそれでいい」

「それには同意するが、明久のことだ、このままだとまたヘマをやらかしかねないぞ」

「そん時は明久の一人暮らしがなくなるだけだ」

「そうだけどよ」

 

明久のプライベートはあくまで他人事。雄二からすればFクラス全体の戦力増強の方が優先だ。妥当Aクラスをかかげる秀隆とすさてもその点に異を唱えるつもりはない。

 

「ったく。どうなってもしらねぇからな」

 

明久に向かって放った愚痴は、本人の耳には届かなかった。

 

「はい。勉強道具をしまってください。1時間目のテストを始めますよ」

 

朝のHRは試験の時間割と簡単な注意事項のみの5分で終わり一時間目。現代国語のテスト時間となった。

試験初日の時間割は一限目から現代国語、英語(リーディング)、世界史、数学Ⅱ、化学、保健体育の6科目で、残りの科目は2日目となっている。

明久の勝負は3時間目の世界史。現代国語とリーディングはいつも通りやればいいし、数学は最初から捨てている。

 

「毎度のことですが、注意事項です。机の上には筆記用具以外は置かないこと。また、机の上に何かが書かれていた場合、カンニングとみなされることがあるので、自分で書いた覚えがなくても確認するようにしてください。それと、途中退室は無得点扱いとなりますので、余程のことがない限りは――」

 

テストでお決まりの常套句を聞き流しながら、配られたテスト用紙を裏向きのまま後ろに配る。

ついに、運命をかけた期末テストが始まる。

 

〜〜現代国語〜〜

 

【『自分にしっかりとした意見がなく、むやみに他人の意見に同調すること』を意味する四字熟語を次の選択肢の中から選びなさい。】

 

①異口同音

②付和雷同

③優柔不断

④雷電為右衛門

 

四字熟語を答える問題になぜ人名(しかも6文字)があるのかとツッコミを入れつつ正解の番号を記入していく。

試験問題が全て選択式なら、明久を始め多くの生徒が楽に点数を稼げるのだが。

 

【夏目漱石の小説『吾輩は猫である』に登場する主人公の猫の名前を答えなさい】

 

選択問題はテストの最初の数問だけで、あとはこういった記述式の問題が多い。

テストの点数の条件がない文月学園とはいえ、テスト自体は他の学校と大差ないのだ。

 

〜〜英語(リーディング)〜〜

【次の英文を訳しなさい】

 

《The all of things come down to the Gensokyo. It's so terrible, don't you ?》

 

こんな英文をどこで使うんだと疑問に思いつつ次の問題に進む。点数の上限がないのをいいことに、こういったおふざけ問題を出す先生も少なくない。この点はある意味では他校との差別点だと言えなくもない。

そんなこんなで現代国語、英語(リーディング)は大きな問題なく終わり3時間目。明久にとっては大きな山場となる世界史のテストの時間がおとずれた。

 

「よしお前ら。テストを始めるぞ。筆記用具以外は全部しまうように」

 

監督役である西村教諭が野太いドスの効いた声で警告する。西村教諭の前でカンニングをする気など毛ほども湧いてこないが、イチャモンをつけられるのも嫌なので皆慌てて机の上を確認する。

 

「1枚ずつ取って裏向きのまま後ろに回すように。試験開始のチャイムが鳴るまで問題用紙は伏せておくこと、いいな?」

 

前の人から配られた問題用紙を、言われた通りに裏向きのまま1枚取って後ろに回す。

問題用紙を机に伏せた後は、チャイムが鳴るまで明久は覚えたことを反芻する時間に充てた。わずかな時間とは言え、覚えたことをすぐに引き出すには重要なじかんだ。

そして――

 

――キーンコーン――

 

そして、勝負のチャイム(ゴング)が鳴り響いた。

 

「始めなさい」

 

西村教諭の合図とともに皆が一斉に問題用紙を表に返す。

皆が回答用紙に名前を書き、問題を解き始める中、明久はまず回答用紙の端にメモを取り始める。復習で何度も間違えた問題の年号と出来事、人名を走り書きでメモし、一通り書き終えてから問題を確認する。こうしておけば、一瞬躓いた問題もすぐに解くことができる。

世界史のテストそのものもは明久も自分で驚くほどに順調だった。瑞希の特性プリントのおかけで、スラスラと問題が解けていく。

そして解ける問題を素早く解いて、分からない問題が増えていくと、明久は一度最初の問題に戻ってじっくりと考えていく。これは問題が無制限かつ先に進むにつれ難易度が徐々に上がっていく文月学園ならではの解き方だ。

 

【14世紀にアフロ・ユーラシア大陸で流行した『黒死病』とも言われる感染症の病名を答えなさい】

 

分からない問題が目立ち出すと、そこからはどう頑張っても解答できない問題しかないとみていい。ヤマカンで解答欄埋めて行く手もあるが、それだと問題分を読む時間がもったいない。それよりも最初に戻って問題を見返し、答えが合っているかを確認する方が確実に点が取れる。これも瑞希たちから教わった方法だ。

当たり前だが、テストで重要なのは『何問の解答欄を埋めた』のではなく、『難問正解できたか』だ。ただ順番に問題を解くのではなく、確実に正解だと言える問題を増やしていく。このことを意識するだけでも、テストの点数に大きな差が出てくる。

夢中で問題を解いて、解答できる問題がなくなってきた頃。

 

――キーンコーン――

 

テスト終了のチャイムが鳴り響いた。

 

「よし。ペンを置け。解答用紙を後ろの生徒が集めるてくるように」

 

クラスの皆が大きく息を吐き、西村教諭の指示通り、一番後ろの席の生徒が解答用紙を集めていく。

 

『おい朝倉。往生際が悪いぞ。早く渡せよ』

『ま、待ってくれ! ここだけ直してから』

『朝倉! チャイムは鳴ったぞ! 諦めてペンを置け!』

 

渡す直前まで見直しをしていたのか、朝倉が解答の間違いを見つけてしまい最後の悪足掻きをして西村教諭に怒鳴られてしまう。

流石にもう手遅れなのに、と明久はその様子を横目で見ていだが、ふと目線が解答用紙に行ってしまう。ざっくりと見直して大きなミスのないことを確認したが――

 

「あ」

 

解答用紙、正確には解答欄外のとある箇所で目が止まる。問題を解くのに必死で、()()を確認することを怠っていた。

 

「明久。回収するぞ」

 

「あっ……」

 

修正どころか、懇願する暇さえ与えられず、明久の解答用紙は回収さた。

 

「――よし。全員分あるな。次の数学Ⅱのテストも気を抜かないように」

 

壇上に集められた解答用紙を受け取った西村教諭は、それらを集計し、ひとつにまとめ上げて専用の袋にしまう。そしてそのまま解答用紙は西村教諭ごと教室から姿を消した。

 

「おい明久」

 

後ろの方から声がかかる。後ろを振り返ると、呆れ顔の秀隆がいた。

 

「世界史のテストはどうだったよ?」

「ああ、うん。少しミスしちゃったけど、今までで一番解けたと思うよ」

「そうかそうか。それは良かったな。ミスをミスだと気づけたのもデカい。2学期の期末は更に点数が伸びるだろうな」

 

字面だけみれば褒めているように聞こえるが、秀隆の声色の称賛の色はなく、むしろ何かを咎めているようにさえ聞こえる。

 

「ところで明久」

「……何かな?」

「俺言ったよな? 最後は見直しの時間に充てろって」

「…………」

 

秀隆は明久の列の一番後ろの席にいたのだ。当然、回収する時に明久の解答用紙を見ている。明久が犯したミスについても。

 

文月学園のテストでは、例え全問正解でも0点になるパターンがいくつか存在する。

 

ひとつはカンニングが発覚した時。

ひとつは特別な理由なく途中退室した時。

ひとつは――

 

『クラス:紀元前 出席番号:334 名前:アレクサンドロス大王』

 

氏名記入欄で無記入または誤記入があった時。

 

「とりあえず、姉貴への言い訳は考えとけよ」

「…………はい」

 

明久の一人暮らし終了の鐘が鳴った。




ご感想などお待ちしております。

問題の方も興味がございましたら解いてみてください。

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