この姫君に純愛を!   作:メンダコとスミス

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君に決めた!!

「お兄様……私はいつまでも待っています。」

 

 朦朧とする意識の中、あの子に言われた言葉がよみがえる。

 

 思えばいつだって、俺はめぐみんやダクネスの好意にも正直に応えることができなかった。うれしくなかったわけじゃないんだ……ただ、怖かっただけなのかもしれない。

 

 「童貞を捨てることがですか?」

 

 違うわぁあああああああああ!!

 

 はぁっ、はぁっ……。

 

 俺は怖かったんだ。もしこれ以上先へ進んでしまったら、これまでのすべてが壊れてしまうんじゃn。

 

 「壊す? よかろう、我が究極破壊の爆裂魔法を持って全てを破壊してしんぜよう。【エクスプロー…」

 

「うるっせぇええええええええええええ!!!!」

 

いやうるせーよ、こっちは真摯に己と向き合ってしんみりパート中なんだよ!

 

「あぁ、目が覚めたみたいですね。何やらすべで壊したい的なことを言っていたので、そういう事かと空気を読んだんですが」

 

せっかくいい事をしてやろうと思ったのに、的な顔でドヤ顔を決めてくるこの紅魔族にドレインタッチを決めてやりたい。

 

「いや、どこの星にも爆裂魔法注文するやつなんていねぇよ!」

 

ハァッ……アホなやり取りですっかり忘れてたけど、そういえばスリープをくらって寝らされたのか。

 

 

 

 

  お兄様……。

 

 「つッ……」

 

  ……そうだった。

 

「っ、悪いなめぐみん、ちょっと出かけてくる」

 

そう言って装備を手に取り、カズマは外に出ようとするが。

 

「待って……ください」

 

らしくなく、ふるえた声に振り返ると今にも泣き出しそうな顔をしためぐみんが服の裾を引っ張っていた。

 

「めっ、めぐみん!?」

 

「本当に……行くんですか?」

 

不思議と 言葉の意味は聞かなくても理解出来た。その一言に多くの意味と感情が込められているのが分かる。

 

自分のする行動が何を意味しているのか、と。

 

 

 

 

  そして……。

 

「好きだった……」

 

「えっ……」

 

唐突に発された言葉にめぐみんは、意味がわからないと言った顔をした。

 

「全然言えなかったけど、めぐみんも、ダクネスにも何回もドキドキさせられて、こんなにダメ人間な俺を好きって言ってくれてすごく嬉しかったんだ」

 

正直に話そう、それしかできないんだから。

 

「だから……ありがとう。本当にごめん!!」

 

 

 

時間が少し経ち、頭を上げると。めぐみんは……嬉しそうに泣いていた。

 

「えっ……めぐみん?」

 

「そういう所ですよ。本当に仕方ないカズマですね。ズルいですよ、せっかくこっちは問い詰めてやろうとか縛り付けて動けなくするとか、意地悪なことを考えてたのに……」

 

「ごめん、というかサラっと言った後半のやつがさり気なく怖いんだが」

 

こっちの不安に、ふふっとめぐみんは笑う。いや、目が笑ってないから本気だよね!?

 

「冗談ですよ、あーあ。めちゃくちゃ綺麗にフられてしまいました。これでは悪態のひとつも言えないじゃないですか」

 

ひどいですよ、と無理して笑顔を作って、今にも泣きだしそうだ。こんなクソみたいなことしか言えない俺にありったけの罵詈雑言を浴びせたって何一つ文句は言えないのに……なのにめぐみんは……一言も俺を貶すことなく送り出そうとしてくれてた。

 

「めぐみん……」

 

「何つらそうな顔してるんですか、いいんですよ。振った側がそんな顔するなんて許されてないんですからね。私たちのことはいいですから早く行ってあげてください」

 

「っ、ごめん。っ!?」

 

めぐみんを背に俺はそのまま宿を駆け出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私のパートはどうなってるんだ??」

 

「ああ、ダクネスずっと待ってたんですね。残念ながらダクネスの尺が足りなかったのです私達って言っておいたので許してください」

 

「めぐみんっ!! 貴様ぁああ!!」

 

「ちょっ、取っ組みはずるいですよ。ああっ!!」

 

 

 

 

 

しばらく走り、城壁の下にまで到着した。

 

そう、これが俺の答えだ。俺はずっと……答えを出すのが怖かった。それが今の幸せを壊してしまうんじゃないかって。

 

でも、いつになっても答えを出せない俺にあの子は、何も言わず答えを待っていてくれた。自分にもう時間が無い時でさえも……。

 

「……アイリス。今行くからな」

 

今度こそ、あの子に……いや、彼女に答えを伝えるために。

 

 

 

 

  城に到着すると、そびえ立つ城壁の高さから【狙撃】による侵入は不可能と判断した。アイリスの現在位置は昨日のうちに彼女が肌身離さず身に着けているあの指輪に少し細工をし、発信機のような機能を取り付けておいたので城の最上部にいるというのがわかった。

 

  勘違いしないでほしい、この時は兄としての、いや保護者のような感情であって決してそれ以外の感情はなかったということだ。だから、まるで犯罪者を見るような目で俺を見ないでほしい。心がきれいな青少年代表、カズマさんからのお願いだよ。

 

 

 

 

【潜伏】を発動しながら、気配を消して城門に向かうと、衛兵はわずか二人……と思っていたら百人ほどがまるで戦争時のごとく陣を組み、ご丁寧に魔力探知の結界まではってネズミ一匹通れない鉄壁の要塞を成し、侵入者を待ち構えていた。

 

「って、おーーーい!! どう見ても、いきなりこれはおかしいだろーー!!」

 

「ん? なにか声がしなかったか?」

 

やべっ、あまりの驚きに思わず声が。……にしても、やりすぎだろコレは、絶対怪しい。思えばあの宰相、最初から怪しい空気出てたもんなぁ。

 

「アイリス……頼むから無事でいてくれよ」

 

とはいえ、一体どうすりゃいいんだこれ。

 

  ……ザー……ザザッ。

 

「あー、テステス、テステス」

 

  「……ん?」

 

  なんか、道具袋の中から見知った嫌な声が聞こえてくるんだが……。

 

  「あー、こちらバニル、こちらバニル、麗しき少女(笑)を打ち捨てて、ついにロリコンになる決心のついた男が、百人の衛兵に手も足も出ず無様にフルボッコされる未来が見えたのでな」

 

「……うぜぇ」

 

 「おっと、美味な感情なり。そんなお得い様にこの見通す悪魔ことバニル様が、最強アイテムをお主の懐に忍び込ませておいたので、せいぜい上手く使うがよい。今後ともバニル商店をごひいきに……ではな!」

 

解説よりも先にセリフが出るほど、うぜぇ……。という声の元は出発前に無理くり持たされたバニルさん特製仮面からだった。

 

 最強アイテムって、もしかしてこの胡散臭い仮面のことじゃないよな?

 

  と、怪しげに観察してみると、仮面の裏側に「説明書」が張り付けてあった。

 

  『えー、本品は一定時間【潜伏】の能力を超強化し、あらゆる感知系魔法を無効化することができます』

 

  マジか!! 今こそ必要なアイテムじゃん、てかこんなにいいもんがあるならもっと話の序盤の方でくれてもいいだろうに。

 

  ……誰にも見えなくなるのか。

 

  ……誰にも。

 

  …………。

 

 

 

  

 

  

 

 

 

  「あぁああああああああああああああああ!!」

 

  「「「「まてやゴルァ!!!!」」」」

 

  「いやぁあああああああああああああああ!!」

 

  チクショウ、城門の警備を抜けたところまではよかった。なんで今俺は追われているんだ。俺はただ、城内で見つけた女湯をのぞきに行っただけなのに。

 

  「くっ、何でバレたんだ!? のぞきの計画は完ぺきだったはずなのに! ……なんだ、頭がクラクラするぞ?」

 

  大勢の追ってから必死に逃げていて気付かなかったが、よく見ると服が真っ赤に染まっている。明らかにヤバい量の出血だ、攻撃!? どこから?!

 

  「クソッ、鼻血が止まらねぇ!!」

 

  「「「「…………」」」」

 

  「……」

 

  「……お邪魔しました。【潜伏】」

 

  「「「「ああっ!!」」」」

 

  

 

  

 

  「奴はどこに行った? 探せー!!」

 

  静かな夜から一変、城内は侵入者探しで喧騒に溢れかえっていた。

 

  「よし、アイリスのところまでもう少しだな」

 

  しかし、全員が城内を探している中、カズマは城の外壁を【狙撃】で登り切り、既に最上階への潜入を完了していた。

 

  「城壁はちと高すぎたが、中に入ってからはあんまり考えられてなかったみたいだな」

 

  

 

 

  最上階は下階とは。まるで空間が断絶しているかのように、警備の一人もなく、静謐な空間を暗闇が支配していた。

 

  ただ、その静謐は重たい泥のようにねっとりと空気を濁し、いかにもヤバそうなにおいを醸し出している。

 

  「……いかにもなんか出そうな感じだな」

 

  【潜伏】を発動させながら、最大限の警戒で暗闇を探索しようとすると―――――――――。

 

  「——————————————————————————」

 

  「っ!?」

 

  突如背後に不協和音のような気配を感じ、不意を突かれながらも、すぐに臨戦態勢に入る。しかし、振り返ったその気配の正体は……。

 

  「アイ……リス、なのか?」

 

  「…………」

 

  返答はない。

 

  「おっ、おい、もしかして拗ねてるのか? ごめんな、俺もその、気持ちを整理していたというかなんというか……」

 

  「…………ちゃん」

 

  「アイリス! 大丈夫か!?」

 

  これまでの直感がカズマに告げている。ここはヤバいと、迫りくるであろう脅威に一刻も早く退避すべきだと警鐘を鳴らす。

 

  マズい、今すぐアイリスを連れて逃げないと……。

 

  「…………げて」

 

  「えっ―――――――――――――――――――――」

 

  こと切れるように出たアイリスの言葉の意味を理解することはできなかった。言葉の次の瞬間、カズマの体は真っ二つに両断されていた。

 

  「【エクス……テリオン】……」

 

  瞬時に薄れゆく視界の端でカズマが見たのは、少女の頬を伝う一滴の涙と、暗闇の中で不気味に笑う男の姿だった。

  

 

 

 

 

 

 

 

  

 

  

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

  

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 




さて、ずいぶん時間がかかりましたが、ようやくこの話も完結に漕ぎ出したという感じです。
ここから一気に進んでいくのでどうぞよろしくお願いします。

バンッ!!

!?

「おい、作者はお前か?」

ダ、ダクネスさん!? 

「よくも、私のパートを尺で省略してくれたなぁああ!!」

ちょ、組み付きはやめて……ああっ。

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