愛姫さんのツンデレズ   作:青戸礼二

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1話:愛姫さんのツンデレズ

 

「吉乃(よしの)! 吉乃はいるかしら!?」

「はい、愛姫(あき)様。ここに」

「んもう、何してんのよ! あなたは!」

「わたしはお部屋をおそうじしておりました」

「そんなことより、私の身体をおそうじなさい! 舌で!」

「はい、かしこまりました」

 

 愛姫と吉乃、ふたりの美少女が寝室に入る。愛姫はベッドに腰かけ、足を組んで投げ出す。その足下に吉乃がひざまずく。そして、愛姫の黒ストッキングを脱がし、スラリと伸びた脚に優しく舌をはわせる。愛姫は小さい声で喘ぐ。

 

「あっ、いいわ、吉乃……」

 

 この夜伽(よとぎ)の時間が、吉乃にとって嫌いではなかった。体は疲れるが、心が疲れないからだ。「残虐姫」と呼ばれるほどトゲトゲした愛姫の性格が、夜伽のときだけは普通の女の子に戻ってしまう。だから、いつも抵抗せずに抱かれている。

 

 

「今夜の愛姫様、いつもより激しかったです……」

「そう? あなたが淫らに求めてくるからでしょう?」

 

 ベッドで語り合う裸のふたり。愛姫は吉乃の金髪をなで、吉乃は愛姫の青髪をなで、お互い毛づくろいをしている。愛姫の肌はきめが細かい。愛姫の髪から良い匂いがする。そうした感覚を楽しみながら、吉乃は行為の余韻に浸っている。しかし、どこか頭に引っかかることがあった。

 

「(愛姫様は政宗のことが気になっている……?)」

 

 ふだんの愛姫は、政宗のことを嫌ってる風に言う。だがじつは、だんだん惹かれ始めているのでは? 吉乃は、仕えている愛姫お嬢様とつねに一緒にいるのだから、ほかの誰よりも彼女の心中をよく察している。

 

 

「(と……すると?)」

 

 吉乃は急に不安に襲われた。もしかして、愛姫は政宗にすでに惹かれていて、吉乃はさっきまで政宗の代わりとして抱かれていた……?

 

「(あの豚足(とんそく)めっ……!)」

 

 吉乃はゾクゾクする感覚に襲われた。彼女は思わず身震いして、自分の身体を抱きしめた。

 

「どうしたのかしら? おかしいわよ、吉乃」

「いえ、わたしは何でもありません」

「もしかして、政宗のことが好きなの?」

「えっ!?」

 

 

 通っている学園の体育倉庫。ふたりは昼食を取っている。愛姫は大食なので、昼飯はいつも大量だ。パンなどが詰め込まれた、みっつのビニール袋が置いてあった。昼休みの購買部は混雑しているので、吉乃は政宗に買ってもらっている。

 

 愛姫がパクパクと夢中で食べているあいだ、吉乃は昨晩のことをぼんやりと考えていた。あの言葉は何だったのだろう。その場はごまかしたが、愛姫にはすっかり見透かされている? 自分の側だけが相手を分かっている、と思うのは傲慢だったのかもしれない。愛姫の側だって、吉乃と同じ時間だけ、そばにいるのだから。

 

「(パクパク、パクパク……)」

「愛姫様、昨晩のことですが……」

「ムグっ、とつぜんなあに?」

「わたしと政宗とは、何でもありません」

「あらそう……。でも、じゃあ、なんで、政宗と会ってるの!?」

「ハッ! そ、それは……」

「しかも、私の目を盗んで、コソコソと!」

「う……」

 

 

 愛姫はまた食べ始めて、ふたりの間にシーンと沈黙が流れる。これは痛いところをズバッと突かれた、と吉乃は思っていた。吉乃は脳内で状況を整理する。政宗がまだいなかった頃、愛姫と吉乃はふたりだけの世界にいた。もちろん、主従関係はあるものの、愛姫は吉乃だけを可愛がってきた。

 

 しかし、ふたりの前に政宗が現れたことで、ふたりとも政宗に心を乱されている。いや、もう奪われているのかもしれない。だとすると、どうなるのか? 吉乃は、今まで無意識に思考を避けてきた可能性も、考えざるを得なくなった。

 

「(もしかして、政宗にお嬢様を奪われる……?)」

 

 吉乃はがく然とした。震えるほどの寒気を感じる。吉乃にとって愛姫は絶対的な存在だ。もちろん、厳しいところはあるが、好きとか嫌いとかではなく、家族同然、どころかそれ以上の存在だった。だからこそ、素直に抱かれたのだ。もし、それが失われるとしたら? ズブズブと沼にはまるような恐怖を、吉乃は感じていた。

 

 

「吉乃。こっちへ来なさい」

 

 食べ終えた愛姫が手招きする。政宗と別れた時から、食欲だけでなく、性欲もどん欲になっていた。これから身体もむさぼろうというのだろう。吉乃は一瞬だけためらったが、愛姫の足下にひざまずく。どうせ逆らえないのだから、今は何も考えずに身を任せればいい。

 

 愛姫は舌なめずりすると、跳び箱をピョンと飛び降りる。そして、吉乃のアゴをクイと上げて、しばらく見つめ合ってから、キスをした。

 

「んっ……」

 

 吉乃は口の中に甘い味を感じる。これはジャムパンのジャムだ。口を離した後、吉乃は唇についたジャムをペロリと舐め取った。

 

 

 翌日、吉乃は購買部で愛姫の昼食を買う。まず満員電車のように混雑した購買部で買うのが大変だし、ビニール袋に入った大量の食料を運ぶのがまた大変。か弱い女の子の吉乃にはこたえる。今日は政宗がいなくて頼めなかったのだ。

 

「まったく、豚足は何してるの……」

 

 吉乃はぶつぶつとつぶやきながら、愛姫が待つ体育倉庫へと向かう。しかし、頭の中では考え事がグルグル回っていた。愛姫は政宗が好きなのか? 自分は政宗が好きなのか? 政宗はだれが本当に好きなのか?

 

 やがて自分と政宗で、お嬢様の取り合いが始まるかもしれない。あるいはもしかしたら、政宗の取り合いが、自分とお嬢様の間で始まるかもしれない。

 

「政宗にお嬢様を奪われるだけでなく、お嬢様に政宗を奪われるかもしれない?」

 

 吉乃はその可能性を否定しなかった。今までは考えないようにしていたが、愛姫に言われてからはどうしても意識してしまう。自分は愛姫が好きなのか? 政宗が好きなのか? 自分でも分からない思いに、吉乃は悩まされていた。

 

 

「オレは……」

 

 倉庫の扉に近づくと、中から声が聞こえてくる。誰かいる? 愛姫としゃべっている?

 

「オレは安達垣(あだがき)さんのことが……」

 

 安達垣愛姫に求愛している? さらに扉に近づいて声の主が分かった。政宗だ。またやってるのか。吉乃は彼のことを「懲りない豚足」だと思った。しかし――

 

「いいわ」

「――!!」

 

 吉乃は衝撃を受けた。愛姫があっさりOKした? いったい何がどうなっている?

 

 

 

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