愛姫さんのツンデレズ   作:青戸礼二

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2話:吉乃さんのハラグロリ

 

学園の体育倉庫。その中から愛姫と政宗の声が聞こえてきた。政宗からの何らかの求愛を、愛姫は承諾したようだ。それを聞いた吉乃は不安になる。愛姫を政宗に奪われるのではないか。同時に、政宗を愛姫に奪われるのではないか。そして、ひとり残され、孤独になってしまう恐怖。

 

「こざかしい豚足め……」

 

吉乃はギュッとこぶしを握りしめた。「残虐姫」と呼ばれる愛姫のツンツンした態度。そのツンに騙されて、油断したのかもしれない。自分はずっと愛姫の身近にいて、胸中を分かっているつもりだったのに。あれだけ政宗のことを「嫌い」「気持ち悪い」とこぼしてたのは、何だったのか。

 

「豚足、いや、真壁政宗(まかべまさむね)……、恐るべし」

 

吉乃は政宗を見直すことにした。あの残虐姫を振り向かせられるのは、政宗だけかもしれない。そもそも、残虐姫が生まれたのは、政宗と自分のせいなのだから。そして、だからこそ、心を閉ざした今までの愛姫の態度が、本心からでないこともまた、吉乃にだけはよく分かっていた。

 

 

「よう、師匠!」

「豚足、説明して」

 

放課後の学園。空いた教室で、吉乃と政宗がいつものように会話していた。ふたりは、残虐姫を攻略するための、作戦会議をする約束を交わしていたのだ。

 

「説明って何が?」

「とぼけないで。愛姫様のこと」

 

なぜ、吉乃は政宗に協力したのか。それはまず、残虐姫とあだ名される、愛姫のキツい性格を直して欲しかったから。政宗にフラれれば、人の痛みを知って謙虚になるのではないか。これは政宗にも言っている表の理由。しかしじつは、政宗に好意を持っているから、という裏の理由もあった。

 

 

「アダガキとデートの約束をしたんだ」

「愛姫様とはこの前したじゃない?」

 

政宗と愛姫は、すでにデートをしていた。そのときに愛姫は、魔法少女のコスプレで来た。

もちろん、吉乃がそうさせたのだ。デート後に本人からグチグチ言われてしまったが。

 

「ああ。それとは別に、次のデートをするんだよ」

「愛姫様がよくOKしたわね?」

 

愛姫の政宗への態度が軟化している? 一度OKしたら、二度目のOKにより抵抗が少ないのは自然だ。とはいえ、ふたりの距離が縮まる加速感に、吉乃の不安も加速していく。

 

 

「オレも意外だったけどな。デート楽しみだぜー」

「ちょっと、豚足。目的を忘れてないでしょうね」

 

政宗の目的。それは、フラれた過去の復讐にあった。いったん愛姫を堕とした後に、こっぴどくフってやる計画だ。しかし、今の政宗を見るに、最後まで計画を遂行できるのか、だんだん怪しくなってくる。

 

「もちろん、復讐を忘れるもんか。イケメンに生まれ変わるために、何年も修行したんだぜ」

「それならいいけど……」

 

だが、吉乃は別の結末をイメージしていた。もし、最後の最後で逆に、政宗の方が堕とされてしまったら? もし、ふたりがくっついてしまったら、自分だけが取り残されてしまう。それはどこかで絶対阻止しないと。

 

 

寝室でふたりきりの吉乃と愛姫。吉乃は愛姫側の気持ちも聞いてみることにした。

 

「愛姫様、また政宗とデートするのですか?」

「フン! あの男がしつこいから、仕様がなくつきあってやるのよ」

「ホントですか? 今日の愛姫様は鼻歌まじりで楽しそうでしたが」

「う、うるさいわね……あなた、妬いてるの?」

「いえ、別に」

 

愛姫の態度に何か違和感を覚えた。吉乃はおずおずと聞いてみる。

 

「愛姫様。今日の夜伽は……」

「いらない」

「……え!?」

 

素っ気ない声で断られて、吉乃はハッとする。政宗と別れてからの愛姫は、食欲魔神だけでなく、女相手ではあるが性欲魔神でもあった。それが「いらない」とのつれない返事。もう政宗のことで頭がいっぱいになっているのだろうか?

 

「あなたはひとりでお慰めなさい」

「そんな……ひどい……」

 

吉乃の頭の中で何かが、ガラガラと音を立てて崩れ始める。残虐姫などと呼ばれて、言い寄る男を次々とフっていたときは、自分だけが愛姫に愛されていると思いあがっていた。吉乃は愛姫を独占している気分だった。だがじつは、誤解があったのではないか?

 

たんに身体目当ての男を拒否しているだけであって、政宗のことを忘れられていないのではないか? そして、自分は政宗が戻るまでの身代わりなのではないか? まるで、友達ができない娘が、お人形を友達にするような。そして、友達ができたら人形は、捨てられてしまうのではないか? その想像に、吉乃はゾッとして震えあがった。

 

 

吉乃は自室のベッドで横になっていた。さっきのことが頭から離れない。頭の中で愛姫の姿を思い浮かべて、自分を慰めている。はずなのに、どうしても、政宗も浮かんできてしまう。

 

「豚足のくせに、くやしい……」

 

まさか、豚足がオカズになるとは! 吉乃は屈辱を感じていた。顔も体も熱くほてってしまう。ゴソゴソとベッドの中で身もだえする。

 

「まあ、今の政宗はイケメンだし……ゴニョゴニョ」

 

だれに対して弁解しているのか、吉乃は独り言をこぼす。だれにどう思われているのか? だれが好きなのか? いま何をすべきなのか? 吉乃の腹の中はドロドロになってきた。

 

「すくなくとも、今度のデートは監視しておかないとまずいわ……」

 

 

そして、愛姫と政宗のデート当日が来た。もちろん、吉乃も隠れている。

 

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