愛姫さんのツンデレズ   作:青戸礼二

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3話:お二人さんのイチャラブ

 

 愛姫と政宗のデート当日。待ち合わせ場所の駅前。監視のために吉乃もいるが、柱の陰に隠れている。しばらく待っていると、ふたりが現れた。

 

 

 だがそこで、吉乃は自分の目を疑うことになる。

 

「えっ……!?」

 

 愛姫と政宗が手をつないでいる? しかも、今、愛姫の方から手を差し出した? 「離れて歩け」などと、愛姫が言うと思っていた吉乃は、軽いショックを受けた。

 

 

 手をつないだふたりは映画館に向かった。前回のデートでも映画館には行った。またもや愛姫の貸切状態なので、扉の隙間から中をこっそりうかがう。

 

「(また映画なの……、ワンパターンじゃない?)」

 

 だが、吉乃の感想とは異なり、ふたりの距離は詰まっている。前回はひとつ席を空けていたが、今回は隣同士だ。しかも映画の内容について熱心に話しているようだ。

 

「(どういうことなの、この近づき方は?)」

 

 映画自体はよくある恋愛物で、吉乃にとってはどうでもいい内容。王子様のキスでお姫様が生き返るようなタイプのおとぎ話だ。だが、目の前で繰り広げられている現実の光景は、驚きを彼女にもたらしていた。

 

 サプライズはこれにとどまらない。ふたりが映画館から出て行くときに、愛姫の方から腕を組んだ。政宗の方が戸惑っているくらいに積極的だ。

 

 

 吉乃は確信した。ふたりにはもう「恋のフラグ」が立っている。このまま放っておけば、いずれふたりがくっつくのは明白。そしてそこに、自分の居場所はない。ただの引き立て役で終わり。だがそんな脇役人生はごめんだ。

 

「わたしは恋のキューピッドになど、決してなるつもりはない……!」

 

 吉乃は腹を決めた。自らの運命に立ち向かう覚悟を決めた。あらがうだけあらがってやる。たとえ悪役に身を堕としてでも、大事な人を奪われるわけにはいかない。

 

 ふだん大人しい吉乃であるが、このときは瞳に炎がメラメラ燃えていた。自分の存在意義が掛かっているため、本気モードになっている。

 

 

 ふたりは映画館を出てから、昼食を取っていた。吉乃も帽子とサングラスで変装して、同じ店に入って遠くの席に座る。ちょうど向かい合うふたりを、こちらからだけ見れる位置の席を取れた。

 

 ふたりが食事していると、愛姫がフォークを宙に上げた。添え物のジャガイモが刺さっている。それを政宗の方向に突き出す。

 

「ほら、あーんしなさいよ!」

「ちょ、ほっぺたにグリグリ押しつけんなって!」

 

 

 はた目には喜劇のような光景だが、それを吉乃はぼう然と見ていた。そして、サングラスの中の目から、涙がひと筋こぼれ落ちる。

 

「わたしには、あんなことしてくれない……」

 

 楽しそうなふたりをよそに、吉乃の心には深い闇がジワリと広がっていた。大量の昼飯を調達するのと同じように、自分は性欲を満たす道具でしかないのだろうか?

 

 やはり、愛姫は男が好きなのだろうか? あるいは、自分にはもう飽きてしまったのだろうか? 愛姫の心を取り戻すことはできるのか? もうできないのか?

 

 吉乃の頭には疑問がいくつも浮かぶ。しかし、ふたりの恋路を邪魔しようという、固い決心だけは変わらない。それは、ふたりがイチャつくほどに強まっていく。

 

 

 ふたりは食事を終えた後で、ゲームセンターに遊びに来ていた。もちろん、吉乃もついていく。ふたりは、UFOキャッチャーで遊んでいるようだ。

 

 政宗が愛姫の腰に手を回している。ときおり、尻に近い部分に政宗の手が触れると、愛姫は手で押しのける。しかし、手で触られること自体に、嫌がっている様子はない。

 

「(もうやめて! とっくに私のライフはもうゼロよ!)」

 

 吉乃は心の声で叫んだ。こうもイチャラブでオーバーキルされるとは、想定の範囲外だった。ふたりは予想を上回る早さで急接近していく。

 

「はい、これあげるよ」

 

 政宗がウサギのぬいぐるみを獲得して、それを愛姫にプレゼントした。金持ち令嬢の愛姫にとっては、ゲーセンの景品など、たわいもない贈り物のはず。しかし、愛姫はそれを胸に抱く。どうみても良い雰囲気だ。

 

 

 「残虐姫」と呼ばれた愛姫が、こうもたやすく攻略されるとは、学園の生徒は予想していなかっただろう。吉乃にとっても意外だった。

 

 だが一方で、吉乃にだけは理解できるところもあった。というのは、愛姫はふだん男を寄せ付けないぶん、愛情に飢えているところがあるのではないか? 残虐姫といえども人の子、その中身は恋に恋する女の子ではないか?

 

 残虐姫から本当のお姫様に生まれ変わりたくて、王子様のキスを待っているのではないか?

 

 だから、愛姫の気持ちは分からなくもない。しかし、今の吉乃にとっては、奪われやすいというデメリットでしかなかった。どうやって陥落を防げるのか、頭を悩ませる。

 

「わたし、何をやってるんだろう……」

 

 吉乃はつぶやく。今まで、政宗のために愛姫の攻略を手伝ってきたのに、今さら防御側に回るとは何をしたかったのか、という感じがする。もし、最初から全力で政宗を叩きつぶそうとしておけば、もっと違った展開になったかもしれないのに。

 

 しかし、今さら後悔しても遅い。今できることをやるだけだ。吉乃はネガティブ方向に前向きな決意を固めている。

 

 

 ゲームセンターを出たふたりは、繁華街を歩いていた。とつぜん、政宗が足を止める。なんだろう? ふたりをストーキングしていた吉乃も疑問に思う。だが、ふと上を見上げると、派手な看板があった。ここはラブホテルの前ではないか!

 

「まさか……、そんな……」

 

 さすがにそこまでチョロくはないだろうと思いつつも、吉乃の頬に冷や汗がつたう。この日最大の危機感を彼女は覚える。このままではまずい。早くなんとかしないと……。でもじゃあ、具体的に何をどうすればいいのか。彼女の頭は混乱する。

 

 

 ふたりは建物の前で、しばらく立ち止まっている。何やら口論しているようだ。さすがに愛姫はお嬢様なので、ラブホに入るのはためらうだろう。

 

「愛姫様、がんばれ……!」

 

 吉乃は謎の応援をしてしまう。ふだん愛姫に冷たく扱われていても、いざ目の前で彼女が奪われそうになれば、取られたくないと思うのが人情というもの。

 

 とうとう、ひとりで愛姫が立ち去ろうとした。やはり強引過ぎたのではないか? 吉乃の険しい顔が少しだけ緩む。

 

「(ホッ……)」

 

 しかし、その安心もつかの間だった。政宗が愛姫の手をつかみ、その身を抱き寄せて、彼女にキスを迫る!

 

「!!」

 

 吉乃の表情が凍りつく。

 

 

 

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