なかなか進まなく、こんなにかかってしまいました。
そんなわけで、どうぞ。
「……ふっ、どうやら私の方が、ユキカゼさんを甘く見ていたようですね」
アイゼンは、自身が負けたのに、清々しい表情をして目をつぶり上を向いていた。
「それでは、約束通り広場の人形たちやゴーレムを止めていただくでござる」
「その必要はないですよ」
「どういうことでござるか?」
「なぜなら、私の人形たちはすでに消えていますから」
「…………へ?」
ユキカゼは間の抜けた声を漏らす。
「私の体力はもうほとんど使い切っていて、とても人形たちへの輝力供給はできないんですよ」
「そ、それじゃあの武者は……」
ユキカゼは先ほど戦っていた武者の事を尋ねた。なぜ武者は消えずにいたのかを。
「ですから、武者に私の残りの輝力全てを使ったんです。後、人形達は貴方と戦い始めた時には、もう消えていました」
「なっ、それじゃ拙者を騙したでござるか!」
「騙してなどいませんよ。ただ、教えなかっただけですよ」
なんのわびた様子はなく、ニッコリとしている。なんだか今はその笑顔が非常に腹立たしい。
ユキカゼはため息をついた。
「食えない男でござる」
「それほどでもないですよ」
「褒めてないでござるよ」
ユキカゼはアイゼンをジト目で見た。
そうしてると、後ろの方から声が聞こえてきた。
「…………ぜ!…………カゼ!………ユキカゼ!」
ユキカゼは振り返ると、遠くにこちらに向かって走ってくるツナが見えた。
「沢田殿!」
ツナはユキカゼの元まで走ってくると、息を切らしながら、安心した顔をしていた。
「はぁ、はぁ、よかった。無事みたいだ……って、なんで昨日の敵が一緒にいるの!」
「ふふ、昨日ぶりですね。沢田綱吉さん。……それにしても、私すっかり貴方の事を忘れていました」
「……右に同じでござる」
ツナは驚いた様子だが、ユキカゼは面目ないという顔だった。
「え、何が、どういうことなの!」
ツナは何がなんだか分からず、ただおろおろとしていた。
♦
「そういうことだったんだ」
ツナはある程度の事の詳細をユキカゼから聞いた。
「でも、アイゼンさんは―――」
「アイゼンでいいですよ」
「あ、うん。アイゼンはなんで俺をおびき出すような真似をしたの?」
ツナがそう言うと、アイゼンは通路がある方向を向き、歩き出した。
「え、どこに……」
「私についてきてください、理由は歩きながら話します」
アイゼンは一度止まり、顔だけこちらを向かせ、ツナとユキカゼを連いてくるよう促した。
ツナとユキカゼは、言われるがまま、アイゼンの後ろにつき歩き出した。
終始無言で歩いていたが、アイゼンが口を開く。
「私は試したかったのです。沢田綱吉さん、貴方を」
「試したいって、何をですか?」
「貴方が、あいつを救う事ができるのかをですよ」
「……あの、さっきから出てるそのあいつって、どんな人なんですか」
ツナは先ほどから疑問に思っていたことを口にする。アイゼンがここまで信頼してる人はどんなひとなのか、そして、何故この国を襲ったのか。
「そうですね……あいつの名前はレイン。私とクロノスにとっての大切な仲間です」
「仲間……」
「はい。だから私はレインの為、貴方を試したかったんです」
「?」
「……どうやらお主は、沢田殿に何かをさせようとしてるのでござるな」
ツナがまた分からないという顔をしてると、ユキカゼは今の話の流れで、何かに感づいたらしい。
「……やれやれ、ユキカゼさんには本当に敵いませんね」
アイゼンは肩をすかすと、その場で立ち止まり、振り返った。
「先程も話した通り、私にはレインの目的が何かは分かりません。ですが、彼がこれから起こすことは、彼自身が傷ついてしまうものだと思うんです」
「さっきも聞いてて思ったんだけど、そのレインって人の目的は、アクアじゃないの?」
今回の件で狙われたのはアクアであって、目的としては十分なものである。
「それはないでござろう。もしアクア姫が目的なら、わざわざこの城に長居する理由はないでござろう」
ユキカゼの答えにアイゼンも頷く。
「その通りです。レインは何故かここから動こうとしないのです。まるで何かを待っているみたいです。目的も分からないままですが、私の頼みとは、貴方にレインの手助けをしてほしいのです」
「「!」」
アイゼンの頼みに二人とも驚いていた。それもそのはず、アイゼンの頼みとは仲間になれ、と言っているようなものだった。
「それは無理だよ。俺は貴方達の仲間にはならない。 それに、手助けなんかしなくても、クロノスや貴方が居るじゃないか」
ツナの言葉にアイゼンは悔しげな、そして悲しげな表情をして、ツナ達から顔を背け俯く。
「だめなんですよ」
アイゼンはぽつりと言葉を漏らした。
「彼は自らが傷ついても何かを成し遂げようとしている、私だってできるなら、そんな彼のために何でもいいから力になりたいんです。ですが…………私ではだめなんです」
常に紳士的な口調であるアイゼンが、その言葉だけは、弱弱しかった。
「アイゼンはどうしたいの?」
ツナは目を会わせてはいないが、しっかりとアイゼンを見て、先程までおろおろしていた態度とは違い、落ち着いた雰囲気だった。
しかし、アイゼンは答えるどころか、顔を俯けたままだ。
「俺がここに来たのは、アクアを助けるため。一緒にいた時間はほんの少しで、かわした言葉だって少ない。助けてほしいから俺をここに呼んだのに、それなのに俺たちを守ってくれた。だから今度は俺がアクアを守るんだ」
「それは拙者も同じでござるよ」
「私は………」
二人の迷いのない言葉に、アイゼンは自分の本当の気持ちを探している。自分がしたいと思う本当の気持ち。
少しの間が空きアイゼンは何かを決心して顔を上げ、ツナを見据える
「私はレインを助けたい。本当の意味で彼を助けたい。仲間として、いえ友として!」
アイゼンの目には先程までなかった光があった。アイゼンは自分の中の希望の光を見つけたんのだ。
その目を見てツナは、安心したかのような表情になった。
「それじゃ、行こう。アクアを助けて、レインさんも助ける」
「え、沢田綱吉さん……」
アイゼンは口をポカンと広げている。
「どうしたの?」
「レインも助けてくれるんですか……」
「当たり前だよ。さっきはアイゼンが、心の弱さを俺の力に頼って埋めようとしたから断ったんだ。助けてって言われた時から、俺は助ける気だったよ」
「何故……」
助けてくれるのは嬉しいが、何故そんなに簡単に手伝ってくれるのか、分からなかった。
「友達を助けたいって、アイゼンが言ったからだよ」
その言葉でアイゼンは少しだけ、沢田綱吉という人間の事を知った、心の優しい少年と言う事を。
アイゼンはそんなツナを見てると、いつの間にか笑みの表情になっていた。
「ありがとうございます。沢田綱吉さん」
「今更だけど、フルネームじゃなくて、ツナって呼んでくれないかな。そっちの方が呼ばれ慣れているから楽なんだ」
ツナは少し照れながら言った。フルネームで呼ばれるのもいいが、やはりツナと呼ばれる方が落ち着くらしい。
「分かりました。それではツナさんと呼びます」
「うん。じゃそれで。ユキカゼもこれからはツナでいいよ」
「いや、拙者は沢田殿でいいでござる」
ユキカゼは身体のの前で、両手を交差してバツを作った。
「え、何で?」
「何んとなくでござる」
「何それ!」
「ふふふっ」
アイゼンはその和む光景を見て、細く笑う。
「それでは、行きましょう」
「うん」
ツナ達は再び、廊下を歩き始めた。アクアの元へと続く道を。
♦
「この先です」
ツナ達はあの後、数十分歩いて、大きくきれいに白に統一された、扉の前にいる。
「この先にアクアが……」
「はい。そしておそらくレインも」
ツナは、気を引き締めるため、深呼吸をして
「よし、行こう!」
扉を開けた。
そして、そこに広がっていたのは、
多くの者が己の力だけを信じ戦い、時には勝利という甘美な味を手に入れ、時には敗北という屈辱の泥を味わう場所――――――闘技場が広がっていた。
ツナ達は闘技場の選手入場口のドアを開けたようだ。
「ここは……!!」
ツナが闘技場に入ろうとした時、突然一つの紋章術がツナめがけて放たれた。
ツナはそれをなんとかかわした。
「ほう、今のをかわしたか。さすがは勇者だな」
闘技場の真ん中に誰かが立っていた。
ツナ達は、その人物が見える位置まで歩み寄って行った。
「貴方がレインさんですか」
「そうだ」
レインの見た目は、ツナとあまり変わらない年齢に見えた。特徴的なのは髪の長さだ、後ろ髪は膝の所まで伸びている黒髪だ。服装も黒いコートに身を包んで背中に大きな剣をしょっている
「! この者耳や尻尾が付いていないでござる! まさか……」
ユキカゼもその人物が、見える位置まで歩いて行くと、信じられないという顔をしていた
「そうだ、かつては俺も勇者だった。だが、今はその称号が一番嫌いだ」
レインは吐き捨てるように言った
「レイン……」
「アイゼン、お前はそちら側に付くのか」
「違います。ただ私は貴方を救いたいんです。友として」
アイゼンは自分の覚悟をレインに伝えた。
「……そうか。では始めるとするか、勇者」
レインは背中に携えていた、大剣を抜きとり構えた。
ツナはそれを見ると、二人に下がるように促した。
「頼みましたよ、ツナさん」
「頑張るでござるよ沢田殿」
二人は一言ずつツナに言い闘技場の端っこに下がっていった。
ツナは二人が離れたのを確認して死ぬ気丸を飲み、額に炎を灯した。
「行くぞ」
「来い、貴様の力を見せてみろ」
どうでしたでしょうか。
あと少しで、このティラミス城での戦いも終りますので、次回も楽しみにしていてください。