「ぐぉぉぉぉぉぉぉおお!!!」
ツナとレインは戦いを中断して、それを見ていた。
けたたましい叫び声が周りに響き渡る。
異形の姿のそれは、けたたましい叫び声を空高く吠える。
その場にいる者は全員、その怪物を見上げている。
あまりにも突然すぎる、新たな、そして怪物の訪問に言葉を失ってしまう。
その怪物は、広間で見たゴーレムよりさらに大きく、全身黒い毛で覆われている。その姿を動物で表すならゴリラそのものである。
「……っ! 沢田殿! あれは魔物。このフロニャルドに災厄をもたらすものでござる!」
初めに言葉を発したのはユキカゼだ。ユキカゼの様子と、目の前の怪物を見てこれは危険だと一瞬で理解した。
「そんなのが、なんでこんなところにいるんだ!」
「それは分からないでござるが……とにかく一端ここから離れるでござる!」
そう言われ、視線を魔物に戻すと、魔物は何かを探しているように、顔をゆっくり左右上下動かしている。そして、探し物が見つかったようで、迷わず自身の真下に腕を突っ込む。
「まずい!」
冷静なレインが、魔物の行動を見て叫ぶ。
ツナは少し驚き、レインに聞いた。
「何がまずいんだ?」
「あそこには、あの下にはアクア姫がいるんだ!」
「!?」
その言葉を聞きツナは魔物に目線を素早く戻すと、魔物が何かを引きずり出している。そして、魔物の手が地面から離れると、その手にはエメラルド色の美しい髪をした少女いた。
「アクア!」
共にいた時間は短い、自分が守ると言った女の子が今ツナの前にいる。
ツナはたまらず叫ぶが、アクアからの返事はなく、身体に力が入っていない。どうやら気を失っているようだ。
「やはり狙って来たのか……」
レインが苦虫を噛み締めるように呟く。そこには、一種の憎しみさえ感じられた。
「まて!……くそっ!」
魔物は目的を果たしツナの声をまるで気にせずに帰ろうとした。それを見てツナはためらうことなく魔物に突っ込み殴りつけた。
殴られた痛みを覚え、魔物は視線を下げツナを見ると、先ほどより大きな攻撃的な咆哮を放つ
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!!」
「くっ!」
咆哮は大きく、ツナの身体にビリビリとくる。
魔物は眼ざわりと感じ踏み潰そうと足を上げる。
ツナは逃れようとするが、咆哮のせいで身体が麻痺して動けない。
魔物は勢いよく足を下ろし、あまりの力に地面がわれてしまった。
「沢田殿!」
ユキカゼは悲痛な声で叫ぶ。
魔物は足をゆっくりとどかす。しかし、そこにはツナの姿はなかった。
魔物は不思議に思い辺りを見渡す。
「こっちだ」
魔物がバッと上を見ると、ツナを片手で抱えて大剣を振りかざしているレインがいた。
「重双牙」
十文字の形の衝撃波を繰り出した。その技は大剣から繰り出されることにより、威力は申し分なく魔物は頭から受け片膝を着いた。
魔物は少し混乱している。
「頑丈だな」
レインは攻撃を終えると、ユキカゼ達の方に着地する。
「アイゼンこいつら二人を連れて城から逃げろ」
「あ、貴方はどうするんですか! まさか、あの魔物を一人で相手にするとはいいませんよね!」
「……そのまさかだ」
レインの言葉に嘘はない。本気で魔物を一人で相手にしようとしている
「待つでござる。この城にはお館様が、ブリオッシュ・ダルキアンがいるでござる。お館さまの力を借りるべきでござる」
ユキカゼの言葉にレインは少し驚いた。
「ヒナがここにいるのか……」
「えっ……」
ユキカゼは疑問に思った。ダルキアンではなく、もう一つの名ヒナ・マキシマの方を口にしたからだ。
レインはしまった、という顔をするが、すぐに元の表情に戻した。
「せっかくの助言感謝する土地神」
「な! 何故拙者が土地神だと!」
ユキカゼは土地神という土地を守護する神様である。正体を明かしてもいないのに、初めから知っていたような口調にユキカゼは驚きの声上げる。
「今はそんなことはどうでもいい。まともに戦えないお前らがいても邪魔なだけだ。クロノスお前もだ」
レインは二人に有無を言わせず、強い口調で言った。
「待て、俺も行く」
そこまで黙っていたツナが言葉を発した。
「何を言っている。さっきも俺が助けなければ、お前は今頃あいつの足元だ」
まだ、少し頭をふらつかせる魔物を見ながら、ツナを意志を一蹴した。
「……俺はまだ戦える。それに、アクアを置いて逃げれるか」
ツナはレインとの戦闘でもかなりの傷を負っている。それでもツナの覚悟は揺るがない。
「……いいだろう。足手まといになるなよ」
レインのその言葉は、ツナを認めたかのように聞こえた。
「沢田殿……」
「ユキカゼは城の外で待っていてくれ」
「………分かったでござる」
ユキカゼは言い淀んでしまった。ほとんど力が残っていなく、今の自分では何の役にも立てず、悔しい思いであった。
その様子に気づき、力強くはっきりと言った。
「大丈夫だ。アクアは必ず助け出す」
「……沢田殿」
その言葉を聞き、一呼吸するとニッコリと笑い背中をバシッ叩いた。
傷ついている身体に、突然の一撃ツナは少し涙目になる。
「任せたでござるよ。勇者殿!」
「あ、あぁ」
アイゼンはレインをじっと見つめていた。
「どうした?」
「……貴方が何を考えているのか私には分からない。いつもどこか遠くを見ていて、何かを思っているようで、でも、私は待っています。貴方が全てを打ち明けてくれるまで。なぜなら私は貴方の友ですから」
「………友、か」
レインは穏やかに笑った。その笑みはアイゼンの言葉を噛み締めているようだった。
アイゼンはそれを見て、レインに背中を見せるように振り返った。
「……また会いましょう」
アイゼンはそれだけ言い残しユキカゼと共にその場を後にした。
「あぁ、またな……」
アイゼンには届かないと知りつつ、そうレインは呟いた。
ユキカゼとアイゼンが去り、ツナとレインは魔物の方に振り返った。
「この身体での長期戦は分が悪い、一気に終わらせるぞ」
「あぁ、最初からそのつもりだ」
二人は見た目以上に疲弊していた。体力も大分落ちていて、長丁場になれば確実に終りだ。
二人の狙いは至ってシンプル。一人がアクアを救出して、一人が大技で決着を着けるという作戦。
「俺があいつを始末する。お前はアクア姫を助け出せ」
「……倒せるのか」
「いらん心配をするな。それに、あの程度の魔物何度も相手をした事がある」
「分かった。だったら任せるぞ」
役割も決まり二人は、先ほどの攻撃で怒り狂っている魔物に駆けだした。
初めはレインが魔物を気を引き、アクア姫を助け出せるように隙を作るため、地面を蹴り魔物の目線まで飛び上がった。
「ふん!」
そのまま剣を魔物の右目めがけて振る。魔物はアクアを握っていない方の手で防御する。だが、魔物は大剣より軽く数十倍の大きさであるため、まるで効果がない。
「まだだ!輝力解放!空神刃・陽炎!!」
剣が突然勢いよく燃え上がり、炎が剣を魔物の腕と同じ大きさまで形作る。そこには先程の大剣と違い、炎の刃が宿っている。
炎が鬱陶しく思いレインを振り払おうとするが、
「遅い!」
そのまま腕を斬り落とされた。
痛みに耐えかねた魔物は、耳障りな叫びを上げる。
斬られた手を抑えようとして、アクアを離す。
ふわりと空中に投げだされたアクアは、何の抵抗もなく落下していく。
「アクア!」
ツナはアクアを両腕でキャッチする。
「アクア、大丈夫か。アクア」
ツナは今だ意識を失っている女の子に呼びかける。
身体に目立った外傷はないが、やはり心配せずにはいられないようだ。
「……うっ……ん…っ」
呼びかけが聞こえたのか、アクアはゆっくりと目を開く。
目の焦点は少しぼやけてツナの事は捉えきれていなく、少しぼ~としている。
「アクア、俺の事が分かるか!」
「……う~……耳元でうるさい!」
「うぐっ……」
突然のグーパンチ。
まだ寝ぼけているのか、それともただ単に寝起きが悪いのか、ツナは突然のことできれいに一撃もらってしまった。
「……うん?……ここは?……って、ツナ!?」
「……あ、あぁ……」
ようやくツナの事が認識ができるくらい意識が回復したようだ。
それにしても、ユキカゼには背中を叩かれ、アクアには顔面を殴られ、仲間から攻撃を受けすぎじゃないか、とツナはそんなことを考えていた。
「どうやら無事みたいだな」
「…………」
「? アクア?」
返事がなく不思議思い、アクアの顔を覗き込むと、アクアは信じられないという表情をしていた。
「何で……来たの……」
うまく言葉が出ず、何とか出た言葉もかすれていた。
もう二度と会う事はないと思い別れたはずなのに、また出会えた。
アクアにとって今目の前にいるツナは、幻にも思えるほどだった。
初めはアクアの様子に訝しげだったが、すぐに理解した。
「初めに会った時言っただろ。守るって」
ツナは微笑んだ。
その言葉は軽い気持ちで言ったのではない、約束したわけでもない。それでも、守りたいと思っただからツナは今ここにいる。
「…………そ……っか……」
アクアの瞳から頬をつたい涙が流れる。
心の中にはツナの言葉で心地い安心感に包まれている。
しかし、そんな休まる時間も長くは続かなかった。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」
「え!? 何あれ!?」
腕を斬り落とされた魔物が怒り狂っている。
その怒りの矛先はレインに向かうものではなく、アクア姫を奪取し自分の使命の邪魔をしている、ツナに向けられたものだった。
「しまっ―――!!」
気付いた時には既に避ける事は敵わず、叩き落とされる事を覚悟したが、
「お前の相手は俺だっ!!」
レインが立ちふさがり、炎の剣でもう一方の腕を斬り落そうとした。
「何だと!?」
先程まで見せなかった俊敏な動きで、剣を避けレインをはたき落した。
「レイン!!」
再びツナに足を向ける。
自分が何をはたいたのかより、アクアを狙い続ける執念深さは凄まじい。
魔物はツナを捕えようとするが、レインのおかげで何とか逃れる事に成功する。
俊敏さはあったが、足は速くなくツナのスピードには追い付けない。
(とにかく一旦アクアを下さないと)
ツナはどこか安全な場所を探すが、ここはコロシアム見晴らしのいい場所しかない。
だが、外に逃げてしまえば、魔物がもし街の方に向かってしまえば、大惨事になってしまう。
長く考える時間はない。ツナは焦りながら模索する。
「……ツナ。私の安全の事を考えているんだったら。今すぐ殴るから」
「えっ……」
「私はわが身可愛さで他の人たちを傷つけたくない。確かにあの怪物は怖いよ。でも、私は女の子である前に一国の姫なの。あの怪物は今ここで倒さないといけない、それだけは分かる。それに、怖くてもツナが守ってくれんでしょ。だから、平気だよ私」
「アクア……」
アクアは既に覚悟していた。
「悪かった。俺はお前の覚悟を見余っていた。だから、ここからは俺に全部任せてくれ」
「うん! 任せた!」
ツナはその場で着地する。
これ以上逃げ回ったところで、じり貧と判断した。
本当はレインが放つはずだった大技だが、先ほどの攻撃をもろに受けてしまい、そんな力も残っていないだろう。
だったら自分がやるしかない、そう思い魔物に向き合う。
「オペレーションⅩ」
『了解シマシタボス。ⅩBURNER発射シークエンスヲ開始シマス』
右手を後ろに向け、左手を魔物に向ける。
後ろに向けた手が炎を逆噴射し始める。
イクスバーナーの態勢に入ったツナ。しかし、一つ問題がある。
魔物の俊敏性である。このまま撃てば先程のレインの攻撃のように避けられてしまう可能性がある。
だが、もうそんなことを言ってる暇はなく、当るようにしっかりと相手の動きを見たいた。
魔物はツナの態勢を見て、不気味に笑い、向かってくる足を止める。
まるで、こちらがこれから何をするのか理解したみたく。
(くそ! 完全に読まれている。このままじゃ……)
「黒刃獄炎 暁!」
魔物の足元から炎が燃え上がっていき、まるで炎の牢獄のように魔物を多い囲むようになる。
魔物も突然のことで、暴れだすが、炎の檻は決して外には出さない。
「今だ勇者! 長くは持たん早く終わらせろ!」
倒れているレインが叫ぶ。レインも足止めをしなくはこいつに大技をは当らないと察しての行動なのだろう。
ツナもそのおかげで、不安もなくなり最大の力を―――
『ゲージシンメトリー!! 発射スタンバイ!!』
「ⅩBURNER!!!」
―――放つ。
放たれた炎は魔物や周りの瓦礫などを飲み込む。
しかし、魔物はもがき苦しみながらも、抵抗してる。
そのしぶとさに少し、力が押し返されてしまう。
ツナは全力の力で応戦する。今出せる全力で。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」
炎に包みこまれていき、魔物の断末魔が徐々に小さくなっていき、悪しき存在と呼ばれる魔物はその場から跡形もなく消滅した。
ティラミス城でのバトルはこれで終了です。後は、後日談みたいなものです。